元スレ女「人様のお墓に立ちションですか」
SS+覧 / PC版 /みんなの評価 : ○
151 :
明日続きを書きます。
あと次回予告2,3回分くらいの予定です。
152 = 150 :
待ってます
153 = 151 :
男「今日何の日か知ってる?」
女「あなた風に表現すると、自分が幸せかどうか結果発表される日ですか」
男「俺がいいそうだな。そう、クリスマスイブだ」
女「今幸せですか?」
男「幸せかどうかでいうと地獄」
女「不幸突き抜けましたね」
男「小学生のの時から少年漫画を読んで、ヒロインと青春物語を繰り広げる様々なヒーローに憧れて俺にもこんな冒険が待ってるのかなって思ってたけど」
男「クリスマスイブに寝袋でお墓に寝てる未来はさすがに想像してなかった」
女「クリスマスイブに寝袋でお墓に寝てる主人公の少年漫画があったらぜひ読んでみたいです」
男「ヒロインからは先日振られちゃったけどな」
女「……あーそうですか。残念ですね」
男「痛っ!寝袋踏んでる!」
154 = 151 :
男「なんだか、この前の話を聞いてからクリスマスの意識が変わったな」
女「この前の話?」
男「24日の日没から25日までの日没がクリスマスだってはなし」
男「今は24日の深夜だからまさにクリスマスイブだろ。だとしたらクリスマスはあと18時間くらいで終わっちゃうってことだ」
女「終わったっていいじゃないですか」
男「どうして人はクリスマスになると焦るんだろう」
女「何かやり残した気がするからじゃないですか。とりわけ、美しいイルミネーションに囲われると、この景色に見合う自分でなくてはならないと」
男「ここお墓だから。今の俺にはまさにお似合いだな」
女「お墓はいつもと同じですね」
男「飾り付けでもするか。虹色に光る豆電球でお墓をデコろう」
女「そうしましょっか。あなたが最初に小便かけたお墓にでも」
男「もはやとめないのな」
女「いいじゃないですか。今日は最高の不謹慎日和って感じがしません?」
155 = 151 :
男「お墓からあんたと出るの初めてだな」
女「そうですね」
男「この3日間何してたんだ」
女「お墓から出ていました」
男「どこにいってたの?」
女「尾行していました」
男「誰の?」
女「お墓に花を供えてくれる人」
男「例の墓か。てっきりあんたが供えてたのかと」
女「私は逆ですよ。あの花を撤去していました」
男「恨んでるやつに墓が供えられてるのが気に入らないからか」
女「そうです」
男「あんた俺より不謹慎かもな」
女「そんな誉めなくても」
男「そういう風には見えないんだけどなぁ」
女「見えるかどうかと実際どうかは違いますからね」
156 = 151 :
男「コンビニついた。何か食べたいものある?」
女「食欲は全然ないです」
男「夜にケーキ食べるとふとっちゃう~、みたいな乙女心とか?」
女「食欲の前に、お金を持ってないんです」
男「今日は俺の奢りだ」
女「いつもわるいですよ。ここで待ってますから、好きなものを買って下さい」
男「外で待ってたら寒いだろ。中に入れよ」
女「えっ、でも」
男「いいからいいから」グイッ
女「わ、わかりましたわかりました」
157 = 151 :
店員「いらっしゃいませー」
男「ケーキと、シャンパンと、ろうそくと、デコレーションを買おう。火はこの間花火で使ったライター持ってる」
女「豪華ですね」
男「でもデコレーションはパット見売ってなさそう」
女「しょうがないから食べ物だけにしましょうか」
158 = 151 :
男「これで全部だな。じゃあちょっと買ってくるから待ってて」
女「はい」
女「…………」
女「少し立ち読みでもしてましょうか」
女「あっ、この漫画最新巻出てる」
女「懐かしいな。へー。やっと舞台が新しい街に移ったんですね」
女「へー。へー」
男「買う?」
女「わっ。びっくりした」
男「買う?人生救ってもらったお礼に」
女「いつも漫画は、古くなった巻の立ち読みを古本屋でしてるので」
男「それじゃあ最新巻読むのずっと先になっちゃうよ?」
女「そ、そうですけど」
男「はい。お金は出世払いでいいから」
女「払えませんよいつまでたっても」
男「墓ニートじゃあるまいし。はい」
女「…………」
159 = 151 :
男「グルメ漫画?」
女「そうです」
男「食べ物は食べないのに」
女「まぁ、今は…」
男「夜中だもんな。ほら、買ってきな」
女「あの、男さん」
男「どうした?」
女「私の代わりに…」
女「いや、失礼ですよね。はい、買ってきます」
男「ん?」
女「買ってきます!」
男「おう、買ってらっしゃい」
160 = 151 :
男「意外な趣味を知れたな」
男「というか、かっこよく奢ってるけど、全部お母さんから貰ってるお小遣いなんだよなぁ」
男「そのお小遣いもお父さんの給料からだし」
男「今思えば、お父さんってすごいよな。家ではあんなんだけど」
男「あいつの家族ってどんな感じなんだろ」
男「深夜に女の子が一人でお墓に来れるってことは、やっぱりあまり心配されてないんだろうか」
男「うちの親はそもそも俺が外出してることに気づいてないみたいだけど。でなけりゃあの母さんが俺に説教してくるはずだもんな」
男「さりげなく聞いてみようかな。単にあいつもこっそり抜けてるだけかもしんないし」
男「どんな性格のお父さんとお母さんなのか…」
店員「うわぁああああああああ!!!!」
男「何だ!?」
161 = 151 :
女「!」
タッタッタ…
男「ちょ、ちょっと待てって!一体何が!」
店員「て、て、……!!」
男「どうしたんですか!?」
店員「て、てが、てがすり……」
男「手が?」
店員「お、お釣りわたそうとしたら…」
店員「手が、すり抜けて……」
男「手がすり抜けた!?」
店員「か、監視カメラ。店長にも電話しないと」
男「監視カメラの画像俺にも見せて下さい」
店員「き、君にはみせらんないよ。それと、け、警察も…」ブルブル…
店員「君は…あの子の知り合いなのか…だとしたら君も…」
男「おらっ!」バチ!
