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    元スレルナ「ルナのお友達になってくれる?」八幡「や、その友達とか良くわからないんで」

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    101 :

    ラビ「それでも私は、あんたに会いに行ってあげてほしいわ」

    八幡(遠回しに死ねって言ってるんですかね。いやラビットさんだけにそれはないか)

    ラビ「だって、私の友達だもの」

    ラビットさんが持ってないものを振りかざしているようで、腹が立った。

    ラビットさんに友達がいかに言葉だけの空虚で、あっけないものかを刻み込んでやりたい。

    それは、子供に残酷な現実を突きつけるような、下卑た快感をもたらしてくれるだろう。

    八幡「友達、友達、さっきからその言葉を言ってるけど、本当にラビットさんはあの兎と友達なのか」

    ラビ「えっ?」

    八幡「あの兎は、ラビさんと契約を結んでるんだよな。そのせいで仕方なく、仲良くしてるんじゃないか。

       それが俺が見たあいつの姿と、ラビットさんが友達だと思っている姿だと俺は思うんだが」

    ラビ「なにを、言いたいのかしら」

    ラビットさんの唇は、わなわなと震えていた。

    罪悪感が胸を衝いたが、もう引けない。

    八幡「どっちが、本当のあいつなんだろうな。ラビットさんが今まで見たのは、全部…」

    頬に衝撃が走った。一瞬後、自分が平手を食らったのだと気づいた。

    ラビットさんは目端にこぼれんばかりの涙をためていた。

    ラビ「ばかっ」

    ラビットさんは、うろから飛び出した。

    こうなると、わかっていたんだ。

    それでも、やってしまった。

    俺は、今起きた光景にどこか既視感を覚えていた。

    同時にけだるい絶望が、森の暗闇の底から俺を覗いているのを強く感じた。

    102 :

    ぼんやりと外の暗闇を眺めていると、やがて視界の端からあの人相の悪い兎が現れた。

    八幡「どうしたんですか」

    大兎「ご主人様が飛び出してくるのが見えたんで、様子を見に来たんだ」

    八幡「ご覧のとおり、俺は傷だらけですけど」

    大兎「げへへ、そういじけるなよ。どんなに金玉でかいやつだって若い頃には失敗をするもんだ」

    八幡「はぁ」

    八幡(なんで急に慰めモード、もしやラビットさんとの話を聞かれていたか?)

    大兎「夜這いにゃあ、ちょっぴりお月様が明るすぎたな」

    八幡「…」

    大兎「おいおい、少しでも気を楽にしてやろうという、俺様の気づかいだぜ?これだから糞人間は」

    八幡「ぐっ」

    八幡(兎に気遣われる自分が腹立たしいやら情けないやらで、涙がでてきた)

    大兎「いくら感動したからって泣くなよ…話は変わるが、腹減ってるならこれをやろうか?糞うめえぞ」

    大兎が差し出したのは、見る限り雑草だった。

    いくらかの押し問答の末、一口だけ食べてみて、吐いた。

    善意の押しつけほど、手に負えないものはない。




    八幡「用は済んだろ。俺より、外に出たラビットさんの方が心配じゃないのか」

    大兎「洞察力が足りねえなぁ。俺をよく見ろ、何か気づかないか?」

    改めて見ると、サイズが一回り小さくなっているのに気が付いた。

    だいたい軽乗用車から自転車くらいのモデルチェンジ。

    八幡「縮んだ?」

    大兎「少し違うな、二つに分裂したんだよ。もう一方はご主人様についていて、ちゃんと見守っている」

    こうすれば向こうの様子も伝わってくる、と言って大兎はぴんと耳を立てた。

    大兎「なになに、ご主人様は泣いてるみたいだな。声をかけても一人にしてくれとさ」ジロリ

    八幡「…そうかよ」

    大兎「げはははははっ、雌は声をあげて泣くが、雄は心の中で泣くってのはこのことか。ご主人様がお前に同情した理由も分かったぜ」

    大兎は口を大きく開けて、大きく笑った。

    となりのトトロみたいな口の裂け方を見て、軽くちびった。

    こいつ、草食動物だよな?

    ある意味では肉食のようだけれど。

    103 :

    もうやめたほうが……

    104 :

    一週間に1レス程度の更新頻度じゃ永遠に話が進まないし最初は期待して読んでたけどそろそろ待ってられないわ

    105 :

    別に待つ義務なんてないんだしさっさとブクマ外せばいいだけの話

    106 :

    八幡「前から疑問だったんですけど、本当に兎なんですか?」

    大兎「元をたどれば兎だが、実際には魔兎と呼ばれているな。そもそもお前、天兎は知ってるか」

    八幡「まったく」

    大兎はしゃあねえなと面倒くさそうに鼻をかきながら、言った。

    大兎「受け売りだが、ざっと教えてやるよ。

    『天兎は、あの大きいお月様に住む兎のこと。

    その中でも、いつも陽光が降り注ぐ温かい場所に暮らしていたやつといつも暗くて寒い場所に暮らしていた兎がいた

    魔兎はそれをひっくり返そうと反乱起こしてたけれど、負けてしまいこの地球に堕落させられた兎のこと。

    天兎と魔兎、二つは限りなく近い存在だが、限りなく遠く離れた場所に住む双子。

    魔兎はかつての故郷である月を想い、何度も飛び跳ねては地上に叩き付けられ、死んでいく。

    天兎は魔兎を忘れ、故郷で暮らすことの幸福をも忘れ、死にゆく大地とともに腐っていく

    やがて、あらゆる場所で兎は滅ぶことになる』(裏声)

    ってなもんで。よぅく、アルミラ様が言ってた」

    八幡「話し方から察するに、昔話ですか」

    大兎「昔っていうほどでもねえ。俺様にとっちゃつい最近の話よ。

    あと、これには教訓が含まれているんだ。おら糞人間、分かるかぁ?」

    八幡「…故郷を大切にしろということですか」

    大兎「それは天兎の視点だな。

    大切なのは魔兎の方だ。俺らは故郷を想ってばかりで、新しく降り立った地球を見ていなかったから死んだんだ

    だが、アルミラ様だけは違った。

    虹花海岸の美しい景観と夜景に輝く月を見て地上の美しさをはじめて悟り

    月への妄執を捨てて地上で一生を終えることを誓ったんだと。

    だから、魔兎の唯一の生き残りになっちまった。他は俺様も含めてみんな死んじまった」

    八幡「…」

    大兎「ここまで話してやったからには、お前にも腹を割って話してもらおう。

    哀れにも故郷に捨てられたお前という兎は、どうするんだ?届かない故郷を目指して、死ぬか?それとも…生きるか?」

    107 :

