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    元スレ平沢進「東京のヒラサワです」翠星石「まきますか?まきませんか?」平沢進「違います」

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    451 = 448 :

    翠星石「…んなこと分かってるです」

    金糸雀「いいえ、分かってないのかしら。第一、アリスゲームを止めてどうするのかしら?私たちにとって、戦うことが生きること。生きることをやめて…時の流れに身をまかせるつもり?ただの人形として?」

    翠星石「っ……」

    金糸雀「ほら、応えられないのかしら。お茶会をする為に生まれてきたのならそれもアリかもしれないけど、私たちは薔薇乙女。薔薇乙女の本分を捨てることを、あなたに肯定できるだけの理由がある?」

    翠星石「…もちろんあるです。翠星石はケンカがきらいです。姉妹で傷つけ合うなんて真っ平御免ですぅ。だから戦わないんです!」

    金糸雀「それはただのワガママなのかしら、翠星石。ちゃんとした理由なんかじゃ…」

    452 = 448 :

    翠星石「んなことねーです!ちゃんとした理由ですぅ!戦いたくないから戦わない、それのどこが悪いんですか!」

    金糸雀「真っ平御免でもしたくなくても、すべきことというのがあるのかしら。すべきことから、嫌だという理由で目を背けることが正しいわけがないのかしら!」

    翠星石「むっ…ぐ……」

    平沢進「ワガママなのは確かに同意」

    翠星石「っ……ヒラサワまで…」

    平沢進「何故悄気る。自ら我がままの道を選んだのなら他人に文句を言われようと気にかける必要はあるまい」

    金糸雀「…?」

    453 = 448 :

    平沢進「この監視社会において群衆を尻目に脇道に逸れれば、「正道に戻るべし」と窘められるのは当然。その当然を前提とすれば我儘という他評を気に病む無意味さが分かるはずだが」

    翠星石「!」

    翠星石「…そうです。翠星石は遊びや気の迷いでアリスゲームを止めると言ってるんじゃねーんです。これは翠星石の本気のワガママなんですぅ!金糸雀がなんと言おうと、運命だろうがなんだろうが変えるつもりはねーですよ!」

    金糸雀「……そう。じゃあ、話してもラチが開かないのかしら。考えが真っ向から違うんだもの」

    翠星石「ふん。それはコッチのセリフですぅ。…水銀燈みたいなことを金糸雀が言うとは思わなかったです」

    金糸雀「…水銀燈がアリスゲームに打ち込んでいるのは、言い換えればローゼンメイデンのすべきことに最もまっすぐに向き合っているということなのかしら。愛か憎しみかで向き合っているのかは分からないけど」

    454 = 448 :

    翠星石「そんなの、ただ闘いたいから暴れてるだけですよ。あのキョーアクな顔を見れば分かるです」

    金糸雀「ホントに?翠星石、アナタは水銀燈のことをほとんど知らないでしょう」

    翠星石「…それは確かにそうですけど。でも、あんな好戦的な顔やセリフを聞きゃあ分かるにきまって…」

    金糸雀「表情や話す言葉だけで、人は測れないものかしら。誰にだって、人には話せない秘め事があるんだから。互いに心の内に誰にも見せない何かを抱えて…その上でみんなお互いにため息をつくのよ。誰も自分をわかってくれないって」

    金糸雀「…あなたも、そういう経験ないのかしら?双子の蒼星石ですら、全てのことを知ってもらっているわけでもないし、全てのことを知っているわけでもない。…そうじゃないの?」

    翠星石「……」

    455 = 448 :

    金糸雀「こほん。話が逸れた上に長話になったわね。じゃあ…今日はお邪魔したのかしら。今回は翠星石が攻撃してこなかったし、それなのにこっちから攻撃するのは道義にもとるからアリスゲームはやめておくのかしら」

    金糸雀「でも、カナはアリスゲームを放棄したりしないのかしら。少なくとも今のカナには、どんな事情だって、アリスゲームをやめる理由になるとは思えないから」

    翠星石「……」

    金糸雀「じゃあ…」

    平沢進「はいこれ。失せ物」

    金糸雀「あ!…ありがとなのかしら。えっと…」

    456 = 448 :

    平沢進「私は平沢進だ。平沢唯じゃない」

    金糸雀「…自己紹介がまだだったのかしら。カナは…私は、薔薇乙女第二ドール金糸雀。…では、さよな」

    平沢進「じゃ、またこんど」

    金糸雀「!っと……」

    翠星石「………………」

    翠星石「………またです」ボソッ

    金糸雀「……またこんど、なのかしら」タッタッタッ…

    457 = 448 :

