元スレ女「また混浴に来たんですか!!」
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301 :
俺たちは、帰宅中の学生やサラリーマンが大勢いる駅のホームに立っていた。
女「ここでお別れですか」
男「ああ」
女「お引っ越しですか」
男「そんなには離れていないさ」
女「私が遊びに行ってあげますからね」
男「あの温泉にもまた行こう」
女「大丈夫ですか」
男「時間帯によるな」
女「何時がいいですかね」
男「どうだかな」
私と男さんが話しているうちに、電車の到着を告げるアナウンスがなった。
女「お別れですね」
男「ああ。お前も気をつけて帰れよ」
女「なんだかドラマチックな別れですね」
男「俺の電車に飛び乗ったりするなよ。挟まれるかもしれないからな」
女「ロマンの欠片もないですね。いいですよ、どうせ5駅分だし」
男「お前との旅は楽しかった」
女「私もです。これでもう老後は文句を言いません」
男「指がふやけるまで生きろよ」
女「指がふやけるまで一緒に浸かりましょうね」
電車のドアが開き、俺は乗り込んだ。
人混みに押し流されまいとしながら、女は俺を見送ろうとしてくれた。
302 = 301 :
女「夏祭りの約束、わすれないでくださいね」
男「お前もな」
女「私、やきそばを食べますからね」
男「好きなものを食えばいい」
女「線香花火もするんですからね」
男「何でもしてやる」
女「わたし……」
女が目に涙を浮かべ、感情を堪えながら俺を見つめている時、発車の合図が聞こえた。
男「それじゃあ、また……」
女「あのっ、言い忘れてたんですけど」
男「何だ」
女「私、実家にいる時は、お風呂でトイレしちゃいます」
男「はぁ?」
女「それではまた早朝!」
閉じた電車のドアの向こうで、女は一人顔を赤らめ、涙を流しながら腹を抱えて笑っていた。
男「ロマンの欠片もないのはどっちだ」
閉ざされたドアのせいで俺の声は届かなかった。
俺は呆れた顔を向けようと頑張ったが、あまりの無邪気さにつられ、一人で車内で笑ってしまった。
素敵な人生だった。
303 = 301 :
チュン。
鳥の鳴き声に似ていた。
ゲームセンターや映画で聴いた音とは少し違っていた。
それでも、二人だけのものであったはずのこの時間の、この場所で、聞きなれない音がするのは不吉に思えた。
私は足を早めて山道を進んだ。
おばあさんにお金を渡し、服も脱がずに、急いで中を確かめた。
ごつくて、でかくて、今ではあんまり怖くない人が座っていた。
お湯は、色とりどりの火花が夜空を照らしたあの夜のように、赤く染まっていた。
深く目を瞑っているその人に私は声をかける。
女「知ってますよ。あなたが死にかけてたこと。またいつもみたいにのぼせてるだけですよね」
女「みんな、気絶しているあなたを放っておいていたとしても。私は、ちゃんと、あなたが死にかけて、さみしかったこと、怖かったことにきづいてあげますからね」
女「あなたの友達も、恩人も、お母さんも、誰もあなたを見ようとしなくても」
女「私が、ちゃんと見ててあげますからね」
女「だから、目を覚ましてくださいよ」
女「私となら、目を合わせられるでしょう?」
304 = 301 :
女「湯の花の花言葉って知ってますか」
男「湯の花は、花じゃないだろ。温泉の成分の塊みたいなものじゃなかったか」
女「ここの温泉、凄いですよね。お土産に湯の花が販売されてるのも見えました」
男「良い入浴剤になりそうだ」
女「それで、なんだと思いますか」
男「何だ」
女「心まで浸かりたい」
男「…………」
女「もう一つあるそうですよ。さぁ、どうぞ」
男「どうぞって……」
女「さぁ」
男「…………」
男「君といると、のぼせてしまう」
女「キャー!」
男「うるさい」
女「キャーキャー!」
男「静かにしろ!」
女「素敵です」
男「知らん。寝る」
女「ふて寝ですか」
男「…………」
女「あなたが気絶していても私が見ていてあげますからね」
男「…………」
女「じー」
男「…………」
女「じー」
男「…………」
女「やっぱり起きて下さい」
男「…………」
女「本当に気絶してませんよね?」
