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元スレ八幡「ずっと前から好きでした。俺と付き合ってください」姫菜「・・・いいよ」
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靴屋を出て目的地であるサイゼを目指す。
当然俺の手には先程の紙袋に加え、靴屋の黄色いビニール袋も携えられていた。
おかしい、まだ俺何も買ってないよね、まあ小町と買い物行った際もこんな状態か。
窓越しに見えるショップのディスプレイをつらつらと眺めつつ、大通りから少し逸れた道に入る。
と、ふと一軒の店に目がとまった、こじんまりした店構えだが雰囲気ある佇まいが好感を抱かせる。飾られた服も何となく俺好みだ。
サイゼまで行った後、ここまで戻って来るのも無駄足となる。空腹の女王にお叱りを受けるかもしれないが、効率を重視する俺としてはここで一着くらい買っておきたい。
うまいこと行けば食事を取って解散という流れも期待できる。まぁダメならダメで三浦はバッサリ断ってくれるだろう。
八幡「なぁちょっとあの店見てみたいんだけど?」
俺が指した先の店を見た三浦は一瞬微妙な顔をしたが、直ぐにいつもの気怠い表情に戻る。
あーし「ふーん、いいよ」
思ったよりアッサリと了承され、身構えていた俺は少し拍子抜けするも、女王の気が変わる前にと足早に店に向かう。
店の中は所狭しと服や帽子、靴などがディスプレイされ、ガラスケース内には革製の小物やシルバーアクセ等がディスプレイされている。商品はほぼメンズのみで構成されてるようだ。
店の中をざっと見回していると店員さんが背後から話しかけてきた。
気配を消していたのに捕捉されたようだ、この店員できる。…振り返るとかなり強面の店員さんが笑顔でこっちを見ていた…
結論、店に入った事を後悔しました…むり、ムリ、いや無理でしょ。
この店員さん、リア充オーラ出し過ぎだし、怖いし、ピアスいくつ空けてんの?怖いよ、なんで腕にいっぱい絵書いてんの?怖いから!客商売なのにその容姿はマイナスでしょ。
こちとら絶句しているのにも関わらず、店員さんは矢継ぎ早に営業トークを浴びせかけ、俺の精神力を膨大に削ってくる。もうやめて八幡のライフはゼロよ。
涙目で相槌スキルを発動させていると、三浦がコッチに来てくれる。た、助けて、ご主人様。
あーし「店長ゴメン、こいつあーしの連れなんだ」
店長「あれっ?うそ、もしかしてユミコちゃん?…マジか、久しぶりじゃん!髪染めてっから一瞬誰か分かんなかったわ」
どうやら俺を縮み上がらせた店長らしき人物は三浦の知人だったようだ。知ってる店なら入る前に教えてくれれば良かったのに…しかしあれだな、美容院の人といい、この店長といい、三浦の知人は恐怖というカテゴリーでまとめられているんじゃないだろうか。
猛獣というサークル作った方がいいんじゃないか、檻に入れという意味でも。
店長の言葉通り三浦も久しぶりの来店みたいで、表情から見るに若干、距離感を図っているように見える。
あーし「うん、久しぶり」
店長「いやー元気してた?そうか…今はもう高校生か、しかしあれだな『可愛い』から『綺麗』になってて一瞬わからなかったわ」
あーし「あいかわらずだね、口上手いところ」
店長のくだけた会話術も手伝ってか三浦の表情も緩む。
店長「いや、えらい美男美女のカップルが来たなって思ってたんよ、んで何?このクールなイケメンにーちゃん、ユミコちゃんの彼氏?」
三浦はともかく、この人今、俺のことイケメン扱いした?まさか俺、もしかして……
なんて勘違いをする程俺は未熟ではない。
今のはあれだ販売スキルの一つ、とりあえず客をヨイショして気持ち良くさせたところに高いもの売り付けようって算段だ。
親父の話は為になるなぁ。
あーし「彼氏じゃねーし、ってかコレ中身は悪いけど素材は悪くないと思うんだよね?なんか適当に見繕ってくんない?」
いやいや俺確かに見てくれは悪くないと思ってたけど、お前に中身を否定される程、酷いこと……まぁテニスで卑怯?な手段で勝ったり夏合宿では小学生に非道い仕打ちしたなぁ。
そいやコイツ文化祭での事、どう思ってんだろ?相模をウザいとは思ってたみたいだが、あの一件についてイマイチ三浦の真意は掴めていない。
まぁそれはさておき三浦から依頼されたコワモテ店長さんはというと、俺を上から下へと一瞥し、ふむと呟き店の裏に入っていった。
あーし「あの人一応ここの店長なんだけど、別でスタイリストやってんの、結構やり手みたい。どっちかーつーと、この店が趣味でやってるような感じかな」
ほうそうかスタイリストだったのか、道理で怖いハズだ…ところでスタイリストってなに?食えんの?
