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    元スレ魔王「お前の泣き顔が見てみたい」

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    みんなの評価 : ★★
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    851 = 787 :

    「・・・良い眺めだ」

    闇夜に月が輝いている。
    我の上に存在する者はいない。
    我は全てを見下ろしているのだ。
    漆黒の鎧から鮮血が滴り落ちる、そんな事はどうでもいい。
    ・・・我は満たされている。

    「そうはさせない」

    何だ、コレは。我が国から飛んできた。
    我と同じ高さに位置している。
    邪魔だ、邪魔だ。頂点に君臨するのは我のみでいい。
    消せ、消せ。

    勇分2「さて、時間稼ぎをさせてもらうよ」

    化け物は一人、呟く。

    「ああ、コレは・・・・邪魔だな」

    王国の夜に閃光が迸った。

    852 = 787 :

    ーーーーーーーーーーー7時間後

    何だ、コレは。
    消しても消しても沸いてくる。
    ゴミ虫程の力しか感じない筈。しぶとい、邪魔だ。

    腕を振るう。
    ゴミ虫の首がひしゃげ、消える。

    またゴミ虫がやってくる。我が剣を横に払う。
    ゴミ虫の胴体が二つに分かれ、消える。

    「・・・なんとか間に合いましたね、他の分身はほとんど消され
    てしまったようですが」

    なんだ、またゴミ虫か。

    「・・・コレで、最後、か」

    勇分は静かに王を見据える。

    勇分「・・・そうだ。・・・僕の事は忘れられてるみたいだな、
      それとももう見えないのか」

    853 = 787 :

    いや、違う。
    コレはゴミ虫などではない。
    危険だ、危険だ。
    こいつの力量は我に届く。
    何だ、こいつは、消せ、消せ。

    勇分は気負いなく刃を抜き放ち、刃に無数の魔法陣が展開される。

    勇分「・・・王、貴方は人として未来を生きるべきだった」

    刃を我に向けるだと、無礼な。
    黒が鎧の全てを塗りつぶす。全てを消す。・・・・そうかお前は。

    「・・・勇、者ッ!!!」

    勇分「これが《勇者》としての最後の戦いだ」

    「我こそがッ!!勇者なのだッ!!!!!!」

    光と闇がぶつかった。
    その衝撃は人知を超える。
    雲は掻き消え、空は割れる。その轟音は全ての生物に畏怖を与えた。
    地上の全ての生物には、それが世界の終焉に見えた。

    854 = 787 :

    《補足》 なぜ多くの分身が王の足止めをしたのか、という事について

    当然、勇者が王の兵士から辺境の村のみを守ったわけではありません。
    辺境の村は魔王城への通り道に位置している為に他の村のように気配を
    消すだけでは対応できなかったという事です。
    要するに勇者は魔王城の通り道周辺全ての村に分身を置いて気配を消していた
    というわけですね。
    あとは魔脈の使用が終了した分身が王に向かえば筋は通っているかな?
    と思います。


    855 = 787 :

    ーーーーーーーーーーーーーー魔界・魔王城

    魔王「遂に始まったのだな」

    大気は震え続けている。

    側近「・・・では行きましょうか」

    魔王「そ、側近?」

    側近「もしかしたらもう勇者とは会えなくなってしまう
      かもしれないのでしょう?行かなくても良いのですか?」

    側近は穏やかな笑みを浮かべている。

    魔王「ふふっ、そうか・・・・側近も変わったのだな。勇者に会って」

    側近「ええ、本当の本当に不本意ですがね。認める他ないでしょう」

    856 :

    さるよけ

    857 = 527 :

    >>854
    大丈夫
    そのくらいは補完してる

    858 :

    追い付いたか

    859 = 787 :

    幼女「あ、あのっ」

    魔王「どうした?」

    幼女「勇者様は戻ってきてくれるんですよねっ?」

    魔王「・・・・きっと私が連れ戻してこよう」ニコ

    エルフ少「私からもお願いします!!・・・まだ何もお礼してないのに
      もう会えないなんて嫌だよぉ」ポロポロ

    厨房室の魔物1「そ、そうだ!!雑用がいねぇと毒味できなくてよ!!」

    鳥族1「・・・・俺達が行っても足手まといになっちまうからな」

    「「「「そうだ!勇者はいい奴なんだ、あいつを連れ戻せるのは魔王様しか
      いない!!あいつはこの城に必要なんだ!!」」」」

    「「「「お願いします!!魔王様!!」」」」

    860 = 787 :

