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    元スレ魔王「お前の泣き顔が見てみたい」

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    801 = 787 :

    「貴、様・・・・ッ!!」

    勇者「王はなぜこの地に居城を構えたのか、それは簡単な事だ」

    勇者「・・・・ここには莫大な魔脈が眠っているからだ。この地の力を借りる
      事無しには僕の目的は達成できない。・・・・どうして僕が
      分身ではなくわざわざ本体でここまで来たと思う?」

    勇者はにこりと笑う。

    勇者「僕の分身が既に王国の中央で魔法陣を構築している。・・・それを
      邪魔させない為だよ」

    王に先ほどの狂喜と余裕はもはや存在しない。

    勇者「貴方が僕をここでおびき寄せたんじゃない、僕が貴方をここに
      閉じ込めたんだ」

    勇者「僕は最後まで待ち続けた。王、貴方が民を思う言葉を発するまでね。
      これは貴方が選択した事だよ。僕も今から自分のする事が良い未来を描く事を願う」

    「ゆ、勇者ぁああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

    王の絶叫に勇者は穏やかな笑顔で応える。

    勇者「もう遅い」

    世界を改変する魔法が発動した。

    802 = 787 :

    ーーーーーーーーー魔界・上空

    魔王「むむむ、まだ着かないのか?」

    その顔には焦りの色が見えている。

    側近「・・・そんな事を言っては飛竜さんに失礼ですよ」

    飛竜「きゅるる・・・」バサッバサッ

    魔王「あ・・・、う、すまない」

    側近「しょうがないでしょう?人間と協定を結ぶなんてそんな
      軽々しく決まるものじゃないんですから。きっと魔王城は
      今も混乱の嵐ですよ?」

    魔王「無理やり決めたようなものだからなぁ・・・・、兵士達は賛成
      してくれだが・・・・・・これはッ!?」

    魔王の目が上空に固定される。

    側近「なんなの・・・・これ」

    803 = 787 :

    赤い空が数え切れない程の魔法陣で埋め尽くされている。その一つ一つ
    からとても自分では理解できないほどの構成の緻密さが読み取れ、歯車のように蠢いている。
    空に描かれるこの壮大な魔法陣は一体どこまで続いているのか。

    側近「・・・・勇者」ボソッ

    だがそれだけでは終わらなかった。

    魔王「・・・・・嘘だろう?空、が・・・・」

    空の焼けるような紅は、美しく澄んだ青に変わっていた。

    魔王「・・・魔力が減少していないだと・・・・!?」

    人間界の空の下では力の強い魔物は充分な力を発揮できない筈だ。
    ・・・・何が起こっている?

    魔王「・・・・急ぐぞ」

    側近「・・・はい」

    飛竜「きゅるるるるぅ!!」バサッ

    804 = 787 :

    ーーーーーーーーーー10日後 王国・下町

    魔王「・・・ここが人間の居城か、広いな」

    魔王の声は暗く、沈んでいる。

    側近「・・・・人間は私達にも劣らぬ魔力を有している、と勇者は言っていましたね」

    勇者は自分自身のやるべき事を成したのだ。

    魔王「・・・なぜ人間からごく微量の魔力しか感じ取れない。・・・本当にこれを勇者
      がやったと言うのか」

    人々の表情は暗い。

    側近「・・・会えばわかります」

    魔王「・・・そう、だな」

    魔王の声は少し震えていた。
    決して考えてはいけない事が脳裏から離れない。

    805 = 787 :

    ーーーーーーーーーーー王国・城

    「・・・来ると、思っていた」

    その顔はやつれ、その眼は淀んでいる。
    人間の王の様はこんなものなのか、と魔王は内心で落胆する。

    魔王「・・・全てを知っているようだな」

    王は皮肉げに笑い、はき捨てる。

    「ああ、そうだな。少なくとも貴様らよりはな」

    魔王「・・・では早速、私達魔族と協定をむすんでもらえるか」

    「くはは、断る道理などなかろう。今の私達人間では貴様には勝てん」

    魔王「・・・人の王よ、一つ聞いても良いか」

    「・・・いいだろう」

    魔王「・・・勇者は今どこにいる?」

    ・・・勇者のあの膨大な魔力が王国で感じられない。
    王は狂喜を孕んだ笑みを浮かべた。

    「くはは、そんなに知りたいか」

    「・・・勇者は死んだよ、無様になぁ。くは、くははははははははははは」

    806 = 787 :