    翠星石「……」

    平沢進「……」

    翠星石「……ふぅ~っ。金糸雀も中々強情なヤローですぅ」

    平沢進「しかし鳥類人形にも理はある」

    翠星石「…ま、そうですね。とりあえず、あのボーッとした金糸雀から本音が聞けただけよしとしますか。アリスゲームに賛成するドールがいるのもそりゃ当然ですし。どっちかといえばこっちがヘンなんですから」

    平沢進「ワガママな三男坊ならぬ三女をもってお父様とやらも霊体の頭蓋を抱えていることだろう」

    翠星石「……そうでしょうか。やっぱり翠星石のやってることって、お父様に逆らうことなんでしょうか…」

    458 = 448 :

    平沢進「まあ、統計的手法に尋ねれば子は親に逆らうものらしいので。別段気にすることでもないのでは」

    翠星石「ん…まあ、そうですかね…」

    平沢進「……」

    翠星石「……ねえ、ヒラサワ。ヒラサワは、運命ってのがホントにあると思うです?」

    平沢進「さあ。運命というものは映画か歴史か小説の中にはリアルとして存在するが、現実に観測されたことは無く。観測出来ぬものについては「そんなもの無い派」と「そういうの有る派」が必ず闘争を始め、そしてそれに終わりはない」

    翠星石「えっと、つまり…そういうの気にしても仕方ないってことです?」

    459 = 448 :

    平沢進「世のすべての難問に対し「可」の成績を残すような回答をされてはお手上げ」

    翠星石「む…ふーんだ!別に「可」で上等ですぅ!難問を無理に解こうとしてあーだこーだ路頭に迷うより、えーいって突っ走っちゃったほうが正しいこともあるんです、きっと!ウンメーだのテンメーだのでくよくよしてたら何事も始まらんです!」

    平沢進「なるほど。威力的な理屈だが論理破綻を起こしているわけでもない。翠の人形にしては高度」

    翠星石「……それって褒めてます?」

    平沢進「現行の日本語では伝わらなかった?では…論理が中々退いておられる。これでお分かり?」

    翠星石「そっちじゃもっとワカンネーですぅ!もっと素直に褒め言葉を使いやがれです!」

    460 = 448 :

    平沢進「褒め言葉まで強請始めるとは。強要して手に入れることで価値の下落するものを求める様は、退き具合が足りていないと言わざるを得ない」

    翠星石「はあ?退くのが足りてない…あーもう!頭がしっちゃかめっちゃかにこんがらがっちまうですぅ!ほら、頭使ってお腹減ったのでご飯にするですよ!今日は野菜でガマンしてやるですからとっとと作るです!」

    平沢進「何がガマンだ。私は苦慮の末に野菜を選んでいる訳ではない。どちらかといえば粗食の範疇を超えかけている糖分過多菓子類のほうが…」

    翠星石「はいはい!そんなに欲しいなら昼もスコーンかベーグルを焼いてやるです!翠星石もちょうど食べたかったとこですしね!」ヒューン

    平沢進「………人形に言葉が通じないのは元よりだが、一度通じてしまうと常に通じるべきと望んでしまうのが慣れというものの恐ろしさ」

    平沢進「………」

    平沢進「しかし、薔薇人形が戦うために作られたのならば、何故戦いを拒む系人形と戦いを好む系人形に分かれるのだろうか。…それが作り手の趣味だと言うならそれまでだが」スタスタ

    461 = 448 :

    短くて恐縮です
    何か五月病的風土病に罹った気がします
    御意見御質問御批判御自由にお願いします

    462 :

    5月病だわー、
    おつ

    463 :

    待ってるから気長に書きたまえよ

    464 :

    のんびりでもまっておりますので。

    465 :

    金糸雀「………」

    ピチカート「………」

    金糸雀「……あーもうっ!!カナのバカバカバカっ!」ポカポカ

    ピチカート「?」チカチカ

    金糸雀「あっ、驚かせてゴメンなのかしら。…はぁ」

    ピチカート「…」

    金糸雀「さっきはアリスゲームの話になったからつい熱くなっちゃったけど…あんなふうに辛辣に言うことなかったのに。カナだってアリスゲームを全面肯定してるわけじゃないんだから、もっと素直におしゃべり出来てれば…はぁ~……」

    466 = 465 :

