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    元スレ上条「恋人って具体的に何すんだ?」 五和「さ、さぁ...」

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    451 = 435 :

    理論はあっている・・・
    はずなのに解説者が解説シャナだけに素直にノれないwwwwww

    452 = 169 :


    「ありがとな五和」

    「え?」


    急にそんなことを言う彼に、五和は驚いた。
    お礼を言われることなんて何もしていないのに。


    「最近戦いばっかでちょっとまいってたんだ。インデックスが危険な目に、と思ったら目の前が真っ暗になってさ。 
     でもお前がいてくれてよかったよ。五和のおかげで、すぐに立ち上がれた」

    「そんな……私は」


    彼を騙しているという罪悪感で胸がチクリと痛む。
    自分は彼に近づくためにここにやってきた、ずるいことばかり考えている女なのに。


    「あの、上条さん実は……!」

    「よし行くぞ! あいつ見つけたらお説教だ」


    そう言って五和の手を引き、駆け足で飛び出す。
    本当のことを言いたいのに、言えない。
    言ってしまったら、もう彼が笑ってくれないんじゃないかという気がして。
    こんなずるくて卑怯な女なんか嫌いになってしまうんじゃないと思えて。
    五和は泣きそうになるのをこらえながら再び夜の学園都市に出た。
    彼と手分けをして街を探す。
    人気は少ないが、インデックスのような目立つ容姿なら目撃者の記憶にも残りやすいだろう。
    あちらこちらを駆け回りながら、なかなか出てこない情報にやきもきし始めたとき、
    五和のポケットで携帯がブルブルと振動していた。
    ディスプレイに表示されているのは同僚の対馬の名前だった。
    何事かと通話ボタンを押して携帯を耳に当てる。

    453 = 169 :


    「対馬さん?」

    『ようやく繋がった。もう、何度も電話しているのに出てくれないんだから』

    「す、すみません。立て込んでいたもので……で、何です?」


    受話器の向こう側は妙にがやがやとうるさい。
    大慌てする牛深や香焼の声がこちらにまで聴こえてきていた。


    『例のシスターの子。今こっちで預かってるのよ、それを連絡したかったの』

    「えぇっ!? ど、どういうことですか!? そ、そんな話聞いてないです!」

    五和の顔から血の気が引いていく。
    そもそもそんな作戦は聴いていないし、彼女を無理に遠ざけたりするのは無しだという方向性だったはずだ。
    それなのに何で、と五和は荒ぶる呼吸を整えて慎重に話を推し進める。


    『それが実はね……』
    『代われ対馬』


    建宮の声が聴こえた。


    『俺だ。どう説明したらいいのかね……。連絡が遅れてまずはすまなかったのよ。
     あの嬢ちゃんこっちの食料全部食いつくす勢いで食ってるもんだからその暇もなくてな。
     とにかく順を追って説明するのよな』

    「建宮さん……今どこですか……?」

    『五和……?』

    454 = 169 :


    五和は低く平坦な声で問いかけた。
    電話の向こうで建宮が息を呑んでいる。
    彼らがインデックスを攫ったというなら、その理由を聴かなくてはならない。
    詳しく。詳しく。
    インデックスとも仲良くなれた。
    上条とも上手くやれていた。
    なのにどうしてそんなことをしたのか、問いたださなくては。
    そう、詳しく。詳しく。


    『……まあいい、そっちの方が都合がいいのよ。
     あいつの寮の前の道を東に800メートル程行ったとこにあるボロアパートだ。
     そこの201号室に全員いる』


    都合がいいだと?
    彼が今どんな想いでインデックスを探して回っていると思っているんだ。
    彼女がいなくなったことで、疲弊していた精神にさらに負担をかけたというのに。
    五和はギリリと奥歯を噛んで携帯に力がこもる。
    ミシミシと音を立てて携帯が軋んだ。


    『い、五和さーん……?』

    「すぐ行きます。今すぐ行きます。 


     待  っ  て  て  く  だ  さ  い  ね  ?」
     


    『ひぃっ! ま、待てお前さん何か勘違……ピッ』


    建宮の言葉を待たず五和は駆け出す。
    彼に一刻も早く伝えて安心させてあげたいが、まだ伝えるわけにはいかない。
    きっちりしっかりたっぷりと事情を聞いて、彼に心の底から謝らなくてはならないから。
    こんなのはもうたくさん。
    彼を騙すことはやっぱり耐えられない。
    五和は彼を可能な限り待たすまいと、
    『あの子は大丈夫でした、ちょっと帰りが遅れるので先に家に帰っていてください』
    とだけメールを送り、携帯の電源を切った。
    時刻は七時半。こうなった五和を止めることは、もう誰にも出来ない。

    455 = 435 :

    これも恋は盲目・・・なのかなぁww

    456 = 169 :


    ―――――


    長い刀剣を携え、サラリと流れる黒髪を頭の高い位置で束ねた巨乳の美女が、足早にウェスタンブーツの底をアスファルトに打ち付ける。
    天草式十字凄教女教皇、神裂火織は、ブツブツと何事かを言いながら学園都市を歩いていた。
    ジーンズの片方と、十字架のステッチが入ったデニムジャケットの逆片側の袖をバッサリと切り捨て、
    10月に入って未だヘソ出しの不可思議な格好の彼女だが、これは別に彼女のファッションセンスが残念であるとか、
    露出の気があるとかそういうことではなく、ちゃんと魔術的な意味合いがあるらしい。


    (久しぶりの学園都市です……。せっかくですから寮に日本のお土産を買っていかなくてはいけませんね)


    何故彼女がこんなところにいるのか。
    一昨日同じ『必要悪の教会(ネセサリウス)』に所属する土御門から突如連絡が入り、
    「五和が学園都市に来て上条当麻とねんごろの関係になろうとしているにゃー」と言われた。
    母性溢れる神裂火織18歳としては、「まさかうちの子に限ってそんなことは……」と言いつつも心配になり、
    色々な権力を利用してこうして学園都市内に潜入してきたのである。
    あわよくば彼に会えたら等という考えが頭にチラつくが、あくまでこれは五和の様子を見に来ただけであって他意は無いのだ
    と先ほどから何度も自分に言い聞かせていた。
    着替えや日用品の入ったズタ袋の中には、税関をよく通ったものだと感心する『例のアイテム』が入っているあたり、
    神崎も必死だった。


