元スレ京太郎「俺たちの……」マホ「可能性……?」
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201 = 1 :
――――
タン……トン……
マホ(うぅ、親被り……)
東二局。まだ序盤なのに、既にマホと佳織の差は48000点ある。
マホ(つらいです……)
ほとんど戦意は折れていた。点差だけではない。マホは、本来もう負けているのだ。
マホ(さっきの局、マホの三萬を妹尾さんがロンしてたら……その時点で四暗刻、トビ終了でした)
――佳織は初心者だから、気付かなかった。にも拘わらず、地和をツモった。
マホ(同じ初心者でも、こんなに運に恵まれているなんて……マホ、こんな人に勝てる気がしません……)
佳織「あ……つ、ツモ!」バラッ
1123456678999p ツモ1p
佳織「えっと……九連宝燈?」
マホ「」
もはやショックのあまり声も出ない。
京太郎「なっ……」
桃子「ええー!?かおりん先輩、それはズル過ぎるっすよー!?」
ゆみ「まさか……ここまでとは……!」
佳織「えっ?えっ?そ、そんなに凄い?」
睦月「……うむ。積み込みを疑われても仕方ないな」
智美「あー……佳織、もう私からお前に教えてやれることは無いな」
睦月「いや、先輩……東一局の四暗刻見逃しは……」
智美「この対局が終わったら教えてやるつもりだったけど、なんかもう必要ないんじゃないか?」
佳織「??」
面倒くさそうに言う智美。マホも全く同意見だった。
マホ(麻雀はどれだけ頑張っても運が無ければ勝てない、ですか……)
やるせなかった。東一局の佳織の見逃しは、ミス以外の何物でもない。
それも、マホでさえ気付くような初歩的なミスだ。
マホ(それを、圧倒的な『強運』で……無かったことにされた。そんなの、どうしようもないじゃないですか)
麻雀というゲームの、理不尽さがそこには有った。
マホ「マホのトビ、終了ですね……」
202 = 1 :
――――
京太郎「……次、さっき入ってなかった三人が入るみたいだけど。どっちがいく?」
マホ「……先輩に、どうぞ……」
京太郎「……あー、ドンマイ。ほら、さっきのは事故みたいなもんだろ?気を落とすなって」
マホ「……はい。でも今は……」
京太郎「……そうか」
京太郎(まぁ、普通やる気無くすよな。あんな無茶苦茶な麻雀打たれたら……)
二連続役満。鶴賀の面子も、さすがに驚いていたようだ。
京太郎(しかし……マホちゃんがこんなにショックを受けてるのは珍しい気がするな)
まだ知り合って二週間しか経ってないが、なんとなくそう思える。
京太郎(もっとこう……なんていうか、『凄い!』みたいな感想の方がらしい気が……)
ゆみ「……須賀。よろしくな」
京太郎「」ハッ
気付くと、もう場決めも終わっていた。
京太郎「はは、すいません、ぼーっとしちゃって」
席に付き、意識を卓に向ける。対面はゆみだ。
京太郎(加治木ゆみさん。一番警戒すべきはこの人だな……)ゴクリ
身に纏う達人のような雰囲気に圧倒されながら、京太郎は顔の感情を殺す。
京太郎「……お手柔らかに、お願いしますよ」
203 = 1 :
東一局
睦月 (起)25000
京太郎(南)25000
智美 (西)25000
ゆみ (北)25000
マホ(……見学しようと思ってたんですけど……)
佳織「……」ポワポワ
マホ「……須賀先輩のこと、見てるんですか?」
佳織「? うん。見学……かな?」
マホ「そうですか……」
佳織「夢乃さんも一緒に見ますか?」
マホ(……この人はなんとなく苦手です……)
ゆみ「……」トン
睦月「……」タン
佳織「う~ん、動きが無いね……」
マホ「……まだ、始まったばっかりですよ」
佳織「……」
京太郎「……」パシッ
智美「……」トン
ゆみ「流局……だな。ノーテン」パタン
智美「テンパイー」パラッ
睦月「……ノーテンです」パタン
京太郎「ノーテン」パタン
204 = 1 :
佳織「……なんか、地味な闘いだね」
マホ「そうですか?」
佳織「みんな、ほとんど喋らないからますますそう思うのかも」
マホ「蒲原さんは、結構喋って……というか、笑ってましたけど」
佳織「あはは、智美ちゃんはね。でも、なんて言うのかな……いつもは、もっと喋ってるんだよね。
今は、そう……大会の時みたい。実況が欲しくなる感じ?」
マホ「でも……凄く真剣に打ってるのが伝わってきますよ」
佳織「そうだね。真面目なのは分かるんだけど……やっぱり、私は賑やかな方が見てて楽しいかな」
マホ「そう、ですか……」
正直、分かる気がする。マホも静寂には余り馴染めない質だ。
マホ(でも……この緊張感、これこそ麻雀!って感じもするんです)
マホは音を立てないように、ゆっくりと立った。
佳織「夢乃さん?」
マホ「……マホ、加治木さんの方見てます」
――――
東二局一本場
京太郎(純さんが言うには……場の流れにも緩急みたいなものが有るらしい)トッ
智美「ワハハ……」タン
京太郎(今は多分、緩やかな流れ……無理に動いても、大きな和了りは期待できない)
ゆみ「……」トン
睦月「ポン」パタッ
京太郎(……だから、まあ今回は運が良かったと思うか)チャッ
普通に打って、普通に和了れた。
京太郎「ツモ。平和ドラ1、1400オール」パラッ」
205 :
すごく楽しみにしてた
206 = 1 :
――――
東二局二本場
マホ(やりました!あんまり高い手じゃないけど、須賀先輩、とりあえず一歩リードですね)
ゆみ「……」チャッ
マホ(加治木さんは……タンピンの一向聴か)
356678m44s345(赤)78p 西
ゆみ「……」つ西
マホ(西……ドラの自風牌。最初の方と、一巡前にも切ってるから、持ってれば暗刻ができたけど……)チラ
ゆみ「……」
ゆみの顔に後悔の色は無い。
マホ(泰然自若……って感じです。意味、よく知らないけど)
――――
智美(ん~。ゆみちん、捨て牌を見る限りは裏目ってるな)トン
ゆみ「……」チャッ
智美(ん、これは……)スンッ
ゆみ「……」つ三萬
智美(――テンパイ、かな)
挙動にそれらしい兆候は無かったが、なんとなく分かる。
睦月「……」トン
智美(龍門渕の天江みたいな、百発百中の超感覚ってわけじゃないが……分かる時は分かる。匂いで)
タッ……トン……
睦月「……」チャッ
智美(おっ、こっちもか?)
