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男「そーいやさー」
友「んー?」
男「一番後ろの席ってずっと空いてんじゃん?」
友「あー、女さんな」
男「あ、女さんっていうのか。ずっと見ないけど」
友「クラス替えからこっち、ずっと不登校らしいぜ」
男「ふーん」
友「気になるのか?」
男「いや別に……」
友「んー?」
男「一番後ろの席ってずっと空いてんじゃん?」
友「あー、女さんな」
男「あ、女さんっていうのか。ずっと見ないけど」
友「クラス替えからこっち、ずっと不登校らしいぜ」
男「ふーん」
友「気になるのか?」
男「いや別に……」
男「ふー、今日も一日疲れたなっと」
乾いた音を立て下駄箱から落ちる桜色の封筒
友「ラブレターかぁ。男にもついに春到来かー?」
男「いきなり現れるな! あと、にやにやするな!」
友「ほー、しかし綺麗な封筒だな。和紙かね? こりゃ相当気合い入ってるぜ」
男「お前あたりの仕込みじゃねーの?」
友「独り身同士で空しい冗談やらねーって。ま、後で結果教えてくれよ」
男「……いやいや、まさかね」
乾いた音を立て下駄箱から落ちる桜色の封筒
友「ラブレターかぁ。男にもついに春到来かー?」
男「いきなり現れるな! あと、にやにやするな!」
友「ほー、しかし綺麗な封筒だな。和紙かね? こりゃ相当気合い入ってるぜ」
男「お前あたりの仕込みじゃねーの?」
友「独り身同士で空しい冗談やらねーって。ま、後で結果教えてくれよ」
男「……いやいや、まさかね」
桜色の封筒の中は、同じ桜色の便箋で
どこか几帳面そうな小さな字
『ずっと前から貴方のことが好きでした
明日放課後屋上で
きっとお返事待ってます
女』
男「女さん、ね……。
学校に来ない奴がどうやって手紙出すってんだ。
友の悪戯だな、こりゃ」
便箋を机に投げたとき、花の香りがかすかに漂った
どこか几帳面そうな小さな字
『ずっと前から貴方のことが好きでした
明日放課後屋上で
きっとお返事待ってます
女』
男「女さん、ね……。
学校に来ない奴がどうやって手紙出すってんだ。
友の悪戯だな、こりゃ」
便箋を机に投げたとき、花の香りがかすかに漂った
男「なんだかんだ言って屋上に来るって、俺もお人好しだなあ」
夕焼けに染まる屋上は、冷たい風が吹いていて
男「誰もいねえじゃん。やっぱ悪戯か」
諦めて帰ろうとした時に、ふと何かの気配を感じ
男「……気のせいか」
はかない花の香りとともに、一陣の暖かな風が吹く
夕焼けに染まる屋上は、冷たい風が吹いていて
男「誰もいねえじゃん。やっぱ悪戯か」
諦めて帰ろうとした時に、ふと何かの気配を感じ
男「……気のせいか」
はかない花の香りとともに、一陣の暖かな風が吹く
友「だから知らねって」
男「女友あたりに手紙書いて貰っただろ」
友「あいつはそんなに綺麗な字書けねーよ……あ、嘘ですごめんなさいすいません」
じゃれる友と女友に苦笑して
男「……ん?」
机を探る手にこつんと当たった軽い違和感
花色和紙の小さな封筒
男「女友あたりに手紙書いて貰っただろ」
友「あいつはそんなに綺麗な字書けねーよ……あ、嘘ですごめんなさいすいません」
じゃれる友と女友に苦笑して
男「……ん?」
机を探る手にこつんと当たった軽い違和感
花色和紙の小さな封筒
花色の封筒の中は花色の便箋
小さな字は少し震えていて
『いらしてくださってありがとうございます
ふつつか者ではありますが
末永くよろしくお願いいたします
女』
友「こりゃマジっぽいすなー」
女友「男君やるねえ」
男「いやいや君らの悪戯だろ、これ」
友「だから知らねって」
女友「女の子の純情踏みにじっちゃだめよー」
男「俺の純情はどうなる」
どこかで誰かが笑った気がして
振り向いた男の鼻を、花の香りがくすぐった
小さな字は少し震えていて
『いらしてくださってありがとうございます
ふつつか者ではありますが
末永くよろしくお願いいたします
女』
友「こりゃマジっぽいすなー」
女友「男君やるねえ」
