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元スレ京太郎「私は、瑞原はやりです☆」
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京太郎「あぁー、ダメだ」
どうやら、俺の欲しい情報はネットでは拾えそうもない
それでも30分くらい粘っていると、興味を引くサイトに行き当たった
京太郎「『アイドル雀士、瑞原はやり選手を遠くから見守る会』、…公式ファンクラブか」
やっぱり、アイドル雀士ともなると、こういうのがあるんだな
さらに詳しく覗いていく。会合…ファン同士の集りなんてのもあるのか。ふむふむ、場所はと…
京太郎「長野、ね」
ふーむ……一週間後。場所もそんなに遠くないし、一日の間に行って帰ってこられる距離だ
暇は有り余っている。お金は有り余ってない
行動範囲を広げるいい機会だし、瑞原はやりという人物について知るための絶好の機会でもある
京太郎「いっちょ、行ってみっか」
よーしっ、そうと決まればさっそく会員登録だ!えーと、名前はと
京太郎「……」
京太郎「『内木一大』、と」
ごめん、副会長!ごめん!!他の名前が思い浮かばなかったんです!少し変えたから許してっ!!
よしっ、準備万端!あとは、時が来るのを待つだけだぜ!
うおぉ、なんだか久しぶりに生きてる感じする。やっぱり自分から何かしないとな
京太郎「あっ!」
そうだ、大事な事を忘れていた。画像検索
京太郎「どれどれ…」
うわぁ…自分の姿が、しかもきっつい格好でネット上にアップされているのを見ると、なんかこう、クるな
京太郎「水着姿まで……うわぁ、別の意味でたまらんなぁ。うわぁ…」
こういうのを見て、三大欲求の一つを鎮めている方々がいることを想像すると……複雑な気分だ
だって、俺の身体だぜ?
京太郎「や、やめよう…」
これ以上見ていると、俺のガラスのハートが壊れかねない
そうして、ブラウザを閉じようとしたとき、ある女性の画像が妙に目に付いた。少し古めの画像
京太郎「ん、この人の、この髪飾り…?」
瑞原プロと比べると、意志の強そうな鋭い目をした女性。綺麗な人だ
そして、瑞原プロがいつも着けている。いや、今この机の上に置いてある、この髪飾りと
京太郎「同じ…?」
いや、まさかな……そんな偶然あるわけない、か
さっ、くだらない妄想やめやめ!やること決まったし、夕飯の用意をしなくちゃな
来週が楽しみだ!
>>49
半年で技術革命が凄まじい事に……
半年で技術革命が凄まじい事に……
──9月下旬 長野
─須賀京太郎
あれから一週間後。ついに来たぜよ、長野駅
帽子は深めのキャスケット。さらにサングラス、マスク。極めつけはサラシ!
まあ、あの爆乳が完全に隠れているかと言えば、そうでもないが、上着をかなり厚くしたのでうまく誤魔化せていると思う
着ぶくれして暑いけど…そこはなんとか我慢しようじゃないか
この季節もあり、若干変質者のような格好になってしまったが、正体がバレるよりはマシだろう
髪型は悩みに悩みぬいたあげく、シンプルにサイドのお団子に落ち着いた。女性の髪をあまり弄くるのは、俺のモラルに反する
身長はシークレットで底上げ、全体の色合いは地味地味アンド地味。そしてもちろん、すっぴん(28)!
イケる!!
京太郎「くっくっく……!」
「ママー、あの人ー」
「こら、近づいたらダメよ」
京太郎「……」
言動も気をつけなきゃね
地図を見ながら移動する。お目当ての会場のホテルはと
京太郎「これか…………えっ、マジで!このホテル!?」
で、でかい…つーか、今更だけど、ここ結構有名な高級ホテルだったよな?
俺なんかが入っちゃっても大丈夫?警備員さんにつまみ出されない?ポリスメンのお世話にならない!?
