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元スレキョン「世界でたった一人だ」
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見開かれた大粒のダイヤのような瞳が、俺をはっきりと捕らえ――みるみる盛り上がった涙が、朝比奈さんのシミ一つない白い肌を伝い落ちた。
「キョンくん……っ!」
悲鳴は甘く、朝比奈さんの手は震えている。一度は止まった足が、再び早足に進みだした。今度は佐々木のすぐ隣、俺のベッド間近にまで、よろめくような足取りで辿り着く。
腰を沈めると、ぼろぼろと落ちた涙を拭うことも思いつかずに、朝比奈さんは両手を俺の放り出されていた手に重ねた。
「眼が、覚め…っ…、よかった……っ! ほんとに、ほんとにっ。もう、起きないんじゃ、ないか、って……! キョンくんが、キョンくんが、起きてくれなかったら、あたし……!」
朝比奈さんは咽び、所々つかえながら、よかったを繰り返す。
猛烈に心配をお掛けしていたようだと分かって、よく考えてみれば心優しい朝比奈さんのことだから仲間が何ヶ月も死んだように眠っていれば当然のことであり、そこまで最初の段階で思い至っていなかった俺は正真正銘のアホンダラだ。
「朝比奈さん、すみません。心配をお掛けしたみたいで――」
「んんっ、いいの。ぜんぜ、いいから……。眼を覚まして、くれただけで……!」
「酷いことになってるって、佐々木から聞きました。まだ具体的なとこはよくわかってないんですが」
この朝比奈さんの衰弱ぶりを見て、佐々木の説明を疑うような奴がいたら、俺はそいつの頭を疑うことにしている。
やはり、本当なのだ。何もかも。
「――もう、キョンくんしか、いないんです」
泣きじゃくりながら、朝比奈さんは俺の胸に額を押し付けて、声を振り絞って嘆願した。
「涼宮さんを、たすけてあげてください」
佐々木は、「SOS団同士、積もる話もあるでしょうから」と、俺たちに気遣って退室した。
俺は別に佐々木が滞在していても構わなかったのだが、朝比奈さんの方が、佐々木を前にすると話しにくいことがあるかもしれんので、引き留めるような真似は出来なかった。未来人は色々と制約がきつそうだしな。
後で礼を言っておくことにしよう。――後、なんていう余裕が、俺にあればの話だが。
暫く涙を流し続けていた朝比奈さんは、十分ほどを経過すると落ち着いたようだ。気恥ずかしそうに、俺から身を離した。遠ざかる温もりが若干名残惜しい。
「……ごめんなさい、キョンくん。佐々木さんとお話中だったのに、あたし、取り乱しちゃって」
「あいつは気にしてないと思いますよ。それに俺は朝比奈さんにこんだけ心配掛けて、ぐうすか寝てたらしい自分の方を殴りつけたい気分です」
ほっと緩んだ、朝比奈さんの口元に俺は至福を味わう。朝比奈さんはやはり笑顔が似合うお方だ。泣き顔もたまには良いが、俺としては断然この控えめなスマイルの方を推すね。
「――それより、ハルヒのことなんですが」
「………はい」
朝比奈さんは一時の笑みを収め、真摯に俺を見つめる。
「キョンくんが刺されて、病院に搬送されて、……そのとき、涼宮さんはもういなくなっていました」
「いなくなった……?」
「はい。あたしたちが駆けつけたときには、血だらけで伏せってるキョンくんしかいなかったの。涼宮さんが何処にいったのか、誰もわからなくて……。
キョンくんは手術が成功した後も、ずっと目覚めないままで、身体の何処にも異常がないのに、へんだって話になって。長門さんが、涼宮さんの力の影響じゃないかって。
それから、閉鎖空間が発生して、人が眠り始めて――神人を狩っても狩っても、閉鎖空間が消えないんです。少しずつ、拡大を続けてるの。
何も狩らないでいるよりは、進行を遅らせられるからって、古泉くんたちは日夜ずっと閉鎖空間で戦ってました。キョンくんが眼を覚ますまで、何とか世界を持たせようって」
俺の想像していた以上に、世界は危機的な局面に来ているらしい。俺は絶句する他ない。
三ヶ月、意識のない間に、世界が滅びの道へスタートダッシュしているだなんて、――いや、閉鎖空間が発生しているって話なんだから、滅亡というよりは創生と言うべきなのか。
俺は夢を思い出した。本当二ソレデイイノカと、俺に問い掛けた声。
あれは、お前か?
