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    元スレ女「また混浴に来たんですか!!」

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    51 :

    いい関係になれるといいな

    52 :

    いいぞお

    53 :

    とてもいい雰囲気

    54 :

    仕事の都合で今週はあまり書けそうにありません。明日は時間が取れそうなので投稿する予定です。

    55 :

    待ってるよ

    56 :

    「おっはー」

    「…………」

    「おっはー」

    「…………」

    「なんですか!また無視ですか!」

    「普通の挨拶はできないのか」

    「おはようございます」

    「おはよう」

    「相変わらずのノリの悪さですね」

    「そりゃどうも」

    「思いません?6時や7時から始まる子供向け番組を見ていたあの頃よりも、私たちは早起きするようになってしまったなって」

    「俺は今日は朝帰りだ」

    「不良してたんですか?」

    「そんなところだ」

    「本当は深夜向けアニメですか?」

    「用事があっただけだ」

    「早起きしてアニメ見てた少年は、いつしか夜更かしして深夜アニメを見て眠りにつくようになってしまったとさ……」

    「人の話を聞かないなこいつは」

    57 = 56 :

    「もうすぐ夏休みですね」

    「そうなのか」

    「私の話じゃなくて小学生の話ですが。まぁ私もですが」

    「弟でもいるのか」

    「いますが高校生です。全国の小学生の話です」

    「夏休みといえば小学生じゃないですか?友達とおでかけしたり、お家に遊びに行ったり」

    「女子小学生の夏休みの過ごし方なんて全く想像もつかない」

    「どんな風に過ごしていましたか」

    「ドッジボールとか、カードゲームとか……」

    「ええ!?カードゲーム!?その図体で!?」

    「悪いかよ」

    「親からは買って貰えなかったんだが、周りの奴らにいらないカードを分けて貰った」

    「みんなが捨てたがるようなカードだから、弱いものばかりだった。だが、だからこそ上手く組み合わせて上手に勝つ方法を模索しようとした」

    「それで、勝てたんですか?」

    「全然」

    「あら」

    「やはり、強いカードを配られたものが勝つようになっている」

    「愉快な話だ。強いカードを手に入れるだけの環境に生きている子供は、人生でも強いカードを手にしてると言えるんだからな」

    「……あーそうですか」

    「ああ、お前はそっち側の人間だったな」

    「あなたの戦略がよくなかっただけかもしれないじゃないですか」

    「デッキ、いわばカードの束を交換してやらせてもらったことがあるんだが、別世界だったよ」

    「はぁ、人生と一緒ですね」

    「急に同調したな」

    「化粧したら今まで見向きもしてこなかった男たちが振り返ったとか、整形したら今まで見向きもしなかった男たちが振り返ったとか」

    「すまん、触れてほしくないものに触れたか」

    「別に、整形してないですし、すっぴんです」

    「なら、やはりその胸をほうきょ…のわっ!!」バシャア!!

    「それは触れてほしくないものです!」

    「触ってない!!」

    「物理の話じゃないです!」

    58 = 56 :

    「前髪の隙間からこんなところ見てたなんて…」

    「見てない!視界に入ってくる大きさなだけだ」

    「視界に入る、だけでいいじゃないですか!」

    「女として誇りこそすれ、恥ずかしがることじゃないだろう」

    「男性に見られるのはちょっと……」

    「弾性?やはり自慢か?」

    「お湯かけますよ!」バシャ!

    「のわっ!」ゴボゴボ…

    「もうかかってる…」

    「まったく、ワニがいなくなったと思いきや、天然で下ネタ発言する象のような大柄な男が現れるんですから…」

    「それこそ天然の下ネタ発言だと気づいてるのか」

    「なにか?」

    「いや、何でもない」

    「ワニもこんな山奥までよくやってきましたよ。女性が来るという噂でも聞きつけたんですかね」

    「火のないところに煙は立たぬ。だが、湯気あるところに男はいきりタつ」

    59 = 56 :

    「……はい?」

    「こんな秘境まで来る金があれば、それこそいかがわしい店で遊ぶことも出来ただろう」

    「それでもやつらは混浴に来ることを選んだのだ!」

    「あの……」

    「浦島太郎は煙を浴びて老いてしまったが、ワニは湯煙によって若返ったのだ。混浴こそがやつらにとっての竜宮城だったのだ」

    「さっきから顔赤いですけど……私が来る何分前からお風呂入ってました?」

    「ワニなのに亀と出会い、自分の亀を喜ばせようとする!!」

    「こんなくだらないはなしがあるか!!」

    「はぁ…はぁ…」

    「だ、大丈夫ですか?」

    「景色がまわる……すまんがもうあがる……」ザバァ

    「あの、手貸しましょうか?」

    「不要だ……」

    60 = 56 :

    「……いってしまった」

    「いつもいつもすぐにのぼせてあがってたけど」

    「今日はもうあがろうとしてたのに、私の話に付き合ってくれてたのかな」

    「そして」

    「お湯に浸かると酔ってしまうタイプなのかな」

    「私もカラオケに行くと酔っ払ってるみたいって言われることあるし」

    「体質の問題だからしょうがないよね……」

    「…………」

    「ぶふっ!」

    「おもしろっ!」

    「なにあれ!ちょーうけるんですけど!」

    「シラフの時にからかってやるのが楽しみだな」

    「ふふっ。やっぱり早起きは最高だな。早朝五時から、既に明日までが楽しみだな」

    「それでは、また、早朝」

    61 = 56 :