    魔王「ふふ、・・・とんだ他力本願もあったものだな」

    側近「それでいいのでは?貴方様は今間違いなく人間との協定を超えて
      城の者全員から慕われてる、それが貴方の目指す《魔王》だったのだから」ニコ

    魔王「・・・そうだな」

    ・・・これもお前のお陰なのかな。

    魔王「勇者、わかるか?お前はこんなにも多く、いやそれ以上の者達に慕われている。
      ・・・・化け物としてではなく」

    魔王「お前は一人じゃないんだ、勇者」

    861 = 787 :

    ーーーーーーーーーー王国・下町

    「・・・なんだアレは」

    「も、もう世界は終わりだ・・・」

    「魔力もほとんど失って・・・、寿命も半分以上も失って・・・俺達はもうどうすればいいんだ」

    戦士長「ふざけるんじゃないッ!!!何故命がある事を喜ばない!!前に進もうとしないんだ!!!」

    私は知っています。勇者様、貴方がわざとあのように振舞われた事を。
    貴方は私に何を託したのでしょうか。

    「何言ってんだ!!今の状態で魔物共に攻められたらもうお仕舞いだぞ!!」

    「魔物なんかに殺されるなんて嫌!!」

    民の命でしょうか、王国の未来でしょうか。

    戦士長「生きる為ならどんな手段でも使えば良いだろう!!魔族と協定を
       結ぶ事だって!!!私達は先人の為に生きている限り生きる希望を捨ててはいけないのだ!!!」

    私は貴方様のようにはなれないかもしれない。
    でも、それでも私は私なりのやり方で生きる希望を育てていきたい。

    戦士長「私達が生きている限り!!希望は潰えない!!私達こそが希望なのだ!!」

    貴方様の意志を、私は守り続けると誓います。

    862 = 787 :

    ーーーーーーーーーー上空

    強い、本当に強い。
    本来なら一個体を対象に振るってはいけない僕の力が押されている。
    王がどれだけの犠牲を払ってこんな力を得たのか想像もできない。
    命だけでなく魂までも捧げたのか。
    いや、それだけでは代償として足りない。
    まだ人の体の中に入っていない全てのオーブの中に入っている
    何万もの魂を代償として捧げたのかもしれない。
    ただわかるのは王が自分だけを代償にしただけでこの力を得た
    わけではないという事か。

    勇分「・・・それを見逃すわけにはいかないな」

    莫大な魔力を刃に込め、同時に飛行魔法の加速を最大に挙げる。
    それに対し王は大気を蹴り、勇者に勝る速度で向かってきた。
    王が剣を振るう度に、勇分が剣を振るう度に大気が割れる音が
    何度も響き渡る。

    「くはッ!くははははッ!楽しい!楽しいぞ勇者ぁあああ!!!」

    王が手を、足を動かす度に鎧から血が噴出す。

    勇分「僕が消されるのが先か、王が自滅するのが先かってとこか・・・」

    863 = 787 :

    勇分は自分の魔力が王と剣を交える毎に減っているのを感じ取る。
    減るというよりは消えるという表現の方が正しいだろうか。

    勇分「あはは、・・・・その剣は怖いなぁ」

    王と勇者を何百もの魔法陣が一瞬で構築される。

    勇分「僕は生身じゃないんでね」

    雷、風、炎、水、その全てが世界をほろぼす災害となって王と勇者にのみ襲い掛かる。
    王は狂った笑みを浮かべ叫んだ。

    「そんな物がッ!!!我に効くとでも思ったかぁあああああああああ!!!!!」

    ゾンッ!!!!  全てを断ち切る一撃が勇者の右肩を襲った。
    勇分は咄嗟に剣を左手に持ち変える。
    右腕が綺麗な弧円を描いて飛び、勇分は困ったような笑みを浮かべた。

    勇分「・・・このままじゃ勝てそうにないよ、まいったなぁ」

    やっぱり魔王の所へ戻ろうとする事自体が軽率だったのか。
    ・・・僕は約束を破ってばかりだな。

    勇分「貴方は僕が今まで出会ってきた中で最も強い」

    勇分「・・・だから僕の全てを賭けて貴方を倒す」

    勇分の全ての魔力を賭けた魔法が発動した。

    864 = 787 :

