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    元スレモバP「フリーハグだァッ!! ぐへへへへ」

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    1 :


    「"温もり"ですよ"温もり"!」

    「現代人は温もりを求めているんです!」

    「おわかりですか、ちひろさん」

    ちひろ「はい?」




    SSWiki :http://ss.vip2ch.com/jmp/1501230119

    2 = 1 :



    「こちらをご覧ください」

    「昨日夜なべして作ってきました」

    ちひろ「……」

    ちひろ「なんですかこれ、プラカード?」

    ちひろ「これがどうかしたんですか」

    「なんて書いてあるか、読んでみてください」

    ちひろ「ええと……」

    ちひろ「"FREE HUGS"?」

    3 = 1 :


    「その通り!」

    「ちひろさんも聞いたことがあるんじゃないですか」

    「もしくは街中で見かけたことがあるかもしれませんね」

    「フリーハグってやつです」

    「自由にハグしていいよっていうサインですね」

    ちひろ「……」

    ちひろ「まさか」

    「そう、そのまさかです」

    「やりますよ、俺は」

    「アイドルのみんなに、"温もり"ってやつを届けてやりますよ」

    「今日一日限定で、フリーハグ、やってやりますよ!」

    4 :

    /nox/remoteimages/75/a4/202cc3b4956e17df21a52cc7cb84.jpeg

    5 = 1 :


    ちひろ「……」

    ちひろ「Pさん」

    「はい」

    ちひろ「セ」

    「セクハラだって言いたいんでしょう!」

    「断じて違いますよ!」

    「よく見てください、"フリー"ハグなんです」

    「つまり、俺はハグを強要するわけじゃないんです」

    「ただフリーハグというプラカードを掲げるだけです」

    「その上でするしないは相手の自由!」

    「ノットセクハラ、OK?」

    ちひろ「……」

    ちひろ「わかりました」

    ちひろ「限りなく黒に近いグレーだと」

    「おわかりいただけましたか」

    6 = 1 :


    ちひろ「まあ、Pさんが奇行に走るのは」

    ちひろ「今に始まった話ではないですし」

    ちひろ「今回のだって、別に止めはしませんけどね」

    「さっすがちひろさん」

    「話がわかるゥ!」

    ちひろ「ただ、騒ぎになったら困るので」

    ちひろ「一つだけ制限させてください」

    「はい?」

    ちひろ「絶対に私の目の届かない場所ではやらないこと」

    ちひろ「特に事務所の外でハグするとかはやめてください」

    「変に噂になったら困りますしね」

    「了解しました」

    「じゃ、この部屋の中でだけやることにします」

    「プラカードはこの辺に立てかけておきますか」

    7 = 1 :


    ちひろ「そもそもの話」

    ちひろ「誰がやってくれるんですかね?」

    ちひろ「Pさんとハグしたいなんて人、いないんじゃないですか」

    「う」

    「い、いますよきっと」

    「というか、いてほしい」

    ちひろ「いやーどうですかね」

    ちひろ「魂胆みえみえですからね、こんなの」

    ちひろ「ひっかかってくれる奇特なアイドルがいるかどうか」

    「誰もやってくれなかったら」

    「めっちゃ滑ってる感じになって悲しいですね」

    「頼む、誰かハグしてくれる優しい人――」

    「具体的にはキュートのアイドルとか来てくれ! 頼む!」

    ちひろ「清々しいくらい欲望に忠実ですね……」

    8 = 1 :



    ガチャッ


    凛・奈緒・加蓮「「「おはようございまーす」」」


    「げっ」

    9 = 1 :



    ちひろ「おはようございます」

    ちひろ「今日はそろっての出勤なんですね」

    「三人で合わせのレッスンがあるので」

    奈緒「ちょっと早めに着いちゃったけどな」

    加蓮「ていうか今」

    加蓮「Pさん"げっ"って言ったよね?」

    加蓮「何? アタシたちが来ちゃダメなことでもあった?」

    「いやいやそんなまさか」

    「めっそうもございません」ササッ

    奈緒「……怪しすぎるな」

    加蓮「なんか隠してるよね」

    加蓮「凛!」

    加蓮「Pさんの後ろ!」

    「うん」

    スッ

    「あ、ちょっ」

    サッ

    10 = 1 :