男「いやいや君らの悪戯だろ、これ」
友「だから知らねって」
女友「女の子の純情踏みにじっちゃだめよー」
男「俺の純情はどうなる」
どこかで誰かが笑った気がして
振り向いた男の鼻を、花の香りがくすぐった
男の机の上に若草色の風呂敷包み
開けると中からは漆塗りの弁当箱
男「いつの間に……」
友「こんなもん置かれて気づかないってありえんわ。授業中寝てたな」
男「うるせって、そういうならお前は見たのか」
友「いや、気がついたら置いてあったな」
男「……なんだそれ」
友「ん、でもこの卵焼きうめー」
無遠慮な友の手を軽くはたいて箸を付ける
男「これは……こんなうまい飯は初めて食ったな」
友「へえへえ羨ましいこって」
風呂敷の端をそっと嗅ぐと、かすかに甘い花の香り
開けると中からは漆塗りの弁当箱
男「いつの間に……」
友「こんなもん置かれて気づかないってありえんわ。授業中寝てたな」
男「うるせって、そういうならお前は見たのか」
友「いや、気がついたら置いてあったな」
男「……なんだそれ」
友「ん、でもこの卵焼きうめー」
無遠慮な友の手を軽くはたいて箸を付ける
男「これは……こんなうまい飯は初めて食ったな」
友「へえへえ羨ましいこって」
風呂敷の端をそっと嗅ぐと、かすかに甘い花の香り
男「なんだってんだ、一体……」
自宅に戻って悩む男
男「あ、弁当箱洗わないとな……あれ?」
鞄に入れた弁当箱は姿を見せず
代わりにあるのは藤色の封筒
藤色の便箋に踊るのは最早見慣れた小さな字
『勝手な真似をしてすみません
ご迷惑とお思いでなければ
明日からも作らせて頂いていいですか
女』
男「あんだけうまかったら文句言えないけど、な……」
鞄にこもる花の香りは風呂敷包みの残り香か
自宅に戻って悩む男
男「あ、弁当箱洗わないとな……あれ?」
鞄に入れた弁当箱は姿を見せず
代わりにあるのは藤色の封筒
藤色の便箋に踊るのは最早見慣れた小さな字
『勝手な真似をしてすみません
ご迷惑とお思いでなければ
明日からも作らせて頂いていいですか
女』
男「あんだけうまかったら文句言えないけど、な……」
鞄にこもる花の香りは風呂敷包みの残り香か
友「いや人間異常事態にも慣れるもんですな」
女友「一月も続けばねー……あ、この筍もおいしい」
男「お前ら、人の弁当に手をつけながら言いたい放題だな」
友「で、結局女さんとは会えたのか」
男「一度も見てない……どんな奴なんだろうな」
女友「いや、周りにも聞いてみたけどさー、彼女学外編入組らしくって、知り合いもいないみたいね」
友「前の学年で同じクラスの奴も覚えて無いって言うし」
男「なんだそりゃ」
友「幻の女?」
女友「女はミステリアスなほど美しいってね」
男「そういうレベルの問題か?」
男の元に残るのは、花の香りとともに届く小さな封筒の束
女友「一月も続けばねー……あ、この筍もおいしい」
男「お前ら、人の弁当に手をつけながら言いたい放題だな」
友「で、結局女さんとは会えたのか」
男「一度も見てない……どんな奴なんだろうな」
女友「いや、周りにも聞いてみたけどさー、彼女学外編入組らしくって、知り合いもいないみたいね」
友「前の学年で同じクラスの奴も覚えて無いって言うし」
男「なんだそりゃ」
友「幻の女?」
女友「女はミステリアスなほど美しいってね」
男「そういうレベルの問題か?」
男の元に残るのは、花の香りとともに届く小さな封筒の束
先生「残念ながら教えられん」
友「そこをなんとか」
先生「色々世間がうるさいんだよ、察してくれ」
友「住所を突き止めればなんかわかるかと思ったが……」
男「ありがとう、でもなんか安心したわ」
友「安心?」
男「なんか、知ってしまったら今の状態が壊れるってかな」
友「いやいやいや、さすがにこのままってわけにもいかんだろう」
男「会いたきゃあっちから来るんじゃないかな、なんて」
友「……お前がそれでいいならいいが」
男「すまん」
友「気にすんな」
友「そこをなんとか」
先生「色々世間がうるさいんだよ、察してくれ」
