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    元スレ女「────好き嫌いなんて、許さないんだからね?」

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    252 = 32 :

    「私ね、子供の頃は一時期…………鬱病で、ひどい状態だったの」

    「今は随分と回復したけれど、未だに根治には至っていないわ。もしかすると、一生付き合っていく必要があるのかもしれない」

    膝の上の少女の顔が、少しばかりの驚きの形に表情を歪ませる

    「お医者様が言うには、原因は一つじゃなく、多面的・複合的なものだろうって」

    「マスコミの連日の訪問に対するトラウマや、周囲の人たちの好機の視線への恐怖、……学校へ行けばクラスメイトに嘲笑され、虐められたわ」

    「それでも、お兄ちゃんが側にいてくれれば耐えられたかもしれないって、今でも思うの」

    私はお兄ちゃん子だったから、と笑いながら付け足す

    妹ちゃんは、初めて芽生えた心のうちの恐怖を振り払うように、私から目を逸らした

    「うん。そうだよね。私たち、今きっと同じこと考えてる」

    「私にはあなたの苦しみが分らないし、あなただって私の苦しみは分からないと思うけど、とにかく私たちは二人とも、幼少期に耐え難い苦しみを味わってきた」

    「……でも、そんな私達二人のうち、お兄ちゃんが側にいて護ってあげられたのは────あなたの方だった」

    先ほどから目を逸らし続けている少女のその顔に、今度こそ苦悶の表情が表れる

    「今更それについて恨み言をいうつもりはないの。私には優しい養父母がいたのだし」

    「でもね、ひとつだけ言わせて欲しい」

    「……あなただけが、苦しんでるなんて思わないで」

    253 = 32 :

    「私は……そん、な……」

    少女の顔が、これまでとは異なる種類の恐怖に歪む

    兄を盗られる恐れとも、私に殴られる怖れとも異なる、自分の心の内に撒かれた新たな恐怖に

    「みんな多かれ少なかれ苦しんでる」

    「お兄ちゃんはあなたのために手を汚した自分の生き様について悩んでいる」

    「私は、小さな頃に受けた心の傷が未だに塞がり切らないまま」

    「そしてあなたは、叔父さん達に虐待されたことが原因で、家族愛というものに異常なまでの執着をもっている」

    噛んで含めるように言い聞かせる

    「でもね、私は、手垢にまみれた言い方かもしれないけど……そんな自分の運命に、負けたくないの」

    「辛い経験を負った人は、その後も辛い人生を歩まなくてはならないの?」

    「どうして、私たちが幸せになっちゃいけないの!?」

    それは少女を説得する言葉でありながら、自分の本心の吐露でもあった

    「憎しみや苦しみの連鎖に囚われて、自分から幸せを放棄するなんて、そんな生き方、私は絶対に認めない」

    254 = 32 :

    「でも、……でも、私は、お兄ちゃんが、……お兄ちゃんさえいえれば……」

    揺れる心、さらに一石を投じて波紋を呼び起こす

    「ねえ、あなたのトマト嫌いが原因で、私がお兄ちゃんと喧嘩しちゃったこと、覚えてる?」

    「……ぇ、?」

    「私ね、今でもあの時の自分の考え、間違ってるなんて思ってない」

    ……私は、頑固者だから

    そう心の中で誇らしげに呟いて、少女の瞳をまっすぐに見据える

    「私はね、好きな人には自分の考えを分かって欲しいし、共感して欲しいの」

    「私だって、これがわがままなことだって分かってる」

    「でも……でもね、わがままを言わなきゃ、好きなものが手に入らないことだってあるの!」

    「好きな、もの……」

    少女はあまりに真っ直ぐな視線を向けられることにたじろいで、でも、その目線を逸らすこともできない

    「うん、……あなたと、お兄ちゃん」

    255 :

    今北産業

    256 = 32 :

