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元スレキョン「世界でたった一人だ」
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俺のだんまりを見下ろしていた藤原は肩を竦め、腕組みを解くと、そのまま踵を返した。
出際に、円状に座り込んでいた俺たちを肩越しに一瞥する。その視線が朝比奈さんを一時捉えて留まったように見えたが、見間違いだろうか?
「僕の用事はこれで終わった、室内の毒気に中てられないうちに退散するとしよう。周防と橘は置いておく。二日後にまた来る」
付き合いきれない、という感情が色濃く出ている声だった。敵意を隠さない態度は分かり易い。
こっちの都合を一つも聞かずに言い捨てると、言ったもん勝ちとばかりに藤原はさっさと部屋から出て行った。
此方としてもあの顔を見なくて済むのは清々するが、二日後っていうのはどういうことだ?
「出来得る限り周防九曜と波長を合わせるため、防壁の構成に二日を費やす」
俺の疑問をフォローしたのは長門だ。
「じゃあ、閉鎖空間に突入できるのは七日ってことか」
「そうなる」
七日はワールドエンドのカウントダウン、残高1だ。何もかもギリギリだな。藤原の発言からして、あいつは端からこの事を知っていたようでもある。
見計らったように此処を訪問した事といい、藤原に対する不信感は変わらずに燻っているが、状況が状況だ。あいつの思惑に関しては、また改めて考えることにしよう。
「わたしと周防九曜は、これから暫し情報結合を行う。わたしたちが封鎖を解くまで、寝室には立ち入らないで欲しい」
長門の真っ向からの請願に俺は肯く。
ただし、と長門は、黒曜石の瞳をひたりと俺に据えた。
よく出来た銀細工のような睫毛の下に、意思が閃く。
「緊急の場合はその限りではない。……何かあったら、呼んで」
「―――呼んで―――」
黒真珠をペースト状にしたような黒髪が、傍でぶわりと広がる。相変わらず不気味だが、今はこの珍妙な宇宙人さえ頼もしさを感じるくらいだぜ。
「頼んだぜ、長門。周防もな」
「了解した」
「――ラジャ――」
周防と長門が二人とも寝室に滑り込むと、ぴしゃりと戸は閉ざされる。防壁を「練る」っていうのが具体的にどういったことなのかは、俺は知らんし説明されても分かりそうにないが、とにかく俺はあいつらを信じて待つのみである。
リビングルームに残されたのは、俺、朝比奈さん、古泉、そして眠ったままの橘。
話し合いの途中、余り参加して来なかった朝比奈さんはというと、フローリングに横たえられた橘に毛布を着せ、髪を丁寧にブラッシングしていた。
誘拐された件もあり、抗争もありで、佐々木グループの面々とは互いに心象は良くない筈なんだが。朝比奈さんは個人的感情で、相手の扱いを粗雑にしたりはしないのだ。
それが朝比奈さんの偉大な所であり、感情に振り回されがちな俺が、彼女に敵わないと心から思う部分でもある。
「煎茶、プーアール、青林檎赤林檎、バファリン。辛気臭いときは、飲むに限りますね。如何です?」
素っ頓狂に跳ね上がった古泉の声に、俺は苦笑した。
「……そうだな、お前の言う通りだ。朝比奈さん、台所借りてお茶にでもしましょう」
考えてみれば、俺たちは病院から此処までを歩き通すという強行軍の後に、ろくに休みもせずに打開策について議論していたのだ。長門が防壁構築を終えるまでの空き時間くらい、茶を飲んで心癒しても罰は当たるまい。
「あ、はい。じゃああたし淹れますね。ちょっと待っててください」
朝比奈さんがいそいそと立ち上がり、何度か立ったことのあるらしいキッチンへと足を向ける。
俺も手伝いますよと声を掛け、腰を浮かせた。
デジタル時計ばっか使ってるせいで短針が一瞬なんだか分からなかった
>>216
しゃべんなカス
しゃべんなカス
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「――それで、僕に何をしろというのかな」
「簡単だ。この男の傍についてさえいればいい」
「言われる前からその心算さ。僕の家族は既に皆、『眠って』しまっているし――看病し甲斐があるのがどちらかと言えば、僕はキョンの方を択ぶだろう。