睦月「……ん~……」つ七索
少し逡巡した。リーチを掛けるか迷ったのだろうか。
京太郎「……」チャッ
智美(私は三向聴……二人張ってるみたいだし、オリるか)
京太郎「……」ストッ
智美(安牌少ないけど、いけるかな?)チャッ
207 = 1 :
――――
マホ(中々、和了り牌が来ません……)
もう、ゆみが張ってから八巡目だ。
マホ(もしかしたら、もう誰か他の人もテンパイしてるのかも……)
敢えてそれぞれの手牌を直接見ることはせずに、卓に視線を巡らす。
睦月「……」タン
京太郎「……」トッ
マホ(……全然、分かりません。テンパイ気配の分かる人って、みんな能力者なんでしょうか?)
智美「……」トン
ゆみ「……」チャッ
マホ(ツモは四索――あれ?)
ゆみ「……」つ七筒
ゆみの打牌に疑問を覚える。
マホ(待ちが、少なくなっちゃいました……)
566778m444s345(赤)8p
まだ和了り牌が七枚残っていた六・九筒待ちから、二枚しか残っていない八筒の単騎待ちへ。
マホ(どういう、ことでしょうか……?)
――幸い、今回はすぐにその意味が分かった。
睦月「……」タン
京太郎「……」トン
智美「……通るかな?」つ一索
睦月「――ロン」バラ
智美「……ワハハー、駄目だったか」ポリポリ
123567m23s123p中中中 1s
睦月「中、三色……5200の二本場で、5800です」
マホ「……!」
あっ、と声を出す所だった。
マホ(加治木さんがツモった四索は、当たり牌だったんですね。
でも、よく分かりますね……マホなら、そのまま振り込んでました)
208 = 1 :
睦月(よし、上手くいった……)
自分の捨て牌をもう一度見直す。
睦月(序盤に索子を多く切ってるのが、良い感じに迷彩になったな)
対面に座る智美には、オリようとする気配があった。
恐らく、睦月がテンパイしていることに気付いていたのだろう。
睦月(部長……いや、蒲原先輩はテンパイ気配には敏感だ。
でも当たり牌までは分からないらしいからな)
ゆみ「……」パタン
ふぅっと息を吐く睦月をちらっと一瞥して、ゆみは手牌を静かに伏せた。
――――
東三局
ゆみ「リーチ」チャラ
マホ(三面待ち……良形ですね)
タン……トッ……
智美「おっ……ツモ。チートイのみ、1600オール」バラッ
ゆみ「ふむ……負けたか」パタッ
209 = 1 :
――――
東三局一本場
智美 (親)26600
ゆみ (南)20000
睦月 (西)26800
京太郎(北)26600
京太郎「ん……リーチ」タン
智美「ワハハ、四巡目か。早いなー」チャッ
佳織(う~ん、即リーって言うんだっけ、こういうの)
678m46s677889p北北
佳織「もっと、待ちとか役が良くなりそうだけど……」ボソ
桃子「おっ、良い質問っすね」ユラッ
佳織「あれ、桃子さん。てっきり加治木先輩の方を見てるのかと」
桃子「……ずっと隣で見てたっすよ。あと、別に加治木先輩しか見ないわけじゃないっす」
佳織「へ~。それで、さっきの良い質問って?」
桃子「ああ!」
佳織「?」
桃子「……ごほん。えっと、待ちや役がもっと良くなりそうなのに、リーチをかける理由っす」
佳織「あ、それね。両面待ちとかにしてからリーチした方が良いって教わったから。
あと、須賀君のあの手牌なら……イーペーコーとか、平和とか?も狙えそうだし」
桃子「両面待ちとイーペーコーはそうっすね。平和はそんなに近くないっすけど」
佳織「あ!じゃあ、タンヤオは?」
桃子「……いや、そっちも三枚いるっすね。もっと近いのは、三色と自風の北っす。
……そして、それらを狙えるのにリーチのみの嵌張待ちにした理由は……」チラッ
智美「……」トッ
ゆみ「……」トン
桃子「――他家をオロすため、っすね」
佳織「なるほど、リーチがかかったらみんな自由に打てなくなるもんね……。
心理戦だね。私には難しそう」
桃子「……最も、今これが最善手かと言われたら微妙な所っす。
状況によるっすけど、私ならもう少し待つっすね」
桃子(――あるいは、反応を見てるんすかね。オリるか、つっぱるか……)
京太郎「……流局ですね。テンパイ」バラッ
智美「ノーテン」パタッ
ゆみ「ノーテンだ」パタン
睦月「テンパイ」パラッ
210 = 1 :
――――
東四局二本場
京太郎(う~ん……さっきのはやっぱ、もうちょっと待てば良かったかな)トン
タン……パシッ……
京太郎(まだでかい点差はついてないし、手を育ててからリーチ……っていつもなら考えてたけど。
今回はそうしたくはなかった……)
桃子が推測したように、リーチに対する他家のリアクションを観る意味もあったが――
京太郎(なんか俺、ああいう早い巡目でテンパイした時って、どうも手が伸びないんだよな。
……統計取ったわけでもないから、完全に主観だけど)チャッ
和が聞いたら呆れそうな理屈だが、実際前局でも手を伸ばせる牌はほとんど来なかった。
京太郎(ま、過ぎたことをいつまでも引きずらないでおこう。ツキが逃げる)タン
京太郎の直感では、そろそろ場が緩急の『急』……つまり荒れ始める頃だ。
京太郎(ここで流れを掴みたいが……まあ、今は我慢だ。焦らず、落ち着いて機を待とう――っと?)
