元スレ京太郎「俺たちの……」マホ「可能性……?」
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301 = 1 :
――――
東四局
京太郎「……」タッ
マホ「タンピン二向聴……須賀先輩、良い調子に進んでます」
佳織「私、平和は苦手だけど、最近は綺麗な形だって思えてきたよ」
マホ「わかります。すっきりしてますよね」
京太郎「……」チャッ
マホ「東……生牌ですね」
佳織「んー、まだ五巡目だし……あ、切った」
ゆみ「ポン」カシャッ
睦月「ダブ東……」
トン……トッ……
ゆみ「……む、高目がきたか。ツモ、ダブ東・チャンタ、2000オール」バラ
佳織「ああ、取られたので和了られた……」
マホ「仕方ないですけど、こういうことがあると後悔しますよね」
佳織「でも、確率的にはこんなことあんまりないし……次同じような状況になっても、私なら東切るかな」
マホ「そうですね。デジタル的には……」
302 = 1 :
――――
東四局一本場
ゆみ (親)36400
京太郎(南)16400
睦月 (西)21800
桃子 (北)25400
睦月(駄目だな……急がないと)タッ
東四局でこの点差、普通はそこまで焦る段階ではない。しかし――
桃子「……」トン
睦月(まだ、大丈夫か……?いや、今霞んで見えたような……)
桃子が本領を発揮すれば、まともに打つこともままならなくなる。見失う前に勝負に出なければ。
睦月(そして、加治木先輩……)
ゆみ「……」タン
睦月(またツモ切り……それも中の方。張ってる……?)
トップ、ゆみとの点差も、絶望的なものではない……だが、睦月はゆみに対して気負うものがあった。
睦月(実質、この麻雀部を引っ張ってきたのはこの人……そしてこれからは、部長として私がその役を継ぐことになる)
人望、采配、麻雀のセンス……何一つとして、追いついているとは思えない。普段はそこまで考えないようにしているが――
京太郎「……」トッ
睦月(……他校の生徒の前だからかな。今だけは、どうしても先輩に勝ちたい……!)チャッ
タンヤオドラ2、一向聴。できれば和了りたい。
睦月(もうそろそろ流局……加治木先輩は張ってそうだし、慎重に……これは筋か)タン
桃子「……」トッ
ゆみ「……」タッ
京太郎「……」トン
睦月「……チー」パラ
睦月(よし、テンパイ……でも安牌はないか……?)チラッ
余り牌の内、かろうじて安全そうなのは筋の三筒か。
睦月(通れ……)トッ
ゆみ「ロン」バラッ
睦月(っ……!駄目か……)
ゆみ「タンヤオのみ、2300」
睦月「はい……」チャラ
――――
ゆみ「二本場」チャッ
智美(カンチャン待ちの、筋引っ掛け……さすがゆみちん、焦る人間の心理をよく分かってる)
観戦しやすい位置に椅子を動かしつつ、睦月の捨て牌を窺うと――
智美(あー……確かに、筋に頼ってるところがあるな。よく気付くもんだ)
わずかなヒントも見逃さない、ゆみの強さの一つである。
智美(……しかし、むっきーはらしくないな。流局直前に無理して攻めるなんて……)
303 = 1 :
――――
東四局二本場
京太郎(……む、ドラの東。自分で引けたか)チャッ
3m455(赤)66s789p東東南北 ツモ東
京太郎(場風にドラ4、大きいけど……)つ三萬
チラリとゆみの方を見る。
京太郎(駄目――だ、全然わからん)
またバラバラの捨て牌。オリているようにも見えるが、七対子なども考えられる。
京太郎(流れがもっと見えればなぁ……)
トン……タン……
ゆみ「……」つ七索
京太郎「……ん、それチーで」パラ
テンパイだ。あとは南か北のどちらで待つか――
京太郎(ん?)
