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    元スレ京太郎「俺たちの……」マホ「可能性……?」

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    51 :

    待ってます

    52 :

    アカンころたん顔芸してまう

    54 = 1 :

    ――――

    「……ふう。集合場所はここで……大丈夫だよね、うん。時間は――」

    集合時間、20分前。

    (道に迷って集合に遅れたりしないように、って早く出たけど……)

    辺りを見回す。

    (もしかして、まだ誰も来てな――あ、金髪だ)

    京太郎だろうと当たりをつけて、ベンチの方へ――

    マホ「――でも、あの時は中をポンしないと役が付かなかったです」

    (……マホちゃん?)

    足が、止まる。

    京太郎「そうだな、役がなきゃ和了れない。でも和了りに向かわなくたって、あと三巡もすれば流局だろ?
    他家がリーチかけてるし、オリれば良いと思うぞ」

    (……あれ、なんで私隠れてるんだろ)

    いつの間にか、近くの影から二人の様子をそっと窺っていた。

    マホ「でも、あの時は安牌が……」

    京太郎「いや、よく考えてみろ。中を鳴かなかったら、手牌に二枚残るだろ?それは当然、安牌になる」

    マホ「あ……なるほどです!」

    (なんだろう、この感じ……。二人を見てると、胸がざわつくような……)

    マホ「やっぱりまだまだ、和先輩たちには追い付けません……」

    京太郎「それは俺もだ。――だから、この合宿でレベルアップして、和たちを驚かせてやろうぜ」

    マホ「はい、先輩!またアドバイス、よろしくお願いします!」

    京太郎「ああ、俺に出来る事ならな。でも良いのか?俺で」

    マホ「須賀先輩が、良いんです!」

    (……仲、良いなぁ。一昨日初めて会ったとは思えないくらい――)

    55 = 1 :

    優希「咲ちゃん、何してるんだ?」ポン

    「ひゃあっ!?」ビクッ

    優希「おう!?どうした!」

    京太郎「……何やってんだお前ら」

    呆れた声に、何事も無かったかのように堂々と立つ優希。

    優希「よう京太郎!タコスの手配は出来ているか!」

    京太郎「いや、知らねーよ!なんで俺が手配することになってんだ!?」

    優希「全く、使えないじぇ!」

    京太郎「……この前の合宿ではどうしてたんだよ……」

    優希「マホも、おはよう!早いな!」

    マホ「おはようございます、優希先輩」

    京太郎「咲、お前も何やってたんだ?」

    「……後ろからこっそり近付いて驚かそうかな、なんて」

    京太郎「……優希、咲を巻き込むなよ……」

    優希「私は何もしてないじょ!言いがかりはやめてもらおうか!」

    京太郎「優希に言われてしたんじゃないのか?咲」

    「う、うん……」

    (らしくないって思われてるかな……)

    京太郎(どっちとも取れるような返事して……ま、優希に指図されてたとしても言いづらいだろうし、仕方ないか)

    優希「……で、お二人は仲睦まじく何を話してたんだ?」

    マホ「麻雀です!須賀先輩に教えてもらってました」

    優希「……京太郎、変なこと教えてないだろうな」

    京太郎「ねーよ。守りの意識が薄いって指摘をしてたんだ」

    「マホちゃん、一昨日もそんな感じの注意されてなかった?」

    優希「一昨日言った事は、微妙にニュアンスが違うじぇ」

    マホ「他家の事も考えろ、ですね!マホ、ちゃんとメモを取ってますから……えっと……」ゴソゴソ

    カバンの中を漁る、漁る……

    マホ「……忘れたみたいです……」

    優希「……今日もマホは、通常運行だじぇ……」

    56 = 1 :

    ――――

    清澄メンバー、電車にて

    マホ「漫画、で『が』です。次は竹井先輩です!」

    「が?……学生議会。で、い」

    まこ「い、いか……。イメージ」

    「じ……雀卓、で『く』です」

    優希「喰いタン、……だとダメだじょ。喰い下がり」

    「り?嶺上開花!」

    京太郎「う……ウマ」

    マホ「麻雀!……あ、終わっちゃいました!?」

    「そもそも、なんで途中から麻雀用語縛りになってたの?」

    優希「のどちゃんが雀卓なんて言い出すから、つい?」

    「……雀卓はまだ一般的な単語だと思いますけど」

    「その流れで『り』って言われたら嶺上開花しかないよね!」

    マホ「でも、須賀先輩は普通でしたね!」

    京太郎「……一応『ウマ』も麻雀用語だぞ。後で教えるよ」

    57 = 1 :

    ――――

    龍門渕邸

    透華「ようこそおいで下さいました!」

    「今日から三日間、よろしくね」

    メイド「お部屋へご案内致します、どうぞこちらへ」

    ――――

    京太郎(広いなぁ……)

    通された部屋は、まるで高級ホテルの一室だった。

    京太郎「良いのかな、俺一人でこんな広い所使わせてもらって……」

    コンコン

    京太郎「? はーい」ガチャ

    「ハァイ。どう、須賀君。問題無い?」

    京太郎「なんですか問題って。この部屋に不満を付けるとしたら、俺一人では使い切れないってことぐらいですよ」

    「そう。くつろいでた所悪いけど、もうすぐご飯の時間よ」

    京太郎「……少し早くないですか?さっきメイドさんから聞いた時間まで、もうちょっと有りますよ」

    「ご飯の時間には、ね。でも、食べる前に龍門渕の子たちに自己紹介してもらうから、少し早めにね」

    京太郎「分かりました」

    58 = 1 :

