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    元スレ咲「ノドカの牌」

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    151 = 1 :

    晴絵「現世にはって……過去にもそうそういないでしょう。未来にも現れるとは思えない。実際、それくらい強いです、あの人は」

    トシ「しかし……『宮永咲』ならどうだろうねぇ?」

    晴絵「……江戸時代の、ですか?」

    トシ「まあどっちでもいいさ。ほら、あんたも噂くらいは聞いてるだろう? 最近……その宮永咲が化けて出たらしいんだよ。ネット麻雀の世界にね」

    晴絵「まさか『saki』……」

    トシ「そう。それがもし、本当に宮永咲の亡霊だとして、そいつがあの卓にいるとしたら……どうだい?」

    晴絵「私は……それでも小鍛治さんが勝つと思いますよ。『saki』は確かに強いが……小鍛治さん相手にハンデを背負って勝とうというのは傲慢過ぎます」

    トシ「おやおや、ハンデがなければ勝敗はわからない、とも言いたげだね」

    晴絵「好きなように解釈してください。とにかく、私は小鍛治さんが負けるとは思えない」

    トシ「まあ……本人もそう思ってるだろうね。モニター越しだとわかりにくいが……あの顔はたぶん……」

    晴絵「ええ……怒ってますね……」

    153 = 1 :

     ――対局室

    健夜(和了れるから思わず和了っちゃったけど……まさかカン裏が三枚とも同じなんて……淡じゃあるまいし……今のを故意にやってのけたんだとしたら……)

    健夜(私にハンデをくれた……ってことになるよね。自分がハンデをもらって打つのは嫌だから……そのハンデを私に押し付けた。
     しかも、この東二局、親になった途端に感じる……この禍々しい気配……)

    (………………)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

    健夜(ここから私に勝つつもりなんだね……? ハンデがあったら絶対に勝てる自信があるから……むしろハンデを背負って勝っちゃおうって……そういうことだよね……?)

    健夜(原村さん……前に、照と対局した牌譜を見たことがある。誠子と尭深までをも同時にトバした一局)

    健夜(それに……同じような打ち筋で、『saki』とかいうネット雀士の牌譜も見た……)

    健夜(今の三連槓は……あのとき照をトバした雀士の……『saki』の打ち筋であるように見える。
     けど、原村さんの普段の打ち筋は私も知っている。こんな無茶苦茶な麻雀は打たない。なのに……時折見せる不可解な打牌。
     よくわからない。よくわからないけど……わかってることが一つだけある)

    健夜(こいつは……この私を相手に、ハンデを背負って勝とうとしている)









    健夜(     ナ     メ     ん     な     )

    154 = 1 :

     ――

    健夜(さて……今局、この中盤で原村さんから打ち出されたのは生牌のドラなわけだけど……)

    健夜(それを鳴けば私はテンパイに取れる。遠からずドラ三で和了れるとは思う。けど……対面の原村さんから鳴くと……以降、原村さんがツモるはずだった牌が私に流れてくる……)

    健夜(それに……赤土さんと新子さんのお姉さんと四人で打ったときの、あの一局)

    健夜(私が原村さんの槓材を掴まされた一局……を思い出すまでもない、か)

    健夜(大きな釣り針)

    健夜(しかし、そうだとすれば、鳴かなければ鳴かないで、和了られることもまた事実……)

    健夜(けど、狙いがわかっていれば逸らすことは容易い……)

    健夜「チー」

    (……!?)

    健夜(こうされると……困るんでしょう?)タンッ

    「ロ……ロンです。2000……」

    健夜(!!!?)

