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    元スレ女「────好き嫌いなんて、許さないんだからね?」

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    101 = 32 :

    「俺は……俺は、どうしたらいいんでしょうか、先生」

    先生「そうだね……でもその前にまず、はっきりと言っておきたいことがある」

    先生「この件に関して、僕は、社会正義を振りかざして君に自首を勧めたりするつもりはない」

    先生「君のそれは情状酌量の余地が余りある事件だと思うし……ね」

    「……」

    先生「もちろん、君自身が自首したいと思うのであれば、話は別だ」

    先生「いずれにせよ、この件で君がどんな決断を下そうとも、僕は君の味方であると約束するよ」

    「先生……ッ。あ、ありがとう、ございます……」

    先生「ちなみに、警察はただの事故だと断定したんだよね?」

    「……は、はい。後で冷静になって考えれば、もしかしたら何か不審な点もあったんじゃないか、と思うんですが」

    「ハンドルについた指紋とか、動機とか……俺も無我夢中だったし、細部までは思い出せません」

    「結局、何も証拠が残らなかったのか……今となっては分かりませんが、とにかく警察は事故だと断定しました」

    102 = 32 :

    「……俺たちは賭けに勝った」

    「叔父さんたちが死んで、シートベルトを着用していた俺と妹だけが生き残ったんです」

    「……まぁ、そこそこに酷い怪我もしましたが、今はもう、何ともありません」

    先生「……なるほど」

    先生「だがこれで、君が、彼女と純粋な繋がりをもつ資格がない、と言っていた本当の理由が分かったよ」

    先生「そして、七年前にカウンセリングを頑に拒否したという理由もね」

    「……はい。当時は自分の罪が暴かれるのが怖くて、とてもじゃないけど大人に相談なんて、できませんでした」

    先生「そうだね。さらに言えば、君は一種の人間不信に陥っていた」

    先生「その傾向は今でも見られるようだが」

    「……」

    先生「でも今の君には、自分に対する断罪への恐怖よりも、優先すべき問題ができてしまった」

    先生「それが、君の妹との……彼女との問題、だったということだね」

    「はい……そう、です」

    103 = 32 :

    「……」

    先生「君はきっとこう思っている」

    先生「『殺人犯の自分が、果たして、彼女の兄を称するにふさわしい人間だろうか』……と」

    「……はい」

    先生「でも、先日少し話をしてみた限りでは、あの子はそんなことを気にするようなタイプには、見えなかったが……」

    先生「僕の見立て違いかな?」

    「いえ……確かにあいつは、俺なんかとは違いますから」

    「でも、俺の手は、人殺しの手です」

    「そんな手であいつに触れれば、あいつを……あいつの笑顔を穢してしまいそうで……やっぱり、怖いです……」

    先生「……」

    先生「我々には、我々の心を悩ませる様々な問題があるが……」

    先生「突き詰めれば、そんな多種多様な問題に対する取り組み方は、たったの二種類しかない、とも言える」

    104 = 32 :

    「……それ、は?」

    先生「一つは、問題に対する正当な解決方法を探ること」

    「……」

    先生「例えば、借金で苦しむ人は、どうすればその悩みから逃れられる?」

    「は、はあ……その、普通にお金を返せばいいのでは?」

    先生「その通りだ。お金を返す。これが問題を解決する最善手であって、分かりやすい目標となる」

    先生「でも、例えば借金の額が多すぎて、どうしたって返せないような場合にはどうすればいいかな」

    「それは……」

    先生「借金という問題を解決したい。でもその問題はどう頑張ったって自分では解決できそうにない。それでは、どうするか」

    先生「そこで、もう一つの方法の登場だ」

    「……」

    先生「その方法というのはね……問題そのものを、消してしまうことなのさ」

    107 = 32 :

    「問題を、消す……」

    先生「そう。真正面から問題を解決するのではなく、問題を解消してしまうこと。これが二番目の方法だ」

    「問題の解消、ですか」

    先生「多額の借金の例で言えば、……そうだね、例えば自己破産をするとか」

    先生「それから、貸主のもつ借用書を破棄させて借金そのものをなかったことにするとか……」

    先生「あるいは、借金そのものでなくとも、借金の取り立てをなくしてしまう、という手もあるね」

    先生「例えば、借金取りの追跡の及ばない場所に逃げる。あとはそうだな……」

    先生「…………お金の貸主を、殺してしまう、とかね?」

    「貸主を……殺す?」

    先生「はは、まぁ最後の例は冗談だよ」

    先生「今までの会話の流れを考慮すると、少し不謹慎だったね。すまない」

    「……いえ」

    108 = 39 :

