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    元スレ勇者「ニートになりたい」

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    51 : ◆7Ub330 - 2018/01/10(水) 21:46:57.90 ID:WsvInrNpO (+25,+30,+0)
    【浴場 男湯】

    老人「まったく、なんというやつじゃ!」

    店員「どうしてくれるんだ! うちの酒場で飲み食いした分!」

    村娘「勇者様じゃなかったなんてぇ~。あ~ん、もうお嫁にいけなぁ~い」

    勇者「」ドサッ

    店主「とんでもない詐欺師だよ! 明日の朝一番で役所に突き出さないと!」

    戦士「おおーい、女将」

    店主「あら、あんた達も来たのかい」

    魔法使い「もう一人いなかった?」

    店主「あぁ、気絶してるよ」

    僧侶「気絶? なにがあったんでしょお?」

    老人「あちらの若者にはすまんことをした」

    戦士「ははーん、剣を振ったら巻き添えくらったと」

    老人「脱衣所で偶然見つけてのぉ。これまた、たまたま振った先の直線上に二人がおったらしい」

    魔法使い「運のないやつ……」

    僧侶「回復魔法使えますのでぇ、もう一人のお方はどちらに?」

    店主「そっち。裸だからタオル被せておいたけど」

    僧侶「あっ」トテトテ

    勇者「う、うぅーん。嫌や。ヒジキは嫌いなんや。うーん」

    戦士「どんな夢見てんだ」

    魔法使い「気絶っていうか、ただ寝てるだけなんじゃないの」

    僧侶「お目覚めください、勇者様」ボソ ポワァ

    勇者「……あ、あれ? ここは?」

    戦士「更衣室だ」

    勇者「きゃあ! なによあんた達!」ガバッ

    戦士「男のくせに気色悪い声だすな」

    魔法使い「そんだけ悪ふざけできれば心配なさそーね」

    勇者「うー、いてて。さっきのはちょっとだけ痛かった」ムク

    戦士「古より伝わる秘宝剣。稲妻のつるぎ。話には聞いていたが、はじめてお目にかかる。爆弾岩といい死んでないとはたいしたものだ」

    勇者「(ニセモノが倒れた後で、直撃してなくてよかったな。あいつだったらたぶん死んでた)」

    魔法使い「あの剣も王様に献上するのかしら」

    戦士「おそらく。野放しにするには、あまりに危険だ」

    僧侶「旅のお方も鍛えてらっしゃるんですねぇ」

    勇者「男だからって見ていいもんではないぞ」

    魔法使い「……ねぇ、お尻、見せてくれない?」

    勇者「断る」

    戦士「いやな? まさかとは思うが、確認は必要だろう?」

    勇者「なぜ近寄る」

    魔法使い「痛くしないから」ジリ ジリ

    勇者「嫌だと言ってるだろうが」

    52 : ◆7Ub330 - 2018/01/10(水) 22:13:11.12 ID:WsvInrNpO (+60,+30,+0)
    魔法使い「戦士、抑えて」

    勇者「ちょ」

    戦士「ほいきた」ガシ

    勇者「おい、これ男女逆だったらえらい場面だぞ」

    魔法使い「お尻ぐらいいでしょ」

    勇者「なんだ? お前なら見られてもいいってのか?」

    魔法使い「私はだめ。男と女とじゃ価値が違うもの」

    勇者「……なんだかなぁ」

    戦士「ほれ、タオルとっちまえ」

    勇者「(よく考えたらこれってピンチ?)」

    魔法使い「わ、私がとるの? 戦士がとってよ」

    戦士「な、なんであたしが。タオルとって見えたら困るじゃないか」

    勇者「……おや?」

    魔法使い「だ、だから、私だって見たくないもん」

    勇者「なんだなんだ? まさか、俺のツルギを見るんじゃないかと臆してらっしゃる?」

    魔法使い「つ、ツルギって」

    勇者「おんやぁ~? 想像しちゃったのかな?」

    戦士「……」

    勇者「戦士さんもどうなされたので? 顔が赤いようですが?」

    魔法使い「あ、あんたが自分でとってよ」

    勇者「嫌に決まっとるやろがい」

    魔法使い「う、うぅ~~」プルプル

    勇者「な? もう諦めろって。俺のケツなんかなんにもねぇし」

    僧侶「えいっ」パサ

    勇者&戦士&魔法使い「あっ」

    僧侶「私だけ知ってるっていうのもどうかと思いましてぇ~」

    勇者「な、なんてことしやがる!」

    魔法使い「き、汚いものはやくしまいなさいよ!」

    戦士「……これが、オトコの……」ゴクリ

    僧侶「おっき、顔に似合わず」

    勇者「ち、ちくしょ」アタフタ クルッ

    戦士「あ、聖痕」

    魔法使い「あ、ほんとだ」

    僧侶「……」ニコニコ

    勇者「し、しまったぁあああぁああ~~っ!!」
    53 : ◆7Ub330 - 2018/01/10(水) 22:32:28.05 ID:WsvInrNpO (+60,+30,+0)
    魔法使い「や、やっぱり、あんたが勇者?」

    戦士「う、うーむ。異常なタフネスさを考えると、いや、しかし」

    勇者「……」ガックシ

    僧侶「勇者様、ファイトォ♪」

    魔法使い「というか、僧侶! あんたやっぱり知ってたのね⁉︎」

    僧侶「気がつかない方が悪いんですよぉ」

    戦士「本物、なのか? 今度こそ」

    勇者「はは、あはは」

    魔法使い「あっちのニセモノも大概だったけど、コレよ? 抜け殻みたいなやつが?」

    僧侶「正真正銘の勇者様です。お疑いであれば、あなた方の目が曇っているということ」

    戦士「あたしの、目が、ねぇ」

    魔法使い「……」

    僧侶「改めてご挨拶させていただきます。ダーマ神殿より、遣わされました。勇者様とご一緒してお力添えになるようにと」フワッ

    戦士「お、おい。僧侶」

    魔法使い「本物、みたいね。間違いなく」

    勇者「……」

    魔法使い「勇者様、私は──」

    勇者「いい」

    魔法使い「えっ」

    勇者「これまでと同じでいいんだ。俺はみんなと変わらない」

    戦士「し、しかし。本物であれば」

    勇者「態度を変えるのは失礼な時もある。今がその時ってだけ、俺に対してはな」

    魔法使い「そう、お望みであれば」

    勇者「あぁー、ったく」ポリポリ

    店主「あんた達、ちょっとこっち手伝っておくれ。こいつを運ばないと」

    勇者「了解! 服着るからまっててくれ!」

    戦士「力仕事なら、あたしが」

    勇者「いいんだ、テキトーにやらせてくれよ。頼む」

    戦士「……」

    勇者「よーし! すぐ着るから!」

    魔法使い「……ねぇ、僧侶」

    僧侶「はい?」

    魔法使い「勇者ってイメージと違うのね」

    僧侶「ええ、そうですね。伝説というおとぎ話の中だけじゃない、現実になると」

    戦士「等身大の、若者か」

    店員「この! ニセモノめ! 吐け! 食ったもの吐きだせ!」

    店主「吐いたところでどーにもならいでしょーが! 足の方持ちな!」
    54 : ◆7Ub330 - 2018/01/10(水) 22:36:24.56 ID:WsvInrNpO (+54,+29,-32)
    こうして、隠していた身分がバレた勇者。

    彼のニートになる旅はまだまだはじまったばかり。
    旅は続くが、これにておしまい。

    ちゃんちゃん
    55 : ◆7Ub330 - 2018/01/10(水) 22:41:11.81 ID:WsvInrNpO (+60,+30,-87)
    これにて、一応の終劇ということで。
    本当ならもっと続ける予定だったんですが、途中の闖入者もありやる気を削がれました。
    読んでいただいた方はありがとうございました。