    155 = 1 :

     ――観戦室

    晴絵「こ、小鍛治さんが……!!?」

    「振り込んだ……」

    「新初段相手に……信じられない」

    トシ「面白くなってきたねぇ」

    シズ「うおおおおお和頑張れえええええ!!!!」

    156 = 1 :

     ――対局室

    健夜(ははっ……手を抜いたつもりはなかったんだけどな……まだ……侮る気持ちが残ってたか)

    (完全に読まれていた……たまたま和了れたからいいけど……これくらいの罠じゃ出し抜けない……)

    健夜(次は……こちらから仕掛けてみるか……)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

    (相手は私と五分を張る雀士……敬意を持って全力で闘わないと……この人相手にこの点差をひっくり返すには……もっともっと深く罠を張らないとダメだ……)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

    (こ……この二人の板挟みなんて……プレッシャーだけで死んでしまいそうです……比較的そういうのに鈍感でよかった……)

    「い、一本場……」

    157 = 1 :

     ――観戦室

    シズ「あ、あれ……和……どうしたんだろ……?」

    南浦「理牌は済んでいるのに……動かない?」

    晴絵「おいおい……第一打で何分悩むつもりなんだ……」

    「もう……五分以上経ちますね。いくら和ちゃんが第一打で悩むのがクセだといっても……これは……」

    「……異常……」

     ――対局室

    (迷うな……山や他家の手牌……見えてるところから全ての可能性を潰していくと……この二筒あたりが期待値が高そうだけれど……ただ……)

    健夜(………………)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

    (ドラがさっきと一緒なんだよね……たぶん偶然じゃない……前局はドラを鳴かせて食おうとしたけど……今回は……その意趣返しを狙われてる気がするよ。
     どんなに目を凝らしても見えない闇……向こうは……きっとその闇の中に罠を張っている……たぶん罠そのものが発動するのはずっとずっと先のことだけど……この局面……迂闊に飛び込まないほうがいい、か)

    158 = 1 :

     ――流局

    「ノーテンです」

    健夜「……ノーテン」

    ・淡「テンパイ」

    健夜(…………)

    (…………この人……今わざとノーテンにした……テンパイだと……私がゼロ点になっちゃうから……!!!)

    健夜(さあ……あなたも私と同じ苦渋をかみ締めればいい)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

    (この私を相手に……情けをかけた……!? こんな屈辱初めてだよ……!! 絶対に……後悔させてやる……!!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

    (な……なんだか異次元レベルの駆け引きが行われている感じがしますが……局面そのものは恐ろしく地味ですね……)

    159 = 1 :

     ――観戦室

    晴絵「膠着状態ですね」

    トシ「そうだね。さっきから、原村のほうが何かを仕掛けているように見えるが、小鍛治が磐石で全て跳ね返されている」

    晴絵「点差の枷が……響いてるということですか」

    トシ「だろうね。高い手を狙う側は、多少の無理をしなければならない。だが、その無理を、小鍛治は一つも通さない」

    晴絵「当たり前ですよ。小鍛治さんはそんな甘い人じゃない」

    トシ「だが、小鍛治のほうも決して楽をしているわけではなさそうだね。ほんの僅かだけど、苛立ちが見える。ありゃ、思い通りの麻雀を打ってるやつの顔じゃない」

    晴絵「小鍛治さんが苛立ってるって……タイトル戦でもなかなか見られないですよ……」

    (わ、私たちには地味な麻雀が続いてるようにしか見えないけど……)

    (う、うん。なんだかんだで、トップは憧から直撃を取った大星さんだし……小鍛治九冠と和にはあの東二局以降和了りがない……)

    シズ(こ、これ……どうなっちゃうんだろう……)

    161 = 1 :

     ――対局室・オーラス

    (参ったな……こんなにハンデがきついなんて……想定外だよ)

    健夜(参ったな……ハンデがあってよかったなんて……予想外だよ)

    (もう……私にはこのオーラスしかない……ここで……取り返す……!!)

    健夜(オーラス、ラス親か……どうしたもんかな……)

     ――終局

    (くっ……!!!!)

    「……テンパイ」

    淡・「ノーテン」

    健夜「…………ノーテン」

    (ええっ!!!? そんな――テンパイしてるはずなのに……ラス親続行しないの……!!?)