店員「痛いっ!」
男「んなわけあるか!」
店員「ご、強盗…!幽霊と強盗!」
男「これはまずい…」
162 = 151 :
男「…………」
女「…………」
男「それ、俺の寝袋なんだけど」
女「…………」
男「お金、落としてたから置いとくね」
女「いりません。返せません」
男「出世払いでいいから」
女「…………」
男「あ、いまのはこの世から出るって意味ではなくて!」
男「募金ってこと!!」
男「あ、墓にお金じゃないよ!墓金って言ってるんじゃないよ!」
女「ゲームのデータ全部消してもいいですか」
男「それはダメ!!!!それは絶対ダメ!!!!」
女「あなたはいつもと変わりませんね」
男「あのさ、店員の人が驚いてたこと、本当なの?」
女「何が本当なのでしょう」
男「君の手がすり抜けたってこと。あのさ」
男「君って、幽霊なの?」
163 = 151 :
女「どう思います?」
男「どう思うって」
女「釣り銭渡す時に手しっかりつけてくる店員の人」
男「あっ、そっち?」
男「俺はさ、気にし過ぎかもしんないけど、店員が女性でお釣り渡してくる時に一切手を触れないように返されるとちょっと傷つくかも」
男「自分が女で、男の店員が手を触れさせてきたらちょっと嫌かもなぁ」
女「女の人は全然気にしてませんよ。店員の立場でも客の立場でもたいてい気にしてません。友達もそう言ってました」
男「じゃあニギニギしてもいい?」
女「そういう人がたまにいて気持ち悪いという話題でした」
男「ごめんなさい」
女「反省して下さい」
男「…………」
女「やっぱり、そうなんですかね」
男「ん?」
女「私、幽霊なんですかね…」
男「あ、自覚症状そんな感じなんだ」
女「いつも真夜中の墓地から一日が始まるんですもの」
女「しかも手も擦り抜けますし」
男「どれ」ピタ
女「ちょ、ちょっと」
男「触れるぞ」
女「触れてますね」
男「…………」
女「…………」
男「…………」
女「…………」
男「…………」
女「…………」
男「さ、触れるぞ」
女「さ、触れてますね」
男「は、はなすぞ」
女「は、はい。女だから全然気にしませんけどね」
164 = 151 :
男「姿は店員からも見れる」
女「はい」
男「漫画も持てるし線香花火もできる」
女「できます」
男「俺以外の人に触れる?」
女「さわれません。あなたにも会う以前に、人にうっかり触れてしまったことがあるんです。というより、触れそうになったのに擦り抜けてしまいました」
男「だから最初俺のこと殴った時にあんなに驚いていたのか」
女「触れたことに対する驚きもありますが、あなたの頭の硬さに驚きました」
男「誰が石頭だ」
女「痛かったですよ」
男「頭と手は触れるみたいだな。ふともも付近はどうなんだろう。へその下らへんとか」
女「触ってみますか?」
男「そうだな。ためにし触ってみてくれ」
女「グーで叩いてみますね」
男「ごめん。セクハラごめん」
165 = 151 :
女「私、死んじゃったんですね」
男「だけどこうして話してる」
女「あなたも死んでるんじゃないですか」
男「ははは。まさか」
男「…………」
男「えっ!!?」
男「だ、大丈夫だよ!店員も殴れたし!」
女「なんてことしたんですか」
男「監視カメラにもばっちりとられた」
女「暴行の容疑で捕まっちゃいますよ」
男「何が膀胱だ!俺が立ちションしたことは誰にも知られないはず…」
女「ぼうこう違いです」
166 = 151 :
女「私のせいで、男さん捕まっちゃうんですかね」
男「ちょっとはたいただけだから。先っちょだけだから」
女「とか言って思いっきり叩いちゃったやつですね」
男「それよりあんたこそ、夜7時のテレビの心霊動画特集に出されてスタジオで悲鳴あげられるぞ」
女「いつもは悲鳴上げる側だったのに。自分が悲鳴あげられると思うと地味に傷つきますね」
男「でも誰も信じないけどな」
女「そうですね。でも私が毎晩ここに出現するのがばれたら観光名所になってしまいます」
男「線香花火でも販売して一儲けしようかな」
女「不謹慎ですから誰もやりませんよ」
男「興味本位で幽霊見に来てるくせに」
女「まったくですね」
167 = 151 :
女「今何時ですか?」
男「3時よりちょっと前」
女「いつも丑三つ時あたりに出現して、明け方あたりに意識が途絶えるんです」
男「寝てるだけじゃないの?」
女「まさか」
男「俺てっきり、紫外線に凄く弱い体質なのかと思ってたりもした」
女「太陽を浴びたら死ぬか、死んでるから太陽を浴びれないかの違いです」
男「大きい違いだな。なんで昼間は意識が途絶えるんだろう」
女「私が昼間を拒んだからじゃないですか」
女「死ぬときのこと、うっすら覚えているんです。まだやり残したことがあるって。でもそれを成し遂げたくないって」
女「だから一時的にこの世に戻ってこれたけど、誰もいない夜中限定になったんじゃないですか。なんて、荒唐無稽ですね」
男「深夜のラブレターだな」
女「深夜のラブレター?」
男「昼間に考えた方がいいのに恥ずかしくてできなくて、夜じゃないと恥ずかしくて書けない」
男「極めて人間の摂理に則った地縛霊なんだよ」
女「ふむふむ…」
男「だろ?」
女「地縛霊って言い方より、幽霊って言い方のほうがかわいいです」
男「おかしな所にこだわるな」
168 = 151 :
男「どうして俺のことは触れるんだろう」