    続きはいつか書くかもしれません。では。
    56 : 以下、名無しにか - 2018/01/10(水) 22:51:55.95 ID:ktQIVlIA0 (+19,+29,-7)
    はっはっはっ、冗談はいいから続きはよ
    57 : 以下、名無しにか - 2018/01/10(水) 23:03:45.97 ID:qENg3Q/o0 (+21,+28,-10)
    え?終わり?うそ?
    58 : 以下、名無しにか - 2018/01/10(水) 23:09:15.50 ID:rO+ikoNC0 (+24,+29,-10)
    来週になれば少しは落ち着くでしょ
    今週いっぱいまで休みの奴は休みだし
    59 : 以下、名無しにか - 2018/01/10(水) 23:32:41.99 ID:n3wmM2bi0 (+24,+29,-19)
    まてまて、これから!って時に終わらないでおくれよー。
    60 : ◆7Ub330 - 2018/01/10(水) 23:45:51.86 ID:+9hGxwNCO (+24,+29,-24)
    わかりました。
    とりあえずもう少しだけ続けます。今日は投稿ありません。
    これでプロローグ部分が完ということにしておきます。
    62 : 以下、名無しにか - 2018/01/11(木) 06:39:11.66 ID:J40G+9OsO (+24,+29,-13)
    今のところ全然面白くないし登場人物全員ウザいけどスレタイの文には期待してるからな
    63 : 以下、名無しにか - 2018/01/11(木) 06:42:35.22 ID:Ryu0pkuFO (+35,+29,-8)
    >>7
    この人のssが見たいこっちの展開や書き方も上手
    64 : 以下、名無しにか - 2018/01/11(木) 07:07:25.31 ID:GReh7blF0 (+18,+28,-6)
    ありがとう!続き期待してるよ!
    65 : 以下、名無しにか - 2018/01/11(木) 07:44:00.79 ID:zKiaxupQ0 (+32,+29,-17)
    >>63
    ひらがな多いし小学生とか中学生が書いたやつじゃね
    66 : ◆7Ub330 - 2018/01/11(木) 10:32:38.37 ID:/prJW+7dO (+30,+30,+0)
    【翌日 早朝 宿屋 食堂】

    勇者「ごほん」

    戦士&魔法使い&僧侶「……」ジィー

    勇者「あの、むず痒いからそんなに見つめないでくれない?」

    僧侶「話す時は人の目を見て話すものなのでぇ~」

    戦士「シャイボーイか」

    魔法使い「童貞なんじゃない?」

    勇者「言い返せないのが悔しい!」

    戦士「なんだ、チェリーの方か」

    勇者「……」プルプル

    魔法使い「モテそうには見えないもの」

    勇者「……はぁ、いいよ、もう。それで、今後の方針だが」

    僧侶「勇者様とご一緒であればどこへでもぉ」

    魔法使い「あ、あたし、別に、ただ、まぁあんたが勇者なら」

    戦士「一緒に行けば強いモンスターと戦えるんだろ?」

    勇者「自分の欲望に忠実か!」バンッ

    僧侶「私たちから質問よろしいですかぁ?」

    勇者「……なに?」

    魔法使い「なんで、隠してたの? 勇者だって」

    戦士「あたしらにだけじゃない。このまま隠し通せるかどうかは別として理由がわからない。ダーマが目的地というのも」

    勇者「(遊び人になりたいのは本当! 隠してたのは面倒になりたくなかったらだよ! ……とは言え、正直に言うとヒンシュクを買いそうだな)」

    魔法使い「もしかして、魔王軍からも隠すため?」

    勇者「へ?」

    僧侶「私もそれは考えましたぁ。勇者の所在がわかれば、近隣に被害が及ぶ恐れがありますもんねぇ」

    戦士「……どうなんだ?」

    勇者「あ、ああ! そうそう! その通り!」

    魔法使い「……」ジトォー

    勇者「俺のせいでまわりに被害なんてことになったらいかんですよ!」

    戦士「……」ジトォー

    勇者「い、いかんと思うのです、はぃ」

    僧侶「くすくす。どちらにせよ、ダーマは魔王城に行く道の通過点上にあります~」

    勇者「ご、ごほん。パーティの件なんだが、希望するなら組むのはいいよ。上から目線で申し訳ないけど」

    魔法使い「ほ、ほんとうっ⁉︎」ガタッ

    勇者「ただし、条件がある。特に戦士」

    戦士「む?」

    勇者「無闇な殺生は禁止だ」

    魔法使い「は、はぁっ⁉︎」

    勇者「あくまで、正当防衛。鍛錬をしたいのなら半殺しまでにしとけ。喧嘩止まりのな」
    67 : ◆7Ub330 - 2018/01/11(木) 10:33:28.12 ID:/prJW+7dO (+60,+30,+0)
    戦士「しかし、それではレベルアップが」

    勇者「経験値は殺さなくても手にはいる。気絶させりゃいい」

    僧侶「そうなんですかぁ?」

    勇者「勇者がモンスターを殺した! なんて物騒だろ。まぁ、そこはお察しくださいな部分でもあるが、逆に大雑把な解釈だからこそ、こういう見方もできる」

    魔法使い「私達に重要なのは、個々のレベルアップよ。旅を続けていく限り、避けては通れない」

    勇者「だから、レベルアップさえできりゃ問題ない。だろ? 無力化でちゃんと手にはいるよ。“ここはそういうもんだ”と思ってくれりゃいい」

    戦士「それなら、まぁ」

    魔法使い「なんで、なんでそんなにモンスターに情けをかけようとすんの? あいつらは敵なのよ。こっちが命乞いしても聞く耳もたないような」

    勇者「俺は神職じゃない。志てるつもりもない。だけど、嫌なんだよ」

    僧侶「……かしこまりましたぁ」

    魔法使い「僧侶っ!」バンッ

    僧侶「私達がパーティを希望している身。ならば、条件を呑むのは当然かとぉ~」

    魔法使い「う、そ、それは」

    僧侶「それに、戦うな、とは申しておりませんしぃ。正当防衛なら、殺されそうになったらヤッちってもいいんですよねぇ~?」

    勇者「しゃーないよ、そうなったら」

    戦士「ふむ。あえての鍛錬か。良いかもしれんな」

    魔法使い「戦士も!」

    戦士「そうカッカするな。どうやら勇者様とやらはこういう人間のようだ」

    勇者「……魔法使いはどうする?」

    魔法使い「~~~~ッ! わかったわよ!」プイ
    68 : ◆7Ub330 - 2018/01/11(木) 10:51:26.03 ID:/prJW+7dO (+60,+30,+0)
    僧侶「あ、でもちょっと待ってください~」

    勇者「ん?」

    僧侶「レベルアップの件については了承いたしましたぁ~。でも、資金調達はどうなさるおつもりでぇ?」

    戦士「おっ、そうだった。魔物の皮やツノを売らなければ旅が苦しくなるぞ」

    勇者「あ……」

    魔法使い「その顔は、考えてなかったって感じね」

    勇者「やべ、どうしよう」

    僧侶「みなさんいくらもってますかぁ?」

    戦士「あたしは300ゴールドほど」

    魔法使い「少なっ! 私は1000ゴールド」

    戦士「おっ、結構持ってるな」

    魔法使い「当たり前でしょ。あんたが少なすぎるのよ」

    僧侶「私も魔法使いさんと同じぐらいですぅ~」

    魔法使い「まぁ、当面はなんとかなるか。でも、装備もあるし……勇者は? 王様からがっぽり支給されてるんでしょ?」

    勇者「……」

    戦士「いくらだ? 荷物は軽そうだが」

    勇者「……ゴールド」

    僧侶「すみません~いま、なんとぉ?」

    勇者「は、はちじゅう、ゴールド」

    戦士&僧侶&魔法使い「……」ポカーン

    魔法「……き、聞き間違いよねぇ? 勇者がまさか、そんな貧乏なはず」

    勇者「う、うぅ」

    戦士「ほ、本気なのか?」

    僧侶「これは、困ってしまいましたねぇ~」

    魔法使い「このっ! 貧乏勇者! 甲斐性なし!」ゲシゲシ

    勇者「や、やめちくりぃ~。蹴らんどいてくりぃ~」

    魔法使い「はぁっ、はぁっ、ヒモ男かあんたはっ!!」ゲシゲシ

    勇者「ず、ずびません~」

    僧侶「殺生が禁止となるとぉ、戦利品も望めませんしぃ」
    69 : ◆7Ub330 - 2018/01/11(木) 11:19:37.81 ID:/prJW+7dO (+60,+30,+0)
    魔法使い「王様ならなにも貰ってないの⁉︎」

    勇者「それは、色々(ただ慌てて出ただけ)とありまして」

    魔法使い「はぁ……どうすんのよ、勇者様」

    勇者「……ギャンブルとか、どu」

    魔法使い「無一文になるつもりか!」スパーン

    戦士「生計の為ならば生を奪う、致し方ないだろう。我々だって、肉を食らう。菜食主義者ではないよな?」

    勇者「あー、うん、それはその通り」

    戦士「やれやれ……ブレブレのような気がするが、関係のない殺生はしないという解釈でいいか?」

    勇者「ははーっ」ドゲザ

    僧侶「決まりですねぇ~」

    魔法使い「……こ、こんなのが、勇者。私は認めない! 絶対に認めないんだからぁっ!!」

    店主「ちょっとちょっと、朝っぱらから騒がしいねぇ」

    勇者「あ、おばちゃん。おはよ」

    店主「ほい、おはよーさん。まっとくれ、今トーストを準備するから」

    僧侶「昨日のニセモノさんはどうなったんですかぁ?」

    店主「若い衆に頼んで隣町の役所に連れてってもらったよ。連れてく最中もうるさくてねぇ」

    戦士「まだ自分が勇者だと?」

    店主「いいや、その逆さ。“ホンモノがいる! あのお方に会わせてくれ!”だと。まだホラふくなんて笑っちまったよ」

    魔法使い「ふーん」ジトー

    勇者「う、うぅ」シュン

    店主「村の連中以外はあんた達しかいないってのに。そっちのお兄ちゃんが勇者なのかい?」

    勇者「いや、俺は」

    店主「だぁーっはっはっ! そんなわけないよねぇ!」

    勇者「(なんだろう、そう見えないっていうのも悲しい)」

    店主「ま、牢屋にぶちこまれれば大人しくなるだろ」
    70 : ◆7Ub330 - 2018/01/11(木) 12:24:17.83 ID:/prJW+7dO (+55,+30,+0)
    【魔王城付近 沼地】

