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元スレ梨子「5年目の悲劇」
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花丸「ビックリしたずら。メモ帳の中にびっしりと、鞠莉さんの会社が黒澤家と組んで働いていた色々な不正が載ってたんだから」
花丸「その中には、果南さんのお店が潰れた原因が鞠莉さんだってことも書かれていた」
果南「……!」
花丸「善子ちゃんは、それを暴こうとして消されたんだって、そう思った」
梨子「……」
私は、まるで彼女の話についていけなかった。
企業の不正を告発しようとした社員が上層部に消されるという話は刑事ドラマなどでたまに見かける。
しかし、それを鞠莉とダイヤが実行していたということが、にわかに信じられなかった。
花丸「まだその時は半信半疑だったんだけどね……その日の夜、居ても立ってもいられなくて、ルビィちゃんに電話したんだ」
彼女の話は、尚も続く。
花丸「その中には、果南さんのお店が潰れた原因が鞠莉さんだってことも書かれていた」
果南「……!」
花丸「善子ちゃんは、それを暴こうとして消されたんだって、そう思った」
梨子「……」
私は、まるで彼女の話についていけなかった。
企業の不正を告発しようとした社員が上層部に消されるという話は刑事ドラマなどでたまに見かける。
しかし、それを鞠莉とダイヤが実行していたということが、にわかに信じられなかった。
花丸「まだその時は半信半疑だったんだけどね……その日の夜、居ても立ってもいられなくて、ルビィちゃんに電話したんだ」
彼女の話は、尚も続く。
ルビィ『……あ、花丸ちゃん』
花丸『どうしたの? 元気ないみたいだけど……』
ルビィ『……』
花丸『ルビィちゃん?』
ルビィ『あのね、お姉ちゃんが──』
花丸『どうしたの? 元気ないみたいだけど……』
ルビィ『……』
花丸『ルビィちゃん?』
ルビィ『あのね、お姉ちゃんが──』
花丸「ルビィちゃんは、ダイヤさんから家族の縁を切られかけていた」
花丸「ファンレターに混じって、鞠莉さんたちに潰された企業の書いた恨み言のような手紙があったんだって」
花丸「それを問い詰めたら、ダイヤさんは……」
花丸「だから確信したの。やっぱり善子ちゃんは二人に消されたんだって」
……ダイヤはともかく、鞠莉はこの機会を逃せばいつ接触出来るか分からない。
それを踏まえると、二人の間に気の遠くなるような苦労があったことは想像に難くなかった。
花丸「ファンレターに混じって、鞠莉さんたちに潰された企業の書いた恨み言のような手紙があったんだって」
花丸「それを問い詰めたら、ダイヤさんは……」
花丸「だから確信したの。やっぱり善子ちゃんは二人に消されたんだって」
……ダイヤはともかく、鞠莉はこの機会を逃せばいつ接触出来るか分からない。
それを踏まえると、二人の間に気の遠くなるような苦労があったことは想像に難くなかった。
花丸「でもこれだけは信じて。ルビィちゃんは誰も殺してない。ただ、偽装トリックに協力してもらっただけなの」
花丸「あの二人は許せなかったし、マルの頭の回転が遅かったせいで、こんな方法しか思いつかなかった。でも、ルビィちゃんを犯罪者にすることだけは、どうしても抵抗があった」
花丸「だからせめて、いざという時は自分ひとりで罪を被れるようにって、そう思ったのに……!」
喋り続ける犯人以外、誰も言葉を発しない。
ただ、この哀れな少女の告白に、じっと耳を傾けることしか出来なかった。
二人の罪を赦す気にはなれない。しかし、許しがたいという憤りも、湧いては来なかった。
花丸「あの二人は許せなかったし、マルの頭の回転が遅かったせいで、こんな方法しか思いつかなかった。でも、ルビィちゃんを犯罪者にすることだけは、どうしても抵抗があった」
