元スレ巫女「来たれ!異界の勇者よ!」
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251 = 249 :
マオ「ベホイミ!」
二度目の回復呪文を唱え、体の傷を塞いてゆく、
娘の服は大きく斬り付けられた上に血でドロドロに汚れており、
とても服として使えるものでは無かったが、この街を歩いているものは
誰も居ない。
若い娘「…あなた…は?」
マオ「私はマオ…ポルトガからアッサラームを越えて
旅をしてきた者だ」
マオはマントの留め具を外して娘に掛けてやりながら娘の質問に
応える。
マオ「運が良かったな、頭がぱっくり割れていた上に
腹を斬られて死ななかったなんて」
マオ「………おっと、まだ立つなよ、傷は一応治したが
随分と血を失ったみたいだからな」
若い娘「…ありがとう、命を助けられたみたいね」
マオの差し出した水筒を受け取りながら、娘はマオに微笑み返す。
252 = 249 :
マオ「………何があった?」
若い娘「人攫い達が襲ってきたの
……そうよ!…タニアはどこ!?」
慌てて辺りを見回す娘、しかし慌てて見渡しても、
人攫いはとっくに撤退したようで、その場にはマオと娘しかいなかった。
マオ「察するに、タニアと言う人が
その人攫いに連れて行かれたのか?」
若い娘「なんとか逃げようとしたんだけど…
抵抗する間も無く、連れて行かれちゃったわ
奴らは強いわ!とんでもなく
たった4人にバハラタの街はこの有様よ」
娘に言われるがままに、マオはバハラタの街を見渡す
所々の戦闘の後は剣や呪文を使った形跡がみられる。
呪文が炸裂した後であろう後を見てみると、石畳や
石壁が高熱により溶けた形跡がある。
相当に高度な呪文の使い手なのだろう…。
それに…カンダタや国王達が治療している兵士の
盾が真っ二つに両断されたり、鎧をものともせずに致命傷を
与えた後を見るに、相当凄腕の剣士と戦ったのであろう。
国王「すまんの、マオ!そっちが済んだら
こっちもベホイミを頼む!」
マオ「分かった!」
国王の呼びかけにマオは娘を置いて、駆け出す
ひとまず考えるのは後だ、バハラタの民を助けるのが
優先だろう。
253 = 249 :
◆◇◆◇ バハラタ広場 ◆◇◆◇
一通り、バハラタの民を治療し終え、くたくたになった後、
民達の好意によって、宿屋の部屋が宛がわれたりはしたが、
怪我人を押し退けて宿に泊まる訳も行かず、辞退した。
バハラタの川辺にある広場にテントを張り、ひとまずそこで
一休みする事にした。
街の外と違って魔物に襲われないだけ、随分マシだ。
カンダタ「人攫いだとよ、随分派手にやられたらしいな」
国王「人間を攫うだなんて、世も末じゃの」
マオ「奴隷市場にでも売りとばすとか
そんな所だろうか、ヒトも魔王も
やって居る事は大して変わらんもんだな」
マオ「………しかも…相手は余程の使い手だ」
プックル「ばう!」
???「ひぃっ!」
プックルが吠えると、物陰から様子を伺っていた
男が悲鳴を上げる。
どうやら、マオ達に何か用事でもあったらしい。
老人「…これ!グプタ!
すみませんな、旅の方々
お疲れの所申し訳ないのですが、少々よろしいでしょうかな?」
254 = 249 :
老人と若い男の二人組が物陰から現れる。
老人「ワシは…バハラタで胡椒屋を営んでいるものでしてな
こちらは、グプタと申します」
老人「知っての通り、このバハラタは北の洞窟にすむ人攫いどもに
襲われましてな、ワシの孫娘のタニアも攫われて
しまいました」
老人「連中は……タニアの命が惜しかったら
黒胡椒を全て差し出せと」
国王「……その者達…黒胡椒の真の価値を知っておるの」
実際、ポルトガやロマリアでは胡椒は高級品として取引されている、
ポルトガに至っては黒胡椒と金は等価で交換される程だ。
カンダタ「で、助けてくれって訳だ」
国王とカンダタが口を挟むと、老人は申し訳なさそうな顔をしつつ頷く。
老人「命の恩人に、さらに面倒を掛けるのは
気が引けるのですが、貴方がたは強そうじゃ…どうかワシの孫娘を」
グプタ「やはり…ボクが行きます!」
老人の横で黙っていたグプタが突然声を上げる。
グプタ「見ず知らずの旅の人に、これ以上迷惑をかけるなんて
ボクが!…ボクがタニアを助け出してみせます!」
255 = 249 :
老人「グプタ!」
街の外へと走り出そうとする、グプタ
その背にマオは言葉を投げかける。
マオ「………………………死んじゃうよ?」
グプタの足がピタリと止まる。
カンダタ「言っちゃわるいかもしれねぇが
お前さんじゃ、その人攫いとやらに
殺されるか、捕まるのがオチだぜ?」
グプタ「それでも…
タニアが酷い目に会うのを、黙って
見過ごす訳にはいかないんです!」
再び背を向けてグプタは街の外へと走り出して
行ってしまう。
国王「若いのぅ~………」
カンダタ「ったく…
せめて"手を貸してくれ"ぐらい、言えないもんかね」
ホーリーランスを取り出す国王に、おおばさみを腕に
装着するカンダタ。
そろいもそろってお節介な奴らだ。
老人「おお!助けに行って下さるのか!」
実際…人攫いをどうにかしないと、黒胡椒どころじゃ
ないのかもしれない。
マオ(それに…なんだか、嫌な予感がする)
装備を整え、マオは表情を引き締める
街の惨状を見た時から、嫌な予感がしてならない。
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と、言う所で今日はここまで
本当は人攫いとバトルか、遭遇する所まで
書きたかったんですが、タイムオーバー。
256 :
さて、ここから話を回すのがさらに難しくなる…はず。
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◆◇◆◇ バハラタ:北の洞窟 ◆◇◆◇
バハラタの北に森に囲まれた洞窟がある、
人攫い達の住むアジトであり、どうやら元々は
何かの神殿だったようだ。
似たような部屋を繋ぎ合わせたような作りで
マッピングしないと自身がどこを歩いているのか
分からなくなるような神殿。
プックル「ばう!」
本来なら虱潰しに人攫いを探して、遺跡を歩き回る所だが、
プックルの耳と鼻があるのでどこに居るのか特定するのは
そう難しくも無い。
カンダタ「居たぜ、どうやら連中が人攫いみてぇだ」
マオ「国王、プックル
頭を下げろ」
遺跡を地下二階まで降りると、色々な生活用品が置いてある
一室に辿り着く。
声を抑えて物陰に隠れる一行。
国王「ここから見た所、3人ぐらいじゃの」
ピンクの鎧を着て、大きな斧を持ったガタイのデカい男、
次に、杖を持って緑のローブを着こんだとんがり帽子の短髪の若い娘
最後にピエロのような派手な服を着こんだ男の3人の姿が確認出来た。
257 = 256 :
マオ「一人…足りないな
4人居るとか言っていたが」
カンダタ「どうする?
