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元スレ京太郎「俺が三年生?」淡「えへへ、だーい好き!」
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由暉子「……いなくなっちゃ、いやです」グイッ
京太郎「え――んむっ」
揺杏「うわっ」
成香「はわっ!?」
由暉子「……」
京太郎「……なにかあったのか?」
由暉子(こんな時でも、彼の声音は優しくて)
由暉子(いたたまれなくなった私は……)
由暉子「――っ」ダッ
成香「ゆ、ユキちゃん!」
京太郎「……」
揺杏「いいの、追わなくて?」
京太郎「そっとして欲しい時もあるだろ」
成香「そうなんでしょうか……」
京太郎(それに、今は何を言えばいいのかもわかんないしな)
京太郎(……いなくなっちゃいや、か)
揺杏「ところでさ、にーさんってなんか手慣れてなかった?」
京太郎「何の話だよ」
成香「その……なんだかあんまり動じてなかったように見えました」
京太郎「くだらない話はやめて戻るぞ」
揺杏「っべーな、あれ絶対経験豊富なパターンだよ」
成香「け、経験豊富ですか」カァァ
京太郎「戻るぞ!」
おやすみ>>1
由暉子「……」トボトボ
由暉子(やってしまいました)
由暉子(これはきっと取り返しがつきません)
由暉子(あの人はいつもと変わらずに接してくれるかもしれないけれど)
由暉子(表してしまった私の気持ちは、もうごまかせません)
由暉子(でも、なによりも気がかりなのは……)
由暉子「……最低です」
由暉子(正体のわからない不安から逃れるために、自分の気持ちを利用したことです)
由暉子(縋るものがあれば逃げ出せるのではないかと、そう思ったからです)
由暉子(それは私の恋心にも、あの人にも失礼なことで)
由暉子(だから気遣うような言葉をかけられて、逃げてしまいました)
由暉子(成香先輩のお手伝いもすっぽかしてしまいましたし、色々な意味で合わせる顔がありません)
「あれれ、もしかして真屋由暉子ちゃん?」
由暉子(かわいらしくて、でも落ち着いた声に呼び止められます)
由暉子(振り向くと、女性が立っていました)
由暉子(知り合いではないはずですが、なんとなく見覚えがあるような気もします)
「人違いだったかな? だったらごめんね」
由暉子「いえ、合ってます。ちょっと驚いてしまいました」
「あはは、由暉子ちゃんも有名人だからね。ちょっと慣れといたほうがいいかも」
「でも……うん、やっぱり実物だともっとかわいいねっ」
「ね、よかったらどこかお店入らない? 前から一回お話してみたいと思ってたんだ」
由暉子「あの……知らない人に着いていくのはちょっと」
「あ、そっか。じゃあこれでどうかな?」
「――はややっ☆」
由暉子「あ……もしかしてはやりん?」
はやり「うん、はじめましてだね」
久『それで、あんた今どこいるわけ?』
京太郎「北海道」
久『はぁ? もしかしてふざけてる?』
京太郎「冗談で済めばよかったんだけどな……」
久『にわかには信じがたいけど……なに、瞬間移動でも覚えたの?』
京太郎「なんか鳥っぽいのに運搬された」
久『ますますわけがわからない……』
京太郎「俺もわけわかんないから心配すんな!」
久『とはいっても、一番心配してたのは和よ?』
京太郎「だろうな。目の前でアブダクションされたからな」
久『とりあえず無事だって伝えとくけど、どうやって帰るつもり?』
京太郎「電車か船か飛行機」
久『お金は?』
京太郎「あ……」
久『やっぱりね』
京太郎「まぁ、それもなんとかするよ」
久『わかった。それじゃあ帰りに白い恋人でも買ってきてね』
京太郎「あいよ」
爽「電話終わり?」
京太郎「久ちゃんに伝えといたから、もう大丈夫だろ」
爽「さっきまですごい着信きてたからね。原村さんからだっけ?」
京太郎「それもこれもお前のせいだよっ」
爽「うっ……埋め合わせはするってば」