    全然話すすまねえな

    108 :

    ここで生きることを決めたら俺は俺じゃなくなるだろう。

    これまで自分の築いてきたアイデンティティを全て失い、まっさらな白紙の状態から始めるのだ。

    今、人生をやり直すことができる選択肢を与えられている。

    きっと一生で、一度だけの機会だ。

    元の世界の吐き気を催すような虚構と矛盾を見ることはない。

    口では友達といいながらも、裏で相手が裏切らないか互いに腹を探りあう喜劇も

    劣った者を友達に据え置き、優越感に浸る哀れな奴も

    それに気づいていながらも、捨てられないか不安で媚びを売る奴も

    すべて、目の前から消える。

    でも、この兎が言いたいことはそういうことじゃないのだろう。

    きっとこの世界にも、そういうことはある。

    だけど、『良いこと』も同時に存在するのだ。

    俺が知らないだけで。

    …いや、知っていたな。

    俺は、二度も命を助けられたんだ。

    一度目は、あの屋敷に住むルナ様。

    二度目は、ラビットさん。

    どちらも善意からではなかったみたいだけど、二人がいなければ俺は死んでいた。

    悪いこともあった。

    ルナ様に友達になってほしいからって、殺されかけた。その理屈は未だに不明だ。

    ラビットさんは、お節介で、煩わしいところがある。

    たった一日で、これだ。

    残りの人生を費やせば、どれほどのものが得られるだろうか?

    ここで骨を埋めても、良い気がする。

    109 = 98 :

    しかし、俺は元の世界をどれほど知っていたのだろうか・

    最も、近かった雪ノ下と由比ヶ浜のことを。

    例えば、雪ノ下は私情にとらわれない、理の通った考えができるやつだ。

    最初は、その凛然とした姿に憧れの情すら抱いた。

    でも、それは誰かを頼って、目標にして、真似をしてきた末の姿だった。

    それに気づいたとき雪ノ下は、比企谷八幡という男を目標にしようとしていた。あれは決して恋愛感情などではない。単により魅力的なヤドリギを求めていた

    に過ぎない。

    だから俺が雪ノ下の告白を断ったとき、彼女は耳朶を真っ赤に染めながらも微笑むことができたのだろう。

    『私の知っている比企谷君で、良かったわ』

    以来、俺と雪ノ下はずるずるとこれまでの関係を引きずっている。

    結局、雪ノ下の目標は、誰なのか。雪ノ下は真の意味で自立することができたのあ。

    一方、由比ヶ浜は持ち前の愛嬌のよさで、場を和やかにすることができるやつだった。

    でも、それは周りとの繋がりを失わないための、強欲さゆえだった。

    強欲な彼女は、友情と恋愛のどちらかを失うことに耐えられなかった。

    だから、雪ノ下と勝負をした。

    ある男に告白をして、受け入れられた方の望む通りにする。

    なんて、幼稚で純粋な願いだろう。

    そして、彼女自身、勝敗が決まらないことを薄々感じ取っていたようだ。

    それからの三人の状況は、彼女の思い通りなのだろうか。

    奉仕部で時折見せる、仮面のように冷めた表情は何を意味しているのか。

    八幡「知ろうとしていなかったんだ」

    111 :

    八幡(はぁぁ、思わずため息が口から衝いてでてしまった)

    八幡(どれだけ、時間を無駄にしてきたのだろう)

    八幡(だが目をそらし続けていた代償だと思えば、安いものだろう。こいつに言われなきゃ、死ぬまで気づけなかっただろうから)チラッ

    大兎「ん?決まったか」

    八幡「決まった」

    大兎「その答えが、俺様とお前との関係をぶち壊さないといいよな。互いによう」ジリ…ジリ

    大兎はその場で、地面を掻いた。よほど強い力で掘ったのか、そこには深い爪跡ができていた。

    脅迫めいたことをするほど、この大兎は、俺に生きることを選んでほしいらしい。

    おそらくは、ラビットさんのことを想ってのことなのだろうが。

    だが安心してくれ。望み通りの答えを返すよ。

    八幡「俺は、生きる。そのためにあんたの力を借りたい」

    大兎「げっ、げっ、…げっげっはっははははっ!構わねえよ。ご主人様とお前をどこまでも連れてってやるぜ。俺がこの世界に満足するまでな!」

    八幡「いいや、これから行くところは俺とあんただけだ」

    大兎の声に不安がにじんだ。

    大兎「どういうこった?」

    八幡「俺たちが向かうのは、ルナ様の屋敷だ。

    ラビットさんは、事が終わるまでここにいてもらう。お前の半身ならできるだろう?」

    大兎は、石像にでもなったかのようにその場で立ち尽くした。

    俺はすかさず、畳みかける。

    八幡「ラビットさんを危険に晒さずにすむし、俺のような厄介な奴を露払いできる一手だ。

    この案に乗らなきゃ、俺は明日ラビットさんと共に屋敷へ向かう」

    大兎は鋭くとがった白牙をチラリと口から覗かせた。

    自分の腕ほどの大きさのそれは、いともたやすく人の頭蓋を粉砕するだろう。

    大兎「…俺様の話は、糞人間には無駄だったか」

    調子に乗りすぎた、と思った。

    背筋をぞくりと冷たいものが伝った。

    ここで大兎を怒らせて交渉決裂するわけにはいかない。

    俺にはこの件にラビットさんを巻き込む気は毛頭ないのだから。

    112 = 98 :