タンッ
睦月「リーチ」チャラ
京太郎(リーチかぁ……)トッ
迷わずオリ。
智美「……」ストッ
ゆみ「……」トン
京太郎(流れが津山さんにいってるな。鳴いて紛れを起こしたいけど……)
睦月「あっ、ツモ!」バラッ
京太郎(……一発か。これは仕方ないな)
睦月「リーチ一発、タンヤオドラ1……いや、ドラ4ですね。4200-8200」
智美「……一発ツモの上に裏モロ乗りかー。調子良いな」
ゆみ「ふむ……倍満の親被りか。少し痛いな……」
211 = 1 :
――――
南一局
智美「ロン。7700だ」バラッ
睦月「うっ……はい」チャラ
智美「ワハハ、油断したな」
――――
南二局
京太郎(よし、良い配牌だ……親のこの局で大きいの和了っときたいな)タン
トン……タッ……
京太郎(……良い感じだ、流れが来てる……)トン
智美「よぉし……リーチ!」タン
京太郎(リーチか……でも今は、攻める!)
京太郎「リーチ!」タンッ
智美「追っかけか……負けないぞー」トッ
トン……パシッ……
京太郎「――来た、ツモ!リーヅモタンピン赤1……裏、1枚。6000オール!」
智美「中々やるなー」チャラ
睦月「くっ、捲られた……」
ゆみ「……」パタン
212 = 1 :
――――
南二局一本場
京太郎(親)41900
智美 (南)21600
ゆみ (西)4300
睦月 (北)32200
京太郎(配牌は……索子が多いな。染め手狙えそうだけど、トップだしなぁ……)つ一筒
トン……タッ……
京太郎(ん、また索子)タン
手が重くなるのは嫌だが、有効牌が来ているのだからやはり流れは悪くない。
京太郎(中か……一枚切れ。染め手なら取ってたかもしれないけど)つ中
ゆみ「ポン」パタ
京太郎(……対面!)
落ち着いた声に、緊張感を高める。
京太郎(加治木さん、ここまで焼き鳥だが……要警戒だな)チャッ
今一度河を確認する。
京太郎(加治木ゆみさん……清澄のみんなから聞いた話を総合すると、鶴賀で一番強いのはこの人だろう)トン
智美「……」つ發
ゆみ「……ポン」タン
京太郎(うわっ……)
發發發 中中中
ゆみ「……」
見える役満――大三元。
京太郎(あり得る……まだ白は一枚も見えてない)
睦月「……」チャッ
京太郎(振り込みを避けるのは当然として、ツモられても親被りが痛い)
そして今は、ゆみが鳴いたのもあって流れが読めない。
京太郎(むやみに鳴いてもしょうがないな。何か手を打ちたいけど、ここはじっと我慢だ……)
幸い、ゆみの捨て牌はほとんどが萬子と筒子……つまり待ちは索子の可能性が高い。
睦月「……」トン
京太郎(索子は今、俺が結構な枚数を抱えてる……加治木さんがツモる確率は低いはずだ)チャッ
213 = 1 :
――――
智美(ゆみちん……怖いなぁ)チャッ
幸い、智美の手牌には白が二枚有る。それさえ切らなければ大三元は完成しない。
智美(それを除いても二鳴き、しかも染め手っぽい捨て牌……)トン
ゆみ「……」チャッ
智美(私は当然オリるけど……他二人は早和了りで流すことも視野に入れてそうだ。これは荒れそうだな)
214 = 1 :
――――
京太郎(よし、あと一枚……)つ北
運が良い。ここまでほとんど安牌を切っていただけなのに、手が進んでいる。
智美「……」つ一筒
京太郎(蒲原さんは完全にオリてるな……)
ゆみ「……」つ六萬
京太郎(ドラ……ツモ切りか。やっぱり役満か、染め手か)
睦月「……」つ四萬
京太郎(ツモ切り……津山さんはよく分からないな。比較的安全な牌ではあるが……)チャッ
667m222345(赤)6777s ツモ5m
京太郎(テンパイか。六萬はついさっき加治木さんが切った……津山さん以外には完全な安牌か)
その睦月も、四萬や七萬といったそばの牌を早い段階で切っている。
京太郎(なら、ドラ切りで取り敢えずテンパイしとくか)つ6萬
待ちは一索から八索と広い。運が良ければ、先に和了ることでゆみの逆転手を流せるだろう。
京太郎(でも、深追いはしない……危険牌を引いたら、素直にオリることを覚えておこう)
トン……タン……
京太郎(よし、安牌……)つ西
智美「……」つ七筒
ゆみ「……」チャッ
京太郎(ん……?)
ゆみの動きが、ほんの一瞬止まり――しかし、すぐに動く。
ゆみ「……」つ白
――手出しの、白。
京太郎(これは……大三元は消えたと見て良いのか?)