    「あの学園に転入してきてから、最初はお兄ちゃんと仲良くなることで必死だったけど」

    「段々環境にも慣れて、心に余裕ができると、次第にお兄ちゃんの側にいる可愛らしいあなたと、お友達になりたいって思うようになったの」

    「……ッ」

    羞恥と忌々しさ、どちらにも対応を決めかねた変な表情になってしまう

    「お兄ちゃんはね、私と絆を結ぶ資格がないって悩んでた」

    「だって……絆って、お互いが互いを想い合わないと結べないものね」

    「私もずっと悩んでた。あなたとどうすれば絆を結べるんだろうって」

    「だから、手話を覚えたり、あなたの好きな食べ物を作ってきたり、好き嫌いを窘めたりしたわ」

    「それは、一方通行でひとりよがりな行為かもしれないけど、それでもいつか届くと願って、頑張ったの」

    優しさを込めて向ける笑顔、笑顔を向けられて痛む心

    「……私は、嬉しくも何ともなかったわ」

    「ふふ……そうだね、それだけが残念だった」

    さして残念そうでもない風に答える

    257 = 32 :

    妹ちゃんが私の膝元から身を離して起き上がり、ようやく正面から相対してこちらを見つめる

    「……あんたのご高説は立派だけどねぇッ、私には家族がいればいいの!」

    「家族であるお兄ちゃんさえいてくれれば、他はどうでもいい。友達なんているもんですか!」

    「食べ物の好き嫌いなんて、それこそ勝手にしろって話でしょ!?」

    「お兄ちゃんに言われるならまだしも、なんであんたなんかに怒られなくちゃいけないわけ!?」

    強い視線で睨み返され、思いの丈をぶちまけられる

    でも私は揺るがない、負けない

    「家族でなくちゃ叱っちゃ駄目って、誰が決めたのッッ!?」

    「……ッ」

    「……私は叱るよ。あなたが私を襲おうとしたこと。過失とは言えお兄ちゃんを刺したこと!」

    「あなたが、私を追い詰めるために、お兄ちゃんがあなたのためにした過去の過ちを持ちだして、お兄ちゃんを傷つけたことッ!!」

    「……それ、は……ッ」

    258 = 213 :

    さるよけ

    259 = 32 :

    「私はこう思ってるの。人と人とが絆を結ぶために必要な、ただ一つの資格は……」

    絶対に目を逸らさない。倒れそうなくらいに強い視線をぶつける

    「相手のことを、本気で叱ってあげられる気持ちを持つことだって」

    妹ちゃんが震える

    自身の罪を、あるいは、自分の心の弱さを暴き立てられることに怯えて

    「他人に優しくすることは、心に余裕があれば、誰にだってできることだわ……妹ちゃんに接し始めた最初の頃の私みたいに」

    「でも相手のことを本気で心配して叱ってあげられるのは、本心から相手のことを大切に思ってないければできないことだって、そう思うの」

    「それは、時にはひとりよがりになってしまうかもしれない」

    「自分のことを棚にあげることだってあると思う」

    「叱り方が不器用で、うまく表現できなくなっちゃうことだってきっとある」

    「食事の好き嫌いを窘めるなんてことは、ただ空回ってるだけの行為なのかもしれない、けど────」

    少女の揺れる瞳の中に自分の姿が映る、……本気で怒っている表情を浮かべた自分の姿が────

    「それでも、これがわがままだとしても、私が今──────あなたのことを本気で大切に思ってるのは確かだもんッッ!!」

    「……ッ、ぁ、……あ、…………」

    260 :

    さるよけ

    261 = 32 :