    魔王「のぅ、サキュバスよ」

    サキュバス「ははっ、ここに」

    魔王「幾百年といがみ合う種族の争い。お前は人間達との戦いになにを見る」

    サキュバス「群れを主体とする脆弱な生き物。しかし、時にひどい残虐性、憎悪。危険極まりない存在かと」

    魔王「ふっ、向こうも我等をそう思っておろうな」

    サキュバス「然りにございます。あちらもこちらを悪の象徴と見ているでしょう。決して相入れない、平行線上にいますゆえ」

    魔王「……幾千年、繰り返したことか」

    サキュバス「ご心中お察しいたします」

    魔王「我等は、負けるぞ」

    サキュバス「……」

    魔王「なにも今すぐという話ではない。内に内にと向いている近親婚のお陰で、個々の血が強まるどころか、衰退している」

    サキュバス「それは、魔族繁栄の為、先代様の方針で」

    魔王「その結果がご覧の有様だ。巨人王オーガの身体つきを見よ。背丈が代を変わるごとに小さくなっておるでないか。他の種族も……」

    サキュバス「……」

    魔王「強い種を産むには、交配が不可欠だ。だが、種族間のプライドが邪魔をする」

    サキュバス「我々が、負けるなどと。おやめください。群れが主体の脆弱な生き物に敗北しようがありません」

    魔王「だからだよ、その驕りに負けるのだ」

    サキュバス「我が王よ……」

    魔王「率いるとは、調整を余儀なくされる。お主も種を代表する者であれば、我が苦心がわかるであろう」

    サキュバス「そ、それは……」

    魔王「だが、まだ諦めているわけではない。女神の申し子たる勇者の行方さえ掴めれば、友好などという仮初めの芽を潰せる」

    サキュバス「……!」

    魔王「どこにおるのやら」

    サキュバス「大魔王様の苦心、わたくしも種を束ねる者として充分にご理解できました。勇者捜索はおまかせを」

    魔王「なにを……18年も見つけられないでおいて」

    サキュバス「必ずや挽回してみせましょう。我が誇りにかけて」

    魔王「信じて、よいのだな……?」

    サキュバス「必ずや……! 四天王がひとり、淫夢王の名にかけて!」ザッ

    魔王「……頼んだぞ、我が友よ」

    サキュバス「はっ!」ビシッ
    71 : ◆7Ub330 - 2018/01/11(木) 13:03:02.21 ID:/prJW+7dO (+60,+30,+0)
    【アルデンテの村 近郊 森林】

    勇者「ああ、そよ風が気持ちいい。あの雲のように俺も漂えたら」

    魔法使い「邪魔」ドンッ

    勇者「人間の扱いして⁉︎」ドサッ

    魔法使い「うー、なんでこんな獣道通んなきゃいけないのよぉ~」

    戦士「しかたない、だろっと。あそこに見える山を越えなきゃならない」

    僧侶「遅いですよぉ~」フリフリ

    魔法使い「なんでこんな歩きにくい場所で元気なのよ、僧侶」

    戦士「ダーマから来たのなら、ここを通ってるんじゃないか?」

    魔法使い「陸路を? 魔法職ひとりで? ……怪しい」

    戦士「魔法使いはどうやってアイーダの酒場へ?」

    魔法使い「城のすぐ近くに波止場があるもの。船に乗って来ただけ」

    戦士「ということは、別大陸出身か」

    魔法使い「大陸というか、島国よ」

    戦士「ほう」

    僧侶「勇者さまぁ~。はやくはやくぅ~」フリフリ

    勇者「はいはい」

    戦士「足元に気をつけろよ」

    勇者「俺を舐めんなよ? ワンパクっぷりは近所でも呆れられてたんだから」

    魔法使い「……私は今呆れてる」

    勇者「ほっ、よっと」パキッ カチ

    戦士&魔法使い「……ん?」クル

    勇者「ん? どした? 俺の顔になんかついてるか?」

    戦士「いや、なんか、枝じゃない音がしなかったか?」

    魔法使い「なにかのスイッチを押したような」

    勇者「気のせいだろ。……びびってんのか?」

    戦士「それなら、いいのだが」

    勇者「まったく~。今からそんなんじゃこれから先が思いやられるぜ」

    魔法使い「ムカつく。メラ」ボッ

    勇者「ほっ! はっはーっ! チッチッチ、甘い甘いー」ヒョイ カチリ

    戦士「おい、今のはっきり聞こえたぞ。カチリって」

    勇者「やーいやーい! 魔法使いのノーコン!」

    魔法使い「……」プルプル

    勇者「ざまぁwww ……あ?」ガコン

    戦士&魔法使い「あっ」

    勇者「うそぉおおおおっ! なんでこんなところに落とし穴がああぁぁぁぁっ」ヒューー
    72 : ◆7Ub330 - 2018/01/11(木) 13:21:59.35 ID:/prJW+7dO (+60,+30,+0)
    【??? 洞窟】

    勇者「おー、いつつ」ナデナデ

    戦士「おぉぉ~い! 大丈夫かぁぁぁ~⁉︎」

    勇者「大丈夫! ケツが二つに割れただけで済んだ!」

    魔法使い「元からでしょ!」

    勇者「……結構落ちたな、しかし、なんにも見えねぇ」キョロキョロ

    僧侶「どうしたらいいですかぁぁぁ~?」

    勇者「魔法使い! 戦士に手頃な木を用意してもらって松明を作ってくれ!」

    魔法使い「まったく、仕切る時は仕切るんだから」ブツブツ

    勇者「からかったのは悪かったって! ほんの冗談のつもりだったんだ!」

    魔法使い「準備ができたら投げ込むけど、どうやって戻ってくるつもりぃ~? 結構、深いわよねぇ~?」

    勇者「こっちに降りるのは危険かもしれない! なんとか出口を探すから、森の入り口で夕方までまっててくれ!」

    僧侶「ほんとに大丈夫ですかぁ~~?」

    勇者「大丈夫大丈夫! もし戻ってこなかったら迷子と思って探してね!」

    魔法使い「かっこつけるんなら最後までかっこつけなさいよ!」

    戦士「おい、魔法使い。これでいいだろ」

    魔法使い「ん。じゃぁ」

    戦士「待て。布を巻いてっと」ビリ クルクル

    魔法使い「油で湿らせるの忘れないでね」

    戦士「昨日の一角うさぎのやつがある。これで」

    魔法使い「メラ」ボッ

    戦士「よし。いいかぁ~投げるぞぉ~~~っ!」ヒョイ

    勇者「ありがとう! それじゃまた後で落ち合おう!」パシ

    僧侶「くれぐれもお気をつけてぇ~!」

    勇者「それでぇ、どこだぁ? ここはぁ?」

    73 : ◆7Ub330 - 2018/01/11(木) 15:02:04.40 ID:/prJW+7dO (+60,+30,+0)
    【数十分後 洞窟 中腹部】

    勇者「いんやー、すぐに行き止まりかと思えばなかなか入り組んでるんでない? 炭鉱だったのかな?」

    シク……

    勇者「唐突ですが、ここで俺が嫌いなものランキングの発表です。第3位、幽霊」

    シクシク

    勇者「第2位! ゴースト」

    シクシク

    勇者「そして栄えある第1位はぁ、お化け!」

    シクシク

    勇者「全部同じでしたぁ~……はは、あはは……」

    シクシクシクシク

    勇者「なんでずっと泣いてるんじゃ! 出るなら出てこんかい!」バッ

    ハーピー「シクシク」

    勇者「おっと……なんだ、鳥か」

    ハーピー「……っ⁉︎ ニンゲン!」

    勇者「人型、言語能力があるのか」

    ハーピー「……去れ。コロスぞ」

    勇者「そういきるなって。足、はさまって動けねぇんだろ?」

    ハーピー「⁉︎ なにかすルつもりか!」

    勇者「焼き鳥にして食う。腹減ってんだ」

    ハーピー「おのれ……っ! 野蛮な!」

    勇者「よいせっと」ドサッ

    ハーピー「……!」ビクッ

    勇者「俺さ、小さい頃、スライム飼ってたんだ。親からは犬猫にしなさいって大反対されたけど」

    ハーピー「す、スライム?」

    勇者「スラリンって名前つけてな? 最初はよく反抗したもんだ」

    ハーピー「クッ……」バサバサッ

    勇者「スラリンもお前みたいに怪我しててさ。治るまでは俺のこと利用してやろうって考えたんだろうな。
    治療は素直に受け入れだした、動くなよ」ガタッ

    ハーピー「……?」

    勇者「よっ、俺にとっちゃ、初めての友達だったんだ。勇者っていってみんなから遠巻きに眺められてるだけだったから」コロ

    ハーピー「……」

    勇者「そうそう、今のお前みたいに。石をどかしたら俺のこと襲おうと考えてるだろ?」

    ハーピー「な、ナニをイッてる」
    74 : ◆7Ub330 - 2018/01/11(木) 15:16:05.00 ID:/prJW+7dO (+60,+30,+0)
    勇者「お互いに知能があるならさぁ、向いてる方向が違うだけだと思うんだよなぁ。ほれ、とれたぞ」