女「似た者同士じゃないからですかね」
男「似たもの?」
女「死に近い所」
男「やめろって」
女「たかが青春に失敗しただけのあなたですが、夜中に墓標に立ちションするくらいに追い詰められていたじゃないですか」
女「死の淵にいたんですよきっと。あなたなりの自傷行為がすでにはじまっていたんでしょう」
男「なるほど……確かにこんな話を聞いたことがある」
男「死にたいと思った時に、女の子はリストカットをするけれど、男の子は身体を傷つけるようなことはしない」
男「ただしめっちゃオナヌーをして発散しようとする」
男「ははは!!死にたい時に、女は自傷行為、男は自慰行為ってか!!やることは正反対じゃないか!!痛っ!」
女「あ、やっぱり叩けるんですね」
男「シモネタが嫌ならそう言って」
169 = 151 :
女「それともう一つ判明してるのが、食べ物には興味が無くなったということです」
男「もしかしてずっと食べてないのか?」
女「そうですね。食欲がまったくわきません。もちろん水分補給も必要ないです」
男「じゃあ!!じゃあ一緒に立ちションできないじゃん!!!」
女「すると思ってたことに私が驚いています」
男「このケーキどうおもう?」
女「なんとも思いません。ふでばこを差し出されて『食べる?』って聞かれてるような感じです」
男「体力とかはどうなってる?全力で走り続けられる?」
女「それは生前と変わりません。疲れて息切れします。空を飛んだり、浮遊することもできません」
女「思うに、大きく2つのことを制限されているのでしょう」
女「生きるために必要な行為。人に触れる行為」
女「だから睡眠も必要ありません。まぁ消滅してること自体が睡眠代わりなのかもしれませんが」
男「でも今寝袋にくるまってる」
女「寝袋に人がくるまりたがるのは寝るためではありませんよ。寝袋にくるまりたいからです」
男「深い」
170 = 151 :
男「物理学研究所とかにつかまったらエラいことになるな」
女「実験材料にされちゃいますね」
男「ものは触れる。でも人はすり抜ける」
男「でも人は衣類というものを身に付けているだろう?だったらコートや手袋に触れることはないのか?」
女「できないみたいです。誰かが脱いだコートには触れられるのですが」
男「壁を人間だと思いこんですり抜けることは?」
女「抜けれません」
男「確かに俺も性欲が凄い時期に弥勒菩薩半跏思惟像を裸の女だと思って抜こうとしたけどできなかった」
女「発想がずば抜けていることは認めます」
171 = 151 :
女「私も色々実験してみました」
女「椅子に座っている人の椅子には触れられるけど、コートだとすり抜けてしまう」
女「小学生の帽子を持って被せてあげると、被せた感触がわかりそうになるあたりで擦り抜けてしまう」
女「人のお腹に顔を突っ込んでみても、身体の内側が見れるわけではなく真っ暗になる」
女「つまるところ、人の感触を感じる行為が必要ないとされているのでしょう」
女「生前の私が生きてきた世界というデータを体験してるといえばいいのでしょうか」
男「ゲームの世界に紛れ込んだバグのような存在かもな。女湯の建物に主人公がめり込んだことあったけどやっぱり視界は真っ暗だったよ」
女「それは残念でしたね」
172 = 151 :
男「気になってたんだけどさ。もしかしてあのお墓って」
女「はい。私のお墓です」
男「勘違いとかじゃない?」
女「フルネームも一緒ですし、確かに死ぬ前はこの街にいましたから」
男「どうやって死んだか覚えてる?」
女「あっ、死ぬなって思って、本気を出せば死ななくて済んだんでしょうけど、やる気が起きなくてそのまま死んじゃいました」
男「なんだそりゃ。やる気出せよ」
女「夏休みの宿題をちゃんとやらないあなたに言われたくないです」
男「もともと死にたかった人間に、死ぬ機会が訪れたって話だろ。電車に飛び降りて死ぬ人も、その日たまたま1番前に立ってたから飛び降りたわけで、二番目に立ってたら死ななかったんじゃないかなって思うよ」
女「私だって、自分に自殺願望があったとは思いませんでした。ただ、とても疲れていたんです」
女「こうやって地縛霊になってるからには、この世に強い執着があったのでしょう」
女「あの時ああしておけばよかったという後悔は一生抱えるほど強いエネルギーを持っているのに、それらを実行することはさらに強いエネルギーが必要なんですね」
男「俺の先日の告白もそうだったな。うちの親父も学歴コンプレックスなんだけど、学生時代はあまり勉強しなかったらしい。母さんも、痩せたいと言ってる割にはよくお菓子を食べてるよ」
女「程度の差こそあれ、みんな同じ気はしますね。幸せになる方法はわかっているのに、その方法を実行できないところ」
173 :
あけましておめでとうございます。
明日続きを書きます。
174 :
あけおめ
ことよろ
175 = 173 :
男「これは、君の名前だったんだね」
女「そうです。決して、尿を飲むのが趣味のあなたの友人ではございませんでした」
男「はは、そっか。俺、あんたの墓標に立ちションしてたんだな」
女「そうですね」
男「なぁ、女さん」
女「な、なんですか」
男「本当に、ごめんなさい」
女「謝らなくてもいいですよ」
男「ううん。本当に、申し訳なかった」
