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    元スレアレイスター「超能力者達にバンドを組ませる――『最終計画』だ」土御門「」

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    901 : VIPにかわりま - 2010/11/02(火) 20:21:04.98 ID:7KjWNL60 (+33,+30,+0)

    「壊す、ですって?」

     物騒な響きに眉をひそめる結標だが、何かを破壊することそのものに嫌悪感はない。
     ただ、わりと使い勝手のよさそうなマンションなだけに、ちょっともったいないかなあ、と思っただけである。

    「ああ。だっていくらなんでもこんなマンションじゃ、練習とか、レコーディングとか、できねえだろ」

    「それはそうだけどよ……こう、壊す以外にもなんかねえのかよ」

     最初から壊すつもりの上条とは反対に、浜面は消極的だった。
     元スキルアウトリーダーで暗部の下っ端でもある彼は、もちろん破壊に対して何のためらいもない。彼もまた、結標同様このマンションが気に入ったのだ。
     もっと言えば、こんな高そうなマンションに滝壺と住めたらいいのに、とまで考えてしまっている。実現不可能な願望というやつだ。

    「なんだかよくわからねえが、ここをブチ壊すのか? そういうのは得意だ」

     それまで話を黙って聞いていた削板が立ち上がって天高く拳を突き上げた。
     なるほど、彼ならばこのマンションも破壊してしまえるだろう。だが、忘れてもらっては困るとばかりに結標がじとりと削板をにらみ、座るように促した。

    「マンションはたしかに合宿する空間には適していないわね。でも、破壊しなくたって――」

     結標が能力使用時に用いる懐中電灯。今日は珍しく腰になかったのだが、どうやらボストンバッグに詰め込んでいたらしい。
     懐中電灯をくるりと回転させると、彼らが座り込んでいた部屋の天井が綺麗にすっ飛んだ。正確に言うなら、消えた。

    「……相変わらず、お見事ですの」

     同じ空間移動系の能力者としては癪だが、結標の能力の強大さは認めるしかない。
     白井がぱちぱちと手を叩く横で、浜面は呆然と天井のなくなった頭上を見上げていた。
     彼らがいるのは一階だったが、二階との仕切りである天井が消えたことで、空間が上に伸びたのである。
     天井を座標移動させたわよ。あっさり結標は言ったが、空間移動系の能力を初めて目にした浜面には少々刺激が強かったようだ。
     上条はというと、消えた天井はどこに飛ばしたんだ、と結標に訊ねている。ここにくる途中の空き地、と結標は簡潔に答えた。

    「あら、これで声が響かせやすくなったじゃない」

     成り行きを見守っていた、というかただ傍観していた芳川が驚いた様子も見せずに感想を述べる。
     彼女にしてみれば、自分が一週間過ごしやすければどこでもいいのだ。
     最終計画の責任者である土御門元春に比べると、やはり彼女はどうにもだらけている。
     だらけていても勝手に物事が進んでいくあたりが、この補完計画に参加しているメンバーのまともであるという何よりの証拠であろう。

    902 : VIPにかわりま - 2010/11/02(火) 20:22:02.00 ID:7KjWNL60 (+33,+30,+0)

    「よくわからんから説明してくれ。お前らはなんなんだ? あとチャーハンに入ってた赤いピーマンみたいなあれはなんなんだ?」

     思いっきり、場の空気をクラッシュするのが削板軍覇という男である。
     よくわからんも何も、彼は最終計画のメンバーであって補完計画に関わるべき人間ではないため説明の必要はどこにもない。
     しかし、この場にいる以上気になるらしい。説明するのが面倒な芳川は、ちらりと上条を見た。
     彼女はこの面子の中で最も「頼られたら断れない」人間が上条である、と見抜いている。要領のいい芳川のべつにすごくもない特技だ。

    「えーっと、俺たちは補完計画っていうプログラムに参加してる学生で、あと赤いピーマンはパプリカ」

    「パプリカ……」

     削板は唸るようにそう呟き、そうか、あれが噂に聞くパプリカか、と頷いた。
     前半の説明が無駄になったことを悟った上条が、気の抜けた笑い声を出す。
     『補完計画というプログラムに参加している学生』。
     上条は自分をそんな言葉で表現したが、正確に言えば、上条と浜面は正式に参加しているわけではない。サポートメンバーである。
     しかし、いまさら追加説明をしたところで、目の前の削板に聞き流されてしまいそうな気がした彼は、それ以上語らなかった。