45 6s789p東東東南北 (5(赤)67)
京太郎(……いや、あってる。南か北の単騎待ちだ)
左端に並ぶ四五索が目につき、一瞬そこで両面待ちになるイメージが浮かんで混乱した。集中力が落ちているせいだが――
京太郎(おっと、これは使えるかもしれない……)
ちょっとした思いつきだが、やらないよりはいい。
京太郎(まずテンパイして……)つ南
睦月「……」つ南
京太郎(一回、六索と七筒をまとめて触れる……で、すぐ四五索を寄せて、くっつける)スッ
たったこれだけ。しかし、他家からは晒した五六索の近くが余った、という風に映るだろう。
桃子「……」つ一萬
京太郎(北は生牌、しかも残り二枚。単騎待ちだとバレたら、抱え込まれそうだしな)
ゆみ「……」つ三萬
京太郎(全員安牌……警戒されてるなー)チャッ
――もう関係なくなったが。
京太郎「ツモ。満貫の二本付けです」バラ
ゆみ「ふむ。なるほど」チャラ
点棒を出しながら、どこか納得したような顔。
京太郎(加治木さん……余裕あるな。トップだから当然かもだけど)
――――
ゆみ(ふむ……やはり当たり牌だったか)
7889m78s45679p南北
ゆみ「親は流されてしまったな、残念だ」パタン
京太郎「いや、充分稼いだでしょう……そろそろ譲って下さい」
睦月「……うむ」
ゆみ「なに、冗談だよ」
304 = 1 :
――――
南一局
桃子(……加治木先輩が連荘してくれたおかげで、南入までそこそこ時間はかかったけど)トッ
ゆみ「……」タッ
桃子(加治木先輩は絶対に私を見失ってない……この時間では、まだ)
京太郎「……」チャッ
桃子(京ちゃんさん……も、まだ見えてるっぽいっすね)
基本、デジタル打ちの桃子は人の表情を読むというのは苦手だが――
桃子(今日は分かりやすいっすね。今のツモで、手が良くなったみたい……かな)
京太郎「……」タン
睦月「……む。リーチ」チャラ
桃子(むっちゃん先輩も来てる……)チャッ
445677m335(赤)67s56p ツモ中
桃子(私も良い手……だけど、今はまだ抑えるべきっすね)
崩すのはもったいない気もするが、ここでオリても後から取り返す自信はある。
桃子(冷静に、機を見て……)トン
――――
睦月「これで海底牌……和了れないな。これ、大丈夫ですか?」タン
ゆみ「問題無い、通しだ。テンパイ」パラッ
睦月「ふぅ……テンパイです」パラ
京太郎「……テンパイ」パラ
桃子「ノーテン」パタン
305 = 1 :
――――
南一局一本場
トン……タン……
睦月(むう……)チャッ
メンホンニ向聴の手を見て、しかし睦月の顔は浮かばない。
睦月(ここ数局、引きは悪くないのに……)トン
全く和了れない。今日はそういう日なのだろうか。
睦月(前局も、加治木先輩に和了り牌を止められて……それどころか、取り込まれていた)
ゆみ「……」タッ
睦月(完全に上を行かれてる……)
京太郎「……」タン
睦月(……うわ、四萬。また引きたくないところ……)チャッ
染め手にはいらない、別の数牌――しかし周辺の牌が切れていない上に、ドラだ。
睦月(でも切るしかないな)トン
京太郎「ポン!」バラッ
睦月「うっ、取られたか……」
京太郎「……」パシッ
睦月(怖いな……この強打)スッ
そしてその恐れに追い打ちをかけるように、
睦月(うわ、五萬……)チャッ
すぐに来る危険牌――突っ張って良い思いをしたことは少ない。
睦月(オリるか……)トン
タン……パシッ…
ゆみ「……ふん」タッ
睦月(! 五萬……通るのか)
ゆみ「……そう簡単に騙されはしない」
京太郎「……」タンッ
睦月(そうか……ブラフか。全く、敵わないな。加治木先輩には)トッ
――――
ゆみ「ツモ。1400-2700」
京太郎「くっ……はい」チャラ
和了れそうもない手だったので、せめて他家をオロそうと思ったのだが……
京太郎(加治木さんにはバレバレだったな。また差が開いちまった……うっ!)