女「私は私のお墓に愛着なんてまるでありませんでしたからね。自分で自分を成仏させるためにナンマイダを唱えていたくらいですもの」
男「謝りたいんだ。許されなくてもいいから」
女「だから許すも何もないですって。自己満足のためですか?」
男「自分のためだ。でも、満足なんてしない」
女「やっぱり悪いことはしちゃだめなんですよ。放尿なんてもってのほかです」
男「すまなかった」
女「もういいですって」
男「うん……」
女「丑三つ時で誰が見てなくとも、自分が見ているんですからね」
男「うん……」
女「わるいことは自分に跳ね返るんですよ」
男「うん……」
女「尿だけに!なんちゃって!」
男「うん……」
女「もう!!」バシッ!
男「痛っ!」
176 = 173 :
女「これで終わりにしてあげます」
男「……もっと叩いて欲しい」
女「いつもなら『もっと叩いてくださいまし!』ぐらいの勢いがありましたよ」
男「もっと叩いてくださいまし」
女「叩きません」
男「そうか」
女「代わりに、背中をさすってあげます」
男「…………」
女「男さんは、凄いですね」
男「凄いところなんてないよ」
女「ごめんなさいが言える人です」
女「あなたの人生の後悔の原因が"好き"の一言を言えなかったに集約されるのだとしたら」
女「私の人生の後悔の原因は"ごめんなさい"の一言を言えなかったことに集約されます」
女「男さん、あなたは線香花火の火の玉になんと願いを込めていましたか?」
男「あの子との過去が精算されますようにって。好きだという未来は考えてもいなかった」
女「そうだったんですか。実は私も、自分の抱えてるものについて願いを込めていたんです。こんな風に」
女「私の陰湿な嫌がらせが原因で学校を辞めてしまった先生に、謝りたい」
177 :
先生をいじめてたのお前かよwww
178 :
男「女が!?だって、尊敬してたって……」
女「私の墓にお花を供えてくれる人、誰だと思います?」
男「女の家族じゃないのか?」
女「私には血の繋がった家族はもういないんです。中学生のある時期からは継母と、彼女の恋人の男性と3人で生活を送ることになりました」
女「実母がなくなった後に実父が再婚した相手が今の継母です」
女「最初は3人で暮らしていたのですが、二人の口論がやがて増えるようになりました。実父は心の病になって、二人は離婚をしました。実父が今どこにいるのかは知りません」
女「親戚も祖父母の家も私を預かれる状況ではありませんでした。私は赤の他人の男女の家に転がり込むような状況になったんです」
女「暴力こそふるわれないですが、継母から疎まれているのはありありとわかりますよ。自分を嫌っている大人に生活の面倒を見てもらう後ろめたさったら、凄いストレスなんです」
男「そのストレスがどうして先生に向けられたんだ」
女「先生にお願いしたんです。私の、お母さんになってくれませんかって。先生の家に住まわせてくださいって」
女「そんなことはできないと言われました。まぁ、当たり前ですよね」
女「そのあたり前のことが許せずに、私は先生を追い込むことばかり考えるようになりました」
女「男性関係についてあることないことを言いふらしました。いや、ないこと尽くしでしたね。ですが、ただでさえ美しい人でしたから、その悪評の真偽を確かめずに楽しもうとする女子生徒も、女性の教員も数多くいました」
179 = 178 :
女「男さん。人が恨むのって、どういう相手に対してだと思いますか?」
男「嫌なことをしてきた人?」
女「やさしくしてくれた人です」
女「今まで与えてくれていた人が、与えてくれなくなった時に、どうして与えてくれないんだと恨んでしまうんです」
女「ここで男さんの質問に戻りましょう。私の墓にお花を供えてくれる人は誰なのか。そして、あなたが寝袋にくるまって待ってくれていた三日間、私は何をしていたのか」
女「お花をくれたのは私の同居人ではありません」
女「私は事実の意味を受け容れきれずに、お花を捨てていました。私なんかが受け取ってはいけないという気持ち、今更やさしくしてくれることに対する恨みの気持ち、また花を買って供えてきてくれるのでないかという歪んだ期待の気持ち」
女「夜中の3日感を費やして、その人の家をなんとか見つけることができました。もともと、昔近所まで行ったこともあったので」
女「けれど、怖いですね。おかしな言い方になりますが、それこそ死ぬほど怖いです」
女「いつでもできたんですよ。でも、ずっとやってこなかったんです。謝ることも、真実を尋ねにいくことも」
女「夜中にお墓に放尿してまで現実から目を背けていた人が、現実と向き合うのを見て、私の中の何かが観念してしまったんでしょう」
男「それじゃあ」
女「はい。私の墓にお花を供えてくれた先生に、謝りたいです。そして、何を考えていたのか、聞きたいんです」
女「男さん。来てくれるだけでいいんです。私と、一緒に先生の家まできてくれませんか?」
男「断る理由なんかない。幽霊部員のかよわい女の子を、ちゃんとエスコートしてあげないとな」
女「男さん……!」
男「よっしゃ。次は、あんたの日記を修正する番だな!」
180 = 178 :
よろしくの一言が言えなくて、春。
すきですの一言が言えなくて、夏。
さよならの一言が言えなくて、秋。
ごめんねの一言が言えなくて、冬。
大丈夫。
大丈夫だよ。
きっと、大丈夫だよ。
全部、大丈夫になるよ。
P.S.