    109 = 32 :

    またさるさん食らったてすと
    次に書き込み途絶えたらさるさんだと思ってくらさい

    110 = 32 :

    先生「君の問題はね、正当な解決方法を探るのが難しいパターンだと思うんだ」

    先生「君の悩みの核は、殺人を犯したことの罪悪感にある」

    先生「可能であれば、タイムマシンで過去に戻って、過去の自分に殺人を犯させない……なんて解決方法を取りたいところだが」

    先生「まぁ現実的に不可能だろう?」

    「ええ、そうですね……」

    先生「だからね。ゆっくりじっくりと取り組む必要があると思うんだ」

    先生「君の抱える問題である……その罪悪感を、緩和させるために」

    先生「そして何よりも、彼女に対して君がもっている忌避感を……少しでも解消に向かわせるために、ね」

    先生「安易な解決方法はないと思う」

    先生「だからこそ、君の問題を解消するために、これからも時間をかけて一緒に頑張っていこう」

    「……はい」

    112 :

    しえん

    113 = 32 :

    ***

    ────── 苦悩をもたらす原因それ自体を排除してしまうこと

    それは、確かに短絡的な方法であると詰られるべきかもしれない

    しかし、内憂外患を取り除き、自らの生活に静謐を取り戻すために不可欠であるならば……

    思索に思索を幾重にも積み上げたが、結論はいつも変わらなかった

    その形を漠たるままに置かれていた欲望は、繰り返される合理化の中で、いつしか明確な目標として収束していく

    形が決まれば、あとは中身が整えばよい

    動機も、目的も、既に十分過ぎるほどに心のうちでは整序されており、必要なものは残すところたったの一つ…………実行する覚悟だけだった

    自分はきっと、全く狂ってはいない

    少なくとも自分は、その行為には何らかの社会的罰を受ける可能性があることを危惧する程度の理性がある

    あるいは、その危険を踏まえた上でなお、自身の身の危険と結果的に手に入れられるものの大きさを天稟にかける程度の理性が

    あと必要なのは覚悟だけ、覚悟だけだ、そう、覚悟…………覚悟が──────

    異常性の萌芽は思考と現実の乖離によって加速度的に生長するということを、当人が自覚することは終ぞ無かった

    115 = 32 :

    ***

    園長「あら、今日は早かったのね?」

    「園長先生……すみません、この頃帰るのが遅くなってしまって」

    園長「いいのよ。男の子だもの……色々事情があるんでしょう? でも危険なことはしないでね」

    「ええ、それはもちろん。施設には迷惑をかけませんから」

    園長「こら。迷惑なんていくらでもかけてくれていいのよ。ただ、貴方のことが心配なだけ。ね?」

    「はい……ありがとう、ございます」

    園長「私だけじゃないわ。妹ちゃんも色々と気を揉んでるみたいよ」

    「いや……まぁ、その分あいつには色々とフォローも入れてますから」

    園長「あ、そのことで……その、少し聞きにくいことなんだけど、あなた達今でもたまに一緒にお風呂に入ってるんでしょう?」

    「ええ」

    園長「一緒に寝るのは、その……毎日なのよね?」

    「なにか間違いでも犯すんじゃないか、と?」

    116 = 39 :

    とりあえず今のうちに確認したい



    くぅ~w疲やりたいだけじゃないよな?