    馬鹿な。
    馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な。
    勇者、お前が死んだだと?
    ・・・・そんな事があり得るわけないではないか。

    体が重い、目の前が暗い、息が苦しい。
    ・・・・体の震えが止まらない。

    魔王「・・・・嘘、だな」

    「・・・くはは、何故そう思う?」

    魔王「我が城を勇者が出る前まで勇者は私など比較にもならんぐらいの
      膨大な魔力を有していた。・・・お前に殺されるなど有り得ない」

    807 = 787 :

    「だが勇者が私の前にやってきた時は搾りかす程の魔力しか残って
      いなかったぞ?」

    側近は王を睨む。

    側近「・・・そうならないから勇者の魔力は膨大だと言ったのです」

    「く、くはは、くははははははははは!随分と信頼されていたようだな。
      いいだろう、・・・絶望を貴様らに与えてやる」

    王は懐から翡翠色の水晶を取り出した。

    「この魔具が何かは貴様らも知っているだろう?」

    側近「・・・《記憶の水晶》」

    「そうだ。私の記憶の一部を貴様らに見せてやる」

    水晶に内蔵された魔法が発動する。魔法陣が部屋の壁に投影され、
    やがて映像を映し出す。

    映し出されたのは狂気。
    何千もの人々が一人の人間を囲み、罵声、呪い、憎しみを浴びせている。
    ・・・その中央に位置する人間を魔王は知っている。

    魔王「・・・・勇、者」

    808 = 787 :

    ーーーーーーーー10日前

    「ぐっがっ・・・・あがぁっ」

    力が消える。私がこれまで二千年もの間ずっと蓄えてきた力が。

    戦士長「ぐっはぁ・・・うぐ」

    護衛達「「ち、力が・・・」」

    おのれ、おのれ、おのれ・・・・!!

    「貴、様ァ・・・・私に何をした?」ギロッ

    勇者「・・・勇者はもう生まれない。・・・・その意味はわかるな?貴方の
      計画の全ては潰えたんだ、これからは貴方達一人ひとりが
      自分で運命を切り開いていく」

    809 :

    >>798
    コピペ…。

    810 = 787 :

    「綺麗事をッ・・・・抜かすなぁッ!!!!!」ドガッ

    「貴様は!!自分が何をしたかわかっているのか!?われら人間を窮地に
      追い詰めたのだ!!勇者の本分を忘れたか!!!」ドガッドスッバキッガスッ

    勇者の血に濡れた唇が動く。

    勇者「勇、者が人間を助けるって・・・・一体誰が・・・決めた」

    「・・・・ッ!!・・・・貴様はただでは殺さん!!貴様の慕う下僕共の前で!!!
     全ての憎しみを身に受けながら死ぬがいい。・・・・連れて行け!!」

    戦士長「・・・はっ、立て」

    戦士長、護衛と勇者が部屋を出て行く。

    「・・・・もう全て、全て終わりだ。おそらく魔王共がこちらにやってくる・・・!!
     協定を申しだされれば断ることはできん」

    王は歪んだ笑みを浮かべている。

    「・・・だがただで終わるつもりはないぞ?・・・・勇者よ。貴様の努力の
     全てを帳消しにしてくれるわ」

    811 = 787 :

    勇者「あはは・・・申し訳ないです、負ぶってもらっちゃって」

    戦士長「このぐらいの事は何でもありません」スタスタ

    暫しの沈黙が流れる。

    戦士長「・・・・勇者様、折り入って申し上げたい事があるのです」

    勇者「・・・僕は勇者なんかじゃありませんよ、人々を窮地に追い込んだ化
      け物なんですから」

    戦士長「貴方を助けたい。貴方様は私の、いえ、私達兵士の恩人なのです」スタスタ

    勇者「・・・」

    812 :

    くかかか・・・

    813 = 787 :

    戦士長「この城の兵士のほとんどは子供や妻などの人質をとられていました。
       ・・・・貴方はそれを救ってくれた。あの邪悪な力があるかぎり私達
       に未来はなかった・・・・」スタスタ