駄目でも、僕がそばにいてあげる。
次回「あ、あの!私一月近くお風呂に入っていないんですよ!」
たとえ何もかもが手遅れであったとしても。
好きとごめんの一言だけは、言う価値のある言葉なんだ。
181 = 178 :
男「…………」
男「…………」
男「…………」
女「こんばんわ」
男「うわっ!!!!」
女「大きな声出さないでくださいよ」
男「1時53分!!丑三つ時まであと7分!!ちょっと幽霊が出るには早いぞ!!」
女「遅刻するよりいいじゃないですか。私が出現したのってどんな感じでした?」
男「気づいたら目の前にいたって感じ」
女「それにしてもやっぱり頭がぼんやりします。生きてた頃の起床後の感覚ほど寝ぼけてはないですが」
女「それよりも動画は撮影していましたか?」
男「そうだ!早めにまわして置いてたんだよ。見てみよう!」
男「再生……ちょっと早送りして……この辺だな」
女「うわぁ、我ながらドキドキします…」
男「もうそろそろかな……」
女「…………」
男「…………」
女「キャッ!!!」男「うぉっ!!!」
男「めっちゃびびった!!!」
女「い、いきなり現れましたね!!!」
男「ちょ、ちょ、もう一回みてみよ!」
女「はい!」
男「再生!」
女「…………」
男「…………」
女「出た!!」男「おわっ!」
女「すごい!!本物の心霊動画ですよ!!」
男「すげぇえええええ!!!まじか!!!」
女「本当どうなっているんでしょう。出現空間にも元素が存在するはずなので摩擦が生じると思うのですが…」
男「俺の寝てる寝袋の中に出現しないかな」
女「意地でもしません」
男「にしても本当にびびった。もう夜中に一人でトイレ行けないよ」
女「どの口がいいますか」
182 = 178 :
女「やはり出現は丑三つ時周辺ですね」
男「困ったな。先生はさすがに寝てるだろうし」
女「私がインターホン押して呼びかけたら飛び起きてくれますかね」
男「ドアの覗き穴から亡くなった生徒が立っている姿が見えた時の先生の心情を10字以内で答えよ」
女「怖い漏れそう」
男「立ちション仲間が増えるな」
女「私なら絶対ドアを開けませんね。叫んで近所に助けを求めながら110番と119番に電話するレベルです」
男「やはり俺の出番か」
女「どうするんですか?」
男「ピンポーン。宅配便でーす」
女「それこそ暴漢か何かだと思われますよ」
男「ちわー、三河屋でーす」
女「夕方だと騙す作戦ですか」
男「深夜2時にいきなり訪れてもドアを開けてくれるシチュエーションって存在する?」
女「一人暮らしの女性ならまず開けないでしょうね」
男「彼氏と同棲してたら彼氏を利用できないかな」
女「うーん、どうなんでしょうか。ずっと同じところに住んでいるので結婚はしてないみたいですが」
男「もしも情事に耽ってたら近所の住人のふりして、おいうるせーぞ!!って怒鳴り込みにいく口実ができる」
女「そのあと私が現れて過去の過ちを謝罪すると」
男「駄目かぁ」
183 = 178 :
男「朝は何時までいられるんだ」
女「朝日が登っているのは見たことがありません。男さんと別れてからいつも30分ぐらいだと思います」
男「4時台か5時台かな。今日測ってみよう」
女「やはり消滅しているんですかね。朝方無理やり起こして話せたとして、話の途中に消滅したくはないです」
男「今まで消える所見ておけばよかったな」
女「現れるところも消えるところも今まで見られたことありませんでしたね」
男「寝袋で待ち伏せてた時は基本ゲームやってたからな」
女「三日間待っててくださったんですよね。正直初日は気づきませんでした。2日目は、気づいたんですが涙を飲んで無視しました」
男「するなよ!」
女「だって泣いてたんですもん」
男「…………」
男「泣いてるときこそだよ……」
女「猛省してます。ですが私も、ちゃんと行動で示そうと思ったんです。自分一人でできることは、自分でやっておきたいって」
男「今日は罰として、消えるまでの待ち時間色んなグラビアのポーズしながら撮影させてもらうからな」
女「撮影はもういいです!」
男「じゃあグラビアポーズだけか」
女「本当にやり始めたら止めるくせに」
男「ちっ、ちっ、まだ俺の事わかってないな」
女「じゃあ教えて下さいよ。残りの1週間で」
男「おじさんが何でも教えてあげよう」
女「はい」
男「……残りの1週間?」
女「どうかしました」
男「残りの1週間ってなんのこと?」
184 = 178 :
女「そうですね、言われてみれば……」
男「一週間後には何がある?」
女「うーん、まぁ年末ですよね」
男「走れば疲れるし、物を触れる幽霊を、自分意以外に見たことはある?」
女「ないですよ」
男「もしもさ。女以外にも、この世に未練を残して、たまたま地縛霊になれた人がいたとしてさ」
男「その人達で現代が溢れかえらないのは、消滅していくからじゃないのかな」
女「期間限定ってことですか?」