    「……? 何、これ」

    奈緒「プラカード?」

    奈緒「えーっと」

    奈緒「"ふりーはぐず"? でいいのかな?」

    加蓮「あー知ってる! これ!」

    加蓮「持ってる人見たことある!」

    奈緒「何なんだ、これ?」

    加蓮「凛も知ってるでしょ? 駅前とかにいるもん、たまに」

    「うん」

    「誰もやってなかったけどね」

    奈緒「え? 凛も知ってるのか?」

    加蓮「でも待って、Pさんがこれを持ってるってことは」

    加蓮「ひょっとして……」

    「……」ジー

    「凛」

    「その視線キツい」

    奈緒「なあ、ちょっと」

    奈緒「さっきからあたしだけ蚊帳の外なんだけど!」

    11 = 1 :


    加蓮「奈緒、つまりね」

    加蓮「Pさんは今、ハグし放題なんだってさ」

    加蓮「それで合ってる? Pさん」

    「……はい」

    「絶賛ハグし放題にございます」

    奈緒「ハグ?」

    加蓮「抱きしめることだよ」

    加蓮「奈緒、よかったじゃん」

    加蓮「Pさんにハグしてもらったら?」

    奈緒「……は?」

    「フリーハグって、そういう意味だよ」

    奈緒「いやいや、意味は分かったけど……」

    奈緒「……」

    奈緒「いやいやいや!」

    奈緒「ちょっと待て! おかしいだろ!!」

    奈緒「それセクハラだろ!! 何やってんだよPさん!!」

    「言うと思った」

    12 = 1 :


    「大丈夫、やるやらないは君らの自由だから」

    「別にこれ強制じゃないから」

    「だからセクハラじゃないんですー」

    奈緒「ええ……なんだその屁理屈」

    加蓮「いいじゃん奈緒、やってもらいなよ」

    加蓮「Pさんもきっと喜ぶよ」

    奈緒「ないないない!」

    奈緒「ぜっったいやらないからな!!」

    奈緒「だいたいPさんとハグなんて」

    奈緒「どこ触られるかわかったもんじゃないだろ!」

    「……ただハグするだけじゃないの?」

    「基本的にはそうだな」

    「俺はマネキンのように突っ立ってるだけで」

    「あとはハグするほうでお好きにどうぞ、てな具合だ」

    「だってさ、奈緒」

    奈緒「"だってさ"、じゃないよ!」

    奈緒「なんであたしがやるみたいな流れになってるんだよ!」

    13 = 1 :


    加蓮「え、むしろやらないの?」

    加蓮「こんな機会、めったにないんだよ?」

    奈緒「は、はあ?」

    「そうだぞ」

    「今日一日の限定だからな」

    加蓮「だってさ」

    加蓮「これを逃したら一生ハグできないかもしれないよ?」

    加蓮「奈緒、それでもいいの?」

    奈緒「う、え……」

    奈緒「……」

    奈緒「いやいやいや!!」

    奈緒「だまされないぞ! その手には乗らないからな!」

    奈緒「あたしはやらない! やらないってもう決めたから!!」

    「そっか……」

    「俺と奈緒との絆は、そんなもんだったか……」

    奈緒「え、ちょ、おい」

    奈緒「そ、そんながっかりしなくても……」

    14 = 1 :


    加蓮「(Pさん、いけそうだよ!)」

    「(後一押しすれば落ちるよ、きっと)」

    「(よっし、まかせろ)」

    奈緒「だああ! 何目配せしてんだ三人とも!」

    奈緒「もー決めた! 何があってもやらない!」

    奈緒「天地がひっくり返ってもやらないから!!」

    奈緒「さ、行くぞ二人とも! レッスンだレッスン!」

    加蓮「あらら、残念」

    「うまく行きそうだったのにね」

    「なんかちょっとショックだわ」

    奈緒「ったく、もう!」

    加蓮「……」

    加蓮「ね、Pさん」

    加蓮「アタシたちの前に、もうハグした人っていた?」

    15 = 1 :