    「人を傷つけるようなことを、言っちゃ駄目でしょう?」

    ────今度こそ、本当に瓦解しそうだった

    「人を本気で殺そうとするなんて、駄目に決まってるでしょう!?」

    両親に求めても得られなかった無量の愛を、赤の他人である目の前の少女が自分に与えようとしている現実

    「自分の苦しみにばかり目を向けて、他人の苦しみには鈍感でいいわけがないでしょう!?」

    それは両親の死後誰も自分にはぶつけてこなかった感情

    「憎しみの連鎖の中に身を置いて、自分も周りも破滅させるなんて見過ごせるわけないでしょうッ!?」

    だから、こんな風に叱られるのはとても怖くて、怖くて怖くて怖くて、でも、本当は────

    「自分をこれ以上傷つけるのも、周りにこれ以上迷惑をかけるのも、──────いい加減にしなさいッッッ!!!!」

    「ぁ……あ……、ぅ……ぐすッ……ぁ、あ……」

    まるでそれは、自分が欲しくて欲しくてたまらなかった、幻想の中の両親だけが与えてくれた、あの優しい言葉のようで

    混乱して、もうどうしていいかなんて全く分からずに、足がすくんで、一歩も動けなくなる

    「……ぁ、ッぐ……で、でも、……ッ」

    262 :

    263 = 32 :

    「それでも、……ぐすッ…………あなたは、他人だものッッ!!!」

    自分の中の譲れぬ一線、……最後の防衛線

    それを飛び越えられるのを恐れるように、必死で、たったの一言を返すのが精一杯で

    「……そう、だね」

    なのに、目の前で叱責をするその女は、さらに一歩、叱られて子供のように怯える少女の側に踏み込んだ

    「確かに私は、あなたとは何の関係もない、他人だもんね……」

    他人だと認めつつも、絶対に距離を離そうとせず、むしろ一層縮めていく

    「ち、近づかないでぇッッ────!」

    その言葉はもう悲鳴に近くて、恐怖で頭がいっぱいで、他のことを考える余裕なんて無いはずなのに

    ────その瞬間、少女の頭には浮かんだのは、なぜか

    ある一人の女の子が、毎日自分のために作ってきてくれた料理のことや、

    自分が邪険にしても絶対に諦めないで根気強く笑顔で話しかけてきてくれたことや、

    そして、その女の子が、耳が聞こえる自分に身振りや手振りで会話を試みるのがおかしくて、つい気まぐれで返したほんの一言だけの言葉を、

    まるで、何よりも大切な宝物を貰ったかのような表情で、嬉しそうに何度も何度も心の内で反芻していたこと────

    ……そんな、何てことのない思い出の泡沫だった

    265 = 32 :

    「……や、だ、……だめ……ッッ」

    「私は、あなたと心の絆を結びたいって、本当にそう思ってるの……」

    ────そして、家族でなくても絆は結べると豪語していた頑固者の、その女の子は、

    「だけどね……それでもね…………」

    「それでももし、あなたが、どうしても不安だって言うならね……ッッ」

    自分にとって最も大切な人たちを護るために、もう二度と自分の夢の欠片を手放さないために、ほんの少しだけ信条を曲げて、半歩だけ相手に歩み寄る

    「家族以外の誰も、何者も信じられないって、あなたが、どうしてもそう思ってしまうのなら………ッッ!!!」

    最後のその半歩の距離を縮めて、目の前の小さな身体を引き寄せ、ぎゅっと抱きしめる

    「────ッ」

    声は悲鳴にならなかった。強く、強く、二度と離すものかと抱きしめて、かき消してしまったから

    胸に抱かれて感じた抱擁の暖かさは、夢にまで見た幻想の両親が与えてくれた、あの温もりに等しく

    背中にきつく回された腕の確かな感触は、まるで自分を罰してくれているかのように、この上なく力強くて

    いま最後の決意を胸に秘めて、あらゆる悪意から護るように、心の底から情愛を込めて、誰よりも優しく叱りつけるように────



    「────────私が、あなたのお姉ちゃんになるッッ!!!」

    268 = 32 :