睦月「……」つ南
京太郎(……今さら手替りってことは……)チャッ
河に白が出ていなかった以上、ゆみは自分から大三元を捨てたということである。
京太郎(ホンイツの方でテンパイしたのか……?)つ一萬
智美「……ワハハ」つ白
京太郎(蒲原さん……ずっと抱えてたのか)
ゆみ「……」つ三筒
京太郎(ってことは……加治木さんは四枚目の白を引いてカラ切りしたってわけでもない)
睦月「……」つニ筒
京太郎(もしかしたら……)チャッ
――ゆみは今、オリているのかもしれない。
京太郎(あくまで可能性の一つ……だけど。加治木さんからしたら他に見えてなかった白を切った。
そして、これまで索子を集めていて、俺のテンパイに気付いたとしたら……)つ九萬
智美「……」つ白
京太郎(加治木さんは今、手牌が危険牌ばかりになっているのかもしれない……!)
ゆみ「……」チャッ
215 = 1 :
――――
マホ(絶対絶命ですね……)
ゆみ「……」
ゆみの手牌は、緑に染まっていた。
2335888s ツモ6s (中中中)(發發發)
マホ(ニ巡前、加治木さんは八索を引いて白を切った……マホには分かりませんけど、
多分もう誰か張ってると思って加治木さんは索子を抱えた)
たが、この手では逃げ切れない。親の京太郎に振り込んだ場合、最低三飜でゆみは飛んでしまう。
マホ(安全そうなのは……津山さんが切ってる、八索?それから、蒲原さんが切ってる四・六索……。
それから、二索を切ればテンパイですね)
だが、どれも京太郎には危険牌だ。
ゆみ「……」スッ
マホが考えを巡らせている間に、ゆみは手牌の中から一枚を選び終わっていた。
マホ(え……そ、それですか!?)
タンッ
216 = 1 :
――――
果たして打ち出された牌は――
京太郎(来たっ……!)ガタッ
――五索。
京太郎「ロン!」バラッ
567m222345(赤)6777s 5s
京太郎「タンヤオドラ2、7700!」
勝った。咲も認めるような強者に、とうとう――
『そのロン、成立せず』
京太郎「――は?」
ゆみ「聞こえてなかったか。津山、もう一度言ってくれ」
睦月「はい……ロン」パラッ
22m46s778899p東東東 5s
睦月「一盃口のみ、1600……頭ハネです」
京太郎「頭……ハネ……?」
ゆみ「そういうことだ。さあ、続けようか……まだ南の二局だ」
217 = 1 :
――――
桃子「凄い!先輩、かっこいいっす~!」
佳織「え?え?どういうこと?」
桃子「かおりん先輩、さっき話したこと覚えてるっすか?」
佳織「え?えっと……加治木先輩が白を切ったのは、手牌が全部ロン牌になっちゃったからかもって話?」
桃子「そう、それっす!加治木先輩はその窮地を乗り切ったんすよ!」
佳織「でも、振り込んでるよ……?」
桃子「だから……その振り込みの中から、一番安い支出になる牌を選んだっす。一枚だけの、飛ばない牌を!」
佳織「うーん……よく、分からないけど。凄いことなんだね」
218 = 1 :
――――
南三局
バラ
ゆみ「ツモ。タンピン三色ドラ1……3000-6000」
智美「む……さすがゆみちん。早いな……」チャラ
京太郎(く……完全に流れを持っていかれた……!)
――――
オーラス
睦月(このままでは打点が足りない……)チャッ
睦月「リーチ!」タンッ
京太郎「……」トン
睦月(……急ぎ過ぎたかな)
智美「……」トッ
ゆみ「……」タン
睦月(嫌な予感が……)タン
ゆみ「ロン。タンヤオチートイドラドラ……12000だ」バラ
睦月「……はい」チャラ
219 = 1 :
――――
オーラス一本場
ゆみ (親)27700
睦月 (南)17800
京太郎 (西)38900
智美 (北)15600
京太郎(まずい……!逃げ切れるか!?)チャッ
流れは依然ゆみに有る。京太郎との点差は11200――射程範囲だ。
京太郎(くそっ、一度は勝ったと思ったのに!)つ九萬
智美「……」つ四索
ゆみ「チー」つ東
(45(赤)6s)
京太郎(鳴いてきた!安牌は無ぇし……!)
睦月「……」つ西
京太郎(駄目だ、一旦これで……通れ!)つ八筒
智美「……」つ八筒
ゆみ「……」つ二萬
睦月「……」つ二索
京太郎(安牌が増えない……)つ八筒
ゆみ「ロン」バラ
333456m4568p 8p (45(赤)6s)
ゆみ「タンヤオ三色ドラ1……6100。終局だ」
京太郎「っ……!」
ゆみ 33800
京太郎32800
睦月 17800
智美 15600
京太郎(直前の二萬切り……!四面待ちを捨てて、俺の対子落としを狙い打ったのか!?)
智美「駄目だったな~。ありがとうございました」
睦月「ありがとうございました」
京太郎「……ありがとう、ございました」
ゆみ「ああ、ありがとう。……楽しかったよ」
220 = 1 :
――――
京太郎「はぁ……」
マホ「先輩……お疲れ様です」
京太郎「やっぱ……最初から勝てないって気持ちで挑むより、勝てるかもって思えるような面子で打って負ける方が……悔しいな」
マホ「そう、ですね。でも、本当にもう少しだったじゃないですか。次はきっと……」
京太郎「ああ、そうだな。次勝てばいいんだ。……マホちゃんも」ポン
マホ「はい!絶対、妹尾さんに一泡吹かせてあげます!」
佳織「(え~!?聞こえてるんだけどっ)」
桃子「(これは面白くなってきたっすね)」
京太郎「……妹尾さんと、何かあったのか?」
マホ「いいえ……ただ」
京太郎「……?」
マホ「(ちょっと、尊敬できないだけです……)」ボソ
京太郎「?ごめん、なんて?」
マホ「いえいえ、何も!それより……そうだ、これでお互い目標が決まりましたね!」
京太郎「ああ、そうだな。まあ俺も妹尾さんにリベンジもしたいけど……今回一番倒したいのは加治木さんだな」
マホ「お互い、頑張りましょう!」
京太郎「おう!」
京太郎(……そう、鶴賀で一番強いであろう加治木さんに……!)