花丸「だからせめて、いざという時は自分ひとりで罪を被れるようにって、そう思ったのに……!」
喋り続ける犯人以外、誰も言葉を発しない。
ただ、この哀れな少女の告白に、じっと耳を傾けることしか出来なかった。
二人の罪を赦す気にはなれない。しかし、許しがたいという憤りも、湧いては来なかった。
花丸「だから、ルビィちゃんだけは……」
言葉が途切れ、力尽きたかのように、彼女は倒れた。
ルビィ「花丸ちゃん!」
長身の少女を受け止めたのは、小柄な少女だった。
花丸「ごめん、なさい……」
最後に、小さく呟いて、国木田花丸は意識を手放した。
言葉が途切れ、力尽きたかのように、彼女は倒れた。
ルビィ「花丸ちゃん!」
長身の少女を受け止めたのは、小柄な少女だった。
花丸「ごめん、なさい……」
最後に、小さく呟いて、国木田花丸は意識を手放した。
花丸は、ルビィの部屋に運ばれた。
彼女が目を覚まし救助が来るまでの間、皆が枕元についていた。
ルビィ「花丸ちゃん、昨日の夜に鞠莉さんを殺してから、ずっと寝てなかったんです」
ルビィ「それに、お姉ちゃんが鞠莉ちゃんを殺したのが花丸ちゃんだって気付いちゃったみたいで、慌てちゃったみたいで……」
梨子「……そっか」
いつ眠りに落ちてもおかしくない身体で、アクシデントに対応しながら死体の演技をやってのけたのか。
その忍耐力と精神力は、流石だと評せざるを得ない。
彼女が目を覚まし救助が来るまでの間、皆が枕元についていた。
ルビィ「花丸ちゃん、昨日の夜に鞠莉さんを殺してから、ずっと寝てなかったんです」
ルビィ「それに、お姉ちゃんが鞠莉ちゃんを殺したのが花丸ちゃんだって気付いちゃったみたいで、慌てちゃったみたいで……」
梨子「……そっか」
いつ眠りに落ちてもおかしくない身体で、アクシデントに対応しながら死体の演技をやってのけたのか。
その忍耐力と精神力は、流石だと評せざるを得ない。
果南「鞠莉に店を潰された、か……。間違ってはいないんだけどね」
ルビィが席を外したタイミングで、果南が口を開いた。
梨子「?」
果南「まだニュースになってないから、知らないのも無理はないか」
曜「どういうこと?」
果南「2年前淡島の近くの海底で、貴重な新資源が見つかってね。いろんな企業や行政がそれを虎視眈々と狙ってた」
梨子「じゃあ、鞠莉さんたちは」
果南「うん。内浦を他所の手に渡さないために、汚いことに手を染めたんだ。私の店の近くは、特に資源が豊富だったみたいでね……」
ルビィが席を外したタイミングで、果南が口を開いた。
梨子「?」
果南「まだニュースになってないから、知らないのも無理はないか」
曜「どういうこと?」
果南「2年前淡島の近くの海底で、貴重な新資源が見つかってね。いろんな企業や行政がそれを虎視眈々と狙ってた」
梨子「じゃあ、鞠莉さんたちは」
果南「うん。内浦を他所の手に渡さないために、汚いことに手を染めたんだ。私の店の近くは、特に資源が豊富だったみたいでね……」
梨子「そんな……じゃあもし────」
ルビィが戻って来たのが視界に入り、続きの言葉を押しとどめる。
これ以上、彼女たちを追い詰めるような真似は出来なかった。
……救助が来て、花丸が目を覚ましたのは、翌朝のことだった。
ルビィが戻って来たのが視界に入り、続きの言葉を押しとどめる。
これ以上、彼女たちを追い詰めるような真似は出来なかった。
……救助が来て、花丸が目を覚ましたのは、翌朝のことだった。
花丸「じゃあね、ルビィちゃん、みんな」
ルビィ「うん、待ってる。時間のある時は、会いに行くよ」
花丸「……ありがとう」
その日のうちに、花丸は警察に自首をした。
本人たっての希望で、ルビィが共犯だということは皆の中での秘密になった。