いやいやいやいや、男は度胸!なんでもやってみるもんだ!いざっ
怪しまれないように、なるべく堂々と中に入っていく。ドアマン、受付嬢の視線が気になったが加齢に、いや華麗にスルー
上の階のホールを貸切にしているとの話だったので、エレベーターで早速向かう
つーか、アイドルの会合に高級ホテルの大広間を使うのって普通なのか?この界隈のことはよく分からないけど
そして、到着
受付発見、人が集まっているし間違いないだろう
正直、想像していたより人数は少ない。それになんだか、年配の方が多いような、というより若者の姿が全く見当たらない
なんだろう、もっと若いエネルギー溢れる近付き難い空間を予想していたので、少々肩透かしを喰らった気分だ
まあいいや、受付を済ませよう
受付の人を見る。頭皮の砂漠化が進みつつあるが、どうして中々、社会の荒波に揉まれつくした堅牢な雰囲気がある
社会的なヒエラルキーでは上位に位置するであろう、教育者といったところだ
俺の想像が正しければ、おそらく長野県の清澄高校の集会で、よく偉そうな口上を垂れ流している───
京太郎「……」
京太郎「校長っっ!!!?」
校長「うむ、いかにも私は絶好調だが」
京太郎「そっちの好調じゃないっ!」
校長「まあ、いい。会員番号19937──メルセンヌ素数か」
知らねーよ
校長「なるほど、最近入会した若い子がいると聞いていたが、君だったか。ええ……名前は、内木一大くん、か……?」
あっ、やべっ
校長「内木、内木……」ブツブツ
やべっ…やべっ…帽子の外から髪の毛出てるし、やべっ…こんなことなら、名前も考慮して男装してくんだった
京太郎「」ダラダラ
校長「副会長」ボソ
京太郎「っ!!」ビクッ
校長「……ふっ、若いな。マスク、サングラス、それに偽名までして」
あ、あれっ…なんかいい具合に勘違いしてくれてる?
校長「しかし、女装まですることはなかったのでは?」
京太郎「え、え~と、そのー……趣味です!」
校長「こりゃたまげた…いや、若い人の趣味に首を突っ込むのは老人の悪い癖か。しかし、君の気持ちも分かるよ」
校長「私も若いころはそうだった。他人の目が気になるあまり、今の君の様にしてこの会合に参加したものだったよ」
知らんがな
校長「さあ、入りたまえ。そして、はやりんを遠くから一緒に応援しようじゃないか」
京太郎「は、はぁ…」
た、助かったのか…?つーか、『はやりん』とかさすがに気持ち悪いです
危機一髪。どうやら校長は、俺のことを本物の副会長だと思ってくれたみたいだ
変装に力を注いでおいてよかったぜ。あと、なるべく声のトーン落としておいたのが幸いだったな。マスク効果もあったかもしれない
中に入ると、テーブルとイスが用意されている。各自座るようになっているのだろう
会員番号と一致する席に着いて、周りの様子をそれとなく伺った
やはり40~60歳くらいの人が目立つ、というより俺を除けば99%そんな感じだ
仕立ての良いスーツや、一組ウン十万もしそうな革靴を履いた(社会的にはアレの)ナイスミドルの紳士達も混じっている
試しに右隣の人をマジマジと観察してみる。腕時計は
京太郎「パパパパテック・フィリップゥゥ!?」
「?」
俺のGショックが霞む…歩くとき腕をぶつけないように気をつけよ…
時間だ。そろそろ始まりそうな雰囲気になってきた
校長「おや、君が隣か。奇遇だね」
よりによって、あんたかよ
校長「君、今回が始めてだろう?」
京太郎「はぁ」
校長「ならば私が、解説してあげよう。先輩ハヤリストとしてね」
ハヤリスト…?えーと、リアリストとかファンダメンタリストとかの仲間か?