    八幡「いいや、意味ならあったんだ」

    大兎「ねえから、死にに行くんだろうがよォ」

    八幡「死ぬ気なんてない。あんたのおかげでどうしても元の世界で知りたいことができたから、ルナ様へ会いにいく必要ができたんだ」

    大兎「じゃあ、なにか。せっかく話しやったのに全くの逆効果だったってか!?」

    八幡「…そうなるな」

    大兎は耳をぺたっと伏せ、悶々とし始めた。

    コイツがラビットさんの従者であり、ラビットさんの護衛対象が俺である以上、立場的には有利なはずだ。

    それにコイツが本当にラビットさんのことが友達なら、断る理由はない、はず。

    大兎「くぉおぉぉおおおおっ!」ダンダン!←地面に頭突き

    八幡「うるせぇ!ラビットさんに気づかれるぞ」

    大兎「…お前、ご主人様に気づかれたくないのかぁ?」

    うわっ、なんだこのうざい絡み方…。

    大兎「そうだよな、あんな可愛い美少女そうはいねえ

    なぁ、すべて忘れて、ご主人様とすっぽりしっぽり仲良くしちまえよ」

    げすい。今までの流れをすべて台無しにするくらい、げすい。

    コイツは危険な橋はわたりたくないのだろうが、『逃げは許さない』。

    八幡「俺の意思は変わらねえ。あんたが、そのご主人様の命を守るかどうかだ」

    大兎「クソがぁ!」ダンダン!

    八幡「」

    それから大兎がその場でひとしきり転げまわって暴れた。

    まるで俺が黒歴史を思い出したときのように。

    やがて、落ち着いたのかその場に横たわった大兎が

    夜空に向かってぼそりとつぶやいた。

    大兎「分かった…わぁったよ。俺様はやばくなったら、てめぇをほっぽり出してさっさと退散するぜ。それでいいなら乗ってやるよ」

    八幡「それはこちらからお願いするところだった。ぼっちをこじらせたラビットさんがあんたを失ったところなんて、見たくもないからな」

    大兎「てめえがそれを見ることは、どう転んでもないだろ」

    返す言葉もない。

    113 :

    大兎から手渡されたベルトを腰に固定し,俺は大兎に跨った.

    屋敷から脱出したときは,ラビットさんの背中しか見えてなかったが今は違う.

    八幡(思ったより高くて,前方の視界は開けている)

    八幡(だが一歩脇を見ればこんもりとした茂みが群生していて,なにが潜んでいるか検討もつかない)

    手持ちにあった大兎の毛を,力をこめて掴む.

    大兎「そっちの準備はいいか」

    八幡「ああ,いつでも出発してくれ」

    大兎「出る前に一つだけ言っておく」

    八幡「?」

    大兎「怖いのは分かるが,股であんまり強くはさむな」

    八幡「こわくねーし.毛並みのあまりの良さにスリスリしただけだし」

    大兎「げぇ….」

    大兎はなにか悲鳴のようなものを上げたが,俺は無視することにした.

    それを恨んだのか,大兎のとった移動方法は,搭乗者にとってあまり気分のよいものではなかった.

    頻繁に全速力,停止,聴音を繰り返したのだ.

    大兎の全速力は前述したとおり,乗用車並みのスピードがでる.

    並大抵の生物はもちろん,ゾンビや骸骨は追いつけないだろう.

    大兎が考える最大の危険は,待ち伏せされて何重にも取り囲まれることらしいが,敵が動くわずかな音を聴くことで回避するのだという.

    なるほど,一見理屈は通っている.

    だが,屋敷につく前にグロッキーにされるのは,勘弁してほしいところだ.

    ヒッキーだけに.ヒッキーだけに.

    114 = 98 :

    大兎「お前はあのガキと会ってどうするつもりなんだ.真正面から言っても殺されるだけだぜ」ズダダダッツ

    八幡「まず,あの屋敷で両親について調べてみようと思う.彼女のおかしい行動の原因は両親の影を追っていることだ.

    目には見えないのに,いると思いこんでる」

    木々が好き放題に伸ばした枝が手足を掠めていく.もろに激突して持っていかれるわけにはいかない.できるだけ身を縮めて,大兎に張り付く.

    そういえば,この大兎は死んでいるんだったっけ.

    八幡「…もしかして,目には見えないけれど存在する『幽霊』ってこの世界だとアリなのか?」

    大兎「もちろんアリだ.つうか俺様もそうだ.てめえ,ご主人様から聞いてなかったか?」

    八幡「…忘れていた」

    大兎「一言に幽霊っても様々なやつがいる.俺様みたいに降霊術で呼び出されたり,この世への執着のあまり場所や人に憑りつく地縛霊みたいなもんまでいる

    ぜ」

    八幡「もし話しかけたら,会話に応じてくれると思うか?」

    大兎「よほど大らかなやつじゃないと,だめだな.この世への未練で頭がいっぱいな奴が大半だ」

    八幡(さりげなく,自分を褒めていくスタイルはやめろ)

    大兎「だから俺様に出会えたことを感謝しろ」

    八幡(と,思ったら直球で褒めることを要求してきやがった)

    八幡「例え感謝していても,いやだ」

    大兎「ひねくれてんなぁ…」

    八幡「話を戻すが,その両親がルナ様に憑りついてる可能性はあると思うか?」

    大兎「可能性はある.だが憑りついたものを引きはがすなんて,教会にでも頼らないと無理だぜ」

    八幡「そうか.ところで今から,教会に行かないか?」

    大兎「もう遅い.着いちまった」

    例の屋敷が闇の底からゆっくりと現れた.

    115 = 98 :

    終わりがみえてきました
    八幡絶望エンドに期待してください

    116 :

    大兎「それに,俺様達がいないことをご主人様に気づかれた.今から教会へ行ったら確実に追いつかれる.てめえはもうご主人様と会いたくないんだろ?」

    八幡(ご名答.それがお互いのためだと信じている)

    八幡「ラビットさんはこっちに向かっているのか」

    大兎「あの場から離れてしまった後悔か,てめえに対する怒りかしらねえが,あのご主人様が無言で俺様をこっちへ走らせてるぜ」

    八幡「できるだけゆっくりラビットさんを運んでくれると,助かる」

    大兎「言われなくてもそうしてる」

    八幡「…そうか」

    大兎は屋敷を取り囲む柵を飛び越えると,降りるように促した.

    固い地面に着地した俺は,真っ先に屋敷を注視する.ゾンビや骸骨が獲物がホイホイやってきたことに気づいていないだろうか.

    しかし,屋敷にはめ込まれた窓は暗く,なにかが蠢いている様子もない.