    健夜(もっと続けたかった気持ちはあるけれど……これ以上はタイトル戦に響く……)

    162 = 1 :

    「わーいっ!! 私の勝ちー!! 先生、どうしたの、お腹でも痛かったの?」

    健夜「う、うん。そんな感じ。そうだ、淡、たぶんロビーに記者さんたちがいるから、行ってくるといいよ」

    「わかりましたー!!」ダッダッダッ

    「騒がしいやつ……。あ、和、ハルエたちみんなで見に来るって話だったから、私先に観戦室行ってるね。和もすぐにおいでよ」ダッダッダッ

    (ふ、二人きりになってしまいましたね……)

    健夜「じゃあ、原村さんもお疲れ様」

    (ちょ、ちょっと待ってよ! 逃げるの!!? まだ勝負はついてないのに!!)

    健夜「ああ、そうそう原村さん」

    「は、はい」

    健夜「あなたとは、なんのハンデもなしに打ちたかったな」

    「っ!!?」

    163 = 1 :

    健夜「あなたが、どういうつもりであんなことをしたのかはわからない。けど、あなたの持つ『何か』は、私にも見えた気がする」

    「そ、それは……」

    健夜「ひとまず、今日はこれくらいにして、私たちの決着はお預けにしよっか。原村さんがタイトル戦まで上り詰めてくるのを楽しみに待ってるよ」

    「あ、あ……ありがとうございます……」

    健夜「で、原村さんがタイトル戦の挑戦者になったら、次こそはちゃんと五分の条件で打とうね」

    (うん。いつか、必ず……!)

    健夜「じゃあ、私はこれで……」

    「お、お疲れ様です……」ペコリ

    164 = 1 :

     ――

    (咲さん……その、ごめんなさい。私、ついカッとなって。
     別に、咲さんに負けて欲しかったわけじゃなくて、その、私にとっては雲の上の人である小鍛治九冠を……ハンデがあったら絶対勝てるとか、興味ないとか……。
     そしたら、私みたいな弱い雀士なんて咲さんの目に映ってないんだろうなって思えてきて……それで……)

    (いいよ、和ちゃん。私が悪かった。
     新初段シリーズ……和ちゃんにとって大切な一局だったのに……和ちゃんの気持ちも考えないで、自分勝手なことばっかり言って。ごめんなさい)

    (咲さん……)

    (それに、和ちゃんのおかげで、すっごい収穫があったよ)

    (え……?)

    (ハンデがあったとは言え……こんなに思い通りにならなかったのは久しぶり……いや、初めてじゃないかな)

    (さ、咲さん……?)

    (小鍛治健夜さん……次は五分の条件で打とう……そう言ってたね)

    (そうですね……)

    (やる気……出てきたよ……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

    (わ、私はもしかして……とんでもないことをしてしまったのでは……)

    165 = 1 :

    トシ「おやおや……弟子に負けておいて随分と楽しそうじゃないか。何かいいことでもあったのかい?」

    健夜「熊倉さん、いらっしゃってたんですね。ええ……まあ、おっしゃる通りですよ。今、少し面白い打ち手と麻雀をしてきたところなんです」

    トシ「そうか。あんたがそう言うんだから、そいつはよほどの雀士なんだろうね……」

    健夜「正直、こんなにわくわくするのは初めてですよ。
     赤土さんと打つのも楽しいけれど、それとはまた種類が違うっていうか……彼女とは、純粋に、白黒はっきりつけたいって思えるんです」

    トシ「そういう相手がいるってのは幸せなことだよ。特に、あんたみたいな強過ぎるやつにとってはね」

    健夜「そうですね。私は……強い」

    トシ「どうした……珍しく威勢がいいじゃないか」

    健夜「つきましては、熊倉さん」

    トシ「なんだい……?」

    健夜「彼女を待つにあたって、私は私に相応しい称号を得ようと思います。私は……麻雀界の『Grandmaster』として、彼女と打ちたい」

    トシ「ははっ、史上初の九冠に輝いておいて、これ以上どんな称号を手に入れようっていうんだよ」

    健夜「惚けないでください、熊倉さん。あなたほどの人が、タイトルの総数を知らないはずがないでしょう?」

    トシ「…………本気なのかい?」

    健夜「はい。なので、熊倉さん。今のうちに身辺整理をしておいたほうがいいと思いますよ。私、ちょっとこの昂ぶりを抑えられそうにありませんから……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

    トシ(原村和……とんでもないことをしてくれたよ……! わかってんのかい……!!? あんたが喧嘩を打った相手は……人の形をした鬼だよ……!!!)