待っている間、三浦からスタイリストのいろはを簡単に説明してもらっていると、店長が何着かの服を携え戻って来た。
服はどれも年季が入っている。古着というのか、俺が言うのもおこがましいがどれもセンスがいい。
店長「うーん、これとこの組み合わせがいちばんベストかな、売り物じゃないから気に入ったならタダでいいし、まぁとりあえず着てみてよ」
店長から受け取った服を横から覗き込んだ三浦が口を挟んでくる。
あーし「マジ?これって結構いいやつなんじゃないの?」
そう言われ改めて服を見ると確かに服に造形のない俺でもなんとなく高そうな雰囲気は感じることができた。
店長「俺のお古でもう着ないやつだし、それに他ならぬユミコちゃんの彼氏だしね」
あーし「彼氏じゃねーし、……でもありがと、ほらヒキオもお礼言うし」
バシッと背中を叩かれる。
八幡「あ、ありがとうございます」
店長「いやーでもユミコちゃんがまた来てくれて嬉しいよ。中学の時以来だからねぇ、いやあの頃のユミコちゃんも可愛かったんよ、黒髪で強気でオシャレにも精一杯背伸びしてて」
さすが三浦、中学の時からこんな店に出入りしてたのか、でもこの店ってメンズしか置いてないよな。
あーし「っもう、昔のことはいいから、ほらヒキオも早くそれ試着しろし」
三浦に捲し立てられたのと、まぁ俺も店長の持ってきた服がちょっと気になっていたのでそそくさと試着室に入り手渡された服を見る。
グレーの薄い皮のジャケットと所々に解れや切れ目が入っているダメージジーンズ。
先ずはジーンズを履きシャツはそのままでいいと言われたので上着を脱いでジャケットを羽織る。サイズはやや大きめかもしれないが気になる程でも無い。何度も着られた為か新品のような堅さもなく程よく馴染む。
これはなかなか似合ってるんじゃないかと、斜め後ろの姿見を見て唖然とする、なん…だ、と?
これは果たして一体、俺なのか?見違えたというのか見間違えたが正しいのか…
自分の事は自分が一番分かっている、人に何か言われる度に言い訳のように使ってきた言葉だが、しかしその言葉は俺にはまだ早かったようだ。
ハッキリと言おう。俺!カッコイイ!意外!
どういうことだってばよ?服を変えただけでこんなに印象変わるの?変化の術か?