    一安心した俺はベルトを外し,大兎に投げ渡すと,大兎はそれをどこか遠い目で見つめた.

    大兎「老婆心ながら警告してやろうか,ガキの放ったゾンビ共もてめえが移動したことにはもう気づいている.数時間後には,ここに大挙してやってくるだろう」

    大兎「それ以前に,この屋敷に入ったらてめえは間違いなく死ぬよな.それでも,元の世界の住人は何も知らないままだ.てめえが死んでも,何も思わない」

    八幡「...」

    大兎「それが原因で地縛霊にでもなられたら,ご主人様と俺様が困る.

    だから,最後に泣き言の一つくらいは聞いてやる.言えよ」

    大兎は,力なく言った.

    前から薄々感づいていたが,俺と話すとき,大兎は自死したときの記憶を思い出しているのではないか?

    そして,現在の状況を自分が死んだときと重ね合わせている.

    だとしたら,それはとんだ誤解なのだと教えてやらねばならない.

    八幡「ならはっきりさせておこう.俺は,お前とは違う」

    大兎「うぇ?」

    八幡「お前みたいに下ネタ好きじゃないし,いかつい顔もしてない.

    大体.妙に馴れ馴れしいお前のことが嫌いだったし,理解不能だった」

    それに地縛霊になるなら,自分の部屋を選ぶからこの世界には留まらねーよ」

    大兎「」

    八幡「お前とは根っこからの部分から違う.だから勝手に同情するな,気持ち悪い」

    大兎「…分かったから,さっさと屋敷に入れっ,この野郎!

    さもないとこれで頭をかち割ってやる!」ギラッ

    八幡「ひぇっ」

    こうして,鋭牙を剥き出しにした大兎に急き立てられるようにして,俺は屋敷へと向かった.

    117 :

    屋敷へ侵入すること自体は,非常に容易だった.

    先刻の屋敷から脱走する際に,玄関の扉を大兎が粉砕したからである.

    堂々と正面から入るのも躊躇われたが,贅沢は言っていられない.

    化物がいないことを再三確認してから,ゆっくりとお邪魔した.

    幼女の一人暮らしにしては不用心だと思ったが,この屋敷に入ったら最後お友達にすることを考えると,あえて門番はつけていないのかもしれない.

    あるいは,それができないほど衰弱しているか.

    後者だと数時間後に詰む.

    八幡(うろうろせず,自分の部屋で養生していてくれ…)

    と,願いつつ廊下を抜き足差し足で進む.

    ルナ様の両親について知るには,日記かアルバムを見るのが一番だろう.

    すでに一度探索したので,本棚がある部屋や,書斎らしきの場所は知っている.

    そこで探して,もしなければ第二番目の計画に移行することになる.

    すなわち,異世界探査機を見つけるというものだ.

    俺は確かにこの屋敷で探し回ったが.一つだけ確実に見つけられていない場所がある.

    それは,ルナ様が契約する場所である.

    ラビットさんから聞いた話では,なんらかの魔方陣が描かれていて,秘匿されるべき場所のようだ.

    ラビットさんと同じく地下室か,それとも隠し部屋があるのか.

    この屋敷で異世界探査機があるとすれば,そこぐらいではなかろうか.

    しかし,それを独力で見つけ出すのは至難の業だろう.

    だから最後の計画が肝になる.

    つまり,ルナ様と対話することだ.第一の計画がうまくいけば,説得できるかもしれない.

    もし,上手くいかなければ.自然と暴力的になるだろう.もちろん言葉の暴力だ.

    ルナ様を直接どうこうするのは,できそうもない.

    主に小町が原因で,幼女に手をあげるのはかなり抵抗がある.

    八幡「だけど,殴った手が痛まないというだけで暴力ということには変わらない.最低だな」

    俺はルナ様の両親がなにかを残していることを祈りながら,扉を開いた

    118 = 98 :

    音を立てないように,本棚や机を漁るという行為は思った以上に神経をつかった.

    加えて廊下から差し込むシャンデリアのわずかな光を頼りに読むのは,困難を極めた.

    それに加えて,本の内容がかなり偏っているのだ.

    死者の復活,生者から魂を抜く方法,魂の解放と定着,などオカルトチックなものが目白押しである.

    八幡「だから,アルバムが手の届きやすい位置にあったのは救いだな」

    俺は一冊のアルバムを想定していたよりも早くに発見することができた.

    phote bookとそっけなく印字されたタイトルの下に,三人の名前が書いてある.

    そのうち上二人分の名前は達筆だが,一人はミミズののったくったような文字で,でかでかとルナと書いてあった.

    八幡「悪いな」

    誰かに聞かれているわけでもないが,一言謝ってから本を開いた.

    119 :

    シャドバは英語圏住人だったのか

    120 = 98 :

    アルバムを読み始めて,数分もたたないうちに

    このアルバムは,ルナ様の歴史なのだ,と気づいた.

    赤ちゃんとして生を受けたときから,あやされてニコッと笑う様子,

    お気に入りのがらがらを振っていること,

    はいはいができるようになったことなどが,写真の下に小さく説明されている.

    ルナ様が成長にしていくと,お気に入りの人形(おそらく今,持ち歩いている奴と同じだ)を抱くように眠っている様子や

    『父』と『母』と共に誕生日を迎え,楽しそうに笑う彼女がいた.

    だけど彼女のそばで,つねに両親のどちらかが体を支えていた.

    また外に出かけた写真は,一枚もない.

    ページをめくるにつれて,それは顕著になる.

    ベッドの上で新しい人形と共に微笑む彼女,ベッドの上で折り紙を並べて作業をする彼女,

    『調子が良くなり』廊下で心配そうな父と手をつなぎ,立つ彼女.

    そして,最後の数ページは,彼女の部屋での様子しか写されていない―――――

    121 = 98 :

    八幡「ルナ様の両親に関する手がかりは,ほとんどないか」

    一つあるとすれば,アルバムの最後に写ったルナ様の写真は,現在の姿と変わらないことだ.

    だから,その時から時間は何年も経っていないと思われる.

    ならば,その短い間に両親が急死して,ルナ様が歪んだのだ.

    きっかけはこの本棚にあった書物だろう.

    これを読み,両親の霊を召還した.

    そして,それだけでは物足りなくなった彼女は,友達を求めるようになる.