    ハーピー「……」スッ

    勇者「行けよ。背中から刺したりしねぇから、あ、でも襲おうってんなら俺も抵抗はするぞ。今はそういう時代なんだろうからな」

    ハーピー「……フン」バサッ

    勇者「さて、と」パンパン

    ハーピー「ギャッ」ドサッ

    勇者「……まさか、飛べないとか、そういうお約束パターン?」

    ハーピー「う、うぅッ……!」ズリ

    勇者「しょーがねぇなぁ! ほれ、こっちこい!」

    ハーピー「ダマレ! ニンゲンになど!」キッ

    勇者「そのままだったら野垂れ死ぬぞー。プライドと命どっちとるんだー?」

    ハーピー「死をエラぶ!」

    勇者「あー、そうですか。勝手にしろよ」スタスタ

    ハーピー「き、貴様! よるな!」

    勇者「死ぬんだろ? なら近寄ったって関係ないじゃん」

    ハーピー「くっ」ズリズリ

    勇者「俺のマッサージは街のじいちゃんばあちゃんにも高評なんだ、あの世を見せてやんよ」ポワァ

    ハーピー「うっ、うぅ……」

    勇者「勇者として生まれてよかったことがひとつある。それは、補助系、攻撃系と満遍なく覚えること。バランス方っつーのかな。器用貧乏とも言うけど」

    ハーピー「ゆ、勇者ダト……」

    勇者「あ、近所にね? 勇者って人がいたんだ。俺じゃないよ?」ポワァ

    ハーピー「(暖かい、ヒカリ)」

    勇者「少し怪我の具合がひどいか。じっとしてろよ」
    75 : ◆7Ub330 - 2018/01/11(木) 15:46:25.48 ID:/prJW+7dO (+60,+30,+0)
    【再び数十分後 洞窟】

    勇者「これでよしっと。まぁ、飛ぶ分には問題ないだろ」

    ハーピー「……」

    勇者「どした? まだ痛むのか?」

    ハーピー「オマエ、ヘンなやつ」

    勇者「よく言われる」

    ハーピー「勇者とは、ホントウか?」

    勇者「嘘だよ、ウソ」

    ハーピー「……」

    勇者「あのさぁ、ここの出口があったら教えてくんない?」

    ハーピー「ニンゲンにほどこしをウケたなど……! 一族の恥……!」

    勇者「困ってんだよねぇ~。出口探すの疲れてきてるし」

    ハーピー「獣王キングヒドラ様にお叱りを……! かクなる上は!」バサッ

    勇者「せっかく治したのにまた怪我すんの?」ゲンナリ

    ハーピー「思い上がるナッ! オマエを殺せばここでのコトもなかったコトに!」

    勇者「誰にも言わない。本当。約束する。俺口固い」

    ハーピー「信用できるカッ!!」ザシュ

    勇者「……っとと。なぁ、考えなおさない?」ヒョイ

    ハーピー「チョコマカと!」ザシュ ザシュ

    勇者「よっと、ほっ」ヒョイ ヒョイ

    ハーピー「~~ッ! 真面目にやれ! ヘラヘラするな!」バササッ

    勇者「いや、だからだね」トンッ

    ハーピー「うっ」ズキン ドサッ

    勇者「言わんこっちゃない。これまたお約束的に」

    ハーピー「……くっ、いっそコロセ」

    勇者「テンプレのオンパレードか! そーゆうのいいから!」

    ハーピー「ナラば、自決を」

    勇者「はぁ……あのさあ、ありがちすぎんだろ」

    ハーピー「……」スッ

    勇者「待てよ」パシ

    ハーピー「なぜ、トメル」

    勇者「お前らにとって人間ってなに?」

    ハーピー「エサだ」

    勇者「そう。俺らにとっても、魔物の材料は高く売れる。そっから精製されるもんは重宝されてる。良い値がつく」

    ハーピー「だから、ナンだ」

    勇者「利用され利用して、高い知能を持った同士が欲のままに殺しあう。そうなれば遺恨を残すし、終わらないサイクルに突入する」

    ハーピー「……」

    勇者「一枚岩じゃないからな。魔物も人間も、ついついやらかしすぎちまうやつがポッと出てきちまうものなんだ」

    ハーピー「イッてる意味が、ワカらん」
    76 : ◆7Ub330 - 2018/01/11(木) 16:02:48.40 ID:/prJW+7dO (+58,+30,+0)
    勇者「ちっと難しかったか? 第二章! 政治編もあるぜ!」ビシッ

    ハーピー「……」ポカーン

    勇者「ダダ滑り……なにが言いたいかというと、もっとラクに生きようぜ。しきたりとか垣根とか、今は俺とお前しかここにはいないんだから」

    ハーピー「……」

    勇者「お前にだって魔物としての吟じがあったりすんだろ? もっとニンゲン殺してやるー! とか。自決なんてもんはバカのすることだ。やりたいことやってから死ね」

    ハーピー「お前ハ、ニンゲンがコロサレてもいいのか」

    勇者「そんな話じゃない。それぞれの立場でやりたいように生きろ、小難しく考えてもどうせ破綻すんだから」

    ハーピー「……コノまま、ススメば出口がアル」

    勇者「あ、本当? 風の気配ないからないのかと焦っちゃったよ」

    ハーピー「指を舐めてミロ」

    勇者「えっ、指?」アム

    ハーピー「ソウスルと、風を感じられるはず」

    勇者「……んー、おおっ! 指先がちべたい!」

    ハーピー「ツギニ会ったら、コロス」

    勇者「期待して待ってる。できれば、俺だけを狙ってほしい」

    ハーピー「……」

    勇者「俺を殺せたら、次の人間を殺したっていいよ」

    ハーピー「……そのコトバ、ワスレるなよ」バサッ

    勇者「ああ、しっかり覚えといてやる」ニッ
    77 : ◆7Ub330 - 2018/01/11(木) 16:20:34.12 ID:/prJW+7dO (+60,+30,+0)
    【アルデンテの村 近郊 森林】

    僧侶「あのぅ~、勇者さまは森の入り口で待つようにとぉ~」

    戦士「魔法使い、ロープ頼む」

    魔法使い「死んでたらどうすんのよ。はいってもう一時間も経つわ」

    僧侶「ツンデレってやつですかぁ? 古典ですねぇ」

    魔法使い「違うわよ! 私はそんなんじゃ!」

    戦士「一度村に戻ってロープを買ってきたんだ。あたしが降りて勇者を探してくる」

    バサッバサッ

    魔法使い「……なにか羽音が聞こえない?」

    僧侶「たしかにぃ~。エコーがかかってますねぇ。穴の中から?」

    戦士「穴って、ここか?」ヒョイ

    ハーピー「ウオッ⁉︎」ドヒュン

    魔法使い「わっ、び、びっくりしたぁ……いきなり飛び出して……は、ハーピー⁉︎」

    戦士「おぉ。人型だ」

    僧侶「あらあらぁ~」

    魔法使い「気をつけて! こいつは中級モンスターよ!」

    ハーピー「ニンゲンか……」バサッバサッ

    魔法使い「言語を解するのね! 高い知能を持ってる! モンスターにとって知能は強さの現れ! 戦士!」ザッ

    戦士「戦闘か!」チャキ

    僧侶「でもぉ、戦う意思があるようにはぁ~」

    ハーピー「オマエたち、さっきのヤツのナカマか?」

    魔法使い「さっきの? って、だ、誰?」

    戦士「あ、あたしに聞かれても」

    僧侶「そうでぇ~す!」フリフリ

    魔法使い「ちょ、そ、僧侶!」

    ハーピー「ココから東にススメ。そこに行けばイル」

    戦士「な、なんだ……?」スッ

    魔法使い「なにが、どうなってるの?」

    ハーピー「フン」バサッバサッ

    僧侶「……行っちゃいましたねぇ~」

    戦士「ど、どうする?」

    魔法使い「どうするったって……」

    僧侶「ここにいたって暇ですしぃ、まずは行ってみませんかぁ~?」
    78 : ◆7Ub330 - 2018/01/11(木) 16:41:48.73 ID:/prJW+7dO (+60,+30,+0)
    【森林 東の外れ】

