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    元スレ京太郎「俺たちの……」マホ「可能性……?」

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    151 = 1 :

    マホ「凄いです、誰にも聞かずにあんな事に気付けるなんて!」

    京太郎「……でも、届かなかった。気付いただけじゃ意味無い、負けは負けだ」

    マホ「そんな事ありませんよ!気付いただけでも凄いのに、それを実践までしたんですから!
    それに、惜しかったじゃないですか!もう少しで勝ってましたよ!」

    京太郎(……あぁ、そうか。俺は今、二つも下の女の子に慰められてんのか)

    我ながら、本当に情けない。

    京太郎「……ありがとうな、わざわざ追いかけて来てくれて」

    意地も張れないで、やってられない。涙を隠し、向き直る。

    京太郎「……でも、もう大丈夫だから。ほら、戻ろう。みんな待ってる」

    立ち上がろうと床についた手に、マホがそっと手を乗せた。

    マホ「先輩、駄目です。無理したら……」

    京太郎「無理、なんか……」

    静かに首を横に振るマホ。

    マホ「辛い時は、思いっきり吐き出さないと……失敗や負けに、囚われちゃいます」

    それは、失敗の多いマホだからこその言葉か。

    京太郎「……ごめん、意地張るつもりだったけど……」

    力を抜く。――自然と、言葉が溢れてきた。

    152 = 1 :

    京太郎「……悔しい、あれだけやって!勝つために必死に考えて、イカサマじみた手まで使って!
    それでも勝てないっていうのかよ、『魔物』には!

    お前の力なんか無茶苦茶、理不尽なんだよ!イカサマと良い勝負じゃねーか!咲の嶺上開花も!
    優希の東初のツキも、部長の悪待ちも!皆みんなインチキだ、なんであいつらだけそんな特別が許される!?

    俺には、何も!なんにも無いってのに、それでも必死に勝とうとしてるのに!
    誰かに聞いたらバレるからって、一人でコソコソあの人の弱点探して!

    俺が見付けた答えなんて、とっくに皆知ってたんだろ!結局俺は恥かいただけだ、
    ここなら可能性が有るってカンして見せて、有効牌の一枚も引き寄せられない!

    俺は咲の真似がしたかったんじゃない、ただ勝ちたかった!それだけだったのに、それすら上手くいかない!
    勝つために自分の打ち方曲げて、純さんに頭下げて!最後があのザマじゃ、合わせる顔が無いっ……!」

    そして、と一度言葉を切る。

    京太郎「自分に、一番腹が立つっ……!勝ちたかったはずだろ、お前は!
    何を満足してんだよ、楽しんでんだよ!わくわくしてんじゃねーよ、もっと悔しがれよ!」

    ――そこから先は、もう言葉にも出来なかった。マホに撫でられ、あやされながら、ただただ泣き続けた。

    153 = 1 :

    ――――

    京太郎「……」

    マホ「スッキリしましたか?」

    京太郎「……いや、一周回って自己嫌悪に陥ってる。ほんと何やってんの俺、年下の女の子に泣きつくとか……」

    クスッ、と笑いが漏れた。

    マホ「大丈夫ですよ。マホは気にしませんし、誰にも言いませんから」

    そしてハンカチを取り出そうとポケットに手を突っ込み――

    マホ「あれ?……ごめんなさい、部屋にハンカチ起き忘れてたみたいです……」

    京太郎「……つくづく、締まらないな。お互い」

    誤魔化すように立ち上がり、京太郎に手を貸して立たせる。

    マホ「マホ、決心しました!」

    京太郎「……何を?」

    袖で擦って目の周りを少し赤くしながら、京太郎は尋ねる。

    マホ「先輩の、敵討ちです!今度はマホが、天江さんに挑戦します!」

    京太郎「……へえ。勝算は、有るのか?」

    マホ「ありません!でも、これだけは言えます」

    笑いながら。

    マホ「挑戦しなきゃ、勝つ事もありません。……だから、先輩。また、天江さんに挑戦してみて下さいね」

    京太郎「……うん、そうだな。次、勝てば良いよな……」

    マホ「じゃ、約束ですよ?」

    京太郎「あぁ、約束」

    ゆびきりげんまん。

    154 = 1 :

    ――――

    ゆっくり廊下を歩きながら、二人で話を続ける。

    マホ「マホ、分かったんです」

    京太郎「? 何が?」

    マホ「昨日……天江さんに言われた事です。真似だけしてても、身が追い付いてないって。
    もし、天江さんの弱点を知らないまま真似してたら、上手く打てなかったと思います」