揺杏「てかさぁ、爽今日は暇なん?」
爽「卒業式の前ぐらい、のんびりしんみりしてもいいんじゃないかな?」
揺杏「あ、そう。チカセンにバレないようにね」
爽「ふふふ、任せときな!」
京太郎(こういう場合、大抵バレるんだよなぁ)
成香「……ユキちゃんは大丈夫でしょうか?」
揺杏「たしかに……爽のことよりかは心配だ」
爽「くそう、この扱いだ……でも、神様は乗り越えられない試練はよこさない!」
揺杏「にーさんはそっとしといたほうがいいって言ったけどさ」
成香「やっぱり心配です……」
爽「一応防犯ブザーは持たせてるけどね」
京太郎「小学生かっ」
京太郎(しかし、気になるよな)
京太郎(そのうち動かないといけないにしても、もう少し話は聞いておくか)
京太郎「そういえば、由暉子って最近調子悪いとかそういうのはなかったか?」
揺杏「なんだよ、やっぱにーさんも心配してんじゃん」
京太郎「茶化すな」
成香「時々ボーッとしてることはあったと思います」
京太郎「ボーッとね……」
揺杏「風邪ひいてるとかそんな感じではないと思うけど」
成香「じゃあ、やっぱり気持ちが募りすぎて……」
揺杏「なるなる、にーさんのせいだ」
京太郎「だからなんで……ああ、そういうことか」
京太郎(あんなことをされたんだ。その気持ちがなんなのかってのはわかる)
京太郎(だったらどうしてあそこで逃げ出す?)
京太郎(恥ずかしかったから? ないわけじゃないと思うけど……つらそうな顔してたよな)
京太郎(それに……)
『……いなくなっちゃ、いやです』
京太郎(あれって本当に俺に言ってたのか?)
揺杏「さすがのにーさんでもあそこまでされたら気づいちゃうか」
成香「お、思い出しただけで顔が熱く……」カァァ
揺杏「落ち着けー、成香は当事者じゃないぞー」
爽「ユキのこともだけど、須賀くんはどうする?」
京太郎「俺は……そうだな」
京太郎(帰るにしても先立つものがない……)
京太郎(なら、まずは金策だな)
京太郎(飛行機か電車か……フェリーって手もあるか)
京太郎(一番安いのはどれなのやら)
爽「あ、そうだ! 帰りも頼んでみようか?」
京太郎「お前は俺を殺す気か!?」
はやり「さ、遠慮しないで好きなもの選んでね」
由暉子「は、はい……」
由暉子(さすがに緊張してしまいます)
由暉子(だって、テーブルをはさんで向かい合っている人は、文句のつけようもないほどの有名人で)
由暉子(そういうことに疎かった、中学時代の私ですら知っていたほどのビッグネームです)
はやり「あはは、表情硬いよー?」ツンツン
由暉子「あ、あのっ、今日はどうしてここに?」
はやり「これから洞爺湖のほうで撮影があるから、今はそれまでの自由時間かな」
由暉子(その自由時間を私に割いてくれていると考えると、少なからず嬉しくなってしまいます)
由暉子(サインももらえちゃうかもしれません)
「ご注文はお決まりですか?」
はやり「私はこのサンドイッチのセットで。由暉子ちゃんは?」
由暉子「あ……じゃあ、紅茶で」
「かしこまりました。少々お待ちください」
はやり「飲み物だけで良かったの?」
由暉子「朝ごはん食べてからあまり時間が経ってないですから」
はやり「あ、そっかぁ。私はまだなんだ。もうお腹ぺこぺこだよ」
由暉子(少し話して気づいたことが一つ)
由暉子(今のはやりんは牌のお姉さんではないということです)
由暉子(テレビで笑顔を振りまいているときは、自分を指して私とは言いません)
はやり「……」ジー
由暉子「あの、顔になにか付いてます?」ソワソワ
はやり「ううん、やっぱりかわいいなぁって」
由暉子「……ありがとうございます」
はやり「うんうん、由暉子ちゃんなら牌のお姉さんできるかも」
由暉子「私が、ですか?」
はやり「あれ、違った? そういう風にプロデュースしてるから、そう思ってたんだけど」
由暉子「それは……」
由暉子(元々は、地味だった私を目立たせるということで始まったもので)