    金糸雀「翠星石、絶対怒ってるのかしら。たぶん歌手さんも…どうしよう…こんなことになったら、流石に庭に隠れて音楽を聴くなんて出来ないかも…」

    金糸雀「でも、カナの思ってたことを言っただけなんだし、別に後悔する必要なんて…でも、もう少し言い方があったかもだし…ん~」

    ピチカート「……」チカチカ

    金糸雀「!…まあ、そうね。過ぎたことを気にしても仕方ないのかしら。ほとぼりが冷めたころを見計らってこーっそり庭に近づけば、多分大丈夫…なハズ!またこんどって一応は言ってもらえたんだし!レッツポジティブシンキングなのかしら!」

    金糸雀「じゃ、とにかく一旦帰るのかしら!髪飾りが見つかったことをみっちゃんに報告して、安心させてあげないとね!さ、ピチカート、急ぐのかしら!」

    ピチカート「…」チカ

    467 = 465 :

    ーあろるの館ー

    翠星石「…あ!そういえば、結局金糸雀がホントにアリスゲームと落し物の為だけに来たのか分からなかったです。問い詰めた時、なんか怪しいカンジだったのでやっばり他に理由がありそうな気がしたんですが…翠星石の名探偵の勘がビビッと反応したんですけどねぇ」

    平沢進「勘を指標に物事を決定づけられるのは小説内の警察かその真似事に従ずる人物だけなので。証拠が無い以上状況証拠で類推せざるを得ないため、確信を持つべきではない」

    翠星石「えー?でも、さっきヒラサワは金糸雀の侵入にはアリスゲーム以外の理由がありそうって言ってたじゃねーですか」

    平沢進「あくまで可能性の話なので。ただしその可能性を捨て去れと強要するつもりもなく」

    翠星石「ふーん、そうですか。…まあ、あんだけ真剣に語られた後だと、ホントにアリスゲームの為だけに来たってことも十分考えられる気がしますしね…取り敢えずアタマの中に、他の理由もあるかもって残しとくだけにしますか」

    468 = 465 :

    翠星石「さて…金糸雀はアリスゲームに賛成ってことで、水銀燈と合わせて賛成派が二人、雛苺と真紅の反対派が二人ですか…。そこに翠星石を入れたにしても、戦力的に二つに分かれましたね…」

    平沢進「蒼の人形は如何に?」

    翠星石「……………そりゃあもちろん!アリスゲームに反対に決まってるですよ!本人に聞くまでもねーです!」

    平沢進「長すぎる沈黙が自身の言葉を疑わしく思う胸中を雄弁に物語る。蒼の人形は翠の人形と正反対であるし、そこにも確信が持てないのでは」

    翠星石「う…………まあ…でも!翠星石が話せば絶対分かってくれるハズですぅ。だから蒼星石はアリスゲームに反対で決定!これで四対二ですぅ!いくら水銀燈がキョーアクで金糸雀がそれなりに厄介だとしても、これだけ居れば…」

    469 = 465 :

    平沢進「あ、そう。しかしあと一体の無名人形が公式に含まれていないようだが」

    翠星石「あー、第七ドールは…その、一度も会ったことないのでどういう考えなのかさっぱり分からねーんですぅ。ま、未知数って感じですね。でも、ソイツがアリスゲームに賛成する側についたとしても、こっちがまだ数で優るです!…うんうん、今回の戦、もう勝ちが見えてきましたね!」

    平沢進「捕らぬ狸の皮算方式を採用した敗北シーケンスの起動をここまで堂々と行うとは。最早呆れの範疇を越え憐れみさえ覚える」

    翠星石「む…だって、こっちが有利なのは事実なんですからいーじゃねーですか!」

    平沢進「歴史に学べば、兵力は一要素に過ぎぬ事を知るはずだが。ただ薄ぼんやりと数世紀を過ごしてきただけのとある人形には得がたい知恵かもしれないが」

    翠星石「な、なぁっ!?薄ぼんやりなんかしてねーです!翠星石はどんな人間よりも濃厚な年月を送ってきてるです!」

    470 = 465 :

    平沢進「冗談はさておき。「冗談じゃねーです!」うるさい。ヒラサワは人形と話すことで精神の安定を図る系統の人種ではない。そのため朝から庭での金切音人形芝居を観たことで残業週80時間の従業員のごとき極度の疲労に強襲を受けている」