――この時はまだ、気付いていなかった。鶴賀にはもう一人、真の難敵がいるということに――。
221 = 1 :
――――
マホ「……ツモ!リーチ一発、ドラ3!3000-6000です!」
ゆみ「平和を切って地獄単騎にした上で、一発ツモ……まるで久だな。なるほど、これが久の言っていた模倣か」チャラ
佳織「はえー、凄い……」チャラ
智美「佳織ー、お前それ3000点しかないぞ」チャラ
佳織「あっ、そうか私親……うう、もう飛びそうだよぉ」
マホ(よしっ、僅差だけどトップ!このまま……)
ゆみ「ロン。妹尾、何点か分かるか?」
佳織「えっ、えっと……平和と一通で……3900?」
ゆみ「よく見ろ、ドラも有る。7700だ」
マホ「……捲られちゃいました」
佳織「飛んじゃった……」
マホ(……妹尾さん、強いのか弱いのかよくわかりません。役満も、あれ以来一回も和了ってないし……)
智美「モモもそろそろ入ったらどうだー?」
桃子「そうっすねー、観てるだけでも面白いっすけど」
智美「ワハハ。なら今度は私が観る番だ」
ゆみ「そうだな……私も替わるか。津山、入るか?」
睦月「はい、打たせてもらいます」
マホ「あの、マホ……続けて入ってもいいですか?」
ゆみ「? 何も問題無いが。元々この場には七人しかいないんだ、総入れ替えはできないさ」
マホ「はい!ありがとうございます!マホ、頑張ります!」
京太郎「……俺はまだ見てるかな」
佳織「あ、じゃあ私も続けてだね。よろしくお願いします」
マホ(先輩、譲ってくれたのかな……よぉし、今度こそ妹尾さん相手にトップを取ります!)
マホ「よろしくお願いします!」
睦月「よろしく」
桃子「よろしくっす」
222 = 1 :
――――
東一局
マホ(妹尾さんに津山さん、それに……そうそう、東横さん。影が薄すぎて忘れそうになっちゃいます)トン
桃子「……」ト
睦月「……」トン
佳織「うーん……」トッ
……。
睦月「ツモ。400-700」
――――
東二局
マホ(よし、良い感じ)チャッ
マホ「リーチ」タン
佳織の強運についてはまだまだわからないことだらけだが、逆に言えばこの面子では佳織以外は警戒しなくてもいい。
マホ(もちろん、侮るつもりもありません。けど……津山さんに、何か特別な対策が必要なわけじゃない)
睦月「……牌、曲がってないよ」
マホ「わひゃっ!?すす、すいません!」
まさか心を読まれたわけでもないだろうが、当人に指摘されて動揺して変な声を上げてしまう。
マホ(うぅ、でも比較的マシなチョンボで良かったです……)
トン……タッ……
マホ「それ、ロン!3900!」
佳織「あう、はい……」
223 = 1 :
――――
東三局
マホ(妹尾さん、リーチに対してあんな危険牌……ひょっとしたらマホよりも初心者さんですね)トン
自分のチョンボは棚に上げるマホ。
マホ(でも、逆に考えれば……他家の動きを気にせずに打てば、自分の手を育てることに集中できる)
あるいは、それが佳織のラッキーパンチの正体なのか。
マホ(でも要は、先に和了ってしまえばいいんです!)
高い手、それも役満手を狙おうとしているなら、必然的に手は遅くなるはずだ。
マホ(ん、いい形……このままいけば三面待ちのテンパイです!)タンッ
――だがもちろん、麻雀は一対一の勝負ではない。そんなことは分かっていたつもりだった。
「ロン」バラッ
マホ「……あっ、あれ?」
前からの攻撃に備えていたら後ろから突き飛ばされた、そんな感覚。
桃子「リーチ混一色、ドラ1……8000っすよ」ユラッ
224 = 1 :
マホ「リーチ!?そんな、いつの間に……」
桃子「ちゃんと言ったっすよ。ほら、点棒も出てるし牌も曲がってるっす」
自分が聞き漏らしただけか?と他家に目で問う。
睦月「……うむ。言っていたな」
佳織「わ、私は全然気付きませんでした……」
何故か証言が一致しない。
睦月「夢乃さん、妹尾さんの役満和了にも驚いていたけど……清澄の面子から私たちのことを聞いてなかったの?」
マホ「??」
桃子「正直、他人の打ち方を完全コピーできるひとの方が凄いと思うっす」
睦月「そう……私もそう思う。でも、やっぱり……最初の驚きはこれが一番大きいよ」
例えば、天江衣の『支配』。宮永咲の嶺上開花。元々常識の範囲外にいる存在は、逆に『そういうモノ』として納得できてしまう。
睦月「その力はまさに、うむ――手品だ。タネを知らない人は、自分に死角が有るとすら思えない」
桃子「大げさっす。まあ、ともかく――ここからは、『ステルスモモ』の独擅場っすよ」
225 = 1 :
――――
京太郎(……何が、起こってるんだ……?)
観戦する京太郎もまた、混乱の中にいた。
マホ「リーチ……!」
桃子「通らないっすよ。ロン」バラッ
京太郎(ま、まただ……!なんでこんな見え見えの染め手に……)
その驚愕は、振り込んだマホに対するものではない。
京太郎(俺も、気付いてなかった……あれが危険牌だってことに!)