物的証拠もない以上、誰も反対する者はいなかった。
けれども私だけは、別の事柄で頭がいっぱいだった。
ルビィ「うん、待ってる。時間のある時は、会いに行くよ」
花丸「……ありがとう」
その日のうちに、花丸は警察に自首をした。
本人たっての希望で、ルビィが共犯だということは皆の中での秘密になった。
物的証拠もない以上、誰も反対する者はいなかった。
けれども私だけは、別の事柄で頭がいっぱいだった。
花丸『……そういえば、梨子さん』
梨子『どうしたの?』
花丸『高森さんって、どうやって殺されたんずら?』
梨子『────え?』
この事件は、まだ終わっていない。
そう思わざるを得なかった。
梨子『どうしたの?』
花丸『高森さんって、どうやって殺されたんずら?』
梨子『────え?』
この事件は、まだ終わっていない。
そう思わざるを得なかった。
────8月1日、夜、梨子の家。
梨子母「明日には東京に戻るのよね」
梨子「……うん」
梨子母「まさか、お友達があんなことになるなんてね……」
梨子「…………」
事情聴取を終え、久しぶりの実家。
千歌たちも既に自宅に戻っている筈だ。
梨子母「明日には東京に戻るのよね」
梨子「……うん」
梨子母「まさか、お友達があんなことになるなんてね……」
梨子「…………」
事情聴取を終え、久しぶりの実家。
千歌たちも既に自宅に戻っている筈だ。
『警察では、国木田さんから詳しい事情を──』
ニュース番組を消し、母が作った料理を食べる。
梨子母「どうだった?」
梨子「……美味しい。ありがとう」
梨子母「なら良かった。その魚、渡辺さんからお裾分けしてもらったのよ」
梨子「ごちそうさま。……?」
遅い晩御飯を終えて、席を立つ。ふと、壁に掛かっているカレンダーが目に留まった。
ニュース番組を消し、母が作った料理を食べる。
梨子母「どうだった?」
梨子「……美味しい。ありがとう」
梨子母「なら良かった。その魚、渡辺さんからお裾分けしてもらったのよ」
梨子「ごちそうさま。……?」
遅い晩御飯を終えて、席を立つ。ふと、壁に掛かっているカレンダーが目に留まった。
梨子「お母さん、カレンダーまだ7月になってるけど……」
梨子母「ああ、もう8月だったわね。変えといてくれる?」
梨子「いいけど……この印は何?」
2022年7月と書かれたカレンダー。30日と31日の部分に、赤い丸印が付いていたのが妙に気になったのだ。
梨子母「ああ、それなら────」
梨子母「ああ、もう8月だったわね。変えといてくれる?」
梨子「いいけど……この印は何?」
2022年7月と書かれたカレンダー。30日と31日の部分に、赤い丸印が付いていたのが妙に気になったのだ。
梨子母「ああ、それなら────」
梨子「────!」
母の答えを聞いた瞬間、私はハンマーで殴られたような気がした。
そうか。そういうことだったのか。
感じていた違和感の正体が、ようやく実体を伴って姿を現した。
母の答えを聞いた瞬間、私はハンマーで殴られたような気がした。
そうか。そういうことだったのか。
感じていた違和感の正体が、ようやく実体を伴って姿を現した。
梨子母「梨子、出かけるの?」
梨子「うん、ちょっと急用!」
あのとき見つけた真相は、表向きのものでしかなかった。
真実は、更に巧妙に隠れていたのだ。
梨子「うん、ちょっと急用!」
あのとき見つけた真相は、表向きのものでしかなかった。
真実は、更に巧妙に隠れていたのだ。
足早に家を出た私は、ある場所へと急いだ。
5年目の悲劇に、終止符を打つために。
5年目の悲劇に、終止符を打つために。
昔のニコ生でふりりんがダイヤの声真似してたけどもしかしてそれか…
なんでこんな千歌が怪しまれてるのか分からんぞ