    何だアレは。
    勇者め。あんな魔法を我は知らない。次元が違いすぎる。
    また我の邪魔をするのか、我の全てを壊すというのか。

    ごぽっ、と血と共に王は掠れた声を絞り出す。

    「我も、真の力をもつよ・・・うになり、わかった」

    力を持つ者はその力を行使したい、思う存分振るいたいという
    衝動に支配される。我も例外ではない。

    「だがお前は・・・・・それほどの力を持ちながらなぜ力に支配されない・・・・ッ!!!」

    認めたくない、目の前の存在を。
    有り得てはいけない存在なのだ、この男は。同じ力を持ってしても
    同じ高さに登れぬ程の絶対的な差。
    奴こそが真の化け物。奴の絶対的な理性こそが化け物たる所以なのだ。

    勇分は涼しい顔で笑って答える。

    勇分「・・・・ほら、僕って怖がりだからさ」

    865 = 787 :

    全ての魔力が込められ、神神しく輝く刀身を我に向ける。

    勇分「もう終わりにしよう、これからは人も魔族も、皆前を向いて
      生きていけるんだ」

    「ふ、ざけるなぁあああああああああああああああ!!!!!!」

    王は咆哮と共に大気を蹴った。轟音と共に王の姿は消え、勇分に
    迫る。そして王は渾身の力を込めて勇分の心臓を穿った。

    「くは、くはははははははは!!!!どうだ!!」

    王の剣で心臓を貫かれた勇分は笑みを失わない。

    勇分「・・・生身だったら即死だったよ」

    自分の残り少ない魔力が急激に減少するのを感じながらも勇分は笑う。
    勇分の剣は静かに王の心臓を貫いていた。

    866 = 787 :

    勇分と王は共に重力に従って落ち始める。

    「く・・・・か」

    ずるり、と王の黒剣が勇分から抜ける。

    勇分「・・・恐らく貴方は自分の肉体と魂だけでなく色々な物を犠牲に
      してその力を得た筈だ。それらを全て解放するにはこの手段しかなかった」

    「く、はは、私の魂にかかる、《元始の魔王》の魔法を強制的
      に・・・解いたのか。もはや契約自体を無かった事にされる・・・とはな」

    勇分「あはは、・・・貴方の鎧を貫くのは容易ではありませんでしたけどね。
      その鎧があの首輪程の魔法で守られていたら、とても壊せませんでした」

    勇分は剣を王から抜き、に鎧に手を当てる。

    867 = 787 :

    「・・・おい、何を・・・している、まさ、か」

    勇分「貴方は生きなければいけません。貴方が僕に昔言った事を覚えていますか?
      ・・・・貴方が死んだからって苦しめた民への罪を償った事にはならない」

    回復魔法が展開された。勇分は穏やかな笑みで言葉を続ける。

    勇分「なら貴方も他の方法で償い方を探してください、僕に言ったように」

    「そん、な事ができるとでも・・・・・ッ」

    勇分「・・・・貴方は正気に戻ったのでしょう?」

    「・・・・・・ッ」

    勇分「なら貴方を慕う人々に何をしてきたのか、理解できる筈です。・・・
      どう償えば良いかも。・・・・地上が近づいてきましたね」

    勇分は王に飛行魔法をさらに発動させる。王の体の自由がきかなくなる。

    「・・・・勇者はどうするのだ」

    勇分「ほら、僕は生身じゃありませんから。・・・ここでお別れです」ニコ

    大気を振るわせる音と共に王の姿は消えた。

    868 = 787 :

    「・・・・勇者よ、何故私を憎まない。お前を殺し、父を殺し、全てを奪ったのは
     この他ならぬ私だというのに。私を殺す事など世界改変の時にできた筈」

    私もかつては人間全体の事を何よりも考えていた筈だ。

    「・・・・どこで間違えてしまったのだろうなぁ」

    「・・・・負けた。化け物としても・・・・・人としても私は勇者、お前には歯さえ
     立たなかった」

    869 = 787 :

    ・・・・終わった、これで全部終わったんだ。
    僕の分身としての、勇者のとしての役目は全て・・・。
    きっと魔王は人間と未来を創っていける。
    もう僕には信じる事しかできないけれど・・・・。