また痛みの波が来た。歯を食いしばり、耐える。
京太郎(……こんなんで、加治木さんに心理戦なんか仕掛けられるわけない、か)
306 = 1 :
――――
南ニ局
睦月 (親)15900
桃子 (南)18800
ゆみ (西)42000
京太郎(北)23300
桃子(手が、来ないっすね……)トッ
そろそろ動き出したいのだが、折悪く無駄ヅモばかりだ。
ゆみ「……」タッ
桃子(もう、充分な時間は経った……)
京太郎「……」トン
桃子(京ちゃんさん……辛そうっすね)
顔を伏せているため、京太郎の表情は見えない……が、時折首を横に振ったり、歯ぎしりの音がしたりする。睡魔と戦っているのだろう。
桃子(『消える』までの時間は、相手の実力に比例して長くなる。それは一晩徹夜で練習しても、大きく変わることはない)
加えて、ただでさえ京太郎は集中力が落ちている。まず見えていないだろう。
睦月「リーチ」チャラ
桃子(むっちゃん先輩は……リーチっすか)チャッ
今は和了りも遠いため、オリ一択だが――
桃子(これだけ時間がかかったら、もう消えてるっすね)トン
堂々と危険牌を切る――予想通り、睦月はスルー。そして、一瞬の間――
ゆみ「……」チャッ
桃子(やっぱり、加治木先輩はまだっすか)
ゆみにステルスが通じていないと知り、むしろ嬉しく思ってしまう。
桃子(むっちゃん先輩が和了ると思って、ちょっとツモが遅れた。私の牌が見えてる証拠っす)
――――
睦月「ツモ。3900オールです」バラッ
ゆみ「ふむ。やはりそこだったか……」チャラ
睦月「はい。もしかして、また和了り牌止められてました?」
ゆみ「……いや、まあな。後で牌譜を見るといい」
適当に誤魔化しながら手を閉じるゆみ。
ゆみ(モモが、リーチ後に即切った牌だ……)
307 = 1 :
――――
南ニ局一本場
睦月(焼き鳥を回避して、この配牌……)タッ
役牌が暗刻で揃っている。
睦月(あまりそういうのは信じない質だけど、流れというのが向いてきたかな?)
トン……トッ……
睦月(来たっ……!高めで三色、絶好のテンパイ!)
ゆみが張っていそうだが、ここは攻める。
睦月「通らば、リーチ!」タンッ
睦月(どうだ……!?)チラッ
ゆみ「……」スッ
牌に手をかけるゆみ。
睦月(あ、当たったか……?)
ゆみ「……」パタン
直後、ゆみは手牌を――俯せに倒していた。
睦月(――?)
桃子「――ロン」ユラッ
睦月「――あっ……!」
桃子「こっちっすよ……リーチ・平和・ホンイツ・一通……裏、一枚」
睦月(またやってしまった……!)
桃子「――16300!」
308 = 1 :
――――
南三局
桃子(ここからはガンガンいくっすよー)
桃子「リーチ」ユラッ
もう誰にも止められない――たとえ桃子が、それを望んでも。
桃子「ツモ!2600オールっす!」
ゆみ「……追いつかれそうだな」チャラ
――――
南三局一本場
ゆみ「ツモ。チートイのみ、900-1700」バラッ
桃子(……意外と早く止められたっす)チャラ
京太郎「くっ、跳満流された……!」チャラ
睦月「点差、大きいな……」チャラ
309 = 1 :
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オーラス
ゆみ (親)39000
京太郎(南)15900
睦月 (西)7800
桃子 (北)37300
睦月(はあ……今回は、どうしてこう……)
457(赤)m236s399p東發發發 (ドラ:二索)
睦月(……運を、活かせないんだろう)
配牌で役牌の暗刻と、ドラ二つ。三向聴。和了を期待できる良い手だが、
睦月(……足りない。全然届かない、この点差にはっ……!)チャッ
トップ、ゆみとの点差は31200。このままではとても捲れそうにない。
睦月(何か、手を大きく変えられる牌……来て!)つ三筒
310 = 1 :
――――
睦月の祈りを嘲笑うように、四巡目――
睦月(……一向聴、か)チャッ
445(赤)m2346s99p東發發發 ツモ3m
高い手を目指すなら、染め手を作るべきだったのだろう。しかし、こうも早く有効牌が来てしまうとは思わなかった。
睦月(本当に、無駄に運が良い……)
文字通り、無駄に。あるいは中途半端に。
睦月(どうして私には、突出した能力が無いんだろう)つ四萬
こんな時、佳織が羨ましくなる。その運を少しでも分けて欲しいと思ってしまう。
睦月(……無い物ねだりか。みっともないな)
タッ……トン……
睦月(……こんな私が先輩に勝とうなんて、元々、無理だったか)
この対局中、ゆみに何度も実力差を思い知らされた。もう、諦めてしまおうか――
「カン!」
睦月(!)