戦っちまうか?」
カンダタは武器を構えるで小声で言うがが、マオは首を横に振る。
マオ「相手はたった4人で街を壊滅させるほどの使い手だ
それに一人足りないのが気になる、少し…様子を見よう」
物陰に隠れつつ…呪文を唱えるマオ、
いつぞやシャンパーニの塔でやった、声を増幅するバギの呪文の
応用呪文にさらに手を加えた呪文で、
空気の振動を読み取って、遠くの声を聞きとる呪文だ。
カンダタ「いつもながら…器用だな…お前」
マオ「静かに」
◆◇◆◇ 北の洞窟:人攫いのアジト ◆◇◆◇
戦士(男)「とりあえず、奥の牢屋にブチ込んできた
ったく…手間かけさせやがって」
遊び人(男)「なかせるねー…わざわざ
たった一人だけで彼女を助けに来るなんて」
ピンクの鎧を着た男が、ピエロの姿をした道化の男に
話しかける。
魔法使い(女)「全く、アタシらは
いつまでカビ臭い所に居れば良いんだい」
椅子に座って雑誌を読んでいた、とんがり帽子の女が
うんざりしたような様子で言う。
258 = 256 :
遊び人(男)「ほひほひ…勇者が船を持ってくるまでの
辛抱だってさ、したら身代金替わりの
黒胡椒を要求して、ポルトガ辺りで豪遊できるさ
ほひほひ」
道化の男が下品に笑い、とんがり帽子の女が杖を振るい
道化の男の頬を杖で殴りつける。
遊び人(男)「何をするんだよぉ」
魔法使い(女)「このおバカ!
ここには人質も居るんだよ!聞かれちゃったら
どうするんだい!」
遊び人(男)「どうせ顔を見られちゃったんだ
どちらにせよ、殺すしか無いじゃないか…ほひほひ」
魔法使い(女)「やだね-、これだから男って奴は
野蛮だから…あーやだやだ」
戦士(男)「……………………………。」
ふと…魔法使い(女)は、戦士(男)がじっと扉の外を睨みつけている事に
気が付く。
魔法使い(女)「どうしたんだい?」
戦士(男)「…………誰か居る、おい!出て来い!
そこに居るのは分かっているぞ!」
戦士(男)は斧を持ち上げ、力任せに遺跡の石壁に叩き付ける、
叩き付けられた斧は石壁をあっさりとブチ砕き、砕いた壁の向こうに
隠れていたマオ達の姿が露わになる。
魔法使い(女)「敵襲かい!」
戦い慣れをしているのか、魔法使い(女)は呪文を唱え始める、
しかし、それよりも素早く…崩れた壁から素早く何者かが飛び出し、
魔法使い(女)の口に手を当てて、呪文詠唱を防ぐ…。
魔法使い(女)「むぐっ!?」
259 = 256 :
マオ「動くな!!」
訳の分からないまま、呪文の詠唱を妨げられ、目を白黒する
魔法使い(女)、口を押えられたまま剣を喉元に押し付けられ。
動きを封じられる。
戦士(男)「ちっ!星降る腕輪だと!?
ナメた真似を!」
マオの腕に着けられた腕輪を見て、驚愕の声を上げる戦士(男)、
対処方法を考えようとした所で、横から飛び出した大きな獣と大男に
二人がかりで斧を押さえつけられてしまう。
プックル「ガルルルルルルル…………」
戦士(男)「魔物だと!?それに…盗賊カンダタ!?」
プックルとカンダタを見て驚愕の表情を浮かべる
戦士(男)。
マオ「国王!」
国王「わかっとるわい!」
マオが叫ぶと、国王は捕えられた二人を助け出そうと
アジトの奥にある牢屋へと走っていく。
遊び人(男)「ほひ!?王様!?」
マオ「マホトーン!…………妙な動きはするなよ」
呪文封じの呪文を魔法使い(女)に掛けた上で、口を押えていた手を
放してあげるマオ、もっとも首筋に押さえつけた剣はそのままだが。
260 = 256 :
魔法使い(女)「何者だい!アンタ!!」
マオ「それはこっちのセリフだ
お前達こそ何者だ?ただの盗賊には見えないが」
魔法使い(女)の衣服を調べ、武器を隠し持っていないか
調べるマオ、杖以外に武器はもっていないらしい。
ロープで3人を縛り上げると、部屋の奥から国王が二人の男女を
連れて戻ってくる。
グプタ「すみません、みなさん
結局ご迷惑を」
タニア「ありがとうございます、みなさん」
バハラタで見た覚えのあるグプタと、もう一人がその彼女
タニアなのだろう。
マオ「とにかくバハラタまで逃げろ
この場は私達に任せて────…………」
???「ライデイン!!」
室内だと言うのに突如雷雲が発生し、凄まじい電撃が
マオの体を駆け巡る…。
マオ「ぐあああぁぁぁぁぁっ!!」
突如全身を走った激痛に、マオは膝を折り地面に倒れ込む。
カンダタ「マオ!!