    ...あまりにもできすぎていると,思った.

    しかし,否定する根拠はない.

    八幡「もう少し,手がかりを探すか」

    アルバムを本棚に戻した瞬間,甲高い悲鳴が廊下から聞こえた.

    この屋敷に住む人間は,一人しか知らない

    同時に,獰猛な獣の咆哮が屋敷全体をびりびりと震わせた.

    思わず耳を塞ぎ,蹲る.

    この屋敷で,なにかが起きつつあった.

    122 = 98 :

    >>119
    ガバガバ設定で申し訳ない
    日本と欧米の混ざった世界でおねがいします

    誤字脱字つっこみ所はpixivで直します
    今日はここまで

    123 :

    八幡「なんだ…?」

    扉から顔だけをゆっくり出す.

    悲鳴と恐ろしい雄たけびはもう聞こえないが,廊下の奥から何かが砕ける嫌な音が続いていた.

    記憶が正しければ,あちらにはルナ様の部屋があったはずだ

    嫌な予感しかしないとは,こういうときをさすのだろう.

    だがあの悲鳴がルナ様のものであれば,彼女の身になにかがあったということ.

    彼女に死なれると,いろいろと詰んでしまうので,助けに向かう必要があるだろう.

    といっても俺が助けられるかどうかは,また別問題だ.

    異世界へ移動するラノベでよくある,唯一無二であり絶対なる力を得るイベントはまだ起きていない.

    パンピーがこの世界の獣の類いと戦うことは,死を意味するだろう.

    実際あの大兎に徒手空拳で挑むことを想像すると,寒気が走った.

    そうだ,悲鳴の主が屋敷に迷い込んだ哀れな羊のものであれば,出向く必要はない.

    残酷だが,自分の命には代えられない.

    ルナ「....パパっ...ママっ...助けてよぉ!...出てきてよぉ!....」

    今度は,焦燥と悲しみの入りまじった声がしっかりと聞こえた.

    行かなければならない.

    それになにより,俺はこういう声が大嫌いだ.

    独りが,周囲に排他され,孤独に怯え,みすぼらしく助けを求める.

    過去はいつだって,俺の前に立っている.

    124 = 98 :

    シャンデリアが儚く照らす廊下を走り,ルナ様の部屋へ向かう.

    近づくにつれて重い物同士がぶつかり合う音も混ざり始め,部屋の前に到達するころには全力疾走をしていた.

    八幡「....っ!」

    足を止めて息を整えてから,部屋の中を覗く.

    ルナ様の部屋の扉は大きく開かれており,中の様子を簡単に知ることができた.

    ルナ様は部屋のベッドの上で,布団を頭から被り,泣いていた.

    それを守るように,ゾンビ犬が懸命に唸り声を上げている.

    しかし,ゾンビ犬と相対する存在は,あまりにも非現実的であった.

    一見,その姿は人のように見える.

    だが,幾度も黒色の絵具を重ね合わせたような滑らかな体毛が全身を覆い,白く発光した『中身』を隠しているのだった.

    虚の影「ゴォオオオオオオオオオオオオオオ!」

    化け物が叫ぶたびに屋敷が揺れ,あと小心者の心臓が縮こまる.

    八幡(予想以上の化け物がいて,ハチマンびっくりだよ.書斎から拝借したペーパーナイフ一本でどうにかなるような相手じゃないわ.これ)

    八幡(かっこつけてすみませんでした.とりあえず神様,俺にチート能力ください).

    さっそく心が折れかかっていた.

    125 :

    たぶんだけど>>119は句読点のことを言ってるんだと思う

    127 :

    >>125
    教えてくれてありがとう
    設定を直しました。

    128 :

    俺が手をこまねいているうちに、その化け物はすっと手を掲げた。

    その手に握られているのは、一枚のカードだ。

    このカードの意味を俺はよく知っている。

    八幡「嘘だろう…?」

    カードが砕けると同時に、化け物の前に一人の女戦士が出現した。

    天使の翼を象った兜に、うねりをあげる金色の髪、そして銀色に鈍く輝く甲冑が

    彼女は聖なる騎士なのだと証明している。

    天剣の乙女「ふむ、ここには死と破滅の匂いが漂っているな。だが、問題はない。

          主より与えられた使命の下、この大地を照らして見せよう」

    彼女はそう言って、ゾンビ犬を見据えた。

    天剣の乙女「引かねば、切り捨てる」

    しかし迷いもなくゾンビ犬は、勢いよく女戦士に飛び掛かる。

    ゾンビ犬「グオォォァァ!」

    天剣の乙女「ふっ!」

    彼女の持つ両刃の剣が煌めくと同時に、ゾンビ犬は一刀両断された。

    天剣の乙女「仮初の命の代わりに、記憶を失った哀れなる獣よ。黄泉の世界にて、お前のご主人様に抱きしめてもらうといい」

    彼女は胸の前で十字を切り、厳壮なる祈りを捧げ始める。

    それを、化け物は歯痒そうに眺めていた。

    八幡(助けに行くなら、今だ。行けよ、俺)

    しかし脚の痛みが、今になってジンジンと表われ始めた。

    八幡(びびるなよ、ルナ様を抱えて、窓から飛び出るだけだ。きっと、だいじょうぶ)

    でも、もしミスったらあの剣で斬られる。

    ルナ様を抱えたまま、避けれるわけがない。

    考えれば考えるほど、頭の中が白くなっていく。

    女戦士が目をきっと開けた。

    八幡「行 け っ!」

    ルナ様に向かって、俺は走り出した。

    それに気づいた化け物の怒号も、慌てて剣を構える女戦士もすべて遠いことのように思える。

    ルナ様だけを見ていた。

    129 = 98 :

    八幡「ルナっ!逃げるから布団から出ろ!」

    布団がばっと持ち上がる。

    ルナ「パパっ!」

    八幡(違うけどな)