京太郎も、桃子が見えなくなっていたのだ。
佳織「これ、要らないかな……」トン
桃子「ロン。リーチ一発ドラ1……5200っす」ユラッ
睦月「……!リーチ、していたのか」
京太郎(本当に、どうなってるんだ!東横さんが牌を倒す瞬間まで、あそこにリーチ棒なんか……)
しかし、妙に記憶が判然としない。リーチ棒が出ていて気付かないわけはないのに、絶対に無かったとも言い切れないのだ。
226 = 1 :
桃子「――ツモ。終局っすね」
マホ「……あ、ありがとう……ございました……」
睦月「ああ。やっぱり強いな……」
佳織「私、焼き鳥だよ……」
桃子「お疲れ様っす」
京太郎「……東横さん!」
桃子「」ビクッ
意図せず飛び出た声に、京太郎自身驚いていた。
桃子「な、なんすか。須賀君」
京太郎「……俺と、打ってくれないか」
マホ「先輩……」
桃子「良いっすよ、別に……そんなことなら」
京太郎の申し出にほっとしつつ、戸惑いを見せる桃子。
京太郎「……わ、悪い。大声出して」
桃子「大丈夫っすよ。……ちょっと、嬉しかったし」
京太郎「え?」
桃子「なんでもないっす。手加減はしないっすよ」
薄く微笑む桃子。京太郎としても望む所だ。
京太郎(どんな形でも……それが東横さんに特有の『能力』なら、打ってみればわかるはず!)
227 = 1 :
――――
十数分後。
桃子「ロン……分かったっすか?」
京太郎「……」
理解はできた。元々マホが打っていた時から、予想はしていたのだ。
京太郎「俺が、見失ってただけなのか……」
ただ、その事実を受け止めるのに――半荘一回分の時間がかかった。
京太郎(たったそれだけ……俺のプライドが、認めなかっただけ)
桃子「……仕方ないっすよ。私自身が、影の薄さを利用してるんすから」
そう、見失ってしまうのは当然のことなのだ。京太郎だけでなく、マホや鶴賀の面子も見失うほど影が薄いのだから。
京太郎「でも、そんなことは関係無い……」ボソ
桃子「えっ……?」
京太郎(勝つ。この二日の内に、必ず……!)
桃子に負けた瞬間の悔しさは、ゆみに負けた時よりも遥かに大きかった。
京太郎(どうして、こんなに悔しいのかな)
同学年だから?それとも、桃子の力が理不尽に感じられたから?
京太郎(いや、理由なんかどうでもいい……勝ちたい、とにかくこいつに勝ちたい!)
衣と打った時に自覚した勝利への渇望が、再燃していく。
京太郎「もう一戦、いいかな」
桃子「いいっすよ、何度でも」
228 = 1 :
――――
ゆみ「さて、もういい時間だな……」
紅い西空を見て、ゆみが窓を閉める。
マホ「もう終わりですか?」
ゆみ「そう残念がらなくても、明日もあるだろう。……須賀も」
京太郎「……はい、分かってます」
結局、今日は一度も勝てなかった。ゆみにはどうしても一歩及ばないし、佳織は打つたびに必ず役満を和了ってくるし――
桃子には、手も足も出なかった。明日の半日で勝てるか不安になる。
京太郎(でも、啖呵は切っておくか)
逃げ道は、作りたくない。京太郎は卓を立ち、桃子を真っ直ぐに見据えた。
京太郎「……明日は、必ず勝つ」
マホ「マホも、諦めませんよ!」
二人の宣言に、桃子はくすりと笑う。
桃子「こっちも……負けるつもりは無いっすよ」
智美「よし、じゃあ二人!うどん食いに行くか!奢るぞ!」
京太郎「マジっすか!やったぜ」
ゆみ「(……お金もらっても、蒲原の運転は御免だがな)」
津山「(……ですね)」
智美を除く鶴賀の面子の視線に、京太郎が気付くことはついに無かった。
229 = 1 :
――――
マホ「キャーッ!イヤーッ!」
京太郎「やめろー!死にたくない!死にたくなーい!」
二人が叫ぶのもどこ吹く風で、地獄の道先案内人は哄笑する。
智美「ワハハハハハーッ!これだよ、この感覚だ!田舎の道、荒い地面っ!最高だぁー!」
マホ「先輩、マホ、気持ち悪く……」
京太郎「ちょ、吐くのか!?蒲原さん!袋はっ、ゲロ袋は!?」
智美「エチケット袋と呼べ!はしたない」
京太郎「どっちでもいいですから!てかなんでそんな余裕なんですか!?」
マホ「先輩、マホもう……」
京太郎「待て、なんでこっちを向く!?俺は何もできないぞ!おい、やめ――」
――――
マホ「うう~、ごめんなさい……」
京太郎「いや、悪いのは絶対にマホちゃんじゃない……」
念のため着替えを余分に持ってきていてよかった、とつくづく思う。
智美「ワハハー。悪いなー、まさかそんなに乗り物に弱いとは」
もはや文句を言う気力も無い。
京太郎(悪い意味で、酔いが醒めた……)
マホ「でも、吐いてから……少しスッキリしたかもしれません。あと、お腹もペコペコです!」
京太郎「……強いな、君は……」
230 = 1 :
――――
智美「さあ、なんでも好きなものを頼むがいいぞ!」ワハハ
マホ「うわぁ……なんでしょう、この凄く長い名前のパフェ。気になります!」
京太郎「……今は、水が欲しい……」
智美「なんだ、無欲だな!奢りだからって遠慮しなくていいんだぞ」
マホ「マホ、この釜玉っていうのにします!」
智美「おう、たらふく食え!私はなんにしようかなー、久しぶりに来たしチャーハンにするか!」
京太郎「……そこは、うどんじゃないのか……」
お冷に口をつけ、ようやくツッコミを入れられるくらいに回復してきた。
智美「ノンノン、チャーハンうどんだ!この店の看板メニューだぞ」
京太郎「……さいですか」
マホ「先輩、メニューどうぞ」
せっかく奢りなのに何も食べないのはもったいない。適当に目に付いたカレーうどんを注文する。
智美「マホー、どうだ鶴賀は。印象」
マホ「そうですね……妹尾さんには勝ちたいです!」
京太郎「多分そういう話じゃないぞ。進学先候補としてだ」
マホ「あ、そっちは……考えてませんでした」
正直過ぎる返答。
智美「いやー、構わないぞ?ウチに来るかとかそんな話されても困るだろ」
マホ「はい、まだ決められません」
231 = 1 :
智美「まだ一年半あるんだ、ゆっくり悩め。それはそれとして……佳織に勝つなんて、目標低くないか?