    勇分「・・・・もう眠っても良いんだよね」

    もはや体はぴくりとも動かす事はできない。
    かろうじて喋る事ができるくらいだろうか・・・・。

    勇分「あとは・・・・自然に魔力が流れて僕の存在が消えるのを待つだけか」

    勇分「怖いなぁ・・・・怖いよ。やっぱり消えるのは。僕の本体も怖かった
      んだろうなぁ・・・・生身だもんなぁ」

    かろうじて勇分は笑みを作る。

    勇分「・・・・おやすみ、みんな」

    870 = 787 :

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーー15日後

    「-------------」

    ・・・あれ、僕まだ消えてなかったんだなぁ。
    さっきから何か音がする・・・・・誰だろう?

    「------------!!!」

    ・・・・よく聴こえないよ。眼を開けてみようかな。頑張れ、僕!!

    眼を開くとそこには僕が知っている顔が映っていた。

    勇分「・・・・ああ、久しぶりです、ね」

    魔王「・・・随分とやられた様だな」

    あ、側近さんもいる。どうして悲しそうな顔をしてるのかな?

    側近「・・・ようやく目覚めてその一言ですか、まったく」

    勇分「あ、れ・・・・?僕膝枕してもらっちゃって、るよ。
      側近さんに怒られちゃうなぁ・・・・あは、は」

    側近「・・・・今日の所は見逃して上げますよ」

    871 :

    さるよけ

    872 = 787 :

    勇分「・・・・今まで本当にご迷惑をおかけ、しました。感謝
      しても、しきれ・・・ません。そしてこれからもきっと
      僕のした事で、迷惑・・・かけてしまうかもしれないですけど」

    勇分は力を振り絞って笑おうとするが半笑いのような状態で
    止まってしまう。

    勇分「・・・・全て、全てうまくいきました。誰も死なないで・・・・
      誰も酷い怪我を負わないで・・・・皆、前に進める」

    魔王「・・・・お前は死んでしまった」

    魔王の顔から滴が勇分の顔に落ちる。

    勇分「そんな・・・泣か、ないでくださ、いよ・・・・。どうして、
      泣くんですか?・・・・笑ってくださいよ」

    873 :

    素晴らしえん

    874 = 787 :

    魔王「・・・・笑えるわけがないではないか、私はまた約束を破ってしまう」

    勇分「・・約、束?」

    魔王「お前を必ず城へ連れて帰ると・・・ッ!皆に約束したのにッ!」ポロポロ

    勇分「・・・それは悪い事を・・・・してしまいました、ね」

    魔王「なぁ、勇者。・・・・お前は未来を私に託したんじゃない、押し付けたんだよ」

    勇分「・・・・それは、わかってますよ」

    魔王「・・・それ相応の報いがあっても良いのではないか?」

    勇分「ええ・・・、僕に、できる事なら・・・。とは言っても、もう今の僕に
      できる事なんか、ほとんど・・・ありませんけど」

    魔王「私はな・・・・勇者」

    魔王は穏やかな笑みを浮かべていた。その両目は赤く腫れている。

    魔王「お前の泣き顔が見てみたい」

    875 = 610 :

    なんか万人の魂を集めるとかまるでハガレンよ賢者の石見たいだな

    876 = 787 :

    勇分「あは、は・・・・・残念ながら、この体は・・・泣けないんですよ」

    魔王「・・・なら怒ってみろ、叫んでみろ」

    勇分「・・・・・ッ!!」

    僕には魔王の言っている事がわかる。

    魔王「私がこの世界をお前が正しいと思う世界へ導くと誓う。
      お前の意志は私が受け継いでいく、私の命ある限り」

    魔王「・・・もう良いのではないか?お前は人と魔族の為に精一杯頑張った。
      ・・・・もうお前が《勇者》であり続ける必要はないんだ」

    まるで母親が我が子に聞かせるように言葉を続ける。

    魔王「私など想像もできぬ程にお前はこれまで苦しかった筈だ、
      悲しかった筈だ、怒りたかった筈だ、・・・・泣きたかった筈だ」

    魔王「・・・これで最後なんだ、またお前は死んでしまう。もう二度と
      私の前にお前が現れる事はないだろうな」

    魔王「・・・私は最後にお前の全てが知りたい、お願いだ、・・・頼む」

    勇分「・・・・本当に、魔王には敵・・・わない、よ」

    いつもだったら僕は笑っていたのかな。
    話してもいいかな、本当の僕。
    いや、本当の僕の為にも話さなきゃ駄目なんだ。
    魔王の為にも。

    877 = 787 :