    ――――

    智紀「ではそちらから……どうぞ」

    マホ「はい!高遠原中学二年、夢乃マホです!好きな食べ物はりんごです!
    それから、えっと……誕生日は、12月20日です。よろしくお願いします!」

    京太郎「清澄高校一年、須賀京太郎です。誕生日は2月2日、あとなんだっけ、好物?」

    「別に言いたい事がなければそれで良いと思うよ?」

    京太郎「では、これから三日間、よろしくお願いします」

    透華「では次は私が!」バッ

    「はいはい、どうぞどうぞ」

    透華「龍門渕透華!二年生ですわ!」

    「因みに、ここにいる龍門渕の麻雀部員は皆二年生だ」

    京太郎(事前に調べてたから知ってるけど、こんなマホちゃんより背の低い人が年上って言われても信じられねー……)

    「……何か失礼な事を考えてはいまいな」

    京太郎「いえいえ、滅相もない」ポーカーフェイス

    「ふん……」

    透華「――聞いて驚きなさい、私の誕生日は9月10日!」

    マホ「近いですね、もうすぐ!」

    透華「なんなら祝って頂いても良くってよ?」

    京太郎「おめでとうございます、まだ二週間早いですが」

    透華(ふふ、誕生日の話は好都合でしたわね。お陰で目立つことが出来ました)

    「透華……衣の方が誕生日近いよ?」

    透華「ハッ!?私としたことが!」

    59 = 1 :

    「……まあ透華は置いといて。ボクは国広一、誕生日は9月21日です」

    マホ「国広先輩も、近いですね!」

    「一で良いよ。……あ、この手枷は別にボクの趣味って訳じゃないから。勘違いしないでよ?」

    京太郎(敢えて突っ込まないでいたのに……)

    「井上純。誕生日は9月14日」

    京太郎「誕生日……近いですね、井上さんも」

    「純で良いぞ」

    マホ(背、高いなぁ……須賀先輩と同じくらい?マホ、羨ましいです……)

    「天江衣だ。生辰は長月の6日」

    マホ「せいしん……?」

    京太郎「長月は確か……9月。天江さんも近いですね!」

    「そうだ。皆近いんだ、智紀以外」

    智紀「……私、沢村智紀。誕生日は3月10日。……別に疎外感とか、感じてないから」

    京太郎(反応に困るな……)

    60 = 1 :

    ――――

    昼食後

    「さて……それじゃ、軽く打ちましょうか」

    透華「組み合わせは自由ですの?」

    「とくに決めてはないけど……」

    透華「では原村和!卓に付きなさい、勝負ですわ!」

    「……ということなので、衣さん。エトペンをこちらに」

    「ああ、また触らせてくれ!」

    「構いませんよ」

    まこ「……ま、こうなるわな。部長、一緒に打たんか。沢村さんも」

    「良いわね」

    智紀「」コク

    「ちょうど十二人か……」

    優希「だじぇ。という訳で、勝負だノッポ!」

    「おう、お前の速攻、鍛え直してやるよ。……おい、そっちの二人も。さあ入った入った」

    京太郎「はい、よろしくお願いします」

    マホ「よろしくお願いします!」

    61 = 1 :

    ――――

    「おっ、俺の起家か」

    優希「ぐぬぬ……やはりタコスぢからが不足しているじょ……」

    京太郎「さっきハギヨシさんにタコス頼んどいたから、今は我慢しろ」

    マホ「あ、赤ドラは入ってないんですね」

    「自分の手牌見ながら、そんな事言うなよ。手が透けるぞ……」

    マホ「わ、はい。すいません」

    優希「悪いが、マホは初心者だじょ」

    「……そうか」タン

    (知ってたけどな。透華に昨日見せてもらった牌譜……ありゃ初心者そのものだ。
    透華は原村和がするような合理的な打ち回しも稀にあると言ってたが、何局も打ってればそう見える牌譜も出てくるだろ)

    トン……トッ……

    (こりゃ須賀君の方も期待出来ないかね……ま、オレとしちゃタコスと遊べれば満足だけどな)パシッ

    トン……タン……

    「ん、良いねぇ……やっぱ流れが来てるぜ」スッ

    「リーチ!」チャラ

    京太郎「……」ストッ

    (こいつ、全然顔動かさねーな……)

    タン……トン……

    (しかし、なんだこの気配は……?)トッ

    マホ「……」タン

    (こいつか……?しかし、張ってるようには見えない……)

    トッ……タン……

    マホ「……カン」パタ

    「何……?」

    (親リー相手にカンだと?)

    優希「おっ、これはまさか……」

    京太郎「?」


    マホ「――ツモ!嶺上開花、ツモ、タンヤオドラ4!3000-6000」

    62 = 1 :

    ――――

    「なっ……!」

    京太郎「嶺上開花だと……!?」

    優希「あれ?京太郎も知らなかったのか?」

    「どういう、ことだ……」

    マホ「宮永先輩の真似です!」

    京太郎「優希……」

    優希「マホは私やのどちゃん、それに咲ちゃんみたいな憧れの人の打ち方を再現出来るんだじぇ。……まあ、せいぜい一日に一局って所だけどな」

    京太郎(んな……そんな事出来るんじゃ……)

    京太郎「天才、じゃないか……」

    優希「ふっ、私ほどじゃないけどな!」

    「なるほど……面白いな、こいつは」

    京太郎(マホちゃん、俺なんかよりよっぽど強いんじゃ……というか)

    ――そうか、マホちゃんは……まだ、『牌が応えてくれる』って、信じてるんだな……

    京太郎(うっ……)

    ――だからって、人の真似をするのが無駄だった、って訳でもない。

    ――有るさ、それこそ和にも優希にも無いような物が。

    京太郎(めちゃくちゃ恥ずかしい……!一昨日マホちゃんに、お前は何を悟ったように語ってたんだよ!?
    あぁくそ、過去の自分を消し去りたい……)

    優希「京太郎?ツモ番だじぇ」

    京太郎「……認めたくないものだな、若さ故の過ちというのは……」チャッ

    優希「?」

    京太郎(ったく、俺が言うまでもなく、マホちゃんの人真似は無駄になんかなってない。
    ――俺がしてきたような猿真似とは全く違う)タン

    トン……タン……

    京太郎(つまり――また俺一人、取り残されるのか……)ストッ

    63 = 1 :

