元スレ梨子「5年目の悲劇」
SS+覧 / PC版 /みんなの評価 :
1 :
注意 死亡描写あり〼。
────6月某日。
ガタンゴトン ガタンゴトン
梨子「廃校、か」
沼津へ向かう列車の中。ボックスシートに腰かけ、窓の外を眺める。
SSWiki :http://ss.vip2ch.com/jmp/1495992464
2 = 1 :
千歌から受けたそのメールがキッカケで、私は久しぶりに内浦へ向かう。
梨子「(東京での生活が忙しくて、しばらく千歌ちゃんたちと会えてなかったのよね)」
Aqoursとして活動した1年間。
けれどもその日々は、私の青春の大半を占めていたような気がする。
内浦を離れた私は、東京でピアニストとして大成した。
あれから5年。皆はどうしているだろうか。
3 = 1 :
梨子「(私の知っている範囲だと確か、曜ちゃんは飛び込み選手を本格的に目指すようになって、花丸ちゃんは小説家志望)」
梨子「(ダイヤさんは家を継いで、鞠莉さんは小原グループのCEO)」
「もしかして、梨子ちゃん?」
4 = 1 :
そうそう。彼女は今でもアイドルを続けている。
梨子「久しぶり、ルビィちゃん。同じ列車だったのね」
ルビィ「久しぶりです」
5 = 1 :
芸能事務所に入ったルビィは、そこそこ名の通ったアイドルとして活動中。
つい先日も、元μ'sで事務所の先輩でもある矢澤にことテレビで共演したばかり。
芸能界におけるアイドルのイロハ等を教えてもらい、仲良くやっているそうだ。
それにしても……。
6 = 1 :
梨子「何と言うか、こう……個性的な恰好ね」
目の前に座るルビィが身に着けているのは、目立つ色のサングラスに100円ショップで売っていそうな使い捨てマスク。
聞けば、矢澤にこにオフの日に外出する際の変装のコツまで教えてもらったのだという。
もっともこれで人の視線を集めるな、という方が無理なのだが。
7 = 1 :
ルビィ「お姉ちゃんとはたまに連絡を取ってるけど、みんなと会うのは久しぶりだからな~」
梨子「そうね……。みんなどうしてるかしら」
ガタンゴトン ガタンゴトン
8 :
なんだゴミか
9 = 1 :
列車を降りて、私たちはバスに乗り換えた。
Aqoursの人気がピークに達していた頃は自分たちのラッピングバスも走っていたりしたものだが、流石にもう見かけない。
けれども、ルビィは兎も角、一緒にいた私にまでサインをねだる人に何回か遭遇したあたり、まだその熱は残っているらしい。
『次は~ 伊豆・三津シーパラダイス~ 伊豆・三津シーパラダイス~ 運賃をお支払いの際、お釣りは出ませんので……』
10 = 1 :
ルビィ「あれ」
梨子「どうしたの?」
ルビィ「細かいお金用意してなかったみたいで……」
梨子「確か、支払いの所で一緒に両替も出来た筈よね」
ルビィ「……」 フルフル
11 = 1 :
首を振るルビィ。小銭だけではなく、1000円札も用意していなかったらしい。
このバスで受け付けている両替は1000円札のみ。つまり、このままではルビィは料金を払えない。
梨子「困ったわね……ICカードも対応してないし、私も自分の分しか細かいのないし」
「ほら、これ」
すると、背後からいきなり小銭が差し出された。
12 = 1 :
ルビィ「え?」
梨子「あ……!」
曜「お久しヨーソロー!」
ルビィ「曜ちゃん!」
梨子「何でこのバスに?」
曜「今日の仕事が終わったからね~。それにメールを出したのが千歌ちゃんだから、きっと千歌ちゃん家に行くだろうって」
曜「だから十千万で先に待ってようって思ってたんだ。でも同じバスになったから、2人を驚かせようってね」
13 = 1 :