    「ま、全く土御門は私にあんなことを連絡してきて何のつもりなのでしょう。
     天草式の皆も皆です。私に内緒で何をする気なのやら……。
     これは五和が心配だから来たのであって、本当にそれだけであって、それ以上の意味なんてあるはずもないのですからね」

    457 = 169 :



    誰に言い訳をしているのか、口の中でもごもごと言っている神裂は、上条の学生寮の前へと辿り着いた。
    ここの七階に彼の部屋があるのは知っている。
    パンデモニウムのようにすら映る彼の学生寮を見上げ、神裂は携えた『七天七刀』を握りなおして生唾を飲み込んだ。
    まさかこんなに早く彼に再会することになろうとは。
    先日のアックア戦後、彼の病室で思い出したくも無い恥ずかしい経験をした彼女は、上条を思い出すと嫌でも頭にチラつく
    あの一件をぶるぶると髪を振り乱して払った。


    「よし、いざ参りますっ」


    内心、部屋の前で五和の生々しい声とかが聴こえてきたらどうしようとビクビクしながら、神裂は学生寮の敷地内に一歩足を踏み入れた。
    そのとき、


    (はっ! 殺気ッ!?)


    背筋にゾワリとした悪寒が走り、神裂は自分が来た方とは逆方向の道に視線を移した。
    遠くから、揺らめく陽炎のようなおぞましい気配を放ってこちらに走ってくる者の姿が見える。


    (敵っ!? いえ、違いますこれは……)


    宵闇の向こうから、景色が歪むほどの黒いオーラを放ち現れた人物。
    それは


    「って五和っ!? な、何故あなたが……」

    「えっ、プ、女教皇様(プリエステス)!?」


    どういうわけか様子を見に来た対象(という建前)である五和がこちらに走ってきた。
    彼女は彼女で驚いているようだ。
    女の子にこんな時間に暗い夜道を歩かせるなんて、と神裂はキッと寮の七階付近を鋭く睨み付ける。
    敵だと思ってしまったことは内緒にして神裂は首を傾げて尋ねた。

    458 = 169 :


    「こんなところで何を?」

    「女教皇様こそどうしたんですか?」

    「私はその……あなたと彼がねんg……いかがわしいことになっていないか様子をゴニョゴニョ。
     そ、そんなことはどうでもいいんです! それよりあなたや建宮達まで、突然学園都市に来てどういうつもりですか?
     何か私に言えないような事件でも起きたというのですか?」


    最後は少しだけ寂しげに神裂は問いかけた。
    先日新生天草式として、皆と心を通わせられたと思っていたため、内緒にされていたことが何だか悲しい神裂。
    それを察したのか、五和も申し訳なさそうな顔をして「それは……」と俯くと、
    次の瞬間にはその頬に一筋涙が伝っていった。


    「ちょっ! わ、私ですか!? 私が泣かせてしまったのですか!?
     わわわ。五和、ごめんなさい! あなたを責めているのではないのですよ?!
     えとえと、と、とにかく涙を拭いてですね……!」


    ハンカチを取り出して五和に渡してやると、彼女はそれを受け取りぐしぐしと涙をふき取りながら言葉を発した。


    「グスッ……ちが、違うんです女教皇様……。エグッ……そうじゃなくて……」

    「では何だというんですか? 見たところ彼と一緒というわけでもないようですし……まさか彼に何かされたのでは……!」


    彼に限ってそんなこと、と思いつつも五和の尋常では無い様子から嫌な想像を働かせてしまう。
    しかし、その言葉に五和は強く首を横に振って否定した。


    「ち、違いますっ! 悪いのは……悪いのは私なんです……」


    ハンカチを口元でぎゅっと握り、五和が咽び泣く。
    神裂はその頭をそっと撫でながら、怪訝な眼差しで語りかけた。

    459 = 169 :


    「全て話しなさい、五和」

    「……はい」


    その言葉と共に、五和は今日まで何があったのかを話した。

    上条がどうしようもなく好きなこと。
    天草式の皆が協力して自分の恋路を応援してくれること。
    彼やインデックスと3日間仲良く過ごすことができたこと。
    今日、彼とデートをしたこと。
    そして、インデックスが消えて、何故か天草式の隠れ家にいること。

    神裂はそれを聞いて、少し落ち着いたらしい五和に内心少しホッとしていた。
    上条と五和が神裂ですら経験したことのない大人の階段を上ってしまったり、
    爛れた生活を送っているわけではなかったことで安心したのだ。
    だが同時に疑問が浮かんだ。
    インデックスと良好な関係を築いていたのに、どうして建宮達がそのような行動に出たのかが謎だった。


    「仕方ありませんね……。彼らのいるところに案内しなさい」

    「え……で、でも」

    「構いません。私も建宮達が何故あの子を攫っていったのかが気にかかります。
     それに、あまりここでじっとしていると彼が戻ってきてしまいますし」


    彼とハチ合わせになるのはまずいと踏んだのか、五和は小さく頷いた。
    先導してくれる五和の後ろで、やれやれと神裂はため息をついた。
    泣くほど彼のことを想っている少女に、申し訳ない気持ちが湧いてくる。
    あわよくば、会えたらなんて。
    彼のためだけにここまで来た彼女を前に、神裂の心は敗北を認めた。
    ここでまた一つ、恋慕の情を含む少女の淡い想いは終わりを告げる。
    だが、彼への感謝の念は消えることはない。
    まだ何も知らされていない彼のため、そして空回りする五和のために行動しようと、神裂は今決めた。
    そうした者に手を差し伸べることこそが、己の行動指針であり、この愛しい仲間達との絆なのだから。

    460 = 169 :

    今日は以上になります。
    たぶん次回で終了です。
    ではまた近々。

    461 :

    乙!
    続きが気になる

    462 = 435 :

    乙っしたぁ!
    終わるのは寂しいが楽しみなのゼっ!!

    463 :


    もう終わりか、寂しいな。
    まあ鬱展開もないし短編としては面白かった。

    次は電磁崩しか麦恋お願いしますw

    465 :

    おつ

    467 :

    乙でした!