    翠星石「へ?そんな無表情で言われても説得力がねーですぅ」

    平沢進「元より分からず屋人形を説得する気は無い。というわけでヒラサワは翠と人形に染色されたあろるの館より一時逃亡し、多様性の摂取に向かう」

    翠星石「多様性の摂取…?あ、つまり散歩ですか」

    平沢進「保育器内で語られる喃語レベルの簡易な人形語に訳すと、そう」

    翠星石「なっ!翠星石は赤ん坊じゃねーです!ばぶばぶ言うのは雛苺で十分です!」

    平沢進「人形の喃語は最早鳴き声とそう変わりない。理解し難い囀りを耳にしつつもヒラサワは多様性の観点からこれを排除すべきではないとの心的啓示を受け、無言でその場を後にする」

    471 = 465 :

    翠星石「む~っ!また言葉が通じないフリして…!ふーんだ、もーいいです!そっちがそのつもりなら…」

    翠星石「こほん。…あれぇーおかしいですぅー翠星石も今から突然ヒラサワ語がわかんなくなったですぅー。ヒラサワ、さっきから一体何を言ってるですかぁ?翠星石には読唇術の心得が無いので一切合切サッパリ分からねーです!良くわかんねーので掃除の時そのへんのキケンブツに触っちまうかもですぅ!」

    平沢進「奇っ怪な囀りを目の当たりにし、ヒラサワは一抹の危惧に駆られる。喃語人形による有機ポルターガイスト現象が起きれば、ヒラサワは不本意ながら有機お祓いを清浄屋に通告しなくてはならない。そんなことになれば、まずそこに放られたどこぞの故知らぬ骨董鞄など、真っ先に質屋に投げ込まれることになろう」

    翠星石「ちょ、ちょっと!!…あー!翠星石の突発性ナンチョーがとつぜん治ったですぅ!ヒラサワ、散歩行ってらっしゃいですぅ!掃除と水遣りはやっとくですし、ヒラサワの大事なものには指一本触れねーので安心して行って来やがれです!」

    平沢進「あ、そう。では」

    翠星石「いってらしゃいですぅ!」

    472 = 465 :

    翠星石「……はあ。何だかいっつもヒラサワには言い負かされてる気がするです。この手八丁口八丁の才色兼備の翠星石が、こうもカンタンにあしらわれるなんて…」

    翠星石「まあ、翠星石が言い負かす相手はチビ苺とか金糸雀とかグレードの低いヤツばっかですからね…。練習相手が弱くちゃ、いくら勝っても強いヤツには勝てねーです。こんど真紅とか蒼星石とかを相手にやってみるですかね…」

    翠星石「んじゃ、気を取り直してっと。掃除と水やりの開始ですぅ!ほら、そこのストーン、今日はヤシの木の脇に飾ってやるですよ。南国気分をしっぽり味わうがいいです!」

    ストーン「…………」

    翠星石「よしよし、そこで大人しくしとくですよ。さて、えーと、箒とちりとりはどこにしまったでしたっけ…」

    チカチカ

    翠星石「…ん?」

    473 = 465 :

    翠星石「ありゃ、パソコンがつけっぱなしですぅ。まったく、この節電が叫ばれる世の中で罪なことをするもんですぅ!」

    翠星石「この翠星石が代わりに切っといてやるですよ。えっと…えっと?電源ボタンはどれでしょうか…これ?」ポチ

    翠星石「うわぁあっ!?画面が真っ青になったですぅ!どうしたですか、気分が悪くなったですか?ど、どうしましょう、パソコンを病気にしちまったらヒラサワは真っ赤になって怒るに決まってるですぅ!うーんと…」カタカタ

    翠星石「…何も反応しないです……」

    翠星石「え、ええいままよですぅ!ほらほら、直るです、直るですぅ!」カタカタカタカタ

    ♪…♪…

    翠星石「んあ?な、何か音楽が流れ始めたです!?まさかこれが辞世の句って奴ですか!?ぱ、ぱそこん!まだ逝くには早いですぅ、三途の川から戻ってきてですぅ!」カタカタカタ

    474 = 465 :

    ガタッ!

    翠星石「どわぁっ!?……!!!…お、終わったです…ぱそこんの中の大切な何かが折れた音がしたです……」

    翠星石「ど、どうすればいいですか…今回は部屋に水を撒いちゃったのとはワケが違うですよ…流石にヒラサワも許してくれないかも……」ドヨーン…

    「……こほん」

    翠星石「修正テープとか貼れば直らないですかね…バンドエイドとか消毒液もあるんですが…無理ですよね…」

    「…こほん!」

    翠星石「うわっ!?な、何ですか?ま、まさかヒラサワがさっき言ってたポルターガイスト!?す、翠星石を食べても美味しくないですぅ!た、食べるならそこのストーンにするです!鉄分たっぷりな上にヘルシーですからっ!」ガバッ