    戦士長「だからこそ大恩ある貴方様を私達の命にかえてもお返しに救って
       差し上げたいのです」スタスタ

    勇者「・・・駄目ですよ。貴方達が死んだら、家族はどうするんですか」

    戦士長の足が止まる。

    戦士長「・・・・きっとわかってもらえます」

    勇者「・・・それでも駄目なんですよ」

    814 = 787 :

    戦士長「・・・それはどういう意味でしょうか」スタスタ

    勇者「僕は世界に存在するオーブを消しました。詳しく言えば一つの
      肉体に魂は一つ、という定義を定めたんですけど。それは
      世界全体の人間の弱体化を示唆します、当然人々は混乱に陥るでし
      ょう。何せ自分の魔力がある日突然ほとんどなくなってしまうの
      ですから。寿命も元の人間の平均に戻る」

    戦士長「・・・・」スタスタ

    勇者「当然人々は何故そうなったのか、誰がこんな事をしたのか、と
      憎しみ、恨みを持ちます。それが誰かわからなければ人間は
      前に進めない、乗り越える事ができない」

    815 = 787 :

    戦士長「まさか・・・・貴方様はそこまで」スタスタ

    勇者「僕には勇者として化け物としてその役目を受ける義務がある。
      僕がやった、という事実は変わりませんから。・・・こんな悲しい真実を
      人々が知る必要なんてないんですよ」

    戦士長「・・・その為に死ぬおつもりなのですか」スタスタ

    勇者はあはは、と笑う。

    勇者「そんなわけないじゃないですか。死んだふりでもして誤魔化したら、
      さっさと逃げますよ。・・・化け物ですから殺されたって死にません」

    戦士長「いえ、貴方様は世界を救う勇者様なのだと私達は思っております。
      必ず死なないというお言葉・・・・信じますぞ」スタスタ

    勇者「まかせてください」ニコ

    816 :

    勇者・・・

    817 = 787 :

    ーーーーーーーーー3日後

    勇者「この前はあんな事言っちゃったけど・・・・もう逃げるだけの魔力、
      残ってないんだよなぁ」

    勇者「・・・・僕が死んだら悲しむ人とか魔族っているのかな」

    脳裏に浮かぶのは父の笑顔、魔王の笑顔、側近の笑顔、近境の村のみんな
    の笑顔、これまで出会ってきた魔族、人々の笑顔。

    勇者「・・・・申し訳ないなぁ」

    勇者「まあ人は僕の事を憎むに決まっているけどね」

    あはは、と笑う声が空しく響く。

    818 = 787 :

    勇者「・・・・あれ?」

    自分の手を見ると微かに震えている事に気づく。

    勇者「そっかぁ・・・・やっぱり死ぬのは怖いなぁ。昔はあんなに死にたがっ
      てたのになぁ・・・・でも今は死にたくないや」

    僕ってわがままなのかなぁ、とぼやきながら窓のない天井を見つめる。

    勇者「・・・・でも僕は勇者だから・・・化け物だから」

    ガチャリ、と扉の開く音がした。

    戦士長「・・・・時間です、勇者様」

    勇者「・・・今行きます」

    819 = 787 :

    見渡す限り人で埋め尽くされている。

    「「そんな・・・・勇者様が私達を騙してたなんて」」

    「「畜生。よくも俺達に呪いを・・・・!!」」

    「「魔力を返せーーーーーーー!!!!」」

    「「なんて悪魔なの・・・」」

    「「早く死んでしまえーーーーーー!!!」」

    幾千もの憎悪の塊が勇者に突き刺さる。
    ・・・僕はこんなにも多く、いやもっと多くの人をここまで苦しめたのか。
    ジクリ、と心が焼ける。

    820 = 787 :

    「静まれいっ!!!」

    「「「・・・・・・・・」」」

    「・・・既に知っている者もいるだろう!!!」

    増音の効果を持つ魔具を使って王は民に言葉を投げかける。

    「今から三日前、我らに卑劣なる呪いをかけた者がいた!!!そのせいで
     我らの寿命は三分の一の減り、魔力をほぼ失った!!!」

    「だが我らは屈しはしない!!!その元凶たる者と捕らえる事に成功した
     !!!それがこの男、勇者だったのだ!!!この化け物は我らにとって魔族
      などよりも遥かに危険な存在だ!!!」