お礼を言わねばとカーテンに手をかけたところでピタリと手が止まる…
いや待て八幡よ、…お前はまた同じ過ちを繰り返すのか?…そう、思い出せ、過去に超絶カッコイイ服を買ってドヤ顔で妹の前でファッションショーをした時の事を…
その服で外出たら兄妹の縁斬るからねと宣言された時、もう二度と自分のセンスを過信しまいと誓ったではないか。
…小町のあの目はマジだった。あの時初めて妹は本当に斬る人間だと認知したのだ。
トラウマセンサーがすんでのところで働いたことも手伝い、なるべく平静さを装いながらおそるおそるカーテンを開き、二人のリアクションを見る。
八幡「ど、どうかな?」
俺が呼びかけると三浦は店長との会話をやめ、こちらを見る。
すると驚いた表情で目を見開き、その整った唇から言葉が漏れる。
あーし「うそ……っこいぃ」ボソ
うん?最後何つったんだ?隣の店長には聞こえてたようでうんうんと満足そうな顔で頷いている。
店長「やっぱこの組み合わせで良かったな、かなり似合ってんじゃない?自分でも結構気に入ったでしょ?」
八幡「は、はい、身体にもすごく馴染んで着心地もいいし、な、なぁ?、、おい、三浦?」
褒められた恥ずかしさを誤魔化す様に、まだ固まったままの三浦へ話題を振る。
あーし「あ…、う、うん、カッコイイ…ち、ちがくて、いや似合ってんだけど、それは服がいいから、そう服と髪型のおかげだし、勘違いするんじゃねーし」
八幡「…マジか、似合ってるのか?」
これまでの曖昧な表現ではなく、直接的な言葉を言われ少し照れる。
言った本人も失言だったとばかりにそっぽを向くも、チラチラと目線だけの視線を感じる。
あーし「服と髪型だけね、後は腐ってるから」
あれれ~おかしいよ~?さっき素材は悪くないって言ってたよね?腐ってるのは眼だけだから。
コナン風に脳内ツッコミを入れていると、店長は今のやりとりを聞いて何か思いついたようだ。
店長「そうか、あとは…ちょっと待って」
そう一人納得したように呟き店長はレジの方から何やら取り出してきた。
店長「これ掛けて見てよ」
手渡されたのは黒縁の眼鏡だ、よく見ると度は入ってない、伊達か。
俺の脳内小学生キャラを読んだのか?…うんあるな、いやない。
店長に促されるまま、眼鏡を掛ける。
あーし「っ……」
店長「うぉっ!?…自分すごいなぁ、これビフォーアフター出れるで」
なんということでしょう、匠の持って来た何の変哲もない唯の眼鏡、それが彼の顔に掛けたとたん、なんと別人へと早変わり、あれほど目が腐っていた八幡が、こんなにきれいな八幡へと生まれ変わったではありませんか。
これでもう引き立て役んと言われる心配はありません。
相談者である三浦さんも、あまりの変化に絶句しています。
家の大改造だった番組は俺の知らない間に人間の大改造へと変わっていたようだ、んな訳あるか。
まぁ確かに姿見に写る自分は全くの別人に見える。誰こいつ?三浦なんか頬を染めてぽーとしちゃってる。
やめて俺をそんな目で見ないで。
店長「うん、その服が似合うなら…、ちょっとこっちも着てみてよ」
店長は他の服も見繕いながら、いろいろ着こなし方のコツなんかをアドバイスしてくれた。
三浦はというと、カーテンを開く度にチラリと見てはくれるのだが視線は合わせず、ずっと無言だ。
店長「やっぱこれが一番いいかな、ユミコちゃんもそう思うでしょ?」
一回りして最初の服に着替えた俺を見て店長は頷く。
あーし「う、うん」
やっと口を開くも、いつもの強気な三浦は何処へ行ったのやら、えらく殊勝な態度にこちらもどう対応していいのかわからなくなる。
店長「それ、もう着て帰ったらいいよ」
言いながら店長はレジに向かい、元々着ていた服を店のロゴが入った紙袋に詰めてくれた。
ついでにと試着した他の服もいくつか重ねてくれる。
