のくす牧場
コンテンツ
牧場内検索
カウンタ
総計:127,062,857人
昨日:no data人
今日:
最近の注目
人気の最安値情報

    元スレ女「また混浴に来たんですか!!」

    SS+覧 / PC版 /
    スレッド評価: スレッド評価について
    みんなの評価 :
    タグ : 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。
    ←前へ 1 2 3 4 5 6 7 / 要望・削除依頼は掲示板へ / 管理情報はtwitter

    301 :

    俺たちは、帰宅中の学生やサラリーマンが大勢いる駅のホームに立っていた。

    「ここでお別れですか」

    「ああ」

    「お引っ越しですか」

    「そんなには離れていないさ」

    「私が遊びに行ってあげますからね」

    「あの温泉にもまた行こう」

    「大丈夫ですか」

    「時間帯によるな」

    「何時がいいですかね」

    「どうだかな」

    私と男さんが話しているうちに、電車の到着を告げるアナウンスがなった。

    「お別れですね」

    「ああ。お前も気をつけて帰れよ」

    「なんだかドラマチックな別れですね」

    「俺の電車に飛び乗ったりするなよ。挟まれるかもしれないからな」

    「ロマンの欠片もないですね。いいですよ、どうせ5駅分だし」

    「お前との旅は楽しかった」

    「私もです。これでもう老後は文句を言いません」

    「指がふやけるまで生きろよ」

    「指がふやけるまで一緒に浸かりましょうね」

    電車のドアが開き、俺は乗り込んだ。

    人混みに押し流されまいとしながら、女は俺を見送ろうとしてくれた。

    302 = 301 :

    「夏祭りの約束、わすれないでくださいね」

    「お前もな」

    「私、やきそばを食べますからね」

    「好きなものを食えばいい」

    「線香花火もするんですからね」

    「何でもしてやる」

    「わたし……」

    女が目に涙を浮かべ、感情を堪えながら俺を見つめている時、発車の合図が聞こえた。

    「それじゃあ、また……」

    「あのっ、言い忘れてたんですけど」

    「何だ」

    「私、実家にいる時は、お風呂でトイレしちゃいます」

    「はぁ?」

    「それではまた早朝!」

    閉じた電車のドアの向こうで、女は一人顔を赤らめ、涙を流しながら腹を抱えて笑っていた。

    「ロマンの欠片もないのはどっちだ」

    閉ざされたドアのせいで俺の声は届かなかった。

    俺は呆れた顔を向けようと頑張ったが、あまりの無邪気さにつられ、一人で車内で笑ってしまった。

    素敵な人生だった。

    303 = 301 :

    チュン。

    鳥の鳴き声に似ていた。

    ゲームセンターや映画で聴いた音とは少し違っていた。

    それでも、二人だけのものであったはずのこの時間の、この場所で、聞きなれない音がするのは不吉に思えた。

    私は足を早めて山道を進んだ。

    おばあさんにお金を渡し、服も脱がずに、急いで中を確かめた。



    ごつくて、でかくて、今ではあんまり怖くない人が座っていた。

    お湯は、色とりどりの火花が夜空を照らしたあの夜のように、赤く染まっていた。

    深く目を瞑っているその人に私は声をかける。



    「知ってますよ。あなたが死にかけてたこと。またいつもみたいにのぼせてるだけですよね」

    「みんな、気絶しているあなたを放っておいていたとしても。私は、ちゃんと、あなたが死にかけて、さみしかったこと、怖かったことにきづいてあげますからね」

    「あなたの友達も、恩人も、お母さんも、誰もあなたを見ようとしなくても」

    「私が、ちゃんと見ててあげますからね」

    「だから、目を覚ましてくださいよ」

    「私となら、目を合わせられるでしょう?」

    304 = 301 :

    「湯の花の花言葉って知ってますか」

    「湯の花は、花じゃないだろ。温泉の成分の塊みたいなものじゃなかったか」

    「ここの温泉、凄いですよね。お土産に湯の花が販売されてるのも見えました」

    「良い入浴剤になりそうだ」

    「それで、なんだと思いますか」

    「何だ」

    「心まで浸かりたい」

    「…………」

    「もう一つあるそうですよ。さぁ、どうぞ」

    「どうぞって……」

    「さぁ」

    「…………」

    「君といると、のぼせてしまう」

    「キャー!」

    「うるさい」

    「キャーキャー!」

    「静かにしろ!」

    「素敵です」

    「知らん。寝る」

    「ふて寝ですか」

    「…………」

    「あなたが気絶していても私が見ていてあげますからね」

    「…………」

    「じー」

    「…………」

    「じー」

    「…………」

    「やっぱり起きて下さい」

    「…………」

    「本当に気絶してませんよね?」

    「…………」

    「起きてくださいってば!」

    305 = 301 :