(■南南■)
京太郎「ダブ南、確定……!」
睦月(須賀君……)
京太郎「……」ハァハァ
荒く呼吸しながら、新ドラをめくる京太郎。その目は茫洋とし、どこを見ているのかも定かではない――
京太郎「……」つ五索
だが、光を失ってはいない。ここではないどこかを見ながら、決して勝負を捨てていない。
睦月(その点差から……まだ本気で勝とうと思えるのか……)
新ドラは九筒。これも運良く、睦月は二枚持っている。そして――
睦月(……!これは……!?)チャッ
――四枚目の發。
睦月(……急にコレか。ちょっと出来過ぎだな。――でも、)
次はお前の番だ――そんな声を聞いた気がした。
睦月「カン!」カシャッ
(■發發■)
睦月(嶺上牌は……五索。新ドラは――)クルッ
一索、八筒に続き王牌に現れた牌は――白。
睦月(モロ乗り……っ!)
脳内麻薬が溢れる感覚。今は誰にも負ける気がしない。
睦月「リーチッ!」つ東
天が味方している。その確信を持って、睦月はゆみに勝負を挑んだ。
311 = 1 :
――――
桃子(發・ドラ4、リーチ……!むっちゃん先輩、いっきに来たっすね)
正直、こんな番狂わせがあるとは思っていなかった。
桃子(でも、私のすることは変わらない)チャッ
245667m468s2345(赤)p ツモ2p
桃子(これを最速で和了る……)つ二萬
テンパイ時に余る四・八索はどちらも危険牌。しかし当然、今の桃子には関係無い。
桃子(まるで私だけ別のゲームをしてるみたいっすね)
トッ……タン……
桃子「……須賀君。これが私の運命っすよ」ボソッ
静かに、しかし卓の面子にははっきり聞こえる声量。ゆみは制止してはくれない。
桃子「加治木先輩でさえ、熱中すれば私のことを忘れてしまう……私を求めたくれた人でさえ」
その声は、もう誰にも届かない。
桃子「私のことを忘れないって、そう言ってくれた時は……ちょっと嬉しかったっすよ。
でも、その手にあるメモが何の役に立ったっすか?」
何が書かれていたのかは分からないが、京太郎はこの卓についてから一度もメモを見ようとはしなかった。
当然だ……桃子の存在を忘れてしまったら、そのメモの存在も同時に忘れてしまう。
桃子「事前に考えた対抗策すら、あなたは思い出せない。私とまともに麻雀を打てるのは、画面の向こう側の人だけっす」
そう、これはもうまともな麻雀ではない。桃子が本気を出せば、 相手は抗うこともできないのだから。
桃子「でも、これは仕方ないこと……麻雀部の一員として、この影の薄さを否定することはできない」
それは桃子の「力」だ。麻雀部に貢献するための。
桃子「いつか、ここを卒業して……みんなが離れ離れになったら、私のことは忘れられるかもしれない。
でも、今が幸せだから……誰の記憶に残らなくっても、私はそれで良いっすよ」
一人語りを終え、何度目かのツモ……白。
桃子(ツモ切りっすね)スッ
そして何の気なしに顔を上げ、対面を見る――
京太郎「……」ジッ
桃子「え……?」ゾクッ
思わず声が漏れた。
桃子(そんな、そんなはずは……!?)