    勇者「ふぃー」ザッ

    戦士「あれじゃないか? おぉ~い! 勇者ぁ~!」

    勇者「あれ? ここって入り口だったの?」

    魔法使い「はぁ、はぁっ、呑気な、平気、なの?」

    僧侶「ふぅ~」

    勇者「なんともないよ。砂埃をかぶっちまったぐらい」パンパン

    戦士「なぁなぁ、中はどうだった?」

    勇者「なーんにも。宝箱さえなかったね」

    魔法使い「ハーピーと遭遇しなかった⁉︎」

    勇者「……いんや」

    僧侶「そうなんですかぁ~?」

    勇者「あぁ。誰とも会わなかったよ」

    魔法使い「えっ、でも、それだったら、誰のこと。勇者はたしかにこっちにいたし、えっ、えっ?」

    勇者「いいんじゃないの。わからなくても」

    戦士「……かっこつけてんのか?」

    勇者「ち、違わい! 改めて指摘すんな! 恥ずかしい!」

    僧侶「くすくす。怪我がなくてなによりですぅ」

    魔法使い「はぁ……つまり、そういうこと。あんたはキザ似合わないから」

    勇者「べ、別に、そんなつもり」ゴニョゴニョ

    戦士「生きてるならそれでよしとしよう。時間を食ったが、陽が落ちるまでに落ち着ける場所に行かなければ」

    勇者「あー、間に合うかな?」

    戦士「パス」ポイ

    勇者「うぉっ」ドサ

    戦士「さっき、村に戻ったついでにテントを買ってきた。勇者が持て」

    魔法使い「あんたのせいなんだからそれぐらいしなさいよね」

    勇者「は、はい」

    僧侶「とりあえず、今日のところは山の中腹を目指す感じでしょうかねぇ~」

    戦士「そうだな……。さ、出発だ」
    79 : ◆7Ub330 - 2018/01/11(木) 19:47:33.01 ID:eL30j4//O (+30,+30,+0)
    【獣王城 玉座】

    キングヒドラ「なにぃっ⁉︎ もう一度申せっ!!」

    ねずみモグラ「オラじゃねぇっスよ~」ブンブン

    キングヒドラ「それはわかってる! ハーピーがニンゲンの匂いをつけて帰ってきただとぉ⁉︎」ドガーーン

    ねずみモグラ「ひぃ~っ」ガタガタ

    キングヒドラ「ハーピーはどこだっ!!」

    ねずみモグラ「今、巣に」

    ハーピー「ただいま、戻りました。キングヒドラ様」スッ

    キングヒドラ「……」ギロ

    ねずみモグラ「はわわわわっ」ガタガタ

    ハーピー「此度の件は」

    キングヒドラ「仕事はどうした! 人語を喋れるお前を斥候(偵察のこと)にやった理由を言えぇいっ!!!」ピシャーン

    ハーピー「人間どもの、勢力調査です」

    キングヒドラ「それがなぜニンゲンの匂いをつけて帰ってくる!! プンプン臭うぞぉっ!!!」

    ねずみモグラ「あ、あの、キングヒドラ様ぁ」

    キングヒドラ「なんだっ⁉︎」ギロ

    ねずみモグラ「もしかして、ハーピー様はニンゲンどもを殺してきたのでは? もともと、匂い自体はめずらしいことでは」

    キングヒドラ「……そうなのか?」

    ハーピー「……」

    キングヒドラ「答えんか。恐怖の爪で引き裂かれる前に」

    ハーピー「も、申し訳ございません! 獣王様!」ドゲザ

    キングヒドラ「なぜ……謝る?」ドシン

    ハーピー「卑しくも、このハーピー。ニンゲンに助けていただきました!」

    ねずみモグラ「えぇっ⁉︎」

    キングヒドラ「……」プルプル

    ハーピー「嘘をつくこと違わず。いかような罰もお受けする所存でございます」

    キングヒドラ「……よかろう。正直に話した貴様の誇り、たしかに受け取った」

    ハーピー「はい、有り難く」

    キングヒドラ「だが、罰を免除することは無理だ! ニンゲンに手助け⁉︎ ほどこしを受けただとぉおおおっ⁉︎」ゴォッ

    ハーピー「……もし、機会をいただけるのであれば、万全の状態でやつを殺しとうございます」
    80 : ◆7Ub330 - 2018/01/11(木) 19:49:51.46 ID:eL30j4//O (+60,+30,+0)
    キングヒドラ「……なに?」ピクッ

    ハーピー「実力を隠しているのやも。こちらが手負いとはいえ、まるで赤子同然でした」

    キングヒドラ「ふむ。では、情けをかけられたということか? ニンゲンに?」

    ハーピー「お恥ずかしい話ですが、そうなのでしょう。であれば、見過ごすはずがございません」

    キングヒドラ「忌々しいッ!!」ドンッ

    ねずみモグラ「玉座が壊れちゃうっスよぉ」

    キングヒドラ「それで、相手は何人だ? 群れがやつらの特徴だ。五人か? 十人か?」

    ハーピー「……一人で、ございます」

    キングヒドラ「ひ、ひひひひひひっ⁉︎」

    ハーピー「申し訳、ございません」

    キングヒドラ「ひ、ひとぉおおおおりぃぃいいっ⁉︎」ピシャア

    ねずみモグラ「火炎の息が漏れてるっス! あちっ! あちちっ!」アタフタ

    キングヒドラ「出ていけッ!! 貴様など種族のツラ汚しだッ!!!」

    ねずみモグラ「シワが増えるっすよ! もうニンゲンでいうとハタチ超えたオナゴなんですからキングヒドラ様も!」

    キングヒドラ「だまぁああれぇぇっ!!」ゴォッ

    ねずみモグラ「熱っ! あっちゃあっ!!」バタバタ

    ハーピー「かしこまり、ました。それがお望みであれば」スッ
    81 : 以下、名無しにか - 2018/01/11(木) 20:15:03.32 ID:zKiaxupQ0 (+12,+24,-3)
    面白すぎるwwwwww
    82 : ◆7Ub330 - 2018/01/11(木) 20:41:25.64 ID:eL30j4//O (+0,+0,+0)
    【山 中腹部 テント設営地】

    戦士「薪はこんぐらいでいいな」カランカラン

    魔法使い「メラ」ボッ

    勇者「お前、チャッカマンみたいになってきてるなぁ」

    魔法使い「なに? チャッカマンって?」

    勇者「いや、知らなきゃいい」

    僧侶「見てください勇者様ぁ~! アルデンテの村がもうあんなに小さく!」

    勇者「おお、いい眺めだ」

    魔法使い「戦士、そっちの地図とって」

    戦士「ん」ヒョイ

    魔法使い「えぇ~と」パサッ

    戦士「真面目だよなぁ、魔法使い」

    魔法使い「計画性なく行動するのが嫌いなの」

    戦士「勇者も見習ったらどうだ」

    勇者「お前もな」

    戦士「な、なにをぅっ!」

    魔法使い「現在地は、ここね。ダーマまでは半分もきてない、か……」

    僧侶「それはそうですよぉ。村二つ通りすぎただけですしぃ~」

    魔法使い「僧侶、陸路できたの?」

    僧侶「そうですよぉ~?」

    魔法使い「どうやって? こんな長い距離、襲ってくださいっていってるようなものじゃない」

    僧侶「それはぁ、これのおかげです♪」

    戦士「アイテムか?」

    僧侶「とぉっても貴重なものでぇ、ゴスペルリングっていうんですよぉ」

    魔法使い「どんな効果なの?」

    僧侶「モンスターに出会わなくなっちゃいますぅ」

    魔法使い「えっ⁉︎」

    戦士「ほほー」

    魔法使い「それって、国宝級のアイテムじゃない!」

    僧侶「はい~。世界にひとつしかないアイテムだそうですよぉ」

    魔法使い「よ、よくそんなの……」

    僧侶「もちろん返納しますよ~。もともとは神殿の魔除けにと保管されていたアイテムですから~」

    勇者「どれどれ? 見せてもらっていいか?」

    僧侶「どうぞどうぞ~」スッ

    勇者「ふぅ~ん。なんの変哲もないリングに見えるけどねぇ」

    僧侶「編み込まれるものが特殊なんですよぉ。我々が身につけている装備品もそうですけどぉ」

    魔法使い「杖、新調したいな」

    勇者「メラしかやってないn」

    魔法使い「なんかいった?」ギロ

    勇者「このリングすごぉーい!」

    戦士「次は山を越えたあたりにある。なかなかに大きいぞ」

    勇者「そうなんか?」

    戦士「あぁ、コロシアムで有名な街。マッスルタウンだ」
    83 : ◆7Ub330 - 2018/01/11(木) 20:51:17.48 ID:eL30j4//O (+49,+29,-13)
    今日はここまでです。
    84 : 以下、名無しにか - 2018/01/11(木) 21:20:11.17 ID:GYg+nuUA0 (-9,+5,-4)
    85 : 以下、名無しにか - 2018/01/11(木) 21:25:19.19 ID:xk5IcwdA0 (+20,+30,-27)
    マッスルマッスル!
    86 : 以下、名無しにか - 2018/01/11(木) 22:37:10.49 ID:9xdRcDnuO (+19,+29,-7)
    めっちゃ面白いから続きはよ
    87 : 以下、名無しにか - 2018/01/11(木) 23:44:14.21 ID:zKiaxupQ0 (+22,+29,-3)
    乙乙
    続き楽しみ
    88 : ◆7Ub330 - 2018/01/12(金) 11:34:28.00 ID:9na26kBgO (+30,+30,+0)
    【山頭頂部 付近】