    166 = 1 :

     ――一ヵ月後

    恒子『決まったァァァァァァァァ!!!! 麻雀界の幻のタイトル『天和』が……ついにこの人の手の中にィィィィィィィ!!!』

     ――

    トシ「もう……何も言うことはないよ」

     ――

    晴絵「正気か……小鍛治さん……!」

     ――

    「咲さん……小鍛治さんが……!!」

    (うん。これくらいはやってもらわないと……)

     ――

    恒子『グランドマスター・小鍛治健夜!!!! 前人未到の十冠を達成でええええす!!!』

    167 = 1 :

     ――赤土門下

    晴絵「小鍛治さん……まさか本当に十冠になるなんて……あの人ならとは思っていたが……未だに信じられない」

    「熊倉さん……引退するかもしれないって噂が流れてますね」

    「ここは、やっぱりハルちゃんが止めなきゃ。ハルちゃん、二ヵ月後には『七星』のタイトル戦が控えてるし」

    晴絵「どーだかな。正直、今のあの人に敵う気がしないよ」

    「ハルエ……」

    晴絵「ま、やる前からうだうだ言ってても仕方ないよな。みんなはどうだ、最近勝ってるか?」

    シズ「は、はいっ! 私、今月で院生順位が五位まで上がりましたっ!!」

    晴絵「お、そりゃいい。その調子で頑張れよ、シズっ!!」

    シズ「ありがとうございますっ!!」

    168 = 160 :

    この後すこやんが更年期障害で倒れるのか…

    169 = 1 :

    晴絵「和と憧はどうだ?」

    「私は勝ったり負けたりかなぁ。最終的にはなんとかプラスの成績で終わりたいけどねぇ」

    「私は……」

    「あっ……見たよ、和ちゃん。明日の順位戦……とうとう初対局だよね」

    「……宮永照……」

    「そ、そうなんです。今は、そのことしか考えられなくて……」

    晴絵「去年、小学生の大会で打って以来か」

    「はい」

    「和、私の代わりに一発ぶちかましてきてよねっ!!」

    「できる限りのことはします」

    晴絵「持てる力を全部ぶつけてこい、和。結果を聞くのを楽しみにしてるぞ」

    「はい。ありがとうございます……」ペコリ

    170 = 1 :

     ――自宅

    「咲さん……」

    (ん……?)

    「いよいよ……明日です」

    (そうだね)

    「私……どんな顔して打てばいいのでしょう」

    (いつも通りでいいんだよ。いつも通り、顔を真っ赤にしてさ)

    「す、好きで真っ赤になってるわけじゃありません!!」

    (あ、もしかすると、向こうも真っ赤になっちゃうかもしれないよね。前に『ふざけるな!』とか言われたときは、怒って真っ赤だったし)

    「も、もうあのときのようには行きませんよ!! そこそこいい勝負ができるんじゃないかと思ってます」

    (だといいね。そしたら、今度は惚れ直して真っ赤になるかもね。なんだかんだで、照は和ちゃんのこと気になってるみたいだから)

    「せめて、失望させないくらいには打ち回したいものです……」

    (なんにせよ、明日だね)

    「はい。明日です……」

    171 = 1 :