なんだ!?今の雷は!」
マオ「私は大丈夫だ、
国王!二人を奥へ!」
ライデイン、話にだけ聞いた事がある、
勇者と呼ばれる素質を持つ者だけが使う事が出来る
雷の攻撃呪文だ。
261 = 256 :
マオ「早く!」
国王「わかっとるわい!」
戦士(男)「勇者(男)!」
現れたのは青い鎧を着た黒髪の男だった、手にした盾と剣は
不死鳥の紋が記されており、以前イシスでみた勇者(あちらは女だったが)と
同じ武具だった。
さらに勇者(女)をそのまま男にしたかのように、顔立ちは良く似ていた。
まるで、兄妹みたいだ。
マオ「…………勇者が…もう一人…だと?」
勇者(男)「おめぇら…
こんなザコ相手になにを遊んでいやがるんだ」
マオ「ベホイミ!」
回復呪文を唱えて身を起こす、勇者が二人居る理由は分からないが
この男は敵だ…それだけは間違いないはず。
星降る腕輪で加速し、勇者に斬りかかるマオ、狙いはいつも通り
必殺の急所─────…。
勇者(男)「おっと…」
左手に持った盾であっさりと剣を受け止める勇者(男)、同時に背後から飛びかかった
プックルの黄金の爪を右手の剣で難無く受け止める。
262 = 256 :
カンダタ「ベギラマっ!」
両手が塞がった勇者(男)を、カンダタの放ったベギラマが直撃する…
呪文が放たれる直前に、マオとプックルが飛び退き、炎の帯が勇者(男)を包み込む…が。
勇者(男)「…なんだこりゃ?これがベギラマか?
笑わせてくれるぜ」
全く平然と立っている勇者、どうやら鎧が呪文の効果を軽減しているのか、
致命傷は全然与えられていない様子。
勇者(男)「……ベギラマって言うのはな
こう言う物を言うんだ!」
間髪入れずに放った勇者(男)のベギラマが放たれ、カンダタの呪文よりも
数倍太い炎の帯が部屋の中を荒れ狂う。
激しい炎のうねりに焼かれ、皮膚が焦げる嫌な臭いが
鼻につく。
カンダタ「ぐぁぁぁっ!」
マオ「くあっ!」
魔法使い(女)「きゃぁぁぁっ!」
カンダタやマオだけではなく、ロープで縛られていた
勇者(男)の仲間達すら、ベギラマの炎は襲いかかる。
魔法使い(女)「ちょっと!何をするのよ」
勇者(男)「テメェらがしっかりしねぇから
そんな目にあうんだろうが」
263 = 256 :
マオ「強い……!」
勇者と呼ばれたこの男の実力は本物だ、実力で言えば
この男は勇者と呼ばれるだけの実力を持って居るのは疑いようもない。
ならば!切り札を出すまで!
マオ「レムオル!!」
キィン!!
マオが呪文を放つと、マオの姿が透明になって掻き消える,
巫女にすら致命傷を与えた、消える攻撃だ。
勇者(男)「味な真似をしてくれるじゃねぇか!」
勇者(男)はニヤリと笑うと、目を閉じて集中する、
マオが勇者の首を掻き斬ろうとした瞬間!
勇者(男)「オラァ!!」
突如勇者は目を開き、見えないはずのマオに向かって
手にした剣を突き出す。
突き出された剣はマオの肩を突き刺し、剣にさされた
激痛にマオは悲鳴を上げる。
勇者(男)「見えない攻撃か、
面白い事をしてくれるけどな…」
勇者(男)「姿が消えても音までは消せねぇだろ
………おっと!」
マオに止めを刺そうとした勇者は、後ろから再度攻撃した
プックルの攻撃をなんなく躱し、すりむきざまに
プックルの腹に剣を突き立てる。
264 = 256 :
プックル「ギャイン!!!!」
悲痛な声を上げてその場に倒れるプックル、
剣の刺さり所が悪かったのか、そのまま地面に倒れて
動かなくなる。
マオ「プックル!」
カンダタ「大丈夫だ!死んじゃーいねぇ!!」
カンダタは薬草を取り出し、すり潰してプックルの傷口に
押し当てる。
マオ「おのれっ!」
怒りに身を任せてマオは勇者(男)に突っ込む、
呪文を唱えて再び放つ。
マオ「レムオル!」
勇者(男)「そいつは、効かねぇって言っただろうが」
キィン!!
呪文が発動し透明に掻き消える…────が、
透明に消えたのはマオの剣の刀身のみ。
勇者(男)「なんだと!?」
驚愕の声を発し、咄嗟に慌ててマオの見えない剣を
受け止めようとするが、見えない刃先に間合いを
合わせる事が出来ない勇者(男)。
鎧のつなぎ目に剣を突き刺し、さらに────。
265 = 256 :
マオ「イオ!」
勇者(男)「──────…しまっ!!」
誘惑の剣を伝って鎧の中で呪文が発動する
勇者が飛び退くよりもはやく、鎧の下…密閉した隙間で
イオの呪文が炸裂し…爆発する。
ボムッ!!!
勇者(男)「──────…グオオァ!!」
いかに勇者とはいえ…いかに爆発系の最弱呪文
イオとはいえ、鎧に閉ざされた隙間の中で爆発すれば
その威力は数十倍にも膨れ上がる。
鎧の隙間から煙を噴き上げながら、今度は勇者(男)が
地面に片膝を付く。
強度の鎧の内部に呪文が炸裂したからこそ、効果は甚大だった、
すぐに立ち直れそうにはみえなかったが…。
勇者(男)「ベホマ!!」
勇者の唱えた回復呪文が、勇者の傷を完全に癒す、
これでまた仕切り直しだ。
カンダタ「おいおい…こんなのアリかよ。」
幾ら…ダメージを与えても、魔力がある限り
勇者は立ち上がる、対してこちら側は最大の回復呪文は
使えてベホイミだ、致命傷を受けると完治する事は出来ない。
マオ「だが…ゼロに戻った訳ではない」
マオの瞳から闘志が消えたわけでは無かった、
少なくとも、今のイオの呪文で相手の鎧は破壊した。
勇者「光の鎧をぶっ壊してくれるとは
やって…くれるじゃねぇか!!」
だが、怒り心頭なのは勇者も同様…勇者攻撃呪文を口にする。
詠唱される呪文は最高レベルの攻撃力を持つ呪文の一つ。
勇者「ギガデイン!!」
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と、いう訳で、今日はここで引きます
やばい…もう朝の4時だ。
266 :
ちょ、いい所で!w
乙です!