    「この場にてこの化け物を討ち、前に進もうではないか!!!」

    「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」」」

    地鳴りのように人々の咆哮が響き渡った。

    821 = 787 :

    魔具を外し、王は勇者に語りかける。

    「・・・どうだ勇者よ、貴様が自由にした者達に憎まれ、蔑まれる気分は・・・・!」

    謝りたい。

    勇者「・・・・嫌だ」

    「・・・どうした?死ぬのが怖くなったか」

    王の顔が笑顔で歪む。

    でも駄目だ。僕は最後まで人々に危害を加える化け物でなければならない。

    勇者「死ぬのは嫌だ!!死ぬならお前らが死ねばいい!!離せえええええ!!!」

    勇者は喚きながら、拘束から逃れようとする。

    王は狂喜に歪んだ表情で吼える。

    「見るがいい!!!これがこの勇者の本性なのだ!!!民の事など何も考えて
      はいない!!!取り押さえろ!!!」

    822 = 787 :

    護衛「「・・・・っは」」

    護衛と戦士長の裏切られたような顔を見るだけで心が張り裂けそうに
    なるよ。でもこうしなきゃ憎しみは受けきれない。

    勇者「何をするんだ!!離せ!!離せよっ!!!」

    「「この期に及んで命乞い?ふざけないでよ!!」」

    「「こんな奴に期待してたのか私達は!!!」」

    「くははっはははっははははっはは!最後に貴様の本性が見れて嬉しいよ!
     ・・・・だがさようならだ」

    勇者「やめろっ!!撃つなぁあああああああああああああああああ!!!」

    これでいい。これでいいんだ。
    王は叫ぶ。

    「撃てぇええええええええええええええええええええええええ!!!!!」

    泣くのは死んでからでいい、・・・だから今を精一杯生きるんだ。

    勇者「・・・命ある限り、生きる事を諦めてはいけない」ニコ

    そうだよね、皆。

    王国に十数発もの銃声が鳴り響く。
    それと共に民の歓声が轟き、黒い首輪は勇者の血で濡れた。

    823 = 787 :

    ーーーーーーーーー7日後

    やめてくれ、と何度も願った。でも、銃撃は止まなかった。
    勇者は・・・死んでしまったのだ。

    「くははははは!どうだ・・・・?何とも不様な最後だろう?」

    魔王「不様などではない・・・・ッ!あいつは・・・・勇者は最後に笑っていた!
      全てを背負って笑って死んでいったのだ!!」

    「全て、だと?・・・貴様にその全てがわかるとでも?」

    魔王「・・・・何だとッ!」ギロッ

    「わからんよ!貴様は勇者を知っているだけで何も理解などしていない
      !!なんなら教えてやろうか!?」

    824 = 527 :

    825 = 787 :

    側近「やめなさいッ!!」

    いけない。今の状態で全てを知ってしまったら魔王様は・・・・!!

    「ほう・・・、お前は何か勇者について知っているようだな」

    側近「・・・・ッ!!」

    魔王「そう、なのか・・・・?側近」

    側近「それは・・・」

    魔王の顔が悲痛に歪む。

    魔王「ふふ・・・・なんだ、何も知らなかったのは私だけか」

    魔王「・・・人の王よ、勇者について知っている事を話してほしい。・・・全て」

    王は笑みを崩さずに口を開いた。

    「・・・いいだろう」

    826 = 787 :

    「・・・これで勇者に関する話は終わりだ。どうだ?壮絶な生涯だろう?」

    魔王「・・・・お前のせいで勇者は死んだのだな、この首輪も・・・」

    「ああ、あの呪いの首輪がなければ勇者をこの手で殺す事は叶わなかった
      だろうな、それはそれ程に強力な魔具なのだ。込められた魔法を壊す事など
      勇者にすらできはしなかっただろうよ、まさに最凶の魔具と言える」

    王はにたり、と口を歪める。

    「・・・・だがそれを選択したのは勇者自身だ」

    側近「・・・・何をいっているのですか」

    「・・・《元始の魔王》の魔具は何も使用者から代償だけを奪い取るもの
     ではない。非常に強力な力を与えてくれるのだよ」

    「この首輪の代償は生命力の全てだ、人間には使えん。勇者は強大な魔力で代用したがな、
      ・・・・・まるで《神の子》の為に創られたかのような魔具だろう?」

    魔王「・・・代わりにどんな力を得たのだ?」

    「自分が触れた者から命を奪う・・・・いわばライフドレインだよ。
     これで勇者は正真正銘の化け物となったわけだ」

    827 = 787 :