    京太郎「あー、確かに」

    マホ「それに、マホはマホ自身の『真似』がどういう物なのかも、良く考えたら分からない事だらけです」

    京太郎「……そうだな。自分の事は、知っておかなきゃな」

    ――自分が、何を求めているのかも。

    京太郎(勝利、対等な勝負、コミュニケーション、楽しむこと……。俺は麻雀に、何を求めてるんだろうな)

    今はまだ、分からない。――なら、探していこう。
    ブレながらでも、麻雀を打ち続けていれば――見えてくる物も有るはずだ。

    マホ「……ところで、さっきの対局について聞いてもいいですか?」

    京太郎「何?」

    マホ「あの槓材、どうして最後までとっておいたんですか?」

    京太郎「……どうしてその疑問に至った?」

    マホ「一番は、先輩が最後に引いた嶺上牌です」

    そう、京太郎は最後ツモ切りせずに手出しの安牌を切ったが――
    後ろから見ていたマホは、京太郎が最後に引いた牌を知っている。

    マホ「七索、でした。ポンする前の先輩にとっては、有効牌の……」

    155 = 1 :

    ポンする前、京太郎の手牌には『両嵌(リャンカン)』と呼ばれる形――すなわち四・六・八索が有った。

    マホ「先輩が言った通り、嶺上牌なら有効牌がある可能性はあった……。
    なら、テンパイする可能性を少しでも上げるために、八索がある時にカンしていれば……」

    そのチャンスは二回有った。京太郎がポンをした時と、ポンをした次の巡。

    マホ「四索と八索のどっちを切るか、っていう選択肢なら分かります。
    あの時先輩の視界からは五索は全山で、七索は二枚切れでしたから。でも……」

    そもそも、そのどちらかだけに絞る必要は無い。

    マホ「両方を待てる時にカンしておけば、テンパイ出来る確率は上がっていた……。
    というか、実際テンパイ出来ました。どうしてそうしなかったんです?」

    京太郎「……うん、ほとんど分かってるな。素晴らしい質問のしかただ」

    マホ「……先輩が最後に引いた牌が、七索じゃなきゃ気付きませんでした」

    京太郎「正直だな、っていうか皮肉か?じゃあ理由を言おう。……俺はあの時、自分のツモを信じてなかった」

    マホ「えっ……?」

    京太郎「まあ聞け。あの時は自信満々に有効牌を引くなんて宣言したけど、
    元々そんな保証はどこにもなかったろ?……咲じゃあるまいし」

    マホ「じゃあ、先輩はそもそも、どうやって勝つつもりだったんですか!?」

    京太郎「実に良い質問だ。俺が一番期待した物、それは……天江さんのリーチだ」

    マホ「リーチ……?」

    京太郎「あぁ。天江さんにとって、海底は代名詞みたいなもんだ。咲の嶺上開花と同じだな。
    もちろんそれだけじゃない。他家を一向聴からそれ以上進ませない、って能力の方がよっぽど凶悪だ」

    マホ「……でも、海底は天江さんにとって『特別』だと?」

    京太郎「天江さんがどう思ってるかは知らないけど、少なくとも自信はかなり有るみたいだ。
    ……その自信の表れが、十七巡目のツモ切りリーチ。リーチ・一発・ツモ・海底で、役無しでも最低四飜は付く」

    マホ「……でも、だからってあの点差でリーチは……」

    そう、普通はかけない。実際に衣も、リーチをかけずに手変わりを狙い、海底もそのままツモろうとしていた。

    京太郎「昨日の対局、俺が天江さんにボッコボコにされた時。
    あの時の天江さんは、逆の意味で『普通はリーチをかけない点差』からリーチをかけてきた」

    華は衣が飾ってやろう、とかなんとか言って、お得意のリーチ・一発・海底ツモで数え役満を和了った。

    京太郎「あれは舐めプだ。どんな安手でも俺を飛ばす事は出来た、にも拘わらず天江さんはリーチをかけた。
    ……俺は今回、それを期待したんだよ」

    マホ「……だから、最後の一巡まで加カンをとっておいたんですね」

    京太郎「あぁ。あの瞬間、他二人が張っていない限り、俺はノーテン罰府で逆転される状況だった。
    でも天江さんがリーチをかけてくれれば、その時点で点差が4400になる。あとは加カンで和了りを防げば逃げ切れる」

    マホ「なるほど……でも、天江さんはリーチをかけませんでした」

    京太郎「そこは単純に俺の読み違いだったな。海底を狙うように誘導する所までは上手くいったんだけどなぁ。
    しかも、そっちに賭けずに自分のツモを信じていればテンパイは取れたんだから、分からないもんだ」

    ただ、と京太郎は続ける。

    京太郎「早い段階でカンをしてたら、天江さんに海底を狙わせる事は出来なかった。
    ……その時点でズレるからな、海底牌が」

    マホ「……やっぱり、凄いです。マホ、そんなにいっぱい考えて打てません……」

    京太郎「ま、そこはこれから伸ばしていけば良いさ」

    156 = 1 :