その瞬間、桃子が感じたのは本能的な恐怖。
例えるなら、自分の部屋に一人でいたはずなのに、いつのまにか誰かが隣にいたような衝撃。
――京太郎が、桃子を見ている。
312 = 1 :
――――
京太郎(……気付かれたか)
こちらを見て、桃子が固まっている。牌はもう切れているため、ゆみは構うことなくもうツモっている。
桃子「……」
京太郎(全く……そんな顔するなよ、泣きたいのはこっちだっての)チャッ
青ざめる桃子。自分が「消えて」いなかったことに相当なショックを受けているようだが、京太郎の方も既に絶望的だ。
京太郎(これじゃ、もう誰も振り込んでくれなさそうだな……)
22245(赤)77799s(南南南南) ツモ3p
(ドラ:二索、九筒、發)
三六索待ち、三倍満。和了れば勝ちだが、最大の期待だった桃子の油断はもうありえない。
京太郎(俺の捨て牌は……)
聴牌を取った時に切った五索、そしてその数巡後に切った八索。それ以外に索子は無い……染め手はバレているだろう。
京太郎(……万策尽きたか。もう天運に掛けるしかないのか?)つ三筒
ここまでずっと雌伏していたのに、この土壇場で桃子に気付かれた。もう勝ち目は無いかに思われたが――
313 = 1 :
京太郎(――いいやっ、まだだ!)ギリッ
顔を上げると、目に入ったのは対面の桃子。体の中に闘志が湧いてくる。
京太郎(こいつだけは……っ!こいつにだけは、負けない!)
それは京太郎自身のこだわり……執念に近かった。
京太郎(何か……まだ何かあるはず……!)
足掻く。疲労した体に鞭打ち、脳をフル回転させる。自分の拾える全ての情報に、全神経を集中させる。
睦月「……」つ四筒
京太郎(津山さんは……六飜確定だけど、捨て牌だけ見ると染め手っぽくも見える)
高打点を目指すならおかしくはない――が、捨て牌は萬子と筒子に偏っている。染め手なら索子か?
京太郎(索子は俺が大量に抱え込んでる……その線は無いだろ)
桃子「……」つ東
京太郎(東横さん……記憶があいまいだけど、多分ちょっと前からツモ切りばっかだったな)
桃子は今、ステルス状態になっている。危険そうな牌も切って、自分の和了りを目指していたのだろう。
京太郎(……そのまま俺に振り込んでくれれば助かったんだけどな。振り込みといえば……)
睦月と桃子の河を見比べる。
京太郎(津山さんは、もしかしたらもうフリテンになってるかもな)
四七索待ちなど、睦月の有力な待ちはまだいくつか残っている。
だが全く予想できない単騎待ちなどの場合、桃子がもう切っているかもしれない。
京太郎(……といっても、睦月さんがトップになるには、ロンだと役満を和了らなきゃいけない)
ありえなくはないが、染め手も無しで数え役満を狙うのはかなりハードルが高い。まだ三倍満ツモの方が現実的だろう。
京太郎(フリテンになってても関係なさそうだな……)
314 = 1 :
ゆみ「……須賀?」
京太郎「……あっ、すみません」チャッ
河を見るのに没頭して、自分の番が来るのを忘れていた。一応ゆみの河も見ておくが、
京太郎(……オリ、だよな)
内容はそうとしか見えない……警戒のしようがない。
京太郎(……一周したけど、特に案は浮かばなかったな……)
22245(赤)77799s(南南南南) ツモ2m
京太郎(自分の捨て牌も、見とくか)
もはや思考を止めたら負けだ、という意地だけで打っている。
京太郎(……改めて見ると、索子そのものは確かに少ないけど……)
自分だけではない。索子が少ないのは河全体だ。
京太郎(ま、俺が抱え込んでるから当然か……)
つまり、絶対値だけ見れば京太郎の切った索子が特に少ないわけではない。
京太郎(……でも、この偏り……)
他家の捨て牌は字牌が多いのに比べ、京太郎の捨て牌にはやたらと中張牌が多い。もちろん、それらの多くは萬子と筒子だ。
京太郎(こんなの、染め手ですって言ってるようなモンだよなぁ――)
二萬をツモ切りしつつ、ため息を吐いて――
京太郎「――!!」
しかし、京太郎に電流走る。
京太郎(これ、は……!?)