    「けっこう美味かったなパプリカ。戻ったらコーチに喋ってみるとするか」

    「戻る? あなた、どこに戻るのよ」

     結標が不思議そうに訊ねる。だから、コーチのとこだよ、と削板はあっけらかんと言い放つが、そのコーチがわからないのだ。
     先ほどからうずうずと何かを堪えていた白井が勢いよく片手を挙げて切り出した。

    「会ったときもおっしゃっていましたけれど、イッツーやらカッキーやらツチピーやらと……あなた、どなたと一緒にいらしてるんですの?」

     芳川はなんとなく最終計画の面子を思い描いていたし、事実それは正解だったのだが、面倒臭がりな彼女は口にしない。
     そして、この場でもっとも政界に辿り着けるはずの結標は、すでにその可能性を検討した上で捨てている。
     である以上、削板が分かりやすく、
     「自分は最終計画の一員としてこの十九学区で合宿を行っている真っ最中で脱走してきたのだが、ちなみに残りの構成員は一方通行をはじめとした第五位第六位を除く全超能力者である」
     ――と解説でもしない限り、到底理解できるものではない。
     けれど、削板軍覇という一途かつ単純すぎて逆に難解なこの男が、そのような解説ができるのかといえば――答えはノーである。

    「どなたと? ……だから、イッツーとカッキーとツチピーと、あとそれから」

    「で、す、か、らっ! それは先に聞きましたの! そうではなくて、もっと具体的に言っていただけませんこと!?」

     ここで白井が遮っていなければ、彼女は削板の口から「ミコト」という彼女の敬愛してやまないお姉様の名前を聞くことができただろう。
     だが、もっと具体的に、と言われてしまった削板は、一度口を閉ざし、どうにかして合宿の実態を具体的に説明しようと試みた。
     結果。

    903 : VIPにかわりま - 2010/11/02(火) 20:23:32.77 ID:7KjWNL60 (+33,+30,+0)

    「えーっと、具体的にっていうとアレか? 白と黒と紫とピンクとこのオレ赤で、それから何やったっけ……トランプとかしたな」

    「どこの戦隊モノだよ! っていうかもしかして全員おそろいのジャージだったりすんのか!? っつかそれだと紫じゃなくて黄色でよくね!?」

     このオレ赤、と言ったあたりで削板が胸を張ってジャージを指したため、なんとなく他の面子も同じジャージを着ているのだろうと決め付けた浜面だが、まったくもって正しい。
     しかし、まさか彼も自分のよく知る少女が紫色のジャージに身を包んでいるとは思うまい。包んでいるのだが。しかも黄色と悩んだ末に紫を選んでいるのだが。

    「よくわかったな! オレたちは仲間だからおそろいのジャージを着てるんだが、いわばユニフォームみたいなものだとオレは思う!」

    「……まるで、運動部の合宿みたいね」

     結標がぼそりとつっこんだ。しかし、呟きを拾えなかった削板は首肯することができない。
     よって、結標のツッコミはそのまま流れることとなり、より一層彼女の中で最終計画に対する不信感が募っていく。

    「ジャージねえ、その発想はなかったわ」

     芳川が感心したような発言をし、その言葉にびくりと上条が反応する。

    (多分この人めんどくさがってやんねえだろうけど、仮にジャージ案が採用されたら間違いなくなんか仕事押し付けられる……!)

     ここ数週間で、すっかり自分のポジションを理解している上条だった。
     もっとも、土御門が超能力者にジャージ着用を義務付けた理由は「脱走されても居場所を特定できるように」という明快なもので、削板の考えるようなユニフォーム的なアレではまったくない。
     そして、芳川はしばらく考え、でも面倒だしいいわね、と却下した。