今日は何度かやってトップ取れなかったみたいだけど、見たところ佳織より打ててるよ」
マホ「そう……ですか?須賀先輩なんて、対局するたびに役満和了られてたんですけど」
京太郎「うん、だから俺は妹尾さんはもう諦めた……というか、あの人より順位上にはなったしな。
……でも、まだ加治木さんには勝ってない。だから……」
智美「きょーたんの目標は打倒ゆみちんか。頑張れー」ワハハ
京太郎「ま、そうです。あと、そのあだ名は別にいいですけど、広めないで下さいね?」
智美「それで、モモはどうすんだ?」
マホ「あっ……忘れてました」
京太郎「……俺も、今完全に忘れてたよ」
二人揃ってため息を吐く。
京太郎「東横さんの対策考えようと思ってたのに……こんなんじゃそれも忘れちまうな」
智美「どうしても忘れたくないことは、手に書くのが一番手っ取り早いぞ」
マホ「手……あ、マホはいつもメモ帳持ってますから、そっちに書いときます」
京太郎「俺も、メモ帳買おうかな……」
普段はケータイのメモで事足りているが、最近は紙の方が便利な気がしてきた。
232 = 1 :
マホ「そうだ、蒲原さんは東横さんに慣れるまで、どうしてたんですか?」
京太郎(ああ、そうか。盲点だった)
智美も桃子を忘れないように、何か特別なことをしたのなら、それを参考にできるかもしれない。
智美「手には書かなかったけど、そうだな……私の場合は、匂いで覚えたぞ」
マホ「匂い……?ですか」
京太郎「香水でもつけてるんですか?」
智美「ううん、モモ自身の匂いだ」
京太郎(参考にならねぇ……)
マホ「へー……部員の匂いまで把握してるなんて、さすが元部長」
智美「あはは、モモのは必要があったから覚えただけだぞ。
それに……モモに関しては、ゆみちんの方が適役だったみたいだ」
京太郎(加治木さん……)
そういえば、桃子は練習中ゆみとよく話しているようだった。
京太郎「もしかして……『見える』んですか?」
智美「いいや、ゆみちんも同じだよ……あ、うどん来た」
それぞれ頼んだものがやってきて、一度会話が途切れる。
京太郎「……うまいっすね」
マホ「美味しいです!」
智美「だろー?……えっと、さっきまでなんの話してたっけ」
京太郎「加治木さんの話……いや、加治木さんと東横さんの話ですね」
この短時間で、また桃子の存在が意識からとびかけていた。
マホ「加治木さんも、東横さんが見えるわけじゃないって……」
智美「そうそう。モモはなー、基本的に誰にも見えないぞ?ゆみちんにもな。
けど、私たちは……モモが欲しかった。まだ名前も知らなかった頃のモモをな」
京太郎「どういうことですか?」
智美「麻雀部の部員を募集する時に、学内でネット麻雀をしたんだ。私たちとモモは、そこで初めて出会った……。
そして、その時の打ち筋を見たゆみちんがモモを気に入ってな。入部しないかって何度もチャットで誘ったんだ」
マホ「それで、説得に応じて入部した……と」
智美「いや?何度誘っても断られたさ」
ラーメンをすすりながら、なんでもないことのように智美は言った。
233 = 1 :
智美「モモはあの体質もあるからな。チャットじゃ普通に話せても、リアルの人付き合いはできないんだ。
いや、今はできてるけど、少なくとも本人はできないと思ってた――あの日までは」
『麻雀部三年 加治木ゆみだ』
『私は 君が欲しい!!』
智美「業を煮やしたゆみちんが、モモのいる教室に乗り込んでいって……見えない相手に直接呼びかけたんだ。
君が必要だ、麻雀部に入ってくれ……と」
京太郎「凄い行動力……というか。冷静沈着ってイメージだったんですけど、意外と……」
マホ「大胆な人なんですね、加治木さん」
智美「本人もらしくないことをしたと言ってたなー。でも、おかげで……」
『面白いひとっすね』
『こんな 私で良ければ!!』
京太郎「なるほど……」
マホ「凄い……良い話です」
智美「ま、ゆみちんとモモの関係はそんな感じだな」
京太郎「大体わかりました。ありがとうございます」
空になった丼を置く。マホはまだ食べ終わっていない。
京太郎「……少し、風に当たってきます」
智美「おー、わかった。じゃあ外で待ってろー」ワハハ
234 = 1 :
――――
京太郎(……そんなに風ないな。淀んでやがる)
梅雨ほどではないが、じめっとした空気が充満している。
京太郎(……ん、ちょうど良いところに)
智美の止めたワーゲンからそう遠くない位置に、ディスカウントショップがあった。
京太郎(メモは……っと。色々あるな)
特にこだわりもない。なんとなく目についたものを取って、手元で眺める。
京太郎(ゆるキャラ……っていうのか?こういうの。どっかで見たような……。
あとシャーペンは……いいか)
宿で宿題をするために、筆記用具は京太郎もマホも持ってきている。
京太郎(これにするか。そんなに時間ないしな)
一つだけ買って、京太郎は店を出た。
235 = 1 :
――――
~宿~
京太郎「ったく、帰りは死ぬかと思ったぞ……」
食ってからまた智美の運転で、吐く寸前だった。さすがにマホが行きで吐いたことや、
もう暗くなっていることを考慮して智美も大人しめだったが。