    「──────ッ、ぁ、あ……ああ、」

    胸の中で嗚咽を漏らす小さな少女を、絶対に離さない

    「私は、好き嫌いなんて許さないんだから!」

    「ひ…ぁ…ぐすッ……ひッく…ぁぁ………」

    「お風呂だって寝るのだって、一人でしないと駄目なんだから!」

    次第に少女は、泣き声を留めることができなくなる

    「あなたがいたずらしたときには、いっぱい叱ってあげるからッ!」

    「あッ……う"ぁ”……ぁ”……ひぐッ…ぁぁああ………」

    「人にひどいことを言ったときは、本気で怒ってあげるからッッ!!」

    「…う"、ああああ"ぁ”ぁぁ…………」

    「……だから……ね?」

    「だから、お願い……ッッ。私の……私の妹になって────」

    「ッう”わぁぁあああああ"あ”あ”ぁぁぁ……ッッ」

    269 = 32 :

    胸のなかで子供のように泣きじゃくる少女を、優しく撫で擦る

    彼女は、いま初めて肉親の愛に触れたかのように、強く、強く追いすがってきた

    この子が求めても得られなかった情愛を、目一杯注いであげよう

    それはきっと、私自身にとっての救いにもなるはずだから

    「あなたは、……私がいることで、お兄ちゃんの愛情が半分になるって恐れてたけど、そうじゃないんだよ」

    「これからは、私とお兄ちゃん合わせて、倍の愛情であなたを包み込んであげるから、ね?」

    「うわああぁぁ"ぁ"ッッ……ひぐッ、ッうあああ"あ"あ"ぁぁぁ…………」

    殴りあって、言い争って、すがりついて……

    そうやって初めて、胸のうちの怒りや憎しみ、妬みや悲しみ、そんな心に暗い影を落とす様々な感情が洗い出されていく

    それは冷たい夜風に気付かされる季節の変遷に呼応した、必定の移ろいでもあるかのようだった

    暗鬱たる激情の日々は夏の終わりと共に幕を閉じ、いま、澄み切った秋風が心の澱を消し去っていく

    巡る四季は、ときに冬の凍寒を、ときに春の寧息をもたらすかもしれない

    ただ、いまこの一瞬は、見果てぬ水平線の闇の先に、夜明けを告げる、朝焼けの鮮やかな色彩が近づいていた

    270 = 39 :

    272 = 262 :

    これから本編だっけ?
    もう終わりかと

    273 = 32 :

    ***

    ────── エピローグ



    「────ね、ねえ、妹ちゃん、菜箸どこに置いたかしら~?」

    「もう! お姉ちゃんってば料理は上手なのに、本当に片付け下手なんだからー!」

    「へ……へへへ……ごめんね~」

    「愛想笑いで誤魔化さないの! 全くもう、な~にが『叱ってあげる!』よ」

    「いっつも、私の方がお姉ちゃんを叱ってばっかりじゃない!」

    「そ、そんな風に言わなくったって~~」

    「あぁ……あの時の格好いいお姉ちゃんはどこにいったのかしら……」

    「もしかして、途中で別人にすり替わってたりしてないわよね?」

    「あんた偽物? 偽物なの!? この、この~!!」

    「い、いもうろふぁん、いふぁい、いふぁいよ~~、ひっふぁらないへ~~」

    274 = 32 :

    ──── あの後、私は泣きじゃくりながらお姉ちゃんに手をひかれて一緒に病院に戻ったんだけど、そこからが大変だった

    お姉ちゃんと私の怪我は、自分たちの想像以上に酷いものだったようで、

    帰院後すぐに緊急施術と相成った(お姉ちゃんは鼻の骨に、私は頬骨に、それぞれヒビが入っていた)