    「ところで、削板くん。キミは戻ると言ったけれど、いつ戻るのかしら」

    「まだ戻らない! もうちょっと、あいつらが反省したら戻るつもりだ」

     あらそう、と芳川はゆるく相槌を打つだけにとどめた。
     あの子は本当に自分で悪いと思っていない限り反省なんてしないと思うわよ、と心の中で呟いたものの、言い出せば削板に深く追及されそうだったからである。
     彼女の直感は、削板軍覇を最高レベルの面倒くさい人間であると認定した。実際、彼の前で自分を甘やかす発言でもしようものなら噛み付かれるのは明白だ。

    「じゃ、せっかくだから参加していきなさいな。これからいろいろやることがあるのよ」

     寛大な処置を選んだようにも受け取れる台詞に、感激した削板が勢いよく首を縦に振る。
     彼女の本心は、これから機材などを搬入する際に手伝わせよう、という実に邪なものでしかなかったが、幸い削板が察することはなさそうだった。


    裏第三回・終了


    904 : VIPにかわりま - 2010/11/02(火) 20:25:44.70 ID:7KjWNL60 (+28,+30,-54)
    たったの5レス……だと……芳川なんもしてねえ
    ちなみにあれ、あわきんは天井すっ飛ばしたみたいだけどマンションが崩れないようにうまいことやったんだと思う!!!

    んじゃなー!
    905 : VIPにかわりま - 2010/11/02(火) 21:04:17.46 ID:ZugR.yso (+22,+29,-2)
    ふむ、お待ちしておりました
    906 : VIPにかわりま - 2010/11/02(火) 21:09:44.31 ID:ZugR.yso (+15,+27,-3)
    ふむ、乙
    907 : VIPにかわりま - 2010/11/03(水) 01:12:58.73 ID:ro3OVf.o (+19,+29,-3)
    ふむ、次回も期待してる
    908 : VIPにかわりま - 2010/11/03(水) 03:20:00.14 ID:k3euqCco (+14,+29,-20)
    芳川ァ…働けよ…
    909 : VIPにかわりま - 2010/11/03(水) 10:54:47.99 ID:21nWHiwo (+24,+29,-60)
    芳川は、黄泉川とかがいて何もしなくても生きていけるし
    やれば絶対能力者計画に関われる程度には天才だから立ち悪い
    910 : VIPにかわりま - 2010/11/03(水) 11:54:00.27 ID:42mxnZco (+24,+29,-13)
    ニートの本気出すは信用ならないけど
    本気出したらすごいニートってのはな…
    911 : VIPにかわりま - 2010/11/03(水) 16:13:11.76 ID:8LLavoDO (+24,+29,-5)
    対比するとツチピーの大切さが身にしみるな
    912 : VIPにかわりま - 2010/11/03(水) 23:26:20.09 ID:9Doq6Rco (+32,+29,-12)
    上条さんが黒子とあわきんと一緒に寝泊まりしていたと聞いたら発狂しそうだと思った
    913 : VIPにかわりま - 2010/11/03(水) 23:32:29.59 ID:mhibUdco (+29,+29,-13)
    >>912
    誰が? 青ピか?
    まあ確かに発狂間違いないな。
    914 : VIPにかわりま - 2010/11/03(水) 23:35:56.42 ID:9Doq6Rco (+17,+29,-3)
    美琴が
    915 : VIPにかわりま - 2010/11/04(木) 00:02:53.68 ID:PdFdDhAo (+14,+29,-3)
    わかっとるがなw
    916 : VIPにかわりま - 2010/11/04(木) 10:54:35.82 ID:7Uy38Cgo (+25,+30,-20)
    黒子はいいが、あわきんは譲れないのよな。
    917 : VIPにかわりま - 2010/11/04(木) 13:00:05.02 ID:am1WcC6o (+19,+29,-19)
    じゃあ黒子は俺のだな
    918 : VIPにかわりま - 2010/11/04(木) 18:23:21.77 ID:JKs2sD.o (+24,+29,-64)
    そういやSATANICだっけ?
    聞いたかい?
    まんま歌詞が一方通行だったよなww
    きっと、一方通行が堕ちていく場面で使われるBGMになるのかな?
    919 : VIPにかわりま - 2010/11/05(金) 07:47:45.51 ID:xg55V6E0 (+24,+29,-47)
    あれはモロ一方通行でしたな
    あの歌詞を見て、ここの歌詞を思い出したのは俺だけじゃないはず……
    残り少ないのにスレチすいやせん
    920 : VIPにかわりま - 2010/11/05(金) 17:29:57.03 ID:KJ9Sus60 (+30,+30,-168)
    ≪暑い夏のあの日 僕のすべてが変わった
     何かを壊すだけの手は 何かを守ることが出来ると知った
     闇の中でもがいていた僕に ためらいなく手を差し伸べた君
     今でもまだ覚えてる 君は最初から僕を見つけてくれた