中張牌。フリテン。ステルス。索子。染め手。――全てが、京太郎の中で繋がっていく。そして――
睦月「……」つ九索
京太郎(これだっ……!)
転機。紛れもない、天の配剤。
京太郎「ポン!」カッ
(999s)
京太郎(さあ、行け!)
力強く打ち出した、その牌は――
315 = 1 :
――――
京太郎「……」
桃子(な……)
――赤五索。誰に対しても危険な、ど真ん中の牌。
京太郎「……和了りですか?」
睦月「いや……」チャッ
桃子(……危なかった……)
もし京太郎が睦月に役満を振り込んでいたらと、嫌な汗をかく。
睦月「……」つ白
桃子(九索ポンして赤五切り……その意味は……)チャッ
京太郎の捨て牌は中張牌が多い。加えて京太郎の晒した牌は――南、九索。
桃子(ホンローで確定っすか)
九筒はドラだ。逆転に充分届き得る。
桃子(つまり、勝負に出た、と……)
リーチをかけたようなものだ。京太郎はここから、振り込みを覚悟で打ち続けるだろう。
桃子(そうなると……)
急いで睦月の捨て牌を再確認。
桃子(一番危ないのは、四七索の筋っすか……なら)
45667m468s22345(赤)p ツモ北
桃子(私が切るのは、これっすね)スッ
静かに、息を潜めて置いたその牌は――
316 = 1 :
睦月「……」
桃子(通った……!)
――四索。
桃子(これで一つ、可能性が消えた……!)
視界の端でゆみが山に手を伸ばし――
「そのツモ……取る必要無し、ですよ」
ゆみ「……何?」
桃子(え……)
京太郎「言っただろ、忘れないって……」バラッ
2224777s(南南南南)(999s)
京太郎「ロン。ホンイツ・トイトイ・三暗刻・ダブ南……ドラ、3。24000!」ゴッ
317 = 1 :
――――
終局
京太郎40900
ゆみ 39000
桃子 13300
睦月 6800
桃子「そんな……どうして!」ガタッ
京太郎「どうして、って言われてもな」
ゆみ「……」
京太郎「ああ、まあ……そうだな。津山さんに危険牌打ったら、東横さんが急いで潰しにいくだろうと思ってさ」
睦月「……なるほど。だからあんな所……」パタン
318 = 1 :
マホ「じゃなくて!」
京太郎「おおっ」
マホ「なんで東横さんが見えたんですか!?」
桃子「そうっ、そこっすよ!」グイッ
京太郎「うわっ」
桃子「昨日打った時は、もっと早い段階で見失ってたはずっす!」
智美「……真面目に理由が思いつかないな。何か特別なことをしたんじゃ?」
ゆみ「……須賀。それを見せてくれないか」
ずっと左手に握り締めているメモ帳。そこに何かあるのかと、桃子も手を伸ばすが――京太郎はさっと手を上げて回避した。
京太郎「すいません、これはただのブラフなんですよ」
佳織「ブラフ?」
京太郎「ええ。最後まで開かなかったでしょう?」
ゆみ「……策など無い、と?」
桃子「そんなわけ――」
京太郎「まあ落ち着けって……その……」ポリポリ
桃子「?」
京太郎「……当たって、るから……」
……。
桃子「」バッ
マホ「……先輩?」ジトッ
京太郎「いや、俺は別に悪くないだろ!?」
智美「全く……だらしないな、きょーたんは」ニヤニヤ
京太郎「ぐっ……と、とにかく!」
謂れの無い罪を着せられる前に、びしっと桃子を指さす。
319 = 1 :
京太郎「特に理由なんかなくたって、見えたって良いだろ!」
桃子「えっ……」
京太郎「いいんだよ、影がどんだけ薄かったとしても。お前にだって、特徴はあるだろ?」
桃子「特徴……私にっすか?」
京太郎「麻雀強いし、口調も変わってるし、可愛いし。蒲原さんに言わせれば、匂いも独特らしいし」
あと胸もでかいし、というのは口にしないでおく。
桃子「か、可愛い……私が?」
京太郎「正直、凄くタイプだな。お友達になりたいくらい」
佳織「えっ、えぇっ……智美ちゃん、これって……」ボソボソ