ハルヒ。
「空間自体が断絶しているの。未来にも帰れないし、連絡も取れません。長門さんも、思念体との接続を強制的に切られてて、個体としての能力もあまり使えないみたい。
涼宮さんを見つけることが、現状を打開する唯一の方法だって、古泉くんは言ってました。涼宮さんが姿を隠したのも、世界をこんな風にしちゃったのも、きっとキョンくんが刺されちゃったからだと思うんです。あのとき、キョンくんが死んじゃったと思って、それで――」
果たしてあいつがそんなタマだろうか? だが思えば俺は、散々朝倉のナイフの餌食になりかけながら、瀕死の重傷を負ったのは一度きりだ。それも改変された世界での出来事であり、規定事項でもあった。ハルヒの認知には全くない話だ。
目の前で知人が思いっきり腹を刺されて、血まみれに倒れていたら、冷静になれないまま死を錯覚してもおかしくはないのかもしれない。
ということはなにか、ハルヒは俺が死んだと思い込み、姿を消し、世の中に絶望して世界崩壊キャンペーンを始めやがったってのか。
それじゃあ、あまりにも浮かばれないだろう。閉鎖空間を必死で処理しようとしてる機関の方々や、未来に帰れなくなった朝比奈さん、能力の大半を封印せざるを得ない長門、巻き込まれた一般人の方々がさ。
「ハルヒは、まだ見つかってないんですか」
「はい。――古泉くんは、少し心当たりがあるようなことを言ってました。でも、キョンくんが目覚めなければ、意味がないって」
「……すぐ、支度します。古泉のとこに行きましょう。ハルヒのやつ、絶対に連れ戻してやりますよ」
見つけたら、いの一番に平手打ちして、抱きしめて帰ってやる。
とにもかくにも、朝比奈さんの話に俺の方針は決まった。
俺は涼宮ハルヒを見つけなければならない。
・ ・ ・
朝比奈さんは何処かに携帯で連絡を取り、その後、「ここを出ましょう」とか細く告げた。緊張していらっしゃるようだ。
朝比奈さんの重荷を、できるなら俺が全て肩代わりしたい。だが俺は覚醒したばかりで、現状の知識も碌なものではない。
朝比奈さんが何を思いつめているのか――恐らくハルヒたちのことなのだろうが、推測するための材料すら持ち合わせてはいないのだ。己の無力が腹立たしい。
俺は自宅から持ち込まれていた私服に着替え、病室を出た。長らく寝たきり生活だったというだけあって、怠った足が覚束なく、何度もけ躓いた。朝比奈さんに支えられて、やっとのことでまともに歩けているような体たらくだ。
体力も削られているようだし、元の暮らしに戻るにはリハビリが必要そうだ。気が滅入るが致し方ない。
一緒に行かないかと佐々木にも訊ねてみたが、「暫くここに残るよ」と佐々木は同行を拒んだ。
「僕は他に行く宛てがなくてね。キミが目覚めるまでの守り人を言い付かっていたわけだが、キミが覚醒した以上、僕に出来ることはもうなさそうだ。
――どうか無理はしないでくれ、キョン。僕は世界の命運よりも、キミの身体の方を案じているよ」
何処までが本気だったのか分かりかねる事を言い放ち、佐々木は病棟の奥に姿を消した。
佐々木がナースでキョンが患者で…
みたいなSSあったよな
病院は静寂に沈んでいた。しんとしていて、喋り声の一つも聞こえない。病室で明るい窓の外を見ていなければ、深夜の幽霊病院と勘違いしそうだ。
外界の雑音も皆無。排気ガスをふかす大量の車やら、電車待ちの踏み切りの信号やら、選挙運動のアナウンスやら、世界には雑多な音が溢れていて然るべきだというのに。
世界は、異常な静けさに満ちていた。
廊下を渡る間に、靴音が高く反響するのに居心地の悪さを覚える。
寒々しいのだ。世界に俺と朝比奈さんしか残されていないんじゃないかと錯覚しそうになるくらいの不気味さだったからな。