    俺を見て表情が凍りついたルナ様の右手を左手でとり、彼女の股に自分の右肩を当てる。

    ルナ「え、えっ!?」

    八幡「身体の力を抜いてくれ」

    ルナ様のへそが首の真後の付け根にくるように担ぎあげ、立ち上がる。

    自分の右手を彼女の両足の間から出して、彼女の右ももを抱え込み固定する。

    ルナ「うわわわわっ!」

    八幡「よし」

    ちなみにこの技、ファイヤーマンズキャリーというらしい。火災現場で消防士が怪我人を運び出すために使われることからこの名がついたそうな。

    人を運ぶ技術でもあり、格闘技の一種でもあるこれを

    国語の教師にかけられた生徒は俺だけでいい。

    八幡(あとは逃げるだけだ)

    天剣の乙「動くな。もし動けば、背中の其れごと斬る」

    気づけば、鼻先に剣を突きつけられていた。剣の柄を握る女戦士の目に、迷いはない。

    八幡「」

    八幡(うっ、動けねえ…)

    天剣の乙「何が目的だ?ここはお前のような生者がいるべき場所ではない」

    八幡「…」

    天剣の乙「答えろ。私は気の長い方ではない」

    剣が頬を静かに撫でる。ちくり、ちくりと痛みが奔る。

    八幡「背中の奴を、助けにきた」

    天剣の乙「馬鹿なことを…。それはもう終わっているぞ」

    八幡「?」

    ルナ「…お兄さん、ルナをちゃんと助けてね」ボソッ

    耳元でルナがそう呟くのが聞こえた。

    それからバキンと何かかが砕ける音が響き、女戦士の立つ床に魔方陣が広がった。

    魔方陣からは鋭い嘶きと蹄の音が聞こえる。そして、がむしゃらに暴れるような風が、あふれだす。

    天剣の乙「これは…!?」

    女戦士が飛び退り、頑健な盾を構える。

    一方で風はどんどん勢いを増し、もはや息もできないほどだ。

    八幡(よく分からないが、これは逃げ出すチャンスか)

    ラビットさんがやらかした爆発で窓ガラスのない窓から、外に向かって跳躍した。

    目の端にちらりと映ったのは、ちょうど馬に乗った骸骨が魔方陣から飛び出したところだった。

    そいつから放たれる邪な風の刃は部屋の中にあるものを片っ端から切り刻んでいく。

    それでもあの人型の化け物は、俺を見ていた。

    喉を締め付けるような悪意が全身から俺にむかって放射されているのが分かる。

    逃げなければ、ならない。あの化け物はきっと追ってくる。

    130 = 98 :

    補足
    ここで使われたカードは腐の嵐です
    今日の夜で終わりにしたいです

    131 :

    頑張って

    132 :

    >>1
    待ってます!

    133 :

    ルナ「はぁ…はぁ…」

    背中の上でルナ様はひどく息切れをしていて、俺にすっかり身体を預けていた。

    やはり、さっきの風は彼女が引き起こしたのだろうか。だが、今はそれを尋ねている余裕はない。

    八幡「疲れているところに悪いが、隠れなければだめだ。なにかいい場所を知らないか?」

    ルナ「…ううん…わからない」

    八幡「例えば、ルナ様が契約する場所はどうだ」

    ルナ「そのことを。誰から聞いたの?」

    八幡「誰からも聞いてない。推理しただけだ」

    そう嘯いてみせると、彼女は不満ありげに鼻を鳴らした。

    ルナ「ルナは分かってるよ。一緒に逃げたお姉さんから聞いたんだよね」

    八幡「え…あ」

    ルナ「泥棒兎のお姉さん、きらい!あの人とはもう友達になってあげないもん」

    八幡「と、とにかくその場所をだな」

    それから土下座する勢いで懇願すると。彼女は渋々、契約の場所を教えてくれた。

    八幡「裏口に置いてある樽の下が、地下通路に繋がる入口ね…」

    ルナ「そうだよ。…あ、そろそろルナの『腐の嵐』もおさまっちゃう」

    八幡「なら急ぐぞ。しっかり捕まっててくれ」

    ルナ「うん!」ギュ

    ルナ様は、屈託のない笑顔を俺に向けた。

    こうしてみると、年頃の箸が転んでもおかしい年頃の女の子にみえる。

    一体、彼女の身になにが起きたのだろうか…。

    俺はかぶりを振って、彼女を背負って屋敷の裏口へ向かった。

    134 = 98 :

    裏口

    八幡「一回、降ろすぞ」

    ルナ「ゆっくりね、ゆっくり!」

    八幡「分かった、分かった」

    ルナ様は背中をゆっくりと滑るように、地面に降り立った。

    で、思い切り腰をうっていた。

    ルナ「いたいっ!」

    八幡「大丈夫か?」

    ルナ「ゆっくりって言ったのに…」ゴゴゴ

    すっかり機嫌を損ねたらしい彼女は、俺にそっぽを向いた。

    さっきはあんなにもはしゃいでいたのに。

    八幡「じゃあルナ様は、奴らが来ないか見張っていてくれ」

    ルナ「…ルナはルナだよ」

    八幡「?」

    ルナ「様はいらない」

    彼女はそう言って、どこからもなく取り出した人形を抱きしめた。

    八幡「分かった、ルナ」

    俺は中身の入っていない樽を動かし、正方形に区切られた蓋を開けた。

    灰色の梯子が、闇へと繫がっている。

    135 = 98 :

    あの女戦士は、死と破滅の匂いが漂っていると言った。

    それはおそらく、何年も積もった埃とすっかり溶けてしまった蝋燭の焼け付く匂いに違いない。

    この地下室は、そういう場所だ。

    ルナを先頭に梯子を下ると、小さな礼拝堂にでた。

    手前には長椅子が何列も並べられており、何者かがここで集会を開くことも可能だろう。

    そうして彼らは、正面に雄々しく起つ世にも恐ろしい姿をした像に向かって、一斉に祈りを捧げるのだ。

    その悪魔像は、その内に何よりも深い憎しみと、吹き荒れるような狂気をはらみながら。逆十字の十字架で一人の男の胸を刺す。

    ああ、これだけ見せられれば俺だって分かる。

    ここは、悪魔崇拝した者の為の、礼拝堂なのだ。

    八幡(あの人達が、こんなことをするのか)

    アルバムに載っていた、ルナの家族を思い出す。

    ルナの手を繋いでいたあの『父』が、ルナに折り紙を教えていた『母』が、その裏で悪魔に魂を売っていた。

    怖い、怖い、怖い、怖い。

    身体の震えが、収まらない。

    136 = 98 :