智美「なんで佳織が慌てるんだよ」ワハハ
桃子「……友達……」
京太郎「だめか?」
桃子「でも、私、友達ってどうすればいいのか分からなくって……」
京太郎「そんなこと――」
ヴーッヴーッ
桃子「……バイブ、鳴ってるっすよ?」
京太郎「いや、良いんだ。今は東横さんと話してるだろ」
桃子「……ありがとう。それと……桃子でいいっすよ」ニコッ
京太郎「……うん。これからよろしくな、桃子」
智美「なんだこの甘い空気……」
ゆみ「……」
320 = 1 :
――――
京太郎「それじゃ、今回はありがとうございましたー!」
マホ「ありがとうございました、です」
ゆみ「こちらこそ、勉強になったよ――いや、こういう挨拶は部長がするものだな」
睦月「はい。二人のおかげで、この二日間は大きな発見があったし……部員一同、学ばせてもらった。
あんまり学校の紹介もできなかったけど、うちに来るなら歓迎するよ」
マホ「はい!」
智美「むっきーも、かなり部長が板についてきたな。もう私がいなくても安心して任せられそうだ」ワハハ
佳織「元々、加治木先輩に任せっきりだったくせに……」
桃子「でも、本当に頼れる先輩っすよ」
京太郎「はは……では、またいつか打ちましょう」
睦月「うむ。楽しみにしているよ」
ガラッ
マホ「さよーならー!」
バタン
智美「――さ、私らも昼ごはんとするか」
睦月「そうですね、もういい時間です」
ゆみ「」スッ
桃子「先輩?」
ゆみ「……トイレだ」ガラッ
321 = 1 :
――――
鶴賀学園・校門前
マホ「それにしても……先輩。東横さんのこと、好きだったんですね」
京太郎「……」
マホ「先輩?」
京太郎「……へ?」
勝負の後で気が抜けたのか、京太郎はどこか上の空だ。
マホ「先輩……」
京太郎「あぁ、ごめんごめん。何の話だっけ?」
マホ「もういいです……そういえば、さっきかかってきた電話、結局誰だったんですか?」
京太郎「ああ……咲の家からだったけど。あとで掛け直してみるよ」
そして、角を曲がりかけた時――
「――須賀!」
京太郎「ん?」
マホ「加治木さん?」
ゆみ「すまない、少しいいか?」
京太郎「……時間は、と。はい、五分くらいなら大丈夫です」
マホ「マホ、また何か忘れ物でもしました?」
ゆみ「……単刀直入に聞こう。どうしてモモが見える?」
マホ「え……」
ゆみ「モモは……はっきり言って、普通じゃない。ただ影が薄いというのでは、説明がつかないんだ」
本人曰く、マイナスの気配。対局中の捨て牌やリーチといった、桃子の関わったあらゆる事象すら見えなくなる。
ゆみ「私は、自信が無い……もし、モモに会うことがなくなったら、すぐにモモのことを忘れてしまうんじゃないか」
京太郎「……」
ゆみ「教えてくれ。そのメモには……何が、書いてある?」
322 = 1 :
京太郎「……後悔、しますよ……」
そう言いつつも、京太郎はもう逃げはしなかった。左手を緩めて、メモ帳の表紙に右手をかける。
マホ「先輩……?」
京太郎「……」
パラパラパラパラ……
ゆみ「……」
ゆみの目がメモ帳の中身を追う。しかし――
ゆみ「……?」
白紙、白紙、白紙――メモは全て白紙のまま、最後まで白紙だった。
マホ「本当に、ただのハッタリだったんですね……」
――しかし。
ゆみ「……須賀。私がこれで満足すると思うか?」
京太郎「……」ギリッ
顔に書いてある。「これで終わりではない」と――
ゆみ「全部だ。背表紙の裏まで……!」
京太郎「……」スッ
最後の一枚。メモ帳そのものを、めくる――
同時に、悲鳴が上がった。
背表紙の裏には、何も書かれて――否、何か書かれていたとしても、それは見えなかっただろう。
なぜなら、その背表紙には――赫く赫く、血がべっとりとついていたのだから。
マホ「せん、ぱい……」
だが、皆の視線は背表紙などには向いていなかった。更にその先――京太郎の、左手の平。