     君はlight あんまり眩しすぎるから
     きらきら笑う君の隣には まだいられないよ
     だけどその笑顔 ちゃんと僕が守るから
     君はただずっと 笑っていて

     ひと回り小さい君の手が 痩せて骨ばってる僕の手を
     ためらいなく ぎゅっと捕まえて握り締める
     「こうすれば迷子にならないよ」
     それはこっちの台詞と 一笑したっけ

     君はright いつだって正しかった
     迷子になった僕の隣 もう君はいないけど
     君の右隣を いつか歩くときは
     そのやさしい手を 繋いでほしい

     君は正しい僕の光 闇に差し込む一筋の光
     ずっと守るよ だから 笑っていて≫

    よく見てみたらこの歌詞、ライトで掛けてるんだな
    見過ごしてたけどこれは>>1乙である
    921 : VIPにかわりま - 2010/11/13(土) 00:01:44.85 ID:uwoJyeQo (+19,+29,-4)
    ほんっとペース落ちたなァ!?
    922 : VIPにかわりま - 2010/11/13(土) 19:15:03.72 ID:xHR3mOg0 (+19,+29,-5)
    大丈夫。そんな>>1を応援してる
    923 : VIPにかわりま - 2010/11/13(土) 22:31:54.38 ID:l2hzjsDO (+24,+29,-19)
    1投下で1区切りつくしあんまり焦れったくない不思議
    924 : 以下、三日目金曜 - 2010/11/14(日) 06:24:12.80 ID:Rfw9ZDk0 (+30,+29,-26)
    >>900
    >>どうしたって、ふたりが瓦解するとは思えない。
    和解じゃね? 崩れ去ってどうすんだ
    925 : 以下、三日目金曜 - 2010/11/19(金) 06:11:38.76 ID:hgFuRoAO (+30,+29,-37)
    遅ればせながら乙
    >>899
    ヨシカワレータ
    芳川一行

    と読んでしまったww
    926 : 以下、三日目金曜 - 2010/11/22(月) 01:16:19.38 ID:1UW.Ea.0 (+14,+29,-5)
    まだかな……
    927 : 以下、三日目金曜 - 2010/11/25(木) 12:26:52.88 ID:EoWbbrgo (+19,+29,-22)
    つうかどんだけかかってんだよ…
    何ヶ月?
    928 : 以下、三日目金曜 - 2010/11/25(木) 21:48:44.67 ID:gSjcIwDO (+24,+29,-10)
    1ヶ月…か
    もう一度最初から読み直して待つとしよう
    929 : 以下、三日目金曜 - 2010/11/26(金) 15:57:38.05 ID:oFda1UE0 (+32,+29,-98)
    オウフwwwwwマジだwwwww崩れ去ったらだめだなこれwwwwwww
    遅くなってすまない。一週間に一度?とかなんだこれなめてんの?みたいなねwwwww
    一週間くそなげえwwwwみたいなねwwwwwwww一方さんの裸最強すぎるだろjkwwwwww

    んじゃぼちぼち
    930 : 以下、三日目金曜 - 2010/11/26(金) 15:59:21.85 ID:oFda1UE0 (+33,+30,+0)

     さて。廃マンションをどうにかうまいことスタジオ風に仕上げた芳川一行(ただし芳川除く)だが、あるひとつの問題が浮上していた。
     それは、イレギュラーともいうべき削板軍覇の存在――ではなく、もっと根本的な問題である。

    「……曲が、ないじゃない」

     超能力者達同様、彼らの目的もまたメジャーデビューだ。
     そして、芳川はとくに明言していなかったものの、今回の合宿で曲をある程度完成させるつもりであることは疑いようがなかった。
     舞台は整っているというのに、肝心の曲がまったくない。この場合の「まったくない」とは、イコールで「まだ作ってすらいません」という意味である。
     結標の半ば呆然と吐き出された言葉は、一同の胸に重く圧し掛かった(ただし芳川除く)。
     曲がないなら、いったい何の練習をしろというのだろう。
     この点において、最終計画の責任者たる土御門はやはり手際が良かったといえる。