    ――――

    東一局

    衣 (起)25000
     (南)25000
    咲 (西)25000
    マホ(北)25000


    「ふふっ、まさかお前も衣に挑んでくるとはな……」

    マホ「あれ、対局までの流れは……?」

    ??『キンクリじゃ』

    マホ「そんな!?」

    京太郎「あ、俺はちゃんと見てるからな」

    「私も、見てるわよ~」

    智紀「メタに言えば、解説役……因みに私も」

    マホ「先輩方に見られてる……緊張するけど、いつもの通りに……」

    (いつも通りって、チョンボしちゃうんじゃ……)

    157 = 1 :

    ――――

    モグモグ

    マホ「よしっ、タコスぢから充填!リーチ!」

    (これはズラしておきたいな)

    「……」スッ

    「それだ、チー!」トッ

    「……」トン

    マホ「一発ならず、です……」トン

    タン……ストッ……

    「――カン」バラッ

    (来るか!)

    「もいっこ、カン」バラッ

    マホ「!?」


    「――ツモ。中・ツモ・嶺上開花、2000-4000です」

    56789m33s ツモ4m 8888p(暗槓)中中中中(暗槓)


    (初っ端から飛ばすわね~)

    京太郎(三飜で満貫だと!?インチキ和了もいい加減にしろ!)

    智紀(相変わらず、槓ドラ乗らない……)

    158 = 1 :

    ――――

    東二局

    「リーチ!」

    「チー!」カシャッ

    「……」トン

    「ポン!」タンッ

    トッ……タン……

    「よし、ツモ!500オールだ」

    京太郎(流石だな、純さん)

    智紀(デジタル派の私には、『流れ』っていまいちよく分からない……)

    「一本場!」チャッ

    (……妙なものだ。支配力が、さっきの対局から格段に落ちている。咲の存在が有るからか……?)

    ――――

    東二局一本場

    「リーチ」タンッ

    「早いなぁ……うーん、これかな?」トン

    マホ「……」チャッ

    2333m5(赤)67s245679p ツモ3p

    マホ「追っかけリーチです!」つ二萬

    (あら、三面待ちを捨ててドラ単騎?しかも二枚切れだから地獄単騎ね……)

    タン……パシッ……

    マホ「一発ならず、ですー……」トッ

    (でも、私の真似とは限らないわね。『カン出来る』待ちを選んだ可能性もあるし……)

    「――げっ、ドラかよ……」タッ

    マホ「ロン!リーチドラ3……あっ、裏ドラも九筒です!リーチドラ5で、12300!」

    「うわ、マジか……」チャラ

    (……やっぱり『悪待ち』だったみたいね)

    159 = 1 :

    ――――

    東三局

    咲 (親)33500
    マホ(南)34800
    衣 (西)19500
     (北)12200


    「……」チャッ

    23445677m45(赤)6s34p ツモ6p

    「……」つ三筒

    京太郎(待ちを少なくして手役を一飜上げたか……)

    トン……パシッ……

    「……ツモ。3000-6000」バラッ

    23445677m45(赤)6s46p 5(赤)p

    智紀(ここで赤五筒を引くのが、魔物と呼ばれる所以……)

    ――――

    東四局

    マホ「……」タッ

    「ポン!」タン

    (四巡目だけど、もう二鳴き……オリよっと)トン

    マホ「う~ん。じゃあ、リーチです!」タンッ

    「ロンだ。トイトイのみ、3200」バラッ

    マホ「はい……」チャラ

    京太郎(今のは突っ張るような手じゃない……まだその辺の判断が甘いな)

    160 = 1 :

    ――――

    南一局

    「……」トン

    智紀(衣は黙テン……でも高目なら24000の手、純に当てれば飛び終了か……)

    トッ……タン……

    「……衣ちゃん、張ってそうだね」

    「さぁ、どうかな」チャンデハナク

    「じゃあ、これ!」トッ

    マホ「……」ヒュン

    智紀(ツモって即切り……まるで無駄の無い打ち筋……)

    「……」トン

    「おっ、それポンだ」タン

    智紀(白ポン……純はオリてない……?)