    「…………」

    「おはようございます」

    「…………」

    「おはようございます」

    「…………」

    「おっはー!!!!」

    「聞こえてる」

    「今日は真面目な挨拶から入ったじゃないですか!」

    「昨日、俺はのぼせてからの記憶があまりない」

    「女子更衣室に入った記憶もですか!?」

    「入ってない」

    「覚えてるじゃないですか」

    「だいたい覚えている。すまん、記憶喪失のふりをしようとした」

    「私こそ記憶喪失したいという心情を読み取れずに申し訳ございません」

    「よせ」

    「いつもはああなんですか」

    「そんなことはない」

    「仲の良い男友達といるときとか」

    「下ネタくらい誰だって喋る」

    「今日はもうのぼせてませんか?」

    「さっき浸かったばっかりだ」

    「でも、自分が下ネタをうっかり女性の前で喋ってしまったことに対する恥じらいを感じるのは偉いです。10点加算です」

    「下ネタだけじゃない。のぼせると、自分の中だけにしまっているようなことをべらべら喋ってしまうんだ」

    「温泉は心も裸にするんですね」

    「綺麗にまとめてくれてありがとう」

    62 = 56 :

    「何か吐かせたいことがあったら、お湯に沈めればいいんですね」

    「恐ろしいことを言うな」

    「あなたの黒歴史はそうやってつくられていったんですね」

    「黒歴史?」

    「知らないんですか?思い出すだけで暴れて死にたくなるような恥ずかしい記憶のことです」

    「複雑な感情だな……。お前にはあるのか」

    「私は特にないですよ」

    「裸で韻を踏んで叫んだこと以外には、か」

    バシャバシャバシャ!!!

    「死にたい……」

    「なるほど、これか」

    「罰として一つ教えてください……」

    「急に言われてもな」

    「何でもいいですから」

    「過去の自分に悪い」

    「過去は過去!今は今!」

    「よそはよそ、みたいに言うな」

    「まぁ、昔の話だが。小学生の頃に好きだった女の子がいたんだが、黒板にその子との相合傘を書かれてな」

    「それでそれで!!?」

    「食いつきがいいな」

    「どうなったんですか!?」

    「落書きをしたやつをボコボコにして、入院沙汰になり、そのことで好きな子からも避けられてしまった」

    「……………………」

    「よ、よくある小学生の喧嘩だぞ。ただ、自分の体格がいかに他人と違うか、まだ自覚がなかったんだ」

    「自覚がないのは恐ろしいですね」

    「全くだ。だから俺は酒も飲まない」

    「お風呂には浸かるけど」

    「それぐらい好きにさせてくれ」

    63 = 56 :

    「それにしてもいいですねぇ」

    「何が」

    「恋の話ですよ!!」

    「私も幼いころからありがちな夢を見ていました。白馬に乗った王子様がいつか私を素敵な場所へ連れてってくれると」

    「新幹線の方が速度もはやいし馬より安い。車内販売もある。よかったな、王子様以上のものと出会えて」

    「そういう現実はいらないです。今日もこれから大学ですよ」

    「行きたくなかったら行かなければいいだろう」

    「そうもいかないんです。レールの上から落ちるより、レールの上を歩く面倒臭さの方がマシそうじゃないですか」

    「俺は落ちた側の人間だからな」

    「またそんなこと言って」

    「今日はもうあがる。またな」ザバァ

    「私はまだ浸かってたいです」

    「お前も新幹線に乗りにいけ」

    「違います」

    「じゃあ馬でもいいから乗ってろ」

    「女です。お前じゃなくて」

    「下半身に刺青を埋め尽くしてるような男に名前を告げるな」

    「じゃあ偽名ということで名乗っておきます。さて、あなたの偽名は?」

    「……男だ」

    「男さん。それではまた早朝」

    「ああ。また早朝」

    64 = 56 :

    読んでくれてありがとうございます。
    今日はここまでです。
    おやすみなさい。

    65 :

    良い

    66 :

    会話のテンポがいいね

    67 :

    「……んん」

    「あら、起こしちゃった?」

    「今起きようと思ってたとこ」

    「そりゃあ寝ながらご苦労なこった」

    ピピッ ピピッ

    「ほら、目覚まし」

    「今日もはやいんだねぇ」

    「偉いでしょ。あっ、また朝ごはんおいしそう」

    「一緒に食べようか」

    68 = 67 :

    「あんた、また風呂行くね?」

    「そうだよ」

    「毎朝大変ねぇ」

    「お婆ちゃんは夜に街中のお風呂行ってるんだよね」

    「うん」

    「毎日面倒くさくない?」

    「週に3回くらいしかいかん」

    「毎日お風呂入りたくならない?」

    「だったらこんなとこ住んどらん」

    「ふふっ。お風呂嫌いなら、銭湯行くのなんてますます気が重い気がするけどなぁ。それに安くないし」

    「(私は多額の仕送りで行ってるけど)」

    「銭湯は、いろんなひとがいるからね。友達もたまに会うしねぇ」

    「お金はあんたんとこのお父さんのようには持ってないけど、元の家の固定資産税考えたらとんとん」

    「へー、そうなんだ。よくわかんないけど」

    「あんた、最近顔にいい艶がでてるよ」

    「へへっ。温泉の成分がいいのかな。お婆ちゃんも連れてってあげよっか?」

    「そのうち頼むよ」

    「任せといて。まぁ今はこのおいしそうなご飯をいただくとするよ。いただきまーす」

    69 = 67 :