    ストーン「………」

    「…僕はポルターガイストじゃないし、そのパソコンも壊れてないと思うよ」

    翠星石「え?ホントですか!?よかった…って………あれ?その声…」バッ

    蒼星石「……久しぶりだね、翠星石」

    ♪……♪…

    476 = 465 :

    平沢進「…………」スタスタ

    平沢進「………」

    平沢進「あ。あんなところに正体不明の洋風屋敷が。薔薇園が当然の顔で付属しているとはまた豪勢な」

    平沢進「…薔薇とは近頃常ならぬ因縁がある。見えない糸を見えると信ずるほどにロマンチストではないが、薔薇をただ眺める程度ならしてみてもいいかもしれない」

    平沢進「…………」スタスタ

    平沢進「ははあ。近場で眺めるとこれまた壮観な。余程ロマンチストな金の縁者が住居としているのだろうか。これほどの物量、維持するにも手間と手間代がかかるはず」

    平沢進「…………」

    「………」

    「…それほどそこの薔薇園が気になりますかな?」

    477 = 465 :

    平沢進「はい?はあ、まあ」

    お爺さん「ほほう!それは結構なことで。最近は花というものに興味関心を持つ人があまりおりませんでな。まったくけしからんことです」

    平沢進「で、あなたはどちら様で」

    お爺さん「おっと!これは失礼、儂は毎日この辺りを散歩道にしておる年寄りです。散歩の途中によくこの薔薇園を眺めるのですが、今日は先客のあなたが居ましたので、興味深く思って話しかけた次第です。ご迷惑でしたかな?」

    平沢進「いや、別に」

    お爺さん「それは良かった。では少し話しませんか。…花がお好きなのですかな?」

    平沢進「好悪の感情を持っているかは生育環境により異なるので応えられませんが、多少の興味は。花は咲く場所を選ぼうとも選ばずとも、損なわれぬものを持つのが特色なので。そこが仕事に少々の関連性がある為に」

    478 = 465 :

    お爺さん「ほうほう。…お仕事とは、芸術の類ですかな。たしかに花には、このように場所を誂えずとも変わらぬ美しさや健気さがあります。しかし、薔薇は他の花々とは一味違いますぞ」

    平沢進「へえ。なんでしょう」

    お爺さん「それはですね、「トゲ」があるということです」

    平沢進「…………」

    お爺さん「おやおや、そう『何を分かりきったことを』という表情をされずとも」

    平沢進「いや。これは『何か興味深い事物が聞けると有難いが』という顔です」

    お爺さん「おや、それは失敬。ではその期待に添えるよう、意気込んで話しましょうかな。…こほん」

    479 = 465 :

    お爺さん「トゲがなぜ付いているかはご存知ですかな。虫や動物から身を守る刃物…だと世間一般ではよく言われております」

    平沢進「……」

    お爺さん「しかし、あのトゲの大きさでは虫に相対するには大きすぎる。実際虫たちは、あのトゲを気にもせず枝の上を行き来しとります。つまり、虫を防御するために発達したものとは言い難い」

    平沢進「ふむ」

    お爺さん「トゲが身を守る為についている、というものは人の推測に過ぎないそうです。まあ実際、野薔薇が他の植物に比べ動物には食べられにくいのではないか、という予測は正しいだろうとされております。ただ、予測は予測です」

    お爺さん「他にも推論はあります。例えばトゲが薔薇の茎の生育を促すだの、トゲで他のものに引っかかり、陽に近い場所へと動きやすくするためだの…」

    お爺さん「しかし、これらは全て机上の答えに過ぎんのです。明白な理屈はまだ分かっていない。…どうです?なかなかミステリアスで面白いでしょう」

    480 :

    平沢進「ははあ」

    お爺さん「…おほん!そこまで興味深くは思っていただけなかったようですな。ただ、そのミステリアスさが、薔薇の花により味わいを齎しておるのですぞ。トゲのある女は美しい…という言葉のように、ただ痛いだけでなく、トゲに隠された謎があるからこそ、花の美しさが際立つのです」

    平沢進「へえ。まあ、ただ害があるのみならば、人の手が加わった手前消滅していておかしくないもの。それが残るのには、植物の生育そのものとヒトの個人的な利益に纏わる理由があるかということになりますか」

    お爺さん「…ほう。花に詳しいというのは本当のようですな。植物の生育に関わるためという推論は論じましたが…トゲを残すことで得るヒトの利益とはなんです?」

    平沢進「はあ。薔薇園とは遥か以前より、金に縁のある者達により運営されてきたものでした。そして、彼らは交配という科学の行使で、あらゆる新種を生み出す力があった。トゲの消滅を目論むのに暇も金も十分にあったことでしょう」