    トッ……ヒュッ……

    (……さっきの白ポンから、やけに静かになったな、ジュン……)トン

    タン……ヒュンッ……

    「……あ」

    智紀(……? どうしたんだろ)

    「ツモだ、大三元」バラッ

    『!?』

    マホ「えぇっ!?」

    「8000-16000だな。いやー、流れが来てるとは思ってたが、まさかツモるとは……」

    161 = 1 :

    ――――

    南二局

    「……」

    (トップになって、ジュンがオリを意識しているな。
    ここまでポンでやたらとツモを飛ばされたが、もう邪魔は無い!)チャッ

    「リーチ!」ダンッ

    「うわっ、早いな……」トッ

    「……」トン

    マホ「……」ストッ

    (鳴けねぇ……)

    「――ツモ!リーチ・一発・ツモ、平和・三色・ドラ3!4000-8000!」

    (16000点……さっきの役満親被りを帳消しにしたわね)

    ――――

    南三局

    咲 (親)15500
    マホ(南)16600
    衣 (西)31500
     (北)36400


    「……」タン

    123m123s23444p南南

    京太郎(咲、この待ちでリーチかけないのか……?最下位なのに)

    マホ「……」つ南

    「……」

    京太郎(しかもスルーか……こりゃ、あの四筒だな)

    「……?」チャッ

    不審そうに首を傾げる衣。しかし、そのままツモ切りし――

    「カン」バラッ


    「……ツモ。嶺上開花、三色。3900」

    123m123s23p南南 4444p(明カン) 1p

    「くっ、責任払いか……!」

    京太郎(本来なら同巡フリテン、というかそもそも四筒じゃ役が付かないってのに……。
    こいつの能力、結構応用利くよな)

    162 = 1 :

    ――――

    南三局一本場

    「……」トン

    (また役無しのテンパイ気配……!)

    マホ「……」タン

    「……」チャッ

    (九索……生牌。また掴まされたか?)

    流石に今度は切らない。

    (同じ失敗は、繰り返さない……!)ストッ

    「……」タン

    「……」つ北

    そして咲が、ツモった牌をそのまま表向きに置く。

    「ツモか?」

    「いいえ。――カン」パラッ

    ゴッ

    「ツモ。2400オール」

    678m123999s5p 北北北北(暗カン) 5p


    「70府二飜かー……懐かしいわね」

    (やはり、掴まされていたか……!)パタン

    ――――

    南三局二本場

    「ふふっ……リーチ」タンッ

    (勢い、止まらねーな……)

    タッ……トン……

    「――ツモ!6200オール!」

    (捲られた……!)

    智紀(カンしなくても、普通に和了れるのか……衣、ちょっと調子崩れてるな)

    「……」

    163 = 1 :

    ――――

    南三局三本場

    マホ「宮永先輩、凄い追い上げです……!」

    (とりあえずトップにはなったけど……衣ちゃんの支配、また強くなってきた?)タン

    衣の力にはムラが有る。月齢や時間も関係しているらしいが、本人の精神状態にも大きく左右されるようだ。

    (昨日、京ちゃんと打ってた時は調子良かったみたいだけど。……そういえば、三日後には満月か)

    タン……トン……

    一向聴のまま、六回もツモ切り。やはり、これは衣の支配――

    「リーチ」チャラ

    (え、リーチ……?)チャッ

    また無駄ヅモ。しかし――

    (……ってことは、これは私のツモが悪いだけ?)タン

    ――――

    智紀(基本的に衣の力は、卓全体に及ぶ。誰か一人だけ悪ヅモにしたりは出来ない)

    だから、自分の手牌だけ見ていたのでは衣の調子を量り切れない。

    タッ……パシッ……

    「……」チャッ

    智紀(……押すか引くか、迷ってるのかな?)

    咲の手はしばらく動いていないが、今ようやく有効牌が来た。

    智紀(余った牌は二枚切れだけど、純に対しては危険牌……。トップだし、私ならオリるけど……)

    「……」トン

    スジ切り。咲もまた、オリを選んだようだ。
    だが、しかし――

    マホ「宮永先輩。その牌――カンです」パタッ

    智紀(大明カン……!)

    ゴッ

    マホ「ツモ。嶺上開花、三暗刻、トイトイ!8900です!」

    「まさか、責任払いを自分がするとは思わなかったよ……」

    マホ「はい!こういう使い方もあるんですね~」

    164 = 1 :

    ――――

    オーラス

    マホ(親)17900
    衣 (南)19000
     (西)26800
    咲 (北)36300


    「……」

    (ん、衣ちゃん……もしかして、今本気出した?)

    『魔物』特有の威圧感。自分にも有るらしいが、意識して誰かを威圧したことは無い。……つもりだ。

    (配牌は……三向聴だけど……)

    346m67s12345(赤)p東北中

    (ドラは……八筒か。カン出来そうにないのは、困ったなぁ……)

    いつもなら、対子か刻子が最低一つは有って、その内の『カン出来そうな牌』がなんとなく分かるのだが。

    (参ったよ……カンしなきゃ、衣ちゃんの支配からは逃れられない)

    二局前は、普通に打って跳満を和了ったし、一局前も純やマホはテンパイしていた。
    ――しかし、それは予兆でもある。

    (初めて闘ったあの試合でも、衣ちゃんが力を見せ始めた後に、加治木さんが普通に七対子を和了った。
    でもその後から、また衣ちゃんの独走が始まったんだ)