由暉子(いつの間にかポストはやりんにつくことが目標になってたりもして)
由暉子(でも、それは……)
はやり「ね、せっかくだから色々話そうよ。うつむいてても、話してるうちに顔を上げられるようになったりもするからさ」
由暉子「……はい、そうですね」
京太郎「よし、じゃあ雪かくか」
成香「サイズは大丈夫ですか?」
京太郎「うん、問題はなさそうだ。悪いな、一式借りちゃって」
揺杏「ま、にーさんがいればちょっとはラクできるっしょ」
京太郎「バイト代をもらう以上、しっかりやるつもりだ」
成香「お願いします」
成香(でも、ユキちゃん……)
揺杏「なに暗い顔してんのさ。ユキなら爽が探しに行ったしょ」
成香「そうですけど……」
京太郎「帰ってきた時に驚くぐらいキレイにしとこうぜ」
揺杏「えー? 程々でよくない?」
京太郎「帰りの移動費がかかってるからな、全力でいかせてもらう」
揺杏「やだ、にーさんってば現金」
京太郎「ほら、今は体動かそうぜ」バシッ
成香「は、はいっ」
京太郎「し、死ぬ……」ゼェゼェ
成香「お、おつかれさまです」
揺杏「うわ、偉そうなこと言ってた割にグロッキーじゃん」
京太郎「そりゃあなっ、機械でやるようなとこを、人力でやれば、こうなるよなっ」
揺杏「うっわ、あそこ一人でやったんだ……なに、化物?」
京太郎「その代償がこれなっ」
成香「そこまで頑張らなくても……」
京太郎「いや……バイト代がかかってるからさ」
揺杏「バカじゃん」
京太郎「お前もほぼ無一文で放り出されてみろ」
成香「とりあえず、中で休んでてください」
京太郎「そっちは終わったのか?」
揺杏「もうちょいって感じ?」
京太郎「そうか、なら先に入ってる」
成香「はい」
京太郎「疲れたぁ……こりゃ筋肉痛かな」
京太郎「勝手知ったるとは言えないけど、水でももらおうかな」
誓子「はい、どうぞ」
京太郎「お、悪いな」
誓子「どういたしまして」
京太郎「んぐっ……あ~、うるおったぁ」
誓子「雪かきお疲れ様。雪見だいふく買ってきたけど、食べる?」
京太郎「ああ、もらう」
誓子「驚かないんだね」
京太郎「パラシュートなしのスカイダイビングに比べたらな……」
誓子「?」
京太郎「ま、不法侵入ってわけじゃないんだろ?」
誓子「なるかたちには挨拶したから。須賀くんは頑張ってたから声かけづらかったけど」
京太郎「今日は遊びに来たのか?」
誓子「爽に用があったんだけど、いないみたいだね」
京太郎「ああ、ちょっとな」
誓子「そういえば、ユキがいないんだけど」
京太郎「話はそこに集約するからな……なんと言ったらいいかな」
誓子「むー、なんか仲間はずれみたいでやだな。話してよ」
はやり「はやぁ……そうだったんだ」
由暉子「私、失礼なことをして、逃げ出しちゃって……」
はやり「そういうのは誰にだってあると思うけどな。私だって、もうどうにでもなれー! ってなることはあるし」
はやり「でも、そうだなぁ……由暉子ちゃんって夢とかやりたいことってある?」
由暉子「……ポストはやりん、でしょうか?」
はやり「う~ん……それ、嘘だよね?」
由暉子「え……」
はやり「それがいけないってことじゃないけど、本当にやりたいことをはっきりさせとかなきゃ、いざって時に動けなくなると思うんだ」
由暉子「……」
由暉子(その言葉はどうしてか、胸の奥に刺さりました)
由暉子(耳に痛い言葉とは、大抵自覚していることを指摘するものだといいます)
由暉子(だから、私はきっと……)
はやり「さ、暗い話は終わり終わり。店員さーん、このスペシャルパフェって言うの二つお願いしまーす」
由暉子「もしかして私の分も?」
はやり「落ち込んだ時は甘いものだよね?」
由暉子「……そうですね、いただきます」
京太郎「それであいつが飛び出して行っちゃってさ」
誓子「爽はユキを探しに行ったんだ……」
京太郎「会うなり様子がおかしかったけど……なにか知ってるか?」
誓子「たしかに最近ボーッとしてることが増えたけど」