    お爺さん「ふむ」

    481 = 480 :

    平沢進「それをスルーしたのはもちろん倫理や慈愛の為でなく。トゲは金持ちに都合が良いからでありまして。金持ちには、薔薇の花に寄る虫のごとく、切ってきれぬ仲の仕事人が居りました。現代での名を盗っ人と」

    お爺さん「…ははっははは!なるほど、泥棒から家を守るのに役立つということですか!トゲとは薔薇だけでなく、財産までも守るものなのですな。そう思うとまた、薔薇を見る目が変わるというものです。ただ…」

    お爺さん「人に都合のいい部分は残され、違う色を観るために交配は重ねられるとは…薔薇には気持ちなど無いでしょうが、あんまりな仕打ちですな」

    お爺さん「遥か昔より人に寄り添うものとは、ただ寄り添っているままでは居られんのですな。人に都合のいいように…。動物も植物も、その影響からは逃れられないのでしょうか」

    平沢進「まあ。それが人の世の常なので」

    482 = 480 :

    更新遅れてホントすみません…
    何か薔薇についてはそこまで自信が無いです…

    483 :

    スレタイ二度見したわ
    平沢とドールって分からなくもない組み合わせだけどもマジか

    484 :

    乙乙

    485 :

    いまみた、おつ
    言い負かされる翠星石かわいい

    486 :

    ♪…♪…

    蒼星石「ここを押せば止まると思うよ。あと、青い背景はこのウィンドウが開いてしまってるだけだよ」カタカタ

    ピ…

    翠星石「お…おぉー!流石は蒼星石ですぅ!ぱそこんをあれよという間にカタカタっターンッ!と操作しちまうなんて!ピコピコした音楽も止まって何よりですぅ。英語があんだけあると翠星石は頭痛が痛くなっちまうですよ」

    蒼星石「あれもヒラサワさんの曲かな。根源の園っていうのは…ネットワークのこと?でも、現象の花の秘密っていうのはなんだろう?」

    翠星石「あ、こら、蒼星石!ヒラサワの歌の歌詞なんて真面目に考えたら頭がショートしちまうですよ!せっかく遊びに来たのに、すぐプシューってなっちまったら翠星石とお話が出来ねーじゃねーですか、まったくもう!」

    蒼星石「…うん。そうだね」

    487 = 486 :

    翠星石「ほら、ヒラサワの曲は置いといて…とにかく久しぶりですねぇ蒼星石!元気してたですか?翠星石はあの後心配で夜しかぐっすり眠れなかったんですよ?」

    翠星石「今日は…あ!Nのフィールドを通って来たですね。もう、普通に玄関でピンポンを押せばいいのに。入口のアレはドアの形した装飾品とかじゃねーんですから」

    蒼星石「…翠星石、話があるんだ」

    翠星石「ん?何ですか?…もしかしてあの悩み事についてですか?やっと相談してくれる気になったですか!まったく、待ちくたびれたですよ!ほらほら、んじゃさっそくまるっと話して見せるです!このお姉さんの翠星石が何でもかんでもバシッと解決してやるですからね!」

    蒼星石「いや、それはもういいんだ。答えは自分で出したから」

    翠星石「え?…そ、そうですか!流石は蒼星石ですぅ!あんなに困ってたことを一人で解決しちまったんですね!いやー翠星石も鼻高々ですぅ。…でもでも、少しくらい翠星石に相談してくれてもよかったと思うんですけど…」

    488 = 486 :

    蒼星石「うん、ごめん。その代わりと言ったらなんだけど、今日はその答えについて話をしに来たんだ」

    翠星石「?…あ、なるほど!悩み事の解決までの一切合切を翠星石に教えてくれるってことですね。しょうがねーですねぇ、くっきりはっきり聞いてやるです。さあ蒼星石、何でもかんでもこの翠星石に話しちまうですよ!」

    蒼星石「…うん」

    翠星石「ほらほら、遠慮しないで、ここ座って話すです。ヒラサワに内緒でこっそりお菓子でも出してやるですから!」

    蒼星石「………僕とアリスゲームをしよう、翠星石」

    翠星石「はいはい、アリスゲームですね。最近はみんなアリスゲームアリスゲームって、流行ってるですかその……」

    翠星石「………」

    翠星石「…………え?」

    489 = 486 :