    「ん?」

    「いや、誰もいないけど」

    加蓮「ふーん……」

    「なんかあった?」

    加蓮「Pさん、そこ立って」

    「?」

    加蓮「いいから立つの!」

    「は、はい、立ちました」

    加蓮「ばんざーいってして」

    「ばんざーい」ヒョイ

    加蓮「誰もいないんだよね」

    加蓮「いままでハグした人」

    「うん」 


    ギュッ


    「!」

    「!」

    奈緒「!!」

    加蓮「じゃ、アタシが一番乗りだ♪」

    16 = 1 :


    奈緒「ちょ、ま、かれ……!」

    「……」

    加蓮「なーに? 二人とも」

    加蓮「別にアタシがやってもいいんだよね?」

    加蓮「だってフリーハグだもんねー」

    「う、うむ……」

    加蓮「それにこのまま誰にもハグされなかったら」

    加蓮「Pさんかわいそうでしょ?」

    加蓮「だったらちょっとくらい、いい思いをさせあげたいじゃない?」

    「ど、どうも……」

    17 = 1 :


    加蓮「それでどう? Pさん」

    加蓮「ファーストハグの感想は」

    「あの……」

    「たいへん情けないことに」

    「体が緊張して動けないです」

    「銃口を突きつけられたみたいになってる」

    加蓮「ふふっ、体硬くなってるよね」

    加蓮「いいよ、腕降ろしても」

    加蓮「せっかくなんだから、もっとリラックス、しよ?」

    「……うむ」

    スッ

    「……」

    加蓮「落ち着いてきた?」

    「ああ」

    「びっくりした」

    18 :

    さす加蓮

    19 = 1 :


    加蓮「他に感想は?」

    「他?」

    加蓮「ハグされてるのに、何もないの?」

    「……」

    「加蓮、いい匂いがするな、と」

    加蓮「んふふ、そうでしょ」

    加蓮「アタシもPさんの匂いがするよ」

    (臭くないだろうか……)

    加蓮「他は?」

    「他は……」

    「密着してる部分が熱いな、って」

    「腰に回してる手の部分とか……」

    加蓮「……うん」

    加蓮「アタシも何か、熱くなってる」

    加蓮「でもあんまり嫌いじゃないかも」

    加蓮「むしろ落ち着く感じ」

    「……確かに」

    加蓮「……」

    「……」


    ギュー

    20 = 1 :



    奈緒「ど、どーすんだよ、凛!」

    奈緒「完全に二人の世界になってるじゃんか!」

    「奈緒、落ち着いて」

    「……ねえ加蓮、そろそろいいんじゃない?」

    加蓮「……んー? ふふっ、そう?」

    加蓮「じゃあPさん、名残惜しいけどここまでね」

    加蓮「これ以上やると、二人が怖いもんね」

    パッ

    「……ぶはー」

    「なんかめっちゃ疲れたような」

    「反面、癒されたような……複雑な心境だ」

    加蓮「でも、良かったでしょ?」

    「……うす」

    「たいへん助かりました」

    「このままだとハグ0ってこともありえたからな」

    加蓮「ふふっ、どーいたしまして」

    加蓮「またいつかやろーね」

    21 = 1 :


    奈緒「あ、あのなあ加蓮!」

    加蓮「さーさー二人とも、レッスンの時間だよっ」

    加蓮「それともどうする? 二人もPさんとハグしていく?」

    奈緒「えっ」

    「……ううん、私はいいかな」

    加蓮「へー」

    加蓮「凛はいいんだ、意外」

    加蓮「じゃ奈緒だね」

    奈緒「だ、だからあたしは……っ!」

    加蓮「まーまー、そんなたいしたものじゃないって」

    加蓮「海外で挨拶するときとかよくやってるし」

    加蓮「それにけっこう癒されるよ?」

    加蓮「Pさん、なんかおとなしい熊みたいだったし」

    「熊て」

    22 = 1 :


    奈緒「う……」

    加蓮「(ほら、Pさん!)」

    「(え?)」

    加蓮「(どーみても奈緒迷ってるでしょ!)」

    加蓮「(今がチャンスだって!)」

    「……ええと」

    「奈緒、あのー、なんだ」

    「俺本当に、全然動かないからさ」

    「人形かなんかだと思ってくれていいんで」

    「軽い気持ちで、どうぞよろしくお願いします」

    奈緒「……Pさんは、どーなんだよ」

    「俺?」

    奈緒「その、あたしに、だ、抱きしめられるとか」

    奈緒「Pさん、イヤじゃないのかよ?」

    23 = 1 :