    ――――

    「ロン。へへ、まだまだだな」

    優希「くっ……次は負けんじょ!」

    京太郎(終局、か……)

    順位は上から純、優希、マホ、京太郎の順番だった。

    マホ「よしっ、チョンボはしなかったです……!」

    マホの言葉に京太郎は、

    京太郎(……あの、流局直前のマホちゃんのゴミツモ……)

    一応、教えておきたい事は有った。しかし――

    京太郎(俺は負けたんだ、マホちゃんに。――その俺が、俺よりより強いマホちゃんに、何を上からケチ付けるんだよ)

    京太郎「凄いな、マホちゃん……」

    マホ「え?」

    京太郎「優希や和に、届いてるんじゃないか。俺よりも先に……」

    マホ「先輩……」

    京太郎「さ、他の卓は……まだやってるな」

    話を一方的に打ち切り、京太郎は久たちの卓へ向かった。

    ――――

    京太郎「全然……和了れねぇ……」

    「京ちゃん、今日ツモ切り多くない?」

    京太郎「いつにも増してツキが無え……」

    「そういう日もあるよねー。後ろから見てても、尋常じゃないくらい裏目引いてて悲しくなってくるよ」

    智紀「まるで、満月の夜に衣と打ってるみたい……」

    京太郎(衣……そういえば、まだ天江さんとは打ってないな……)

    「また衣の勝ちだー!」

    マホ「また飛んじゃいました……」

    京太郎(……今日はやめとくか、絶対勝てないし……)

    64 = 1 :

    ――――

    「マホ、お前はまだ未熟だ!」

    マホ「はい……」

    「その模倣は、驚嘆に値するが……しかし、身が追い付いていない」

    マホ「追い付いて、ない?……ですか」

    「ああ。サングラスを掛けて打った、あの局は……」

    マホ「染谷先輩の真似ですけど……」

    「そう、恐らく真似自体は出来ていた。しかし、衣には通じなかった……何故かわかるか」

    マホ「……」

    「視界を狭め、卓上の牌をイメージとして捉える。……それが出来ても、引き出すデータが足りなくては意味が無い」

    マホ「……よく、分かりません」

    「そうか。……お前がその打ち筋を理解しなければ、借り物の力のまま、ということだ」

    マホ「……」

    「研鑽を積め。衣と勝負出来るように……期待しているぞ」

    マホ「……はい!」

    透華(……衣がここまで言うのも珍しいですわね……)

    ――――

    「今日はここまでにしましょう」

    透華「明日もよろしくお願いしますわ」

    「こちらこそ」

    65 = 1 :

    ――――

    翌朝


    「今日も勝たせてもらうわよー!」

    「昨日のリベンジ、させてもらうぜ!」

    透華「さあ原村和、今日も付き合ってもらいます!」

    京太郎(皆やる気に満ちてるな……)

    「須賀君、打とうよ」

    京太郎「はい、よろしくお願いします」

    ――――

    京太郎(ん、今日は牌が来てるな……)タン

    智紀「ロン」

    京太郎(うわ、単騎待ち……こりゃ仕方ないな)

    ――――

    京太郎「ロン!」

    「以外とやるね、須賀君」

    京太郎「ありがとうございました。ま、二位ですけどね」

    ――――

    「須賀君、結構良い感じね」

    「おう、IHの地区予選の時より格段に成長してるみたいだな」

    「牌譜、見たの?」

    「ああ。……そんじゃ、いっちょ揉んでやりますか」

    66 = 1 :

    ――――

    マホ「リーチです!」パシッ

    優希「高そうな感じだじぇ……」タン

    マホ「――ツモ!6000オール、頂きます!」

    智紀「途中までデジタルっぽかったけど……もしかして透華の真似?」

    マホ「はい!」

    ――

    透華「――夢乃マホ、目立ち過ぎですわ!私が後で、本物の龍門渕透華を教えて差し上げます……!」ドッ

    「ロン」

    透華「」


    ――――

    京太郎「ふう……」

    京太郎(一さんや沢村さんとは結構良い勝負出来たな……)

    「おーい。やろうぜ、須賀君」

    京太郎「……はい、よろしくお願いします!」

    ――――

    京太郎(よし、張った……!)トン

    (ポーカーフェイス、崩れないねぇ……だが、流れはわかる)

    「チー!」

    京太郎(まだ攻めてくるか……うわ、迷うなこれは)タン

    「ロン」

    京太郎「……はい」

    ――――

    京太郎「完敗、です……」

    「そう気を落とすな。相手がオレじゃ仕方ないって」

    京太郎「はぁ……」

    「ま、スジは良いかもな。なんなら指導してやるぞ?」

    京太郎「……」

    溜め息を飲み下し、明後日の方を見やる。

    マホ「……これで!」

    透華「甘いですわっ、ロン!」

    マホ「うぅ……」

    京太郎(目立ってるな、あの卓……)

    67 = 1 :

    ――――



    マホ「須賀先輩!」

    京太郎「……なんだ?」

    マホ「マホ、こんなに打つのは初めてです!」

    京太郎「俺もだよ」

    マホ「でも、いっぱい打てば打つほど、集中力が無くなって……多分、今日はもう誰の真似も上手くいきませんし……」

    京太郎「……そうか。なら……」

    少し考える。――だが、マホが勝つために必要な事は、もう思い付けなかった。

    京太郎「……逆に、成長するチャンスだって思えば良いんじゃないか?」

    マホ「チャンス?」

    京太郎「ああ。絶対に上手くいかないって分かってるなら、その打ち筋に対して諦めもつくだろ。
    ……つまり、今は自分だけのスタイルを探すのには持って来いの状況って訳だ」

    マホ「……分かりました!マホ、頑張ります!」

    68 = 1 :

    京太郎「……ああ、頑張れ」

    マホがごそごそとポケットを漁る。

    京太郎「……何してるんだ?」

    マホ「メモを取っておこうと……あ、有りました!」

    京太郎「忘れたんじゃないのか?」

    マホ「新しく買ったんです、いつアドバイスをもらえるか分からないので!」

    頭が少し痛くなってきた。

    京太郎(……良いのか?俺の言葉が、そんなにこの子に影響を与えて)

    くらっ……

    マホ「へ? きゃっ!」

    どさっと音がする。――だか、京太郎は倒れていない。マホが支えてくれていた。

    京太郎(今の音は……?)