男「…………」
女「起きてくださいってば!」
305 = 301 :
「おきてってば!」
女「わっ!」
娘「風邪引いちゃうよ」
女「今何時!?」
娘「10時」
女「よかったー。パパ帰ってきた?」
娘「まだ」
女「あんたお風呂もう入った?」
娘「まだ」
女「早くお風呂入りなさい」
娘「やだ!!!!せっかく起こしてあげたのに!!!」
女「パパとかぶっちゃうでしょ」
娘「朝入るもん」
女「朝起きられないでしょ」
娘「お風呂も起きるのも嫌い!」
朝起きられることは幸せなことなのよ。
なんて言葉は、言わない。
女「いいから入りなさい!!」
しぶしぶ娘がお風呂に入っていく姿を見て、大変だなぁと思う。
子供の頃の大人は完璧に見えたが、そんなことはなかった。
私はこの子を怒る資格なんてないくらいに、今でもお風呂に入るのはとてもめんどうくさいし、朝起きる時も二度寝したくてたまらない。
それでも愛しい家族との日常を回すために、お風呂に入るし朝も起きる。それどころか、お風呂も沸かすし、朝になったらみんなを起こす。そしてご飯もつくる。
「ただいま」
女「おかえりなさい。ご飯にする?お風呂にする?それとも」
「娘はどこ?」
女「お風呂に入ったわよ」
「そっか。じゃあ飯食う」
女「…………」
「冗談だよ」
夫が髪を撫でてくれた。
幼いころ望んでいたような、幸せな生活だった。
306 = 301 :
生きていくことは、つらいことの連続で。
かたまりかけたものが溶けてなくなってしまったり。
ふくらんだ希望が泡のようにはじけてしまったり。
とても、大変な日々の連続だけれど。
ひとりで、お風呂に入って。
涙も、悲しい出来事も、全部お湯に流して。
冷え込んだ心は身体の芯からあたためることで癒やして。
沈んだ気持ちはのぼせるまで浸かって高揚させて。
時々お風呂の中で100を数える呪文を唱えれば。
また、次の日を受け入れる準備が出来ている。
もしも、熱さが我慢できなかったら、さっさとあがってしまえばいい。
そして寒さに耐えられなくなったら、また入りにくればいい。
ひとりでも、ひとりにさせない場所。
もしもまた、涙を流す日が訪れたら。
お風呂のお湯で、拭えばいい。
屈斜路湖露天風呂にいた数多の白鳥のように。
少し身体をあたためたら。また、自由に飛び立っていけばいいのだ。
~fin~
307 = 301 :
終わりです。
長めの内容になってしまいましたが、読んでくれて本当にありがとうございました。
無責任に身体の障害に触れてしまったので、傷ついた方がいたら本当に申し訳ありません。
お風呂嫌いな人から、少しでも抵抗を減らせたら幸いです。
私も今からお風呂に入ってきます。
おやすみなさい。
308 :
結局添い遂げられなんだか……乙
309 :
乙
俺も今から丁度風呂入る所だったんだ
310 = 1 :
参考文献だけもう一度
絶景混浴秘境温泉2017(MSムック) 大黒敬太 著
女性が混浴のレポートをする特典動画付きでした。
(念のため、まわしものではありません。)
311 :
あぁ……乙でした
312 :
ダメだったか…おつ
313 :
男じゃない人との家庭、なのかなやっぱ。
男が望んだ未来であり、幸せの形の一つ……だけどやるせない……。
乙でした。
314 :
幽霊じゃないのになんで結ばれないんだ畜生
315 :
乙。本当に良かった。
男は幸せだったよ……
316 :
女が真っ当に生きるのを一番喜んでそうだけどなあ、良いメリバだと思う。乙
318 :
乙! たまにはハッピーエンドも書いてくれよ!
319 :
おつかれ
よかった
320 :
乙。雰囲気よかった。結局、男も女も救われたのかな…
321 = 316 :
次のを読める日が早く来ることを祈ってる
322 :
面白かったです。
ライトでポップなのも楽しみにしてます。
323 :
タイトルはどんな感じの予定なんですかね
324 :
女の記憶に末長く残るって意味では男もストーカーも同じものだけど全く違うものとして残り続けるんやろなぁ
みんなの評価 : ☆
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