    その時と同じ状態だとしたら、この点差でも安心は出来ない。

    (安手で流したいけど、多分テンパイもさせてくれない……)

    王牌の絡まない限り、衣の力は絶対的だ。

    (……なら、私はオリて井上さんに期待しよっかな)タンッ

    ――――

    (鳴けそうに……ないな……)トン

    69m247s8p東南西北白發中

    九種八牌――字牌が綺麗に揃っている。

    (これだよなぁ。
    オレは鳴き有ってのプレイスタイルだってのに、衣と打ったらそもそも鳴かせてくれない局が有る)

    これでは、衣のツモを飛ばすことは疎か、流れを変えることも出来ない。

    (根本的な所で、俺は衣と相性悪いんだよなー)

    なら、相性の良いやつに任せればいい。

    (衣は徹底的に鳴きを潰してくるだろうし、それならいっそオレは国士狙ってみるか。
    ……衣の相手は宮永にしてもらおう)タン

    165 = 1 :

    ――――

    (よし、この感覚……。二人の手は『支配』の中だな)

    純に鳴かれて、衣のツモが飛ばされることはもう無い。加えて、それ以上に厄介なのは咲だった。

    (支配する領域が違う、というだけでも衣にとっては難敵だが……。
    衣の咲との相性の悪さはそこだけではない)

    ――それはずばり、カンそのものだ。
    支配の及ばない所から牌をツモられるカン――特に暗カンを、衣は止めることが出来ない。

    (何故なら、衣の支配をすり抜ける物には王牌だけでなく――
    槓材における『四枚目』の存在も含まれるからだ)

    例えば周りの牌が無い牌(特に字牌)の刻子が手にある時、その同名牌――すなわち『四枚目』は、
    有効牌ではない。衣の力は有効牌を相手に引かせないが、『四枚目』は引かせてしまうのだ。

    (もちろん元々引ける確率は低く、仮に引いても、嶺上に都合良く有効牌がなければテンパイは叶わない)

    だが咲は、その両方を可能にする。
    槓材を集め、嶺上を支配する――衣にとって、これほど闘いづらい相手もそうはいない。

    (しかもこの『四枚目』は感覚的に察する事もできない。
    だから須賀の加カンも読めなかった訳だが……)ジッ

    対面を注視。――咲の表情は、あまり明るくない。

    (……咲は、けっこう分かり易いからな。
    この点に於ては、あの男のポーカーフェイスは大した物だった)タッ

    トッ……タン……

    今や、場は完全支配――ポン・チーは誰にもさせない。後は咲をマークし続けるだけだ。

    (……さて、脅威となる対象はほぼ封じたが)チャッ

    トップとの点差、17300。

    (咲から跳満を出和了る、というのは流石に傲慢が過ぎるか。倍満ツモが最も確実だな)

    そして最後に衣は、マホを見遣り――すぐ咲に視線を戻す。

    (こいつの模倣が成功するのは、多くとも一日の内、一人分を一局が限度。
    咲の模倣はつい一局前に見たばかりだ。隙を突かれることは無いだろう)パシッ

    166 = 1 :

    ――――

    トン……トン……

    ツモっては、切る。鳴きもリーチも無い場には、ただ単調な作業だけが続き、
    いつしかそれは更に単調な作業、ツモ切りの連続となっていた。

    マホ「……」チャッ

    それを嫌だとも思わず、マホは考える。

    マホ(須賀先輩……。先輩はあれだけのヒントから一人で考えて、天江さんの弱点に気付きましたよね。
    なら、マホも……)トン

    考える。京太郎から聞いた事、マホ自身が見てきた物――それらを繋げて更に奥、深くへ。


    マホ(誰も副露出来ないほどの、完全な支配……今日の対局で、先輩がオーラスにポンできた理由は……?)

    思考を加速させる。今日見た卓の記憶を掘り起こす。……目を眇め、手牌と卓を眺め――

    マホ(あ……)

    思考が止まる。もう一度頭の中でなぞり、違和感。

    マホ(あれ……?途中経過は分からないけど、『こうすれば良い』っていう確信みたいなものが……)

    何故、その結論に辿り着いたのかは全く分からない。しかしマホにはこの時、勝利への道が見えた。

    マホ(……でも、本当に信じて良いんでしょうか……)

    天恵のような閃き、それだけに迷う。それを信じて良いのか――

    マホ(……! 信じる……)

    『俺はあの時、自分のツモを信じてなかった』

    マホ(先輩……)

    『自分のツモを信じていればテンパイは取れたんだから、分からないもんだ』

    マホ(……マホは、信じます!上手くいくかどうかは分からないけど、自分を信じて……打ちます!)