    マホが筆箱を落としていた。口が開いて、中身が散乱している。

    マホ「須賀先輩……?だ、大丈夫ですか?」

    京太郎「っ……悪い」

    直ぐに身体を起こそうとして――

    マホ「あっ、倒れっ!」

    ――こんどこそ二人仲良く、床に倒れ込む。

    69 = 1 :

    京太郎「……ごめん、そっちこそ大丈夫――」

    マホ「は、はわ……っ」カァッ

    至近距離に、真っ赤になったマホの顔が有った。

    京太郎「……っ」バッ

    飛び退くように離れる。

    京太郎(くそっ、意識するなっ……)

    顔はマホと同じくらい赤くなっている。

    京太郎「その、すまん。ちょっとした、立ちくらみだと思う。心配ない……」

    しどろもどろ。

    マホ「こ、こっちこそ……ちゃんと受け止めれなくてごめんなさい……」

    真っ赤になった顔を伏せる。……お互い数秒間無言だったが、やがてマホが散らばった文房具を片付け始めた。

    京太郎(俺も手伝わないと……)

    妙に文房具の種類が多いが、手早く集めてマホの顔を見ないようにして手渡す。

    京太郎(分度器、コンパス、カッター、それに瞬間接着剤とか……何に使うんだろ)

    気になるが、聞く事も出来ない。

    「おーい、マホ。一緒に打とう」

    午後もまた、ひたすら麻雀だ。遠くから衣に呼ばれて、離れていくマホの背中を見送る。

    京太郎(全く、適当な事言って……頑張るべきは自分だろ)

    自己嫌悪。マホに対してアドバイスする前に、自分がもっと強くならなければならない。

    「どうした、顔が赤いぞ?」

    マホ「いえ、何でも……大丈夫ですから!早く打ちましょう!」

    京太郎(……マホちゃん、俺も頑張るよ)

    透華「……須賀さん、お手合わせを、お願いしますわ」

    京太郎「ええ……お手柔らかに」

    70 = 1 :

    ――――

    透華「ふむ……防御は、中々のものですわね」

    京太郎「麻雀は、攻撃より防御の方が重要だと思ってるんで」

    透華「なるほど……しかし、打ち方に覇気がありませんわ。振り込む事を恐れるあまり、弱気になっていません?」

    京太郎(え……?)

    京太郎「そんな事言われたの、初めてです……」

    透華「そうですか……私の思い過ごしでしょうか。ですが、時には打ち方を変えてみるのも良いと思いますわ」

    京太郎「打ち方を……」

    京太郎(今まで、和みたいなブレない強さこそ本当の強さだと思ってたけど……)

    透華「さぁて……お、ちょうどあそこの卓が終わりましたわね。――誰か、私と打ちません?」

    京太郎(龍門渕透華さん。この人みたいに、ブレが有るからこそ強い、そんな人もいるのか)

    「……おい」

    京太郎「え?ああ、すいません。使いますよね」

    「いや……ちょうど良い。お前とはまだ打っていなかったからな……確か、須賀と言ったか」

    京太郎「はい、須賀京太郎です。よろしくお願いします、天江衣さん」

    「……では、はじめと……手が空いているのは、ノノカか」

    「うん、やろっか」

    「……よろしくお願いします」

    71 = 1 :

    ――――
    東一局

    京太郎(親)25000
    (南)25000
    (西)25000
    (北)25000


    京太郎(起家か……。親で稼いどきたいな。まあ配牌は悪くない……)タン

    「……」チャッ

    京太郎(さっき龍門渕さんに言われた事……。確かに、俺は自分が和了る事に対して消極的になってるのかもしれない)

    タン……トッ……

    京太郎(どうせ、今のままの打ち方に拘ってちゃ、強くなんかなれない)タン

    トン……ストッ……

    京太郎(……よし、ツモも良い。このまま和了りを目指すぞ!)

    72 = 1 :

    ――――

    七巡目

    京太郎(一向聴……)トン

    「……」タン

    京太郎(よし、後はもう一枚有効牌が来たら、この牌を切ってテンパイ……。リーチもありかも知れないな)

    「……」トン

    「……」ヒュッ

    京太郎(……ん、要らないな。ツモ切り)タン

    「……ん、ツモ」バラッ

    京太郎(え?張ってたのか)

    「タンヤオのみ。500-1000だね」

    見れば、一の和了り牌は、さっき京太郎が切ろうと考えていた牌だった。

    京太郎(うわ、安手とはいえ……もう少しで振り込む所だったのか)

    73 = 1 :

    ――――

    東ニ局

    京太郎(ニ向聴……だけど)チラッ

    「……」
    西西西

    京太郎(和が、ドラの自風を鳴いてる……。最低でも7700の手、オリるべきか……?)

    打ち方を明確に決めていない分、京太郎には迷いが生じ易くなっていた。

    京太郎(いや、まだ四巡目だ。和が張ってるとは限らない……)

    そして迷いは、京太郎の打ち筋を鈍らせていく。

    京太郎(俺なら、自風が鳴ける状況なら『とりあえず』鳴いておく。それがドラなら尚更だ。
    つまり、和が張っている確率はそう高くないはず)

    意を決し、不要牌を切り出す。

    京太郎(ここは攻める!)タンッ

    「ロン。7700です」バラッ

    京太郎「……はい」

    京太郎(これは痛ぇ……)

    74 = 1 :

    ――――

    京太郎(くそっ、何やってんだ俺は……!)