『お集まりいただきありがとうございます。では早速、第59回『瑞原はやり選手を遠くから見守る会』の会合を──』
京太郎「59回目って、結構な数ですね」
校長「年に3回から4回の頻度で開催しているからね、こんなもんだろう」
年に3、4回ということは、このファンクラブは一体いつから?59÷3はと…………俺は考えるのを止めた
校長「さて、ここで質問。59、この数字の意味が分かるかな?」
唐突だな
京太郎「えーと、素数…ですか?」
校長「その通りだ。素数とは孤独な数字だ。1と自分自身以外では割り切ることのできない自然数。そして、素数と素数は決して隣り合うことはない」
校長「もちろん、2と3を除けばだがね。素数とは、決して仲間と一緒になることのできない、孤独な数なのだ」
校長「そして、それゆえに素数とは本当に根本的で"素"な数なんだよ。そういう意味では人間にも似ている」
京太郎「はぁ」
校長「その中にあって、特別な素数の組が存在する。双子素数だ」
京太郎「双子素数、ですか…?」
校長「双子素数とはその差が2となる素数の組をいう。例えば3と5、11と13などだね。つまり最も数の近い素数の組だ」
京太郎「はい」
校長「ちなみに、59と61も双子素数だ」
京太郎「なるほど」
校長「素数と言う孤独な数字にも、双子が存在する。人間で言えば瓜二つの兄弟といったところか」
校長「だが、その双子であってさえも、所詮それは別の数字に過ぎない」
校長「どんなに他人に成りきろうとしても、どんなに同じように振る舞おうとも、結局その人はその人にしかなれないのだ」
京太郎「まあ」
校長「つまりだね」
京太郎「……」ゴクリ
校長「我らがはやりんはオンリーワンということだよ」
真面目に聞いて損したよ
『我がファンクラブの会員数は前年の同じ月に比べて、マイナス3.4%と7か月連続の──』
まるで企業業績の報告のような…
京太郎「会員の数って減っていっているんですね」
校長「そうだね。最盛期には10万以上あったものだが……」
校長「今では脱会した人の数字を繰り上げて、今の君の会員番号付近に落ち着くというわけだね」
京太郎「なるほど」
校長「盛者必衰とはいえ、あの頃を知っている者からすると悲しいものがあるよ」
『それと比較して、咏派の伸び率は依然として順調、特に戒能派はその数をデビュー以来指数関数的に増やし続けており──』
咏派とか戒能派とかなんだよ。女子麻雀界のファンクラブにおける派閥か
京太郎「そういうのもあるんですね…」
校長「そうだね。彼らの勢いは凄まじいものがあるよ。噂によると、うちを脱会して向こうに改宗した者も多いと聞く」
改宗って、宗教かよ
校長「ハヤリストの風上におけない不届き者たちだ。しかし、これが現実なのだ」
校長「これは、あらゆる競争分野で言えることだが、下からの突き上げは年々キツくなる一方なのだよ」
校長「我々も、その権力と財力と政界へのコネを駆使して、はやりんのPR活動は行ってはいるのだが」
京太郎「そ、そうなんすか…」
『我がファンクラブの年齢別の構成を割合にして表すと、この図32-4のようになっており、40代から60代に著しく偏って──』
京太郎「偏り過ぎじゃありません、これ?」
校長「そう思うよ。そして、これこそが我々の組織の問題なのだ」
京太郎「どういう意味ですか?」
校長「若い人がね、全然入ってこんのだよ。君みたいなのは特別だ。いつの間にかここは、ただの年寄りの集りになってしまった」
校長「ライブをしても、ハコが空くのが当たり前に」
校長「握手会をしても、以前のような長蛇の列はもう見られない」
校長「少し前にあった麻雀の大会でも、成績が芳しくなかった。はやりんも、今はなぜか活動を自粛しているようだ」
校長「もしかしたら、そろそろ──」
京太郎「……」
校長「いや、私がこんなのではいけないな。それに君みたいな者もまだきっと全国にいるんだ。大丈夫に決まってる」
『本ファンクラブの創始者で、会長と副会長を務める、kapiさんとmegumiさんからお便りを──』
京太郎「なんでそんな人達が、この会に参加してないんでしょう?」
校長「私もお会いしたことがないから詳しくは知らないがね、あくまで『遠くから』はやりんを見守るのがここの趣旨だからだそうだ」