    468 :

    続ききてた

    469 = 169 :

    こんばんは。
    本日最終回になります。
    予定していた10万字ほぼジャストでしたw

    では投下しますね

    470 = 169 :


    ―――――


    ボロアパートに一室で、建宮斎字は非常に困っていた。
    理由は二つある。


    「うーん、なかなか美味しいんだよ。いつわほどじゃないけど、二人とも上手だね!」

    「建宮さん助けてください!もう死ぬっす、フライパンが上がらないっす!」

    「がんばれ香焼!俺だってもう包丁は握りたくないんだ!」


    まず一つ目は、目の前にいる白いシスターが想像を絶するほど食うことだった。
    今晩の夕食にと買い込んだ五人分の食材を一人で食べつくそうとしている。
    この部屋に来てから2時間程だが、既に食材の残りは危うい。
    ガツガツもりもりと美味しそうに食べるその姿に困惑するしかなかった。
    料理をずっと作らされている牛深と香焼は泣いている。


    「五和ここに向ってるんでしょ? 大丈夫なの?」

    「何がよ?」

    「だから、五和って一回ネジが飛ぶと……アレでしょ」


    そして二つ目は、ここに五和が向っているということだった。
    電話口の向こうで異様に平坦な口調で今すぐ行くと告げた彼女。
    ちょっとしたホラー体験をした建宮は未だにあの声を思い出すとブルッと背中が震えた。
    スイッチの入った五和の恐ろしさを知っている者にとって、彼女がこちらに向っているということ自体がもう恐怖だった。


    「ま、まあ死ぬことはないのよ、たぶん……」


    インデックスが来てからというもの、地獄絵図と化している室内。
    建宮は顔を引きつらせてその様子を見守っていた。
    とそこへ

    471 = 169 :


    「建宮さんっ! これはどういうことですか!?」

    「おお、五和か。ん、女教皇様が何故ここに?」


    玄関の方から扉を蹴破るような勢いで、五和と神裂が突入してきた。


    「私のことはお気になさらず。それよりこれは一体……」


    五和の方は非常に険しい表情で、神裂がそれをなだめすかしながらここまで来たと言った様子だ。
    騒がしかった室内に緊張が走る。


    「あ、いつわー。どうしたの? とうまは?」


    ピリピリした室内の空気に気付いていないのか、インデックスが手をあげて五和ににこやかに微笑む。


    「帰りましょう」


    五和はインデックスにすたすたと歩み寄ると、その手を取った。
    インデックスは引っ張られるように立ち上がる。


    「い、いつわ?」

    「五和、落ち着きなさい。話を聴いてからでも遅くはないでしょう?」


    有無を言わさず立ち去ろうとする五和の前に神裂が立ちはだかる。


    「女教皇様……でも、上条さんが心配していますし……」

    「待て待て五和、お前さん何か勘違いしてるのよ」

    「か、勘違いなんてしてませんっ! 建宮さんがこの子を連れてきたんでしょう?!」

    「やっぱりな。だからそれはだな……」

    「五和! インデックス!」

    472 = 169 :


    五和の二重目蓋が、驚愕に見開かれる。
    建宮はまずいことになったと額を押さえて歯噛みする。
    こいつに気付かれることを怖れて今まで五和に連絡するのを躊躇っていたのに。
    この最悪のタイミングに現れるとは間の悪い。
    彼、上条当麻もまた、驚きを顔一杯に表現して部屋の入り口に立ち尽くしていた。


    「か、上条さん……」

    「とうま……」


    ほぼ同時に呟く五和とインデックス。
    五和は唇をガクガクと震わせ、今に倒れそうな足取りでそちらを振り返り、一歩後ずさった。
    対するインデックスもまた、上条の姿を見ると少しだけ表情を曇らせ、そこで初めて箸を置いたのだった。


    「建宮に神裂まで……お前ら何やってんだ?」

    「よし、まずはみんな落ち着くのよ。この俺が一つ一つ分かりやすく説明を……」

    「嫌……」


    収集がつかなくなるとまずいので、建宮が一歩前に躍り出てて冷静な口調で告げるも、
    それは五和の震えた声によってかき消された。


    「五和、どうしました?」

    「嫌……ごめんなさい……ごめんなさいごめんなさい……」


    ブツブツと頭を抱えて呟き続ける五和。
    状況が理解できなさすぎてパニックに陥っているようだ。
    おまけに最悪の場面を想い人である上条に見られてしまったとあっては無理もない。
    心配そうに神裂が彼女の肩に手を伸ばすと、五和はその手を振り切るようにして玄関に向けて駆け出した。

    473 = 169 :


    「ごめんなさいっ……!」

    「お、おい五和っ!」


    上条の横をすり抜けて、叫ぶようにそう告げた五和は暗闇の中に消えていった。
    舌打ちをする建宮。状況が全て悪い方に転がっていっている。
    このままではここまでの五和の努力と皆の協力が全て水の泡と化してしまう。
    それだけは、なんとしても避けなければならなかった。


    「上条! まずは謝らせてくれ、すまんかったのよ!」

    「建宮……?」


    怪訝そうな眼差しを送ってくる上条。
    今日まで健気に頑張ってきた五和だけでも守らなくてはならない。
    建宮は深々と頭を下げて謝罪の言葉を放った。


    「これは茶番なのよ! 『神の右席』が来るってのも嘘だ。お前さんと五和の距離を縮めようと俺が指示して五和を送り込んだ」


    一度顔を上げ、真っ直ぐ上条を見据える。
    彼は口をポカンと開けてこちらの言葉に聞き入っているようだが、建宮は構わず続ける。


    「建宮、お前何言って……」

    『下方のヤミテタ』なんていねえってことよ。
     この嬢ちゃんがここにいることの連絡が遅れたことも謝るのよ。本当にすまなかった。
     俺を殴らなきゃ気が済まないならもちろん殴ってくれてかまわんのよ。
     だが頼む、五和を嫌わないでやってくれ!」

    「わ、私からもお願いします!」

    474 = 169 :


    建宮の隣に、神裂が立つ。
    しかもあろうことか、天草式のトップたる彼女までもが同じように頭を下げた。


    「プ、女教皇様! 何をしていますのよな!?」


    これにはさすがに驚く建宮とその他一同。
    上条はまだ呆然として状況が飲み込めていないようだった。


    「事情を与り知らぬ私が言っても誠意が伝わるかどうかは分かりませんが……しかし私は天草式の女教皇として、
     あなたに謝罪しなくてはなりません!
     少なくとも、この子を無断でさらってきたのは明らかにやりすぎだったと思います。
     怒りはごもっともでしょう。しかし、五和の気持ちには一切の嘘偽りが無かったと私が保証します。
     だからどうか、彼女を悪く思わないでやってくれませんか?!」