だが、解せないな。何故わざわざ、そんな頼み事を僕にしに来たんだい。キミがキョンのことをそれほど気に掛けているとは、到底思えないのだけどね」
「僕自身は、この男に聊かの興味も抱いては居ないさ。僕がこの男に眼を向けるのは、この男が涼宮ハルヒの『鍵』であり、お前が涼宮ハルヒと同じモノであるということに尽きる」
「僕が彼女のような神的能力を有していないことは、先の事件に明らかにされたと思ったが。今更蒸し返す話でもないだろう」
「らしくもない逃げだ。本当は分かっているんだろう? ……あんたは『候補』で、『器』だ」
「………」
「お前が傍にいれば、この男の病状回復は幾らか早まるだろう。器が傍にいるということは、涼宮ハルヒの力を届けやすいということでもある――僕が伝えたかったことはそれだけだ」
・ ・ ・
「佐々木さん、今日はチョコレートプリンを作ってみました。手前味噌ですけど、なかなか自信作なのです」
「ありがとう、橘さん。一日中病院に詰めていると、あなたの持ってきてくれるお菓子が唯一の楽しみと言っていいくらい。同じ風景ばかりを眺めてるせいか、気詰まりしてしまうのは困りものね」
「病院関係者も、殆ど『睡眠』状態じゃ、気晴らしにもならないですね。あたしも毎日来られたらいいんですけど」
「組織の方が大変なんでしょ? 無理はしないで」
「佐々木さんも、根を詰め過ぎないでくださいね。……あら、花が増えてますね。一昨日来た時は見掛なかったのですけど」
「ああ、いつの間にかね。誰かが見舞いに置いていったみたい。――アルストロメリアっていう花なんですって」
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「佐々木さん、こんにちはぁ。交代に来ました」
「今日は、朝比奈さん。いつもありがとう。濡れタオル、そこに置いてもらえます?」
「はい。お湯の方はまだ熱いので、手を入れるときは気をつけてください。この前言ってた新しい剃刀も見つけてきました」
「なら、私は彼の身体を拭きますから、髭剃りは朝比奈さんにお願いします」
「はい。……え? ふええ、あ、あたしですか…!」
「冗談ですよ。朝比奈さんは本当に可愛らしい方ですね。キョンが自慢したがりになったのも無理はないと思えてしまう」
「か、からかうのはやめてください~」
「あ、アルストロメリア。綺麗ですねぇ。これ、佐々木さんが?」
「いいえ、持ってきたのは私ではないのよ」
「……じゃあ、橘さんですか?」
「さあ。――どうかな。そうかもしれないし、そうでないのかもしれない」
>>222
レスすんなカス
レスすんなカス
>>222
カス
カス
>>222
AA張るなカス
AA張るなカス
>>222
なんで生まれてきたの?
なんで生まれてきたの?
・ ・ ・
「キョンくん……。本当に、あたしのこと、そんな風に自慢してくれたんですか?」
「あたし、何も出来ないばっかりだから。もし、こんなあたしを認めてもらえるなら」
「――それだけで、あたしは凄く嬉しいです」
「………」
「………目、覚まして……。お願い」
「あたしは未来に帰れなくても構いませんから、だから……!」
「だから……っ!」
・ ・ ・
「――だからあんたが嫌いなんだ、僕は」
「嘆け。そして後悔すればいい。
………もうじき総てが終わり、始動するんだ」
………
……
俺の告白を受けて、顔を赤くして。
それでも別れ際には太陽みたいなエネルギッシュな笑顔を見せていた、お前の姿が忘れられない。
桜の降る、ピンクに染まった視界に、穏やかな触れ合い。
何もかもが順風満帆で、俺は確かに満たされていて、ハルヒだって同じ気持ちだろうと思っていたんだ。
――どうしてこうなっちまったのか。
ハルヒは俺が刺されたくらいで、世界を巻き込んで無理心中みたいな真似をするような、非常識な女じゃなかった筈だ。
寧ろその場で応急手当の一つでもして、自分に出来る最善をこなして、手術の成功を一心不乱に願うのが涼宮ハルヒだ。
生命というものに対してはリアリストで、動揺したからと言って、血を流している俺を放置していなくなるなんて事、通常のハルヒなら有り得ない。
何があったんだ。どうしてお前は、「そう」なった?