    側近「・・・・まさか」

    「くはは、貴様らの思っている通りだ、勇者は自身の魔力が半分に低下した
      だけで回復する事はできる。奴はその恐ろしい力を封じるために魔力の
      回復力分を常に消費し続けていたのだよ!!死ぬまでずっとなぁ!!!」

    「なんという愚かな奴よ!首輪の力さえ使えば死ぬ事は無かったという
      のに!!・・・・だからこそ首輪を奴に着けたのだがなぁ!!」

    側近「・・・・これが人間なのですね」

    側近は右手に魔力を集め、魔法陣を展開する。
    だがその魔法が発動する事は無かった。・・・・魔王によって魔法陣が砕かれたのだ。

    魔王「・・・うむ、勇者の見様見真似だがうまくいったな」

    側近「・・・魔王、様?」

    魔王「お前は私を守るのだろう?ちゃんと自分を保て」

    静かな声が側近の耳に届く。

    側近「・・・申し訳ありません」

    魔王「・・・悪いがそのような安い挑発に乗る程、私は愚かではない」

    「・・・・ッく!!」

    魔王は顔を憎憎しげに歪める王を静かに見据えた。

    828 = 787 :

    魔王「・・・・人の王よ、お前は私達魔族の協定の申し出をお前の一存で断る
      ことはできない、そうだろう?」

    魔王「・・・だからお前は考えたのだ、私にこの王国を落とさせれば良いと。
      そうなれば人間との協定など結ぶ事はできなくなる。・・・なぜそこ
      まで我らを憎む?どうして共に生きる事を拒むのだ」

    「だ・・・・まれ、黙れ黙れ黙れぇええええ!!!このゴミ虫共がぁ!!!貴様ら
      がこの世界に存在している事自体が異端なのだッ!!!貴様らが
      消えなければこの世界に平和は訪れない!!」

    魔王「・・・そうか、だが私はこの国を落とすつもりはない。勇者のした
      選択が正しかったと証明する義務が私にはある」

    829 = 787 :

    王はまだ狂気を失わない。

    「くはは、・・・・・それはできん。貴様は必ず人を憎み、殺す」

    側近「・・・・魔王様、いきましょう。次の王国へ」

    「・・・魔族の王たる者として城を空けるというのはどうなのだ?」

    魔王「・・・・何が言いたい」

    「・・・7日前から我が王国の兵士団が貴様の城に向かっている。本当に
     思ったか?魔力が使えなくなった程度で本当に我が兵士の牙が抜ける
     とでも?・・・・魔法が使えなくとも魔具がある。まさか我ら人間が
     魔法の研究だけど続けてきたと思っているわけではあるまいな?」

    側近「・・・・ッ!!」

    魔王「・・・・・行くぞ」

    830 = 787 :

    ーーーーーーー王国・下町

    魔王と側近は最初にここを通った時に目に付いた一軒の家の前にいた。
    家とは言っても焼け落ち、おそらく町人達が投げ込んだであろう土や石で
    その原型はほとんどとどめていない。

    魔王「・・・・ふふ、勇者め、こんな所に私達を招待しようとしていたのか。
      失礼な奴だ」

    魔王が浮かべるのは勇者がいつも浮かべていた、あの笑み。

    側近「・・・・貴方は強く・・・なられました」

    魔王「さて、・・・・こんな場所で時間を割いているわけにはいかん。急ぐぞ」

    側近「・・・はい」

    魔王は静かな笑みを浮かべて呟く。

    魔王「・・・泣くのは死んでからでいい。勇者・・・・そうだろう?」

    831 :

    魔王と側近の濡れ場はまだでしょうか?