校長「ライブにも行かない、握手会にも参加しない。ただひたすら、はやりんを遠くから応援してきたのが、彼らなのだ」
京太郎「へえ、硬派なんですね」
校長「聞くところによると、会長と副会長は、はやりんが小学生の頃ある麻雀大会で優勝したのも見て、その魅力に憑りつかれたという」
校長「それからすぐに、この会の前身を結成し、二人三脚ではやりんをデビュー前から密かに応援していたそうだ」
京太郎「へ、へえ…」
犯罪者一歩手前だな
校長「ちなみに、妻子持ちだそうだ」
うわぁ…家族の方お気の毒に
校長「御二方とも今は長野に住んでいるとのことだから、もしかしたら今回こそお会いできるかもと思っていたのだが…」
うわぁ…この校長といい長野終わってんな
校長「megumiさんは少しでもはやりんの近くにいたいと、『早く東京に行きたい…』、と以前テレビ電話でぼやいていたものだよ」
京太郎「ま、まあ、家族の意向もあるでしょうしね…」
そんなんで、転校させられたりしたらたまったもんじゃねーよ
その後もつつがなく会は進行していき、食事の段になった。そういうのもあるのね
お酒も出た。ただ、いくら成人した女性の身体とは言え、校長の手前、飲むのは無理だった
ちょっとくらい、飲んでみたかったものだけど
お酒も入り、皆さん和気あいあいと談笑している。ただしその内容は、混じりっ気なし100%アイドル雀士のそれだ
お、恐ろしい光景…まっいいや、気を取り直そう。現実は、ほどほどに直視するのが良いときもある
京太郎「あー、そういえば、ちょっと聞いておきたいことがあったんですけど」
校長「なにかね?」
京太郎「この、髪飾りなんですけど?」
校長「これは、はやりんのものか…よく同じものを」
京太郎「え、え~と、これは…………女装趣味の一環で手作りを」
校長「う、うむ、なるほど……これが何か?」
京太郎「はやりんの画像検索しているとき、たまたま見つけたんですけど、これと同じ髪飾りをしている女性の画像がありまして」
校長「んー……そうか」
京太郎「?」
校長「私も詳しくは知らないがね、その女性は春日井真深という人だそうだ」
校長「かつてのアイドルだ。テレビでよく見たものだよ。凛々しくて、はつらつとしていて、はやりんとは少しタイプの違う人だったな」
京太郎「そうなんですか」
校長「もちろん、なぜはやりんが彼女と同じ髪飾りをしているのか、ファンの間では噂話が飛んだものだった」
校長「ただの偶然だとか、はやりんが彼女をリスペクトしてのものだとか、あの髪飾り自体は形の似た全くの別物だとか、ね」
校長「私みたいなロマンチストは、はやりんが彼女からそれを受け取ったとみているのだが…どうだろう?」
京太郎「……」
校長「要は、よく分からないということだ。こういうミステリアスな部分も、はやりんの魅力だと思わないかね?」
京太郎「な、なんとも…」
そして、宴もたけなわ、酒の力も借りて気分も雰囲気も最高潮に達したとき
「では、そろそろ、皆でいつもの写真撮影といきますか!」
「ほっほっほ、そうですな」
校長「ほら、君もこっちに来たまえ」
京太郎「お、俺もっすか!?」
校長「あたり前田のクラッカーだよ」
や、やだなー…でも、まっ、仕方ないか
整列しての写真撮影。学校での集合写真を思いだすな
「では、皆さん行きますよー。一足す一はー?」
「「はやっ!」」
何の脈絡もねえ!
パシャリ
_______
____
__
京太郎「ふー、疲れたな…」
なんか、凝った変装したり、思いがけない知り合いがいたり、とにかく色々あって予想以上に疲れたよ
今じゃ、須賀家より居心地の悪いあのアパートの一室が懐かしく感じる。早く帰って休みたい
何気なしに、空を見る
京太郎「満月、か」
日本では、暦を読むことを「月を読む」と書いてツクヨミと言ったそうな──と、文学少女・咲から聞いたことがある
ツクヨミってのはあれだ、よくゲームとか漫画に登場する強そうな神様。日本神話の神様らしいけど、俺はよく知らない
その、漫画とかゲームでお馴染みの神様が、実はもとの神話ではほとんど語られていないと知ったのも、例の文学少女の入れ知恵だ