267 :
乙
この勇者の稲妻は黒色に違いない
268 :
続き、でも今日は短めで
黒い雷…ロト紋とは懐かしい。
//---------------------------------------------
勇者が呪文を放つと同時に視界一面が純白の
閃光に埋め尽くされる。
バリバリバリバリ!!
雷の轟音が荒れ狂い、衝撃波で空気が振動する。
荒れ狂う雷の嵐が部屋の中を荒れ狂い、ありとあらゆる物を
焼き尽す。
仮に魔王の力を持って居たとしても、無傷では済まなかった
かもしれない。
しかし…激しい閃光と轟音だけで雷が襲いかかる事は
無かった。
マオ「……………………?」
やがて、眩い光が収まり、目を開けると…。
マオ「…………カンダタ!!」
マオの前にカンダタが立ちふさがり、その身を盾にして
ギガデインの雷からマオとプックルを守ってくれたのだ。
カンダタ「…………………。」
白目を剥いてそのまま気絶しているようだった。
マオ「…お前…自分を盾にして」
確かに、全員にこの雷が直撃したら全滅していただろう、
カンダタに心の中で礼を言い、勇者に対して意識を集中する。
269 = 268 :
───考えろ!マオ!
倒せなくても良い、一撃を当てる事だけ考えろ!
恰好悪くても良い!欺け!騙せ!───。
勇者(男)「なかなか…粘るじゃねぇか…
だが…これで終わりだ」
勝利を確信した、笑みを浮かべ…ゆっくりと
マオに向かって歩いて来る勇者、勇者の気配に押されて
マオは後ろへと後ずさる。
マオ「…………ひぃっ!!」
勇者(男)「打つ手なしって顔してやがるな」
一歩ずつ後ろに追いやられ、背中が壁に触れる、
壁を背に剣を両手に持ち、勇者に向けるが
勇者は気にした風も無い。
勇者(男)「言い残したい事があるなら
聞いてやっても良いぞ?」
マオ「…そうだな…じゃぁ…最後に
…………………バシルーラ!!」
追い詰められながらも唱えていた呪文を解き放つ、
バシルーラ、呪文を唱えた対象を強制的に瞬間移動させる
呪文。
マオ「…………………………これまでか。」
勇者(男)「クククク…最後の攻撃にしては
お粗末だったな…死にな!」
不気味な笑みを浮かべながら、
マオに向かって剣を振り上げる勇者。
270 = 268 :
勝利を確信した一瞬の隙の間に、マオは剣を握った
両手を離す。
ビュッ!!!ザシュッ!!!
手を放した瞬間、マオの剣が物凄い勢いで飛び出し、
剣の3分の2が勇者の腹部に深々と突き刺さる。
勇者(男)「なんだ………これ……………。」
突然の事に、自分の腹に突き刺さった剣を見て
理解できないと言う表情を浮かべる勇者。
答えは単純だ、最初からバシルーラは勇者を対象にして
使ったのではなく、自らが手にした剣を対象にして
かけたのだ。
後は手を放せば、バシルーラの呪文により
超高速で剣が飛び出すと言う仕掛けだ。
外したら自分は丸腰になってしまう、非常にリスキーな
賭けではあるが。
勇者(男)「なんだ………これ……………。
ぐふっ…やべぇ!。」
勇者が口から血の泡を吹く、表情に焦りがあり、
自らが追い詰められた事を理解したようだ。
だが、遅い!!
271 = 268 :
マオ「うおおおおおおおおっ!」
マオは最後の力を振り絞って勇者の腹に
突き刺さった剣を握り、そのまま剣を捩じる!
勇者(男)「ギャァァァァァァァ!!」
剣を捩じった事で、空気が腹部に入り、
勇者が断末魔の声を上げる。
魔法使い(女)「勇者(男)!!」
戦士(男)「もう、やめろ!
わかった!俺達の負けだ!!」
勇者の仲間が口ぐちにマオを止めようとするが。
勇者(男)「…ガァァァァァァ!!!」
勇者は雄たけびをあげて、立ち上がり
腹部に刺さった剣を抜き、捨てる。
再びベホマの呪文を唱えて、腹部の傷を治す。
呪文が唱え終わる前に、プックルが駆け寄るが
勇者は盾でプックルの攻撃を受け止め、そのまま
剣を突き立てようとする。
間一髪…プックルは逃げ出すが。
勇者(男)「…ベホマ!」
何度目かの仕切り直し、しかも今度はカンダタは
倒れ、武器は無く丸腰…手札は全くない、最悪な
状態だった。
//---------------------------------------------
と、いう訳で今日は短めで申し訳ない
でも、勇者戦が微妙に長くなってしまった。
さて、朝ご飯食べてきますか。
273 :
さて、数日空くと話を少し忘れるなぁ。
//---------------------------------------------
マオ「…………………化け物め!」
勇者(男)「まさか、こんな手で来るとはな
油断したぜ」
鬼気迫ると、言うんだろうか…
丸腰になったマオに、今度は剣を構えながら
間合い詰める。
今度は勇者に油断や隙は全くない。
マオは地面に転がった自らの剣に視線を送るが。
勇者(男)「させねぇよ」
勇者はマオから目を離さないまま、足元に転がった
剣を蹴って、遠ざける。
勇者(男)「俺は勇者のなんだ…、
テメェらみてぇな、ザコどもに負けるわけにはいかねぇんだ」
????「だったら、少しは勇者らしくしたらどうなの?」
勇者(男)「誰だ!」
突如、部屋の入り口から声が響く、
現れたのは勇者(男)と全く同じ青い鎧を身にまとい、盾と剣を持った
剣士だった。
274 = 273 :
勇者と異なるのは、仲間を連れず一人だった事、そして
女だった事。
勇者(女)「勇者が…よりにもよって、
人攫いだとは世も末ね」
マオ「…………………お前、なんだってこんな所に」
いつか、イシスやアリアハンであった事がある女勇者だ。
勇者(男)「その恰好テメェも別世界の勇者か、
テメェには関係ない話だ…
すっこんでろ!」
言葉の威勢は良いが、勇者(男)が一瞬弱気になったのを
マオは見逃さなかった。
しかし、勇者と呼ばれるだけあって、弱気を振り払い
勇者(女)に対して剣を構える。
勇者(女)「そういう貴方もこの世界の勇者じゃないわね
…やる気?、相手になってあげるわよ」
勇者(男)「ここまでやって、退けるかよ!」
マオ「別世界の勇者?」
一体何を言っているのだろうか?