ルビィ「あれ、仕事って……」
梨子「水泳、今でも頑張ってるのね」
曜「あ、えーと……あはは」
曜「仕事って、パパの手伝いだよ。ほら、船乗り」
曜「だから、最近はあんまり泳いでないかな……」 アハハ
14 = 1 :
梨子「そう、なんだ……」
曜「うん……」
私はそれ以上、返す言葉が見当たらなかった。
……ルビィと共に衣装を作っていた曜の腕は、5年前よりもたくましい、無骨な船乗りのそれになっていた。
15 = 1 :
梨子、曜「「…………」」
ルビィ「あの、もう着いたけど……」
僅かな気まずさを残したまま、私たちはバスを降りる。
ルビィは後で小銭を返すと言うけれど、曜は別にいいと返す。
2人の譲り合いの決着は着かないままだった。
16 = 1 :
今回はここまで。ゆっくりペースで書いていきます。
17 :
曜ちゃんがすでになんか悲しい感じなんですが
19 :
曜ちゃんから漂う夢に破れた人感
20 :
すいません>>2が1文抜けていました
正しくは
『浦の星女学院の廃校が決定した』
千歌から受けたそのメールがキッカケで、私は久しぶりに内浦へ向かう。
梨子「(東京での生活が忙しくて、しばらく千歌ちゃんたちと会えてなかったのよね)」
Aqoursとして活動した1年間。
けれどもその日々は、私の青春の大半を占めていたような気がする。
22 :
金田一少年の雪影村モチーフかなこれ
23 :
ルビィ「全く変わってないなあ、この町」
純粋なルビィの感想に、私も心中で頷く。
バスを降りてすぐ漂ってきた潮の香りも、眩しいくらいに綺麗な海も、馴染みのある建物も。
何もかもあの頃のまま、懐かしい気分に駆られる。
24 = 1 :
「二人とも、来てくれたんずらね」
梨子「!」
聞き覚えのある訛り。振り返るまでもなく、それが誰なのか理解出来た。
梨子「花丸ちゃん、久し、ぶ……」
花丸「どうしたずら?」
……理解出来た、筈だった。
25 = 1 :
梨子「いや、その……」
ルビィ「お姉ちゃんから聞いてたけど……花丸ちゃん、本当に身長伸びたね」
Aqoursの中で一番背が低かった筈の花丸は、ざっと165㎝だろうか。私の背を追い抜いていた。
その点を除けば眼鏡をかけたThe・文学少女の清楚な佇まい。訛りが出るのは相変わらずらしい。
今は文学系の大学に進み、その傍らで執筆した小説を賞に応募しているそうだ。
26 = 1 :
花丸「ルビィちゃんは変わらないずらね~」
ルビィ「マルちゃん! 高校の頃からほとんど伸びなくて気にしてるのに……」
花丸「でも、ルビィちゃんはそのままでも可愛いずら」
ルビィ「うぅ~……」
矢澤にことよく共演する彼女は、「近い背丈に同じツインテールの仲良しコンビ、まるで姉妹だ」と言われることがある。
勿論双方に姉、或いは弟妹がいるため二人は笑って否定するのだが、どちらもまんざらでもなさそうだった。
……ルビィが身長のことを気にしているようなので、このことは口には出さないでおく。
27 = 1 :
梨子「ねえ、もしかしてみんな来てるの?」
花丸「鞠莉さん以外はもうみんな集まってるずら」
梨子「鞠莉さん以外?」
曜「あれ、梨子ちゃん聞いてないの? 鞠莉ちゃん、いま海外にいるって」
梨子「あー……」
ホテルチェーンを主軸としていた小原グループは、今や様々な事業で世界に進出する大企業だということは知っていた。
なるほど。その若きCEOともなれば、日本に居なくても何らおかしくない、か。
28 = 1 :
梨子「何だか、遠い存在になったみたい」
無意識の内に、そんな言葉が口をついて出た。
29 = 1 :
────千歌の部屋。
襖を開けると、懐かしい顔ぶれと、まだ湯気が立っている8つの湯呑み。