    ルナ「お兄さん?」

    ルナは振り返って、俺がついて来るのを待っている。

    八幡「今、行く」

    一歩、一歩、底なし沼に足を取られないように進む。

    ルナ「お兄さんは、この場所はきらい?」

    八幡「好きじゃ、ないな」

    ルナ「じゃあ、ルナと同じだね

    ルナも、この場所は嫌いだよ。何度来ても、胸がいたくなるから」

    彼女は人形を抱きしめ、顔を隠す。

    八幡「なんで、痛くなるんだ?」

    ルナ「それはここにも、パパと、ママがいるから。

    いままで会話した記憶、パパとママの温かさに触れた記憶が一度に流れ込んできて、パンクする。それで胸がいたくなって、頭がかーっと熱くなるんだよ」

    ルナは人形を俺に向けて、喋らせる。

    豚のようなそれは、両手で掴まれ、まるで怒っているかのような表情を浮かべている。

    ルナ「ルナといつも一緒にいてくれたパパとママは、二回消えちゃった。一度目はすぐ会えたけど、今度は分からない。

    でも、ここなら絶対会える。だから、お兄さんにこの場所に運んでもらったの」

    八幡「なんだ。俺を利用したのか」

    ルナ「ここは本当に秘密の場所なんだよ。教えたのがばれたら、ルナだって消されちゃう。」

    八幡「誰に消されるんだ?」

    豚の人形は答えない。

    137 = 98 :

    ルナは祭壇をのぼり、その奥にある暗闇を見ている。

    ルナ「ほら、パパとママがいた!」

    彼女は人形を放り投げ、その奥へ姿を消した。

    八幡「待てよっ」

    俺は、ルナの後を追った。

    悪魔像のそばを通り抜け、祭壇を上る。

    八幡「なんてことだ」

    目の目には、三つの棺が並べてあった。

    川の字に並べてあるそれは、人骨がそれぞれ納められている。

    そして、中央の棺には一回り小さい骸骨と、ルナが重なりあうように入っていた。

    八幡「お前…最初に会ったときから、死んでいたのか?」

    ルナ「例え死んでも、ルナはルナだよ。『お前』だなんて言葉で、遠ざけようとしないで」

    八幡「…」

    ルナ「ヒッキーは、幽霊のこときらいなんだ」

    八幡「そんなこと、ない」

    ルナ「ううん、分かるよ。同じ存在じゃないと、人は友達になれないんだよ。どうしても、自分と比べるから」

    ルナ「でも、ルナはそれ以上にヒッキーのことすきだよ。ルナのことを助けてくれたから」

    ルナ「もしかしたら、絵本に出てくる白馬の王子さまはヒッキーのことかもしれないと思ったくらい。運び方も降ろし方もだめだけど、すごくかっこよかった」

    ルナ「恥ずかしいけど、これはルナの本当の気持ちだよ」

    ルナ「ねえ、ヒッキー」

    八幡「なんだ」

    ルナ「ルナのお友達になってくれる?」

    138 = 98 :

    八幡「...もし断ったら」

    ルナ「仕方ないから殺すよ。幽霊になったら、きっと考えも変わるよ」

    八幡「万が一、受け入れたら」

    ルナ「喜んで殺すよ。ルナはこっちのほうがいいな」

    八幡(…積んだ。いや、まだルナには聞いていないことがある。それで、時間を稼ごう)

    何のために時間を稼ぐのか、それすらも分からないが。

    多分、一秒でも長く生きるためだ。

    八幡「俺は、あまりルナのことを知らない。だから、それを聞いて、判断したい」

    ルナ「どっちにしても、殺すよ」

    八幡「いや、俺は殺されたらすごく根に持つぞ。例え、幽霊になっても友達にはならない可能性だってある」

    ルナ「ぷふっ!」

    八幡「笑うようなことか...」

    ルナ「だって、契約するときに条件を加えれば、友達にできるんだよ。

    ルナはあまりしたくないけど、ヒッキーがなってくれないなら、迷いなくするよ」

    八幡「せめて、ルナが幽霊になった経緯を教えてくれ。それを聞いたら、幽霊になる決心がつく気がする」

    ルナ「本当?このナイフで、切腹してくれる?」チャキ

    八幡「いつの間にペーパーナイフなんて持っていたんだ」

    ルナ「ヒッキーのポケットに入ってたよ」

    八幡「それは白馬の王子の聖剣だ。可及的速やかに返せ。返してください」

    ルナ「ルナが幽霊になったのはね」

    八幡「お、おぅ」

    ルナ「パパとママが、ルナを殺してくれたからだよ」

    139 = 98 :

    すみません 今日は終わりです
    眠気には勝てなかったよ

    141 :

    書いてるものは面白いけど
    書き手が中々にアスペ臭い

    142 :

    アスペはアスペを見分けるというな

    143 :

    ルナ「ルナの病気が重くなって瞼しか動かなくなったときにね、パパとママが銀色の液体が入った注射器を持ってきたの。

    二人とも何度か刺そうとしたんだけどうまく刺さらなくて、失敗してた。

    そして、そのたびに私の手を握って謝っていたんだ。

    あたまの中に鉛が詰まっているみたいに重かったから、何を言っているのか分からなかった。でも、パパとママが泣くのをみるのは初めてじゃなかったから、

    それが収まるまで待っていたよ。ルナにはそれを止めることができないのは,分かっていたから。

    その間にも意識が沈んでは浮かんで,ゆらゆらと境界を彷徨うんだ。

    本で読んだすごく大きな湖に浮かぶ、一本のボトルの気分かな。

    でもルナは運よく、最期に浮かぶことができた。

    気づいたら,ルナはとっても暖かい場所にいたよ。

    真っ暗だけど、誰かがいるの。

    ルナを抱きしめてくれる人がいる。

    それだけで,安心したんだよ」

    彼女は,目を細めて微笑む。

    ルナ「それで、ルナはしんだみたい。気が付いたら,ルナは自分の亡骸の前に立っていたから。周りを見たら、パパとママも亡くなっていたんだ。

    ルナと一緒に、死んじゃったんだって。

    最初は寂しかったよ。でも,代わりに死神さんがいてくれたんだ」

    八幡(『死神さん』だと?ここにきてよく分からないやつがでてきたな)