    「……」

    「いや、普通に嬉しいけど……」

    奈緒「そ、そうなのか?」

    「奈緒に抱きしめられるとか」

    「どんなご褒美だよって思っちゃうわ」

    奈緒「そ、そっか……」

    加蓮「いっちゃえいっちゃえ」

    奈緒「ああもうっ! 加蓮はうるさい!」

    加蓮「はーいっ♪」

    奈緒「じゃ、じゃあ……」

    奈緒「Pさん、ば、ばんざーいってして、くれる?」

    「はい」

    ヒョイ

    (これ毎回やんのかな)

    24 = 1 :



    奈緒「よ、よし」

    奈緒「Pさん絶対動くなよ、絶対だぞ!」

    「ハイ」


    奈緒「……」スーハースーハー

    加蓮「(深呼吸してる)」

    「(かわいい)」


    奈緒「い、いくぞっ!」

    奈緒「っ!」


    ガバッ

    25 = 1 :



    「……」

    奈緒「……」


    ギュー


    (これは……)

    (ハグというか……)

    ("しがみつかれてる"って感じだ)

    奈緒「~~っ!」


    ギュウゥ

    26 = 1 :


    加蓮「なーおー」

    加蓮「それじゃ意味ないでしょー」

    加蓮「もっとこう、腕を背中に回して」

    加蓮「ぎゅーっとやんないと、ぎゅーっと」

    「今のだと、ただ寄りかかってるだけだね」

    奈緒「む、無理! もう無理!」

    奈緒「限界! これが限界っ!!」

    奈緒「は、は、恥ずかしすぎる…っ!」


    ギュー


    「ぐええ」

    加蓮「おお」

    「力はいったね」

    27 = 1 :


    (……いかん)

    (奈緒の頭が、目の前に)

    (髪の毛、すっごい近い)

    (なんだろう)

    (めっちゃ、なでたい……)

    (でも、勝手になでるのはNGだったハズ)

    (くそっ、俺の両手はどこに置けば……っ)

    「~~っ」

    奈緒「~~っ」

    加蓮「なんか、二人とも悶えてるね」

    「あんまり癒されてないっぽいね」

    28 = 1 :



    ガバッ


    奈緒「ぶはっ!」

    加蓮「あ、離れた」

    奈緒「はー、はー……」

    「奈緒、大丈夫?」

    加蓮「肩で息してるけど……」

    奈緒「だ、大丈夫……」

    奈緒「ちょっと、息止めてただけだから……っ」

    加蓮「そ、そんなに?」

    (危なかった)

    (こっちはこっちで誘惑に負けるところだった)

    29 = 1 :


    加蓮「ちょっと不安ですが」

    加蓮「感想聞いてみましょう」

    加蓮「奈緒、どーだった?」

    奈緒「いや、あの、ゴメン」

    奈緒「全然覚えてない」

    奈緒「とにかく恥ずかしかった……」

    「だと思った」

    「なんか、悪いことしたな」

    30 = 1 :


    奈緒「いや、Pさんが謝ることじゃないけど!」

    奈緒「だけどなんていうか、こういうのは慣れが必要っていうか!」

    奈緒「い、いきなりだとうまくできないっていうか……」

    加蓮「へー」

    加蓮「さっきのじゃ足りないってさ、Pさん」

    奈緒「か、加蓮! 何言ってnーー」

    「もう一回やれば?」

    奈緒「り、りーんー!!」

    「まあまあ、二人ともあんまりからかうな」

    「俺は結構よかったぞ」

    奈緒「えっ」

    31 = 1 :


    「なんつーか、いい意味でどきどきしたな」

    「癒しとかそういうのはなかったかもしれないけど」

    奈緒「そ、それって……」

    「なんでかしらないけど」

    「懐かしい気持ちになったな」

    「いい思いしたわ、ありがとう、奈緒」

    奈緒「う、うん」

    奈緒「ま、まあ、Pさんがよかったっていうなら……」

    奈緒「あたしも、別に、イヤじゃなかったし……」

    加蓮「」ニヤニヤ

    「」ニヤニヤ

    奈緒「な、何笑ってんだよ! 二人とも!」

    加蓮「べっつにー」

    「なんでもないよ」

    32 = 1 :