    十六枚目の牌を切り、マホは手牌に手を伸ばした。

    167 = 1 :

    ――――

    京太郎(ん……マホちゃん、手牌を並び替えた?)

    3m223344m123s778p

    京太郎(三萬を一番左に……?次はあれ切るつもりかな)

    タン……トン……

    京太郎(もう十六巡目、でもやっぱ天江さん以外はノーテンか……)

    マホ「……」スッ

    京太郎(あ、当たる――)

    パタッ

    ツモ牌を持ってきたマホの手が、手牌に引っ掛かり――二枚を、自分の側に倒す。

    京太郎(良かった、見せ牌にはなってない――)

    パラッ

    京太郎「……え?」

    最初に倒した二枚を直そうと手を入れ――その両サイドの牌が、今度こそ向こう側に倒れた。

      二  四
    ■■萬■■萬■■■■■■■
       ■■

    マホ「……」チャッ

    直ぐに戻すが、

    京太郎(もう遅い。みんな見たぞ……)

    「チョンボ癖、治ってないね……。見せ牌のペナルティ、分かる?」

    マホ「はい!えっと……見せた牌ではロン出来ない、
    見せた牌を含んだ形でポン・チー・大明カン出来ない、ですね」

    「ま、この卓のルールではそんな感じか」

    京太郎(この卓の、か……チョンボ一つとっても、ルール次第で大違いなんだよな。麻雀は)

    168 = 1 :

    ――――

    マホ「つまり、マホは二萬・四萬を使えなくなりました……」トン

    「……」チャッ

    マホのツモ切りを一瞥し、衣は考え込む。

    (さて、この手……)

    5(赤)5m11223s678p白白白 中

    (白イーぺーコードラ2、四飜。リーチを掛ければ倍満に届くが……)

    どうも、マホのチョンボが引っ掛かる。

    (態とらしい……とまでは言えないな。こいつはチョンボがやたらと多い、只のうっかりかもしれない)

    だが。

    (今の見せ牌で、情報が増えたのは事実。少なくとも二・四萬が一枚ずつ有ることは確定した……。
    更に、推測まで含めれば……内側に倒れた二枚の牌。見えなかったあの牌も、二・三・四萬の可能性が高い)

    当然その情報を、咲や純も得た訳である。

    (となれば……リーチをかけても、衣が海底をツモれないようにズラされるかもしれない。
    かといって、リーチをかけなかった場合、もしズラしが無ければ衣は海底を見逃すことになる)

    そして、そのどちらのケースでも発生する問題は。

    (衣が和了れないという事は……必然的に、親が和了かテンパイで連荘にならなければ、衣に勝ち筋は無い)

    それは勝ちの可能性を、マホに――他人に委ねるという事。

    (……なら、迷う事は無い。衣は自分の力で和了ってみせる!)

    ダンッ

    「リーチ!」

    169 = 1 :

    ――――

    (ラスト一巡……やっぱ来たか)チャッ

    ツモ牌は、白。今の衣のツモ切りで二枚切れなので、鳴ける牌ではない。

    (……結局、一向聴のままだったか。後は一筒か九索が来ればテンパイだったのになー)つ白

    ――――

    (衣ちゃんのツモ切りリーチ……。倍満ツモられたら捲られちゃう、止めなきゃ……)チャッ

    3456m678s112345(赤)p 北

    (手は崩す事になるけど……もう、これしか無いよね)スッ

    手に取ったのは三萬。

    (マホちゃんが見せた牌は二萬と四萬、そしてその間の牌は二枚。
    もしそれが三萬なら――これをポンしてくれるはず)

    恐らく、マホの狙いは形式テンパイ、そして連荘だろう。マホはマホで逆転を諦めてはいない。
    しかしこのまま衣を放っておいたら、倍満ツモで捲られてしまう。それだけは避けたい。

    (多分、マホちゃんは三萬をポンすればテンパイ出来る形……。
    連荘になるから安心は出来ないけど、今は衣ちゃんを止めるしかない)つ三萬


    マホ「……」パタッ

       三三
    ■■■萬萬■■■■■■■

    「……ポン?」

    マホ「いいえ、違います」スッ

    (え――)


    パタン

    三  三三
    萬■■萬萬■■■■■■■■

    マホ「――カン」

    170 = 1 :

    ――――

    (何っ……!?)

    大明カン。鳴きは有るかもしれないと思っていたが、

    (上家からの大明カンだと!?)

    マホ「……」スッ

    嶺上牌に手を伸ばすマホ。

    (ポンで形式テンパイを取るものだと思っていたが……そうか、こいつは衣の弱点を突くつもりか!)

    驚くべき事ではない。マホは、京太郎と衣の勝負を見ていたのだから。

    マホ「……!来ました……」チャッ

    (この気配……!まさか、引き当てたか!)