    832 = 787 :

    ーーーーーー8日後 魔界・上空

    魔王「・・・・あれは」

    数百人単位の王国の兵団の軍勢が、魔王城とは反対の向きに
    引き返しているのが見える。

    側近「・・・・・人間ッ!」

    側近の殺気が急激に膨れ上がる。

    魔王「よせ、それよりもするべき事がある筈だ」

    魔王「・・・私達の民の命が奪われたから殺すのか?それでは
      何も解決しない、・・・何も変わらない。勇者はそんな事を望んではいない」

    側近「・・・貴方様は勇者のように振舞おうとしてらっしゃるのですね」

    魔王「・・・楽ではないがな。それよりもどうやら私達がいなくとも
      城は守られたようではないか、急ぐぞ」

    側近は飛竜の手綱を握る魔王の手が血で滲んでいるのを見て、

    側近「・・・はい」

    そう答えることしかできなかった。

    833 = 787 :

    ーーーーーーーー2日後 魔界・辺境の村

    側近「・・・・」

    魔王「・・・こうなるのはわかっていた事だ、行くぞ」

    村だったその場所には木材と瓦礫だけが散らばっていた。
    民の姿は見えない、いや見えなくて良かったというべきか。
    土に紛れる程に八つ裂きにされたのか、それとも魔具で
    灰にされたのか、それを考える意味はもはや存在しない。
    ただわかるのは、人間による暴虐の嵐によって民の命が
    全て奪われた、という事だけである。

    魔王「・・・・駄目だ」

    魔王の脳裏に村の民達の優しい笑顔が浮かぶ。

    魔王「泣いては駄目だ。・・・私は勇者の意志を継ぐのだから」

    側近「・・・魔王様」

    魔王は逃げるように飛竜の元へ向かおうとする。

    魔王「・・・む」

    足が何かを踏んだ。どうやら石でも木材でもないらしい。

    側近「・・・・それは」

    側近の目が見開かれる。

    835 = 787 :

    『えっと、私達みんなを助けてくれて、ありがとうございました!』

    魔王「・・・違う」

    『やっぱりお母さんの言った通りだった!魔王様
      は私達魔物の事をいつも考えてくれていて、いつも
      助けてくれる凄い御方だって言ってたもん!』

    魔王「違うんだ」

    魔王の声は震えている。

    『魔王様はこれからも私達が危ない時は助けてくれるんだよね!』

    『ああ、そうだな』

    魔王「・・・・私は大嘘つきだ」

    涙を頬を伝う。

    『その首飾りにかけて誓おう。私は必ず皆を守ると』

    魔王「・・・・私は約束を破って、しまった」

    魔王は青い空を見上げ、呟く。

    魔王「・・・・やはり私はお前のようにはなれないよ、勇者」

    魔王の眼からあふれ出す滴は、絶えず土で汚れた首飾りに落ち続けた。

    836 = 787 :

    勇者、お前が死んだとあの人間の口から聞いた時、
    私は何を思ったと思う?
    憎い、殺してやりたいと思ったんだ。
    あの人間のにやついた顔を潰してやりたい、
    お前を死に追いやった人間共を皆殺しにしてやりたいと思った。
    私を笑ってくれ、勇者。
    私はあの人間と何も変わらない、自分の感情に振り回される大馬鹿者だ。
    ・・・・だが私には勇者、お前のした事が間違っていただなんて
    何よりも耐えられなかったんだ。

    魔王「・・・・だが勇者、私はそれさえも・・・・できやしない」

    ・・・お前の意志を継ぐ事さえも

    魔王「・・・私を許してくれ」

    側近の震える声が耳に届く。

    側近「・・・・魔王、様」

    魔王「・・・馬鹿な」

    魔王の眼はある一人の人間を捉えていた。
    ・・・この膨大な魔力に何故気づけなかったのだろうか。
    その人間はあの懐かしい笑みを浮かべている。

    勇者?「・・・お久しぶりですね、魔王様、側近さん」ニコ

    837 = 787 :

    かろうじて自我を保ちながら魔王はその人間に問いかける。

    魔王「・・・・お前は勇者だか勇者ではないな。何者だ」

    勇者のように見える男は満足そうな笑みを見せる。

    勇者?「流石魔王様ですね」

    魔王「・・・その顔で笑うんじゃない」

    勇者としか思えないその笑顔が、その言葉が魔王の心を深く抉る。

    勇者?「・・・魔王様の言っている事は正しいです。僕は
      勇者の分身ですから」

    側近「分身魔法・・・ッ!?」

    魔王「・・・では」

    魔王は震える声でぽつり、と呟く。

    魔王「では勇者は生きているのか・・・・?」

    魔王自身、自分がどんな顔をしているのかはわからない。
    だが代わりに勇者の分身の顔が苦渋に歪むのがわかった。

    勇分「・・・・いえ、僕の本体、勇者はおそらく王国で死にました」

    838 = 787 :