確かに果南関連で不穏な発言はあったものの
確かに果南関連で不穏な発言はあったものの
散々怪しさふりまいてたからじゃないの
って思ってたけど>>121でダイヤを花丸の部屋に向かわせた可能性が
って思ってたけど>>121でダイヤを花丸の部屋に向かわせた可能性が
────浦の星女学院。
周囲に誰の姿もない、施錠された校門の前に、彼女は立っていた。
「なんでここにいるって分かったの?」
そう語る彼女は、言葉とは裏腹に、私がここに来るのを分かっているようだった。
むしろ、私が来ることを待っていたようにさえ見えた。
周囲に誰の姿もない、施錠された校門の前に、彼女は立っていた。
「なんでここにいるって分かったの?」
そう語る彼女は、言葉とは裏腹に、私がここに来るのを分かっているようだった。
むしろ、私が来ることを待っていたようにさえ見えた。
梨子「5年前、Aqoursが9人揃ったのもここだった。そして今日は、昨日までの雨で延期になった沼津夏祭り、花火大会の日」
梨子「そう、Aqoursがユメに向かって本当の意味でスタートした日……でしょ?」
「…………」
梨子「結論から言うわ。今回の事件には、裏で手を引いていた黒幕のような人がいた」
「根拠はなに?」
彼女はただ嬉しそうに、それでいてどこか寂しそうに笑っていた。
まるで、その推理の続きを聞かせてくれと言わんばかりに。
梨子「そう、Aqoursがユメに向かって本当の意味でスタートした日……でしょ?」
「…………」
梨子「結論から言うわ。今回の事件には、裏で手を引いていた黒幕のような人がいた」
「根拠はなに?」
彼女はただ嬉しそうに、それでいてどこか寂しそうに笑っていた。
まるで、その推理の続きを聞かせてくれと言わんばかりに。
梨子「善子ちゃんの復讐を動機とした花丸ちゃんに、黒澤家絡みの一件で協力者の立場になったルビィちゃん」
梨子「でも、後から考えてみると、この動機にはどうしても納得のいかない箇所があった」
梨子「何故鞠莉さんたちが、Aqoursの皆が集まり、テレビの関係者が来ると分かっていながら善子ちゃんの存在を抹消したのか」
梨子「もちろん善子ちゃんが余程重大な証拠を握っていた可能性もあるけれど、そこまで躍起になるような人たちなら、善子ちゃんのスマホだって血眼で探すんじゃないかしら」
梨子「最悪、花丸ちゃんにまで危害が及んでいてもおかしくはない」
梨子「でも、後から考えてみると、この動機にはどうしても納得のいかない箇所があった」
梨子「何故鞠莉さんたちが、Aqoursの皆が集まり、テレビの関係者が来ると分かっていながら善子ちゃんの存在を抹消したのか」
梨子「もちろん善子ちゃんが余程重大な証拠を握っていた可能性もあるけれど、そこまで躍起になるような人たちなら、善子ちゃんのスマホだって血眼で探すんじゃないかしら」
梨子「最悪、花丸ちゃんにまで危害が及んでいてもおかしくはない」
梨子「何より、花丸ちゃんの言っていたことが正しいなら、善子ちゃんが行方不明になったのは3週間前」
梨子「それだけ時間があれば、もっともらしい理由をつけて同窓会はなくなった、と連絡すればいいのに、何故しなかったのか」
梨子「その疑問は、思い切って発想を逆転させてみたらあっさりと晴れたわ。善子ちゃんの行方を握っているのは、別の誰かなんじゃないかって」
「…………」
ひとつ呼吸を置く。既に、彼女の顔に笑顔は浮かんでいなかった。
梨子「それだけ時間があれば、もっともらしい理由をつけて同窓会はなくなった、と連絡すればいいのに、何故しなかったのか」
梨子「その疑問は、思い切って発想を逆転させてみたらあっさりと晴れたわ。善子ちゃんの行方を握っているのは、別の誰かなんじゃないかって」
「…………」
ひとつ呼吸を置く。既に、彼女の顔に笑顔は浮かんでいなかった。