「……朝比奈さん、これは……」
「皆、『眠って』いるんです。――って言っても、本当の眠りとは違ってて。時が止まったみたい、っていうか……」
朝比奈さんが、行中に通り掛かった病室のドアをそっと開かせ、俺に合図する。
朝比奈さんの手招きに誘われるまま、俺は見知らぬ誰かさんの滞在する一室を覗き込み、見た。
――ベッドの上に、同い年くらいだろう、男性患者がいた。
死んだようにぴくりともしていない。眠っている、のか? 佐々木と朝比奈さんの話を聴いていなかったら、病状が悪化して息絶えた死体だと思ったかもしれん。
「みんな、あんな風なんですか?」
「はい。――ここの病院で起きていたのは、キョンくんが目覚めるまで、佐々木さんとあたしだけ。病院の外も同じなの。今起きているのはほんの少数です」
「じゃあ、俺の両親や、妹は……」
俯いて首を横に振る、沈痛な面差しの朝比奈さんに、俺は眩暈を覚えた。
階段を降り、エントランスを抜けて、病院の外に顔を出す。
久しぶりの筈の陽射しを浴びて、俺は新鮮な空気を吸い込んだ。空は快晴、夢に見た桜並木のワンシーンのようだ。太陽の光は燦燦と降り注ぎ、辺りをくまなく照らしている。
だが――やはり、そこは異様だった。
人がいない。
車も、殆どない。
ガラガラの駐車スペースを通り過ぎ、本道へ続く道路を一望してみても、一台の車も走っていない。
圧倒的な静寂を纏い、世界はそこに存在していた。色つきではある分幾らかはマシかもしれないが、かつて旅した閉鎖空間と何ら変わりない。そこに生きている住人が誰一人として視界に映らないのだから。
こんな光景は、洋画でなら経験がある。街中の人間がウイルス感染して変異しちまって、主人公の男と相棒の犬のみが生きている映画だった。
荒廃したニューヨークを流離って、同胞を捜し求める男。一種の世の終末を扱った話だ。
俺には朝比奈さんがいる。佐々木だっている。聞くところ、古泉も長門も無事らしい。
だから、あの映画の主人公のような孤独と悲嘆にはまだ遠いどころか、十倍くらいは俺の方が幸運だろうが――それにしたって、俺の想像力はまだまだ甘かったのだろう。
佐々木の諦念を、朝比奈さんの怯えの意味を、俺は世界を目の当たりにしてやっと実感したのだ。脳髄の方の出来の悪さは自覚してるが、共感能力も退化させたら俺の中には何も残らない。情けないことこの上ないね。
世界が終わるまでのモラトリアム。
その経過を見つめ続けてきた佐々木や朝比奈さんは、より身に染みて感じているのだろう。いつ終焉するとも分からない恐怖。明日は我が身かもしれない恐怖。
俺を支えてくれている朝比奈さんの手に、俺は掌を添え、そっとその指先を握りしめた。
朝比奈さんを安心させようと思ったわけじゃない。もっと酷い理由だ。――俺が、安心したかったのだ。ここにはまだ仲間がいるのだと、その温もりに心を落ち着かせたかった。
朝比奈さんは驚いたように俺を見、だが何を咎めることもなく、優しく微笑んでくれた。何処か、悲しさを湛えた笑みだったが。
朝比奈さんと連れ立って、俺は古泉が滞在しているという長門のマンションに向かった。
交通機関は完全にストップしており、徒歩で行くしかないのが辛いところだったが、贅沢は言ってられない。
こうして隣に朝比奈さんがいること自体が、ひょっとしたら奇蹟的な事なのかもしれないのだから。
おいどうなってんだ
おもしれえじゃねえかwwww
スレスト来たら立て直しは任せろよ
おもしれえじゃねえかwwww
スレスト来たら立て直しは任せろよ
なるべくsage進行だな
ポイント少ないしヒールには期待せんでくれ
スレスト来る理由なんか無くね?