    「おはようございます」

    「ああ、おはよう」

    「毎日よく飽きもせずに来ますね」

    「お前には言われたくない」

    「お風呂入るのってめんどうくさくないですか?飽きないですか?生まれてからの日数と同じくらいはいってるんですよ

    「飽きるとかいうものではないだろう。それを言ったら食事は三倍食べてることになるぞ。睡眠もだ、毎日寝てる」

    「性欲も毎日ご発散なされてる?」

    「丁寧な言葉遣いなら内容も丁寧になるわけじゃないぞ」

    「そう考えるとお風呂ってすごいですね。三大欲求に匹敵する存在かもしれません。食欲、睡眠欲、性欲、混浴」

    「混浴に限定するな」

    「韻を踏むのが好きなので」

    「知ってる」

    「混浴は性欲に含まれてしまいますかね?」

    「俺はそんな邪心で来ていない」

    70 = 67 :

    「お風呂って、めんどうくさいですよ。歯磨きの比ではありません。お風呂に入るついでに歯磨きはできますが、歯磨きのついでにお風呂は入れません」

    「んっ?すまん、俺の理解力が乏しいのか何を言ってるのか全くわからん」

    「毎日勉強したり、なわとびしてたら誉められるのに、お風呂に入っても誰からも誉められないんですよ?」

    「入るのが当たり前だからだろ」

    「本当困っちゃいますよ。日本には海外のように深い信仰心がないみたいに言われますけど、お風呂教は確かに存在していますよ」

    「日本人は時間に厳しいとか、空気を読みすぎとか、繊細だとか、そんなのトップレベルの人たちがそうしたがるから下にいる人も頑張っているだけです」

    「みんながみんな当たり前のように思っているのはお風呂の存在ですよ。入って当たり前。受験勉強に対してはちゃんと金属バットで学校の窓ガラスを割って全国の子どもたちは抵抗しているのに、その子達ですら毎日お風呂には入ってしまうんですよ」

    「バイクで爆音を街中に撒き散らかした不良のリーダーも、帰ったら髪の毛を濡らしてシャンプーを手につけて頭を洗い始めるんですよ?お風呂へのあまりの無抵抗さに、無気力感がわきおこって絶望しませんか?」

    「裸で座って頭をもたれさせながらごしごし洗ってる姿って、まさに何者かの存在に向かって拝んでるように見えてきませんか?」

    「お前の方がよっぽど取り憑かれているぞ。お風呂入りたくない教か何かに」

    71 = 67 :

    「私、お風呂嫌いな子供だったんですよ。お風呂入りたくなぁいってグズグズして、お母さんに注意されてから毎日入っていたんです」

    「今じゃ想像できないな」

    「今だって根は変わりません。お風呂はいるのってめんどくさいじゃないですか。服を脱いだら寒いですし、上着を脱ぐ時に首周りの部分が唇や鼻や髪の毛にひっかかるのも嫌ですし、髪の毛や身体を洗うのも、乾かすのも大変です」

    「ましてや、基本お風呂に入るのって眠い時間帯じゃないですか。ソファに寝転びながらテレビを見てて、そのままお布団に行くのさえだるいのに。お布団に行く前に風呂に行かなきゃならんってなった日にゃあ、こりゃあもう、ガソリンスタンドの洗車のように30秒で通過できるような人洗いマシーンなんかを空想してしまうわけで」

    「車はいつも裸だからできるけどな」

    「結局、私みたいにごくごく稀な、お風呂嫌いのイレギュラーな存在は、異端審問にかけられた挙句、全身をたわしでごしごし磨かれてしまうんです」

    「そして子供時代に改心させられて、早朝に入るようになったのか」

    「今では首までどっぷり浸かってます」

    72 :

    すげーわかる

    73 = 67 :

    「猫に生まれてたらお風呂に入らなくても誰にも文句言われないのになぁって思ってました」

    「誰にも会う予定がない場合は、洗わなかったのか?」

    「それが人間の嫌なところで」

    「3日が限界だったんですよ。3日間入ってないと凄く不快な気分になってくるんです」

    「やっぱりいお風呂に入りたいという気持ちは正常なんじゃないか」

    「和歌が詠まれるような時代にも、貴族は蒸し風呂のようなものに入っていたそうです。行水といって、水辺に洗いにもいってましたしね」

    「けれど、お風呂に入る文化が生まれる前の日本はどうだったんでしょうね。水は飲むものであって、浴びるものではなかった時代」

    「真冬にも冷たい水を浴びる選択肢しかなかった時代もあると思うと、私はやはり恵まれた時代に生きているんでしょう」

    「ところで、のぼせましたか?」

    「ちょうどな」

    「私はもうちょっと浸かります」

    「そうしてろ。金がもったいないからな」

    「ここは格安ですけどね」

    「混浴は無人で無料の場所であったり、管理人がボランティアでやってるようなところも多い。まぁ脱衣場もないようなところばかりだがな」

    「私、小さい頃の夢が」

    「話題がよく飛ぶな」

    「あなたがすぐのぼせるせいです。私、小さい頃に、自分がおとなになったらなりたいものは浮かばなかったんですけど、おばあちゃんになったら駄菓子屋さんのおばあちゃんになりたいって思っていたんです」

    「今は、銭湯のおばちゃんもいいかなって思っています」

    「いい暮らし感だな。お嬢様が飽きないかはわからんが」

    「まぁ、湯を求めに来る人々を毎日見守るのもいいですけど。温泉掘り当てるよりは、石油を掘り当てる人に憧れますけどね。都心にあるマンションの高いところで、人工的な七色で光る自宅のジャグジーに浸かるのもまたいいです」

    「それこそすぐに飽きちゃう気もしますが」

    「そうかもしれないな」ザバァ

    「もうちょっと引き伸ばせたらまたのぼせさせられたのに」

    「俺が食いつくような話題を提供することだな。まぁ、今日のはなかなか新鮮だった」

    「えへ、そうでした?」

    「女も綺麗好きとは限らないってわかったからな」

    「鮮度の悪さ度合いが新鮮でしたか……」

    「それではまた早朝に」

    「はい。いってらっしゃい」

    「お前もな」

    74 :