    テンパイの気配――ただし、役はついていないようだ。感覚で分かる。

    マホ「……」つ七筒

    (……大した物だ。咲の模倣をしている訳でもなく、自分の運で勝負するとは)

    マホ「新ドラは三萬、モロ乗りです!――さ、天江さん。最後のツモをどうぞ」

    「……あ、ああ」スッ

    牌に手を伸ばす。

    (まさかカンドラまで……だが、関係無い。どうせ役無しだ、それにもうこのツモで――)ピタッ

    手が止まる。牌まであと数ミリという所で、動かない。

    (――このツモで、終わり?)

    自分が何か、決定的に間違えたという直感。

    (なんだ、一体何を?)

    頭の中で今の状況を整理する。

    (親の形式テンパイ、衣の一発の消失。
    衣が海底牌をツモる事は変わらないが、カンのせいで海底牌そのものがズレた)

    恐らく和了り牌は引けないし、仮に引いても見逃すだろう。

    (王牌は支配出来ないからな。裏ドラが確実に乗る保証が無い以上、和了り牌も見逃す。
    そして流局、親のテンパイで続行だ。次の局にも逆転の機会は有るだろう)

    ――まだまだ、これからだ。改めてそう結論付ける。

    (……なのに、どういう事だ?今にも負けそうだという、この悪寒は――)チャッ

    不吉な予感を振り切り、ツモ牌を確認。――九筒。

    (やはり、引けなかったか……)タン

    届かなかった本来の海底牌をちらと見る。――少し、未練があるが仕方ない。

    「……今はこれが海底牌だ。流局だな」

    ――しかし、その言葉に異を唱える声が響く。

    マホ「――海底、ですか?違いますよ」

    「……?何を言って……」

    マホ「河に出たんですから、もうそれは――河底と呼ぶべきです!」

    バラッ

    22444m123s78p 3333m

    マホ「ロン!河底ドラ5、18000!」

    171 = 1 :

    「――!!」

    「捲られた……」

    マホ 36900
     咲 36300
     純 26800

    マホ「……やったー!勝ちました!」

    「……衣の、負けか」

    疑いようも無い。自分の点数を見れば――。

    (皮肉なものだな。0点ジャストとは……)

    対局を振り返り、衣は反省点を探す。

    (最後の、振り込み……リーチをかけていなければ、なかったかもしれない)

    十七巡目の思考の末に、リーチをかけた方が勝算が高いと思ってしまった。

    (衣も、まだまだだな……)

    マホの意図を読み切れなかった事もそうだが、衣はリーチをかけた瞬間――易きに流されていたのだ。

    (鳴きが有るかもしれない、しかし無いかもしれない。
    その二つの可能性を突き付けられて――衣は、『この局での勝利』に目が眩んだ)

    鳴きが無ければリーチで勝てる。
    目の前にぶら下がったその可能性に飛び付いた時点で、衣は負けていたのだ。


    「「「「ありがとうございました」」」」

    172 = 1 :

    ――――

    マホ「先輩!勝ちました!」

    京太郎「凄いな、本当にあの卓でトップ取るなんて」ナデナデ

    マホ「えへへー」

    京太郎「驚いたぞ、河底で和了るとは……」

    マホ「はい!マホも驚きました」

    京太郎「え?確信が有ったんじゃないのか」

    マホ「先輩の嶺上狙いと同じで、確信なんてありませんでした。
    最後の局は、先輩の真似でしたから」

    京太郎「あー、やっぱそうだったのか。
    てことは、本当に運が良かっただけなんだな、嶺上牌の四萬も、河底牌の九筒も」

    マホ「はい。先輩と違ったのは、たまたま上手くいったって事だけです。でも……」

    京太郎「……ああ、分かってる。だからこそ、俺にも勝ちの可能性が有るってことだろ?
    大丈夫だ。諦めずに、何度だって挑んでやるさ」

    マホ「はい!」

    ポン、と軽く頭を叩いて手を降ろす。同時に、京太郎の顔もマホと同じ高さまで降りていた。

    京太郎「……な、一つ良いか?」

    マホ「?はい」

    低い声に、マホもボリュームを落とす。

    京太郎「あの見せ牌、あれもわざとだよな?俺の真似なんだから」

    マホ「……はい」

    京太郎「なら……もう二度と、俺の真似はしないでくれ」

    マホ「え……」

    京太郎「外側から見て、ようやく分かった。
    チョンボを戦略として利用するってのが、どれだけ歪んでるか」

    マホ「……」

    京太郎「とにかく勝ちたい、その思いだけで打って……大切なものを見失ってたのかもしれない。
    今思えば、チョンボ癖に悩んでるマホちゃんの前で戦略的にチョンボするなんて、俺はどうかしてたよ」