    自分自身のごくわずかな魔力を対価に魔法を発動する。

    魔王「・・・何をしている!?」

    勇分「話せるようにならないといけないからね、・・・・どうせ消えるのが
      少し早くなるだけだよ」

    魔王「話してくれるのだな・・・・」

    勇分「うん、・・・・僕が10歳の頃に勇者になったという事は知ってるかな」

    魔王「・・・・ああ、人の王から聞いたよ」

    勇分「どうして僕が勇者になったと思う?」

    魔王「・・・人と魔族が共存できる世界にする為だろう?」

    勇分は困ったように笑う。

    勇分「本心では違うんだ」

    878 = 787 :

    魔王「・・・何?」

    勇分「・・・怖かっただけなんだ」

    勇分「僕が勇者になったあの日、僕は両手では数え切れない程の人の命
      をこの手で奪った。それから僕は全てが恐ろしくなってしまってね。
      ああ、小さい頃からずっと力を押さえ込んできた筈なのに僕は
      存在するだけで命を奪ってしまうんだってね。・・・勇者になったのは
      その責任から少しでも逃げたかったからなんだ」

    魔王「・・・」

    勇分「僕はずっと逃げてきたんだ。命が怖かった、奪ってしまうのか怖かった。
      魔族さん達からどんなに攻撃されても、僕は絶対に命を奪いたくなかった」

    勇分「もう分かるよね、僕は勇気なんかない、優しくなんかない。ただの
      最低の臆病者なんだって」

    879 = 787 :

    今僕がどんな表情で言葉を続けているのかはわからない。

    勇分「そんな僕は勇者になってすぐに父から魔界と人間の真実の全てを知らさ
      れてしまった。僕は思ったんだ、たとえそれが正しくても、悪くても
      絶対に最も命が失われにくい世界にしようって」

    魔王「それが魔族と人間との共存、か」

    勇分「・・・・そうだよ。僕を軽蔑してくれてもいい」

    勇分「僕は世界の為、だなんて少しも考えてなんかいなかったよ。
      ただの僕の独り善がりでみんなを巻き込んだ。」

    勇分「でもそんな僕に王国の人々は笑いかけてくれた、僕を一切疑っていないんだ。
      それだけじゃない、魔族さん達だってそうだ」

    勇分の声が震える。

    勇分「最初は辛かったけど本当はとても優しい方々なんだ。魔族を何度も苦しめて
      きた《勇者》の僕に・・・・それでも笑いかけてくれたッ!」

    880 = 787 :

    僕の顔が歪むのを感じる。

    勇分「僕はその笑顔が嬉しかった・・・!でも同時に恐ろしくなったんだ」

    勇分「僕に笑顔を向けてくれる皆は僕が知っている真実を知らないんだ、って!!!
      僕の眼にはその眩しい笑顔がとても儚く、脆い物に見えた・・・・ッ!だって
      ほんの少しでもあの恐ろしい真実に触れただけで壊れてしまうんだから!!!」

    勇分「人々が本当は実験台にされているって知ったらどうなってしまうのかな!?
      魔族さん達がこれまでの苦しみが人間同士のただの内輪もめだって知ったら
      どうなってしまうのかな!?」

    勇分「僕にはもうわからなくなってしまったんだ。魔王を殺せば、人間を殺せば
      皆は救われるのかな・・・・?だから僕はその選択が与えられる時を待つ事に
      したんだ、その時の為に全てを備える事にしたんだ」

    勇分「・・・・僕に選択を与えてくれたのは君なんだよ、魔王」

    881 = 787 :