京太郎「……これが、俺の出した答えです」
323 = 1 :
トウヨコ
モモコ
324 = 1 :
ゆみ「っ……!!」
絶句するゆみの前で、京太郎は痛みに顔を歪めながらまたメモを握り締める。
マホ「どうして、そんな……」
京太郎「……こうやって、痛い思いをしてれば……絶対、忘れられないだろ?」
ゆみ「だから、自分の手に……刻んだというのか……!?」
京太郎「ええ。カッターでね……痛くて痛くて、眠れませんでした」
はは、と乾いた笑いを漏らす京太郎。
ゆみ「なぜ、そこまで……」
京太郎「……なぜ、ですか」
何が京太郎をここまで駆り立てたのか。
京太郎「もちろん――勝つため、ですよ」
ゆみ「たった一回の、勝利のために……?」
京太郎「……俺にとっては、譲れないものだったんです」
桃子は仕方ないことだと言った。だが京太郎は受け入れられなかった。
京太郎「どんな理由があれ、誰だって……他人から、そう簡単に忘れられていいわけがない」
ゆみ「……!」
京太郎「そして、どんな理由があれ……俺はそう簡単に他人のことを忘れたくない。これは……」
京太郎「自分との、戦いっすよ」
325 = 1 :
――――
数日後、清澄高校麻雀部
優希「京太郎ー!タコス一丁ぉー!」
京太郎「へいへい、ちょっと待て」
和「ロンです」バラ
まこ「む、ここじゃったか……」チャラ
久「そうだ、須賀君。鶴賀はどうだったー?」
優希「勝ってきたかー?」
京太郎「ん、まあ一応……な。ただ、結局加治木さんからは直撃取れなかったわ」
久「あー、ゆみね……」
京太郎「ま、別に直撃取らなくても勝ちは勝ちなんですけどね……」
まこ「それは別として、京太郎。その手、大丈夫なんか?前から包帯グルグル巻きじゃが」
優希「あー……」
久「そういえば、まこはまだ聞かされてなかったわね……」
まこ「?」
狂堕狼「フッフッフ、安心して下さい。この魔手(て)はもう大人しいもので……くっ!こんな時に!
静まれ、俺の左手よ!……ふう。中々、手懐けるのも楽じゃないぜ……」
まこ「……こんなキャラじゃったか?京太郎」ボソ
久「しっ、そっとしておきましょう……」ボソボソ
京太郎「……ところで、咲は?最近あんまり見かけないけど……」
……。
京太郎「え?何この沈黙」
優希「知らなかったのかー?」
久「須賀君には真っ先に話してるものだと思ってたけど……」
京太郎「え?え?」
和「咲さん、転校するんですよ?」
京太郎「……は?」
To be continued……
326 = 1 :
なんとか年内に投下完了。
また長いこと留守になると思いますが、どうぞのんびり待ってやって下さい。
それでは、良いお年を~
330 :
京誕じゃないか……カプスレで思い出したよ
例によって更新できません。とりあえず京太郎おめでとう
331 :
生存報告乙~
332 :
二ヶ月経ちそうなんでとりあえず生存報告。
最近カプ総合スレで闘牌がはやってるっぽいけど、
正直>>1はハイクオリティな普通の闘牌なんて書ける気がしないので
これからも能力全開な麻雀で行こうと思います。
333 :
おつ
いつまでも待っとる
334 :
ガチ闘牌描写はやらかしたときマジで萎えるからね…
舞ってる
335 :
ガチでやったらミスった時にリカバー効かないから軽めでいいぞ
336 :
二ヶ月おきの生存報告。
しかし状況がろくに進んでいない今日このごろ。
337 :
生存報告乙です
338 :
いつでもいいから待ってるぞ
100年後とかはさすがに困るが
339 :
生存報告ー……
暑いけど今日も生きてます。
熱中症に気をつけて……
340 :
生存報告乙です
みんなの評価 : ★★
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