    「……」ポチ コロコロ……

    京太郎(不要牌は、他にも有ったろ!完全な安牌とは言えないでも、和の切った牌のスジの牌とかが!
    それなのに、攻めるって決めた時、俺はそこで思考停止しちまった……!)

    そして馬鹿みたいに突っ張って、和の両面待ちに振り込んだ。

    京太郎(いつも通りの打ち方をしてれば、絶対に振り込まなかったのに……!)

    「……存外に、つまらないな」

    京太郎「え……?」

    対面の――衣の雰囲気が、変わる。

    ――――

    (衣……?)

    「夢乃マホが面白い打ち手だったから、期待していたのだが……。遺憾だよ」

    京太郎「……っ!」

    (様子がおかしい……。そう、まるで満月の夜みたい――)

    チカッ、と視界にフラッシュが起こる。

    (電灯が……明滅した!?)

    75 = 1 :

    ――――

    「」ブルッ

    (この感じ……まさか!)

    自分の対局が終了し、京太郎の卓を見物していた咲もまた、気付く。

    (あの夜と一緒だ……!あの県予選大会の決勝戦と!)

    京太郎「……期待外れですか、俺は……」

    「ああ、そうだ。だが、衣は気に入らない玩具は壊してしまう質でな……」

    衣の顔に、酷薄な笑みが広がっていく。

    「どれだけ嫌いな玩具でも、壊すとなると、これが中々面白い。
    あっさり壊れてしまうやつもあれば……極限の状況に追い込まれてから、逆に衣に牙を向いたやつもあった」

    過去を思い返すように、目を眇める衣。

    「須賀京太郎。お前にあの『猫の玩具』程の結末は期待出来ないが……。
    せめて、あっさりと壊れてはくれるなよ?」

    76 = 1 :

    ――――

    東三局

    (親)24500
    (南)32200
    京太郎(西)16300
    (北)27000


    京太郎(手が、進まねえ……)チャッ

    もう、十巡くらいツモ切りしかしていない。

    京太郎(一向聴までは、普通に進んでたのに……そこから全く有効牌が来なくなった)タン

    山も残り少ないが、形式テンパイを取ろうにも鳴く事すら出来ない。

    京太郎(俺だけじゃない……この卓に付いてる全員、もうここ五、六巡はずっとツモ切りだ)

    タン……パシッ……

    誰が張っているかも分からない緊張の中、ただ牌を切る音だけが響く。

    京太郎(……なんだ?この感じ……)トン

    ツモ切りを続けるに連れて、京太郎の胸に得体の知れない不安感が湧いてくる。

    京太郎(まるで……先の見えない暗闇を歩いているような――)

    77 = 1 :

    「クックック……引いてしまったよ……」

    京太郎「」ビクッ

    その声を聞いた瞬間、京太郎の身体に悪寒が走った。

    「ツモ。4000オール」バラッ

    京太郎「……!」

    衣の手は――何の事はない、お手本のようなタンピン三色だ。しかし京太郎にとって重要なのはそこではない。

    京太郎(ロン和了りを、見逃してる……!
    それも、上家の一さんが捨てた当たり牌だけじゃない。トップの和が出した牌もだ……!)

    特に安目でもないのに、二人からのロンを見逃した。その意味する所は――

    『――せめて、あっさりと壊れてはくれるなよ?』

    京太郎(俺を、狙い打ちしようとしているっ……!)

    顔を上げて、衣と――目が、合う。

    「ふふふ……どうした、顔色が悪いぞ」

    言われるまでもなく、京太郎には見えていた。
    衣の目に映る自分の顔――ポーカーフェイスは、とうに崩れている。

    京太郎(どうした、慣れてる筈だろ!?自分だけ凹むのなんて、いつもの事だ!)

    そう、部内でもいつもの事――だからこそ、京太郎はポーカーフェイスを身に付けた。
    清澄で負けが込んでも、咲や優希に嫌な顔は見せたくなかったから。

    京太郎(なのに、くそ……!こんなに、違うのか!
    純粋に勝利を目指す人と打つのと、俺を負かそうと意識してる人と打つのは!)

    78 = 1 :

    ――――

    東三局一本場

    京太郎(配牌、六向聴……!くそ、もうベタオリしかねえ!)

    今や京太郎の心は、衣への恐怖に支配されていた。

    京太郎(なんとか防いで……それで、誰かが和了るか流局にでもなって、せめてあの人の親が流れてくれれば……)トン

    ――――

    (だめだ、怖がっちゃだめだ……!)

    そして一もまた、恐怖と戦っていた。

    (ボクは衣の家族だ。友達だ!衣の事は、理解しなければ……いや、理解したい!)タン

    今の衣は、心を閉ざし、人を遠ざけていたかつての衣によく似ている。まるで、魔物として恐れられていた頃に戻ったかのようだ。
    だが、一はそうは捉えなかった。

    (今でも、衣を遠くに感じる事はある……。でも、少しずつ進んで来たんだ!ボクも、衣も!)

    京太郎「……」トン

    (だからこそ分かる。衣には、きっと何か考えがある……)タン

    「……」ダンッ

    京太郎「っ……!」

    相手を威圧するかのような衣の強打に、京太郎の肩が震える。だが一は怯まなかった。

    (ボクは信じてるよ、衣……!)