マオは疑問に思ったが、それを問いただしている暇は
互いに無い。
勇者二人が不死鳥を象った全く同じ形の剣を手に
激しい打ち合いを始める、激突した剣から互いに火花が飛び散り、
甲高い金属音がリズムよく鳴り響く。
275 = 273 :
互角かに思えた戦いはすぐに一方的な展開となる。
勇者(男)「くそったれ!、同じ勇者なのに
なんだって俺がここまで追い詰められる!」
勇者(男)の言葉に、勇者(女)はロープで繋がれた、
勇者(男)の仲間達に一瞥くれてから、言葉を紡ぐ。
勇者(女)「知らなかったのか?
私は一人で大魔王ゾーマを倒したんだ、仲間を引き連れて
四人がかりで魔王と戦ったお前の強さが通用すると思うな」
勇者(男)「ギガデ…。」
勇者が呪文を詠唱しかけるが。
マオ「マホトーン!!」
完全に背にしていたマオから呪文封じの呪文を受けてしまい、
勇者のギガデインは不発となってしまう。
勇者(男)「テメェ!」
勇者(男)の意識が逸れた瞬間、勇者(女)の剣が一閃し、
勇者(男)の王者の剣を二つに叩き折る。
呪文を封じられ、武器を失った勇者(男)の瞳から
戦意が失われていく。
勇者(男)「ざまぁ無ぇなぁ…
これが、世界中に勇者様と崇められた俺の末路かよ」
276 = 273 :
折れた剣の柄を放り出し、その場に胡坐をかく。
勇者(男)「えぇ?無様なもんだろうよ…
こう見えても、俺は向こうの世界じゃ
英雄とか言われていたんだぜ?」
マオ「向こうの世界?どういうことだ?
確か、別世界の勇者とか言っていたが」
勇者(男)「この世界は俺の知る限り、三つの世界があるんだ
俺の居た世界、そいつの居た世界
そして、この世界」
勇者(女)「どの世界も形や住む人々、そして
街や城…、性別は違えど勇者が居る事
そして、魔王バラモス、大魔王ゾーマが居る事が
共通しているのよ」
勇者(男)の言葉を勇者(女)が補足して行く。
カンダタ「って事は何か?
俺や国王もあと2人ずつ居るって事か?」
マオ「カンダタ!無事だったのか?」
カンダタ「なんとかな…全身がいてぇぜ」
国王「つくづく丈夫なやつよ…
ほれ、薬草じゃ」
決着が付いたのを知ったのか、タニアとグプタを連れて
奥の牢から戻ってきた国王がカンダタに薬草の束を渡す。
277 = 273 :
勇者(男)「そうだな…盗賊カンダタ
俺の世界の話では、
そこの二人を攫ったのはお前とその子分達だ」
戦士(男)「シャンパーニの塔で俺達に敗れて
見逃してやった後、バハラタに渡って
人攫いをしていやがったわけだ」
魔法使い(女)「その後は、アレフガルドに渡って
牢に捕まっていたわね」
勇者(女)「私も世界も似たようなものだった
この世界のカンダタと…それに国王が
違う運命を辿っている訳
──何よりも、決定的にこの世界が違っているのは」
────魔王が呼び出された事────。
勇者(女)の言葉の続きを、マオは頭の中で補足する。
無理矢理連れ出したアリアハン国王、カンダタを連れまわす事になった
原因も全ては魔王が呼び出された事から話が始まった。
勇者達の話を聞くに、勇者オルテガの旅の失敗が原因で、
父の敵となる魔王バラモス、その背後に居る大魔王ゾーマを
倒す旅に出た…。
オルテガは志半ばで亡くなり、大魔王ゾーマを倒すも
元の故郷に帰る事が出来なくなり、アレフガルド(地下世界と言うらしい)
に骨をうずめる事になった。
ガイア(今いるこの地上世界と言うらしい)に戻る術を探す中、
黒い闇(おそらくイシスで見たような奴)に包まれ、気が付いたら
ガイアに戻れたものの、そこは異なる世界
つまりはこの世界だったと言う。
278 = 273 :
カンダタ「んで、こいつらはいったいどうする訳よ」
ロープで繋がれた勇者(男)達、(今は勇者も仲間と同じくロープに
繋がれている。
マオ「私としてはどうでも良いが…
面倒じゃないのは…殺しておくか?」
グプタ「いえいえいえいえ…そんな!」
タニア「私達は、無事に帰れるんならそれだけで!」
マオは被害者二人に視線を送るが、二人は目一杯に首を振って
マオの案を却下する。
国王「そうじゃな…
ここからならダーマの神殿に預けるのが良いじゃろうな」
プックル「がふ?」
マオ「ダーマの神殿?」
国王曰く…この東大陸はダーマ神殿の神官達によって、統治されており
冒険者達のトラブルもそのダーマ神殿が執り行っているのだと言う。
また、冒険者達が転職などをして、新しい道を求めた場合にも
転職やその修行も行っているのだと言う。
勇者(女)「その辺りが妥当だろうな、では
私は、この二人をポルトガまで送るとしよう
そいつらの事は任せたぞ?」
タニア「皆さん!本当にお世話になりました」
グプタ「また、バハラタに来る機会がありましたら
是非、ウチの店にも寄って行ってください」
280 :
マンネリ感が半端無い。
//---------------------------------------------
◆◇◆◇ ダーマ神殿への山道 ◆◇◆◇
捕えた勇者達をダーマに引き渡すため、
ロープに繋がれたままの4人を連れて、ダーマ神殿への
険しい道を歩いてゆく、ロープに繋がれた勇者の気配を察してか
ダーマへの道すがら魔物達は一匹も出現しなかった。
ダーマ神殿はバハラタからずっと北の山奥にあり、
山奥にロマリア城よりも立派で大きな神殿が佇んでいた、
一体どうやって、立派な神殿を山奥に建てたのだろうか。
それはともかくとして…。
大神官「ぶわっかもーーーん!!」
勇者(男)「…………………。」
ダーマ神殿の中央の祭壇にのった少女、歳で言えば
10代ぐらいだろうか、他の神官達とただ一人服装が
異なるエラそうな人。(実際偉いのだろう)が勇者達を一喝する。
大神官「勇者たる者が人攫いをするなんぞ、言語道断じゃ!