つまり、よく分からない神様なんだな
みんなに広く知られているものに限って、案外よく知られていなかったりするものだし、その多くは語られていないということか
それが良いことなのか、あるいは悪いことなのか、今の俺にはよく分からないけれども
例の髪飾りを、満月にかざしてみる。月の光が、髪飾りの輪郭をなぞっている。どちらが本物の月なのか
京太郎「春日井真深さんだったかぁ…綺麗なお人よ」
俺はまだ、瑞原はやりという人が分からないし、完璧に分かるなんてことはないんだろうけど、今日でほんの少しだけ何か掴めたような気がする
今まで考えなしに、キツイとか、痛い格好してるとか、「はやっ」、とか言って茶化してたけど、それはもうやめよう
そんなことしたって、彼女の輪郭がぼやけるだけだ。本物がどっちなのか分からなくなるだけだ
俺は、いや俺だからこそ、彼女をアイドルでもプロ雀士でもない、一人の『瑞原はやり』として見なくちゃいけない
でないと、俺のことも分からなくなるから。そう、俺は瑞原はやりなのだから
京太郎「私は、瑞原はやりだ」
俺は、例の髪飾りをつけながらそう言った
>>81
kaiが界なのか傀なのかで話が変わってくるな
kaiが界なのか傀なのかで話が変わってくるな
──9月下旬 長野
─瑞原はやり
先生「では、先週は2次元のイジング模型を扱ったから、今日は3次元に拡張して考えてみよう。簡単におさらい──」
はやり「うーん」
咲「どうしたの、京ちゃん?」
はやり「どうしても崩せない山があったとして、咲ならどうする?」
咲「う~ん……『リン・シャン・カイ・ホーー!!』、ってポーズキメながら叫べば、花が咲いてみんな笑顔になるよ」
はやり「お前の頭の中がリンシャンカイホ―、だよ」
咲「…うん、私も正直そう思う」
ここで言う山とは、もちろん比喩に過ぎない。そしてその山は、和ちゃんに他ならない
あれ以来、何度となくアプローチをかけてはいるけれど、素っ気なく振られるのがせいぜい。無視だって何度もあった
こんのぉー、若いからって調子に乗ってぇー、と2回くらいは思ったものだ
そんなこんなで、さてどうしようかと、頭をひねっているいるところ
咲「京ちゃんがどんな山を想像してるのか知らないよ。けどそういう時は、自分の強みと、相手の弱みを一緒に考えてみるのが一番だよ」
咲「自分の強みでもって、相手の弱みに正面からぶつかることができれば、大抵その山は崩れるものだから」
強みと弱みを一緒に、か
先生「ハミルトニアンはここに書いたとおりだから、後は各自解いてみてくれ。時間は──」
私の強み。麻雀なら、日本上位の実力。歌とかダンスには自信あり。頭の良さは悪くないと思ってる
対して、和ちゃんはどうだろう?
麻雀については、言うまでもなく中々の実力者。容姿は抜群で、胸もスタイルもいい感じ。学校の成績も良いみたい
じゃあ弱みは?
性格がけっこう硬そうだなぁ、と何度か感じたことがある。融通も利かなそう。義理は堅そうだけど
はやり「……」
勝負を吹っかけてみようかな。できればみんなの前での口約束もあった方がいい
なんの勝負にしようかな。はっきり言って、学校のお勉強程度なら負ける気はしない
はやり「テストか」ボソ
いや、テストまでにはまだ期間があるし、そこまで時間はかけられないし、待ってだっていられない
それに、須賀くんの成績を不自然なほど爆上げしてしまうのは、ちょっとどうかと思う
周りに迷惑のかからない、もっと即効性のあるものを
はやり「麻雀だ」ボソ
ふふっ、決まりだね。待っててね、和ちゃん。トッププロの実力を、しかと見せてあげるよ
ああ、放課後が楽しみ。こんな悪巧みみたいなことするの、いつ以来だろうか?ワクワクするな
はやり「くっくっく…」
咲「ちょ、ちょっと京ちゃん」
はやり「ん?」
先生「前でて解いてみようか、須賀くん」ニコリ
はやり「……」
はやり「2次元の場合と同じようにして、シュルツらが用いたように第二量子化の手法をまず活用してみると意外な知見が得られます」
はやり「まず、この行列を──」
咲「はわわ~」
先生「ふみゅ~」
授業は終わった、お昼ご飯はモリモリ食べた、掃除も終わったし、帰りのホームルームだって終わった
後は放課後、部活動だっ!