「………目が覚めた?」
夢見心地の意識が醒めた。長門の瞳に、俺の間抜け面が映し出されている。
「……って、おお!?」
跳ね起きた。長門は額と額がこんにちはをする前に、素早く衝突を回避してのけている。さすがだぜ、長門。ところで今は何時だ?
「7/7、13:15:42」
長門がすらすらと、体内時計でも飼っているのだろう、俺に正確な時刻を述べた。――昼過ぎか。昨日の夜、何時に寝たか、あまり記憶にないのだが……。
視界に飛び込むのは、白い照明が眩しい、昨日も寝泊りした長門のリビングルームだ。俺の身体にはタオルケットが掛けられており、俺は窓際を寝床にして転がっていたようだった。
周囲を見渡すに寝ていたのは俺一人のようで、朝比奈さんはエプロンを身に纏い食事らしきものを配膳中、古泉はソファでカピバラの縫いぐるみと戯れており、長門は眼前に佇んでいる。その傍らには、周防九曜の姿もあった。
「……もう、済んだのか? 防壁の方は」
「完了した」
長門が、揺るぎない応えを寄越す。――オーケー、長門たちの方の準備は万端整ったというわけだ。
俺は笑った。ここで笑わなければ、何時笑うんだという思いで笑って見せた。
「これで、ハルヒを取り返しに行けるってわけだな。……やってやろうじゃねえか」
すみません、>>1から読み返し入りたいので、書き込み遅れます
今晩(深夜)中に何とか終わらせるつもりではいます
今晩(深夜)中に何とか終わらせるつもりではいます
あい
ながらだとしたらこれは凄すぎるわ
地の文多いと伏線張りまくってどや顏しがちだけど文が面白いってのは凄い
ながらだとしたらこれは凄すぎるわ
地の文多いと伏線張りまくってどや顏しがちだけど文が面白いってのは凄い
失敗した時のことを考えたら、否が応にも足が竦んじまう。俺が死んで、これまで楽しくやってきた世界が、記憶もろとも消滅する――そんな未来絵図はごめんだ。
悲壮感溢れる顔で、ハルヒに会いに行きたくはない。
成功させる、そのために己を鼓舞する。長門は俺の意気を汲んでくれたようで、力強く、肯き返してくれた。
「キョンくん。簡単ですけど、昼食です」
朝比奈さんがお盆を手に微笑んだ。鼻腔をくすぐるのは、丸い器によそわれたコンソメスープの匂いだろうか。皿にはチーズとハムが挟まれていると思しきサンドイッチが並んでいる。
顔が自然と綻んだ。戦前の腹ごしらえとしては、最上級の食事だ。負ける気がしない。
「長門さんのマンションだけは、長門さんが細工をして、まだ電気も水道も通うようになってるから、助かりました。こうやって暖かい料理も作れて」
そういえば風呂も普通に使えたな。あれらは皆、長門の労力の賜物だったらしい。
「――どうぞ、周防さんも、食べてください。古泉くんも」
名指しで呼ばれた周防は、影のように移動すると、音もなくダイニングテーブルに着席した。こいつも長門と同じく飯は食うんだな。
ぬいぐるみから生えている布製の牙の観察に熱中していた古泉は、呼び出しに愉快そうに口笛を吹いた。かと思えば、徐に朝比奈さんに抱き着き、うろたえる朝比奈さんを差し置いて高らかに唄い始める。
ひええ、と朝比奈さんが悲鳴を上げて縮こまるのを見ては、さすがの俺も乱入せざるを得ない。おいコラ古泉、幾ら見境がなくなってるからって、朝比奈さんへのセクハラは、世界中の朝比奈さんファンクラブを敵に回すぞ。
「アサヒナさんは快哉です! 僕として、極上の一夜をあなたに捧げます、マイプリンセス」
「しかもベタベタに口説いてんじゃねぇ!」
この気障ったらしさ、やっぱりこいつ古泉だ。
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