    「ん? キミたち、誰も作ってないのかしら」

    「あんた何も言ってねえだろ!」

     不思議そうに小首をかしげた芳川に鋭いツッコミをかました浜面は、わざとらしく深いため息を吐いた。
     そもそも彼はなんとなくなりゆきで参加しているものの、別段そこまでドラムが得意なわけではない。まあそりゃ叩けるっちゃ叩けるけど、という程度だ。
     上条も同じくため息を吐き出す。
     彼に至っては、つい最近友人からアコースティックギターを受け取りなんとか形になってきた、つまり初心者と中級者の中間レベルである。
     いきなり楽器隊扱いをされ、しかも持ったことのないエレキギターを手渡され、どこをいじればいいのかよくわからなかった上条はすでに最初の支給品を持ち前の不幸っぷりで壊してしまっている。

    「あらあらまあまあ……どなた様も頼りないですのね」

     と、ここで意味ありげな顔をしつつ周囲を見渡した白井である。
     彼女は口元の笑みを深めると、「作曲程度なら嗜んでおりましてよ」といかにもお嬢様らしく付け足した。
     おお、と男性陣から声があがる。結標は数秒きょとんと白井を見つめていたが、すぐに芳川を見やった。
     先ほどから無責任っぷりを存分に披露しているプロデューサーは、普段通りのおだやかな表情で微笑んでいる。
     微笑む場面ではない、と結標は心中でつっこんだ。

    931 : 以下、三日目金曜 - 2010/11/26(金) 16:02:44.06 ID:oFda1UE0 (+33,+30,+0)

    「じゃあこうしましょうか。白井さんが作曲できるというのなら、――」

    「私は作詞なんかできないわよ」

     芳川の提案を遮るように、結標は先手を打って発言した。
     というのも、話の途中で芳川の視線が明らかに自分に注がれていることに気づいたからである。
     これ以上の負担はごめんだといわんばかりの態度だが、このマンションをスタジオに仕立て上げた功労者は紛れもなく結標であるためか、芳川も強く言うことはなかった。
     困った。そんな顔をしてみせる芳川に、それまで押し付けられたルービックキューブで遊んでいた削板が声をかける。

     ――ヨシピーがすればいいじゃねえか。

     その一言は、彼がまだ芳川と出会って数時間しか経っていないからこそ言えた言葉であろう。
     ちなみになぜ彼がルービックキューブで遊んでいたかというと、話をややこしくされたくない芳川が、白衣のポケットから色がどれひとつ揃っていない立方体をこれ見よがしに出してちらつかせた結果である。
     負けず嫌いな削板は見事に彼女の策略にはまり、今の今まで熱心にルービックキューブを揃えようとしていたのだ。
     種明かしをすると、芳川が削板に渡したルービックキューブはそれぞれ一色につき一ブロックずつ欠如しているため、ぜったいに色が揃うことのないイジメに近い商品であり、
     そして以前これを解こうとした一方通行はわずか2分でそのトリックに気づき、腹いせにキューブごと解体した過去があったりする。

    「芳川さんが?」

     上条が引き攣った笑顔で問いかける。おう、と削板は明快に頷いた。
     ぽいと無造作に、まるでサイコロのように投げられたルービックキューブはそのまま結標のもとに渡った。

    「プロデューサーってのは、現場の責任者だからな。こういうときに根性見せんのはプロデューサーだってツチピーなら言うはずだ!」

     再び登場した「ツチピー」という単語に気を取られた上条だが、そもそも芳川に見せるだけの根性があるかどうかすら怪しい。
     案の定、芳川は露骨に面倒くさそうな顔をしている。
     大人げねえ、と浜面は思わず呟いてしまった。が、幸い一同はみな例外なく賛同である。

    「わたしが作詞、ねえ……無理よ?」

     あえて断定ではなく疑問系で答える芳川である。暗に「無理ってわからないのかしら」と責めたてられているような気がしなくもない言葉だが、気づいているのかいないのか、削板はなおも「プロデューサーなんだろうが」と続けている。こうなってしまうと、削板の扱いに長けていない一同はどうすることもできない。