    手下「おやび~~ん! 間違いありやせん! あの煙は旅人のもんでさぁ!」

    ガンダタ「ぐっふっふ。遠征から帰ってきたとたんにカモがのこのこやってくるとはツイてるぜぇ~」

    手下「苦労して手に入れた稲妻のツルギを持ち逃げされやしたからねぇ」

    ガンダタ「ばっ、それを言うなよ」

    手下「俺たちの中から裏切り者がでるとは。1ヶ月の遠征の後、やっと見つけた塔で、しかも多数の負傷者を出して赤字……お給料もまともに払えないなんて」

    ガンダタ「ぬっ、ぬぐぐ……!」

    手下「動けるのは俺と、親分のみ……はぁ」

    ガンダタ「ガタガタうるせえっ! 働いて補填したらいいんだろうが! 赤字分は!」ガンッ

    手下「……働くしかないの間違いではないすか?」

    ガンダタ「いいんだよ! 働くって分に変わりねぇんだから! 仕切り直し!」

    手下「へい」シュン

    ガンダタ「支度するぞ! 俺の斧持ってこい!」

    手下「へいへい」

    ガンダタ「へいは一回!」

    手下「金目の物持ってるといいですねぇ」ゴソゴソ

    ガンダタ「……ぐっふっふっ、飛んで火にいる夏の虫とはやつらのことよ。なぁ~に、金がなくても身体がある」

    手下「奴隷として売り飛ばすんですかい? 老人じゃなきゃいいでやんすね」

    ガンダタ「対面すりゃわかるこった。やつらが寝静まった時間を狙って……うっひっひっ」ニタァ
    89 : ◆7Ub330 - 2018/01/12(金) 12:25:51.41 ID:D1/b/IpBO (+30,+30,+0)
    【魔法使い 夢の中】

    魔法使い(母)「メラゾーマ!」ゴォッ

    レッサーデビル「ウギャーッ!!」ドサリ

    魔法使い「ママッ!」

    魔法使い(母)「くっ、油断した」ドロ

    魔法使い「血っ⁉︎ 腕から血が……っ!」

    魔法使い(母)「よく聞きなさい。走って村の人達を呼んできて」

    魔法使い「や、やだよ! こわいもん! ママ、いや! 離れたくない!」

    魔法使い(母)「黙って聞くのッ!!」

    魔法使い「……っ!」ビクゥ

    魔法使い(母)「いつものお使いよ」ニコ

    魔法使い「うっ、うぅっ、ぐすっ」ポロポロ

    魔法使い(母)「私の心配なら平気。ね、大丈夫だから」

    魔法使い「ほ、本当……?」

    魔法使い(母)「ええ、もちろん! 来週、ピクニックに行くんでしょ?」

    魔法使い「う、うん……」

    魔法使い(母)「指、貸して」

    キラーナイト「……」ウィーン

    魔法使い「……はい」

    魔法使い(母)「ゆぅ~びきり、げんまん♪」

    魔法使い「ゆ、ゆびきりっ、げんまんっ!」

    キラーナイト「タイショウヲ、マッサツ」ピピ

    魔法使い(母)「さ、走れるわね?」

    魔法使い「う、うん!」ゴシゴシ

    魔法使い(母)「行きなさいッ! 振り向いちゃだめよ! 一生懸命走って!!」

    魔法使い「わ、わかった! ママ、頑張って!」ダダダッ

    魔法使い(母)「ふぅ……さぁ、かかってきなさい。ここから先へは一歩も通さないわよ……っ!」
    90 : ◆7Ub330 - 2018/01/12(金) 12:43:34.50 ID:D1/b/IpBO (+60,+30,+0)
    【深夜 山 中腹部】

    魔法使い「――……ママッ!!」ガバッ

    戦士「……」チラ

    魔法使い「あ、えっ? ここ……」

    戦士「平気か? 随分とうなされていたみたいだが」

    魔法使い「あぁ……」

    戦士「まだ夜は深い。ゆっくり身体を休めておけ」

    魔法使い「貴女は、寝なくて平気なの?」

    戦士「あと二時間すれば勇者を起こす。代わり番で見張りだからな」

    勇者「んがーっ、んがーっ」スヤスヤ

    魔法使い「そういや、そうだったっけ」

    戦士「昔の夢でも見てたのか」

    魔法使い「はぁ……そんなところ。母様の夢」

    戦士「……なにやら、仇と言ってたな」

    魔法使い「私が小さい頃にね、魔物に殺されちゃったの。遺体は見つかってないけど」

    戦士「そうか……」

    魔法使い「火、小さくなってるね」カラン

    戦士「あたしは慰めが苦手だ。月並み言葉だが、ご冥福をお祈りさせてもらおう」

    魔法使い「いいんじゃない、ストレートで。変に飾るよりは好感が持てるわ」

    戦士「これしかできないだけだよ」

    魔法使い「……変わった勇者よね」チラ

    勇者「むにゃむにゃ、もう食べられないのにぃ~」スピー

    戦士「どうだかな……正直なところ、掴みきれてない」

    魔法使い「どういう意味?」

    戦士「曖昧なように感じる。まだ日が浅いが、メリハリというか、なんというか……言葉ではうまく説明できん」

    魔法使い「なんで、モンスターなんかに肩入れするのかな……」

    戦士「さてな。魔王を倒す旅はしているんだ、肩入れしようとやることさえやっときゃ問題ない」
    91 : ◆7Ub330 - 2018/01/12(金) 12:57:02.37 ID:D1/b/IpBO (+60,+30,+0)
    【中腹部 茂みの中】

    手下「おぉ~! 親分! 暗がりでよく見えやせんが、ありゃ間違いなく上玉の女冒険者でっせ! ひぃ、ふぅ、みぃ、男のコブつきみたいですが、当たりですね!!」

    ガンダタ「ほぉ~れ見ろ! こうやってな、女神様はきちーんと考えてくださるんだよ!」

    手下「へ? か、考える?」

    ガンダタ「女神様の声が聞こえるねぇ~。“あなた達は頑張ったのです。ご褒美をあげましょう”ってな~!!」

    手下「いや、でも、それじゃ、そもそも稲妻のツルギを持ち逃げされないんじゃ」

    ガンダタ「下げて上げるっつーのはまさにこのことよ! 落ち込んでる時に棚からぼた餅なくりゃ、いつも以上に有り難みがますってもんだろぉ~!」

    手下「な、なるほど! さすが親分!」

    ガンダタ「どれ、では早速」ガサガサ

    手下「待ってください! 今は二人起きてるんでもうすこし様子を見ましょう!」

    ガンダタ「あぁ? 女におくれをとるガンダタ様じゃねぇぞ!」

    手下「俺だって疲れてるんすから! ろくに休みもらえなかったし!」

    ガンダタ「うっ、そ、そうなんか?」

    手下「ね? 無駄な労力を使わず、まだ時間はあるでやんす。もうちょっと様子見ましょうって」

    ガンダタ「しょうがねぇなぁ」
    92 : ◆7Ub330 - 2018/01/12(金) 13:19:36.41 ID:D1/b/IpBO (+60,+30,+0)
    【再び テント設営地】

