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元スレキョン「世界でたった一人だ」
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>>1さん
何時位に終わりそうですか?
何時位に終わりそうですか?
「古泉、お前何処まで……!」
「はい」
上昇がひたりと止まる。――地の果てが何処かも見えん。上空何百メートルだ? 一万くらい越えてるんじゃないだろうか。
灰色の空ばかりが延々と続く、風が吹き抜けるばかりの遥か高み。
俺が恐怖心と焦りを募らせ腕に力を篭める中、古泉がふっと、堪えきれずに笑う気配がした。
懐かしい苦笑だ、そう思った瞬間に鳥肌が立った。
「どうぞ、あなたの思うままに。――御武運を祈ります」
叫ぶ間は与えられなかった。口を開こうとした時既に古泉はその場になく、翼代わりの男を失った俺は、太陽に挑んだ哀れな勇者イカロスの如く宙を落下していたからである。
嘘だろ、おい。
最初はパニックに陥り、無我夢中で脚をばたつかせてみたが、そんなんで空飛ぶ魔法が使えるようになる訳もない。我に返った俺は、途中で自力で何とかしようとすることを諦めた。
古泉も何かしらの意図があって俺を空中に放り出したのだろう。だったら、あいつがフォローしてくれる筈だ。そうじゃなければ普通に死ぬだけであるから、放置ってことはないだろ、さすがに。
……そうして落下し続けた俺は、五体の神人を相手取って引き付け、北高から引き離している赤い光を見た。
鮮やかな舞踏だった。銀色に輝く神人の二の腕を切り刻み、旋回していく。同時攻撃を受けても、上手くすり抜けては反撃している。
地上がどんどん近づいていく中、俺は古泉の狙いを悟った。今、「内側の閉鎖空間」に神人は一体もいない。宙を舞い挑発する古泉を追って、どれもが重い腰を上げ、移動したのだ。
無秩序に破壊するだけの神人ならば、知略は意味がない。だが「内側の閉鎖空間」を護るために設置された神人たちは、接近する者を排除するように動く習性がついている……!
古泉はそこに気付いたのだ。囮作戦なんてものは普通の神人には効かないが、この神人達に限っては効果がある。
閉鎖空間内で古泉は撃墜王だったらしいと、以前森さんに聞いたことがあったが、これを見れば納得の光景だ。
――崖っぷちにも程が在る戦術だが、ここは俺の知る古泉一樹らしいと言うべきか?
俺は真上に上昇していると思っていたのだが、古泉は斜め方向にある程度の距離を移動していたようだ。
俺の落下先は―――「内側の閉鎖空間」の、ど真ん中。
落ち行く中、ぶれる視界の中で古泉を凝視した。何体もの神人に一人で立ち向かいながら、飛翔する赤い光が敬礼のポーズを取っているような、そんな錯覚を覚えた。
俺の身体はそのまま紫の半ドームに激突し―――嵌まり込んだ手足から、ずるりと中に吸い込まれた。
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――正直な話、死んだかと思ったのだが。
俺は身を起こし、頭を振った。激突した際にかなりの衝撃を浴びたが、怪我をした様子はないから、あの粘膜のような層の入り口がクッション代わりになったのだろう。
古泉の作戦勝ちってことか。「内側の閉鎖空間」が俺を拒んでいたら即死だったろうから、運が良かったと言うしかない。
古泉の安否については敢えて考えないようにし、震える膝を叱咤して立ち上がった。
卒業したばかりで特に感慨も何もない、見慣れているはずの風景を見渡すが、空が紫色なのはやはり不気味だ。
俺は北高の屋上に立っていた。
北高の一部の校舎をすっぽりと覆うように出来ている「内側の閉鎖空間」の内部は、北高のまま変わりがなかった。
ラスボスのダンジョン風に改造でもされていたら、最上階に辿り着くまでの時間を危惧しなければならなかっただろう。ありのまま残されていた母校の姿に、俺は感謝した。
場所が北高なら、涼宮ハルヒが居そうな数箇所を、虱潰しに回ればいいだけだ。
階段を降りながら、俺はハルヒが立て篭もりそうな場所を指折り数え、真っ先に思い浮かんだところへと駆け出した。
俺達が三年間を過ごした、部室棟文芸部室。ハルヒがいるなら、まず間違いなくあそこしかない。
何せあの文芸部室は、涼宮ハルヒにとってのSOS団の総てが結集され、結実した神聖な部屋だ。膨大な物事があそこで生まれ、吐き出され、活動源となった。
依頼表の作成も、文集の編集も、コンピ研とのゲームバトルも、クリスマスの鍋パーティーも。あの場所で行われ、俺達の脳裏に焼きつく、沢山の思い出を形作ってきたのだ。
SOS団団長、涼宮ハルヒが居るべきは、あの部屋の一番奥、三角錐の立てられた、パソコン前の団長専用席の……!