    神裂のその姿を見て、他の天草式の面々も次々と頭を下げる。
    ようやく我に返った上条が、ハッとなって口を開いた。


    「ちょっと待ってくれ! 上条さんには何を言ってるんだかさっぱり分からねえ!
     お前らがインデックスを連れてきたのか?」

    「それは違うよ、とうま、かおり」


    今まで黙っていたインデックスが立ち上がり、上条の眼前まで歩いてきて彼の頬を引っ叩いた。
    神裂も含めて全員が息を呑んだ。


    「とうま、何してるの?」

    「え?」

    「今とうまがしなくちゃいけないことは何?」

    475 = 169 :


    険しい表情のインデックスと見詰め合ったまま微動だにしない上条。
    二人の間に、建宮も神裂も、誰も割って入ることができなかった。
    彼だけの、彼女らだけの会話。
    ここまで共に戦い、日々を過ごしてきた二人にとって、もはや言葉はそれだけで充分なのだろう。
    やがて上条は、拳をぐっと握って頷いた。


    「悪いインデックス。ありがとな。そうだよ、何やってんだ俺は」


    上条はインデックスの頭を一撫ですると、建宮達の方を向いて白い歯を見せて笑った。


    「なんだかよく分からないけど、誰も傷ついてないんだからいいじゃねえか。
     だったら五和だけが辛い思いをするなんて間違ってるよな」

    「上条お前何言ってんのよ……」

    「建宮、お前らっていい奴だよな」


    最後にそう言い残して、上条も部屋の外へ飛び出していった。
    残された部屋で、誰も何も言えずにその背中を見送った。
    しばらく静寂が室内を支配したが、それを破ったのは、妙に大人びた横顔の暴食シスターだった。


    「かおり……」

    「は、はいっ!」


    見た目中学生程度にしか見えないインデックスの口調はどこか重々しく神秘的で、
    声を掛けられた神裂はビクリと肩を奮わせた。


    「私はね、自分でここに来たんだよ?」

    「……え?では建宮、あなた方がこの子をここにさらってきたのでは……?」

    「違いますのよ。夕方買出しに出かけたらあいつの寮の前でたまたまこの嬢ちゃんに捕まりましたのよな。
     だーれも聞く耳持たねえんだから」

    476 = 169 :


    肩をすくめてため息をつく。
    神裂はその言葉に、インデックスのどこか遠くを見るような横顔を見つめた。
    こんなに大人びた表情をする子だっただろうかと、神裂は切なげに目を細める。


    「ではどうしてあなたはここに? 五和とは仲良くやれていたのでしょう?」

    「うん。いつわは好きだよ。ご飯は美味しいし、私にもすごく優しくしてくれる。
     でもね……」


    一度だけインデックスは言葉を区切った。
    喉の奥にある感情を、吐き出すべきか迷っているかのような間。
    神裂は彼女の前に立ち、膝を曲げて同じ目線で視線を合わせた。
    同僚として、守るべきものとして、彼女という人間の感情を受け止めてやるために。


    「……いつわはとうまが好きなんだよ。とうまもいつわが好きなんだよ。
     私は……そんなに空気の読めない子じゃないんだよ……!」


    インデックスは泣いていた。
    そして建宮も神裂も、そのとき悟ったのだった。
    彼女もまた、上条当麻のことが好きだった。
    それは恋愛感情などではなく、もっと根源的な感情。
    ただ彼のことが好きだったのだ
    しかし彼女は女として、上条と五和の仲睦まじい姿を見ることが辛かったのだろう。
    互いを思いあっているのがバレバレなのに、それが自分がいることによってお互いの気持ちを伝え合えないのではないだろうかと、
    インデックスは勘繰ってしまったのだ。
    神裂は、何も言わずインデックスを抱きしめた。
    小さな体が、寂しさと行き場の無い想いで震えている。
    強く強く、神裂は抱きしめる。
    建宮は少女の慟哭を前に言葉を放つことができなかった。
    どうやらここにも、救われぬものがいたらしい。

    477 = 169 :


    ―――――


    五和は天草式の隠れ家を飛び出して、昼間上条とデートをした河川敷まで走ってきていた。
    肩で息をし、疲れた体を投げ出すように土手に腰を下ろす。
    逃げてきてしまった。
    上条の怪訝な眼差しと、場の空気に耐えられなかったのだ。


    (……どうしよう、もう戻れないな……)


    彼との仲ももう終わりかと思うと涙が溢れてくる。
    彼におしぼりを渡して会話のきっかけを掴もうとした日々も。
    彼の好きそうなものを調べて料理の練習に気合を入れたあの日々も。
    もう今日でお終い。
    土手の上で膝を抱えて俯く。
    涙が大地に零れ落ちていく。
    顔をくしゃくしゃにして、五和は声をあげて泣いた。


    (……とにかく謝らないと……)


    止め処ない涙を零しながら、五和は逃げてきてしまったことを後悔した。
    何にせよこのままロンドンに戻るわけには行かない。
    自分が学園都市にいることの全てが嘘によるものだということはバレてしまっただろうが、
    それに対してきっちりケジメをつけなければならない。
    泣いて少しだけ落ち着いた五和は、また心配をかけてしまったなと鼻をすすって顔をあげる。
    ふと、背後でカサリと草が揺れる音と共に人の気配を感じた。
    まさか彼が追いかけてくれたのかと淡い期待を胸に振り返る五和。


    「お姉さん、こんなとこで何してるのー?」

    「泣いてるんだったら俺たちが慰めてやるよ」

    478 = 169 :


    そこに立っていたのは彼などではなかった。
    いかにもガラの悪そうな男たちが4人、五和を取り囲むように、ニタニタと笑みを浮かべて距離を詰めてくる。
    だが特に危険だとは思わなかった。
    五和はこれでも一応アックアと真正面から一戦交えて生き残っている女だ。
    仮に相手が能力者だろうと、戦って引けをとることはない。
    五和は頭を切り替え、立ち上がって戦闘体制をとろうとしたところで、気がついた。


    (武器が無い……)


    愛用の海軍用船上槍は上条の部屋に置いてきてしまった。
    普段は忘れることなど絶対に無いのに、こんなときに限って。
    歯噛みする五和。
    下卑た笑みを浮かべる金髪の男が五和の手首を掴んだ。


    「離してください!」

    「こんな時間にゃ誰も来ねぇから声出しても無駄だぜ?」

    「おー、結構可愛いじゃん。大人しくしてりゃ痛くはしねえから大丈夫だよ」

    「誰かッ!」

    「うるせぇ!静かにしろ!」


    男たちに取り囲まれて声をあげる五和。
    嘘なんてついたから罰が当たったのかもしれないと、五和が唇を強く噛んで上条を心の中に思い浮かべたそのときだった。
    土手の上に、白いワンボックスカーが止まった。
    フルスモークのガラスにやけに煤けた車体。
    仲間が来たのだろうか。今からあそこに連れ込まれて何をされるのかと、五和の顔から血の気が引いた。
    ゆっくりと開いていくパワーウィンドウ。
    そこからぬっと伸びて来た腕は、か細い女のものであるように見えた。
    男たちが振り返る。
    次の瞬間、辺りを眩い閃光が襲ったのだった。