     ――小鍛治邸

    健夜「照、まだ起きてたの?」

    「先生……先生こそ、こんな夜遅くに帰ってくるなんて……」

    健夜「ああ、取材だなんだって、色々やってたら遅くなっちゃった」

    「福与さんが心配してましたよ。どうかご自愛ください」

    健夜「わかってるよ。それに、来週は温泉だしね。あとちょっとだけ頑張れば……」

    「先生……あの新初段シリーズから、前にも増して麻雀に熱が入っていますよね。何か、あったんですか?」

    健夜「ああ、照、原村さんのことが気にあるの?」

    「い、いや、別に! 気になっているわけでは……」

    172 = 1 :

    健夜「いやいや、そこは気にしておきなさいって。彼女はあなたを追って、プロの世界に入ってきたんだから。上ばかり見ていると、足元を掬われるわよ?」

    「もちろん、ないがしろにしているわけではありません。今だって……原村和の牌譜を見ていたところです」

    健夜「明日、だもんね」

    「はい」

    健夜「勝てる?」

    「まだ、負けないとは思っています」

    健夜「まだ、か。随分と評価しているのね、彼女のこと」

    「買い被りですかね」

    健夜「それは自分の目で確かめてきなさい。さ、今日はもう眠ったほうがいい。私も寝るから」

    「はい。おやすみなさい」

    173 = 1 :

     ――翌日・順位戦会場

    (照さん……なかなか来ませんね……)

    (そうだね。もう対局の時間なのに)

     タッタッタッ

    (あ、照さん……!?)

     ガラッ

    「あ……え? あ、灼さん?」

    「和、落ち着いて聞いてほしいんだけど……」

    「な、なんでしょう……」

    「小鍛治さんが……倒れたらしいんだ」

    「え――」

    174 :

    更年期障害か

    175 = 1 :

     ――数日後・病院

    健夜「はは……大袈裟大袈裟……ちょっと立ちくらみしただけなのに」

    恒子「大袈裟じゃないよ……まったく……」

    健夜「あっ、また負けちゃった。暇つぶしにやってみたけど、このネット麻雀? わりと面白いね、全然勝てないや」

    恒子「入院しても麻雀とか……すこやんは本当に麻雀バカだな……」

    健夜「そ、そんなこと言われても……」

     タッタッタッ ガラッ

    「あ、あの……」

    恒子「おっ? 君は……」

    健夜「原村さん……来てくれたの?」

    「あ、いや、その……心配で(咲さんが様子を見に行こうって聞かないから……)」

    健夜「ありがとう。あ、そこにお見舞いのお菓子があるよ。よかったら、原村さん、どうぞ」

    「は、はい。ありがとうございます」

    恒子「じゃ。私はちょっと先生のところ行ってくるから」

    健夜「ごめんね、こーこちゃん」

    176 = 1 :

    健夜「原村さんも、ごめんなさい。私が倒れた日、照と対局があったんだよね?」

    「あ、それは……いいんです。小鍛治さんがご無事で何よりでした」

    健夜「照には、大したことないから打ってきてって言ったんだけどね。たぶん、気が動転したままであなたと打つのが嫌だったんだと思う。
     それだけ、照もあなたとの対局を楽しみにしてたんだよ」

    「それは、嬉しい限りです」

    健夜「あぁあ、それにしても、年齢には勝てないってこのことかな。十冠獲った直後に倒れるなんて。早く復帰して麻雀が打ちたいよ。
     まだそんなに経ってないけど、そろそろ禁断症状が出そう。牌に触りたい……今は、これで我慢してるんだけどね」

    「あ……パソコン……? 小鍛治さん、ネット麻雀やるんですか?」

    健夜「うん。いい機会だから始めてみたの。原村さんは、今時の子だから、こういうのは慣れっこ?」

    「まあ、はい……ネット麻雀は、わりと得意なほうです」

    健夜「そうなんだ。私は全然だよ。普段はもっと牌が見えてるのに。やっぱり、牌を握ってないとダメみたいだね」

    「あ、あの…………」

    健夜「ん?」

    177 = 1 :

    「私の知り合いに……とても麻雀の強い人がいます。
     その人は……わけあって人前には出れなくて……ネット麻雀しかしないんですが……どうしても小鍛治さんと打ちたいと言っていて……」

    (和ちゃん……?)