善子「おっ ようやく来たわね。お茶、冷めちゃってるけど梨子のはそれ」
梨子「えっと……善子ちゃん? お団子やめたんだ」
善子「まあ、これでも社会人だしね。髪型もそうだけど、堕天使も卒業したわ」
30 = 1 :
荷物を置き、スーツに身を包んだ善子の隣に座る。
キャリアウーマンな風体の善子。堕天使ヨハネを名乗っていた頃のはっちゃけっぷりはすっかりナリを潜めている。
中二病卒業を機にリリー呼びも辞めてしまったのだろう、一抹の寂しさを覚えた。
31 = 1 :
ルビィ「お姉ちゃん!」
ダイヤ「久しぶりです、ルビィ。連日の仕事、お疲れでしょう」
ルビィ「慣れないことは多いけど、まだまだ元気だよ~」
ルビィに飛びつかれて微笑むダイヤは、以前よりも大和撫子という言葉が似あうようになっていた。
人気アイドルに抱き着かれようものなら黙っていない迷惑なファンはいるが、実の姉を咎める者は居ないだろう。
黒澤家当主としての風格はきちんと備えているが、妹と笑顔を交わす姉の姿は微笑ましさがあった。
32 = 1 :
果南「千歌も仕事が終わったら来るってさ」
気になったのは果南の恰好。長かった髪は短髪になり、何故か彼女も着物。それに……。
梨子「果南ちゃん、その着物って確か、ここ(十千万)の……」
果南「そうだよ~。ここの仲居さんが着るものだね」
梨子「いや、そうじゃなくて……」
33 = 1 :
果南「潰れたんだ、ウチの店」
梨子「えっ……?」
『旅館の手伝いでもしているのだろうか』 そんな予想は、斜め上すぎる形で裏切られた。
34 = 1 :
果南「去年、経営難でね。それでも、ダイバーショップを諦められなかったからさー」
千歌「それで、ウチでダイビング一式の貸し出しとか、教室も開いて、果南ちゃんにインストラクターをお願いしてるんだ~」
千歌「あ、久しぶり、梨子ちゃん」
梨子「久しぶり……じゃなくて!」
ようやく現れた最後の役者、千歌。
だが、会えたことよりも先の話の衝撃が大きすぎてそれどころではない。
35 = 1 :
果南「お仕事終わったんだね。お疲れ」
千歌「この時期はお客さんが少ないからね~。楽でいいよ」
果南「というわけで今はここに住み込みで、何もない日は旅館の業務を手伝ってるよ」
千歌「果南ちゃんの作る海鮮料理、お客さんにもすっごく評判が良くてさ──」
梨子「はぁ……」
空白の5年の間に、そんなことが起こっていたなんて。
本人はあっけからんとしているものの、何かが隠しきれていないように見えるのは……髪型が変わったせいだけではないのだろう。
36 = 1 :
千歌「とにかく、こうして9人集まったワケだし、暗い話はナシでいこうよ」
ルビィ「9人?」
梨子「鞠莉さんは居ないんじゃ……」
善子「いるのよ、ここに」チッチッチッ
指を振りながら、善子が取り出したのはタブレット端末。
37 = 1 :
善子「生憎と音声オンリーだけどね。CEOにこの時間空けておけって伝えてあるから」
梨子「どういうこと……?」
曜「善子ちゃん、いまは鞠莉ちゃんの会社で働いてるんだよ」
ルビィ「そうだったの!?」
善子「そうよ。というか、二人とも知らなかったのね」
38 = 1 :
自慢げに見せてくれた社員証は、確かに彼女が小原グループに所属していることを証明するものだった。
善子「日本支部の担当は違う人だけれど、鞠莉が雇うように直接人事に掛け合ってくれたのよ」
花丸「大学受験に失敗してしばらくやさぐれて、鞠莉さんに拾われるまでゆーちゅーばーしてたずら」
善子「それは言うなずら丸!」
39 = 1 :
鞠莉『Ciao~♪』
果南「お、繋がったね」
電話越しの元気そうな鞠莉の声は、あの頃と変わっていなかった。