流石にタダは申し訳ないのでいくらか払わせて欲しいと申し出るも、眼鏡は売り物だからそれだけでいいと言われるとコミュ症の俺にはそれ以上言えるわけもなく、仕方なくと財布を取り出す。
と、レジ下のディスプレイに並んだ品に目がとまった。
どうなんだろうと考えこんでいると何かを察した店長と目が合い、ニヤリと笑みを返してくれた。
× × ×
店長「毎度あり~、また来てね~」
店先の扉まで見送ってくれた店長に再度お礼をと、いいかけた先を三浦が代弁する。
あーし「店長ありがと、でもホントにいいの?」
店長「いや他ならぬユミコちゃんの彼氏だし」
あーし「彼氏じゃねーし」
店長「ははっ、まぁ俺の古着でもう着ないやつだから特別サービスってことでさ、けっこう愛着持ってた服もあるから、ユミコちゃんと同様、大事にしてよね」
レまむらやウニクロ愛用の俺でもこれらの服がそれなりのものだってことは分かる。
八幡「は、はい、ちゃんと大事にします」
あーし「ちょ、ヒ、ヒキオ何言ってるし」カアァ
顔を真っ赤にして慌てふためく三浦はさておき、店長に何度もお礼を言って店を出た。
さて行くかと三浦を見るも先程と同様、何故かこっちを見てくれない。まあお礼は言っとかないとな。
八幡「いや三浦のおかげでいい買い物が出来たよ、ありがとな」
あーし「だしょ、ちゃんと大事にしろし…って、ふ、服のことな、…ほらっさっさと行くし」
追い立てられるように急かされ歩みを進めると、隣から呟きにも似た言葉が聞こえる。
あーし「……でも意外」
八幡「…ん、何が?」
あーし「あの店長、結構人を見るんだ、仕事でも気に入らない人の依頼はどんなに条件良くても受けないくらい、……ヒキオは気に入られたみたいね」
八幡「…三浦の連れってことで良くしてくれたんだろ、だったら三浦のおかげってことなんじゃないか」
初見殺しとして名を馳せた俺が初対面でいきなり気に入られるとかありえないしな。良くて社交辞令の挨拶を交わしてくれる程度、最悪無視されるまである。
かと言って二回目以降でも気に入られるとかはないけど…、いや二回目の機会自体が無かったな、何それ哀しい。
俺が自虐史のページをめくっていると更に三浦は続ける。
あーし「あーしはなんか気に入られて結構良くしてもらったんだけれど、昔の連れはそんなこと無くて、それで最後にちょっと揉めちゃってさ、あの店には少し行き辛かったんだ」
八幡「…まぁ好みなんて人それぞれだろ、仮に俺が気に入られたとしても、単なる気まぐれみたいなものかもしれないしな」
三浦はさらに何かを言おうとするも、しばし沈黙し、歩みを早め俺の隣に並ぶ。
さっきまでとは異なる雰囲気にふと三浦を見ると、三浦もつられてこっちを向く。
目が合った瞬間、うっと声を詰まらせ顔を背ける。
あーし「……外して」
八幡「は?」
あーし「だから眼鏡外してって言ってるの」
八幡「え、や、やっぱ似合わないのか?」
あーし「い、いやそうじゃなく…、に、似合いすぎるというか、じゃなくて、そ、そうヒキオらしくないから…」
八幡「そ、そうか…まぁ何でも言うこと聞くって約束だしな」
言いながら眼鏡を外して胸ポケットに入れる。
三浦は伺うようにこちらを向いて頷く。
あーし「うん、ヒキオはやっぱそっちの腐った目の方が合ってるかも」
いつもの気怠い表情から一転、屈託のない無防備な三浦の表情に不覚にもドキリとしてしまった。
くそう、軽く貶されてるのに、可愛いから何も言えねえじゃねーか。
あーし「お腹空いたし早くいこ」
そう言って、三浦は笑った。
本日は以上となります。
毎回毎回、遅くてすいません。
年度末は忙しいですね。
それではまた。
毎回毎回、遅くてすいません。
年度末は忙しいですね。
それではまた。
店を出て再びサイゼに向けて歩を進める。さっきの店を出てからというもの、すれ違う人の視線がやけに突き刺さる。今までより若干、目立つ服装ではあるものの、そこまで特記すべきものでもない……ハズ。