    「その、もし小鍛治さんさえよければ……その人と打っていただけないでしょうか」

    健夜「それって……『saki』のこと?」

    「ご、ご存知だったんですか……」

    健夜「まあね。照が対局した牌譜を見せてもらったことがある。ぼちぼち強いみたいだよね」

    (ぼちぼち……?)

    健夜「いいよ。私も、この入院生活はけっこうストレス溜まるから。ネット麻雀でも、強い人と打つのは気晴らしになるよ」

    「あ、ありがとうございます」

    (気晴らし……?)

    健夜「でも、対局までには何日か待ってね。このパソコンがなかなか言うこと聞いてくれなくて。慣れるのに少し時間がかかりそうだから……」

    (私は……本気で勝負がしたいのに……っ!!!)

    178 = 1 :

    「あ、あの! 本気で打ってくださいね!?」

    健夜「ん? もちろんだよ。ほら、私って手加減苦手だし」

    「その、ネット麻雀が苦手なら、断っていただいても全然構わないですから!」

    健夜「いや、まあ、確かに慣れてはないって言ったけど。……もしかして、原村さん」

    「はい……」

    健夜「私が負けるって思ってる?」

    「え? あ、いや、その……」

    健夜「じゃあ、こうしよっか。私、その『saki』って人に負けたら、麻雀界を引退する」

    「えええええ!? そんな、困りますよっ!!!」

    健夜「…………原村さん、本当に私が負けるかもしれないと思ってるんだね。その、『saki』に……」

    「ええっ!? それは……その……」

    179 = 1 :

    健夜「わかった。持ち時間やルールは、タイトル戦と同じにしよう。それで、卓を囲むあと二人だけど、私が選んでおくよ。
     できるだけ頑丈な人にするつもりだから、安心して」

    「小鍛治さん……」

    健夜「これでいいでしょ? 半荘一回だけだけど、プロのタイトル戦と同じ条件で闘おう。それで、もし私が負けたら、私は麻雀界を引退する」

    「そ……」

    健夜「ただし、私が勝った場合には、その『saki』って人の名前を教えて。いくらネット麻雀しか打たない人でも、それくらいはできるでしょ?」

    「ちょ、ちょっと待ってください小鍛治さん、私は別に――」

    (和ちゃん……!!)

    (え……?)

    (感謝するよ……!!!!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

    (咲さん……!!!?)

    183 = 1 :

    健夜「けどなぁ、このパソコンがなぁ。ねえ、原村さん。原村さんはネット麻雀が得意なんだよね? なんか、コツとかないの?」

    「え? いや……別に普通に打つだけですけど。
     そう言えば……私の知り合いの『saki』さんも、最初はうまく打てなかったんですが、
     なんでも、いつもは卓と牌を支配するのに使ってる力をパソコンにかける……と、うまくいくんだとか……」

    健夜「ああ、なんだ。そういうことね。なるほど、このパソコンを支配下に置けばいいのか……!」

    (い、意味が通じるとは思ってなかった……!!)

    健夜「じゃあ……ちょっとやってみようかな」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

     ボンッ プスプスプスプス

    健夜「あはは、どうしよう。パソコン壊れちゃった……」

    (そんなオカルトありえません……!!!)

    健夜「これはノートじゃダメかなぁ。こーこちゃんに言って最新のデスクトップを買ってきてもらうよ。勝負は二週間後くらいでいいかな?」

    「は、はい。小鍛治さんの都合のいい日に合わせます」

    健夜「よろしくね。あ、あと……赤土さん」

    「え……?」

    184 = 1 :

     ガラッ

    晴絵「バレてましたか……」

    健夜「話は聞いていたよね?」

    晴絵「まあ、大体は。和が『saki』と知り合いだって言い出したときは、心臓が止まるかと思いましたけど」

    健夜「赤土さんも、打ちたがってたでしょ。『saki』と」

    晴絵「そうですね。もしよかったら……混ぜていただきたいところです」

    健夜「これで、面子はあと一人だね」

    晴絵「なら、石戸九段でいいんじゃないですか? あの人なら、何があっても大丈夫そうですし」

    健夜「そうしよっか。じゃあ、決まりだね。原村さん、今言ったこと、『saki』さんにちゃんと伝えておいてね」

    「わかりました」

    185 = 1 :