    話しの流れがすごく好き

    75 = 67 :

    「おはようございます」

    「おはよう」

    「それで思い出したんですけど、アナウンサーがバラエティ番組に出ていて」

    「途中で止めてたビデオをいきなり再生したかのように話し始めたな」

    「あなたがすぐのぼせるのがいけないんです」

    「それでなんだ」

    「昔見たバラエティ番組で、美人なアナウンサーが言ってた言葉が印象的でした」

    「好きな人にはお風呂に入らないでほしい」

    「入らないでほしい?」

    「私はその気持ちがわかります。お風呂に入ると、その人がなんだか薄れてしまう気がしませんか?」

    「身体を洗わずにいる方が、その人の成分がより強い気がするんです」

    「アナウンサーになるような美人で賢い人でも、こんな俗世の欲望があるんだなって、ギャップに惹かれました。そのあと野球選手と結婚したんでそこは普通なんだって勝手にがっかりしましたけど」

    「トイレから出てケツ拭かない男は嫌だろう」

    「あのー!!あのー!!」話聞いてましたか?」

    「汚いほうがいいって話じゃなかったのか?」

    「変態心がまるでわかってない」

    「まともってことじゃないか」

    「これは変態ぽいな、って感覚がない人の方がよっぽど危険な変態の可能性を秘めているんですよ」

    「好きな人こそ綺麗でいる姿を思い浮かべるだろう」

    「アイドルは大きい方しないとか思っちゃってません?」

    「アイドルも大きい方はするがウォシュレット派が多数で丁寧にケツを拭き、ゲップもするが口元を隠すし、鼻水は出るが人前ではティッシュに出さないというイメージだ」

    「絶妙にまとも……。好きな人にだけ沸く特別な感情って無いんですか?」

    「それこそ好きだという気持ちだろう」

    「あっ……今ちょっとキュンときました」

    「風呂に入ってほしくないってのは、引いたりはしないが、理解もできん」

    「なんというか。その人だけ、って感じじゃないですか。3日4日入ってなければさすがに嫌ですけど」

    「一日だけ、たとえば恋人と同棲していて金曜日の夜に寝ちゃって土曜日の朝に起きた時に。起きた時の恋人がお風呂に
    はいってないのって、隙きだらけでいいなぁって思いません!?」

    「ううう!!この想いSNSでシェアしたい!!!」

    「世界を敵にまわすのはゲームの主人公の男の子だけで充分だ」

    76 = 67 :

    「好きな人がお風呂に入らないのいいなぁ」

    「好きな人とお風呂に入るのはどうなんだ」

    「そんなの恥ずかしいに決まってるじゃないですか!!!」

    「混浴来てる女が言うセリフか」

    「恋人と混浴に来るのはいいですけど。お家でお風呂に一緒に入るのは恥ずかしすぎますよ」

    「女心は複雑過ぎるな」

    「そもそもうちは両親が厳しいので同棲なんて状況ありえないんですけどね」

    「今時珍しいな」

    「過保護の星で生まれ育ってきたんです。今もですけど。だからこそ、なんとか一人で立とうとした私は、海外に行ったり、こうして田舎に来たり、色々試しているんです」

    「親から殴られてきた俺とは対極だな」

    「あっ……」

    「いちいち後ろめたそうな顔をするな。最初に言っただろう。俺とおまえは生きる時間が違うって」

    「それでもな、俺のことを守ろうとしてくれた人が人生で現れてくれたこともあった。それらも全部徒労でおわったけどな」

    「全部俺という存在が終わってしまったあとで、お前が現れたんだ。後ろめたく思うのはむしろ俺の方なんだ」

    「……怖いですが、ちょっとずつ話してほしい気もします」

    「あなたの人生がどういうものだったのか。興味本位といえばそうなんですけど」

    「名を名乗るにはまず自分からだな」

    「前いいかけてたお前の過去は何だったんだ?」

    「ワニが現れる前のことですよね。やっぱり気になってたんじゃないですか。今更話してくれだなんて」

    「俺と対極の生き方をしてきた女の人生に興味はなくはないからな」

    「うーん、刺青を入れるような、激しい過去ではありませんが。とても、無口で暗いものなんですが」

    「私、不登校だったんですよ」

    「それで?」

    「え、あの、不登校だったんです。学校に行きたくなくなって」

    「そんなもん、俺もよくさぼってたぞ」

    「ほら、これだから怖くてでかくてごつい人は……」

    「もうあがっても大丈夫か?」

    「どうぞお好きに」

    「では失礼する」ザバァ

    「本当失礼ですよ」

    「期待に答えられなくてわるかった」ザバァ

    「いいんです。たしかに、今となっては、"そんなもん"にすぎない気もしますし」

    「ちょっと気持ちが軽くなったかもしれません」

    「それならよかった」

    「それではまた早朝」

    「また早朝」

    77 = 67 :

    「…………」

    「あなたがいつも、ここの温泉が開く時間に来てるというのはだいたいわかっています」

    「私は、あなたがすぐのぼせることに対して文句を言うわりには、いつも、少しだけ時間を遅らせて来ているんです」

    「旅は恥のかき捨てだなんて言って、実験的に何もかもをさらけ出すようなことは私はしたくありません」

    「だから、さらけ出せる部分だけをさらけ出そうと思っています」

    「混浴ですものね」



    こんなことを思っている私は、やはり過去から何も学んでいないのだろうか。

    目の前の人が何を抱えて生きてきたとも知らずに。

    自分だけが、世界の苦しみを背負っているとでもいいたげな目で自分だけを見て。



    お風呂の工事は、今週いっぱいで終わると聞いた。

    お風呂に入って100数え終わるまでに。

    私は、人生を許すことができるんだろうか。

    78 :