    勇分「魔王を最初に見た時は驚いたよ、人とそっくりだったからね」

    勇分「でも・・・魔王は僕なんかとは全然真逆だったよ。何もかもからも
       逃げないで真正面から立ち向かうんだ、僕は心を救われた」

    勇分「それが僕には光にみえた、魔王なら正しい選択をしてくれる
      かもしてない・・・・そう思ったんだ」

    暫しの沈黙が訪れる。

    魔王「・・・私はお前を光なのだと思い、お前は私を光だと思っていたのだな」

    魔王「・・・・お前は臆病者なのだろう?死ぬのが怖くはないのか」

    勇分は静かに口を開ける。

    勇分「・・・・もちろん怖いに決まってるよ、でもそんな事よりも
      魔族の皆が死んでしまう方が・・・・・・よっぱど、怖かった」

    魔王「やはりお前は勇者だよ、臆病者などではない」

    勇分「そういってもらえるなら・・・・嬉しいよ」

    勇分の体が透け始める、魔力が尽きかけているのだろうか。

    魔王「・・・・なぁ勇者、一つか二つ最後に言っておきたい事があるんだ」

    勇分「うん」

    882 = 787 :

    魔王「まず一つ目だが、お前は勘違いしているよ」

    勇分「・・・・勘違い?」

    魔王「ああ」

    魔王「・・・お前は魔族が優しい、お前が勇者でも笑いかけてくれた。
      そう言ったな?」

    勇分「そうだね」

    魔王「魔族が《勇者》に気を許すと、本当にそう思うのか?」

    魔王「お前は気づいているのではないか?私達魔族は《勇者》にでは
      なくお前に気を許したのだと」

    勇分「・・・・」

    魔王「私も城の者も、お前が来るまでは人などに心など許していなかった。
      お前がいつも浮かべていた笑みは本当の笑みではない、とお前は
      言っていたな。・・・・だが私達はお前の笑顔に救われたのだ」

    883 = 787 :

    魔王「お前が城に入り込んできてからは、予想もできない事ばかりが
      起こったなぁ、楽しかったなぁ・・・・あれほど笑う事はもう二度
      とこないのだろうな。ふふ、お前の所為で私の城はとんだ腑抜け
      の集まりになってしまったよ。皆常に笑っているのでは示しが
      つかないだろう?」

    魔王「お前のいた一年半は・・・・これからも永遠に続くかのように心地よかった」

    魔王「・・・・全部、お前のお陰だ」

    勇分「・・・・・あは、は、もし僕が泣ける体だったら泣いてましたね」

    魔王「次で最後だ」

    魔王は勇分の体を抱きしめる。

    魔王「・・・お前に会えて良かった、今まで助けてくれて、笑ってくれて
      ・・・傍にいてくれて、ありがとう」ギュ

    魔王「・・・お前の事が好きだ、勇者」

    884 = 787 :

    魔王「む、・・・返事はどうした」

    勇分「・・・僕が返事をしても、君は僕の事を忘れると約束してほしいんだ」

    魔王「・・・何を言っている」

    魔王は腕に力を込める。

    勇分「・・・《勇者》はもう生まれない、未来に《勇者》はいらない、
      僕は忘れ去られるべきなんだ。・・・・皆には笑ってて欲しいんだよ、僕の最後の願いだ」

    魔王「・・・わかった」

    勇分「こんな事は本当の僕だって死ぬまで言わない筈だった
      んだけどなぁ・・・」

    勇分「君と一緒に城で過ごした時間は楽しかったよ、初めて
      太陽の下に生きているようだったよ。・・・・そしてできるなら
      ずっと・・・そのまま皆で暮らしていたかった」

    885 = 787 :

    勇分の体が淡い光に包まれる。

    魔王「・・・どうしてお前だけが死ななければならないのだろうな」

    勇分「そんな顔をしないでほしいな、僕は君の笑顔を見て消えていきたい」

    魔王「ああ、・・・・そうだな」ニコ

    勇分「何も僕だけがこういう運命をたどっているわけじゃないよ。僕なんかより
      もっと苦しい運命を背負っている人や魔族だっているんだ」

    勇分「なのに僕はなんて幸せなんだ・・・色んな出会いが会って、仲良くなって
      、未来を創れて・・・・最後には君が笑っててくれる、僕の本体も
      そう思っていた筈だよ」

    勇分は魔王が今まで見たこともない程、ぎこちない笑顔を浮かべた。

    勇分「大好きだよ、魔王」

    魔王は勇分が確かにいた空間を、ゆっくりともう一度抱きしめる。

    魔王「・・・知っているか、勇者」

    魔王「私は・・・嘘つきなんだ」

    886 = 787 :