それになんというかやたら女性と目が合い、慌てて逸らされるのが非常に気になる。意図して異性と目を合わせないようスキルを磨いた俺と目が合うのだから一層不可解でもある。もしこれが俺一人であればきっと高い絵を売りつけられているだろう。
時刻は4時ちょい前、日が短いせいか既に夕暮れの気配が漂いつつある。
駅前は車や人が行き交い喧騒に満ち、その雑踏を抜けサイゼに到着した。
店内は駅が近くなったせいか客層も若者だけでなく、家族連れや年配の方もチラホラ見える。
店員さんにお好きな席へどうぞと案内され奥の席へと向かう。当然とばかりに最奥の席に鎮座した女王の向かいに座りメニューを三浦へ渡そうとするも、既に三浦は注文ボタンを押していた。ポチッとな。
自由な奴だなと三浦に目を向けると目が合う、少し挑発的な視線は……気のせいではないな。ほぉ、このプロのサイゼリアンである俺を試してるのか?いいだろう。
時間的に食べ過ぎると夕食に差し支えるも代謝の活発な十代の若者には空腹が堪えきれない、3時台という点からもデザートメニューから選ぶのがベストだろう。であればコレしかない。
丁度都合よく通り過ぎた店員さんが呼び出し番号を見て直ぐに注文を取りに来る。
八幡・あーし「「ミルクアイスのせフォッカチオ……」」
お、同じだと……だがっ
八幡・あーし「「とドリンクバー」」
……ほう、やるじゃないか。俺と同じ思考トレースをなぞるとは。
俺と三浦が謎のシンクロノシティを発揮すると、しばし間が空いた。
追加の注文がないと判断した店員さんはオーダーを繰り返し、お二つずつでよろしいですねと微笑ましい物をみる眼差しで確認を取る。やめて俺達をそんな目で見ないで。
あーし「真似すんなし」
八幡「いや、まて、同時だっただろうが! むしろ俺のほうが少し早かったまである」
あーし「はぁ? あーしの方が先だったし」
知らず大きな声が出ていたようで、周りからクスクスと嘲笑めいた笑い声が耳に入り急に恥ずかしい気持ちになる。
対面に座る三浦も気恥ずかしさからか通路と反対側を向いて髪先をみょんみょんと引っ張っていた。
八幡「飲み物コーヒーでいいか?」
なんとも言えない空気に耐えきれず、席を立つ。
三浦は、ん、と頷き取り出した携帯をカチカチやっている。
ホットコーヒーを二つテーブルに置き、席につく。持ってきたコーヒーに砂糖を入れ一口啜り、そのほろ苦い熱さが喉を通り抜けると今日一日の疲労も若干癒される。
三浦はコーヒーカップの取っ手に指を掛け、少しの逡巡の後、話を切り出してきた。
あーし「ヒキオはさ、海老名の事好きなの?」
何の脈絡もなくそう言い、コーヒーカップを口に運ぶ。
いきなりどストライクだな。……まぁこの質問はまだ想定内だ。
八幡「まあ好きじゃ無かったら告白なんてしないだろう」
大嘘である。むしろ嘘しか無い。
聞いた三浦は訝しがるような視線を送るもそれ以上は突っ込んでこない。
あーし「じゃあちゃんと海老名のこと大事にするって事でいい?」
確認、というよりは言質を目的とした問い。
しかし、そこに秘められている想いがきちんとある。
だから俺もここは応える。
八幡「……あぁそれでいい」
あーし「ん、分かった、聞きたかったのはそれだけ」
そうか、それが聞きたかったのか……。
だがなんだ、他にもいろいろ根掘り葉掘り聞かれると身構えていただけに肩透かしを喰らったような感じもするが、俺もこの機会に知りたい事を聞いておこう。
八幡「三浦はさ、俺のことどう思ってんの?」
俺に向けられる忌避や憎悪といった負の感情であれば、会話や視線からさほど違わずに読み取ることが可能だが、三浦が当初持っていた無関心から明らかに変化した感情については未だ読み解くことができない。
あーし「は、はぁ? な、なに言ってんの? あんた海老名と付き合ってんでしょ、あーしには隼人が」