梨子「ルビィちゃんはこう言ってた。『お姉ちゃんが鞠莉ちゃんを殺したのが花丸ちゃんだって気付いちゃったみたいで』って」
梨子「考えようによっては、ダイヤさんが動機から逆算して花丸ちゃんにたどり着いたようにも見える」
梨子「けれども、その誰かがダイヤさんに何らかの形で花丸ちゃんが犯人だと教えたとも考えられるわよね」
梨子「さっきも言ったようにこの事件に黒幕がいたとするなら、その人は善子ちゃんのスマホを花丸ちゃんに送り付け、焚きつけたことになる」
梨子「だからあなたにとって、鞠莉さんが殺されることは想定の範囲内だったんじゃないかしら」
梨子「考えようによっては、ダイヤさんが動機から逆算して花丸ちゃんにたどり着いたようにも見える」
梨子「けれども、その誰かがダイヤさんに何らかの形で花丸ちゃんが犯人だと教えたとも考えられるわよね」
梨子「さっきも言ったようにこの事件に黒幕がいたとするなら、その人は善子ちゃんのスマホを花丸ちゃんに送り付け、焚きつけたことになる」
梨子「だからあなたにとって、鞠莉さんが殺されることは想定の範囲内だったんじゃないかしら」
梨子「もう一つの根拠は、高森さんを殺したのが花丸ちゃんではなかったこと」
梨子「彼女は自分を犠牲にして、ルビィちゃんを庇おうとした。当然警察には高森さん殺しについても問われることになる」
梨子「もしそこでボロが出たら、自分以外に殺人犯がいる可能性に気付かれる──それを恐れて、彼女は私に高森さんがどうやって死んだのかを聞いてきた」
梨子「花丸ちゃんは高森さんを殺したのがルビィちゃんだと思い込んでいた。ただ、あの時ルビィちゃんには完璧なアリバイがあったことを、彼女は知らなかった」
梨子「だから、やってもいない罪を庇うなんて不可解な状況が出来上がった」
「つまり、何が言いたいの?」
梨子「彼女は自分を犠牲にして、ルビィちゃんを庇おうとした。当然警察には高森さん殺しについても問われることになる」
梨子「もしそこでボロが出たら、自分以外に殺人犯がいる可能性に気付かれる──それを恐れて、彼女は私に高森さんがどうやって死んだのかを聞いてきた」
梨子「花丸ちゃんは高森さんを殺したのがルビィちゃんだと思い込んでいた。ただ、あの時ルビィちゃんには完璧なアリバイがあったことを、彼女は知らなかった」
梨子「だから、やってもいない罪を庇うなんて不可解な状況が出来上がった」
「つまり、何が言いたいの?」
梨子「…………」
思わず唇を噛む。握り拳に力が入る。
彼女は、一切の弁明をしようとしなかった。
それどころか、最後の結論さえも私の口から言わせるつもりでいたのだ。
ふぅと息を吐き、言いたくなかったその答えを、口にする。
梨子「あなたが高森さんを殺して、その罪を花丸ちゃんになすりつけた。黒幕はあなたよ、千歌ちゃん!」
思わず唇を噛む。握り拳に力が入る。
彼女は、一切の弁明をしようとしなかった。
それどころか、最後の結論さえも私の口から言わせるつもりでいたのだ。
ふぅと息を吐き、言いたくなかったその答えを、口にする。
梨子「あなたが高森さんを殺して、その罪を花丸ちゃんになすりつけた。黒幕はあなたよ、千歌ちゃん!」
千歌「正解だよ、梨子ちゃん」
出来ることなら聞きたくなかったその台詞が、遠慮なく放たれた。
出来ることなら聞きたくなかったその台詞が、遠慮なく放たれた。
梨子「千歌ちゃん自身は何も証拠を残していない。花丸ちゃんは誤解をしたまま」
梨子「あなたを捕まえても、花丸ちゃんとルビィちゃんが傷つく結果しか得られない」
梨子「ある意味でこれは完全犯罪と言っていいものよ。何しろ本当のことを知っているのは千歌ちゃん、あなたしかいないんだから」
千歌「いま梨子ちゃんに話したけどね」