友「住所を突き止めればなんかわかるかと思ったが……」
男「ありがとう、でもなんか安心したわ」
友「安心?」
男「なんか、知ってしまったら今の状態が壊れるってかな」
友「いやいやいや、さすがにこのままってわけにもいかんだろう」
男「会いたきゃあっちから来るんじゃないかな、なんて」
友「……お前がそれでいいならいいが」
男「すまん」
友「気にすんな」
その日いつもと違っていたのは
薄紅色の封筒の中身
『今度の日曜の朝10時
よろしければご一緒下さい
女』
花の香りの手紙とともに入っていたのは
遊園地の切符
男「デート、なのかな……」
友「いよいよご対面、てか?」
女友「失礼のない格好して行きなさいよ」
薄紅色の封筒の中身
『今度の日曜の朝10時
よろしければご一緒下さい
女』
花の香りの手紙とともに入っていたのは
遊園地の切符
男「デート、なのかな……」
友「いよいよご対面、てか?」
女友「失礼のない格好して行きなさいよ」
>>22
半年ROMってろ
半年ROMってろ
男「案の定、というかなあ……」
午前10時はとうに過ぎ、それでも女は現れず
男「チケットもったいないし、一人で回るか」
ご丁寧にも悪友が作ったコースを一瞥し
男「さてお嬢様、ご一緒に巡りましょうか」
冗談めかしてそこにいない女に右手を差し伸べる
午前10時はとうに過ぎ、それでも女は現れず
男「チケットもったいないし、一人で回るか」
ご丁寧にも悪友が作ったコースを一瞥し
男「さてお嬢様、ご一緒に巡りましょうか」
冗談めかしてそこにいない女に右手を差し伸べる
デートコースをただ一人、空しく巡ったしめとして
男「さすがにこれ一人はきついわ」
夕焼けに映える観覧車
係員「お客さん、着きましたよ」
声をかけられ目覚めて見れば
男「ありゃ、いつの間にか寝ていたのか……」
ふと気づくのは室内にたちこめる花の香りと
男「もう驚かないけどな」
向かいの席に忘れ去られた、茜色の小さな封筒
男「さすがにこれ一人はきついわ」
夕焼けに映える観覧車
係員「お客さん、着きましたよ」
声をかけられ目覚めて見れば
男「ありゃ、いつの間にか寝ていたのか……」
ふと気づくのは室内にたちこめる花の香りと
男「もう驚かないけどな」
向かいの席に忘れ去られた、茜色の小さな封筒
『今日はありがとうございました
また今度ご一緒させて頂けたら幸いです
女』
男「一緒に回ったわけでも……ないよな?」
観覧車での夢の中、かすかな記憶に残るのは
?「お慕いして……おります……」
震える古風な告白と、頬に触れた柔らかな……
また今度ご一緒させて頂けたら幸いです
女』
男「一緒に回ったわけでも……ないよな?」
観覧車での夢の中、かすかな記憶に残るのは
?「お慕いして……おります……」
震える古風な告白と、頬に触れた柔らかな……
友「で、結局会えなかったのかよ」
男「会えなかったというか……」
友「せっかく俺が苦心してデートコースを設定してやったのに」
男「おう、一応感謝する。あの通りに一周してきたぜ」
友「アホか……って、なんか悩んでねえか?」
男「ああ、いや……あの声、どこかで……」
友「声?」
男「なんでもねーよ」
そう、きっとなんでもないこと。思い出とも言えない些細な記憶
それは花の香りとともに……
男「会えなかったというか……」
友「せっかく俺が苦心してデートコースを設定してやったのに」
男「おう、一応感謝する。あの通りに一周してきたぜ」
友「アホか……って、なんか悩んでねえか?」
男「ああ、いや……あの声、どこかで……」
友「声?」
男「なんでもねーよ」
そう、きっとなんでもないこと。思い出とも言えない些細な記憶
それは花の香りとともに……
いつからでしょうか、私の心が壊れ始めたのは
両親に追い出されるようにこの町にやってきたときから?
この家が、祖父が妾にあてがった物だったと知ってから?
あるいは、ずっとずっと前からだったのかも知れません
両親に追い出されるようにこの町にやってきたときから?
この家が、祖父が妾にあてがった物だったと知ってから?