    「それよりいいの? 二人とも」

    「もうこんな時間だけど」

    加蓮「あ」

    奈緒「あわわ、やっばい! は、早く行かなきゃ!!」

    加蓮「なーんだ、残念」

    加蓮「もっと奈緒のかわいいところが見られると思ったのに」

    奈緒「そんなこと言ってる場合か! ほら、急ごう!」

    加蓮「はーい、じゃーね、Pさん」

    「うす」

    「お気をつけて」


    ガチャ


    「……」チラッ

    「?」


    バタン


    タタタタ……

    33 = 1 :


    ちひろ「……終わりましたか」ヒョコッ

    「うわっ」

    ちひろ「0ハグ回避、おめでとうございます」

    ちひろ「幸先いいスタートでなによりですね」

    「ど、どうも」

    ちひろ「それで、与えられましたか?」

    ちひろ「"温もり"とやらは」

    「いや~、どうでしょうね」

    「逆に元気をもらってる側な気がしますね」

    ちひろ「完全にもてあそばれてましたしね」

    ちひろ「まあ、健全な範囲だったので、不問としましょう」

    ちひろ「今後も変なことはしないようにお願いしますよ」

    「あ、はい」

    「そうか、温もり、温もりか……」

    「よし、次こそ主導権をとってみせるぞ」

    「キュートのアイドル、来てくれ~」

    ちひろ「……」

    34 = 1 :



    ガチャッ


    未央・茜・藍子「「「おはようございまーすっ!」」」


    「お」

    35 = 1 :


    「パッション勢か」

    未央「おっはよー、Pさん!」

    「おはようございます!!」

    藍子「おはようございます、Pさん」

    「はい、どうも」

    「お揃いのところ恐縮だけど」

    「今これ、やってるよ」サッ

    藍子「……なんですか、これ?」

    「ふりー……読めません!!」

    未央「あっ! フリーハグだ!」

    未央「Pさん、これフリーハグのカードでしょ!」

    「ご明察」

    茜・藍子「「ふりーはぐ?」」

    36 = 1 :


    未央「ん? 待てよ、ということは……」

    未央「……ふぅーむ、なるほど、なるほど」

    未央「Pさんも、なかなかワルですなあ」ニヤリ

    「なにをいう」

    「俺は純粋な気持ちからだな」

    未央「まーまー、いいっていいって細かいことは!」

    未央「それで、どうかな? 成果はあったのかな?」

    「まあ、おかげさまで」

    「ご好評いただいております」

    未央「おー! いたんだ、やってくれる人!」

    未央「え、だれだれ!? これって聞いてもいいのかな!」

    「うん、さっきな……」

    藍子「……茜ちゃん、二人が話してること、わかる?」

    「はいっ!」

    「まったく!!」

    37 = 1 :


    未央「ふふふ、茜ちんにわかるよう簡単に言うとね」

    未央「Pさんが練習台になってくれるんだってさ」

    未央「タックルの」

    「ちょ」

    未央「しかも無料で、何回でもオッケーだって!」

    「!!」

    「本当ですかっ! Pさんっ!!」

    「ぜってえこうなると思った」

    「落ち着け茜」

    「俺が言いたいのはな……」スッ

    未央「あっ、立ったよ!!」

    未央「いまだっ! 茜ちんっ!!」

    「はいっ! いきますっ!!」


    「うおおおぉおっ! ぼんばーーーっ!!!」


    ドムッ


    「ぐふっ」

    38 = 1 :


    未央「よーし、あたしも続くぞー!」

    「まって」

    「これ以上はむr」

    未央「ぼんばーーっ!!」


    ドゴォッ


    「オアアーッ!」


    バターン


    藍子「わああ! P、Pさんっ!?」

    39 = 1 :



    ―――


    「座れ」

    未央・茜「ハイ」


    「聞け」

    「人の話を」

    未央・茜「ハイ」

    40 = 1 :