八幡「い、いや違う、そうじゃなくてだな、俺みたいな嫌われ者がお前の友達と付き合っていることについてどう考えてるのかってことだ」
あーし「ま、紛らわしい言い方すんなし」
回りくどいことをせず、ストレートに聞いた方が良いと思ったんだが、まぁ不味かったのか。
三浦は少し間を置き、口を開く。
あーし「……あーしは別にあんたが悪い人間だとは思ってない、性格は悪いと思うけどね。千葉村の時そう思ったし、文化祭の時だって結局相模が悪いんじゃん。バンドであーしの組が急に延長させられたのもそれが原因っしょ? あーしも言いたい事言う方だから別にアンタが相模に酷いことしたとは思ってない」
意外な回答に驚く。三浦がそんな風に捉えていたとは……。
思ったより見ている。これは女王への偏見を改める必要があるかも。
八幡「たしか三浦も相模を気にかけてたな、ほら相談メールで」
あーし「べ、別にそんなんじゃなくて、相模が暗くてウザかっただけで……、あーし泣けばいいって思ってる女や、過ぎたことをグチグチ言ってる奴……、嫌いなの」
そう言いながら三浦は窓の外に目線を移す。
あーし「相模もあれから少し変わったみたいだし、今は別にどうでもいいし……」
八幡「でもまぁ三浦が俺の事、そこまで悪く思っていなかったのは意外だな」
あーし「べ、別にヒキオに興味が無かっただけ、勘違いすんなし……」
うん、……そうですよね。
あーし「……でも、昨日海老名からあんたと付き合うって聞いてさ、あの海老名が付き合うって思ったんなら何か理由があるのかなって、少しあんたの事考えてみたの」
あーし「結衣もあんたの事気に掛けてるし、海老名はさ普段あんなだけど、多分色々考えてる…
…、あの子があんたの告白を受けたならそれは……、そういう事だと思う」
前向きに捉えている三浦には悪いが、その色々ってのは風よけ用の道具としてだけどな。
俺が黙っていると、真面目な発言に照れたせいか三浦が急に話題を変えてきた。
あーし「そいやさ、海老名のあの趣味ってどうなんの?」
確かに……どうなんだろう?BLと恋愛の両立について考えてみるも、結局俺の事好きじゃないんだから、ただ趣味が本物というだけでいいのだろう。
八幡「まぁ趣味がホントだとしても、実際はやはちなんてあり得ない妄想の世界なんだから、そこはスルーでなんとかなるんじゃないか」
でも新幹線での時の様に暴走されてもどう対応したらいいんだろうか?
海老名テイマーとして実績十分の三浦にご教授してもらおうかな。
半ば本気で依頼しようか逡巡していると、三浦は意外な所に反応してきた。
あーし「……隼人はさ、あんたの事気に掛けてると思うよ」
なん、だと……?
おいおいおい勘弁してくれ、遂に海老名さんの腐教活動が三浦までをも洗脳しちゃったのか?
それとも本当に葉山が……?
八幡「お、おれに、そんな趣味はない」
ドン引きの表情で腐海へのいざないを拒否する。
あーし「はぁ? ……あ、っち、違うし。異性としてじゃなく、ん? 同性として? ち、ちがくて隼人はただヒキオ自体に興味を持ってる? あれっ?」
何度も言い直そうとするも脳内がどうしてもあっち方向に逝ってしまってる。腐海の瘴気を吸いすぎたんじゃないのか? 姫様~マスクを~。
あーし「とにかくっ、そっち方向じゃなくて隼人はヒキオの事意識してる、どういう気持ちかは分からないんだけどさ……、隼人をずっと見てるあーしが言うから間違いないし」
言いたいことは分からないでもないが、あまりまともに取り合いたくない。
八幡「なんだそりゃ、学校のトップに君臨する人気者が最底辺の俺を憐れんで手を差し伸べたいと思ってるだけだろ、そんなもんコッチは願い下げだ」
まぁこう言えば……ほら、やっぱり
あーし「……ヒキオ」ゴゴゴ
……ちょい煽り過ぎたかな? 本日最大級の怒りが滲み出てる。やべぇ。
とそこに、お待たせしましたー、とナイスなタイミングで店員さんが注文した品を持ってきてくれた。三浦も流石に怒りのオーラを抑え皿を受け取る。