京太郎「それは他の奴も言ってたな」
誓子「……もしかしたら須賀くんのせいかも」
京太郎「それも考えたけど、多分違う。なんというかしっくり来ない」
京太郎(その理由は……やっぱりあの言葉か)
京太郎「いなくなっちゃいやだって、どういうことだと思う?」
誓子「離れたくない、寂しいってことじゃないの?」
京太郎「まぁ、そうだよな……」
誓子「それ、ユキが?」
京太郎「ああ、ずっと気になっててさ」
誓子「じゃあやっぱり須賀くんのせいだよ」
京太郎「だからそれは違うっての」
誓子「むー、どうしてそう言い切れるの?」
京太郎「勘だな」
誓子「根拠ないんだ」
京太郎「そっちこそどうして俺のせいにしたがるかな」
誓子「だって……私もそう思うから」
京太郎「あー、なんかすまん」
誓子「もう……いいよ別に」
京太郎(まずい、なんだか空気が……)
京太郎(しょうがない、方向転換だ)
京太郎「そういや、インハイに出たのもプロデュースの一環だったんだよな?」
誓子「そうだね、ユキを目立たせてやろうって」
京太郎「あいつだけ昔馴染みじゃないっぽいし、どうしてそういうことになったんだ?」
誓子「また露骨な話題転換だ」
京太郎「いいからいいから。気になっちゃったものは仕方ないだろ」
誓子「別に隠すようなものじゃないけどね……いいよ、話してあげる」
由暉子「……」
由暉子(はやりんと別れた後、一人で私はさっきの言葉について考えます)
由暉子(私の、本当にやりたいこと)
由暉子(それは……)
爽「あ、いたいた、ユキ発見!」
由暉子「爽先輩……」
爽「うんうん、無事みたいだね」
由暉子「ごめんなさい、いきなり飛び出してしまって」
爽「そんなこともあるよ。女心と秋の空とも言うしね」
由暉子「……謝らないと、いけないです」
爽「須賀くんに? ユキからのキスだったら役得じゃないかな?」
由暉子「そうなんですか?」
爽「ユキが信じる私を信じろってね!」ピロリンッ
爽「メール? ……げっ、チカが成香の家で待ち伏せてる……」
爽「……やっぱり二人でどこか行こうか?」
由暉子「心配かけてますし」
爽「だよなー……とほほ」ハァ
由暉子「……」クスッ
由暉子(私の本当にやりたいことは……きっとみんなと一緒にいることです)
由暉子(あたたかい居場所は、以前の私にはなかったものですから)
由暉子(そのことにすら気付けていなかったけれど……)
由暉子(でも、それは不安の正体ともつながっていて)
由暉子「……そうだったんだ」
由暉子(同時に気づいてしまいました)
由暉子(この居場所が、もうすぐなくなってしまうことに)
誓子「――というわけで、ユキは私たちと遊ぶようになったんだ」
京太郎「……そうか」
京太郎(聞いた感じだと、あいつの交友関係はほぼこいつらだけだ)
京太郎(こいつらが、あいつにとっての居場所になってるなら……)
誓子「どうしたの? 難しい顔して」
京太郎「もう卒業するんだって考えたらな……」
京太郎(そう、卒業するんだ)
京太郎(こいつと獅子原は、いなくなるんだ)
『……いなくなっちゃ、いやです』
京太郎(あの時の言葉が、二人に向けたものなら……)
京太郎(どうする? はっきり言って俺は部外者だ)
京太郎(……なーんて、ほっとくなんて選択肢、選べるわけないよな)
京太郎(俺の勘違いだって可能性もある)
京太郎(でも、それにしたって赤の他人ってわけじゃないんだ)
爽「ただいまー……」コソコソ
誓子「あ、爽」
爽「チカ!? 一瞬で見つかるなんて……!」
由暉子「……」
京太郎「話がある。いいか?」
由暉子「……はい」
由暉子「さっきはいきなりあんなことをしてしまって……ごめんなさい」ペコッ
京太郎「それはいいって。あんなの男にとっては役得だから」
由暉子「そうですか……」ホッ
由暉子「でも、違うんです。私が謝りたいのは……」
京太郎「いなくなっちゃいやって、俺のことじゃないよな?」
由暉子「え?」