    側近「・・・・魔王様」

    魔王「・・・」

    側近「今は城の方も貴方がいなくて忙しい筈です、辺境の村の復興だって
      まだ手がついていないのですよ?そろそろ向かッ」

    側近「・・・・魔王様?」

    魔王「・・・・・・察しろ」ギュ

    側近「もう、勇者が目を覚ます前にあんなに泣いていたのにまだ泣き足りない
      んですか?」

    側近は優しく魔王の頭を撫でた。

    側近「もう少し・・・だけですよ?」

    魔王「・・・・ぅ・・・ひっく・・・う、うあああああああああああああ!!」

    側近「・・・・今は悲しくても、苦しくても、少しずつ乗り越えてい
      けばいいんです。・・・どんなに時間がかかっても」

    887 = 787 :

    ----―----―----3年後 辺境の村

    エルフ少年「ちょ、ちょっと待ったぁっ」

    少年はもはや半べそ状態だ。

    エルフ少「もうっ、情っけないわね!もっとちゃんとしないと
        相手にならないじゃない!」

    エルフ少年「だ、だってお前もう魔王城の兵士より強いじゃないか!
       俺には荷が重いって!!」

    エルフ少「ほら立って!今日は大事な日なんだから、もう一回よ。
       私の成長ぶりを見てもらわなくちゃ!」

    エルフ少年「何だよ・・・もう3年も経っているのに」ボソッ

    エルフ少「・・・何か言った?」ギロッ

    少年は空気が間違いなく冷たくなったのを感じた。

    エルフ少年「な、何でもねぇよ畜生ぉおおおおお!!!!」ダッ

    エルフ少「・・・そんな事、私にだってわかってるわよ」

    888 = 787 :

    ーーーーーーーーーーーーーー魔王城

    「魔王様、お伝えしたい事が」

    魔王「何だ、今日城の者達は皆休暇をとっている筈だが」

    「・・・それか今年は人間の中に我らと一緒に祈りを捧げたいとい
    者がおりまして」

    魔王「・・・良い、許す」

    「承知いたしました」

    その者は一礼をして去って行った。

    魔王「そうか・・・、真実を知った人間もいるのだな」

    側近「魔王様、・・・そろそろお時間です」

    魔王「ああ、行こうか」

    魔王は穏やかな微笑を浮かべた。

    889 :

    後何割なの

    890 = 787 :

    ――――――――辺境の村・墓

    魔王は村にある他となにも変わらない一つの墓の前に立っていた。
    村は数え切れない程の魔族で埋め尽くされていて、中には
    人もまぎれている。
    ・・・あらゆる種族の壁がこの場ではなくなっていた。

    魔王の凛とした声が村を通る。

    魔王「今日この場に足を運んでもらい、勇者の友として感謝する」

    魔王「皆・・・祈りを」

    お前は皆に忘れろと言ったな。
    ・・・勇者、見えるか。
    これがお前にはどう見える?
    私には光に見える、きっと未来を照らしてくれると確信できる光だ。
    だから私達はお前の事を決して忘れない。
    あと今年はすごかったんだ。なんと数は少ないが、人が
    辺境の村へ移住してきた、すごいだろう?
    この一年もまたお前の願う未来に少しだが近づけたのか?
    ・・・私は私なりのやり方で来年も頑張ってみるよ。
    だから次の年にもう一度お前に会いにくる事だけは許して欲しい。

    891 = 787 :

    >>889 あと1割ちょっとでしょうか・・・・

    側近「・・・」

    かつて《勇者》と呼ばれた化け物。

    村長「・・・」

    その化け物は魔族に災厄をもたらす筈だった。

    エルフ少「・・・」

    だが魔族は誰も命を落とすことはなく、

    鳥族1「・・・」

    今を生きている。

    892 = 787 :

    戦士「・・・」

    ならばその化け物は人を滅ぼしたのか。

    僧侶「「・・・」」

    だが人は生きている。

    王国の「・・・」

    両者の大切な命を一つずつ失う事で、私達は今を、未来を生きている。

    王国のはずれの村人「・・・」

    その尊い犠牲の為は私達は祈り続ける。

    魔王「・・・」

    勇者の為に私達は祈り続ける。

    893 = 787 :