この!馬鹿者めが!馬鹿者めが!馬鹿者めが!」
ぽかぽかぽかぽか…。
ダーマ神官長が手にした杖で勇者達の頭をポカポカ殴る、
しかし…本人は大激怒しているつもりなのだろうが、
小さな子供が怒っているようにしか見えず、イマイチ迫力がない。
281 :
大神官「ぜぃ…ぜぃ…ぜぃ…」
ダーマ神官「フォズ大神官様、落ち着いてください」
大神官「これが落ち着いていられるか!
勇者が悪事を働くなんぞ、世も末じゃ!」
魔法使い(女)「だーから…
アタシは反対だったのに」
戦士(男)「あ!ずっけぇ!」
相手が若い少女だからか、態度に反省の色が見られない
勇者の仲間達。
フォズ大神官「…~~~~~~~っ!!」
それが…フォズ大神官の神経を逆撫でしたようで、顔を
真っ赤にして怒った表情を見せるが、怒った表情であるにも
関わらず可愛らしい・・と言うよりも、むしろ小動物のような
感じでなんか癒される。
フォズ大神官「…牢にぶち込んでおけ!」
ダーマ神官「ハッ!…ほら!立て!」
フォズ大神官が命じると、屈強な神官達が勇者達を
引き連れて、神殿の奥(恐らく牢がある方向だろう)へと
退場して行く。
それを見送って、フォズ大神官と呼ばれた少女は
大きく深呼吸して、落ち着きを取り戻す。
282 = 281 :
フォズ「ご迷惑をおかけしました、
まさか、勇者が悪事を働くなど…。」
マオ「連中はこれからどうなるんだ?」
フォズ「勇者の資格を剥奪し、Lv1から別の職業に従事させるか
このまま牢に入れて反省を促すか…
いずれにせよ、これから裁判で決まる事ですが」
カンダタ「別の職業?」
国王「お主、知らなかったのか?
ここはダーマの神殿、己の職業や生き方を決める
ための神殿じゃ」
国王「僧侶として登録し、修行を積めば回復魔術を覚える
武道家ならば、格闘術を
戦士ならば剣術や斧術を修行次第で習得できるわけじゃ」
カンダタ「じゃ、魔法使いとして登録すれば
ババーンと強力な攻撃呪文を覚えるわけか!?」
フォズ「一から魔法使いとして、修行を積み、経験を重ねれば
もちろん可能です」
フォズの言葉にカンダタは腕を組んで暫し考え。
カンダタ「なぁ、その職業の中で
一番凄ぇのってなんだ?」
283 = 281 :
フォズ「攻撃魔術も、回復魔術も使え…
さらに剣をも使える戦いのエキスパート『賢者』と
呼ばれる伝説の職業があります」
カンダタ「じゃー、それだ!それが良い!
それに転職する」
マオ「……………そんな簡単になれるものなのか?」
伝説の職業と言われるぐらいだ、簡単にその『賢者』とやらに
なれるとはどうにも思えない。
フォズ「そうですね、修行の果てに悟りを開く事が
できれば…或いは」
国王「あー…無理無理………」
国王が苦笑しながら手を左右に振る。
マオ「他にどんな職業があるんだ?」
フォズ「そうですね、貴方達の場合は…
戦士、武道家、魔法使い、僧侶、商人、盗賊、遊び人
と、言った所でしょうか」
カンダタ「言うまでも無く今の俺は………」
マオ「盗賊だな、どう見ても」
284 = 281 :
カンダタ「…賢者…か。」
どうせ転職するならば、どの局面でも役に立つと言う
オールラウンダーの『賢者』になりたい。
しかし、その為の修行は困難を極めるのは間違いない、
何にせよ…伝説の職業と言われるぐらいだ。
カンダタ「手っ取り早く、悟りとやらを開いて
その賢者とやらになる手段はねぇのかよ」
プックル「………………わふぅ。」
国王「…そう言っている限りは、無理じゃないかの?」
そんな美味い話がそうそう転がっている訳でもない、
第一、そんな簡単に賢者とやらになれるなら────。
フォズ「ありますよ?…一つだけ」
マオ「………あるんだ」
フォズ「ただし、命は保障できませんけどね」
カンダタ「いいねぇ…俺好みの話になって来たじゃねぇか」
フォズの言葉にニヤリと笑うカンダタに、
国王とマオ・・そしてプックルは溜息をつく。
国王「…知性の欠片も無さそうな、この男が『賢者』ねぇ」
マオ「『僧侶』とかに転職したとしたら、破戒僧みたいで
格好良かったんだけどな」
国王「そもそも、何を悟るんだ?こやつが」
カンダタ「………………おめぇら…言いたい放題だな」
//---------------------------------------------
今日はここまで、ペースダウン中で面目ない。
詰むぐらいなら、話を完結させたいけど
その時間も無い訳でして。
286 :
いかんな、なんだかんだで半月も過ぎた。
もういいか。
287 :
頑張れよ!待ってるからさ、取り敢えず完結がみたい。
288 :
むぅ。
仕事が激しく忙しくなってきたら、
ペースが遅くなるけどそれでも良ければ。
//---------------------------------------------
◆◇◆◇ ダーマ神殿北部 ◆◇◆◇
ダーマ神殿をさらに北上し続ける事、3日
古びた塔が遠くに見えて来る。
カンダタ「あれが、ガルナの塔って奴か?」
マオ「貰った地図によると、そうらしいな。」
カンダタの問いに地図を見ながら応じるマオ、
フォズ大神官の話によると、最強の職業『賢者』になるための
心得が書かれた書物『さとりの書』がそのガルナの塔に
眠っているらしい。
国王「しかしまた、随分と人が来ているようじゃのぅ」
マオ「私達と同じくさとりの書を求めて来たか
それとも修行に来たか───────。」
ガルナの塔へ向かう途中、多くの冒険者達とすれ違い、
また塔には賢者を目指すであろう、冒険者達が入口に
群がっていた。
ガルナの塔の入口ではダーマ神官の服を着た男が、
大声を上げて列整理していた。
神官「押さないで、一列に並んで下さい
さとりの書に挑戦される方はこちらに並んでください