梨子「ねえ、千歌ちゃん。いったい何があったの? わざわざ花丸ちゃんたちをけしかけてまで、鞠莉さんとダイヤさんの命を奪う動機は──」
梨子「あなたを捕まえても、花丸ちゃんとルビィちゃんが傷つく結果しか得られない」
梨子「ある意味でこれは完全犯罪と言っていいものよ。何しろ本当のことを知っているのは千歌ちゃん、あなたしかいないんだから」
千歌「いま梨子ちゃんに話したけどね」
梨子「ねえ、千歌ちゃん。いったい何があったの? わざわざ花丸ちゃんたちをけしかけてまで、鞠莉さんとダイヤさんの命を奪う動機は──」
千歌「善子ちゃんが死んだのは、私のせいなんだ」
そう言った千歌の目に、後悔とも怒りとも取れる感情が浮かび上がり。
やがて、千歌の告白が始まった。
そう言った千歌の目に、後悔とも怒りとも取れる感情が浮かび上がり。
やがて、千歌の告白が始まった。
千歌「善子ちゃんが大学受験に失敗したことを知ったのは、本当に偶然だった」
千歌「けれども、私も大学を中退した直後でね。何かをしてやれるような気分でもなかった」
千歌「そんな時、日本を発つ前の鞠莉さんとお話する機会があったの」
梨子「……それで、鞠莉さんに善子ちゃんを助けてあげるよう頼んだのね」
千歌「結構いい案だと思ってたし、実際、善子ちゃんは目に見えて元気になっていた」
千歌「善子ちゃんなりに恩を感じてたからなんだろうね。最初に相談を持ち掛けたのが、私だったのは」
千歌「けれども、私も大学を中退した直後でね。何かをしてやれるような気分でもなかった」
千歌「そんな時、日本を発つ前の鞠莉さんとお話する機会があったの」
梨子「……それで、鞠莉さんに善子ちゃんを助けてあげるよう頼んだのね」
千歌「結構いい案だと思ってたし、実際、善子ちゃんは目に見えて元気になっていた」
千歌「善子ちゃんなりに恩を感じてたからなんだろうね。最初に相談を持ち掛けたのが、私だったのは」
梨子「相談?」
千歌「9人で集まるって約束をした日から1週間くらい後だったかな。善子ちゃんから電話があったんだ」
千歌「ほら、果南ちゃんが言ってたでしょ? 内浦の海で新資源が見つかった話」
千歌「それ絡みで鞠莉さんたちがやってる不正……癒着? 横領? っていうのかな。善子ちゃん、それを知っちゃってね」
千歌「かなりギリギリのやり方だったらしくて、いつバレてもおかしくはなかった」
千歌「おまけに、海外の企業までその資源に目を付け始めてね。善子ちゃんはどうすればいいか悩んでた」
千歌「止めさせなければいつか小原グループも黒澤家も警察の介入で潰される。止めさせてしまえば、内浦が、私たちの町が余所者に荒らされる」
千歌「それで、今すぐ会えないかって。一度どこかで待ち合わせして、私の家に行く予定だった。果南ちゃんもいるしね」
千歌「……それなのに」
千歌「9人で集まるって約束をした日から1週間くらい後だったかな。善子ちゃんから電話があったんだ」
千歌「ほら、果南ちゃんが言ってたでしょ? 内浦の海で新資源が見つかった話」
千歌「それ絡みで鞠莉さんたちがやってる不正……癒着? 横領? っていうのかな。善子ちゃん、それを知っちゃってね」
千歌「かなりギリギリのやり方だったらしくて、いつバレてもおかしくはなかった」
千歌「おまけに、海外の企業までその資源に目を付け始めてね。善子ちゃんはどうすればいいか悩んでた」
千歌「止めさせなければいつか小原グループも黒澤家も警察の介入で潰される。止めさせてしまえば、内浦が、私たちの町が余所者に荒らされる」
千歌「それで、今すぐ会えないかって。一度どこかで待ち合わせして、私の家に行く予定だった。果南ちゃんもいるしね」
千歌「……それなのに」
千歌『海岸通りで~……待ってたのに~……』
千歌『き~みは今日来て……あ、来た』
千歌『おーい!』
善子『────!』