    479 = 169 :


    ―――――


    御坂美琴は、結局また河川敷に戻ってきていた。
    上条との思い出があるこの場所に、もう少しだけ留まっていたかったのだ。
    暗闇に包まれた人気の無い川沿いに座り、水面を見つめながら何度もため息をつく。


    (はぁ……帰りたくないなぁ……)


    部屋に戻ったら、ルームメイトの白井黒子に赤く腫れ上がった目蓋について何と言われるだろう。
    もうとっくに寮の門限は過ぎているし、寮監に怒られて泣いてしまったことにでもしようか。
    御坂がどうせ遅くなっているのだから、気の済むまでここに居ようと夜空に輝く三日月を見上げた時だ。
    背後に人の気配がした。


    「お姉様、ここに戻っておられましたのね」

    「黒子……」


    音も無く、白井黒子が背後に立っていた。
    口元に笑みを浮かべて、ゆっくりと歩いてきて御坂の隣に腰を下ろす。


    「どうなさいまして? もうとっくに門限は過ぎていましてよ?」

    「……あんたこそ帰らないと、寮監に首折られるわよ。つっても、もう遅いか」


    顔を見られないように、御坂は彼女とは逆方向に視線をやりながら力なく笑った。


    「お姉様と一緒に叱られるのも悪くないと思いましたの。
     んもっともぉ、お姉様がここで黒子に非情なる折檻をしてくださっても構いませんのよぉん、あはぁ」


    うにうにとツインテールを蠢かせながら、白井が擦り寄っておどけてくる。
    いつも通りのふざけたスキンシップ。
    だが御坂はフッと力を抜くように微笑むと、ようやく彼女に真っ直ぐな視線を向けることができた。


    「ありがと、黒子」

    「お姉様……?」

    480 = 169 :


    頭を優しく撫でてやり、表情を綻ばせる御坂。
    彼女が何故ここにいるのか、御坂にはもう分かりきっていた。


    「あんた、私を元気付けに来てくれたんでしょ?」

    「何のことか分かりませんわね」

    「夕方、あんた私を後ろから見てたじゃない」

    「ぎくっ。さ、さぁ何のことかしら」

    「知ってるでしょ。私の体からは常に微弱な電磁波が出てるの、電柱程度の遮蔽物に隠れたって、私には全部見えてるんだから」


    御坂は分かっていた。
    白井が自分を見ていることなんて、最初からずっと知っていた。
    だけど、泣いている顔を後輩に見られたくなんてなかった。
    あのまま気付かぬフリをしておけば、寮に帰っていつも通りの笑顔で自分を迎え入れてくれると分かっていたから。
    だが御坂には、そんな白井の優しさが痛かった。
    慰めは、自分が失恋したことを突きつけられることに他ならない。
    部屋に戻らなかったのはそういった理由もあった。


    「それにあんた今『戻っておられましたの』って言ったよ。どうして私がここに来てたこと知ってるのかな」

    「うう……認めますの」


    降参と言った様子で諸手を挙げ、白井がため息をつく。


    「けどお姉様、このままでよろしいんですの?」

    「は?」

    「このままではあの女性に上条さんを持っていかれてしまいますの」

    「駄目よ……あいつはもう、あの子のこと好きなんだもん……あんなに幸せそうにしてたんだもん……」

    482 = 169 :


    油断をすると、また涙が零れそうだった。
    不良に絡まれている自分を助けようとしてくれたあの日から、
    罰ゲームと称して行ったほんの短い時間のデートも、
    自販機を壊して逃げ回ったあの時も、
    そしてこの河川敷で喧嘩をしたあの日も。
    ずっとずっと、心の宝箱の中に大事に閉まってきた思い出だ。
    たかだか数時間で、そんなこの半年間の全てを忘れ去ることなんて出来るわけがない。
    彼と過ごしたかけがえの無い時間を、割り切ることなんて出来ない。


    「戦わずして逃げるなんて、お姉様らしくもない」

    「逃げるって……別にそんなんじゃ……」


    呆れたようにため息をつく白井に、口の中で小さくぼやく御坂。
    白井は構わず続ける。


    「お姉様はまだ上条さんに想いを伝えてらっしゃらないのでしょう?
     何もしないうちから諦めるなんて、とんだ臆病者ですわね。毛虫、いえナメクジですわ。
     ジメっとした軒下でキノコでも育てていればよろしいのに」


    口調こそ丁寧だが、白井の言葉にはこちらへの挑発の意思が見て取れる。
    こういう売り言葉に割と弱い人種である御坂は、カッとなって反論を口にした。


    「なっ……! 何であんたにそこまで言われなくちゃいけないのよ!
     私だって必死に考えて結論出したのよ! 今になって思えば、あいつに全然優しく接してないもん……。
     そんな私なんかより、ああいう控えめで大人しい子を誰だって好きになるわよ!」

    「だからどうしましたの?」

    「……え?」

    483 = 169 :


    鋭い視線を浴びせかけてくる白井。
    御坂は思わずたじろいだ。あのいつもお姉様お姉様と猫撫で声でじゃれてきた白井が、こちらに明確な敵意を向けている。
    彼女の目を、御坂は真っ直ぐに見ることができなかった。


    「何をおっしゃってますの? 確かに上条さんの好意は今、あの女性へ向いているのかも知れません。
     ですが、どうしてそこで諦めるという考えに至るのかが、わたくしには分かりかねます」

    「い、いやだって普通両思いの二人がいたらそこに割って入ろうなんて思わないでしょ」


    うろたえる御坂の言葉に、白井は不敵な笑みを浮かべて御坂の唇に人差し指を押し当てた。


    「略奪愛こそ、女の華ですの。殿方に従順な女性など面白みに欠けていましてよ。
     仮に今、上条さんと例の女性が恋人関係になったとしても、後でそれを奪って差し上げればよろしいではありませんか」