    932 : 以下、三日目金曜 - 2010/11/26(金) 16:04:23.76 ID:oFda1UE0 (+33,+30,+0)

    「だいたい、わたしは理系だもの。ロマンチストにはなれないわ」

    「そんなん言ったら学園都市はほぼ全員理系ってことになるけどな、俺らスキルアウトも含めてな!」

    「それに、わたしの小学生のときの詩はなかなかひどいものだったのだし」

    「よしじゃあそれ今から朗読お願いします芳川さん!」

     だるそうな芳川の言い訳に対応する浜面と上条、そしてそれを冷ややかな目で見つめる白井、ルービックキューブをきゅるきゅると動かしながら、違和感をおぼえる結標。
     削板はじっと芳川を見つめている。逃れられない状況に、芳川は半眼になった。

    「朗読? わたしがおぼえていると思っているのかしらね」

    「まあ、おぼえていないのが普通ですの」

     白井がフォローにまわる。ように見えて、彼女がおそらく芳川の作った歌詞に曲をつけるのが嫌なのだろう。どんな歌詞になるか未知数だからな、と上条は考える。
     うーん、と芳川は少しの間目を瞑った。そして。

    『はじめてのりょうり』、にねんさんくみよしかわききょう」

    「!?」

     おぼえてんのかよ! という意見で一致する学生を意に介さず、芳川は続ける。

    933 : 以下、三日目金曜 - 2010/11/26(金) 16:05:29.49 ID:oFda1UE0 (+33,+30,+0)

    『きのうのよる はじめてつくったカレーライス
      おとうさんとおかあさん しんぱいそうにみてたよる

      とんとんとん ざくざくざく
      じゅーじゅーじゅー ぐつぐつぐつ
      ぱっぱっぱっ じゃーじゃーじゃー

      できあがったカレーライス がんばったよる
      もぐってたべたおとうさん
      ぱくってたべたおかあさん
      ごくっとのどをならしたわたし

      からんからん スプーンがおちる
      わたしはあまいみたいです
      しおとさとう まちがえたよる』。

     ってところだけれど」

    「……、……」

    「あら、反応がないのは寂しいわね」

    せっかく思い出したのに、と芳川は不満そうに口を尖らせたが、結標はそんな彼女の反応にかまっていられなかった。

    (これは――、だめ!)

     ばっと勢いよく立ち上がった結標に一同の注目が集まる。
     この場におけるリーダーはほぼ彼女になっているため、おそらく芳川の詩に何か物申すのであろうと結標以外は全員(芳川も含めて)予想していた。
     ところが、である。
     仁王立ちした結標は視線を芳川に向け、びしっとルービックキューブを突き出した。

    「このルービックキューブ、不良品じゃないの! いくら動かしてもまったく揃わないのよ!」

     詩に関してはノーコメント。結標が淡々と、しかし勝ち気な彼女らしくはっきりと芳川に意見をぶつけたのは、他ならぬルービックキューブのことだった。

    「え? ああ、やっぱり不良品だったか! 道理で根性で動かしても揃わないわけだ!」

     ぽん、と古めかしい動作で手を打った削板もまた、なぜか詩の出来には触れない。
     なんとなくいたたまれない空気の中、最初に「なんつーか、あれだな。作詞はちょっと置いとこう」と切り出したのは、やはり上条当麻なのであった。


    裏第四回・終了
    934 : 以下、三日目金曜 - 2010/11/26(金) 16:09:50.48 ID:oFda1UE0 (+37,+30,-83)
    とりあえずこんなんで!
    正直一ヶ月サボりすぎてなんかうまく進まない!! サボリいくない!!!
    サボリいくないからおとなしく書き溜める!!!!!
    あと一方さんの裸とか肘とかマジけしからんSATANICマジ一方さん。