京太郎「次は、あの人の誘いは絶対に断ろう……」
宿の畳に寝っ転がる。当然マホとは別々の部屋なので、一人っきりでくつろげる。
京太郎(一人っきり、か……)
一人でいることも嫌いではない。だが京太郎は、他人と一緒にいる方が好きだった。
京太郎(うん、俺は人の輪の中で生きてく方が性に合ってる……。けど、こうして一人になると……楽だな)
この部屋には今、自分しかいない。誰にも見られてないし、誰に気を使う必要もない。
もしこの状態がずっと続くなら、それはどうしようもなく楽で、そして――寂しいだろう。
京太郎(あの人は……東横さんは、ずっとそんな感じだったのかな)
練習中にポツリと漏らしていた。麻雀部に入らなければ、私はずっと一人だったかもしれない――と。
京太郎(他人とのコミニュケーションは……面倒なこともある。東横さんの体質があればなおさらだろうな)
目を閉じる。昨夜はあまり寝ていないが、睡魔がやってくる気配は無い。
京太郎「……」
瞑目したまま考える。明日どうするか。ゆみにどうやって勝つか。桃子にどうやって勝つか。
京太郎(……よし、メモを使うか……)
どれくらい目を閉じていたか。考えがまとまり、起きて部屋を出る。
京太郎「おーい、マホちゃん。筆箱を貸して欲しいんだけど……」
236 = 1 :
――――
桃子は寝る前に、今日会った二人のことを考えていた。
桃子(真似っこさん……マホちゃんは、打ち方を真似すると真似した人の『力』も再現できるんすよね。
なら……私のステルスも、あるいは……)
明日は警戒した方がいいかもしれない。
桃子(それに、清澄のおっぱいさんも、私のステルスが通用しなかったし……。
嶺上さんも、私が切った牌の中で槓材だけはギリギリ見えたらしいっすから、要注意っす)
それから、京太郎。
桃子(京ちゃんさんは……変な人っす。なんで私なんかにこだわるんすかね)
龍門渕透華のように、桃子をライバル視する人は今までにもいた。だが、それは桃子が強いからだ。
桃子でなくても、麻雀が強い人はいくらでもいる。桃子のそばにも、加治木ゆみというわかりやすい例がある。
桃子(なのに、京ちゃんさんは……加治木先輩よりも、私に勝ちたがっている。
それに、変なこだわりを感じるっす。あの時も……)
――――
今日の練習中のこと――
京太郎「ロン!リーチタンヤオ……」バラッ
桃子「フリテンっすよ。須賀君」ユラッ
京太郎「……そうか。なら仕方ない、罰符でいいな?」チャラ
桃子「えっ……いや、でも……」
桃子(確かに普通ならこのチョンボは罰符か和了り放棄……でも、今の状況は普通じゃない)
桃子「いいっすよ、ロンだけ巻き戻しで。こんなの、私と打ってたらよくあることっす」
京太郎「いいや、ルール通りにするべきだ。どんな理由があれ、俺は誤ロンのチョンボをした。なら満貫払いだろ」
桃子「……まあ、いいっすけど」
237 = 1 :
――――
桃子(フェア精神……っすかね。でも、ちょっと頑な過ぎっす。須賀君がミスしたわけでもないのに……)
基本的に桃子は、対局相手の見逃しをその人のミスとして認識していない。
桃子の捨て牌が見えないのは、桃子がそうさせているからだ。相手は何も悪くない。
桃子(もちろん、公式試合なら相手のチョンボ扱いにして利用するっすけど……
普段の練習でいちいち罰符なんて払ってたら、私はまともに麻雀を打つこともできないっす)
麻雀もある種のコミニュケーションの上に成り立っている。その場では、桃子の力はやはりハンデとも言えるのだ。
桃子(もし私が罰符を求めるようにしたら……きっと誰も私と打たなくなる。
せっかく楽しい空間ができたのに、それを壊したくはない)
ぎゅっと目を瞑る。今日はたくさん打ったから、少し疲れているかもしれない。
桃子(今夜は……ラジオはいい。もう寝よう……)
夜が深くなる前に――桃子の意識は、夢の世界へと旅立っていった。
To be continued……
238 = 1 :
ふぅ、ようやく鶴賀編前編終了……。長らくお待たせして申し訳ない
>>205
すごく嬉しいけど、そんなに期待しないでくださいね……(小声)
239 = 1 :
次回予告
睦月「あれは役満手のような一発逆転の手のテンパイ……」
佳織「それの何がいけないのかな?」
マホ「マホはもう……妹尾さんを否定したりしない!」
桃子「今はまだ私が動く時ではない……」
京太郎「壊れろ運命!」
次回、『ピースの輪』。お楽しみに!
240 :
乙!
次も楽しみに待ってます
241 :
次回も楽しみにしています
242 :
おつ!
次回も楽しみ!
243 :
おつ
一気読みしたけど面白い、次回も楽しみ
244 :
乙乙
咲さんどうした
245 :
生存報告。
ただ今闘牌描写中……もうしばらくお待ち下さい
247 :
1ヶ月経ったか、大丈夫かな?
248 :
リアルが忙しくて遊戯王も見れてない……
今日モモの誕生日だったから更新したかったけど、無理だった
249 :
残念 舞ってる
250 :
今作の遊戯王は面白いぞ……
続き待ってます
みんなの評価 : ★★
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