    「なっなななな!」


    妖艶な笑みを浮かべる白井に、御坂は言葉が出なかった。


    「お姉様、諦めたらそこで試合は終了でしてよ?
     恋は戦争。幸い、お姉様はこれからお胸ももっと大きくなって、お顔も今以上にお美しくなることは、
     お母様が証明してくださってますの。
     いいですこと? お姉様が後々勝機を得るために、ここで上条さんのお心に楔を打ち込んでおく必要がありますの」

    「く、くさび……?」

    「はい。お姉様が上条さんに一度気持ちを伝えておくべきですの。
     そうすると、例の女性との関係がマンネリ化してきたときに、ふと思い出すはず。
     『あれ?そういや御坂の奴、俺のこと好きとか言ってたよな。一回連絡とってみっか』
     とこうなります」

    「……そんな男もどうなのよ」

    484 = 169 :


    口元を引きつらせる御坂を制し、白井はなおも言葉を続ける。


    「まあお聞きになって。
     そのとき上条さんの前に現れるのは、控えめなお胸の電撃中学生ではなく、
     お美しく成長し、スタイルも抜群になられたお姉様。
     上条さんは一瞬にして、それこそ雷に打たれたような恋に落ちるはずですの」

    「黒子……」

    「そこで慎ましくおしとやかに、お姉様はおっしゃいます。
     『私は今も上条さんのことをお慕い申し上げております』と」

    「……」

    「これでもう上条さんはお姉様の虜。あとは煮るなり焼くなりご自由にという感じですわ。
     もちろんあの女性との修羅場は訪れるやもしれませんが、既に上条さんを手に入れたお姉様にとって、
     まぁそこはどうにでもなりますの」

    「……」

    「いかが? 非の打ち所の無いこの長期に渡る略奪計画。ぜひお試しあそばせ」


    得意げに語っている白井。
    御坂はいつしか俯き、拳を握って体全体をプルプルと震わせていた。


    「……くっ」


    やがて口からこぼれ出る言葉。それを聞き逃さなかった白井が、怪訝な顔で御坂の顔を覗きこむ。


    「く? お姉様?」

    「くっくくくっ……ぷはっああははははははははははははははははははははっっ!
     もう駄目! もう駄目! ひー、おかしっ!お慕い申し上げ! あはははははははは!
     誰それ! 私! 私がっ! あははははははははは!! ひぃいい! お腹痛いっ!」


    ダムが決壊するように笑い転げる御坂。
    先ほどまでの陰鬱な表情はどこへやら。御坂はお腹を抱えて大口を開けて笑い声をあげた。
    目を真っ白にして恐る恐るそれに触れる白井。しかし、御坂の笑いは止まらない。

    485 = 435 :

    綺麗な黒子だww

    486 = 169 :


    「お、お姉様、壊れてしまいましたの? 気をしっかり持ってくださいまし!」

    「違うっつの! あんたがっ! あんたがあんまり面白いこと言うもんだからっ! あっはははは!」

    「ギャグではありませんの! 黒子は大真面目ですの!」

    「真面目でそれって! そんなやついないわよっ! ひぃい! あはははははっ!苦しい!お腹苦しいっ!」


    頬を膨らませて腕をぶるんぶるん振るう白井と、ツボに入ったままの御坂。
    その笑い声は、しばしの間河川敷に木霊した。


    「あーっ、笑った笑った。おっかしーのもう」

    「ふんっ、お姉様なんてもう知りませんの!」

    「拗ねない拗ねない。ありがと黒子、元気出たよ」

    「ですからお姉様、わたくしは大真面目にっ……!」


    こちらを向いた白井の言葉が詰まる。
    彼女を見つめる御坂の瞳は、先ほどまでとは違い、前に進もうとする意思に満ち溢れていたから。
    心の中で鬱屈していた感情を笑い声に乗せて吹き飛ばし、御坂は一つのことを決意した。
    白井の頭を撫でながら、御坂は微笑み告げる。


    「あんたの言うとおりね、黒子」

    「お姉様……?」

    「勝負しないうちから負けてるようじゃ駄目よ。
     私、ちゃんとあいつに告白するっ!」


    力強い言葉だった。
    白井の頬が赤く染まり、瞳は大きく見開かれる。


    「正直ちょっと勝率は低いけどさ……でも、戦わなきゃ。
     私はあいつから、それを教わったんだから」

    487 = 169 :


    御坂の初恋は終わったかに見えた。
    だが、彼女は這い上がる。
    学園都市の第三位は、努力の人だから。
    諦めず、諦めず。血を吐き、涙を流しながら上り詰めた、諦めを拒絶する人だから。
    だから彼女は、上条当麻にもう一度だけ挑む。
    例え勝機が1パーセントに満たなくとも。
    彼女は、挑まなかったことを悔やみたくは無かったのだ。


    「それでこそ、わたくしのお姉様ですわ」

    「よし、早速あいつのとこに行くわよ!」

    「い、今からですの? 別に明日でも……」

    「駄目駄目! こういうのは勢いが肝心なんだから! さあ出発!」

    「いえ、ですから時間も時間ですし……あら?」


    勢いが付きすぎた御坂を引き気味にたしなめる白井が、ふと何かに気がついたように70mほど離れた道路沿いの土手に視線を送った。
    御坂もつられてそちらを見る。
    暗くてよく見えなかったが、何やら人影がもめているように見える。


    「黒子、あれって……」

    「ええ、どうやらそのようですわね。あのテの輩はどこへ行っても湧いてきますの」

    488 = 169 :


    一人の女性が、四人の男に絡まれているようだった。
    そしてその女性は、上条と一緒にいたはずの彼女だ。
    顔を見合わせ、頷く御坂と白井。
    そちらに向って白井が転移能力を使おうとしたそのとき、道路を走ってきたワンボックスカーが急ブレーキをかけて止まる。
    まずい、拉致されると追跡が困難だと御坂が歯噛みする。
    超電磁砲を撃ちたいが、もみ合いになっているためあの女に当たってしまうかもしれない。
    車の後部座席の窓から、何者かが手を伸ばす。
    御坂の背中を、ゾワリとした悪寒が走った次の瞬間。
    夜空を青く照らす無数の閃光が土手に降り注いだ。
    まるで打ち上げ花火を空から地面に向けて放つように、何発も何発も。
    土を抉り、土手の地形が変わるのではというほどの閃光の雨は、絶妙に人間をかわして降り注ぐ。
    ギャーギャーと悲鳴をあげる男たちの声が聴こえる。
    五和という少女は、呆然としてその光景に見入っているようだった。


    (あれ……どっかで見たような……)