    「まず君らのはハグではない、いいね?」

    「えっ!」

    「違うんですか!?」

    「あんな殺意をこめたハグがあるか」

    「激しすぎるわ」

    未央「はいはい! せんせーじゃあ質問でーす!」

    未央「普通のハグってなんですかー!」

    「うん」

    「いい質問だ」

    「そいつをこれから披露しようと思う」

    「そう、俺と――」

    「……」チラッ

    藍子「えっ」

    藍子「わ、私ですかっ?」

    41 = 1 :


    「藍子、そういうわけなんだ」

    「すまないがひとつ、頼まれてくれるか」

    藍子「えっ、ええっ」

    藍子「といわれても私、そんな、あの……」

    未央「ちょちょちょちょちょ!」

    未央「まったー! まったまった!!」

    「なにか?」

    未央「なにか? じゃないよ!」

    未央「私のあーちゃんに何させようとしてるのさっ!」

    「別に俺は何とも言っていないぞ」

    「ただ、頼まれてくれるか? って聞いただけだ」

    「なあ、藍子?」

    藍子「え、あの……え?」

    未央「あーちゃんダメだよ耳を貸しちゃ!」

    未央「これ、Pさんのいつものやり口だもん!!」

    未央「こうやって数多の女の子を口説(スカウト)いてきたんだから!」

    42 = 1 :


    「ほーう」

    「何か知ってる風じゃないか、未央」

    未央「うっ」

    「本当は俺が教えずとも、わかっているんじゃないかね」

    「"普通のハグ"とはいったい何なのかを」

    未央「ううっ!」

    未央「な、なんて卑劣な!」

    未央「あーちゃんを人質に、私たちを脅そうって腹だね!」

    「?」

    未央「あーちゃん! 私の後ろに隠れてっ!」

    未央「一刻も早くPさんの魔の手から遠ざけないと!」

    藍子「え?」

    「ふふふ……」

    「さあ藍子、こちらにくるがよい……!」

    藍子「えっ? えっ?」

    「?」

    「??」キョロキョロ


    ちひろ(……)

    ちひろ(茜ちゃん、完全に置いてきぼりじゃないですか)

    43 = 1 :


    「――と、冗談は抜きにしても」

    「君らのはちょっと、あっけらかんとしすぎてる」

    「ハグってのはもっとこう、慈しみの精神が無いとダメなんだよ」

    「二人きりで、静かで、豊かで……」

    未央「な、なんか語り始めたっ」

    「ハグソムリエの俺から言わせてもらうと」

    「全体的に軽いんだよね、君らのスキンシップは」

    「もっと恥じらいっていうか、しっとりした感じがほしいよね」

    未央「うわあ……」

    未央「ハグを要求するだけでもアレなのに」

    未央「シチュエーションにも口を出し始めるとか」

    未央「どん引きですよ、未央ちゃんは」

    「この三人相手だと」

    「好き勝手言えて楽だわ」

    44 = 1 :


    「それに実際、ハグには癒し効果があるみたいなんだよ」

    「脳内でオキシなんちゃらとかいうホルモンが分泌されて」

    「幸せな気持ちになれるんだって」

    藍子「……幸せ、ですか?」

    未央「なるかなー、Pさんとハグして」

    「俺とハグして幸せになるかは、人によるだろうけど」

    「アイドル業は何かとストレスフルだろ?」

    「精神的なケアがやっぱり必要かなって思うわけよ」

    「俺としては少しでも力になりたいわけよ、アイドルたちの」

    「だからできることは何でもしてやりたいのよ」

    未央「ほうほう」

    未央「たいへんご立派なことですけれども」

    「だろ?」

    未央「でもやっぱり、見え隠れしちゃうよね」

    未央「Pさんの下心? っていうのがさ」

    「……しゃーない、それは」

    「もはや俺も隠しません! そういうところは!」

    未央「うわっ、開き直った!」

    「すべて承知の上で、ハグしてほしい!」

    「ただただアイドルからのハグがほしい!」

    「私からは以上です!」

    「どうじゃっ! 誰か、誰かおらぬかっ!」

    45 = 1 :


    未央「……などと意味不明な供述をしておりますが」

    未央「二人とも、いかがかな?」

    藍子「……」

    「あのっ!」

    「結局、タックルとハグって何が違うんですかっ!!」

    「そこからか?」

    「茜はそこから説明しないとダメか?」

    未央「ふふふ」

    未央「あんまり響いてないっぽいねー」

    藍子「……」

    藍子「あの」

    藍子「私、少し、興味があるかもしれません」

    「えっ!」

    未央「うえっ!?」

    「こ、これは意外なところから……!」

    46 = 1 :