京太郎「もうすぐ卒業だし、今まで通りってわけにはいかなくなる」
由暉子「――っ」
京太郎「無理に話せとは言わないけど、だれかにぶちまけて楽になるってこともあるからさ」
由暉子「……最初は、偶然だったんです」
由暉子「ゴミだし途中で転んでしまって、そこへ偶然先輩たちが通りがかって」
由暉子「それが縁で、一緒に遊ぶことが多くなって」
由暉子「先輩たちに会うまで、寂しいと思ったことはなかったんです」
由暉子「でも、夏が終わって、爽先輩と誓子先輩が忙しくなって」
由暉子「だんだんと会う機会も減っていって」
由暉子「そして卒業して、いなくなってしまう……」
由暉子「先輩たちは私を目立たせるために色々してくれました」
由暉子「けれど、そんなことは本当はどうでもいいんです」
由暉子「私はアイドルになることじゃなくて、みんなでいられた……陽だまりのような日々が大切だったんです」
由暉子「今までそれに気づけなくて、漠然とした不安だけ感じていて」
由暉子「それで……」
由暉子「ごめんなさい。自分の気持ちを、あなたのことも利用しちゃいました……」
京太郎「だからいいって。正直役得だったし、俺にだってそういう経験があるしな」
由暉子「……キスしたんですか?」
京太郎「俺も逃げ出したことぐらいあるって話だ」
由暉子「信じられないです」
京太郎「見栄っ張りだからな。でもけっこう優柔不断だし、面倒くさがりだし……人に事実を突きつけて傷つけたことだってある」
京太郎「だから言うぞ……欲しいなら声に出せ。もっと言わなきゃいけない相手がいるだろうが」
京太郎「それがだれかってのは言わなくてもわかるよな?」
由暉子「でも……怖い、です」
由暉子(それは、私のわがままです)
由暉子(相手のことを考えない、自分の気持ちを一方的に押し付けるようなことです)
由暉子(振り返ってみれば、みんなにそんなことを言った覚えはありません)
由暉子(もしそれで、自分勝手だと思われたら……)
京太郎「……しょうがないな」ブチッ
京太郎「ほら、これもっとけ」
由暉子「ボタン、ですか?」
京太郎「学ランの第二ボタン。ま、後輩にやるのが定番みたいだしさ」
由暉子「もう卒業しちゃうんですね……」
京太郎「第二ボタンは心を意味するらしいから、自分の気持ちだけじゃ不安なら俺の肝も持ってけってな」
由暉子「……」ギュッ
由暉子(そう言ってこの人は照れくさそうに笑いました)
由暉子(傷つけると言っておきながら、背中を押してくれている)
由暉子(見栄っ張りである以上に、素直じゃないのかもしれません)
由暉子(そんな彼がくれた第二ボタンの感触が愛おしくて――)
由暉子「……よかった」ボソッ
京太郎「ん?」
由暉子(あの時のように、彼が顔を近づけてきます)
由暉子(うつむきがちにつぶやいた言葉は、もちろんわざとで)
由暉子(今度は逃避じゃなくて、素直な気持ちで――)
由暉子「あなたのことを好きでいて、よかったです……んっ――」
由暉子(今日二度目のキスは、バニラアイスの味がしました)
誓子「とにかく、前期が終わっただけでまだ安心できないの」
爽「うぅ……の、乗り越えられない試練なんてっ」
揺杏「……受験って辛いんだ」
成香「怖いです……」
由暉子「……戻りました」
成香「ユキちゃん!」
揺杏「変な奴に絡まれたりしてない? 大丈夫だった?」
由暉子「はい。……それよりも、お手伝いをすっぽかしてごめんなさい」
成香「い、いいんですよ! ユキちゃんが無事だっただけで十分です」
揺杏「ま、にーさんが手伝ってくれて相当楽できたし」
誓子「ユキ、話終わったの?」
由暉子「心配かけちゃいましたね」
爽「先輩に心配をかけるのが後輩ってもんさ! ……あ、今けっこう韻踏んでなかった?」
誓子「そんなのはどうでもいいの」
爽「手厳しいっ」
由暉子「……聞いて欲しいことがあるんです」
誓子「なにかな?」
爽「そんなあらたまってどうしたのさ?」
由暉子「……」ギュッ
『欲しいなら声に出せ』