    御坂には、その光にどこかで見た覚えがあった。
    全てを貫く荷電粒子の槍。
    青白いその輝きは、かつて自分を追い詰めたものではないだろうか。


    「わたくしたちの出る幕は無さそうですわね……」


    男たちはなりふり構わず逃げていったようだった。
    肩をすくめる白井。
    何事も無かったかのように去っていくワンボックスカーの姿を見て、御坂も首を傾げるのだった。

    489 = 169 :


    ―――――


    五和はボロボロになった大地の上に立ち尽くしていた。
    空中高くから、青白い閃光の爆撃を受けたことは覚えている。
    しかし、それが一体誰の手によるものなのかは分からない。


    (もしかして……昼の……)


    ワンボックスカーから手を伸ばした女。
    昼の麦野という人物だったのかもしれない。借りは必ず返すと言っていたし。
    しかし、それを確かめる手段はもうない。ワンボックスカーはいつの間にかどこかへ走り去ってしまっていたし、
    超能力に関して五和は大した知識も持たないからだ。


    (お礼、言いたかったな……)


    顔くらい見せてくれればよかったのにと思いつつも、その潔さがかっこいいなと思うのだった。
    空を見上げると、輝く三日月が仄かに大地を照らしている。
    夜の少し冷たい風と、静謐な空気を感じて、五和は深呼吸をした。
    なんとか落ち着いてきた。
    彼の元に戻ろうと、五和が踵を返そうとしたそのとき。


    「五和っ! 大丈夫か!」


    彼、上条当麻の声が聴こえた。
    振り返ると、肩で息をした彼が立っている。
    よくここにいると分かったものだ。五和は土手の上に立つ彼を真っ直ぐに見上げた。

    491 = 169 :


    「上条さん……どうして私がここにいるって分かったんですか?」

    「いや、ここで花火みたいな光が見えたからもしかしてって。。
     それに五和は何となくここが気に入ってたみたいだしな」


    麦野という女性は図らずも彼に居場所まで知らせてくれたようだ。


    「上条さん……ごめんなさい、私、上条さんのこと騙してたんです」


    哀しげに笑う五和。
    だが、上条はそれがどうしたとでも言いたげにこちらの傍まで降りてくると、五和の肩や腕についた土を払ってくれた。


    「ああ、聞いたよ。別に怒ってない。むしろ五和に会うきっかけになったんだから感謝してるくらいだ」

    「え……?」


    優しく微笑む彼に、五和の鼓動はまたも速度をあげていく。
    彼が傍にいるだけで、どうしようもないほどに胸が苦しみを訴える。


    「五和がここに来てくれなきゃ、今日みたいに……あー……デートも出来なかったしな」

    「上条さん……」


    瞳が潤む。彼の優しい言葉に、心も体も全て明け渡したい。
    二人の言葉は途切れ、呼吸の音さえ聴こえる静寂の中で見つめあった。


    「さっき、言おうとした言葉なんだけどさ……」

    「は、はい……」


    先ほどと同じ場所でもう一度仕切りなおす。
    だが五和の心に、何かが引っかかっていた。
    このまま彼の言葉を待っているだけでいいのだろうか。
    自分がここに来た目的は、本当に彼からその言葉を引き出すことだったんだろうか。
    五和も疑問は、彼の真っ直ぐな瞳を前に消えていくかに見えた。
    しかし


    「ちょっと待ったぁっ!」

    492 = 169 :


    もう幾度目か分からないほどの、邪魔が入る。
    これが彼という人間の天命なのだろう。
    振り返った先には、腕を組み、仁王立ちする一人の少女の姿があった。
    一昨日、下校途中の彼の前に現れた少女。アックア戦の前、入浴施設で出会った少女。
    御坂美琴が鋭い眼差しで立っていた。


    「御坂、何やってんだ?」

    「……上条当麻ぁっ! あんたに言いたいことがあって来たの!」

    「な、なんだよ。勝負は今日はしないぞ」


    そのあまりの勢いに気圧される上条。
    五和は嫌な予感がした。
    嫌な予感?違う。
    自分は怖れているだけなんだ。
    彼女がこれから何をしようとしているか分かっているから、その結末を見るのが怖い。
    爪が食い込むほど拳を握り、五和は俯く。


    「そんなもん、どうだっていい!」

    「は?」


    頬が赤いのがこちらからでも分かる。
    五和は唇をギュッと噛む。すぐに血の味が口内に広がった。
    やがて御坂は大きく息を吸い込み、河川敷一体全てに聴こえるんじゃないかというほどの大声で、宣言した。


    「当麻ぁっ! あんたが好き! 死ぬほど好きなのっ!」


    唇の皮が破れる。爪が掌に突き刺さる。醜い嫉妬が湧いてくる。
    彼に、そんなことを言わないでほしい。
    彼を、どうか迷わせないでほしい。
    五和は、そして何より己が憎かった。
    素直な気持ちを高らかに告げる彼女をこうして見ていることしかできない。
    彼からの言葉を、待つことしかできない。
    控えめでおしとやかを言い訳に、自分の言葉が拒絶されることを怖れて彼に最後の一歩を踏み込めない。
    そんな自分を殺したい。

    493 = 169 :


    「……御坂……」

    「これが私の気持ちよっ! 上条当麻っ! 
     あんたはいつだって私を受け止めてくれたじゃない! 嫌な顔せず私に付き合ってくれたじゃない!
     これからは受け止めなくたっていい! 嫌なら嫌って言っていい! 私はあんたの嫌がることはもうしないっ!
     だからっ!」


    魂で語りかけるような咆哮。
    およそ女の告白とは思えない絶叫。なのに五和は、その声に心が震えた。
    上条は呆気にとられている。否、聞き入っている。
    そして御坂はもう一度息を吸い込み、彼に願う。
    ただ、その一言を。


    「だから私と、私と付き合いなさいっ! 私の彼氏になりなさい! これが最後でいいから、私を受け止めてよ!」


    心をぶちまけるような激しい叫び。
    上条の手もまた震えていた。
    心を揺らがされる。彼女の幼くも全力の告白に、上条は返す言葉を失っているようだった。
    五和の背中を押したのは、上条の息を呑む横顔を、御坂の悲鳴にも似たその言葉だった。