    私の方は身体の怪我以上に、喉の方が相当にまずい状態だったらしく、下手をすると二度と喋れなくなっていたかもしれないとのお叱りも受けた

    二人とも厳重な監視のもと入院の運びとなり、加えて私の方は以降3ヶ月は喋れない状態が続いた


    「あ、妹ちゃん! そのハンバーグ、そろそろひっくり返して~」

    「……というか、うちは元々食卓のハンバーグ率が高いんだから、何も、お誕生日会の時にまで作らなくてもよかったんじゃない?」

    「だ、だって~。お兄ちゃんっていつも『またハンバーグかよ』って言いつつ、美味しそうに食べてくれるんだもの」

    「つ、ついつい作っちゃうのよねぇ……」

    「はいはい、ノロケ乙、ノロケ乙~」

    「で、でもでもほら、妹ちゃんの好物の煮浸しだって今日は五種類も作ったんだよ!?」

    「いや、そんなに食べられないから────って、玄関のチャイムだ。お兄ちゃんたち帰ってきたんじゃない?」

    「あ、そうみたいだね~。妹ちゃん見てきてくれるかな。私は料理を並べちゃうから」

    「あ~い」

    275 :

    きもちわりー文だな、どんな顔して書いてんだろ

    277 = 32 :

    入院することになった私たちを心配して、お兄ちゃんが血相を変えて見舞いにやってきた時のことは、今でも覚えている

    私たちを心配する言葉をかけてくれるのかと思いきや、開口一番「うわ! ぶっさいくな面だな~お前ら!!」だもんね

    お兄ちゃんと顔を合わせたら真っ先に謝ろうと思っていた私も、余りの事態に唖然としてしまって……

    そんな私の気持ちなんて露知らず、私たちを指さして笑うお兄ちゃんを見てさすがに頭にきて、お姉ちゃんと一緒にお兄ちゃんのほっぺたを殴りつけてやったっけ

    ……でも、その時からかな。私たち姉妹の間に、何だか奇妙な連帯感が生まれたのは

    それ以降、お兄ちゃんがお姉ちゃんをからかうと私が叱り、お兄ちゃんが私をからかうとお姉ちゃんが怒ってくれるようになったんだ

    お兄ちゃんは妹二人に責められて肩身が狭そうだったけど、それでも以前より幸せそうな顔をしていた


    「おかえりなさい! 二人とも!」

    「ただいま」

    先生「────お邪魔させてもらうよ。今日は誕生日会に招いてくれてありがとう」

    「ほら、外は寒かったでしょう? 早くあがってあがって!」

    「お、おい! 引っ張るなって!?」

    278 = 63 :

    長い
    冗長だから早く終われ

    279 = 32 :

    「おっ。美味そうじゃんか~。さすが自慢の妹」

    「ふふ……もう、こんな時くらいしか褒めてくれないんだから」

    「私だって手伝ったんだよ!」

    先生「それにしても……これは凄い量だねぇ。食べきれるかなぁ、はは」

    「さあ、それじゃ、みんな席につきましょう?」

    「って、あぁッ! ……トマトのサラダがあるじゃん。いつの間に作ってたのぉ、お姉ちゃん!?」

    「ふふ。反対すると思って、こっそり……ね?」

    「う"ぅ~~」

    「妹ちゃん────好き嫌いなんて、許さないんだからね?」

    「はぁい。わかってるよぉ……もぅ……」


    ────あの日以降、私は、(できるだけ)食べ物の好き嫌いを言うのを控え、(できるだけ)一人でお風呂に入るようにもなった

    ただ、それも決して嫌々ながら従ってるというわけではなくて、お姉ちゃんに笑顔で見つめられながら「わがままは駄目だよ?」って言われると、何故か……

    その……自分でもよく分からないのだけど、何故だか心が暖かくなって、嬉しくなってしまって、逆らおうにも逆らえなくなるのだ

    281 :

    なあ、まだ長いんなら割とマジでSS速報で1からゆっくり投下した方がよくないか?