はやり「よっしゃあ、行くぜぇ、咲ィィ!!」
咲「なに、そのノリ気持ち悪い」
はやり「…行くか」
咲「うん」
部室に向かいながら、和ちゃんとの会話や闘牌についてシミュレーションする
はやり「……」
うんうん、悪くないよこの感じ。久しぶりに頭がフル回転している、この程よく熱のこもってくる感覚
咲「大丈夫?」
はやり「脳汁がプッシャーってなってる」
咲「やっぱり気持ち悪いね」
はやり「言ってろ」
咲ちゃんにも、手伝ってもらうからね
はやり「こんにちはー」
咲「こんにちはー」
優希「おーす」
まこ「おう」
和「こんにちは、咲さん」チラ
咲「うん」
はやり「……」
和ちゃん、私は無視ですかそうですか。まっ、今はこれでいいよ
むしろ都合がいいかな、この方が
咲「和ちゃん、京ちゃんと喧嘩でもしてるの?」
和「いいえ、喧嘩なんてしていませんよ。ただ最近ちょっとストーキング紛いのことをされているといますか…」チラ
はやり「わーお」
咲「京ちゃん…」ジロ
優希「ついに犯罪者までに成り下がったか…」
まこ「ええと、110番110番、と」
はやり「冗談でも止めてください、傷つきます」
和「嘘ですよ。軽めのジョークです…ねえ、須賀くん?」ニコリ
はやり「はぁ…」
これは、須賀くんの誇りと尊厳のためにも、頑張らないといけない感じみたいだね
いつものように部活動が進んでいく。要は打って、喋って、それだけ。けど、例のことに備えて頭の中はフル回転
時間がどんどん進んでいく。そして、そろそろ終わりが見えてきた頃、頃合いだ
はやり「なぁなぁ、頼むよ和さん。俺の話を聞いておくれよ」
和「…またですか。あなたも懲りない人ですね」
はやり「しつこさは、時として武器になることもある」キリッ
和「意味が分かりませんよ。自分の行いを正当化しないでください」
はやり「あーあー、せっかく才能あるんだから、試すくらいはいいだろ?」
和「私には向いていませんし、何よりそんなことしたくありません。第一、あなたも私も素人です」
はやり「みんな最初は素人さ。それにまだ、時々ボーっとしてたり、ため息ついてたりするだろ?」
和「疲れているだけです」
はやり「なあ、和。みんなが笑顔になって喜んでくれたら、それはとても素敵なことだろう?」
和「それは、まあ、そうなんでしょうけど…ですけど、それは私の仕事ではありませんし」
はやり「歌ったり、踊ったり、ときどき手品とかもしてみたり」
はやり「自分がみんなを喜ばすことができたと実感できたとき、それはもう体全体が満たされて、心が豊かになって」
はやり「すごいんだよ、あれは。他の何かに例えようのないくらい」
はやり「みんなを笑顔にできるってことは、それだけで尊いことなんだよ」
和「なぜ、あなたにそんなことが分かるんです?」
はやり「分かるよ。だって…………私は」
和「?」
私は、、、、、、私は、須賀京太郎
だから、瑞原はやりじゃないし、アイドルでもない。ただの男子高校生
『なぜ、あなたにそんなことがわかるんです?』
なら、私は一体──
はやり「……」
和「大丈夫、ですか?」
久「いいじゃない、和。須賀くんの頼み、きいてあげれば。何の話か知らないけど」
和「他人事だと思って…って、来ていたんですね」
久「だって、他人事だもーん」
和「……」イラッ
久「でも、本当にそうなのかしら?嫌だと感じたら、あなたはもっと強く拒絶するタイプと思っていたんだけどね」
和「…誤解ですね」
久「実はまんざらでもなくて、『須賀くんなら、私の固く凍った心を溶かしてくれるかも、キュン///』、なーんて思ってるんじゃないかしら」
まこ「乙女じゃな」
和「そんなオカルトありえません。あと、その声真似やめてください。不快です」
久「あーらら、怒られちゃった」
和「もう」
久「それにね、須賀くんは麻雀はヘッタクソだけど、相手が嫌なことをそんなにするとは思えないのよねー」
和「……」
咲「褒めているのか、けなしてるのか…」
久「まっ、いいわ。そんなに嫌なら、なんか条件出して断わっちゃいなさいよ。それが分かりやすいわ」
和「条件?」
久「ズバリ勝負ね」
まこ「『これに懲りたら、もう私に近づかないでよね、変態っ!』、ってことじゃな」
久「今の可愛かったわよ、まこ。今度からは、ツンデレキャラとしてもやっていけるわね」
まこ「阿呆め」
優希「うまうま」モグモグ