    117 = 32 :

    園長「ごめんなさいね……。こんな心配をするなんて、保護者失格かなと思うのだけど……」

    「いえ、心配するのは当然だと思います。あいつは実の妹じゃありませんし、血の繋がりがあるとはいえ……まぁ、従妹ですしね」

    園長「ええ……そうね……」

    「でも、その点だけは大丈夫です。俺はあいつを女として見たことは一度もありませんし、これからも絶対にないですから」

    園長「そ、そう……?」

    「あいつにも聞いたんでしょう。何て言ってました?」

    園長「……その、『お兄ちゃんのことは世界で一番大切だけど、男性として見るなんてあり得ないです』って」

    「はは……あいつらしいですね。でもそれが俺たちの本音ですよ」

    「あいつをどうにかするとか……うわ、やめましょう、想像するだけで鳥肌が立ってきた」

    園長「うふふ……そう。でもそれなら安心ね。ごめんなさい変なこと言って」

    「いえ、気にしないでください」

    園長「そろそろ食事にするから。今日は貴方の好きなハンバーグよ?」

    「げ……また、ハンバーグですか」

    園長「?」

    118 = 112 :

    ペースアップ頼むわ

    119 = 32 :

    ***

    妹 ── お兄ちゃん好きッ!

    「お前なぁ……」

    妹 ── ちゅきちゅきだいちゅき!

    「あのさぁ、さっき園長先生に釘刺されたばっかりなんだけど……お前、ぶっちゃけ俺に欲情したりしてないよな?」

    妹 ── はぁ? なにキモイこと言ってるのお兄ちゃん。キモすぎ

    「いや、それならいいんだ。お前に欲情されても俺だって気持ち悪いし」

    妹 ── そういえば園長先生に聞かれたなぁ。お兄ちゃんを男性として見てるのかって

    「俺も聞かれたよ。まったく……あれだ、一緒に風呂入ったり一緒に寝たりするから、ああいう誤解が生まれるんだよ」

    妹 ── お風呂も寝るのも、やめないよ。ずっと一緒だから

    「あぁ、分かってるよ。お前は愛情に飢えて昼夜俺の身体を求めている飢えっ子だからなぁ……おまけに根暗な内弁慶」

    妹 ── 変な言い方しないでよ、このエロ魔人

    「俺がもしエロ魔人ならお前は今までに100回は犯されてるだろーよ」

    120 = 32 :

    妹 ── もう怒った! 今日は一緒に寝てあげないんだから!

    「別にいいけど、お前どこで寝るんだよ」

    妹 ── お兄ちゃんのベッドで寝る。お兄ちゃんは床で寝て

    「はぁ? 自分の部屋に戻れって」

    妹 ── わがまま言わないで!

    「……」

    妹 ── おやすみ!

    「……」

    「……呆れると声も出なくなるってのは、本当のことなんだな」

    妹 ── ……

    「……寝るか。お休み」

    妹 ── ……

    122 = 32 :

    「……」

    妹 ── ……

    妹 ── やっぱり私も床で寝るから

    「……おい」

    妹 ── おやすみ~

    「……じゃあ俺、ベッド使うわ」

    妹 ── なんでそういう意地悪するの!

    「知らんがな」

    妹 ── お兄ちゃんの馬鹿! 鈍感! 短小!

    「おい、最後のは訂正を求めるぞ」

    (ぷりぷり)

    「ぷりぷり怒るなって。ほら寝るぞ。来いよ」

    妹 ── うるさい馬鹿! おやすみ!

    「馬鹿と言いつつ、こっちには来るんだな…………ふぅ」

    123 = 32 :

    ***

    「あ、あのね、トマトが安かったからね、今日はトマトのラザニアにしてみたの」

    「……」

    「たくさん作ってきたから、その……よかったら食べてみてね」

    「……」

    「……」

    「……え、と、もしかしてトマトアレルギー、とか?」

    「いや……その、単なる食わず嫌い、みたいなんだが」

    「す、好き嫌いは、よくないと、お……思うな!」

    「……あ~」

    「その、食べたくても食べられない国の人たちだっているわけだし、その……だから……」

    「ここは飽食の国ニッポンだけどな」

    「でも、……その……」

    124 = 39 :

    ビールスレでいじめられた…(´;ω;`)

    125 = 32 :