     ――帰り

    晴絵「いやぁ、しかし驚いたな。和と『saki』が知り合いだったなんて、世間は狭い」

    「あんまり驚いているようには見えないですけど……」

    晴絵「まあ、そりゃね。私の人生、小鍛治さんに驚かされっぱなしだから、ちょっとやそっとのことじゃ驚かないよ。たとえ、『saki』が和本人だとしても……」

    「そ――それはありえませんっ!!」

    晴絵「おっ、図星かー? いいけどさ。『saki』の正体には、さほど興味はない。私はただ、その強さに興味があるだけだ」

    「このことは……皆さんには内緒ですよ。特に、憧さんとか、絶対いろいろ聞いてきそうですし」

    晴絵「大丈夫だよ。あくまでプライベート。そういうことにしとく」

    「ありがとうございます」

    晴絵「しかし、ネット麻雀か。私もかじってはいるけど、本腰を入れてやったことはないな。よし、じゃあ、和。今からちょっとネットカフェに行って特訓しよう!!」

    「あ、あの……赤土さんは、パソコンを壊したりしないです、よね?」

    晴絵「おいおい、私はいたって普通の人間だぞ。そんな化け物みたいな真似ができてたまるか」

    「ですよね……」

    186 = 52 :

    パソ壊れるとか恐ろし

    188 = 1 :

     ――

    「ねえ、この『legend』って、ハルエじゃない……?」

    「うん。この打ち筋はハルちゃんで間違いない」

    「じゃ、じゃあさ……こっちの『Grandmaster』って」

    「絶対小鍛治さんでしょ」

    「ハルちゃん、最近パソコンばっかりいじってて構ってくれないと思ったら……」

    「一体どうなってんの? ハルエに聞けばわかるかな?」

    「いや……私が聞いたときは何も言ってくれなかった。たぶん、なんか隠してる」

    「ネット麻雀かぁ。そういえば、あの人覚えてる? 『saki』って人」

    「もちろん覚えてるわよ。結局、あの宮永照と打ったきり、ネット界からは消えちゃったけど。『saki』……今頃、何してるのかなぁ……」

    189 = 1 :

     ――

    智葉「先生、ネットの中に小鍛治十冠と赤土九段がいます」

    ダヴァン「what? 嘘デショ?」

    智葉「嘘じゃありませんよ、ほら……」

     ――

    誠子「げっ……先生ってば、大人しく入院してると思ったらこんなところで何してんですか……」

    「ただの暇つぶしってわけじゃなさそうだが」

    尭深「……まるでウォーミングアップ……」

    「え? じゃあなに、先生は、誰かネット麻雀で対戦したい人がいて、その対局に向けて肩慣らしをしてるってこと?」

    (……まさか……)

    190 = 1 :

     ――

    「ネット麻雀、ねぇ。盲点だったわ……」

    初美「先生、この『saki』ってやつ、牌譜見たですよー。間違いなく、九年前のあいつですねー」

    「あのとき……姫様がその身を呈して祓ったように見えたのですが……勘違いでしたか。あのときの無理がたたって、姫様はずっと牌を握れなかったというのに……!」

    小蒔「ごめんなさい……みんなの力を借りてたのに……取り逃がしていたなんて……」

    はるる「」ポリポリ

    「そろそろ……終わりにしなければならないようね。どういう方法を使ったのかわからないけれど……あの『魔物』が再び現世に蘇った。
     霧島神宮の総力を上げて……今度こそあの悪霊をこの世から葬り去るわよ……!!」ゴッ

    192 = 6 :

    しえん

    193 = 1 :

     ――和・自宅・決戦前夜

    「咲さん、よかったんですか? 小鍛治さんや赤土さん、それに霞先生も、ここのところ毎日ネット麻雀をしていたようですが……」

    (私は大丈夫。もう、できることは全てやってある。あとは、全力で打つだけ)

    「明日……ですか。今度こそ、本気の小鍛治さんと戦えるんですね」

    (うん……あの人に勝てば……私の最強が証明される……!)