あるいは、ずっとずっと前からだったのかも知れません
周囲から見れば私は暗い少女だったのでしょう
別の町から入学してきた私には友達が出来ませんでした
いえ、生まれた町にさえ、友達と呼べる人はいなかったような気がします
教室の中、私は一人で
何をするでもなくただ一人で
机に向かっておりました
別の町から入学してきた私には友達が出来ませんでした
いえ、生まれた町にさえ、友達と呼べる人はいなかったような気がします
教室の中、私は一人で
何をするでもなくただ一人で
机に向かっておりました
それは学校からの帰り道
私は訳もなく立ちすくんでしまいました
私がここにいる意味は何だろう
そう考えてしまったとき
私など、いてもいなくても何も変わらない
そう気づいてしまったとき
誰もいない、誰も近寄らない家に
一人で帰るのが怖くなってしまったのです
私は訳もなく立ちすくんでしまいました
私がここにいる意味は何だろう
そう考えてしまったとき
私など、いてもいなくても何も変わらない
そう気づいてしまったとき
誰もいない、誰も近寄らない家に
一人で帰るのが怖くなってしまったのです
男「大丈夫?」
優しく声をかけてくれたのは、貴方
道に迷ったと思われたのでしょうか
私の手を、少し恥ずかしそうに引いて
家までの道を連れて行ってくださいました
優しく声をかけてくれたのは、貴方
道に迷ったと思われたのでしょうか
私の手を、少し恥ずかしそうに引いて
家までの道を連れて行ってくださいました
男「なんていうか、風流な家だね」
貴方の言葉一つで
ただ閑散と寂しいだけだった家が
何か誇らしげな物に変わったような
そんな気がしたのです
ここにいてもいいと
教えて貰ったように感じたのです
貴方の言葉一つで
ただ閑散と寂しいだけだった家が
何か誇らしげな物に変わったような
そんな気がしたのです
ここにいてもいいと
教えて貰ったように感じたのです
女「ありがとう……ございます」
やっと紡いだ言の葉は
道案内よりも
もっと大事な何かのお礼でした
やっと紡いだ言の葉は
道案内よりも
もっと大事な何かのお礼でした
貴方にとっては些細な思い出
ほんの半刻にも満たないわずかな間
それでも私にとっては
これまでの人生でもっとも素敵な思い出でした
ほんの半刻にも満たないわずかな間
それでも私にとっては
これまでの人生でもっとも素敵な思い出でした
私の体と心はままならず
通学は愚か
家から出られない日々が増えていきました
数少ない貴方を見つめるその度に
貴方は友達と楽しげに笑いあっていました
通学は愚か
家から出られない日々が増えていきました
数少ない貴方を見つめるその度に
貴方は友達と楽しげに笑いあっていました
私は思い描きます
貴方の笑うその傍らで
お友達と一緒に微笑む私の姿を
そっと差し出す私のお弁当を
貴方がおいしいと笑ってくださるのを
貴方の笑うその傍らで
お友達と一緒に微笑む私の姿を
そっと差し出す私のお弁当を
貴方がおいしいと笑ってくださるのを
私は思い描きます
貴方と逢瀬を重ねるのを
夕焼けのさす観覧車で
優しく口づけを交わす二人を
貴方と逢瀬を重ねるのを
夕焼けのさす観覧車で
優しく口づけを交わす二人を
現実の私はこんなにも臆病で
貴方はきっと私には気づかない
庭の花々を眺めては
思い描く幸せな日々は儚い夢
貴方はきっと私には気づかない
庭の花々を眺めては
思い描く幸せな日々は儚い夢
戸を叩く音がします
誰も訪れるはずのないこの家に
どんな用があるのでしょう
私は重い体を引きずるように
戸口に確かめに参ります
誰も訪れるはずのないこの家に
どんな用があるのでしょう
私は重い体を引きずるように
戸口に確かめに参ります
友「いやしかし、女さんは料理上手だねえ」
男「だから人の物を勝手に食うなと」
女「大丈夫ですよ、皆さんの分もございます」
女友「女ちゃんはいいこだっ! んー、このきんぴらがまた絶品」
友「女友も女さんの爪の垢でも飲ませてもら……って、痛い痛い!」
女友に締め上げられる友を見て
くすくすと笑う女
どこか安心したように、女を見守る男
fin
男「だから人の物を勝手に食うなと」
女「大丈夫ですよ、皆さんの分もございます」
女友「女ちゃんはいいこだっ! んー、このきんぴらがまた絶品」
友「女友も女さんの爪の垢でも飲ませてもら……って、痛い痛い!」
女友に締め上げられる友を見て
くすくすと笑う女
どこか安心したように、女を見守る男
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