軋む廊下を踏みしめ、息を切らして文芸部室に辿り着いた俺は、ノブを回す仕草さえもどかしく、扉を押し開ける。
何の障害もなく、扉は簡単に俺を招き入れたが、俺はその「何もない」空間を前に、吐き出す言葉を一つとして思い浮かべられなかった。
――――――いない。
息をつきながら、愕然と部室内を見渡すが、誰かが鬼ごっこよろしく隠れ潜んでいることを疑う余地もなかった。
何故なら、隠れようにも隠れる場所がないのだから。
テーブルがない、書棚がない。カーテンがない。
朝比奈さんのメイド服の掛かったラック。人数分の椅子、ノートパソコン。湯飲み。古泉のボードゲーム。長門の愛好していた数冊の小説。カエルの着ぐるみ。置き傘。俺が持ち込んだストーブ。
何一つ、そこにはなかった。空っぽの部屋が広がっていた。
愚かなことに、俺は綺麗さっぱり忘れていたのだ。三ヶ月眠りこけていた弊害だった。そうだ、とっくに俺達は卒業してるじゃないか!
北高SOS団支部は開放され、元の文芸部室となり、その文芸部室も入部部員が居らず消滅したのだろう。だからここは、生活感どころか人の匂いさえ希薄な、空き部屋になっているのだ。
SOS団ではなくなったこの場所に、ハルヒが居る道理はない。
――なら、何処だ? ハルヒは一体何処にいる?
見込みが甘かったと言わざるを得ない。俺は旧文芸部室を飛び出すと、次の心当たりに向けて走り出した。といっても、文芸部室が最有力候補だったために、安心感はかなりランクを落としている。
ここが駄目だったら、今度こそ俺は命が危うい。神人に手間取ったおかげで、三十分近くは優に消費しているのだ。発狂エンドだけは勘弁願いたいが、残り時間の少なさは如何ともしがたい。
全力疾走の甲斐あって、俺は馴染み深い教室へ、数分と置かずに到着した。
1年6組の、俺達の教室だ。
無謀な運動を立て続けに行った脚は限界に近く、ふらつくのを堪えるので精一杯だった。これでハルヒがいなかったら、念仏を唱えるための用意をするとしよう。木魚は何処で借りてくればいいんだろうな。
俺はあるだけの力を振り絞り、木枠にぶつける勢いで戸を開け放った。
整然と並べられた机の中に埋もれるように、顔を伏せた少女が、そこに座っていた。
―――いてくれたか。
ハルヒを見つけられないまま終焉を迎えるという、最悪の事態だけは免れたこともあって、俺は安堵の息を漏らした。
ハルヒが座っているのは、出席番号順で並べられた最初の座席だ。俺が一番最初にハルヒの声を聴き、ハルヒに声を掛け、仏頂面で応対されたあの始まりの場所である。
俺がハルヒの前の座席でなければ、俺はハルヒとお近付きになろうとさえ思わなかったかもしれない。俺とハルヒの邂逅は、過去や未来を越え、様々な運命的糸に結びつけられて成り立っている。
黄色いカチューシャに、まだ短くは切り揃えられていなかった黒髪。ストレスを募らせると、机に顔を埋めて不機嫌な顔を隠す癖。
何もかもが懐かしく、この教室内は、あの頃のハルヒを写真に撮って額縁に収めたような光景だ。
俺はハルヒの傍らに立ち、ハルヒの黒髪を掬い取って撫ぜた。
……油断していたのだ。これで終わる筈だと。凶刃に倒れ付しても、俺は死なずにこうして生き延びていたのだという事実をハルヒが知りさえすれば、ハルヒは正気に返ってくれるだろうと―――俺は。
―――ハルヒに触れたとき、俺は総てを見た。
すみません、やはり集中力が続きません
ここいらで寝ようと思います
今夜中に終わる予定だったんですが……
ここいらで寝ようと思います
今夜中に終わる予定だったんですが……
出来れば明日の13時以降にまた再開します
申し訳ない
明日には間違いなく終われると思います
申し訳ない
明日には間違いなく終われると思います
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