    「あー……その、なんだ、好き嫌いって何で駄目なんだろうな?」

    「えぇ……?」

    「いや、これが戦時中とかで食べ物がなくて生きるのにも困る状況であればだ」

    「まぁ『好き嫌いすんな』って発言にも、多少の正当性を認めることができるかもしれんが」

    「少なくとも俺の周辺環境じゃ食うに困るってことは余りないわけで、嫌いなものを食わない権利っていうの? そういうのがあっても……」

    「でで、でもですね、世界的視座に立つならば、飢餓に苦しむ人も、多いわけですよ!」

    「グローバル化が叫ばれる現代社会で、そんな島国根性と言いますかぁ、局地的視点のみでしか物事を考えられないことがぁ、昨今のぉ……!」

    「お前はどこの胡散くさい社会団体を代表する人間なんだよ……」

    「で、でも……その、確かに……どうして好き嫌いが駄目なのか説明しろって言われると、困るけど……」

    「ただ、私は将来自分の子どもには、どんな食べ物でも美味しく食べられる人に育って欲しいなって、そう……思うから……」

    「……」

    「……うぅ」

    126 = 32 :

    「まぁ、あれだ。教育ってのは基本的に、大人が子どもに自分の考えを押し付けることだと思うしな」

    「え?」

    「子どもは大人には逆らえないもんだからさ」

    「情に訴えて優しく指導してやろうが、理詰めで説得するという形だろうが、あるいは……暴力という形だろうが」

    「どんな形態にせよ、どう言い繕おうが、教育には力ある者から弱い者への思考の押し付けという面がある、ということは否定できないだろ」

    「それは……」

    「だから、好きにしたらいいんじゃないのか?」

    「自分の子どもを好き嫌いのない人間に育てたいなら、『好き嫌いは駄目だ』って考えを子どもに押し付けて、刷り込ませればいい」

    「そ、そんな……。そんな言い方しなくても……」

    「ただ、そういった押し付けには、なんというか……きっと、ある種の資格が必要なんじゃないか?」

    「……資格?」

    127 = 32 :

    「ああ、資格だ」

    「今の場合だと、……家族であるってことかな」

    「家族であれば、まぁ『好き嫌いは駄目だ』っていう自分の考えを押し付ける資格だってあるんじゃないか」

    「……」

    「もしかすると、それは親から子どもへの一方的なわがまま、ってことになるのかもしれんが」

    「まぁ子どもは子どもで親にわがままを言うし、お互い様だろ?」

    「家族なら、お互いにわがままを言い合っても許されるんじゃないか」

    「……それ、は」

    「でもさ、お前は家族じゃない、だろ?」

    「……ッ」

    「だから、人にさ、そんな自分のわがままを押し付けちゃ駄目だろ」

    「ッ……ぁ、か……」

    129 = 32 :

    「……かぞ、……」

    「ん?」

    「か、家族じゃ……なくても……ッ」

    「たとえ、家族じゃなくても、……私は人に、好き嫌いは駄目だよって、言うもん!」

    「……」

    「わがままかもしれないけど、でも、好きな人たちには、自分の考えを分かって欲しいし、共感して欲しい!」

    「自己中だな」

    「い、いいもん! ……ッぐす……そう言われたっていい!……ひッぐ……」

    「自己中で周りを振り回して……思い通りにいかないと泣く……」

    「子どもかよ……」

    「お、思い通りに、ひぐッ、い、いかないから、泣いてるんじゃないもん!」

    「ただ、悲しいから……ひッく……ひッ…………泣いてる、……ひぐッ……だけ……」

    「……」

    130 = 39 :

    131 = 32 :

    ***

    「はぁ……」

    先生「おや、ため息なんてついて、どうしたんだい?」

    「あ、先生。こんにちは」

    先生「うん、こんにちは。それで何か新しい悩み事かな」

    「……あ、いえ、大したことじゃないので」

    先生「はは……とてもそんな風には見えないけどね。何でもいいさ、僕に話してみないかい?」

    「まぁ、その……今日、学園で女の子を泣かせてしまいまして……」

    先生「女の子? というと……」

    「いえ、一つ下の学年の後輩なんですけど……ま、まぁ、恥ずかしい話なので詳細は勘弁して頂けると」

    先生「ふふ、そうか。それで……どんなことをして泣かせてしまったのかな」

    「好き嫌いのことについて、です」

    先生「好き嫌い? って、食べ物の好き嫌いかい?」

    「ええ……」

    132 = 32 :