挑戦料は御一人様、一万ゴールドです」
289 = 288 :
マオ「まるでお祭り騒ぎだな。」
カンダタ「い…一万ゴールドだってぇ!?」
ガルナの塔に群がる冒険者達を客に露店まで出ていると言う。
国王「それだけ人気がある職業って事なのかのぅ
賢者と言うのは」
マオ「…………そう…らしいな。」
カンダタ「それにしても、すげぇ人の数だな
200人ぐらい居るんじゃねぇか?」
集まった人間もそれぞれだ、ドラゴンキラーにドラゴンメイルで
装備を固めた、屈強そうな女戦士から、武道家のくせにひ弱な
体つきをした男まで様々だ。
カンダタ「よう、随分上機嫌だな。」
塔の入口から出てきた、さとりの書の探索に挑戦した帰りであろう、
商人達にカンダタは声を掛ける。
その中の一人、女商人が足を止めマオを見て…、その横に連れられた
プックルを見て驚きの表情を見せる。
プックル「…?」
その横でプックルの喉をなでているマオを見ると、
ひとまず害は無いと知ったのか、安堵の表情を見せる。
女商人「アンタ達も…
さとりの書を探しに来たってクチ?」
マオ「私が…と言うより、
コイツがだな」
マオの視線の先、カンダタを一瞥して…女商人は何か
モノを言いたげにしたが、首を横に振って言葉を飲み込んだようだった。
290 = 288 :
彼女が大事そうに手にしている書物を見て、マオは目を細める。
マオ「それが、悟りの書と言う奴か?」
女商人「運がよかったわ、隠し通路に隠された宝箱の中に
運よく入っていたのよ」
辺りを見回してみると、この女商人のほかにも、何人か
さとりの書を手にした冒険者達が嬉しそうにガルナの塔を
後にしていた。
マオ「やはり、賢者に転職したいのか?」
女商人「もちろん!そのためにわざわざ
ムオルの村からダーマまで来たんだから。
ここに居る連中は、みんなそうなんじゃないかな」
女商人の視線につられて、マオもガルナの塔に挑戦する冒険者達の列に視線を送る、
どうやら一人ずつ挑戦するのではなく、まとまったグループ単位でガルナの塔に
挑戦しているらしく、何度目かのグループがガルナの塔に入っていくようだった。
女商人「とにかく、私はダーマに戻って
この書を読んで賢者の修行に励む積りよ
それじゃ、貴方達も頑張ってね」
カンダタ「おう、アンタも頑張ってな」
軽く手を振って女商人はダーマ神殿の方へと歩いていく、
それを見送りつつ。
国王「伝説の職業…と言う割には
随分と簡単に手に入るんじゃの、さとりの書って奴は」
291 = 288 :
マオ「それは………どうだろうな。
カンダタ、『賢者』って呼ばれる連中を
どこかで見た事があるか?」
カンダタ「少なくとも、俺はロマリアでは見た事無ぇな…
もっとも、ロマリアから東のダーマに渡って来る奴は
俺達ぐれぇじゃねぇの?」
プックル「?」
マオ「バハラタでもダーマでも
『賢者』と呼ばれる連中は居なかったように見受けられる
たまたまさっきの連中がさとりの書を見つけただけなのか」
マオ「それとも、さとりの書を手に入れてからの修行が
大変なのか………」
カンダタ「いずれにせよ、何かがありそうってコトか。」
カンダタの言葉にマオは頷く。
マオ「連中が手に入れた、さとりの書ってのを
見てみたい。」
国王「けど、どうするんじゃ?
1万ゴールド払って、苦労して手に入れたさとりの書を
赤の他人が少し見せてくれと言って、見せてくれる奴は
そうはいなかろう?」
マオ「わざわざ頼まなくとも、
もっと簡単な手段があるじゃないか」
マオが不敵な笑みを浮かべると、国王やカンダタは嫌な予感が
したのか、なんとも言えない苦笑を浮かべる。
292 = 288 :
塔から出てきた冒険者の一人、見るからに新米戦士で
塔に挑戦する為に、お金を借りて挑戦したのであろう武道家の男に
狙いをつけ、マオは呪文を唱える。
武道家の男が大事そうに抱えているさとりの書、本当に運よく
手に入れる事が出来たのだろう、すごく幸せそうな顔をしている。
マオ「────ラリホーマ!」
マオが唱えた強力な眠りの呪文が武道家の男を襲い、
睡魔に襲われた男は道端の倒れそうになる。
国王「おっと…」
倒れる直前、偶然を装って近くを歩いていた国王が
倒れそうになる男を支え、カンダタと共に木陰に移動させる。
カンダタ「…へへへ…悪いな、ちょっとだけ借りるぜ
すぐ返すからよ」
カンダタが小声でつぶやき、塔に集まっていた
他の冒険者達に見えないよう、武道家の男が大事に抱えていた
さとりの書を抜き取る。
妙に手際が良い辺り、熟練の盗賊の技術を感じさせる。
カンダタ「…はいよ」
マオ「プックル、辺りの警戒を頼む」
プックル「ガウ!!」
カンダタは手にしたさとりの書をマオに素早く渡すと、
マオはプックルに見張りを任せてさとりの書を開いて視線を落とす、
国王やカンダタも横から本を覗き込む。
293 = 288 :
カンダタ「なんだ、この文字」
国王「…なんて、かいてあるんじゃ?」
カンダタと国王が声を上げるのも当然、人間ではなく
書物は魔物達の間で使う文字で書かれていた。
適当に数ページ読み、マオはおもむろにさとりの書を閉じる。
マオ「………………………………さとりの書…ね。」
カンダタ「読めたのか?」
マオ「魔法の基本についてちょこちょこと書いてあるぐらい
わざわざ、人間に読めない文字で書いてあったな」
本を軽く叩いて埃を落とし、指先でさとりの書をくるくると
回しつつ、マオは言葉を繋げる。
マオ「しかし…こんな落書きを読んだ所で、伝説の職業、『賢者』とやらに
必要な技術が身に付くとは到底───────。」
プックル「ワウ!!」
プックルが一声鳴くと、武道家の男が目を覚ます所だった、
木陰に寝かされた事に気が付き、目を覚ますなり大事な本が