    勇者「……んー」ムク

    魔法使い「……? 起きたの?」

    戦士「交代には、まだ」

    勇者「ネズミがいるな」

    魔法使い「ネズミ……? こんなとこに? どこよ」キョロキョロ

    勇者「ふぁ~ぁ」コキパキ

    戦士「ネズミだったら非常食にとっておきたいんだが」キョロキョロ

    勇者「目が覚めた。戦士、交代すっか」

    戦士「いや、あたしは」

    勇者「俺は目が覚めたって言ったろ? どうせ起きてる。なら眠いやつが寝ておけばいい」

    魔法使い「私も目が覚めたし、戦士は休んで大丈夫」

    戦士「む、そうか? ならお言葉に甘えて」

    勇者「お前もだよ、魔法使い」

    魔法使い「え? 私は、べつに」

    勇者「夢を見る睡眠ってのは案外浅いもんだ。明日に疲れを蓄積させるな」

    戦士「……起きてたのか?」

    勇者「いや、あの」

    魔法使い「狸寝入りしてたの? キメきれないやつねぇ」

    戦士「ふっ、まったくだ。言わなければわからないものを」

    勇者「……入っちゃまずい雰囲気かなーと思って」

    魔法使い「余計な気は使わない方がいいわよ。自然体でいること」

    戦士「起きてるならあたしは休むぞ。マヌケな勇者様ひとりじゃないみたいだからな」ゴソゴソ

    勇者「う、うぅ。二枚目キャラになりたい」

    魔法使い「だったら空気を読み違えないように」

    勇者「へい」

    魔法使い「ふざけてばっかりなんだから」

    勇者「オホホ、お花をつみに行ってまいりますわ」

    魔法使い「くっ、この、ヘンテコ勇者」

    勇者「寝たくなったら寝てていいからさ。母さん、生きてるといいな」ポンッ

    魔法使い「何言ってるのよ。母様は死んだの」

    勇者「遺体は見つかってないんだろ?」

    魔法使い「はぁ……あのねぇ、いくら探し回ったか知らないでしょ。生きてるなら帰ってくる」

    勇者「……」

    魔法使い「ありもしない希望にすがるのは、やめたのよ」

    勇者「それなら俺がお前のかわりに祈っておいてやるよ」

    魔法使い「いい加減に」

    勇者「勝手だろ、誰かひとりぐらいいたっていいじゃないか。そう願う者が」

    魔法使い「……好きにしたら」

    勇者「あぁ、てなわけで、ラリホー」ポワァ

    魔法使い「えっ、な、なに、を……」

    勇者「朝までゆっくりしてろ」スッ
    93 : ◆7Ub330 - 2018/01/12(金) 14:57:20.31 ID:cIisLjGgO (+30,+30,+0)
    【茂みの中】

    手下「絶好の機会でやんす! コブの男どっかいきやしたぜ!」

    ガンダタ「他も寝静まったみてぇだな」

    手下「ラクな仕事すぎて小躍りしそうっすよ!」

    手下?「親分! お待たせしました!」ガサゴソ

    ガンダタ「おっ? お、おめぇ?」

    手下「(青い布つけてるやついたっけ?)」

    手下?「ひどいですよぉ~置いてくなんて! それで、なにをするんですか?」

    ガンダタ「……まぁ、いいか。あそこで寝てるやつらを縛るんだ」

    手下?「盗みですかい?」

    ガンダタ「あったりめーよ! 身ぐるみ剥いで女は上玉みてぇだからな、高く売れそうだ」

    手下?「なぁ~るほど! 良い値で売れるといいですね!」

    手下「大丈夫でやんす! マッスルタウンに富豪がいるっすから! ……ん? 知らないんでやんすか?」

    手下?「知ってますよ! あの富豪さんでしょ!」

    手下「でげすでげす! 成金趣味の嫌ぁ~な感じのやつっすけど、上客には違いねぇっす! 親分、男はどうしやす?」

    ガンダタ「あいつは奴隷商に売りとばそう」

    手下?「奴隷商人っていうと、あのお方ですかい?」

    ガンダタ「ああ、隣国でなにやら建設してるらしくてな。力仕事をするやつを探してる」

    手下「女がひとり、十万ゴールドとして……いや、もっといけるかもしんねぇでやんすな!」

    手下?「ところで親分! 他の手下はどちらへ?」

    ガンダタ「あ? お前が今来た頂上の洞穴だろーが。山賊が、勉強できねぇのは仕方ねぇけどよ、それぐらい覚えろよ」

    手下?「でっへっへ。すみません」

    手下「準備はいいすか?」ガサガサ

    ガンダタ「ああ、いつでも……」ガサガサ

    手下「とつげきぃぃ………うふん」コテ

    ガンダタ「気色わりぃな。……おい。……あ? おい?」クルッ

    手下?「ラリホー」ポワァ

    ガンダタ「あふん」コテ

    手下?「……残るは山頂の洞穴だっけ」

    ガンダタ「ぬ……っ! 睡眠、魔法……っ!」

    手下?「親分、まだ意識あるんですか?」ヌギヌギ

    ガンダタ「おのれ……! 稲妻のツルギを奪られた時と同じパターンか」ガク

    手下?「稲妻のツルギ……あぁ、ニセモノ勇者の親玉だったのか」ヌギッ

    勇者「……うぇっぷ、口の中に髪の毛はいっちった。ペッペッ」
    94 : ◆7Ub330 - 2018/01/12(金) 15:23:47.48 ID:cIisLjGgO (+60,+30,+0)
    【頂上 洞穴】

    勇者「タウンワークはここにおいて……これでよし、と」パンパン

    手下達「」スヤァ

    勇者「お前らもお前らなりに理由があって仕事してんだろうけど、見過ごしたら被害者出続けるだろうからな。別の仕事見つけてくれ」

    手下達「」スヤァ

    勇者「……聞こえてないか。あー、肩凝った。ロープで縛るのもラクじゃないなぁ」ドサッ

    ガンダタ「う……」ピク

    勇者「もうお目覚め?」

    ガンダタ「う、うぅっ……はっ! こ、ここは」

    勇者「アジトでーす!」

    ガンダタ「お、おめぇ! どういうことだ……そうだ、おりゃあ眠らされて」

    勇者「耐性が少しはあるみたいだな。さすが親分ってとこか」

    ガンダタ「むぉっ⁉︎ いつのまに縛りつけやがった!」

    勇者「疲れたわー、親分マッチョだから、ここまで担いで運ぶの」

    ガンダタ「おめぇら! 目を覚ましやがれ!」

    手下達「」スヤァ

    勇者「ねぇねぇ、なんで山賊なんかやってんの?」

    ガンダタ「……くっ、不覚。ちくしょう」ガクッ

    勇者「おやぶーん!」

    ガンダタ「お前手下じゃねぇだろ!」

    勇者「シカトすんなや!」

    ガンダタ「ちっ、やってる理由なんて社会に適合できねぇからに決まってんだろ。ルールってやつが嫌いなのよ、俺たちゃ」

    勇者「わかる! すっごぉーくわかる!」

    ガンダタ「な、なんだ?」

    勇者「ルールなんてかったくるしいもん俺も大嫌いでさぁ!」ポンポン

    ガンダタ「なら、この縄を」

    勇者「それは断る」

    ガンダタ「……」

    勇者「一緒にニートにならない?」

    ガンダタ「ニートだと?」

    勇者「イエスニート! 無職、遊び人、くぅ~、いい響きだわー! 何者にも縛られずフリーって!」

    ガンダタ「どうやって食ってくんだよ、アホか」

    勇者「違うの? 要するに、誰かに押し付けられるのが嫌なんだろ? ルールとか型とかにハメられてさ」

    ガンダタ「まぁ……」

    勇者「アゴでこき使われるのが嫌なだけで、やりたくないわけじゃないもんな? 山賊だってこうして働いてるわけだし?」

    ガンダタ「いや、そりゃそうだが」

    勇者「残念だわ。せっかくニート仲間が増えるかと思ったのに。なんだよ、真面目かよ」

    ガンダタ「山賊に真面目って、お前、頭おかしいんじゃねぇのか」



    95 : ◆7Ub330 - 2018/01/12(金) 15:40:40.39 ID:cIisLjGgO (+60,+30,+0)
    勇者「ここから西にいけば、アデルの城がある。知ってるだろ?」

    ガンダタ「ああ」

    勇者「そこに行ってこれを見せたらいいよ」スッ

    ガンダタ「……銀細工か?」

    勇者「大工の仕事ならあると思うから」

    ガンダタ「おい、ガキ。俺を舐めてんのか?」ギロ

    勇者「ベロベロバーー!」

    ガンダタ「……」

    勇者「そんな姿で凄んでもだめだっての。ああ、別に売っちまってもいいから」

    ガンダタ「なにがしてぇんだよ、お前」

    勇者「俺は俺の好きなようにやってるだけ。親分と一緒」

    ガンダタ「性善説とか信じてるクチか?」

    勇者「そうでもない。理由を求めてんの? 俺を型にハメようとしてらっしゃる?」

    ガンダタ「……」

    勇者「おやぶーん、それじゃ筋が通りませんよー」

    ガンダタ「からかってるだけか」

    勇者「だから、そういうのだよ。自分の中だけで完結すんな」

    ガンダタ「……」

    勇者「あんたらは負け犬なんかじゃねぇ、社会不適合でもねぇ。……俺がやってるのも人助けでもなく、ただの自己満だ」

    ガンダタ「クッ、そうか」

    勇者「説教じゃねぇからな? ただ、理解してないようだったから説明した」

    ガンダタ「ふん」

    勇者「決めるのはあんた達だ。いつまでもその日暮らしのこんな生活できるもんじゃねぇぞ」

    ガンダタ「……」

    勇者「今が楽しいならいいんだけどさ」スタスタ

    ガンダタ「おい、どこに行く! 縄を解いていけ!」

    勇者「やーなこった。自分でなんとかしろ」

    ガンダタ「小僧! ちょ、待て! 待ってぇー!」
    96 : ◆7Ub330 - 2018/01/12(金) 15:58:56.98 ID:cIisLjGgO (+65,+30,-250)
    【山 中腹部 テント設営地】