    プリミティブピーポーな混浴。

    エインシャントシャワーな混浴。

    バッタバッタと快刀乱麻の如き混浴。

    激昂する混浴。



    人生で感じたことのない痛みに襲われていた私の頭のなかでは。

    難関私立高校を受けるために日々覚えていた言葉がぐるぐると脳裏を駆けめぐっていた気がする。

    どうして混浴というワードがついたのだろう。

    全ては後付けかもしれない。

    最近の出来事に触発されて、あの激痛の時間に意味があったときっと思い込みたいだけなのだ。

    救急車か何かが今すぐ私を助けに来てくれることを切望していた。

    早く救ってくれ、という願いが叶うのは。

    それから5年近く経った、今になるのかもしれない。



    しかし、それは完全なるハッピーエンドとも限らない。

    "希望なんて、無い"

    そう納得できるのもまた、1つの安らぎに違いないのだから。

    次回「本屋でトイレに行きたくなるし、お風呂でおしっこしたくなるだろ?人生、垂れ流しだ」

    屈斜路湖露天風呂の数多の白鳥も、水面下ではバタ足をしているのでしょうか。

    79 = 78 :

    ご支援ありがとうございました。
    おやすみなさい。

    80 :

    乙、毎度絶妙な予告の文句だな

    81 :

    「……あれ。まだ来てないや」

    「お仕事が長引いてるのかな」

    「身体でも洗っておこうっと」

    ゴシゴシ

    「それにしても、刺青をしてる人と話してるなんてな」

    「ピアスを開けてる女の子でさえほとんどいない環境下に育ったのに」

    「お父さんのコネで就職が決まった会社も、理系の大学院生がいっぱい入るような会社だし」

    「はぁー。私は私自身を乗り越えようと本気で戦ったことがなかったな。お父さんのお金で冒険ごっこをしてるくらいで」

    83 = 81 :

    「おう。おはよう」

    「おはようございます」

    「一番風呂をとられたか」

    「遅刻するあなたが悪いんです」

    「まだ5時代だぞ。皆まだ寝ている」

    「よそはよそ、うちはうちです」

    「ん?」

    84 = 81 :

    「よいしょっと」ゴシゴシ

    「あれ、身体洗うんですね」

    「マナーだからな」

    「洗ってないのかと思ってました」

    「ワニがいた時言ったのは冗談だ」

    「見ててもいいですか」

    「何を」

    「身体を洗っているところ」

    「なんでだよ。ワニじゃないんだから」

    「ワニにだってメスはいるでしょう」

    「ああいえばこういうやつだ」

    「こういう奴なんです私は」

    85 = 81 :

    「…………」ゴシゴシ

    「…………」ジ-

    「洗いづらいな…」

    「楽しいか?」

    「背中大きいですね」

    「そうかもな」

    「刺青はどう思う?」

    「確かに温泉にこんな人が入ってきたらびびっちゃうなぁって」

    「そうか」

    「でもあなたの大きさを見たらどうせ男ならみんなびびっちゃいますよ」

    「……背中を見ているんだよな?」

    「背中のはなしですよ?」

    86 :

    「刺青って染みたりしますか?」

    「染みないな」

    「身長が高いのって幸せですか?」

    「役に立つことは多いな」

    「ふぅーん」

    「…………」

    「洗いづらい」

    「そうでしょうね」

    「視線を感じる」

    「視てますもん」

    「正面からじろじろ見るな」

    「……どういう意味ですか?」

    「せめて横目でチラ見するくらいの配慮はないのか」

    「そういう意味でしたか」

    「男の子の裸を見てキャーっと手で顔を多い隠すも、指の隙間から見ている女の子がタイプだということですね」

    「話を盛り上げるな」

    「チラ見はしません。景色でもみてます」

    「そうしろ」

    87 = 86 :

    「ふぅー」ザバァ

    「生き返るなぁ」

    「さっきまで死んでたんですか?」

    「いつも死んでるみたいに生きてるよ」

    「そうですか」ザバァ

    「もうあがるのか?」

    「私はすぐにのぼせたりしません。定位置に着くんです」

    「あなたは奥。私は手前。お互い、いつも同じ所の石に寄りかかってるじゃないですか」ザバァ

    「俺は奥に詰めてただけだ。特にこだわりはない」

    「好きな女性のタイプは?」

    「特にこだわりはない」

    「そんなんじゃ根無し草になってしまいますよ」

    「根のない草などあるのか?」

    「ことわざですよ」

    「それくらい知ってる」

    「初恋の人の性格は?」

    「根掘り葉掘り聞くな」

    88 = 86 :

    「育ちがよくて、性格がおしとやかな女の子に欠けてるものってなんだと思います?」

    「どうした急に」

    「自己分析です。就活生の間で流行ってます」

    「おしとやかか…。自己分析をする前に自己分析が必要なようだ」

    「育ちの良い女性はモテますか?近寄りがたいにしろ、人気はありますか?」

    「モテるだろう」

    「えへへ」

    「だが安心感に欠けている」

    「安心感?」

    「その子から恵まれた環境を取り除いたら、その子はどう変わるのかという不安がある」

    「ふむふむ」

    「薄手の服を着ているか、着物を着ているかの違いのようなものだ。薄手でスタイルが良い女は安心だ」

    「着物の方が脱いだ時の姿が楽しみじゃありません?」

    「…………」

    「共感しました!?今共感してましたよね!!?」

    「う、うるさい」

    「じゃあやっぱり薄手のバスタオルが一枚の方が?」

    「このメスワニはやっかいだな…」

    89 :