    「おきてってば!」

    「わっ!」

    「風邪引いちゃうよ」

    「今何時!?」

    「10時」

    「よかったー。パパ帰ってきた?」

    「まだ」

    「あんたお風呂もう入った?」

    「まだ」

    「早くお風呂入りなさい」

    「やだ!!!!せっかく起こしてあげたのに!!!」

    「パパとかぶっちゃうでしょ」

    「朝入るもん」

    「朝起きられないでしょ」

    「お風呂も起きるのも嫌い!」

    朝起きられることは幸せなことなのよ。

    なんて言葉は、言わない。

    「いいから入りなさい!!」

    しぶしぶ娘がお風呂に入っていく姿を見て、大変だなぁと思う。

    子供の頃の大人は完璧に見えたが、そんなことはなかった。

    私はこの子を怒る資格なんてないくらいに、今でもお風呂に入るのはとてもめんどうくさいし、朝起きる時も二度寝したくてたまらない。

    それでも愛しい家族との日常を回すために、お風呂に入るし朝も起きる。それどころか、お風呂も沸かすし、朝になったらみんなを起こす。そしてご飯もつくる。

    「ただいま」

    「おかえりなさい。ご飯にする?お風呂にする?それとも」

    「娘はどこ?」

    「お風呂に入ったわよ」

    「そっか。じゃあ飯食う」

    「…………」

    「冗談だよ」

    夫が髪を撫でてくれた。

    幼いころ望んでいたような、幸せな生活だった。

    306 = 301 :

    生きていくことは、つらいことの連続で。

    かたまりかけたものが溶けてなくなってしまったり。

    ふくらんだ希望が泡のようにはじけてしまったり。

    とても、大変な日々の連続だけれど。

    ひとりで、お風呂に入って。

    涙も、悲しい出来事も、全部お湯に流して。

    冷え込んだ心は身体の芯からあたためることで癒やして。

    沈んだ気持ちはのぼせるまで浸かって高揚させて。

    時々お風呂の中で100を数える呪文を唱えれば。

    また、次の日を受け入れる準備が出来ている。

    もしも、熱さが我慢できなかったら、さっさとあがってしまえばいい。

    そして寒さに耐えられなくなったら、また入りにくればいい。

    ひとりでも、ひとりにさせない場所。

    もしもまた、涙を流す日が訪れたら。

    お風呂のお湯で、拭えばいい。

    屈斜路湖露天風呂にいた数多の白鳥のように。



    少し身体をあたためたら。また、自由に飛び立っていけばいいのだ。


    ~fin~

    307 = 301 :

    終わりです。
    長めの内容になってしまいましたが、読んでくれて本当にありがとうございました。
    無責任に身体の障害に触れてしまったので、傷ついた方がいたら本当に申し訳ありません。

    お風呂嫌いな人から、少しでも抵抗を減らせたら幸いです。
    私も今からお風呂に入ってきます。
    おやすみなさい。

    308 :

    結局添い遂げられなんだか……乙

    309 :


    俺も今から丁度風呂入る所だったんだ

    310 = 1 :

    参考文献だけもう一度
    絶景混浴秘境温泉2017(MSムック) 大黒敬太 著
    女性が混浴のレポートをする特典動画付きでした。
    (念のため、まわしものではありません。)

    311 :

    あぁ……乙でした

    312 :

    ダメだったか…おつ

    313 :

    男じゃない人との家庭、なのかなやっぱ。
    男が望んだ未来であり、幸せの形の一つ……だけどやるせない……。
    乙でした。

    314 :

    幽霊じゃないのになんで結ばれないんだ畜生

    315 :

    乙。本当に良かった。
    男は幸せだったよ……

    316 :

    女が真っ当に生きるのを一番喜んでそうだけどなあ、良いメリバだと思う。乙

    318 :

    乙! たまにはハッピーエンドも書いてくれよ!

    319 :

    おつかれ
    よかった

    320 :

    乙。雰囲気よかった。結局、男も女も救われたのかな…

    321 = 316 :

    次のを読める日が早く来ることを祈ってる

    322 :

    面白かったです。
    ライトでポップなのも楽しみにしてます。

    323 :

    タイトルはどんな感じの予定なんですかね

    324 :

    女の記憶に末長く残るって意味では男もストーカーも同じものだけど全く違うものとして残り続けるんやろなぁ


    ←前へ 1 2 3 4 5 6 7 / 要望・削除依頼は掲示板へ / 管理情報はtwitterで / SS+一覧へ
    スレッド評価: スレッド評価について
    みんなの評価 :
    タグ : 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。

    類似してるかもしれないスレッド


    トップメニューへ / →のくす牧場書庫について