    んじゃなー!
    935 : 以下、三日目金曜 - 2010/11/26(金) 18:38:16.11 ID:BDghHQDO (+24,+29,-7)
    久々にきたなあと思ったらテンション高くてワロタ
    936 : 以下、三日目金曜 - 2010/11/26(金) 22:10:10.11 ID:UFhY8r2o (+30,+29,-7)
    >>934
    お、おう……楽しみにしてるぜ。
    ちょっと書いてみれば思い出すだすネ☆
    937 : 以下、三日目金曜 - 2010/11/26(金) 22:24:59.16 ID:B72mSHQo (-5,-3,-3)
    >>934
    乙ー
    待ってる
    938 : 以下、三日目金曜 - 2010/11/26(金) 23:02:53.98 ID:9F8a17co (+19,+29,-6)

    ゆっくりでも続けてくれ
    939 : 以下、三日目金曜 - 2010/11/27(土) 00:03:35.85 ID:mxERdDA0 (+19,+29,-4)
    乙!!
    お帰り、待ってたよ
    940 : 以下、三日目金曜 - 2010/11/27(土) 18:23:52.89 ID:BlBZ4YDO (+23,+28,-6)

    ところで>>1はトリつけないのかな?
    941 : 以下、三日目金曜 - 2010/11/28(日) 21:35:17.67 ID:1edcrWE0 (+28,+30,-30)
    だれも突っ込んでないけど、カレーに塩も砂糖も必要ないよね?
    うちだけ入れてないとかそういうんじゃないよね?
    942 : 以下、三日目金曜 - 2010/11/28(日) 22:28:04.09 ID:.YcjD2Io (+23,+29,-4)
    >>941
    えっ いれないの?
    943 : 以下、三日目金曜 - 2010/11/28(日) 22:37:41.36 ID:J9E/VSUo (+24,+29,-16)
    既製品のルーを使うのなら入れる必要はないけど
    別段どっちも使っててもおかしくないと思われ。ただ入れすぎには注意。
    944 : 以下、三日目金曜 - 2010/11/28(日) 23:29:53.89 ID:e0DiNMAO (+24,+29,-22)
    うちは入れないけど家庭によっては微調整くらいに入れるんじゃないか?
    945 : 以下、三日目金曜 - 2010/12/01(水) 02:09:23.29 ID:PmBt2.DO (+17,+27,-2)
    気付いたらスレ残り少ないな
    946 : 以下、三日目金曜 - 2010/12/04(土) 18:28:29.13 ID:0Vo/U2AO (+29,+30,-42)
    市販のルー2種類を合わせたりココアとかヨーグルト入れたりはするけど
    佐藤歳男は入れないなあ
    947 : 以下、三日目金曜 - 2010/12/05(日) 14:11:40.13 ID:4/7jjVw0 (+28,+29,-15)
    >>946
    今日からお前のあだ名は佐藤歳男だよ

    うちじゃ入れないな、砂糖も塩も
    948 : 以下、三日目金曜 - 2010/12/06(月) 17:13:11.85 ID:JZX04oU0 (+33,+30,-84)
    やっほうおまえらwwwww
    うちのカレーもwwww塩とか砂糖とかwwwww佐藤歳男とかはwwwwww入れwwwwwないwwwwwけどwwwwwww
    まあwwwww幼い芳川がwwwww聡明な判断でwwwww入れたとしてもwwwwwwとがめることはないwwwwwww

    んでまあ途中でつまっちゃったからとりあえずできたとこまで投下するわけなんだけどな
    んじゃぼちぼちー
    949 : 以下、三日目金曜 - 2010/12/06(月) 17:14:28.31 ID:JZX04oU0 (+33,+30,+0)

     ったくよー、と浜面仕上はとぼとぼ歩きながら考える。
     麦野沈利からのありがたいお呼び出しを受けた彼は廃マンションから廃病院へと足をすすめているのだが、彼の頭は数分前に芳川桔梗から聞いた言葉でいっぱいだった。

     ――向こうの仕上がり具合をしっかり見てきなさい、あちらにこちらの計画がばれないように。

     向こうってなんだ? そんな考えがふつふつとわき上がる。仕上がり? 計画?