    「いや、ほんとに些細な諍いなんですが……」

    「その女の子は、他人に『好き嫌いは駄目だ』って言うんですよね」

    先生「ふむ……」

    「で、俺が『戦時中でもあるまいし、嫌いなものを食べない権利だってあるだろう』……と」

    「さらに、『好き嫌いは駄目だというのも一種の個人的見解、わがままの類であって、そんなわがままを人に押しつける資格があるとすれば、それは家族くらいじゃないか』って」

    先生「はは、それで女の子を泣かせてしまったのかい?」

    「まぁ……はい。改めて確認するとやっぱり下らないというか、こっ恥ずかしいというか……」

    先生「いやいや、下らないなんてことはないさ」

    先生「その喧嘩は、折しも私達がいま問題にしている、人が人と関わる上での『資格』についての話題に関わることじゃないか」

    「あ……そういえば、そう、ですね……」

    先生「というよりもむしろ、君がここ最近、この『資格』の問題について考えを巡らせていたからこそ、思わずそんな物言いになってしまった、のかな」

    「そう言われてみれば……、そう、かもしれません」

    先生「それじゃあ、今日はそのことを取っ掛かりにして考えてみようか」

    134 = 32 :

    先生「君は、好き嫌いを否定する資格があるのは、家族くらいだ、……そう考えているんだね」

    「はい」

    先生「友達同士ではだめなのかな」

    「……いえ、まぁ、改めて考えてみると……必ずしも駄目、というわけではないと思います」

    「軽口で好き嫌いを窘めるくらいなら、別に良いかもしれません」

    先生「うん」

    「ただ、よほど深い親友でもなければ……」

    「友人関係で、相手の嗜好や信条に口を出して、それを無理に変えさせようとするのは……その、行き過ぎた行為なのではないか、と」

    先生「ふむ……」

    先生「……確かに、食べ物に限らず、自分の好みや信じていることに対して、友人といえど口出しされるのは、普通は鬱陶しいと感じるものだろうね」

    「ええ……」

    135 = 32 :

    先生「しかし、逆にこんな場合を想像してみたらどうだろう」

    先生「自分の友達が、君の嗜好や信条に対して、本音では反対していたとしても、表向きには一切口出ししない……どうかな?」

    「え、それは……」

    先生「例えば、未成年である君がタバコを吸っていたとしよう」

    先生「しかし、君の友達は誰もそれを止めろと指摘しない。本心では悪い事だと思いつつ」

    「いや、それは法律で罰せられることでしょう!?」

    「友達として指摘することも、指摘されて改めることも当然のことだと思います。話の次元が違いますよ」

    先生「ふふ、……果たして本当にそうかな」

    先生「少なくとも、いま現に喫煙をしている未成年者たちが、君の今の発言を聞いたらどう思うかな?」

    先生「君のその発言に賛同してくれるだろうか」

    「それは……」

    136 = 32 :

    先生「きっと誰も、賛同しても改心してもくれないだろう」

    先生「そして、君がその女の子にしたのと、同じような反応を返すんじゃないかな」

    先生「『関係ないだろ』『人のことは放っておけよ』『お前に何か迷惑かけたかよ』……ってね」

    「……」

    先生「『食事の好き嫌いを窘めることには理がない、未成年の喫煙を窘めることには理がある、だから前者は良くて、後者は悪い』」

    先生「君は、そんな風に考えているだろう?」

    「……はい」

    先生「確かに現代の日本では、大抵の場合、食事の好き嫌いは個人的嗜好に還元される類のもので、もはやそれを悪と断じるだけの社会的背景はないかもしれない」

    先生「一方で、未成年の喫煙は、法律に照らせば明らかな罪だと言える」

    先生「でもね……そんな『道理に則るか否か』ということは、『そのことを窘めるべきか否か』ということとは、本質的には無関係なのさ」

    「……」

    先生「自分が正しければ、相手の嗜好や信条を無理矢理ねじ曲げてもいいのかな」

    先生「自分が間違っていれば、相手の嗜好や信条には何も口を出してはいけないのかい?」

    「それは……」

    137 = 32 :