    283 = 63 :

    終わったら教えて
    まとめるから

    284 = 32 :

    入院しているとは言え、私は殺人未遂事件の被疑者。当然、警察の人も取り調べをしようとしたんだけど……

    喋れない状態の相手では詳細を聞くのも難しいとのことで、お兄ちゃんへの聞き込みの方が優先されたみたい

    でも、お兄ちゃんは当然のことのように私をかばってくれて、結局、大きな問題には発展せずに済んだ

    ────そう、あくまでも、私の起こした事件に関しては、だ


    先生「……さて。みんな、今日は僕のためにこんな席を設けてくれて本当にありがとう」

    「その、奥さんもいるのに……ごめんなさい。本当によかったの?」

    先生「いや、この間も言ったとおり、妻はいま臨月で入院しているからね」

    先生「今回のことを話したら、言っておいで、って快く送り出されたよ」

    「はやく赤ちゃん見たいなぁ~」

    「お前は落っことしそうだから抱かせるのが不安だよ」

    「そ、そんなことないもん!」

    286 = 32 :

    お兄ちゃんは一ヶ月ほどで退院できたのだけど、その後、何を思ったのか七年前の事件について警察に自首をして、しばらくの間拘留されることになった

    後で理由を聞いたら、「けじめをつけたかった」……だって

    でも、何せ七年も前の自動車事故だし、既にまともな証拠なんて残っていない

    お兄ちゃん自身、当時の記憶に曖昧な点があって、自白としての決め手に欠けると判断され、起訴されることもなく放免となった

    その際、お兄ちゃんの『先生』であるところの彼が、お兄ちゃんのカウンセリングの際の記録を持ちだして、

    お兄ちゃんの当時の不安定な精神状態に言及して擁護してくれたことも後押しとなったらしい


    「それじゃ、いただきます」

    「どうぞ召し上がれ」

    先生「…………うん、すごく美味しい! このハンバーグなんて、お店に出せるレベルじゃないかなぁ」

    「はは、そうだろう、そうだろう? 羨ましいだろう?」

    「どうしてお兄ちゃんが偉そうなの~?」

    先生「いや、本当にお前が羨ましいよ……まぁ、僕の家内の作る料理には負けるけどね?」

    「ふふ……やだなぁもう、早速ノロケなの?」

    287 = 32 :

    お兄ちゃんが警察に七年前の事件で取り調べを受けている頃、もちろんそのことは凄く気になっていたけれど、

    同時に私は、本当にまた自分が喋れるようになるか、もしかして二度と声が出せなくなるんじゃないか、と不安な日々を過ごしていた

    でも、声を取り戻すまでの三ヶ月間、献身的に私を支えてくれたお姉ちゃんの顔を思いだすと、今でもじんわりと心が暖かくなる

    それまで私は一人で眠ったことなんてなくて、お兄ちゃんが側にいない夜は寂しくて泣きそうだったけど、

    そんなときでも、二日に一回くらいは、お姉ちゃんが一緒に布団で寝てくれた

    まぁ正直に言えば……そのときの名残りというか何と言うか、今でもたまにお姉ちゃんと一緒に寝ることはあるのだけれど

    そして三ヶ月の月日が過ぎ、お医者様の許可がようやく下りて、緊張しつつも、私は、恐る恐るそっと声を押し出してみた

    声は……無事に出た。みんなが綺麗な声だねって褒めてくれた私の声……

    私が二度目に声を取り戻したときの最初の言葉は────「お姉ちゃん」だった


    「────ああ~、もう食えない。限界」

    「えぇッ!? まだこんなに残ってるよ~~!?」

    先生「はは……、さすがに僕ももう限界かな。これ以上胃に詰め込んだら破裂しそうだ」

    「だから作り過ぎだって言ったじゃないのよ~~ッッ!!」

    289 = 32 :