    ------------3日後  辺境の村・墓

    幼女「ねぇねぇ!何してるの?」

    「・・・ん?お墓参りかなぁ・・・」

    幼女「わっ、わっ、人間なのにお兄さんすごくかっこいいねぇ!」

    「あ、あはは・・・、お礼とか言った方がいいのかな・・・?」

    幼女「ってあれ!?どうしたの?・・・どっか痛いの?」

    「どうして?」

    幼女「だって・・・お兄さん泣いてるよ?」

    894 = 787 :

    「えっ、・・・・・あは、は・・・本当だね」

    幼女「すっごい泣いてる!すっごい涙出てるよ!?すごく痛いの?」

    民幼女その男の頭を頑張って撫でようとする。

    「・・・・あ、はっ・・・・いや・・・っ、これは・・・そういう涙じゃ、ないんだ」

    幼女「・・・じゃあ痛くないのに泣いてるの?・・・ふふっ、おかしいねっ」

    「あはっ、は・・・・僕もこういう涙は生まれて初めてだよ」

    幼女「あれ?どっか行くの?」

    「うん、・・・ある魔族さんに会いに行くんだ」

    895 = 787 :


    ----ーーーーーーーーーーーーーーーーー魔王城

    側近「・・・魔王様、貴方様に会いたいという人間がいるのですが」

    魔王は忙しなく筆を動かしている。

    魔王「・・・む、悪いが今は忙しい、今日の所は帰るように伝えてくれ」

    側近「・・・忙しくても会う価値はあるかと」

    魔王「・・・・何かあったのか?」

    側近「そうですね・・・・、今までで最大の危機かもしれません」

    896 = 787 :

    魔王「何だと!?」

    魔王が慌てて椅子から立ち上がる。

    側近「今回の機会を逃せば魔王様は間違いなく大切な物を失うでしょう」

    魔王「・・・・そいつは何者なんだ」

    側近「さぁ、私では正体がわかりませんでした。ただ、貴方様にとって
      重要な意味を持っている事は確かです」

    側近「その人間はこの城の庭園にいます。いますぐお会いに行かれた方がよろしいかと」

    魔王「・・・わかった!」ダッ

    側近「・・・まだ気づかないなんて、世話が焼けるんだから」ニコ

    897 = 787 :

    そんな事があってたまるか。
    私が、私達がどれだけの犠牲を払ってここまで来たと思っている。
    私が止めてみせる、邪魔などさせん。

    魔王は毛皮のフードを被った人間を見つける。
    ・・・・あいつか。

    魔王「お前が側近のいっていた人間かッ!!!」ギロッ

    勇者「はっ、はいっ!?」ビクッ

    えっ、えええええええええええええええ!?
    なんか魔王すっごい怒ってるよ!?あれ?なんか想像してた再会と違う!!
    というか魔王の魔力凄い!殺気凄い!今の僕だと一瞬で消し炭だよ!?
    側近さん一体何言っちゃったのかなっ!?

    魔王「・・・お前はようやく手に入れた平穏を壊したいらしいな」

    勇者「えっ・・・、いやぁ・・・・そんな事するつも」

    魔王「はっきりと話さないか!!!」

    勇者「はいっ!すみませんっ!」ビシッ

    899 = 787 :

    どうしよう、すごく怖い。
    きっと殴られたら当たった部分どっか飛んで行っちゃうよ。

    魔王「・・・ん?なんかこの小物みたいな感じ・・・どこかで見たか?」

    もうせっかく会ったのに心がズタズタだよっ!?なんて言った瞬間、
    僕は粉々になっちゃうんだろうなぁ。

    勇者「・・・・はい、まぁ一応は」

    魔王「・・・・・んん!?その声・・・・、おい、ちょっと顔見せろ」

    魔王は勇者が被っていたフードを上げた。

    勇者「あは、は・・・・どうも、久しぶりだね魔王・・・」

    魔王「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

    900 = 787 :


    魔王「・・・悪ふざけにしては度がすぎるのではないか?」

    勇者「・・・・・え?」

    魔王「・・・勇者はもう死んだ、この世にはもういない。
      お前は何だ、変化の魔法でも使っているのか」

    魔王の声は震えている。

    勇者「・・・この首輪を見れば僕だってわかるかな」

    魔王「それは・・・・ッ!」

    勇者は魔王を抱きしめる。

    勇者「僕はちゃんと戻ってきたよ」


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