    ――――

    (京ちゃん……大丈夫かな……)

    明らかに怯えている京太郎は、後ろから見ている咲の存在にも気付いていないようだった。

    (いくら配牌が悪くても……まだ四巡なのに、もうベタオリで安牌しか切らないなんて)

    京太郎「……」チャッ

    (いつもは、こんな打ち方はしないのに。牌をツモってからの思考時間も、長くなってるし……)

    京太郎「……」トン

    79 = 1 :

    ――――

    京太郎(未来が、暗い……)

    先が見えない。僅かな情報を頼りに、安牌を切ってその場を凌ぐ。

    京太郎(まだ、九巡しか経ってないのかよ……)チャッ

    ツモは悪くないのに、配牌からベタオリを続ける京太郎の手牌はぐちゃぐちゃだった。

    京太郎(安牌……とにかく、振り込みだけは回避しないと……)トン

    ――――

    十四巡目

    京太郎(安牌……無くなった……)チャッ

    ニ巡前に和が捨てた牌は有る。衣はその時からツモ切りしかしていないから、普通に考えればそれは安牌なのだが……。

    京太郎(俺以外からは出和了りしないんだ、信用出来ない……!)

    他家の捨て牌は構わず、衣の切った牌だけを凝視する。

    京太郎(……片スジだけど、これはどうだ……?)つ六筒

    「……」

    「……」チャッ

    京太郎「」ハァ

    京太郎(通った……!よし、今のは片スジだったけど、これで次の巡は三筒がスジになる)

    80 = 1 :

    「……」タン

    「……」パシッ

    そして衣は、またツモ切りだ。

    京太郎(これで、安牌が出来た……)

    「……」ヒュン

    京太郎「……」チャッ

    もはや京太郎はツモ牌もろくに見ず、安牌と確信した三筒を切る。

    京太郎(これしか無い、これなら通る……!)タン

    しかし。

    「ロン」バラッ

    京太郎「……っ!」

    「タンピンドラドラ、イーペーコー。12000のニ本場は、12300……!」

    京太郎(平、和……?そんな馬鹿な!)

    一巡前、確かに衣はツモ切りをした。その前に切った六筒が通ったのに何故、三筒で平和に振り込むのか。
    開かれた衣の手牌は――

    223344m4455688p ロン3p

    京太郎「な、そんな……!」ガタッ

    あまりの衝撃に、思わず卓から立ち上がる。

    京太郎(一巡前に出た六筒で和了れば、リャンペーコーが付いて跳満。俺を飛ばす事が出来たのに……!)

    「久方ぶりにやったが、案外上手くいくものだな……」

    (親)36500→48800
    (南)28200
    京太郎(西)12300→0
    (北)23000

    京太郎(点棒が……ゼロにっ……!)

    「さあ、どうした?払えるだろう。早く座って、展望を失え」

    81 = 1 :

    ――――

    東三局ニ本場

    (一緒だ……あの時と……!)

    (親)48800
    (南)28200
    京太郎(西)0
    (北)23000

    思い出す、あの夜の事を。

    『塵芥共 点数を見よ』

      風越女子 0

    『汝等に生路無し!』

    (打点を下げて、相手の点数をゼロに……!)

    無論、この対局のルールでも0点ジャストならハコシタにはならない。

    優希「……うわ、またあれやってるじょ」

    「……優希ちゃん」

    いつの間にか、その卓の周りに人が集まっていた。

    まこ「咲、今来たんじゃが。この点数は……」

    「ええ、衣ちゃんの調整です……」

    「じゃあやっぱり、大将戦の時と……?」

    「……いえ、あの時と状況は似ていますが……決定的に違う点があります」

    実際にその窮地を経験した咲には、すぐにその違いが分かった。

    まこ「違い?」

    「二位・三位とトップとの点差です。
    あの時の私や加治木さんと違って、今の和ちゃん、国広さんは一回の和了で衣ちゃんを捲る事が出来る」

    優希「あの時も、ダブル役満さえあればって話をしたじょ」

    まこ「……つまり、和や国広さんに取っては、あの時のお前さん程に切羽詰まった状況ではないんじゃな?」

    「……ええ。その二人に取っては、ですがね」

    ハッ、と久が息を飲む。

    「そっか……!逆に須賀君に取っては……!」

    「……そう、あの時の池田さんと違って、トップ以外の二人の和了でも飛ぶ可能性が有る……」

    つまり、華菜よりも更に死に近い位置に、京太郎は生かされていた。

    (大将の池田さんには、チームの勝敗が委ねられていた。そのプレッシャーは私も知ってるけど……)

    京太郎「……」

    死人のような目で、配牌を茫然と眺める京太郎。

    (責任とか義務とか……そういうのとは違う、純粋なプレッシャーは、今の京ちゃんも相当大きい……!)

    京太郎に掛かる重圧を思い、咲は静かに息をついた。

    82 = 1 :

    ――――

    京太郎(なんだよ……これ……)チャッ

    手牌

    456m113888s35p北北 ツモ9p



    南、1m、8p、中、中、5m、6s、1m……

    京太郎(配牌からずっと、手が一枚も変わってない。ベストな打牌をしてるはずなのに、結果として全部ツモ切りになる……)トン

    もう、自分の頭で考えても考えなくても、同じなんじゃないか――そんな思いが頭をよぎる。

    京太郎(これは、本当に麻雀か……?配牌からツモまで、全部『打たされている』みたいだ)

    チャッ……タン……

    京太郎(また俺のツモ……)チャッ

    そしてまた、ツモ切り。

    京太郎(変わらない……不要な牌しか来ない……)トン

    「ポン」

    京太郎「」ビクッ

    突然の声に、体が跳ねる。

    京太郎(ロンじゃ、なかった……。でも、このままじゃいつか振り込むかも……)

    いつ飛ぶかも分からない極限の状況の中、牌を切る度に京太郎の精神は摩耗していった。

    83 = 1 :

    ――――

    (須賀君……配牌からずっとツモ切りしかしてない……)

    と言っても、それは一もほぼ変わらないのだが。

    京太郎「……はぁ、はぁ……」

    肩で息をする京太郎。かつて一が味わった絶望が、そこには有った。

    (これが天江衣、これこそが『支配』……。須賀君……今にも折れてしまいそうだ)チャッ

    さっきの和のポンから、京太郎の様子は明らかに振り込みへの恐怖を増大させていた。

    (しかも、今のポン……これで衣に海底牌が回る事になった)チラッ

    「……」

    (鳴いてズラす事も、出来そうにない……もう十巡目なのに)

    そして、海の底が見えてくる――。

    ――――

    十五巡目

    京太郎(このままじゃ……ノーテン罰府で飛んじまう……)

    だが、それ以上に今の京太郎を襲っていたのは、振り込みへの恐怖だった。

    京太郎(流局間際のこの巡目まで、本当にツモ切りしかしてない……。
    これが天江さんの力に依るものなら、狙われているはずの俺は、ツモ切りを続けたら絶対に振り込む事になる……っ!)