    ー薔薇園前ー

    お爺さん「こほん!教えるつもりが逆に教わってしまいましたなあ。やられっぱなしで帰すわけには行きません。まだお時間はよろしいですかな?」

    平沢進「まあ」

    お爺さん「では遠慮なく!花言葉というものはご存知ですな。薔薇は先程申された人工交配によって、現在4万種以上の品種が存在しております」

    お爺さん「その一つ一つに言葉をつけていたら薔薇はこの世のあらゆるものを語る植物となれたかもしれませんが、あいにくとそうは行かない。薔薇の花言葉は、その花弁の色によって分けられております」

    平沢進「……」

    お爺さん「黒薔薇の…まあ、実際には暗い赤色の薔薇は「決して滅びることのない愛」。その真反対の白薔薇は「恋をするには若すぎる」」

    490 = 486 :

    平沢進「ははあ」

    お爺さん「黄薔薇ならば愛情の薄らぎ…赤薔薇は愛情、美、情熱。薄紅薔薇ならばしとやか、上品…と言った具合です」

    平沢進「なるほど。血液型占い並に当てになりそうも無い指標で。…特に薄紅がしとやかとはもってのほか」

    お爺さん「はは!中々手厳しいですな。…とにかく、色に関わらず薔薇に喩えられるのは、愛や気品。言葉にし難い美しさを物言わぬものに託したわけですな。喋らぬものとは口先から美しさが漏れ出す心配が無いので、綺麗な言葉を背負わすに相応しいのでしょうかな」

    平沢進「はあ。人の背負うべきものを花に肩代わりさせるとは。中々人は種族として責任転嫁の能力が高い模様で。あらゆる災害を神に背負わせ運命に罪着せ、人の作り出した罪は科学に背負わせ。それほど原罪を背負って死ぬのが怖いのでありましょうか」

    491 = 486 :

    お爺さん「ほう……確かに、人の生み出した言葉を花に着せるのは、無責任と言えるかもしれませんな。…ではその中でも特に有名なものについてをば。青い薔薇というものがあります」

    平沢進「………」

    お爺さん「少し前流行ったのでこれは誰でも知っているでしょう。人工的に生み出された新しい色…これの花言葉には「不可能」「夢が叶う」「神の祝福」など…花にも人にも背負わせるには少々重い言葉が並びます」

    平沢進「責任どころか理想までもを転嫁させたと。それは青い薔薇もさぞ息苦しいことでしょう」

    お爺さん「……そうかもしれませんな。ただ、こうして花言葉について話したのは、薔薇とはただ美しいものとして存在するわけではないということを伝えたかったからです」

    お爺さん「移り変わる色の中に、愛の良い面以外のものも共に載せる。美しさに伴う困難や失望をも身に宿らせるものが薔薇なのですよ。…当の薔薇がそこに気がついているかは分かりませんがね」

    492 = 486 :

    平沢進「へえ。…薔薇を他の花種に置き換えても成立する公式でもあるような」

    お爺さん「う…まあ、確かに。薔薇以外の花にもかなり共通するものだったかも知れません。…元より、ただ美しいだけの花などないのかもしれませんな」

    平沢進「そのようにグロテスクな存在は、土も人も生むことは難しいかと。人は理想の中に完璧な美しさを語るものの、それは実在に適応した際ただの騙りと成り下がるもので」

    平沢進「理想気体の公式に従い、美しいものを秤にかけ、不純さを洗い流し、雑多さを摘み取り、ようやく疲労困憊の美一滴を絞り出そうと、水滴として足元に落ちた時、既に無色透明でいられぬものかと。それが実在気体に囚われるモノの宿命」

    493 = 486 :

    お爺さん「……ほお。…それは面白い。完璧な美しさはこの世に理想としてしか存在しない。しかし、人は花あるいは何かに、その理想を見出し現実として生み出そうとする…生み出せる筈もないと頭では分かっているはずなのに」

    平沢進「…」

    お爺さん「…ボケ防止のタネに考える議題としては、大変意義あるものかもですな」

    平沢進「それはどうも。認知機能の出力低下をステルスが食い止めるとは皮肉だが、実益が齎されたのならば結構なこと」

    494 = 486 :

    ーあろるの館ー

    翠星石「…もう!蒼星石ったら!エイプリルフールはとっくに終わってるですよ?」

    蒼星石「翠星石。…僕は冗談も嘘も好きじゃない」

    翠星石「っ………」

    翠星石「…それは知ってるですよ。言ってみただけです。翠星石は、蒼星石のお姉さんなんですから」

    蒼星石「……そうだね」

    翠星石「じゃあ……その理由を、聞こーじゃねーですか」

    蒼星石「僕らはアリスになるべくして生まれたんだ。理由なんて探す必要すらないよ」

    495 = 486 :