    先生「もしかすると君は……『正しさ』に囚われすぎているのかもしれない」

    「え?」

    先生「自分がもし正しい人間だったなら、彼女と絆を結ぶことに何の抵抗もない……」

    先生「しかし自分は罪を犯したから、彼女に関わる資格はない。過去に手酷い過ちを為した自分が、どの面下げて彼女に関われると言うんだ……ってね」

    「……そう、かもしれません」

    先生「……仮に、『好き嫌いは駄目だ』という窘めが、一種のわがままであるとしよう」

    先生「それで、どうしてその女の子は、わがままを言ったのかな」

    「それは……」

    「そいつは、『好きな人たちには、自分の考えを分かって欲しいし、共感して欲しい』って、言ってました」

    先生「ふふ……素直な子だね。でもきっとそれが、その子の本心なんじゃないかな」

    「……」

    先生「人と人とが個人的親交を持つに当たってはね、得てして、『正しいか否か』ということよりも……」

    先生「『好きか否か』『気になるか気にならないか』ということの方が、優先されるものなのさ」

    138 = 32 :

    先生「その女の子のこと、嫌いなのかい?」

    「いえ、……そんなことはない、と思います」

    先生「好き、なのかな」

    「……分かりません」

    先生「嫌いだからと言って相手を傷つけていいわけじゃない。好きだからと言って、相手にとって耳心地の良いことばかり言うわけにもいかない」

    先生「でも、……君はその子に、もう少しだけ優しい言葉をかけてあげても、良かったのかもしれないね」

    「はい……」

    先生「謝ってみる、というのも一つの手かもしれない」

    「謝る……ですか」

    先生「うん。ただし、『自分が間違っていた』などと非を認めて謝るんじゃない。『相手を傷つけたこと』について謝るんだ」

    先生「正しいことに従って行動するんじゃなく、好意に従って行動してみる……これは過去の罪に囚われている君にとって、良いリハビリになるかもしれないね」

    「………………、……次に会った時に、謝ってみます」

    先生「うん。その子は素直なようだし、きっと許してくれるさ」

    「はい」

    139 = 32 :

    ***

    妹 ── お兄ちゃん! お兄ちゃん!お兄ちゃ~ん!

    「ただいま。今日はいつもの三割増しくらいで忙しないな。何か嬉しいことでもあったのか」

    妹 ── あったよ~。とってもいいこと! キシシ~

    「そうか、で、何があったんだ」

    妹 ── ないしょ!

    「ああそうかい。俺、風呂に入ってくるから」

    妹 ── ちょっとぉ! そこは、何だよ~気になるだろ~、って引き止めるところでしょ!

    「いや、対して興味もないし」

    妹 ── じゃあいいよ! ふんだ!

    「風呂からあがったら飯にするから。今日も作ってくれてんのか?」

    妹 ── シチューだよ~。一人で作ったの

    「園長先生の監修なしか。期待しないでおくよ」

    140 = 32 :

    ***

    「……ふぅ」

    「風呂が広いってのはいいことだな。この時間帯だと独り占めできるし」

    妹 ── 妹登場!

    「……お前、今日はまだ入ってなかったのか?」

    妹 ── うん、今日は一緒に入りたい気分だったから待ってた。ねね、驚いた?

    「あ~びっくりしたわ~ほんとびっくりした~」

    妹 ── やる気がないなら帰れ!

    「俺が先客なんだから、お前が帰れよ」

    妹 ── 背中流してあげるからおいでよ

    「ああ、ありがと。頼むわ」

    (~♪)

    142 :

    読んでる

    143 = 32 :

    「なんか、今日は本当に機嫌がいいんだな」

    (ごしごし♪♪)

    「そんなにいいことあったのか?」

    妹 ── ~~~~~~~

    「いや、いま手話で伝えられても……流石に、背中に目がついてるわけじゃないしなぁ」

    妹 ── ~~~~~~~

    「なるほどなるほどそうかそうか」

    妹 ── ~~~~~~~

    「はー、そいつはめでたいめでたい」

    (ぎゅっ)

    「お、おい……くっつくなって」

    妹 ── 今日のシチュー、美味しくできたんだよ?

    「……お前、そんなことで喜んでたのかよ」

    (にこにこ)

    144 = 32 :

    「ほら、次は俺が洗ってやるから背中向けろ」

    (こくり)

    「……」

    妹 ── ……

    「なあ」

    (?)