無くなっている事に気が付き、大慌てで辺りを見回す。
武道家の男「無いっ!?…俺のさとりの書が無い!?」
マオ「これだろ?そこに落ちて居たぞ?」
294 = 288 :
マオが男にさとりの書を返すと、男はひったくるように
本を受け取り、頭を下げる。
武道家の男「ありがとう、アンタ達が
木陰に移動してくれたのか」
マオ「突然倒れてびっくりしたぞ、余程疲れていたのか?」
武道家の男「ガルナの塔でずっと戦っていたからかな
疲れが溜まっていたのかもな、アンタらはこれから
ガルナの塔に挑むのか?」
カンダタ「おう、そのつもりで来たんだけどな」
武道家の男「そうか、頑張れよ」
素敵な笑顔を残して、ダーマ神殿の方へと歩いていく
武道家の男………少し、罪悪感が無い事も無い。
国王「…………どうするんじゃ?」
マオ「あんな落書きを書いて、法外な値段を巻き上げている
そこのダーマ神官達に、少し話を聞かせて貰うだけだ
今は人目があるからな、深夜になったら塔に忍び込もう。」
カンダタ「やれやれ…、どうしていつもこうなのかね
俺達はよ。」
マオの言葉にカンダタはため息交じりの言葉を吐き棄て、
国王は肩をすくめる。
//---------------------------------------------
久々に書くと、忘れるわぁ
最近、仕事が忙しくなったのと家の事情で家事もしないと
いかんので、書く暇が全然ないのですよ。
ってなわけで、今日はこの辺りで。
295 :
>>294
ゆたりと待ってる!
296 :
おつ!
やっと追いついたよ。
297 :
さて、展開考えるのが厳しくなってきました
こう言う物って、全部通しで考えないと
後が厳しくなるやね。
//---------------------------------------------
◆◇◆◇ ガルナの塔(夜) ◆◇◆◇
日が暮れるとガルナの塔に集まっていた冒険者達は
一斉に居なくなる、諦めてダーマに戻った者、近場のキャンプ地で
テントを張るもの、さとりの書を手にして帰った者。
冒険者達が居なくなった夜の塔ではダーマの神官達が
働いていた。
ふと、箱を引き摺って歩いていたダーマ神官兵の一人が
物音に気が付き、ランプを物音の方向に向ける。
ダーマ神官「なんだ!?」
マオ「動くな。」
ダーマ神官「っ!!」
突然背後から冷たい刃先が首筋に触れる。
ダーマ神官「なんの真似だ!」
マオ「偽物のさとりの書を配って、金を巻き上げる
随分と儲けているみたいだな」
ダーマ神官「に…偽物!?
いったい何の話だ」
298 = 297 :
マオがダーマ神官の引き摺っていた箱を蹴っ飛ばすと
中から大量の書物が床にぶちまけられる。
床に転がった本の中の一冊を国王が手に取り、
ダーマ神官の前にタイトルがわかるように見せる。
床に転げた本のタイトルは全て『さとりの書』と記載されていた。
マオ「この大量の『さとりの書』は一体何なんだ?」
ダーマ神官「偽物とは失礼な、それは
フォズ大神官様が直々に書かれたさとりの書だ」
ダーマ神官「賢者になる資格を持つ冒険者を選定するため、
冒険者達の試練をここで行っているんだ
気が済んだらとっとと外に出て──……」
マオ「…………………そうかい」
小さく言葉を吐くと、マオはダーマ神官の方に手を置き、
次の瞬間、ダーマ神官は床に激しく叩きつけられた。
カンダタ「おめぇ、いきなり何を──……」
さすがにカンダタが抗議しようとした所で、
突如、神官の体が眩い光に包まれる。
光が収まると、そこには先ほどまで居たダーマ神官ではなく
一体の魔物がその場に倒れていた。
オニギリのような三角形に小さい手足を付け、小さな手には
自らの身長を超過する長さの杖が握られていた。
体の全体は緑のシワシワであり、弛んだ皺の間からは不気味な
黄色い瞳が覗いていた。
299 = 297 :
国王「『げんじゅつし』…じゃと!?
何故魔物が神官に変装して」
げんじゅつし「おのれ…貴様等
ふざけた真似を」
げんじゅつしは素早く呪文を唱えると、手にした杖をふりかざし
止める間も無く呪文を放つ。
げんじゅつし「メダパニっ!」
杖の先から赤い光が放たれるが、マオとオルテガは
飛び退くようにして避ける、二人が避けた後ろには
国王とプックルが立っており、避ける間もなく赤い光に包まれてしまう。
カンダタ「国王っ!」
マオ「プックル!」
メダパニの呪文を受けた二人の瞳は、正気の光を失っており
プックルは威嚇の唸り声をあげ、国王はマオに向かってホーリーランスを
構える。
げんじゅつし「…ふひひひひひ…殺しあえ!」
カンダタ「ちっ!汚ねぇ真似をしやがる
うわっと!」
プックルの突き出した黄金の爪の一撃を、右腕に大ばさみで
辛うじて受け止めるが、カンダタ反撃の手をためらう。
マオ「なんとか正気に戻すしかないだろう、
でなければ、気絶させるしか無いだろ!
…………くっ!」
いつもより鋭い国王のホーリーランスの連撃を、剣で裁きながら
マオはカンダタに言葉を返す。
いつもの必殺スタイルの剣術で戦えば、マオの方が実力は遥かに上ではあるが、
手加減しながらだと、国王の攻撃を受け流すのに苦労する。
国王「クケケケケケケケケケ!!!」
カンダタ「こりゃぁ…ひでぇ…」
混乱…というより、人格的に壊れたような
笑いをしながら、連撃を繰り出す国王に、カンダタは苦笑しつつも
なんとかよける。
//---------------------------------------------
って所で、これから夜勤仕事に出るので
ここらで引きます。
日曜に仕事…マンドクセ。
300 :
しえん
ファイトです
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