千歌『ひさしぶ──後ろ、よけて!』
キキィィィィィィィィ ドン
千歌『き~みは今日来て……あ、来た』
千歌『おーい!』
善子『────!』
千歌『ひさしぶ──後ろ、よけて!』
キキィィィィィィィィ ドン
梨子「轢き逃げ……」
千歌「救急車を呼ぶまでもなく、即死だった。他に人通りもなかったし、轢いた車にも逃げられて、私にはどうすることも出来なかった」
千歌「私の家に直接来るように言えば、善子ちゃんが小原グループの秘密に気づかなければ」
千歌「もっと言えば、私が善子ちゃんを小原グループに入れさせなければ、善子ちゃんはあんな死に方をせずに済んだ」
梨子「あなたは、その矛先を……鞠莉さんたちに向けたっていうの?」
こくり、と力なく頷いた千歌に。
私は反射的に、平手打ちを浴びせていた。
千歌「救急車を呼ぶまでもなく、即死だった。他に人通りもなかったし、轢いた車にも逃げられて、私にはどうすることも出来なかった」
千歌「私の家に直接来るように言えば、善子ちゃんが小原グループの秘密に気づかなければ」
千歌「もっと言えば、私が善子ちゃんを小原グループに入れさせなければ、善子ちゃんはあんな死に方をせずに済んだ」
梨子「あなたは、その矛先を……鞠莉さんたちに向けたっていうの?」
こくり、と力なく頷いた千歌に。
私は反射的に、平手打ちを浴びせていた。
ふざけるな。
千歌のやったことは逆恨みでしかない。
八つ当たりで、その上こんな卑劣なやり方で、人の命を奪ったというのか。
千歌のやったことは逆恨みでしかない。
八つ当たりで、その上こんな卑劣なやり方で、人の命を奪ったというのか。
千歌「……最初はね、私が鞠莉さんたちを殺すつもりだった。けど私にそれをする勇気はなかった」
頬を押さえながら、千歌が呟いた。
千歌「善子ちゃんを海に捨てて、あとは全部花丸ちゃんに押し付けた。彼女がどうしようと、その結果を私の答えにすることにした」
まさかルビィちゃんを巻き込むとは思っていなかったけど、と彼女は自嘲気味に付け加えた。
頬を押さえながら、千歌が呟いた。
千歌「善子ちゃんを海に捨てて、あとは全部花丸ちゃんに押し付けた。彼女がどうしようと、その結果を私の答えにすることにした」
まさかルビィちゃんを巻き込むとは思っていなかったけど、と彼女は自嘲気味に付け加えた。
千歌「高森さんは……悪かったって思ってる。あの人、花丸ちゃんのことに気付き始めていて、私の部屋まで来たんだよ」
千歌「でも、Aqours以外の人に事の成り行きをどうにかされるのは、癪だったから……」
梨子「……あなた、おかしいわよ」
千歌「分かってもらおうなんて、思ってないよ」
間髪入れずに、否定の言葉が返された。
千歌「でも、Aqours以外の人に事の成り行きをどうにかされるのは、癪だったから……」
梨子「……あなた、おかしいわよ」
千歌「分かってもらおうなんて、思ってないよ」
間髪入れずに、否定の言葉が返された。
千歌「梨子ちゃんには……ううん、誰にも分からないよ。目の前でメンバーを殺された私の気持ちは」
千歌「あの頃のように、一つのユメを追っていたワケじゃない。みんなバラバラになってしまった」
千歌「だってそうでしょ? 生まれた環境も育った環境も違う9人が大人になって、いつまでも仲良く出来るワケじゃない」
千歌「現に、今の私を梨子ちゃんが理解出来ていない」
千歌「ユメを掴んだ人と、ユメを諦めた人」
千歌「分かり合える筈、なかったんだよ……」
千歌「あの頃のように、一つのユメを追っていたワケじゃない。みんなバラバラになってしまった」
千歌「だってそうでしょ? 生まれた環境も育った環境も違う9人が大人になって、いつまでも仲良く出来るワケじゃない」
千歌「現に、今の私を梨子ちゃんが理解出来ていない」
千歌「ユメを掴んだ人と、ユメを諦めた人」