    「安心感ですか」

    「どうした」

    「安心感が大切なんだなって」

    「温泉でもそうだろう。ゆったり浸かっても許される空間を求める。ハラハラドキドキなんて誰も求めちゃいない」

    「女の子はハラハラドキドキしたまま安心したいんですよ」

    「ジェットコースターに乗りながら寝ていられるか」

    「お父さんにおんぶしてもらいながらお化け屋敷を歩くのは思い出に残りますよ」

    「母親と観覧車に乗るのもわるくないだろ」

    「そんな思い出があるんですか?」

    「一切ないから憧れていた」

    「私は親との思い出ばかりです」

    「そうか」

    「あなたは?」

    「何の思い出もない」

    「どんな時間を過ごしていたんですか?」

    「俺の人生なんか聞いてもろくな哲学は得られないぞ」

    「押して駄目なら引いてみろって言うじゃないですか」

    「それが何だ?」

    「今の自分が不幸だと思ってるなら、今までの自分がしてきたことと逆のことをすればいいんじゃないかと思うんです」

    「あなたと私は見るからに真逆の生き方をしていそうじゃないですか。だから、あなたの真似をすれば、私の人生きっとひっくり返るって」

    「……くく」

    「…………ふふ。最悪だな俺は。しかし」

    「ははは!笑いが堪えられんな!そうか、俺の人生を真似してみるか!手始めに刺青でも入れたらどうだ?」

    「……気に障ったならそう言ってください」

    「気に入ったんだよ。思っていた以上に図太いやつかもしれないな、お前は。ふっふっふ」

    「刺青を入れることになった経緯くらいなら教えてやろう」

    「なんだかドキドキイライラしますが……ありがたいです」

    90 = 89 :

    「殺してやったらどうだ」

    駐車場で倒れ込んでいる俺に、話しかける男の声がした。

    こういうやつらは今までにもいた。明らかに人生に敗亡しているような俺に、興味本位で話しかけて来る。

    言葉だけは心配そうにしながらも、言葉の調子や顔の表情は決まってにやついている。

    群れているから強気なのだろう。

    3人、4人、多いときには8人近い時もあった。

    弱ければ弱いほど力を高めるために大人数で群れている。

    だから、群れの力は、結局どこも同じなのだ。

    俺は憎しみを込めながら、いつものように返答をする。

    「お前らこそ殺すぞ」

    体中の痛みを堪えながら俺は立ち上がる。

    中学の後半には、既に他人を見上げることが滅多にないほど俺の背は高くなっていた。

    体格にも恵まれ、同級生との喧嘩では負けた記憶はない。

    ふらふらになりながらも、こちらの立った姿を見た相手はひるんで去っていくものだった。

    91 = 89 :

    時間の流れがわからない。

    痛覚と麻痺が入り混じった感覚ばかり流れる。

    しかし、それでも相手が去る気配だけは感じなかった。

    「人を殺すときくらい、相手の目を見たらどうだ」

    俺は顔をあげた。

    相手は一人だった。

    いい年したおっさんだ。身体つきは良いが身長は小さい。

    自分の息子にでも姿を重ねて俺を気にかけたのだろうか。

    「捻り潰すぞ……」

    俺は相手の目を見ないように気をつけながら、脅すように言った。

    ナイフや、銃でも持っていない限り、普通の喧嘩で俺に勝てるようなやつはいない。

    あるいは、母の依存している義父でも無い限りは。

    「背の低いやつと、体格の悪そうな奴には喧嘩を売るんじゃねぇ」

    「弱いから、ナイフと銃を持っているやつが多いんだ」

    肩を掴まれたと気づいた後に、一瞬心地の良い背中の感覚があった。

    そして、俺は地面に叩きつけられた。

    頭の中に広がるチカチカとした星々と、夜空に浮かぶ現実の星々が交差し、視界が混乱した。

    額に冷たい感触が触れた。

    「ほらな、俺はどっちも持っている」

    落ち着いて、視界を認識すると、拳銃のようなものと、ナイフと、俺を投げ飛ばした親父の目が見えた。

    途端に汗が吹き出てきた。

    「はぁ…はぁ…」

    「さっきまでの威勢はどうしたんだ」

    「や、やめてくれ…」

    「死にたくないか?」

    「し、死んでもいい……」

    「はぁ?」

    「み、見ないでくれ」

    「頼むから、俺の目を、見ないでくれ……」

    92 = 89 :

    俺は家には帰らなくなった。

    変わり果てた母と、母を変えた男の住む家に帰っても、俺は二人の世の中への恨みを一身に浴びるだけだった。

    俺は母を愛していたし、本当の父親も愛していた。

    しかし、母は俺の実父を愛してはおらず、実父そっくりの目を持つ俺のことも、もう愛してはくれない。

    小学生の時には既にヒビが入りつつあった関係は、俺が中学に上がる頃には決定的に壊れてしまった。

    実父は家を離れてからも、時々は俺に会いに来てくれていた。

    しかし、母に新しい男ができてから間もなく、二度と会いにきてくれることはなかった。

    俺は何も知らなかったが、ある一点に関することは何もかもを悟らされた。

    今この世界にはもう、自分を愛してくれる人間はいないのだということを。

    93 = 89 :