男「そういうことだ」
女「……1つだけ確信していたことはあるんです」
女「もしも、あの人に謝罪することができたなら、私は成仏するということです」
女「謝りたいけど会いたくない気持ちで一杯で、このお墓に毎晩しがみついて」
女「ある日突然不審者が現れて、くだらないやりとりに巻き込まれて、久しぶりに心の底から笑ったりもして」
女「でもそれは私が"生きてて"いい理由にはならない。私はなすべきことをなすためにこの世にしがみついているんだって」
女「その期限がもしかしたら、12月31日なのかもしれません」
185 = 178 :
女「生きることは時間との戦いです。夏休みの宿題に期限があるのも、人間に寿命があるからなんですよきっと」
男「だとしたら、なおさら早くしないと」
女「そうですね。このままでは死んでも死にきれません。まぁ、今がまさにその状態なのでしょうが、今度こそ本当に」
女「けれど、それだけでは無い気がするんです」
女「信心深くは無い私ですが、神様のような大きな存在が、私に何かを気づかせようとしているのかもしれないって」
女「私、男さんを初めて殴ったあの時から、自分が幽霊だってことを隠そうとしたんです」
女「自分が死者だとわかった日からは、出来る限りひと目につかないようにすることを意識していました」
女「しかし、生者だけには触れられない存在としてこの世に縋りついてる自分に嫌気がさして、ちょっと自暴自棄になっていたんです」
女「だから、あなたにもつい話しかけてしまいました。『人様のお墓に立ちションですか』って」
女「あなたに触れられることがわかった時に、こう思いました。"この人と話しているときだけは、私は生者でいられる"」
女「やっぱり、生きていたかったんですね、私」
186 = 178 :
男「女……」
女「あなたに話しかけたこと、あなたが唯一触れられる生者であること。何か、意味があると思うんです」
女「残り数日間ではありますが、よろしくおねがいしますね」
男「……うん」
男「こちらこそ、よろしく」
女「すみません。なんだかしんみりしちゃいましたね。作戦会議の続きをしましょうか」
男「そうだな」
男「やっぱり、おっぱいムーン大作戦しかないのか」
女「……はい?」
男「俺が狼人間の真似をする。なんだなんだと近所中の人がでてくる」
男「今夜の満月はとびきりだぜ!!と俺は目を血走らせながら叫ぶ」
男「女の胸部を凝視してる俺に先生が気づいて一言」
男「それ、満月じゃなくて、おっぱいよ!」
男「ああ、なんだ、おっぱいか。そうして俺は人間に戻りすごすごとおうちに帰る。近所の人も、なんだおっぱいと勘違いしたのか、ガハハ、と笑って帰る」
男「先生だけがあんたに気づいて話しかける」
男「完璧じゃないか?」
187 = 178 :
男「いったぁああ!!!」
女「痛い!!!!!」
男「なんで殴るんだ!」
女「死者に殴られるあなたがわるいんです!!こっちが真剣に話してる時に何考えてたんですか!!」
男「一生懸命に作戦考えてやってただろ!」
女「そんな作戦通用しますか!」
男「うーーん……コートの上からだとちょっとわかりづらいなぁ」
男「あー、でもやっぱり満月と勘違いするにはちょっと……」
女「次はグーで叩きますよ」
男「さっきもグーだったからね?」
女「でもあれですね、私が露出魔の被害に遭ってるふりして大声で助けを求めればあの人はでてきてくれるかもしれません」
男「その露出魔役誰やるの?」
女「感謝します」
男「できません!」
188 = 178 :
男「だったらあんたが双子の姉妹だって設定にするのはどうだ?」
女「深夜2時に遭う理由はどうしますか?」
男「勤務時間がどうのこうのって言えばわかってくれるんじゃないか」
女「自分に嫌がらせした生徒の姉のために丑三つ時に会ってくれますか?」
男「お花だって供えてくれてるんだろう?」
女「そうですけど」
男「そういえば、相手の家までどれくらい時間かかるんだ?」
女「昨日は明け方直前に見つけたのですが、そうですね、ここからだと走り込みで2時間くらいかと」
男「えっ!?そんな遠いの!?」
女「急行の電車でいえばここから3駅分の場所です。やはり夜中は交通機関がないので」
男「先生の家に直接出現できないの?」
女「お墓以外に現れたことありませんね」
男「セーブポイント一つだけか」
女「ゲームじゃないんですから」
189 = 178 :
男「だったらタクシーを当日呼んで」
女「お金がないですよ」
男「出世払いで。あっ、今のはこの世から出るって意味じゃなくて」
女「またそのネタですか」
男「でもこれこそ心霊タクシーになっちまうな」
女「お金のやり取りはもうしたくありません」
男「自転車に乗るのは?」
女「私の家にはもう自転車がなくて…」
男「二人乗りすればいいよ」
女「2時間分も大変じゃないですか?」
男「俺軽いから大丈夫だよ」
女「私が漕ぐんですか!」