今ってSS書いてるだけでスレストされんの?
今ってSS書いてるだけでスレストされんの?
………
……
長門の高層マンション。
降りかかったサイエンス・フィクション的事件の解決の糸口を、常に与えてくれるのが此処だった。俺にとっては聖域に等しい場所だ。
困ったときの信頼度で言えば俺の家以上、下手をすると文芸部室以上を誇る、宇宙人・長門有希の根城である。
自販機で購入した水を摂取し、無人のコンビニで保存の効く食糧を選んで腹ごしらえをした。金はちゃんと置いた。誰も見ていないとはいえ、盗難は躊躇われたからな。
休憩を取りながら、えっちらおっちらと三時間ほど歩いたろうか。出掛けの時刻は見ていないが、恐らく今は昼を過ぎた辺りだろう。
結局、道中に出歩いている人間を見掛けることはなかった。本当に、街中の人間が眠ってしまっているのだ。
さながら眠り姫の童話の中の世界だった。「姫君」が百年後に目覚めても寂しくないように、御付の者たちも茨の中に眠らせましょうってヤツだ。
姫は寝たきりだった俺で、魔法使いはハルヒか?
おぞましい想像だ。ちっとも笑えやしねえ。
>>1頑張れよい
寝る
寝る
見慣れたそのマンションに辿り着く頃には、体力不足も相俟って、俺は疲労困憊していた。朝比奈さんも、はあ、ふう、と荒く息をついている。天気が晴れやかなのは良いことだが、陽射しの強さは考え物だ。帽子を被ってくるべきだったな。
交通機関が麻痺している分、常日頃、自分たちがいかに乗り物に頼ってるかが分かるというものだ。移動手段が馬か徒歩しかなかった、大昔の人の苦労が偲ばれた。今ならご先祖様にも心から手を合わせられそうである。
「そういえば、何で古泉が長門のマンションに?」
待機場所としてなら、こんなに離れた地点に作らなくてもいいんじゃないか。情報を交換するにも不便で仕方ないような気がするのだが。
現に朝比奈さんは、俺の世話のために、佐々木と一緒に病院で寝泊りしてくれていた。
古泉と長門が同じ方法を取らなかったのは何故なんだ?
「……それは……」
口ごもる朝比奈さんの表情は暗い。――あまりよろしくない事情があるのだろうか。
「すぐに、わかります」
朝比奈さんの声に応じるように、一階にエレベーターが到着した。
708号室前まで来たところで、自動ドアのように扉が開いた。
頼もしい姿が出迎えに登場だ。高校を卒業して、もう学生服は身に纏っていないが、私服も馴染んで様になっている。こんな緊迫した状況でさえなけりゃ、「似合うぞ」と褒めそやす言葉くらいはかけられたんだけどな。
背丈も体型も一年時から変化がないが、その感性や考え方はSOS団の活動を経て、多彩に成長していることを俺は知っている。人間味を増した言動、好奇を反映する宇宙のような瞳がそれを裏付けている。
SOS団門番(ゲートキーパー)の長門有希。
俺を満遍なく眺め回した後、長門はようやく一言を漏らした。
―――よかった、と。
たった一声でこんなにも人を感動させちまうんだから、お前は大した奴だよ、長門。
俺が相好を崩しかけると、長門は扉向こうに引っ込んじまい、俺はタイミングを外された形になった。
「照れたんですよ、きっと」
朝比奈さんはぎこちなく微笑んでいる。俺たちは顔を見合わせると、開かれたきりのドアを「入ってよし」の許可証と受け取り、勝手知ったる玄関口を静々と潜り抜けた。
「お邪魔します」という朝比奈さんの声が後ろからついてくる。こんな時も礼儀を忘れないのが朝比奈さんらしかった。
踏み込んだ先では、開けたリビングに長門がぽつんと立っていた。そしてその傍らには、見飽きたと思っていたが、やはりこんな危急時には居合わせるだけで安心感を齎す、超能力者・古泉一樹が座り込んでいる。
俺は古泉が五体満足で、大怪我をしているような痕跡がないことを確かめ、ほっと息をついた。