    しかし、今のツモ牌は衣と一に対しては現物。

    京太郎(結局、ツモ切りしかないのか……)つ西

    「……」つ九筒

    「……」つニ索

    「……」つ四萬

    京太郎(また……俺のツモか……)

    山に手を伸ばす。……牌を持った瞬間、微かな予感。

    京太郎(――!ついに、引いちまったか……)チャッ

    生牌の白――しかも、ドラ。

    京太郎(絶対に……天江さんは張ってる。捨て牌を見る限り、恐らく筒子の染め手……)

    衣だけでは無い。和と一も、打点次第では京太郎から出和了る可能性がある。

    京太郎(そう、打点次第……ドラなんか、特に狙い目だ!こんなの、掴まされたようなものじゃないか……)

    死の息吹を間近に感じる。意識が朦朧としてきた。もう、早く切ってこの場から逃げ出したい。

    迷いの末、京太郎は手牌の一枚をつまみ上げ――


    「……っ!」

    手を、止めた。

    84 = 1 :

    ――――

    京太郎(誰か……居る?)

    牌を切る直前、京太郎は確かに聞いた。声にならない声、誰かが『それは駄目だ』と息を飲む音を。

    京太郎「咲……?」

    振り返ると、いつ来たのか咲が居た。咲だけではなく、久やまこ、優希、それに純や透華たちも京太郎を見ていた。

    京太郎(皆に見られてるのに……気付かなかったのか、全然)

    自分がどれだけ余裕を失っていたか、京太郎は気付く。そして改めて自分が手に持つ牌を確認し――

    京太郎「……っ!?」

    気付く。――自分が、確実に死に向かって歩いていた事に。

    京太郎(何考えてんだ俺は!こいつだけは切っちゃいけないだろ!?)

    ――四萬。今まさに、上家の和が切った牌。
    京太郎の手牌において、唯一の完全な安牌。しかし――

    京太郎(これを切ったら、俺の手はニ向聴になる!
    あと一巡で流局になるこの状況で手を崩したら、流局した時に俺が張っている可能性は限りなくゼロに近くなる……)

    このまま副露が無ければ、京太郎のツモは残り一回。
    そしてニ向聴というのは文字通り、有効牌を二枚引き入れないとテンパイ出来ない状態なのだ。

    京太郎(今の俺はノーテン罰府で飛ぶ、そんなことは分かってただろ!
    誰かが張ってるとしたら、振り込んでもノーテンになっても同じ事だったんだ……!)

    『振り込む事を恐れるあまり、弱気になっていません?』

    透華の言葉を思い出す。

    京太郎(弱気……俺は今、文字通り気持ちの面でも完全に負けていた。だけど、それだけは負けちゃいけなかったんだ!)

    キッ、と対面を鋭く睨む。

    「……ほう……」

    京太郎(強く……!)

    「そうだ……その顔だ。漸く面白くなってきた!」

    その言葉に背中を押されるように、京太郎は――


    十七回目のツモ切りをした。

    85 = 1 :

    ――――

    (そうか……。衣は、須賀君を試していたのか)

    勢い良く切られた白を見て、一は全て理解した。

    京太郎「……和了りますか?」

    「いいや……残念ながら、誰もその牌では和了れないよ。どこぞの嶺上使いならば、話は別だがな……ははっ!」

    京太郎「そこまで言って良いんですか?手が透けますよ」

    (……全く、楽しそうに笑って……)チャッ

    気付けば、一も笑っていた。

    (衣、良かったね……)タン

    ――――

    (京ちゃん、笑ってる……)

    楽しそうに衣と話す京太郎に、咲は感慨を覚えた。

    (最近は、麻雀を打ってる時は全然笑わなくなってたのに……)

    和のように集中してるだけ、というわけでも無いようなのに、無表情で麻雀を打つようになった京太郎。

    (楽しい?って聞いたら、その時だけは笑って答えてくれたけど……)

    今、分かった。
    本当は楽しくなんか無かったのだ。

    (だって、今、京ちゃんは……あんなに楽しそうに打ってるんだから)

    86 = 1 :

    ――――

    「本当はノーテン罰府で殺してやるつもりだったが……気が変わったよ」

    高揚した気分と合わせるように、高らかにツモ牌を掲げる。

    「リーチ!」ダンッ

    駄目押しのツモ切りリーチ。

    京太郎「……っ!」

    「どうした、今になって臆したか!」

    京太郎「……!有り得ませんよ、そんなこと。今更!」

    (そうだ、全力でこい!お前の可能性を見せてみろ!)

    ――――

    京太郎(そうだ、状況はなにも変わってない。今更びびってどうする!)

    むしろ、分かりやすくなったぐらいだ。衣がリーチを掛けたという事は、考えるまでもなく張っているという事で。

    京太郎(つまり、次のツモで有効牌を引けなかったら俺の負け。ノーテン罰府で終わり……)

    「」ヒュッ

    京太郎(さあ、引け!)

    手を伸ばす。

    京太郎(ああ……これだ。この感覚……)

    ――自分の中で、何かがカチッとはまったような。

    京太郎(今、俺は……『麻雀』を打っている!)