きっとお腹が空いててイライラしてたんだな、うん。
八幡「さ、さぁ食べようぜ」
不承不承と三浦も頷く。お互いにしばし無言でアイスを口に運ぶ。
嫌な会話の流れを断ち切ろうと話題を逸らす。
八幡「三浦はさ、葉山に……、言わないのか?」
あーし「……」
告白という言葉は何かちょっと恥ずかしくて使えなかった。
意図は伝わったようだが、軽々しく触れていい話題でも無かったか。
八幡「い、いや話したく無いなら別に……」
俺が言い終える前に三浦は意外な事を言う。
あーし「隼人ってさ、何考えてんのか? 本音っつーのかな、それあまり見せてくんないの」
俺は葉山の素顔を時折垣間見ているせいか、そう感じていなかったが、三浦くらい近くにいる人間でも、いや近くにいる人間ほどそう感じるのかもしれない。
あーし「さっきも言ったけど隼人のヒキオへの態度はやっぱり違う」
三浦の視線はさっきと変わらないものだったが、今度は茶化すことが出来なかった……。
あーし「だから、もしあんたと隼人が近づいたら、そん時はいろいろ何か変わってしまうんじゃないかってさ……、そう思ったの」
俺と葉山が? それはない……俺からアイツに近づくことは、更に言えばその可能性は誰よりも葉山が否定した。俺とは仲良くなれない……と。
共に、絶望的なまでに互いに隔たりがあることを理解している。
八幡「俺にそんな影響力があるとは思えないが、つまり今の関係を変えたくない三浦としては、俺に近づくなと、そう言いたいのか?」
今が楽しい、これまで通りやっていきたい……、確かそう願っていた。
修学旅行でも余計な事するなと釘も刺されていた、既に海老名さんを含む周囲の関係を大きく変えた俺を疎ましく思っている……、ということか?
だが俺の言葉を三浦は軽く首を振り否定する。
あーし「確かに変えて欲しくないと思ってた、今のままがいいってさ、そしてそれは皆も同じなんだって……、でも」
僅かな沈黙が続き、促すように繰り返す。
八幡「……でも?」
俺を真っ直ぐに見据え三浦は言う。
あーし「……海老名は踏み込んだ!」
八幡「――!」
……それは間違っている、誤解だ……、表面上とはいえ踏み込んだのは俺であり、受けた彼女の意図も三浦の言うそんな大仰なものでもない。
誤解なら解かねばと、何か言い訳を、と口を開きかけ、止まる。
『誤解は解けない、何故ならもう解は出ている』
誰の言葉だったか、その言った本人が覆してどうする……。
何より三浦の言ったその言葉は強く、容易には否定出来そうにない。
おそらく三浦の中で最初から解は出ていた。
しかし――、大事だから、失いたくないから。
だからこそ――、隠して、装ってきた。
そんな自分自身についた些細な嘘なんて、誰にも責めることなんて出来ない。
あーし「あーし誤魔化してたのかもしれない……、隼人との関係、先に進めたい自分がいるってこと……、そんなこと最初からとっくに分かっていたのに」
女王といえども一人の女子高生だ、同世代の皆と同様の悩み、葛藤だってする。
あーし「踏み込むと無くしてしまうかも知れない、でも……」
その先の言葉は容易に想像出来た、本当にそれでいいのかとの問いかけを抑え、黙って続きの言葉を待つ……。
だが、ついぞ言葉は出てこなかった。
「……優美子?」
それは予想しないところからの声だった。
俺に向けられていた三浦の視線は横に推移し、俺の背後に移る。その途端、目は見開き顔色は瞬時に蒼く変化し表情が固まった。
声の出処と三浦の視線を辿るように振り返るとそこには片手には携帯、反対の手にはドリンクを持った見知らぬ大学生風の男がいた。
本日は以上です。展開の都合上勝手なキャラが出ます。ご容赦下さい。
それではまた。
それではまた。
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