…いつの間にか、思い通りの展開になってる。本当は自分でここまで持っていくつもりだったのに
でも、ちょうどいいや
はやり「いいぜ、それで。勝負しよう、和。それでこの話はもう無しだ」
和「…分かりました。では、何で?」
咲「自作小説」
優希「タコス作り」
久「ガールハント」
まこ「二人で決めたらええ」
はやり「部長以外、まともじゃない」
まあでも、次に和ちゃんが何を言うか、想像はついてる
和ちゃんは、私がどれだけ本気かを試すつもりだ。そしてこの場所、空間。なら、そこから導き出される答えは一つに決まってる
それは
和「麻雀にしましょう」
ほらね、分かりやすい子。打ち方もそうだけど、その機械的なまでの均質さは彼女の弱点でもある
だから、私がわざわざ誘導するまでもなく自動的にこうなる
はやり「いいぜ」
「「えっ!?」」
優希「ほんとにいいのか京太郎?間違いなく負け戦になるじぇ!お前が死んだら、誰が私のタコスを作るんだじょ!」
久「蟻がクジラに戦いを挑むようなものよ!」
まこ「もうちょい何か、いい案があると思うんじゃが…えーと、ほら…うーんと、ほら、腕相撲とか?」
咲「次回っ、京太郎死す!」
はやり「おいおい、君たち酷くない…いいんだよ、これで」
和「あなたがどれだけ本気なのか、私に見せてください。まあ、それができればの話ですけどね」
なるほどね、須賀くんを、いや私を見くびっているってわけだ。自分は勝つに違いないと
だけどね、真剣勝負の場ではね、それは命取りになるんだよ
あなたの戦い方は知っている。100回やって、その中で如何にして相手より多く勝つか、これに尽きるから
でもね、和ちゃん。たった一回の真剣勝負において、その考え方がどれだけ危ういことなのか、身をもって教えてあげるよ
はやり「ごめんね、和ちゃん」ポツリ
和「?」
残念だけど、あなたは負ける。だってそこは、私の独擅場なのだから
はやり「さあ、席に着いてくれ。和、咲、それと部長もお願いします」
まこ「おんしらはともかく、わしらは本気で打ってもええんか?」
はやり「ええ、そうしてください」
だって、そっちの方が計算しやすいから。むしろこれはね、都合のいい人選なの、まこちゃん
はやり「さあ、行きますよ」
ねえ、和ちゃん。私が教育してあげるよ
_______
____
__
優希「勝った…のか?」
久「ど、どうやら…そうみたいね。ちょっと信じられない展開だわ…」
優希「相変わらずの素人麻雀で、のどちゃんに競り勝つとは…」
久「運が良かったとしかいいようがないわね」
咲ちゃんが1位、まこちゃんが2位、私が3位、そして──
和「な、な、なっ……」
はやり「4位、和」
須賀くんの打ち方をできるだけ模倣しつつ、咲ちゃんとまこちゃんを利用しながらのギリギリ3位
我ながら、計算されつくしたほぼ完璧な闘牌
ねえ、和ちゃん。弱いなら弱いなりの戦い方っていうのがあるんだよ。強いだけのあなたには、ちょっと分からないかもしれないけどね
咲「……」
まこ「なんか、変な感じのする対局じゃったな、咲」
咲「…ええ」
ちょっと不自然が過ぎたかな。咲ちゃんは麻雀に関してだけは、異様に勘が鋭いから何かを察知したみたい
まっ、それでも私の正体が分かるなんてことはあり得ないけどね
久「で、どうしよっか?」
まこ「時間も時間じゃし、いつもなら帰る場面なんじゃが…」
優希「のどちゃん放心しちゃってるじぇ」
和「」
はやり「いいですよ。俺が見ときますんで、正気に戻ったら一緒に帰りますから」
まこ「そ、そうか?」
久「そうね、じゃあ後のことは、若い二人にお任せして」
まこ「お見合いか」
優希「ご趣味は?」
咲「読書を少々、麻雀はたしなむ程度に//」
優希「なんと控えめで素敵な女性!結婚しよう!!」
咲「まっ///」
はやり「…とっとと、帰れ」
和ちゃんと私以外は、それからすぐに部室から姿を消した
今この部室には、私と和ちゃんだけ。しかも、和ちゃんは放心状態
このくらいの年齢の男の子は、女の子と二人っきりになるとすぐ襲っちゃうものだって、物の本に書いてあったような
そして、そこから始まるラブストーリーもあるって、須賀くんの持ってたちょっとエッチな本に書いてあったような
そういえば、東京ラブストーリーの中で、女の子の方からセック──生殖行為を要求する場面があった。今で言う肉食系ってやつ?