    144 = 98 :

    ルナ「死神さんは、魂を集めるのが仕事なんだって。本当はパパとママの魂も回収しなきゃだめだけど、ルナがかわいそうだから交換条件をくれたの」

    八幡「交換条件ってなんだ?」

    ルナ「100の命を奪えば、パパとママの魂を返してくれる。

    そう言ったんだ。それから、ルナはころしてころしてころしてころして殺しまわって、特別強い人とは契約を結んで、それでさらに殺したんだ」

    八幡「」

    ルナ「それでやっとパパとママと会えたのに、今度はあの化け物に、パパとママは消されちゃった」

    ルナ「また、死神さんに聞かなきゃ。今度は何人殺せば、パパとママを返してくるんだろう」

    ルナ「今度は、ヒッキーも手伝ってね。ルナ、もう独りはいやだよ」

    彼女はその棺の中で背中をまげて丸くなった。それから自身の白く細い指で握りこぶしをつくった。

    ルナ「まずは、あの化け物を殺すよ。明日には、きっと力も戻っている。それにカードはまだまだ残ってるもん」

    八幡「…ちなみに、その死神さんってどういうやつなんだ」

    ルナ「死神さんについては、何も教えられない。これは死神さんとの約束だから」

    八幡(死神さんは、いやに用心深い奴だな。

    あと、100人ころしたら二人分の魂を返すって、どういう理屈だ。

    仕事が増えて大変そうに見えるのは、俺だけなの?専業主婦志望だからわからない)

    145 :

    ルナ「もういいかな。お話しするのもつかれちゃった」

    八幡「最後にこれだけは、聞かせてくれ。いちばん最初に俺を助けたのは、何のためだ?

    そのとき、ルナの『父』と『母』はもう、お前の元にいたんだろう。

    俺と友達になる必要なんて、なかったんじゃないか?」

    ルナ「…生きていたころ、ルナに友達はいなかった。

    死んでからも、ルナを契約なしに助けてくれる人なんていなかった。

    それに誰もパパとママが見えないから、みんなルナを見くびるの。

    それが許せなかったからだよ」

    八幡「つまり、ステータスってことか」

    ルナ「でも、今のヒッキーは、ルナの大切なお友達なんだよ。

    ルナのことを守ってくれる、大切な」

    八幡「兵隊であり、寂しさを紛らわす人形だな」

    ルナは、きょとんとして、まじまじと俺を見ている。

    ああ、友達がどういうものか、彼女も分かっていないんだ。

    むろん、俺も分かってはいない。

    これまで正しい友達なんて、作ったこともない。

    だけど、間違い続けたからこそ、言えることはあるのだ。

    146 :

    プルートか

    147 :

    八幡「俺の知っている友達はな、ルナの為に命をかけて守ったりしない。

    いいところ、安全な場所から応援するだけだ。お前が言っているそれは『友達』じゃなくて、家族だ」

    ルナ「か、ぞく」

    八幡「仲がいいから、気が合うからといって命を懸けるやつがいるとしたら大馬鹿野郎だと、俺は思う。

    あるいは、一般的に尊いとされる行為に突き動かされた、哀れな奴だ」

    それが悪いとは思わない。ただその自己完結した行為をみる人が、苦しむだけで。

    ルナ「ルナを助けてくれたのは、ヒッキーがばかで哀れだからなの?それとも…」

    八幡「そのどれでもない。俺は賢いから助けたんだ。

    お前を助けたら、感謝されるだろう。それに乗じて、契約を上書きしてもらおうと画策していた。

    お前が好きだからだとか、大切だからだとか、そういう感情は一切、なかった」

    ルナ「ルナを利用する気だった…」

    八幡「そのとおり。お前の身体が弱っていることも知っていたし、両親を失ったことも知っていた。

    だけど、俺はお前の命をすり減らしてでも、生きたかったんだ」

    我ながら、最低の発言だと思う。だけど、真実はいつも一つで、醜いものだ。

    例えば、彼女の亡骸のように。

    八幡「いざとなったら、そのナイフでお前を殺そうと思っていた。

    でも幽霊じゃあ、殺せない。至極残念なことに、寺生まれじゃないんだ」

    俺はルナの元へにじり寄っていく。

    ルナは敵意と恐怖の混ざった目を見開いた。

    ルナ「こないで!」

    八幡「俺を友達にするんじゃなかったのか」

    ルナ「こんな意地悪な人、いらないっ!」

    俺は足をぴたりと止めた。彼女へのこけ脅しは、功を奏したようだ。

    148 = 98 :

    八幡「自分勝手だな。…お前が質問に答えるなら、もう近づかない。いいか」

    ルナはこくりと頷く。

    八幡「俺を発見したとき、周りになにか見慣れないものはなかったか?

    どんな小さなものでもいい」

    ルナは口元に手を当てて、考え込む。

    ルナ「ワンワンのこと?」

    八幡「それ以外だ」

    ルナは眉をひそめて、唸る。

    ルナ「なかったと、おもう」

    八幡「…そうか」

    できるだけ無表情を装ったが落胆の色は隠せなかったらしく、ルナが心配そうに尋ねる。

    ルナ「落とし物をしたの?」

    俺は答えない。答えても、無駄だから。

    もはや、残された手段は二つだけ。

    一つ、契約を上書きするようルナを脅し、自由の身になる、

    一つ、万が一の可能性に懸けて、ここから脱出。ラビットさんと奇跡的に合流し、この世界で生きていく。

    一連のやり取りでルナが『友達』にするべく俺を殺す可能性は排除したはずなので、ここに留まることも可能だ。

    しかし、それは選べない。

    ラビットさんがゾンビと、あるいはあの化け物と鉢合わせする事態が起こりうるからだ。

    ラビットさんに危険が及ばないようにすることが、現時点における優先事項であり、崩れかけた精神を支えてくれる目標となっていた。

    俺は、哀れな大馬鹿野郎なのだろうか?

    149 :

    >>142
    あいつらは自覚がないんだよ
    アスペを認識できるくらいなら最早そいつはアスペじゃないな

    150 :

    アスぺアスぺ騒ぐ奴って、どーみてもアスぺじゃない奴をアスぺ呼ばわりしてるからなぁww
    パッと見、頭おかしくみえる


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