千歌「分かり合える筈、なかったんだよ……」
梨子「…………」
返すべき言葉が浮かんでは、喉の手前で消えてゆく。
善子が死んだその日から、或いはAqoursが優勝したその時から既に、彼女の頭のネジは外れてしまっていた。
それこそが、今回の事件の根幹だったのだ。
返すべき言葉が浮かんでは、喉の手前で消えてゆく。
善子が死んだその日から、或いはAqoursが優勝したその時から既に、彼女の頭のネジは外れてしまっていた。
それこそが、今回の事件の根幹だったのだ。
千歌「ねえ、梨子ちゃん」
千歌「私たちは、Aqoursは、輝いてたんだよね。あの日々は幻じゃ、なかったんだよね」
言いながら、彼女はポケットの中に手を突っ込もうとする。
その意味を知っていた私は腕を掴み、叫んだ。
梨子「幻なんかじゃない! 楽しいことも辛いことも、全部ひっくるめてあの日々があった!」
自分でもビックリする程、その声は熱量を持っていた。
千歌「私たちは、Aqoursは、輝いてたんだよね。あの日々は幻じゃ、なかったんだよね」
言いながら、彼女はポケットの中に手を突っ込もうとする。
その意味を知っていた私は腕を掴み、叫んだ。
梨子「幻なんかじゃない! 楽しいことも辛いことも、全部ひっくるめてあの日々があった!」
自分でもビックリする程、その声は熱量を持っていた。
梨子「私たちは確かに、輝きを掴んだ。私だって、あの日々の、千歌ちゃんのお陰で変わることが出来た!
梨子「千歌ちゃんと会えなかったら、スクールアイドルだけじゃない。今のユメだって、きっと諦めてた!」
梨子「それを、なかったことにしちゃいけないの!」
彼女のポケットから、隠し持っていたライターを力ずくで奪う。
梨子「千歌ちゃんと会えなかったら、スクールアイドルだけじゃない。今のユメだって、きっと諦めてた!」
梨子「それを、なかったことにしちゃいけないの!」
彼女のポケットから、隠し持っていたライターを力ずくで奪う。
千歌「…………」
千歌「そっか……そうだよね」
千歌「ありがとう、梨子ちゃん」
憑き物が落ちたように、彼女は笑った。
千歌「そっか……そうだよね」
千歌「ありがとう、梨子ちゃん」
憑き物が落ちたように、彼女は笑った。
千歌「……梨子ちゃんが来なかったら、このまま学校に忍び込んで死のうって思ってた」
少しして、不意に飛び出た言葉に私はぎょっとした。
梨子「怖いこと言わないでよ。千歌ちゃん、火をつけるつもりだったんでしょ? 服の上からでもライター持ってるって分かったんだから」
千歌「あ、バレてた?」
梨子「千歌ちゃんの考えることなんて大体分かるんだから」
傍から見れば物騒な会話。だが、5年ぶりに、私と千歌が心の底から笑い合える会話だ。
少しして、不意に飛び出た言葉に私はぎょっとした。
梨子「怖いこと言わないでよ。千歌ちゃん、火をつけるつもりだったんでしょ? 服の上からでもライター持ってるって分かったんだから」
千歌「あ、バレてた?」
梨子「千歌ちゃんの考えることなんて大体分かるんだから」
傍から見れば物騒な会話。だが、5年ぶりに、私と千歌が心の底から笑い合える会話だ。
千歌「でもライターは返して欲しいな。最後に、これだけは燃やしたいから」
反対側のポケットから取り出したのは、一枚の羽根だった。
くすんでいて、拾ってからかなりの時間が経っている。
元の色は分からなくなってしまったけれど……きっと、真っ白だったのだろう。
反対側のポケットから取り出したのは、一枚の羽根だった。
くすんでいて、拾ってからかなりの時間が経っている。
元の色は分からなくなってしまったけれど……きっと、真っ白だったのだろう。
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