    「上条さんっ!」


    ビクリと肩を震わせてこちらを見る上条。
    彼の目は驚きに見開かれている。
    五和は心臓が弾け飛びそうな脈動を、血管が破れるような圧力を全身で感じながら、彼の瞳を真っ直ぐに捉えた。
    覚悟は今、決まった。
    奇しくも御坂の言葉によって。
    そうだ。彼はいつだって私を思いやってくれた。
    私に素敵な笑顔を向けてくれた。
    そんな彼が、好きなんだ。
    言葉に出さずには、もういられない。
    想いを伝えずには、帰れない。
    恐ろしかったはずのその最後の一歩は、いとも簡単に踏み出すことができた。

    494 = 169 :


    「五和?」

    「私だって! 私だって上条さんが好きですっ!」

    「!」


    言った。とうとう言った。
    体が熱い。顔が熱い。その熱さに比例するように、言葉が次々と溢れてくる。


    「もっともっと上条さんに愛されたい! 上条さんに好きだって言ってもらいたい!
     初めてあなたにあったあの日から……言葉を交わしたあの日から……。
     あなたの気持ちを自分だけのものにしたいってずっと思ってたんですっ!
     他の誰にだって渡したくない! あの子にも、女教皇様にも、そして御坂さんにも!
     いけない子だって、ずるい子だって、思われたって構わないっ!
     だからお願いです! 上条さんっ!」


    彼に求められるのを待つのではなく。
    彼を求めて、その手を掴み取りたい。
    彼の心を、この手で奪い上げる。
    初めてお絞りを渡したあの時からそのために、私は彼に戦いを挑んでいたのだから。
    故に、腹の底から、心の底から。
    五和もまた彼に願うのだ。


    「私とお付き合いしてくださいッ! 私を彼女にしてくださいっ!」


    彼から視線は決して逸らさない。
    真っ直ぐに彼を見据える。
    上条は呆然となっていた。
    一度に二人の女の子から吼えるような告白を受ければそうなるのも無理は無い。
    だがこの告白のどちらかをとるか、あるいはどちらもとらないかを選ばなくてはならない。
    拳を握って考えている様子の彼。

    そして数瞬。
    彼はこちらに背を向け、御坂へと言葉を投げかける。

    495 :

    ???「レイィーン!お前が好きだぁぁぁぁああああ!!お前が欲しぃぃぃぃいいいいいいいい!!」

    496 = 169 :


    「御坂……俺、お前がそんな風に思ってくれてるなんて気付けなかった。
     正直お前は俺のこと嫌ってんじゃねえのかって思ってたし、もちろん最近はそんなことは無かったけど、
     気の合う友達だと思ってくれてんだと思ってた」


    真剣な口調で語る上条。
    五和はその言葉をただ何も言えずに聞いていた。
    御坂もそのようだ。
    彼女の手は震えている。五和の手も震えている。
    今二人の気持ちはまるで同じ。
    この恋の決着を聞くのが、ただただ恐ろしくて、途方も無く長い時間のように思えた。


    「だから、お前の気持ちすげえ嬉しいよ、ありがとうな。御坂……」

    「……うん」


    微笑んで、御坂に礼を言う上条。
    気恥ずかしそうに頷く御坂との二人の間に、信頼関係が見て取れる。
    五和の胸が強く締め付けられた。
    こうしても見ていても、二人はお似合いだ。自分なんかよりもよっぽど。
    だが、五和はもう、そんな風に自分に言い訳をして逃げるのを辞めた。
    怖気づく心を必死で鼓舞して、彼の告げる結末を待つ。


    「でも、ごめん……」

    「……」


    五和は俯く。
    御坂はその答えに、あまり驚いてはいないようだった。
    覚悟を決めてここにやってきたのだろう。
    彼の出した答えを、受け入れることを拒まなかった。
    強い人だなと、五和は自分より年下の御坂の毅然とした姿に尊敬の念すら覚えた。
    自分とはあまりに違う、眩しいほどの強さ。
    だから五和は、


    「……ごめん、御坂。俺……五和が好きなんだ」

    497 :

    上条「ごめん、俺、実は白井の事が好きなんだ」


    おわり

    498 = 169 :


    彼が発したその言葉を聞き逃す。
    ハッとなって顔をあげる五和。
    今彼は、何と言ったのだろうか。
    ふと見ると、目の前で彼はこちらに向って笑っていた。
    ドクドクと、血流が速度を上げて全身を駆け巡る。


    「五和。俺もお前が好きだ。俺と、付き合ってくれないか?」


    目を大きく見開いて、五和は呼吸を止めた。
    息を吐いたら、体の奥深くまで浸透してきたその言葉も一緒に吐き出されそうで。
    五和はずっと望んでいたはずの言葉にまるで現実感を感じなかった。


    「……はい……」


    囁くように、小さく頷く。
    同時に胸の奥底から、喜びと輝きが溢れてくる。


    「はいっ! はいっ! わ、私でいいなら! お願いします!」


    そして五和はもう一度、何度も確認するように頷いた。
    ポリポリと頬をかきながら、上条は照れくさそうに笑った。


    「ははは……こちらこそ。本当は俺から言おうと思ってたんだけどな、先に言われちまった」


    彼が、自分を、好きだと言ってくれた。
    彼と、自分が、恋人同士になれた。
    嬉しい。嬉しい。
    五和は知らず知らずのうちに両目から涙を零していた。
    溢れ出てくる感情を止められない。彼が好きだという気持ちが止まらない。

    500 = 169 :


    「……嬉しい……嬉しいですっ!上条さん……大好きです!」


    顔を手で覆い、五和は膝から崩れ落ちた。
    もう涙は止めない。止める必要は無い。


    「あーあっ!もう、見せ付けてくれるわねぇ」


    御坂の声に、五和は顔をあげて彼女を見上げる。
    快活な少女の顔がそこにあった。
    口元には不敵な笑みを滲ませて、五和と上条を真っ直ぐに見据えて腕を組んでいる。


    「……御坂、ごめんな……」

    「何謝ってんのよ。一人の男に恋をした女が二人いたの。
     そしてどちらか一人を男が選んだ。それだけのことでしょ。……それだけのことよ」


    こちらに背を向け、御坂は言った。
    最後にその声は、ほんの少しだけ震えていたように聴こえた。


    「私を選ばなかったんだから、その子のこと、大切にしなさいよ!」

    「……ああ、約束する!」

    「ふんっ。……黒子、帰るわよ」

    「はいですの。お姉様」


    御坂が呼びかけると、どこからともなくツインテールの少女が御坂の傍らに現れた。


    「また勝負するわよ、当麻!」

    「え?」

    「あんたに電撃ぶちかますのは私の趣味なの! 悪い!?」

    「……ああ、いつでも来いよ!」

    「覚悟しときなさい、んじゃまたね!」


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