    「お前さ……俺のこと、好きか」

    (こくり)

    「はは、即答なんだな……じゃあさ、その、あくまで例え話なんだが、もし俺がどこかに行っちまったら、どうする」

    妹 ── え!? なにそれ? お兄ちゃんどこかに行っちゃうの!?

    「いやだから、あくまでも例え話で」

    妹 ── うそ! 行かないでよ! お願い! どこにも行かないで! 一人にしないでッ!!

    「……ッ、落ち着け! 落ち着けってば! 別にどこにも行かないから。そんな予定ないから!」

    145 = 32 :

    妹 ── いやだ、一人はやだよ……

    (ぐすっ……ぐすん……)

    「あー、悪かったから。泣くなって。別に、本当にどこか行っちまうとか、そんなことないからさ」

    妹 ── じゃあ、なんで急にそんなこと聞いたの?

    「いや、その……。兄貴が妹の元からいなくなっちまったら、残された妹はどう思うんだろうなって、何となくそんなことが気になっただけだ」

    妹 ── そんなの、辛いに決まってるじゃん! 馬鹿じゃないの!?

    「分かった、分かった。つまんないこと聞いて悪かったよ」

    妹 ── 私、別にお兄ちゃんのことを異性として好きなわけじゃないよ?

    妹 ── でも家族なんだよ!?

    妹 ── 家族は一緒にいなきゃ駄目なんだからッ!!

    「分かったよ。本当に悪かった……許してくれ」

    「もう、馬鹿なこと聞いたりしないから」

    147 = 32 :

    (むぅぅ)

    「そんなリスみたいな膨れっ面で怒るなって、こんなに謝ってるだろ」

    妹 ── 今日は、ぎゅって抱きしめて寝て

    「あぁ、分かった。言うとおりにするよ」

    妹 ── あと、私が寝つくまで頭を撫でてないと駄目だから

    「分かった分かった。全部聞いてやるよ。お休みのキスもか?」

    妹 ── それはキモイからイヤ。抱きしめるのと撫で撫でだけでいい

    「お前の中にあるキモさの判定基準が分かんねえよ……」

    (────本当は、分かっている)

    妹 ── あ、あとアイス食べたい。お兄ちゃんの奢りで

    「……太るぞ」

    (────こいつが俺に求めているのは異性としての愛情じゃない)

    (────実の父親と母親に求めても得られなかった情愛と同質のものを、俺に求めているんだ……)

    148 = 32 :

    ***

    「あ、の……」

    「……」

    「あの……あ、き、昨日はごご、ごめ、ごめんなさい!」

    「……なぜお前が謝る」

    「え、だって、その、不快にさせたかなって……思って、その……」

    「……自分の言っていたことが間違っていた、と認めるのか」

    「それ、は……」

    「……」

    「それは……」

    「……」

    「悪かった」

    「……え?」

    149 = 32 :

    「お前が自分の意見を曲げないように、俺も自分の見解を曲げるつもりはない」

    「う、うん……」

    「でも、それにしたって言い方ってものがあった」

    「昨日はひどいことを言った。傷つけたことを謝る。悪かった」

    「あ、う、ううん! いいの! 私の方だって、言い方が悪かったかなって思ってたし……」

    「そうだな」

    「はうぅ……」

    「お互い様、ということでいいのか?」

    「え……」

    「どうなんだ?」

    「あ……う、うん。……うん! うん! それでいい! それがいい!」

    「そうか。じゃあこの話はもうおしまいだ」

    「う、うん……へへ……へへへっ…………」

    150 = 32 :

    「き、今日はね、ピーマンの肉詰めを作ったんだ。もし良かったら食べてみてね」

    「……」

    「あ……」

    「も、もしかして、ピーマンも苦手だったり、するのかな」

    「いや、ピーマンはむしろ好物だったはずだ」

    「だったはずって……へへ、へ……」

    「まぁいい。一個頂くぞ」

    「あ、ど、どうぞ! 一個と言わず、ぜ、全部頂いちゃってください!」

    「お前の食う分がなくなるだろうが」

    「あ、そ、そうだよね」

    「……うまいぞ」

    「あ、うん……ありが、とう……へへ」


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