男「だって……」
……
…………
………………
190 = 178 :
男「一通りグレイバープランの内容が決まったな」
女「初めて聞きましたその作戦名」
男「Grabe(墓)と勇者(Braver)を掛けてるんだよ」
女「もっとかわいい名前が良かったです」
男「作戦名チワワ、じゃ締まらんだろう」
女「ふふっ、いいじゃないですか、チワワ」
男「その場合の作戦内容はこうだな。さっきも話に出たが、俺が露出魔役をやり、俺が女の前でコートを広げて『こんにちわわ!!』って」
女「ぶふっ!!!」
男「…………」
女「…………」
男「…………」
女「笑ってないです」
男「吹き出したよな」
女「吹き出してないです」
男「こんにちわわ!!」
女「ぐふっ…!げふげふっ!!」
191 = 178 :
男「まぁくだらない話題は置いといて本題に戻るとして」
女「はぁはぁ…そうですね」
男「作戦名チワワについてなんだけど」
女「ぶふぉっ!」
男「…………」
女「吹いてない!」
男「下ネタで爆笑しているのを誤魔化している女とかけまして、年末になっても大掃除を終えてない人とときます」
女「なんですかいきなり」
男「その心は?」
女「うーん……」
女「ええ……答えは?」
男「どちらもふいてない」
女「…………」
女「ちょっと悔しい!」
192 = 178 :
男「窓ふきは丁寧にしましょう」
女「掃除機しか使わない人もいると思います!」
男「掃除機しか使わない人とかけまして」
女「!?」
男「さらに年末の競馬で走る馬と掛けまして」
男「さらに競馬場にいるおじさんとかけまして」
男「私とときます。その心は?」
女「ええええ!?」
男「5・4・3」
女「ちょっ!タンマです!!」
男「2・1」
女「すとっぷ!なんだろなんだろ」
男「いずれもカケルのが好き、でした」
女「…………」
女「ああ……」
男「私は2つの意味でかけるのが好きです」
女「えっ?」
男「いや、なんでもないです」
193 = 178 :
女「じゃ、じゃあ私からも!」
男「どうぞ」
女「ええと、ええと……そうだ!」
女「年末年始に実家に帰っている人と掛けまして、親のスネをかじってる男さんとときます。その心は?」
男「ええ、なんだ」
女「カウントダウン!!5・4!!」
男「墓ニーと関係あるのかな」
女「3・2!!」
男「ちょ、もしかして、あっ!!」
女「1!」
男「わかったわかった!」
男「あれだろあれ!」
男「どちらもキセイしています!!」
男「ふははは!!これが掛け王の実力よ!!」
男「はーっはっはっは!!」
男「ふっはっはっは……」
男「…………女?」
男「…………」
男「4時18分。思ったよりも早いな。ちゃんとメモしておかなくちゃ」
男「本来丑三つ時が2:00からの30分であることを考えると、長いって捉えてもいいのかな。まぁ、幽霊って言うより、ただの幽霊部員だからな」
男「…………」
男「女。あんたが消える前に、必ず先生の元へ連れて行くから。あんたに掴めないものがあったら、俺が代わりに掴むから」
男「残酷かもしれないけど、生きててよかったって、幽霊のあんたに最後にそう思ってほしいんだ」
194 = 178 :
男「早く乗って!」
女「はぁ…!はぁ…!」
男「お待たせしました!出発して下さい!」
運転手「こんな時間に予約までしてなんかあんの?始発の電車に乗っていけばいいじゃない」
男「うちの家族、ちょっとした宗教に入信していまして。年末が近くなると家族毎に深夜の3時に集会所にあつまってですね。父と母は泊まり込みで手伝いをしていて」
男「あの、全然危ないやつじゃありませんよ!無理やり勧誘したりもしませんので!大学の友達とかにもよく勘違いされちゃうんですけどね。あはは」
運転手「ああ、そう」
男「そうなんです。あはは」
女「…………」
運転手「…………」
男「そうだよなぁ、我が妹よ」
女「……そうだね、お兄ちゃん」
男「ごめん、ちょっと聞き取りづらかった」
女「そうだね、お兄ちゃん」
男「ごめん、もういっか……いてっ。やっぱり何でもない」
195 = 178 :
男「ありがとうございました!」
男「無事たどり着いたな。信じてたかはわかんないけど。車中無言で気まずかったなぁ」
女「あの」
男「どうした」
女「私、姉の設定だったと思うんですけど」
男「さすが、そこは上手くアドリブをきかせてくれたな」
女「シスコン」
男「違うって!妹が欲しかっただけで妹はいないからシスコンではない!!決してお兄ちゃんと呼ばれたかったわけでは」
女「はいはい。行きましょお兄ちゃん」
男「うおお!!いくぞおお!!!」
女「先行き不安です…」
196 = 178 :
男「ここから歩いて五分くらいだな」
女「男さん、具合が悪そうですが大丈夫ですか?」
男「ちょっと寝不足かもしんない。でも3時間後には寝れるだろうから大丈夫」
女「昼間に下見してきてくれたんですよね」