    「咲さん……あの、私、少し不安なんですが……」

    (どうして? 大丈夫、私は負けないよ)

    「いえ、そうではなく。咲さん……咲さんって幽霊ですよね? きっと……何か未練があるんですよね?
     それが、もし麻雀で最強になることなら……咲さん、小鍛治さんに勝ってしまったあとはどうなるんですか……?」

    (それは……私にもわからないよ……)

    「そんなっ!!?」

    194 :

    祓ったって…人が死んでんねんで!

    195 :

    人死んだ上に隠蔽…これは老害ですわ

    196 = 1 :

    (でも……たぶんだけど、麻雀で最強になることは、私の未練じゃないような気がするんだ。
     何か……もっと大事なことがあって……今はもう思い出せないんだけど……麻雀で誰かに勝つことは、そのために必要な何かだったような気がするんだ。だから……)

    「だから……小鍛治さんに勝っても消えたりはしないはず、ですか? けれど……小鍛治さんに勝ってしまったら……もう咲さんの相手はこの世にいなくなってしまいます。
     そうなったら……消えないにしても……咲さんはずっと寂しいままで過ごすことになります……」

    (寂しくなんか、ないよ。こうやって、和ちゃんが一緒にいてくれるから)

    「でも……!!」

    (和ちゃん、勝ったあとのことは勝ってから考えよう)

    「咲さん……絶対、勝手にいなくなったりしないでくださいよ……?」

    (うん。心配しないで。いなくなるときは、さようならって、ちゃんと言うから……)

    「約束ですよ。では、おやすみなさい……」

    (おやすみ、和ちゃん……)

    197 = 1 :

     ――『saki』vs『Grandmaster』当日

    「準備はいいですか、咲さん」

    「うん。いつでも……」

     ――病院

    健夜「照、あまり私の近くにいないほうがいいと思うよ。身の安全は保障できない」

    「自分の身は自分で守ります。もちろん、集中の妨げになるというのなら出ていきますが……しかし、先生を一人にしては、何かあったときに……」

    健夜「ありがとう。ま、今の照なら観戦するくらいはできるかもね。危ないと思ったら、すぐに逃げること。わかった?」

    「はい」

    198 = 1 :

     ――赤土邸

    晴絵「なんだ、みんなして」

    「なんだ、じゃないよ、水臭いっ!」

    「そうだよ、ハルちゃん。小鍛治さんのとこの亦野さんたちに聞いたよ。ハルちゃん、今日『saki』と小鍛治さんと石戸九段と戦うって」

    「何かあったらどうするつもりですか……まだ、玄ちゃんだって帰ってきてないのに……」

    晴絵「大袈裟だなぁ、たかがネット麻雀だろう?」

    「とか言って、ハルエ。既に顔が真っ青だよ。大丈夫?」

    晴絵「ははっ……熊倉さんと五花を奪い合ったときも……ここまでじゃなかったんだがな……」

    「私たちでよかったら……暖めますから」

    「ハルちゃん、力になるよ」

    晴絵「ありがとう、みんな。よし……じゃあ、魔物退治といきますか!!」

    200 = 1 :

     ――

    「さて……いよいよこの日が来たわね。姫様、初美、巴……それに春も。みんな覚悟は出来ているかしら?」

    小蒔「先生……本当にやるんですか……相手はあの『魔物』……いくら先生でも……」

    「もちろん、命を賭して祓いに行くわ」

    小蒔「そんな……」

    初美「姫様、先生は……ずっとこのときを待っていたんですよー」

    「何があっても……最後まで見守りましょう」

    小蒔「みんな……」

    はるる「」カリカリ


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