    勇者分身→勇分 でお願いします

    839 = 787 :

    魔王「・・・お前は確かにここにいるではないか」

    魔王は震える手で勇者分身の服を掴む。

    魔王「なのにお前は既に死んでいるというのか・・・ッ!」

    勇分「・・・はい」

    側近の顔は悲痛に染まっている。

    側近「・・・・本当に死んでしまったのですね」

    勇分「それでも貴方達は前に進まなければいけません。
      僕に出来る事は、もう全てやりましたから」

    841 = 787 :

    村に魔王の拳が勇分をとらえる音が響く。

    魔王「お前は何を言っている・・・?」

    魔王は自分の溢れる感情を吐き出す。

    魔王「どうやって前に進めというのだ!?私は大勢の民を
      失ってしまった!!お前も死んでしまったのだぞ!?」

    勇分は静かに口を開く。

    勇分「・・・・前になら、進めますよ」

    勇分「ここの辺境の村の方々は誰も死んでなんかいません。
      王国の兵士の人々には一つも命を奪わせてなんかないですから」

    側近「では民達はどこに・・・?」

    勇分「申し訳ありませんが魔王城にまで来てもらいました。
      その方が守りやすかったので」

    魔王「・・・まさかお前は」

    勇分「・・・そうです。僕の魔法としての役目は『自身の魔力が
      尽きるまで魔族を守ること』なんですよ」

    842 = 787 :

    勇分「・・・王が魔王様のいない隙に、兵を魔王城に攻めさせる
      だろうという事ぐらいは容易に想像できましたからね」

    側近「・・・だから勇者は貴方にそれほどの魔力を託したのですね」

    勇分「ええ、僕の本体は役目を確実に果たさせる為に自身の魔力
      のほとんどを僕に与えました」

    魔王「・・・城を守りきった割りには随分と魔力が余っているようだな」

    勇分は困ったように笑みを浮かべる。

    勇分「あはは、でも守れたんで良かったですよ」

    843 = 787 :

    魔王が激情に顔を歪ませる。

    魔王「そうではない!!その余った魔力が少しでもあれば!!・・・勇者の
      命は助かったのではないのか・・・・・・ッ!」

    勇分は穏やかに答える。

    勇分「・・・・でもそうしたら守りきれないかもしれなかった。違いますか?」

    魔&側「・・・・・・ッ!!」

    勇分「ほんの少しでも危険性が存在している限り、それを見逃すわけに
      はいかないんですよ」ニコ

    魔王「・・・・お前はッ、どう、して・・・・そこまで」ポロポロ

    勇分「・・・僕を信じてくれたからですよ。信じてくれる事、それは僕に
      とって何よりも大切な物だから」

    魔王は勇分を抱きしめる。

    魔王「お前は・・ひっく・・やはり馬鹿だッ!!」ギュッ

    側近「・・・今回は見逃してあげます」

    まぁ本人だったらぶっ飛ばしますけど、これはノーカンですよね、
    と側近はぶつぶつ呟いていた。

    844 = 527 :

    ゆうしゃ…

    845 = 787 :

    ーーーーーーーーーーー王国・城

    おのれ、おのれ、おのれ
    私の全てを台無しにした、憎き勇者め。
    魔王城から逃げ帰る兵士団から連絡を受けた王は拳を台座に
    打ちつけ、叫ぶ。

    「死して尚、この私の邪魔をするか勇者ぁあああああああああああああ!!!!!!」ガンッ

    もはや人ならざる表情を浮かべ、呻く。そしてよろよろと
    歩き出す。一体どこに向かっているのかは誰にもわからない。

    「ゴミ虫以下の腰抜け共め・・・!!くは、くはははははっははは
      は戻ってきたら全員縛り首にしてくれる!!くはははは」

    「くはは、私がこの眼で魔族共の滅亡を見なければ意味などないのだ
     ・・・・・ッ!!どいつもこいつも使えぬ!!!」

    口が裂けるかのような笑みを顔にはりつけながら王は一人歩き続ける。

    「くはは、そうだ。使えぬ下僕共などに価値などないではないか、
     くはは、ははははは。私だけが至高の存在であれば良いのだ。
     私こそが神に選ばれた存在なのだ」