    未央「だ、ダメだよあーちゃん!」

    未央「考えてみてよ? 相手はあのPさんだよ!」

    未央「絶対ハグだけじゃすまないって!」

    「俺の評価って基本低いよね」

    「そんなに信用されてないのかっていう」

    藍子「あ、いえ、ハグはできないかもしれないんですけど……」

    「へ?」

    藍子「さっきのPさんの話、すごく共感するところがあったんです」

    藍子「私もよく、"幸せ"について考えますから」

    藍子「アイドルとして、どうやったらみんなに幸せになってもらえるかなって……」

    未央「あー」

    未央「確かにあーちゃんよく言ってるイメージある」

    藍子「だから、本当に幸せになる効果があるかどうか」

    藍子「興味があって、確かめてみたいんです、その……」

    藍子「は、ハグは私にはハードルが高いかもしれませんけど……」

    「……ふむ」

    47 = 1 :


    「そういうことなら俺も譲歩しよう」

    未央「譲歩?」

    「さっき俺、ホルモンの分泌がどうのって言ってただろ?」

    「アレは別に、ハグだけに限った話じゃないらしい」

    「抱っこするとか肩を組むとかでも同じ効果が得られるんだそうな」

    未央「というと?」

    「要するに肌の触れ合いがあるかどうかが大事で」

    「方法はなんでもいいみたいだ」

    未央「へー」

    未央「柔道の寝技とかでもなるのかな」

    「タックルもそうだけど」

    「お互い敵意がないことが大前提ですからね」

    未央「あ、そっか、そうだよね」

    「まあ、だから別にいいよ、ハグじゃなくても」

    「藍子の好きなようにしてくれていい」

    「どうだろう、これで」

    藍子「は、はいっ」

    藍子「それならなんとかできるかもしれません」

    未央「ええー……あーちゃん本気でやるの?」

    48 = 1 :


    藍子「ふふっ、大丈夫ですよ」

    藍子「未央ちゃんと茜ちゃんにも協力してもらいますから」

    未央「協力?」

    「ですか?」

    藍子「じゃあ、Pさんは座ったままで」

    「ハイ」

    藍子「こっちのイスお借りしますね」

    藍子「それで、みんなで座って輪になりましょう」

    「輪?」

    未央「よくわかんないけど、やってみよっか」

    49 = 1 :


    ――


    藍子「……みなさん輪になりましたか?」

    「うす」

    「はいっ!」

    未央「オッケーだよっ」

    藍子「そしたら、両隣の人と手をつなぎましょう」

    藍子「私はPさんと、未央ちゃんに……」ギュッ

    未央「わわっ」

    藍子「そしたら未央ちゃんは茜ちゃんとも……」

    未央「う、うん」ギュッ

    「そして最後に私がPさんと手をつなげばいいんですね!」ギュッ

    藍子「はいっ、これで輪になりましたね」

    「なるほどね」

    「まあ手をつなぐのが一番ハードル低いわな」

    藍子「Pさん、どうでしょう、こんな感じで」

    「当初の目論見からは大きく外れてしまったが……」

    「平和な感じにおさまったんで、まあオッケーです」

    藍子「ふふっ、ありがとうございます」

    50 = 1 :


    「それで、これからどうしましょうっ!」

    「みんなで回転しますか!? それともジャンプしますか!?」

    「もしくはスクラムを組みますかっ!?」

    藍子「あ、茜ちゃん落ち着いて」

    藍子「何もしなくていいんだよ」

    「……何、も?」

    藍子「そう、ただ手をつないでじっとしているだけでいいんです」

    藍子「そのまま楽にして、ゆったりした時間を過ごしましょう」

    「楽に……わかりました!」

    未央「しっかし相手があーちゃんと茜ちんとはいえ」

    未央「ずっと手をつないでいるってのは気恥ずかしいねー」

    藍子「ふふっ、私も同じです」

    藍子「でもきっと、じきに慣れますよ」

    藍子「のんびり静かに、いきましょう」


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