    「私は、正しい」

    俺の頭を両手で押さえつけて、目をじっと見据えながら、母はこの言葉を俺に植え付けていた。

    物心が付く前から行っていた教育らしい。

    功を奏し、俺の心は母の物になった。

    俺は母親に愛されるためではなく、母親を愛するために生まれてきた男の一人になった。

    俺は主張をすることをしなかった。

    じっと耐えることができる男になった。

    小学生にあがっても俺は寝小便をしていたし、学校では落ち着きがないと言われた。

    そのことで母親に暴言を吐かれ、暴力を振るわれても、一切何も言わず、黙って愛のない鞭を受け容れ続けてきた。

    俺にとって、母は正しい人なのだから。



    母は容姿の美しい人だった。

    学業面に関しても昔は賢い人であったそうだ。

    そして、傷跡の多くある人だった。

    自分でも傷をつけ、男からも傷をつけられていたらしい。

    母と交際しても、唯一傷をつけたことがない男が実父だった。

    大人しい人だった。

    その実父が、ついに、一度だけ母に手をあげたことがあった。

    夜遅くに帰宅した実父は、ぼこぼこにされている俺を見て、母に痛みの意味を少しでも教えようとしたらしい。

    母は一瞬呆然としたあと、これまで見たことがない様な恐ろしい形相を浮かべ、激しい自傷行為に及んだ。

    俺は、安心できる場所というものをこの日完全に失ってしまった。

    94 = 89 :

    「それで、どういうわけか、俺は実父に暴力をふるってしまったんです」

    「馬鹿かてめーは」

    「はい。馬鹿です」

    「母親と一緒だな」

    「いいえ。母は正しい人ですが、私は全てが間違っています」

    「糞ガキが」

    学校に通わなくなってからどれだけ経っただろう。

    虐待を疑って、学校の教師や、スーツ姿の大人が家に何度か訪れたことがあった。

    母は、美しく、学歴や職歴というものも立派だったらしく、それでいて相手を同情させる雰囲気を醸し出す才能があった。

    母は手に入れたものに感謝をすることはなくて、手に入れられなかったものに対していつも恨んでいた。

    母に従っていた俺は、ありがとうの一言を貰うことはなかったものの、恨まれてはいなかった。

    今は、家を飛び出して、愛すべき母親の奴隷になることをやめてしまった。

    「母親に愛されるためだけに生きていたんです。何のために生きていいのかわからない」

    「でもこうやって逃げ出してんじゃねーか」

    「それはあんたが」

    「あんたってのはやめろ。親父さんでいい」

    「……」

    親父「俺もお前のことは男と呼ぶ。せっかく名前を教えあった仲なんだ」

    親父「これからは、俺との繋がりを大切にして生きていけばいいんだよ」

    俺は忘れていた。

    母親が何度も暴力を振るう男を引き寄せていたことを。

    自分はその母親の息子だということを。

    親父「お前のような倅が欲しかったんだ。これから、よろしくな」

    今でこそ思う。

    そこに、愛などなかった。

    95 = 89 :

    親父「肩まで浸かれ」

    「はい……」

    親父「100数えるまで出るなよ」

    「はい……」

    親父「がはは。いい景色だねぇ。極楽極楽」

    「はぁ……はぁ……」

    親父さんは温泉に入るのが好きだった。

    足にも背中にも、刺青を入れていた。

    禁止されていようが、周りに客がいようが、お構いもなく温泉に入りにいった。

    客に通報されて怒り狂ったのを止めたことも何度かあった。

    ただでさえのぼせている俺に、喧嘩の強い親父さんをとめられるわけもなく、だいたい俺が倒れ込んで事態を収束させるよいうことが多かったが。

    親父「お前、女はいるのか」

    「いいえ」

    親父「もしかしてあっちか?」

    「いいえ」

    親父「何故つくらない?」

    「いや……」

    親父「どうした?」

    「熱いっすね、ここ」

    親父「誤魔化すんじゃねーよ」

    俺は湯船に浸かることが苦手だった。

    熱に弱い体質だった。

    真夏に外を歩いている分には耐えられるのだが。

    熱の篭もった車で運転されたら数十分もしないうちに必ず戻し(母に叩かれた)、体育館で校長先生の話が長引いた時に立ちくらみをして倒れたことも何度かあった(保健室の先生には殴られなかった)。

    病気というわけではなく、単に、極度に苦手なのだった。

    強い体躯に生まれた代償なのだろうと思っていた。

    それならせめて家庭環境の代償に大きな幸福の1つや2つを与えてくれとも思ったが。

    風呂好きな親父さんがあがるまでは、俺はあがることができなかった。

    母親代わりの父親という存在を前にして、俺はまたしても、"耐える"という手段で愛情を得ようとするやり方しかわからなかったのだ。

    親父「情けねぇやつだなぁ。だったら、今夜はお前に女を教えてやろう」

    「いいですよ。お金持ってないですし」

    親父「おめぇは払わなくていいんだよ」

    俺はこんな形で女を知りたくなどなかった。

    "初めては、好きな人と"

    そんなセリフを、この俺が、この親父さんに到底言えるわけもなく。

    とっくに100秒以上湯に浸かったあとのサウナにも、初めて味わう女の艶めかしい男として最高の感触にも、じっと耐え続けたのだった。

    96 = 89 :