    (たしか俺らは補完計画、だけど……麦野が似た計画に参加してるなんて、まさかな)

     ここで、鋭い結標ならば気づいただろう。彼女の一度は想定した意見が的を射ていたと確信できただろう。
     しかし、結標の意見を聞いていない浜面は、まったくの情報不足だった。
     そういえば、昨日数時間だけ一緒に活動した超能力者・削板軍覇はまだこの第十九学区にいるのだろうか。
     最後まで彼の言っていることは理解できなかったが、もう二度と会うことはないだろうし、問題ないはずだ。

     そこまで思考をすすめた浜面は、やがてその足を止める。
     目の前には、当初の宿泊施設であった廃病院。
     夕方であるせいかすでに明かりが灯っていて、たしかに人の存在を感じさせる。
     麦野は用件を言わなかった。浜面は彼女にただ、最速で来いと指示されただけだ。
     十数分で行けると豪語したものの、途中コンビニに寄ったせいで二十分はかかってしまった。
     自分用の炭酸飲料と、麦野の機嫌を取るための鮭とばの入った袋を片手にぶら下げて、浜面が病院の自動ドアの前に立つ――前に、自動ドアが開いた。


    合宿三日目、午後五時、廃病院玄関

    浜面「……、……えっ?」

    一方通行「はァ?」

    浜面「いやいやいや、ええ? えっ?」

    一方通行「だァから、はァ?」

    浜面「……、間違えました」クルッ

    一方通行「ナニをだよ」ガシッ

    浜面「ひっ! 違うんです俺はあれですちょっとここに用事があったと見せかけて実はないんだあああああッ!!!」

    一方通行「よくわかンねェがあやしいからオマエちょっと来い」

    浜面「あやしくねえ! 俺は清廉潔白とは言いがたいがでもまああやしいもんじゃねえ! だからすみません離してく」

    一方通行「うっせェな……、あ、アレだ。オマエあンときのイイ悪党じゃねェか」

    浜面「思い出すのおっそ! っていうかいい、思い出さなくていいから頼む見逃してくれ!」

    一方通行「ライオン前にクソびびってるネズミみてェな面してンじゃねェ。だいたい、オマエなンでここにいンだよ」
    950 : 以下、三日目金曜 - 2010/12/06(月) 17:16:39.96 ID:JZX04oU0 (+33,+30,+0)
    浜面「なんでってそりゃ、麦野って女に呼び出されたからに決まってんだろ」

    一方通行「……、……おォ。そォいうコトか」

    浜面「は?」

    一方通行「いや、こっちの話だ。するってェとアレか、オマエもしかしてハマーか」

    浜面「ハマー? いや、浜面だけどハマー呼びははじめてだ」

    一方通行「なァるほど。へェー、ほォ……ふゥン」ジロジロ

    浜面「な、なんだよそのすっげえ好奇心むき出しな感じ!」

    一方通行「いやァ? なンつゥか……オマエすげェな」

    浜面「だからもっとわかりやすく説明してくれ」

    一方通行「説明するつもりなンざねェ。ンで、麦野に呼ばれたンだろ? さっさと入れよ」

    浜面「? そうだけど、お前こそなんでここにいるんだ?」

    一方通行「合宿してンだよ、合宿。そォか、オマエがハマーかァ……感慨深いもンはとくにねェな」カツカツ

    浜面「ねえのかよ! あっいや、なくて結構だけどな!? っていうかあれ、マジで俺入っちゃっていいのこれ」

    一方通行「構わねェよ。むしろこれ以上待たすとシズリが面倒だ」カツカツ

    浜面(は? あれ、いま沈利つった? 麦野を? 下の名前で? 呼んでる?)ピタッ

    一方通行「ンだよ、早く来いっつってンだろォが。クソチンピラ」

    浜面「うっ、否定したくてもできねえ」スタスタスタ

    一方通行「つゥかオマエ、なンで呼ばれたかわかってンのかよ」カツカツ

    浜面「全然。とりあえず鮭とばは持ってきてるけど」

    一方通行「へェへェ、女王のご機嫌取りは大変ですねェ」

    浜面「……さっきから気になってるんだが、麦野とどういうご関係で?」

    一方通行「どォもこォもねェ、ただの仲間だ」

    浜面「!?」

    一方通行「オマエさっきからリアクションでけェな」

    浜面「いやいやお前がそうさせてんだよ! 何ですか!? 麦野さんは俺たちアイテムを捨てたんですか!」ダンダンッ

    一方通行「地団駄踏むなきめェ」
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