由暉子「いなくなっちゃ、いやです」
由暉子「ずっと一緒にいたいです……誰かが欠けるなんていやです」
由暉子「みんなでいられないなら、ポストはやりんなんてどうでもいいんです」
由暉子「だから……いかないでください」
誓子「ユキ……泣かないで」
爽「……チカもだよ」
由暉子「無理なのはわかってます……けど」
成香「ゆ、ユキちゃぁん……!」ポロポロ
成香「そんなに、そんなに思っていてくれたなんて……」グスッ
揺杏「成香泣きすぎだって」
爽「揺杏も目が潤んでるね」
揺杏「……爽の目も赤いじゃん」
爽「この際だ、みんなで泣いてスッキリしようか」
成香「今日はありがとうございました」
京太郎「こっちこそな。助かったよ」ピラッ
揺杏「帰りって五千円で足りんの?」
京太郎「ま、なるようになるって」
誓子「適当なんだから」
爽「旅は人を成長させるらしい」
京太郎「今回はしなくてもいい旅だったけどなっ」グリグリ
爽「いだっ、いだだだっ、痛いってば!」
京太郎「ま、こんぐらいだな」パッ
爽「ふぅ……あれ? 須賀くん、ボタン一個取れてない?」
揺杏「ホントだ。取れたんならちゃちゃっとつけちゃうけど」
京太郎「ああ、いいんだよ。自分で取ったんだし」
成香「自分でですか?」
誓子「あ……もしかして」
京太郎「どうだった?」
由暉子「よくわからないです。みんなで泣いて……でも、スッキリしました」
京太郎「俺の肝は役に立ったか?」
由暉子「はい」
京太郎「そうか」
由暉子「……変わらないものってないんでしょうか?」
京太郎「そうだな……人は年をとるし、気持ちだって移ろうもんだ」
由暉子「そうですよね……」
京太郎「それでも、変わらないものはある」
京太郎「一緒に泣いたことは、いつまでたっても変わらないだろ?」
京太郎「ま、そういうことだ。そろそろ行くかな」
由暉子「帰っちゃうんですか?」
京太郎「向こうには心配かけてるしな」
由暉子「……好きです」
京太郎「知ってるよ。あれだけされてたらな」
由暉子「行かないでほしいって言ったら、ここにいてくれますか?」
京太郎「それはなんというか……困るな」
京太郎「でも、少しぐらいわがままな方がかわいいもんだ」
京太郎「それじゃあな」
由暉子「はい、また今度」
京太郎「さて、どう帰る?」
京太郎「飛行機だったらお金が全然足りない。五千円じゃあな」
京太郎「電車も……青函トンネル通るなら足りないし」
京太郎「残るは海路か……ホント予期せぬ旅だな」
京太郎「なんにしてもフェリーの乗り場まで移動しなきゃな」
京太郎「……ヒッチハイクで行けるかな?」
はやり「あ、京太郎くんだ」
京太郎「あれ……はやりん?」
はやり「うんうん、きみのはやりんだよ☆」
京太郎「マジか……」
はやり「すっごい偶然だね。京太郎くんは旅行かな?」
京太郎「まぁ、色々あって……これから帰るとこなんですけど」
はやり「ふぅん……」
はやり(でも、このままお別れなんてもったいないかなぁ?)
はやり(……うん、せっかくだしもうちょっとお話したいよね)
はやり「帰りはどうするの?」
京太郎「フェリーですね。予算も心もとないですから」
はやり「それだったら、一緒に飛行機乗る?」
京太郎「え……い、いいんですか?」
はやり「お姉さんにおまかせだよっ☆」
京太郎「やっと帰ってきた。なが……くはなかったな、ギリ日帰りだし」
京太郎「しかし、至福の時間だった……」
京太郎(まさかはやりんにアーンしてもらえるとは……)
京太郎「卒業か……いよいよ終わるんだな、高校の三年間が」
京太郎「長かったような、短かったような……いや、やっぱり長かったな」
京太郎「……感傷に浸るのはもう少し後にしとくか」
というわけで終了
続いて最後の安価を取りたいんですけど、人いますかね?
続いて最後の安価を取りたいんですけど、人いますかね?
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