    翠星石「っ…でも!翠星石と蒼星石は双子じゃねーですか!昔からずっと一緒の…」

    蒼星石「双子である前に、僕達はローゼンメイデンだよ」

    翠星石「そ、そんな鶏が先か卵が先かみたいな事言われても翠星石には分からんですぅ!蒼星石!ローゼンメイデンだから戦うっていうなら何で今まで戦わなかったんですか!?」

    蒼星石「……」

    翠星石「ホントの理由はなんなんです?翠星石に教えるですよ!まさか、蒼星石のマスターが何か良からぬことを吹き込んで…」

    蒼星石「マスターの事を悪く言うのは許さないよ、翠星石。それに僕だって、誰かに簡単にアリスゲームについて言いくるめられるほど子供じゃない」

    496 = 486 :

    翠星石「っ…じゃあ、何で!?急にアリスゲームをする決心がついたのは一体…」

    蒼星石「君にも、多少なり察しがついてるんじゃないのかい?」

    翠星石「……………」

    翠星石「…蒼星石の悩み事に心当たりなんてねーです。あったら翠星石だって真っ先に話してるですぅ。…だけど」

    蒼星石「……」

    翠星石「一つだけ、頭に引っかかってることがあったです。それは関係無いことだと思って……思いたかったですけど」

    翠星石「ずっとずっと昔に…言ってましたね。翠星石と蒼星石は、二人で一人。それが、本当にいい事なのかって…」

    497 = 486 :

    蒼星石「…そう。僕らの能力は、二つで一つ。庭師の如雨露は心の樹を育てることが出来るし、庭師の鋏はその成長を邪魔するものを切払うことが出来る。そして互いに、夢の扉を開くことも。でも、本当の能力を使うには、片方だけじゃ足りない」

    蒼星石「能力だけじゃない。僕らは、ローゼンメイデンとして目覚める時も眠る時も一緒だし、契約する人も同じだった。…今回までは、だけど」

    翠星石「……し、真の能力が凄いのは、二人で協力して出来る能力だからですよ。一人より二人なら、より強くなるのは当然ですぅ。…それに、マスターが同じなのは、翠星石と蒼星石の仲が良くて、離れたくなかったから…」

    蒼星石「協力といえば耳触りはいいよ。それが努力によって生まれたものならね。でも、僕らが生まれた時からこの能力はあったし、手放したり拒んだり出来るものじゃなかった。…それに、離れたくなかったというのは、ちょっと違う…」

    蒼星石「僕たちは、離れられなかったんだ。能力も、精神も、あまりに互いに依存していたから」

    498 = 486 :

    翠星石「…………」

    蒼星石「ローゼンメイデンは皆不完全だけれど、僕らはその中でも際立ってる。僕らは互いに背中合わせで、一人がいなくなったらたちまち後ろに倒れてしまう。足場が無ければ立つことも出来ない、本当の人形みたいに」

    翠星石「…それが何だって言うんですか。だったら、ずっと一緒に支え合えばいいだけですぅ!な、何が不満なんですか蒼星石!翠星石は、そりゃあ出来たお姉さんじゃねーかもしれねーですけど、悪いとこがあるなら口で言ってくれればいいじゃねーですか!そしたら翠星石も頑張って直すですから!」

    蒼星石「ずっと支え合う…素敵な言葉だけど、僕はそれでいいと思わない。僕らは共生じゃなくて、共依存の関係なんだ。それは、赤の他人には綺麗なものに見えるかもしれないけど、本当はそんなものじゃない」

    翠星石「……」

    499 = 486 :

    蒼星石「今回僕らは、マスターも、住む場所も、初めて別にしたね。君にとっては些細な気まぐれだったかもしれないけど、僕は、大切なことを確かめるためにこうしたんだよ。…それが何だか分かるかい?」

    翠星石「そ、そんなの、分かるわけ………」

    ?初めて蒼星石抜きで闘った時、分かったのよねぇ?自分は一人じゃマトモに武器も振るえない…ジャンクだってこと?

    ?…二人はいつも一緒だったのに、何だか不思議な感じね?

    翠星石「………」

    蒼星石「…僕は一度、君の「水銀燈に襲われている」というウソを聞いて、助ける為にここに来たよね。でも、本来だったらルールに則るアリスゲームに手出しは無用の筈だ。だけど、僕は無視することが出来なかった」

    500 = 486 :

    2重かっこが環境依存文字ってマジ…?
    すみませんちょっと直します


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