    そして、打ち破る。

    456m113888s35p北北 ツモ北

    京太郎(張った……!)ダンッ

    京太郎の覚悟が、天江衣の支配を打ち破った。

    「……」チャッ

    山は、残り一枚。

    「……」トン

    一が牌を切り、そして――

    「須賀京太郎……合格だ」

    京太郎「!」

    「だから……華は衣が飾ってやろう」


    「――ツモ!」

    2344456789p白白白 1p

    「リーチ・一発・ツモ・ハイテイ、役牌・一通・ホンイーソー……ドラ3!48600!」

    87 = 1 :

    ――――

    京太郎「――ハッ!?」

    目が覚めると、知らない部屋だった。

    ハギヨシ「気が付きましたか」

    京太郎「ハギヨシさん……。って、あれ。もしかして、夢……?」

    ハギヨシ「いいえ、衣様との対局なら、夢ではありませんよ」

    上半身だけ起こしてみる。体に異常は感じない。

    京太郎「……今、何時くらいなんですか?」

    ハギヨシ「5時27分3秒です。ご気分はいかがですか」

    京太郎「特に問題は――って、結構寝てたんですね、俺」

    ガラッ

    マホ「先輩っ!」

    ハギヨシ(私は少し外しておきましょうか)シュンッ

    マホ「大丈夫で――きゃあっ!」ツルッ

    ドサッ

    京太郎「げふっ!?」

    マホ「ごっ、ごめんなさい!大丈夫ですか!?」

    京太郎「あ、あぁ……。無事だ」

    マホ「良かった……!」

    何事も無かったかのように起き上がって見せ――盛大にむせる。

    マホ「わわっ、先輩、寝てた方が……」

    京太郎「いや、大丈夫。ホント大丈夫だから」

    止めるマホにも構わず、完全に立ち上がる。

    マホ「先輩、急に倒れちゃうから……」

    京太郎「ごめん、心配かけたよな。昼も立ち眩みあったし、やっぱり寝不足は駄目だなー」

    マホ「……本当に、もう平気ですか?」

    京太郎「ん、オッケーオッケー。ばっちりだ」

    マホ「……」

    なおも心配そうな目で見てくるマホに、京太郎は少し考え、

    京太郎「……腹が減った」

    健康体アピールをした。

    88 = 1 :

    ――――

    「今日はごめんなさい、うちの和が……」

    透華「いえいえ、そんな!こちらこそすみませんわ、衣には私たちでよく言っておきますので……」

    「では、明日も」

    透華「ええ、よろしくお願いしますわ」

    ――――

    夜、純の部屋にて

    コンコン

    「開いてるよ、入って来い」

    ガチャ

    京太郎「……夜分遅くにすみません、須賀です」

    「来ると思ってたよ……いやなに、あの月を見ていたら、お前が来るような気がしてな」

    少し欠けた月……四日後には満月だ。

    「で、何の用だ?」

    なんとなく用件は分かっていたが、敢えて聞いてやった。

    京太郎「……麻雀を、教えて下さい……」

    「ほう……中々、殊勝な態度じゃないか。麻雀を、ね……ハッハッハ!」

    パン、と手を打つ。

    「良いだろう。本当は来るのが遅すぎるって文句を付けてやるつもりだったが……許してやるよ」

    京太郎「ありがとう、ございます……!」

    「礼を言うのはまだ早い。ほら、卓に付けよ……オレたちが打ってる、『麻雀』ってのを教えてやる」


    To be continued……

    89 = 1 :

    次回予告

    「おい、麻雀しろよ」

    京太郎「無様にもなろう、汚くもなろう!」

    「それズルじゃん!」

    「受け取れ、私のポンサービスを!」

    マホ「何カン違いしてるんですか……まだマホの同名牌は終了してませんよ!」

    次回、『ヘルカイザー京』。お楽しみに!

    90 :

    なんだこの次回予告は?まるで意味が分からんぞ!

    91 :

    乙!
    ヘルカイザーとか久しぶりに聞いたなw

    93 :

    次回予告が意★味★不★明なのはネタバレを避けるためなので……
    >>50も読み返せばある程度理解出来るはず……

    94 :

    寒さで筆が進まない……。
    次の投下は一週間後くらいになる……かな?

    96 :

    まってる

    97 :

    明日か明後日に投下予定。
    ただ、次回予告で言った分の半分の内容になります……

    98 :

    めっちゃ待ってる

    99 :

    翌日

    京太郎(結局、ちょっと寝不足気味だな……)

    手鏡を使って顔をチェック。

    京太郎(……うん、ポーカーフェイスは出来るな)

    「須賀君、大丈夫?」

    京太郎「はい。……昨日倒れたのはほら、あれですよ。
    あまりにも天江さんの和了りがあり得なかったんで、ショックが強すぎたんです。体は異常ありませんよ」

    「そう……。なら良いけど。無理はしちゃ駄目よ」

    京太郎「……はい」

    そして久は皆に振り返り、

    「さあ、今日が最終日。悔いの残らないよう、しっかり打ってね!」

    「はい!」

    皆、各々に卓を囲み始める。

    京太郎「……優希、東風やろうぜ」

    優希「? 良いだろう、ウォーミングアップだじぇ!」

    100 = 1 :

    ――――

    優希「――ツモ!ふふん、東場だけなら、我に敵無し!だじぇ」

    終局。

    京太郎「せっかく時間空いたし、他の卓見に行くか」

    優希「……待てーっ!もう一局ぐらい付き合え!」

    京太郎「ほぅれ、取ってこーい」ヒョイ

    優希「なぬっ、タコス!」ダッ

    京太郎「……さて、観戦するか」

    ――――

    (マホちゃん、今日は静かね……)パシッ

    マホ「……」トン

    「ロン。2000点です」バラッ

    マホ「はい」チャラ

    京太郎「……」

    「ん、須賀君。見てく?」

    京太郎「はい」


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