男「うん。他にも先生の連絡先を探したり、SNSのアカウントを特定しようとしたけど、どれも駄目だった」
女「徹夜してるじゃないですか」
男「お礼に寝袋で一緒に寝てくれてもいいんだぜ」
女「もう。でも、本当にありがとうございます。お化け騒ぎになってもいいから、ちゃんと目の前で謝ります」
男「うん」
女「あの……男さん。未だに不安なんです。例えば、もしも男さんの家族を殺した人がいるとして。その人が心の底から自分の罪を悔いて、数十年後に謝りにきたらどう思いますか?」
男「許せないって思う。反省しなくても許せないけど、反省するのも許せない。とにかく、苦しみながら死んでほしいって思う」
女「ストレートな物言いですね。苦しみながら死んでほしい、ですか」
女「でも、確かにそう思いますよね。この点で言えば、私は激しい痛覚とともに死んだ記憶があるのでクリアしていますかね」
男「罪だって二種類あるだろ。"程度の差こそあれ 重罪"というものもあれば"ものによる 重罪か軽罪"」というもの。今回はさ、人一人の人生を狂わせたことには違いなくて、"程度の差こそあれ"の部類に入ると思うんだ」
男「取り返しのつくことであれば謝罪はするべきだって誰もが言える。だけど、取り返しのつかないことは、謝っていいことなのかすらわからない」
女「はい……やっぱり私……」
男「でも、味方になるよ」
男「女が悪いんだとしてさ。世間の倫理観や、自分の倫理観から見ても、女がこれからやろうとしていることが間違っているんだとしてもさ」
男「女自身でさえためらっていることの、背中を押してあげたい」
男「女が間違ってていても、最後まで女の味方でいたい」
男「ほら、ゲームの主人公もよく言うじゃん。たとえ世界を敵にまわしても君を守る!!って。その世界の中にはヒロインのようにやさしい女の子が何億人もいるはずなのにも関わらずだぜ?」
男「それで世界が滅んでもいいだなんてさ。まったく、不謹慎な話だ」
女「男さん……」
男「今日までだって不謹慎なことをやってきたんだ。だから今日も、一緒に不謹慎なことをやろう」
男「ちゃんと、謝りに行こう」
197 = 178 :
男「ついに玄関まで来たな」
女「物凄く逃げ出したいです」
男「チャイムは俺が押すから、女はこれを持って、ドアスコープの前に立って」
女「本当に大丈夫なんですか?」
男「駄目ならまた明日伺えばいい。あと5日間位あるだろ。うらめしや~って言いながら毎晩立てば出てきてくれるさ」
女「恨まれてるの私ですけどね。塩なげつけられたら物理的に痛いので効き目ありそうです」
男「だからこそこの親父から借りてきた現代的なアイテムだよ。顔も光るし、幽霊っぽくないし」
女「青白くひかって不気味じゃないですかね?」
男「ものは試しだ。じゃあ、押すぞ!!」
女「ちょ、ちょっと待って!!」
男「カウントダウン!5・4・3・2・1!!」
男「おりゃ!!」
ピンポーン
198 = 178 :
ピンポーン
ピンポーン
ピンポーン
女「も、もうその辺にしておいたほうが…」
男「しっ、物音が聞こえた」
男「…………」
男「多分インターホンでくるぞ」
女「は、はい」
先生『…………どちら様ですか?』
女「!!」
女「ちゅ、中学生の時に先生の受け持つクラスの生徒だったものです。都合上どうしてもこの時間にいきなりお邪魔することしかできず申し訳ございません」
女「大事な話があるんです。決していたづらではありません。」
女「先生の握力が女子中学生の平均を下回っていることも、給食のあげぱんじゃんけんに参加して他の教員から怒られたことも知っています」
女「秋の星座に詳しいことも、生徒が吹いたリコーダーの音階をあてた現場にも居合わせたこともあります」
女「要求があれば、そちらの指示に従います。ただ、今から二時間未満しかここにはいられません」
女「ど、どうにかお話できないでしょうか?」
199 :
支援
すごくどうでもいいけどたった今さんまがテレビで自分のことをミスター不謹慎いっててワロタ
200 = 178 :
女「あの……」
先生『インターホン越しには話せない内容なの?』
女「直接でなければ意味が無いんです」
先生『こんな時間に女の子一人で来たの?』
女「男子高校生が一人います」
先生『何やってるのよ。こんな時間に』
先生『あのね、あと4時間後には出勤なの』
女「でしたら30日金曜日の深夜か31日土曜日の深夜は空いておりますか?」
先生『29日に仕事が終わって、実家に帰省するから駄目よ』
先生『あのさ、自分がどれだけ非常識なこと言ってるかわかってる?』
女「先生……」
女「先生、なんだか、変わってしまいました……」
先生『…………』
先生『あなた達が変えたんでしょ』
女「そのことを謝りに来たんです」
先生『…………』
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