遠い存在、そう思っていた自分が馬鹿らしくなって来る。
40 = 1 :
鞠莉『久しぶりにAqoursが集まるってヨハネから聞いてたからね。もうみんな揃ってる?』
善子「揃ってるわよ。あとヨハネはやめてって言ったでしょ!」
鞠莉『私はそのままでいいってずっと言ってるのに。それに、前みたいにマリーって呼んでくれなくなったし』ムッスー
花丸「流石に、善子ちゃんも社長さんにそんなことは言えないずら」
曜「いよっ、CEO!」
囃し立てられる鞠莉が照れているのは、端末越しでも明らかだった。
41 = 1 :
梨子「あの……鞠莉さん」
鞠莉『その声は梨子ね。What? どうかした?』
梨子「浦の星が廃校になるって、本当なの?」
鞠莉『…………』ハァ
42 = 1 :
Aqoursの活動により、入学者が増えた筈の浦の星女学院。
けれどもそれは一時的なものに過ぎず、Aqoursの解散後はすぐに低迷。
行政等の関与もあり、今年度をもっての廃校は避けられない……。
“元“理事長の口から語られた現実は、あまりにも無情だった。
43 = 1 :
鞠莉『校舎だけでも何かの形で残せないかって思ってるんだけどね……』
ダイヤ「それについては、いずれじっくり話しておきたいところです」
鞠莉『ダ~イ~ヤ~?』
ダイヤ「失礼」コホン
梨子「……?」
どういうことだろう。黒澤家は小原グループと何か関係があるのか、或いは内浦に根付く黒澤家だからなのだろうか。
44 = 1 :
果南「そういえば鞠莉、日本にはいつ帰って来られそうなの?」
鞠莉『来月の末くらいかな。今そっちに建ててる施設がもうすぐ出来上がるから、それの視察も兼ねてね』
ルビィ「施設?」
鞠莉『Yes♪ 高原の別荘をテーマにした、新しいリゾート。景観を壊さないように、麓からロープウェイで繋いだのよ』
45 = 1 :
善子「私もそっちで忙しいのよね……。8月にはお披露目させたいって、結構な無茶だったわ」
鞠莉『あら、不満?』
善子「イイエナンデモー」
46 = 1 :
千歌「ってことはさ、今度こそAqoursのみんなで集まれるんだよね?」
鞠莉『どうかしらね。TOKYOでお仕事してる二人次第だと思うけれど?』
梨子「私は次の公演がかなり先だから、休日ならいいけれど……」
ダイヤ「ルビィ、お仕事の方は大丈夫ですの?」
千歌「あー……」
47 = 1 :
引っ張りだこのルビィは、空いている日を見つけることが難しい。
それでも、9人再集結を夢見て(主に千歌の)期待の眼差しがルビィへ向かう。
視線を受けたルビィは、「ちょっと待ってて」とスマホの画面との睨めっこを始めた。
48 = 1 :
ルビィ「あの……鞠莉さんが来るのって、7/30、31ですか?」
鞠莉『ん~……決まってるワケじゃないけれど、そこなら都合がいいワケね?』
ルビィ「はい!」
鞠莉『OK♪ 他のみんなはそれでいいかしら?』
鞠莉の問いに、ほぼ全員が肯定する。
唯一「まだ予定が分からない」と答えたダイヤも、善処すると付け加えた。
49 = 1 :
鞠莉『決定ね。折角だから、Aqoursの復活として特番でも組みたいところだけれど……』
ダイヤ「また貴女は唐突な……」
ルビィ「流石に厳しいと思うけど……」
鞠莉『そこはNo problem♪ 小原グループのコネを侮って貰ったら困るわ』
当日をお楽しみに。そう言い残し、鞠莉は電話を切ってしまった。
50 = 1 :
善子「……あとで集合場所聞いてメールするわ」ハァ
鞠莉なら本当にやりかねない。
頭を抱える善子に、少し同情した。
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