    その人が身内にあたる態度を見よ。それがやがてあなたに接する態度である。

    どこで聞いた言葉だったか忘れてしまったが。

    多分、実父が教えてくれたのだとは思うが。

    俺はこの言葉の意味をもう少し考えるべきだった。

    親父「口約束は死守するんだったよな」

    親父はヤクザとも、暴力団ともわからない存在で、どちらかというと会社の経営者に近かったのかもしれない。

    事務所の隣にある小屋に俺は寝泊まりをさせて貰っていた。

    事務所には定期的に、スーツ姿の険しい顔付きの大人の男たちが出入りをしていた。

    親父は自分に従順でない者は許さなかった。

    努力や誠意は、過程ではなく結果で判断する人だった。

    親父「ただで飯を食うつもりなら、死んでもらうからな」

    親父にぼこぼこにされた大人が倒れていた。

    周囲にいる男たちは見向きもしなかった。

    俺は倒れている男をただ見ていることしかしなかった。

    親父「大丈夫。お前は俺の倅だからな」

    俺が恐怖で立ちすくんでいると勘違いしたのか、親父は俺の背中をなでてくれた。

    しかし、俺は倒れている男を見てこう思っていた。

    これが、今までの俺の姿だったのかと。

    「親父さん」

    親父「なんだ?」

    「明日、殺してきます」

    俺を痛みつけた義父に、同じ目を遭わせてやろうと思った。

    視界の端に見えた親父の目が、妙に輝いたと感じたのは、気のせいではなかったと思う。

    97 = 89 :

    「なんだよ」

    数カ月ぶりに帰ってきた俺を見た義父は、怒りの表情を浮かべていた。

    ただただ俺の存在が迷惑だといわんばかりだった。

    母の姿はなかった。こいつを養うために、仕事に行っている最中なのだろう。

    俺は、このあとの人生なんてどうでもいいから、全ての憎しみを目の前の男にぶつけたいと願った。

    「お前を殺しに来たんだよ」

    母と義父からは殴られ、蹴られる一方だった。

    生まれてからずっと正しい存在であった母に、反抗することなんて考えられなかった。

    「お前を、殺しに来た」

    相手の目もろくに見ずに、俺はもう一度告げた。

    そして、今まで抑えつけていた才能を、開花させた。

    「……ぐ、ぐぁああああああ!!!!」

    俺は暴力に関して、天賦の才を与えられていた。

    実父も大人しい人だったが、体格は他のどんな大人よりも恵まれていた。

    そこに今は、母親によって後天的に思春期に培われた、暴力に対する嫌悪感の無さが加わっていた。

    暴力は正しい手段だと、最高の教育を受けていたようなものだった。

    「……ひぃ。……ひぃ。…………うぎゃああ!!!!」

    義父の身体はおもちゃのようにぐにゃぐにゃと曲げることができた。

    義父の身体にはスタンプを押すように簡単に痣の跡をつけることができた。

    服が張り裂けると、身体に刺青が彫られているのが見えた。

    親父さんと同じことをこの男がしているのが許せなくなり、怒りの感情がさらに沸いた。

    俺は容赦なく、何度も何度も、この男に暴力を振るった。

    98 = 89 :

    「ただいま。お土産です」

    厚い紙幣を手に持つ俺を見て親父は驚いていた。

    義父を脅して家にある現金と、銀行への預金を引き出すためのカードとパスワードを教えて貰った。

    手切れ金だと伝えて俺は家を出た。

    母が一生懸命働いている割には、期待したほどの額ではなかったが。

    親父「ぶんどってこれたのか?傷1つ負わずに」

    「配られたカードが強かった」

    親父は疑問の表情を浮かべた。

    「喧嘩の仕方とか、そんなもの、知らなかった。でも、俺は暴力のやり方に関しては考える必要がなかった。適当にやっても、力の強さが全てを抑えつけてくれる」

    「勝ててしまうんですよ。勝ち方がわからなくとも」

    「俺は確信したんです。俺には天賦の、暴力の才能がある」

    「この力が役立つ場所であれば。俺をここで働かせて下さい」

    親父は驚いた表情をしたあと、満面の笑みを浮かべた。

    親父「そうか!そうか!!」

    親父「やってくれるか!我が息子よ!」

    ずっと待っていたと、言わんばかりに、俺の背中を何度も叩いた。

    99 = 89 :

    親父「俺の隣にいてくれるだけでいい」

    「ちゃんと戦いますよ」

    親父「俺がいいと言うまで誰も殴るな」

    仕事をする上で1つ学んだことがある。

    暴力の才能は2つに分かれるということだ。

    一つは、そのまま暴力を振るう力に長けていること。

    親父「俺は強いだろ?万全な状態のお前とやっても、まぁ勝てるだろうな。身体つきだけで喧嘩が決まるなら、空手家が猛牛を素手で倒せたりはしなかっただろう」

    親父「でもな、俺はなめられやすいんだ。身長があまり高くないからな」

    もう一つは、暴力を振るう力に長けていると相手に見せることだ。

    親父「中身が弱くても、でかいだけで相手がひるむんならそれでいいんだ。喧嘩が強そうに見える1番の長所はな、喧嘩をせずに済むところなんだよ」

    100 = 89 :

    親父がビルの中に入り込むと、中にいた男たちが一斉に振り向き、親父を、そして俺を見た。

    代表者と思われる男と親父が交渉をはじめた。

    代表者は俺のことをちらちらと見てきたので、俺は視線を反らした。

    しばらし経った後に他の従業員を呼び、細長い紙に何かを書かせ、ハンコを押した後、親父に手渡した。

    事務所から出ると親父は説明した。

    親父「こいつは手形っていうんだ。こいつを受け取る権利を、うちのお客さんに与えさせたんだ。まぁ、取り立ての代行みたいなものだ」

    そして親父はガハハと大きな声で笑った。

    親父「新人研修ってやつだなこれは。オンザジョブトレーニングってやつだ。どうだ、簿記の勉強でもするか?役に立つぞ?」

    親父はまた一段と愉快そうに笑った。

    親父の言うことはよくわからなかったものの、ただそこにいるだけで役に立てているという実感が、今までの人生とはあまりにも正反対で、俺は嬉しく思ってしまった。


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