安堵と同時に拍子抜けした思いだ。案外元気そうじゃねえか。朝比奈さんが深刻そうにしていたから、てっきり閉鎖空間で負傷でもして身動きが取れなくなっているんじゃないかと、無駄に肝を冷やしたぜ。
ともあれ、これでSOS団は、ハルヒを除いて勢揃いというわけだ。俺は一息つき、遠出のために疲れきった足腰をフローリングに寝かせた。
聴きたいことは、正直なところ山ほどある。
肝心のハルヒの居場所に関してもそうだし、閉鎖空間は今どうなっているのか、何か新しく掴めた情報はないのか。
その辺の詳しい事情は、朝比奈さんにもまだ尋ねていないことだ。
SOS団は試練や困難にぶつかっては、何だかんだと一致団結して乗り越えてきた、最高のパーティーだと俺は思っていた。
こいつらがいれば百人力だ。どんな絶望的な場に取り残されたとしたって、何とかなる。――してみせる。
そのための作戦会議に、まず司会進行役として順当な男を呼びつけようと、俺は息を吸い――
「おやおやぁ。お客さん、増えたんですね?」
――俺は最初、その声が誰のものか分からなかった。
調子はずれの、狂った螺子巻きの玩具。そんな印象の声だ。底抜けに陽気で、でも中身はからっぽ。不安定で収まりが悪い、道化師じみた発声。
血の気が引くのを感じた。
「……古泉……?」
俺の呆然としたつぶやきに、古泉は首を傾げ、へらりと笑う。
「ん――それは、僕の名前ですねえ。もしかして、オシリアイでしたか? それは失敬、恐悦、至極です」
「……古泉、こんな状況で冗談はよせ」
「ジョーダンのつもりはないですよ。ありがとうございます。僕のパーソナルに書き加わりますね。なかなかのものでしょう」
「古泉っ!悪ふざけは――」
信じたくない想いばかりが先行して、怒気が入り混じる。俺が声を荒げたのと、長門の制止が入ったのはほぼ同時だった。
「キョンくんっ……!」
朝比奈さんの手が、きつく俺の肩に掛かった。……小刻みに震えている。
俺の腹の底に、どす黒い絶望感が渦を巻いた。
古泉の、無垢な赤ん坊のような茶色の瞳。唇は笑みを作っていても、いつもは他者に読ませないよう計らっている、秘めたる感情が其処には浮かんでいない。
――理解したくないことを理解しちまった。朝比奈さんが憂鬱そうにしていた訳が、これだったのだ。
「閉鎖空間に長期間滞在したことによる後遺症。……古泉一樹は、『睡眠』から逃れる代わりに、精神を病んだ」
「………っ!」
唇を噛んだ。
何てこった、なんてありきたりな叫びを漏らすことでさえ、この現実を真正面から認めることになるようで忌々しく、遣り切れない。
古泉は、常にポーカーフェイスで、演説好きの超能力者だった。
ひとたびハルヒ絡みのアクシデントが発生すれば、解決のために奔走するのは大概俺と古泉、長門だ。
「機関」というバックアップを擁しての古泉の立ち居振る舞いは、ある種の安定を俺たちの団に敷いていた。長門が外敵から俺たちを護る防壁だとするなら、古泉は土台を保持するための支柱の一本だ。
どんな状況にあっても、こいつだけは冷静さを失うことなどありはしないと、俺は心の何処かで信じていた。
それがまさか、こんな形で。
「古泉一樹は超能力者。涼宮ハルヒの閉鎖空間内に蔓延した、狂気の影響を直に受けた」
「……狂気?」
長門は、微かに首を振る。淡々としているが、気のせいか、そこには古泉に対する哀れみの情が垣間見えた。
「涼宮ハルヒは、恐らく正気ではない。あなたが負傷したことにより、涼宮ハルヒの中に存在した何らかの枷が外れた可能性がある。結果、涼宮ハルヒの能力が暴走し、彼女は自我を保てなくなった。
……閉鎖空間の中は、混沌とし幾つもの歪みを内包している。分析を試みたが、わたしの精神にも影響を及ぼすことが確認されたため、半ばで接続を断ち切った」
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