もしかしたら、ここで和ちゃんを襲わないのは、それはそれで典型的男子高校生としては不自然なことなのかも、どうなの?
はやり「えいっ」
試しにほっぺを突っついてみる
はやり「わっ、わわっ!?すごい弾力…!」
…今度は花瓶の水をちょっと腕に垂らしてみる
はやり「す、すごい…!弾く、弾いてるよ、これ!?」
はやり「……」
はやり「あー…」
なんだか虚しくなってきた。やめよう、こんなことしても何にもならないよね
ごめんね和ちゃん、あなたの身体でちょっと遊んじゃった
和「────はっ!」
あっ、正気に戻った
はやり「あー…と」
和「どうやら…私は負けたみたいですね」
はやり「そうだな」
和「…どうしてなんでしょうか?」
はやり「勝負は時の運。今回ばかりは、運がたまたま俺を味方にしてくれただけさ」
和「そうでしょうか?。私には…いえ、やめましょう。では、約束通りあなたの──」
はやり「本当に嫌だったら、断ってくれていいんだぞ。俺は、そういうことはしたくない」
なんて自分勝手でわがままな台詞。身体だけじゃなく、心まで高校生に戻ってしまったかのような…ごめんね、須賀くん
和「……」
和「私は、あなたの言う通り、夏のインターハイからずっと、どこか変な感じがしていたんです」
和「最初はそれが何なのか、よく分かりませんでした。だから、どうすればいいのか分からなくて、一人で悶々としていたんです」
和「そんな時、須賀くんがいきなり変なことを言いだして、それを聞いた瞬間頭がカーッとなってしまって」
はやり「変なこと、とは失礼な」
和「それからしばらくは、あなたの言った言葉の意味はよく分かりませんでした。というより、実感の方だけが伴わなかったといいますか」
和「けれど、何度も何度も頭の中で反芻していくうちに、やっぱりその通りなんかじゃないかって、最近思えるようになりました」
和「ねえ、須賀くん。私は、一体どうしたらいいんでしょうか。あなたはその答えを知っているのでしょう?」
はやり「よく大人は、『子供には無限の可能性がある』とか言うけど、そんなのは嘘っぱちだ」
はやり「そんなものは、何にも成れなかった大人が、過去の自分に対しての幻想を、その子供に押し付けているに過ぎない」
はやり「大抵の人間は、何にも成れないし、何かを成すこともできない、所謂『普通』の大人になっていく」
はやり「別にそれが悪いってんじゃない、ただそれが現実ってだけだ」
和「はい」
はやり「だけど和、お前には才能がある。お前には、この社会の中で、特別な何かに成れる可能性を持っている」
はやり「その可能性が、いずれどのようにして結実するのか私には分からない。けど、俺はそれを見てみたいとも思ってる」
和「……」
はやり「お前に足りないのは『他人』だ」
はやり「他の人間をもっと知って、心から憎んで愛し、そして喜ばすことができるようになれば、別の世界が見えてくる」
はやり「その先に、お前の欲しい答えがあるはずだ」
はやり「だから、もう一度だけ聞くぞ。これが多分最後のチャンスだ」
そう、私とあなたの
和「はい」
はやり「和、アイドルになってみないか?」
和「はいっ!」
その笑顔は、かつて私が持っていたものをすべて満たしているかのような、そんな笑顔だった
タイムループと同じ人が書いてるのか
あれすげぇ好きだった
はやりんとか俺得、こっちも期待
あれすげぇ好きだった
はやりんとか俺得、こっちも期待
タイムリープの人なのか
あれすげぇ好きだった
はやりんとか俺得、期待
あれすげぇ好きだった
はやりんとか俺得、期待
原村父が娘のことを知ったらどう反応するやら
これをいいことにはやりんにお近づきになる可能性もあるのかね
これをいいことにはやりんにお近づきになる可能性もあるのかね
部長はまこ?
はややなアイドルになりきるはやりんだから京太郎にもなりきれるんだろな
はややなアイドルになりきるはやりんだから京太郎にもなりきれるんだろな
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