    子供『あ、勇者くんだぁー! あそぼー!』

    勇者(少年)『う、うんっ! へへっ!』

    『だめよ、勇者くんにもし怪我でもあったら』

    勇者(少年)『えっ』

    子供『……あ、うん。わかった』

    勇者(少年)『ぼ、僕なら大丈夫だよ! ほら、こんなに丈夫なんだ!』バンバン

    大人達『さすが勇者! すごいねぇー!』

    勇者(少年)『ち、違うよ、僕、すごくなんか、ないよ。普通だよ』

    大人達『勇者っ! 勇者っ! 勇者っ! 勇者っ!』パチパチ

    兵士『頑張れよ、勇者』

    勇者(少年)『僕、勇者ってだけじゃないよ、普通の、普通の……』

    王様『勇者よ』

    勇者『勇者っていうのやめてよっ! ……僕を……見てよ……』



    勇者「――……嫌なこと、思い出したな」
    97 : ◆7Ub330 - 2018/01/12(金) 16:12:35.90 ID:cIisLjGgO (+60,+30,+0)
    【翌朝 テント設営地】

    僧侶「う、うぅ~ん、よく眠れましたぁ~」ノビー

    勇者「おはよ」

    僧侶「おはよーございますぅ~」

    勇者「戦士と魔法使いもそろそろ起こしてやれ」

    僧侶「はい~。戦士さん、戦士さん」ユサユサ

    戦士「ん、んぅ」

    僧侶「魔法使いさん、魔法使いさん」ユサユサ

    魔法使い「ん……」

    僧侶「ずっと起きていらっしゃったんですかぁ? 交代いたしましたのに~」

    勇者「今日はたまたまだ。次は言われなくても起こすよ」

    僧侶「……? なにか、あったんですかぁ? 膝のところやぶれてますが~」

    勇者「あら? おしっこする時にひっかけちゃったのかな?」

    戦士「ふぁ~ぁ、なんだ、もう朝かぁ」

    僧侶「あ、おはようございますぅ」

    戦士「やけにぐっすり眠れた気がするな。深い眠りは久しぶりだ」

    魔法使い「……んにゅ」

    勇者「ヨダレぐらいふけよ」

    魔法使い「ふぁ? ……っ⁉︎」ゴシゴシ

    勇者「みんな、よく眠れたようでなによりだ。朝メシを食ったら出発する」

    魔法使い「あれ、昨日、いつのまに寝たんだったっけ……」
    98 : ◆7Ub330 - 2018/01/12(金) 17:14:37.75 ID:cIisLjGgO (+60,+30,+0)
    【コロシアムの街 マッスルタウン】

    傭兵「シェイシェイハ!! シェイハッ!! シェシェイ!! ハァーッシェイ!!」ブンブン

    勇者「……でるゲーム間違えてね?」

    魔法使い「あいかわらずむさくるしい街ねぇ~」

    戦士「いいじゃないか! この熱気! 溢れ出る闘志!」ウズウズ

    魔法使い「脳筋って仲間意識あんのね」

    僧侶「出店もたくさんありますよぉ~」

    勇者「なぁ、戦士」

    戦士「どうした?」

    勇者「コロシアムって毎日やってんの?」

    戦士「ああ。なにしろここの財源だからな。元締めは癒着があると黒い噂があるが」

    勇者「ふーん」

    魔法使い「財源なんて、ただのギャンブルでしょ」

    戦士「それは否定できない。誰が勝つかを予想して観客は一喜一憂するわけだからな。金がかかるから見てる方も熱くなる」

    僧侶「勇者さまぁ、フランクフルト売ってますよぉ」

    勇者「食べたら?」

    僧侶「私に食べろって言うんですかぁ? フランクフルトを~」

    魔法使い「公衆の面前で痴女ってんじゃないわよ!」スパーン

    僧侶「はうぅ」

    勇者「……あそこの上にあるのは?」

    戦士「あれか? あれは優勝者に贈られる品物だ」

    勇者「なになに……イーリスの杖、か」

    魔法使い「えっ⁉︎ うそっ⁉︎」

    戦士「魔法職の杖が賞品なんてめずらしいな」

    魔法使い「……」ジィー

    戦士「レアなのか? あれ」

    魔法使い「かなり! 魔力を消費せずにピオリムが放てるのよ!」キラキラ

    戦士「ピオリム……素早さを上げる魔法か」
     
    僧侶「イーリス。ギリシア神話の虹の女神、あるいはギリシア語で虹……キレイな形状してますねぇ」

    魔法使い「……」チラ

    戦士「自分の杖見つめて……比べてるのか」

    魔法使い「い、いいでしょ別に!」

    戦士「余計ひもじい思いするだけだぞ」
    99 : ◆7Ub330 - 2018/01/12(金) 17:32:15.32 ID:cIisLjGgO (+60,+30,+0)
    【マッスルタウン 宿屋】

    勇者「なんか一気に物価あがった気がするんだが? 一泊30ゴールドって」

    戦士「しかたないよ。そういうもんだ」

    僧侶「幸い団体部屋も同じ料金でしたしぃ~。よしとしましょう~」

    魔法使い「次はいつ出発すんの?」

    勇者「明日の朝かな」

    戦士「なっ⁉︎ おいおい、この街に立ち寄って観戦してかないのか?」

    勇者「なにが悲しくて男同士の殴り合いを見なきゃいかんのよ」

    戦士「女もでるぞ」

    勇者「あ、そうなの?」

    戦士「当たり前だ。重要なのは強さであって性別ではない。証拠に今のチャンピオンも女だそうだ」

    勇者「へー、そりゃすんごい」

    僧侶「文字通り、男顔負けって感じですねぇ~」

    戦士「是非! 一度手合わせしてみたい!」キラキラ

    魔法使い「戦士がでたら?」

    戦士「……そうしたいのはやまやまなんだがなぁ。事前申請が必要で、エントリーまでに一週間もかかるんだよ」

    魔法使い「そ、そんなに……」ガックシ

    勇者「お前今、杖手に入るかもって期待したろ」

    僧侶「やっぱり職業は戦士さんなんですかぁ?」

    戦士「いいや……武闘家みたいだ」

    100 : ◆7Ub330 - 2018/01/12(金) 17:43:31.40 ID:cIisLjGgO (+60,+30,+0)
    【マッスルタウン 路地裏】

    武闘家「あちょお~~~っ!! あたっ!!」バキッ

    暴漢「ぐぇっ」ドサ

    町娘「あ、ありがとうございました。危ないところを……」

    武闘家「……ほら。次は気をつけなよ」スッ

    町娘「ありがとうございます、ありがとうございます」ペコペコ

    武闘家「それじゃ、アタイはこれで」

    町娘「あ、あのっ! 質問が、あるんですけど……」

    武闘家「ん?」

    町娘「現チャンピオンの武闘家さんですよね⁉︎」

    武闘家「そうだけど、っ、わぁっ⁉︎」

    町娘「ファンなんです! まさかこんなところで会えるなんて、しかも助けてもらって……あぁ、感激ッ!!」

    武闘家「あ、あはは~……そ、そう」タジ

    町娘「握手してもらっていいですか⁉︎」

    武闘家「いいけど……」スッ

    町娘「一生洗えない、この手」ギュゥ

    武闘家「いや、手は洗いなよ」

    町娘「あぁ……」ウットリ

    武闘家「うっ……ね、ねぇ、ちょっと、もういいだろ? 手を離してくれない?」

    町娘「こ、興奮しすぎちゃって……はぁ、はぁ……」

    武闘家「な、なんで息が荒くなるのかなぁ~」

    町娘「ぶ、武闘家さん、私、もう……っ!!」

    武闘家「ストップ!! それ以上迫ってきたら正拳突きをお見舞いするよ!」

    町娘「す、すみません」シュン

    武闘家「はぁ……」

    老人「これ! こんなところでなにをほっつき歩いてるアル!」

    武闘家「し、師匠。助かったぁ」ホッ

    老人「道草くってないでいくアルヨ」

    武闘家「はい! ただいま!」タタタッ

    町娘「武闘家さん、女性なのにさわやかで、ポニーテールが素敵……」
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