    その後リハビリを経て、完全に声を取り戻してからは、それまで内に溜め込んでいた言葉が溢れ出てくるように、もう止まらなかった

    私は(比喩じゃなく)三日三晩お姉ちゃんと話し続け、そのせいで喉がまた炎症を起こして、お医者さんに大目玉を食らった

    ……でもその三日間、私とお姉ちゃんは、本当に本当に色々なことを語りあった

    子供の頃のことや、成長してからのこと……でもその話題の中心はと言えば、いつもお兄ちゃんに関することだった

    そしてたったの三日で私たちはお互いのことを完全に熟知し合って、その結果、私たち二人は、この世界で誰よりも強い絆をもつ姉妹となった

    ……あ、そうそう

    「あの時どうして殴り合いを?」と聞いたら、「むかし少年漫画で読んで、ああいうのに憧れてたの~」と暢気に言いやがったので、一発叩いておいた

    別に怒ってるわけじゃない……あのおかげで、心の中の嫌なものが全部洗い出されてしまったのは確かなのだし

    ただ、私たち姉妹の魂の対話が、よもや漫画の真似事だったなんて……ッ!

    やっぱり悔しくなったので、もう一発だけ追加で頭を叩いたら、お姉ちゃんは「あぅっ!」と、あの時の凛々しさとは程遠い鳴き声を出して涙目になった


    先生「……今日は本当にどうもありがとう」

    「送っていこうか?」

    先生「はは……男に送られる趣味はないさ」

    290 = 39 :

    291 = 288 :

    先生・・・このロリコンがっ!!

    292 :

    >>1をNGにしたら見易過ぎワラタ

    293 :

    うわぁ…

    294 = 39 :

    これからやっと本編のイチャイチャが見れるのか
    保守したかいがあるぜ

    296 = 32 :

    先生「もう……大丈夫だな」

    「うん。……『先生』には、本当に感謝しています」

    「俺たちが施設を出て、今こうして三人暮らしをできるのも、『先生』の色々な取り計らいがあったからこそです」

    先生「はは、くすぐったいから止めてくれよ。もう、カウンセリングは終わったんだから」

    「……俺の罪は消えない。一度生じてしまった罪の解消なんて……問題の解消なんて、多分できないんだ」

    「それでも俺は、たとえ自分勝手だって人に誹られても、自分とあいつらとの幸せを取ろうと思う」

    「自分の罪と向き合いながら、妹たちのことを、家族として愛そうと思う」

    先生「そうか……うん。本当にお前は成長したんだな」

    先生「今だから言うが、ずっと後悔していたんだ……僕の、あの時の選択は、間違っていたんだって」

    「……」

    先生「お前は、僕を恨んでいないのか?」

    「まさか…。見方を変えて言えば、あんたのおかげで俺は妹を二人も持つことができたんだ」

    297 = 39 :

    >>295
    あ?もしもしでやるのがどんだけ辛いかお前にわかんの?

    298 = 63 :

    >>297
    辛いのにやってんの?
    お前はそいつの母親かなんかなの?

    299 = 32 :

    「あんたが自ら施設に行くことを志願したのは、俺たち二人が養父母の元で幸せになることを願ったからだろう?」

    先生「……」

    「確かに叔父さんたちは実際には最低の人間だった。でも、叔父さんたちは外面だけは良かったからさ……」

    「今から十年前……当時まだ十六歳だったあんたに、狡猾な大人の思惑や裏の顔が見抜けなかったとしても、それは仕方のないことだったと思うよ」

    先生「……そしてその三年後、叔父さんたちが死んで、お前たち二人が施設にやって来たときには、僕は既に施設を出ていた」

    「俺たちは、何もかもが……すれ違いの連続だったんだな」

    先生「だから僕は、お前のカウンセリングを担当することを、自らの罪滅ぼしのように感じていたのかもしれない」

    先生「最低だな……すまない」

    「謝らないでくれよ……さっきも言った通り、感謝してるんだ、本当に」

    先生「そうか……うん、わかった。……ありがとう」

    先生「今度はうちに遊びに来い! あの子たちに我が子を抱かせてやりたい。……それじゃ、また」

    「うん。必ず行くよ。だからその時まで……」



    「待っててくれよな────────兄さん」

    300 = 39 :

    >>298
    ヒマだからに決まってんだろーが


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