    王はやがて漆黒の扉の前にたどり着いた。そしてその扉を開ける。
    ぞわり、と闇があふれ出す。

    「くは、くははははは、貴様らが無能だから高貴なる私が前に出て
     やるのだ。貴様らが無能だから無能だから無能無能くはははははは。
     誰が愚図共に勇者などまかせるか」

    846 = 787 :

    王の目前にあるのは漆黒の武具。正気であれば決して触れなかったで
    あろう手をそれに触れる。
    闇が、呪いが、苦痛が、悲しみが、憎悪が、憤怒が、力が王の体を包んだ。

    「くがッ!?がぎゃぁがっがぁああああああ!?く、くぎゃ、はははははは
     ハハハはははハはあはははははは!!!!!!!」

    求めるはゴミ共の血のみ。

    「・・・・我こそが至高の存在なのだ」

    一人の人間の狂気の末に一匹の化け物が誕生した。

    847 = 787 :

    ーーーーーーーーー魔界・辺境の村

    勇分「・・・魔王様と側近さんは先に城へ向かっててくれますか?
      まだやるべき事ができたみたいなんです」

    魔王「・・・なら私も行くぞ」

    側近「魔王様が行くのなら私もご一緒します」

    勇分「あはは、本当に大した事じゃないので一人で大丈夫
      ですよ」ニコ

    魔王「嘘だな」

    勇分「・・・・嘘なんかじゃないですよ」

    魔王「・・・お前はいつもそうだ。全てを自分で抱えて全てを
      自分で解決しようとする」

    魔王「その嘘が私達魔族を傷つけているのがわからないのか。
      お前がもし前もって話してくれていたら何かが変わった
      かもしれんなかった。・・・お前は死ななかったかもしれなかったんだぞ」

    848 = 787 :

    勇分は困ったように笑う。

    勇分「・・・本来なら全て僕が終わらせるつもりだったんですよ?
      魔族さん達を巻き込んでいるというだけで謝っても謝り
      きれないぐらいなんですから」

    側近「そうです。貴方は私達魔族に多大な迷惑をかけました」

    魔王「・・・・側近?」

    側近「だから全てが終わってから、思う存分謝ってください」ニコ

    勇分「・・・あはは、厳しいのか優しいのかわかりませんね」

    勇分は眼を閉じ、暫しの間の後口を開いた。

    849 = 787 :

    勇分「・・・王国の方角に強大な魔力が感じとれました、恐らく
      王が何かしたんでしょう。それも異常な事を」

    魔王「・・・奴めまだ何かするつもりなのかッ!?」

    勇分「だから僕はそれを止めに行ってきます」

    魔力がほとんど余ってて良かったです、と勇分は笑う。

    魔王「・・・止めてもお前は行くのだろう?」

    勇分「・・・はい」

    勇分「民の方々にはもうお別れはいってあるので、
       鳥族1さんからはなんと剣を一本もらっちゃいましたよ」ニコ

    勇分が魔法を発動させる。

    魔王「・・・お前にはまだ言ってやりたい事が山ほどあるんだ。・・・必ず戻って来い」

    勇分はあの笑みを浮かべて答えた。

    勇分「もちろんですよ」

    大気を震わす衝撃とともに勇分の姿は消えた。その軌道を見上げながら魔王は呟く。

    魔王「・・・・嘘つきめ」

    850 = 787 :

    力が満ちる。
    何でもできそうだ。
    体が軽い、最高の気分だ。
    力を持つ者の気持ちが今ならわかる。
    我が下僕と呼んでいた物はもはや蟻ほどの存在感も感じない、
    どうでもいい。
    そんな事よりもはやくこの力を振るおう。
    ゴミ虫共を皆殺しにしてやろう。
    我ならできる。

    ・・・・その為には我が国からでなければ。

    「・・・くはは」

    自らの足に軽く力を込める。
    ゴッ!!!! 轟音と共に地面が爆ぜる。
    その跳躍を眼で追える者は、いない。


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