    だから、と京太郎は小指を立てる。

    京太郎「約束だ。俺ももう、あんな打ち方はしない。
    だからマホちゃんも、あの時の俺の事は真似しないでくれ」

    マホ「……はい。わかりました」

    指切り、げんまん。

    173 = 1 :

    ――――

    そして時は過ぎ……。

    「もう帰るのか?」

    「うん。また、一緒に打とうね」

    「ははっ、また来いよ」

    優希「くっ……次は絶対勝ち越して、その余裕ひっぺがしてくれるじぇ!」

    透華「楽しかったですわ。ぜひまた」

    「ええ、もちろんよ」

    各々に挨拶を済ませる。そして、いよいよ屋敷を出るという段になり――

    「さ、行きましょ」

    「おーい、ちょっと待ってくれ!」タタッ

    マホ「……?」

    京太郎「俺たち……ですか?」

    「あぁ。その……なんだ。今言うのも変だが、伝えてないと言ったらトーカが怒るのでな……」

    京太郎「何ですか?」

    歯切れの悪い様子に、何か悪い事でも有ったのかと身構える京太郎。

    「夢乃マホ。それに……須賀京太郎。お前たちと打って……楽しかったぞ」

    京太郎「……え?」

    マホ「――はいっ!マホも、楽しかったです!」

    「そうか、良かった。……それだけだ、じゃあな」

    京太郎「……天江、さん」

    きびすを返そうとする衣を、京太郎は呼び止めていた。

    「衣で、良い。なんだ?」

    京太郎「俺も……楽しかったです。またやりましょう、衣さん」

    「……!ああ、またな。京太郎!」ニコッ

    174 = 1 :


    ――――

    帰りのバスにて。

    「ぐっすりですね、マホちゃん……」

    京太郎「和。……そうだな、疲れてたんだろ」

    マホ「……」スヤスヤ

    衣との対局のあとは、集中が切れてチョンボを連発していたほどだ。

    京太郎(それでも、上手くなりたくって……足掻いてるんだもんなぁ……)

    頭を撫でかけ、止める。起こしては悪い。

    「須賀君……ごめんなさい」

    京太郎「え?どうした、突然」

    「私は、マホちゃんに麻雀を教えてくれる人として……貴方に、期待してしまいました」

    京太郎「俺に?」

    「はい。実は、あの日……マホちゃんと須賀君が初めて会って、卓を囲んだあの時。
    須賀君は、マホちゃんに麻雀を教える上で……私に足りない物を持っていると、気付いたんです」

    京太郎「和に無い物を、俺が?麻雀でか?」

    「麻雀で、と言うよりは……人に物を教える上で、と言う方が良いでしょう。それは……初心、です。
    文字通り、初心者なら誰もが持っている感情、観念……そして、私が忘れてしまった物」

    京太郎「……初心」

    「ええ。私は、もう随分長く麻雀を打ち続けて来ました。
    初心者だった頃の気持ちが思い出せない程に……」

    京太郎「……だから、マホちゃんみたいな初心者に教えるのは、上手くいかないって事か?」

    「……目標には、してくれているようですけど。
    残念ながら……私は、マホちゃんがどんな風に打ちたいのかが分からないんです」

    京太郎(デジタルを極めて、ブレを失ったから……ブレるマホちゃんの打ち方が理解出来ない、って事か)

    「……須賀君は、確実に成長した。あの日の対局を見て、マホちゃんの先生に相応しいのは……と。
    そんな勝手な思い込みをしてしまって。そのせいで、差し込みにもキツく言ってしまいましたし……」

    京太郎「いや、まあ……あれは俺が悪かったしな」

    「……そうですね。でも、私は貴方に理不尽な怒りをぶつけていたのかもしれない……と。
    だから、謝らせて下さい。……勝手な期待をかけて、すみませんでした」

    175 = 1 :

    京太郎「……そういう事なら、俺も一つ言わなきゃならない事がある」

    「?何ですか」

    京太郎「この合宿で、麻雀を打って……気付いたんだけどな。さっき言った、差し込みの事だ。
    和は俺に……あの卓で打ってた人全員を馬鹿にしたって言ったな」

    「はい」

    京太郎「……今なら、よく分かる。あの時俺は、同卓してる三人に悪い事をしたと思ったけど。
    全員ってのは、俺も含むんだよな。俺は、俺自身の『本気』も馬鹿にしてたんだな……」

    「……そうですね。今回の合宿で……本気で打って、気付きましたか」

    京太郎「ああ。本気で何かに取り組む……中学の部活以来かな。凄く、楽しいよ。
    そんで、負けるのは悔しい。勝ちたいって気持ちが、前よりもでかくなってきてる」

    京太郎「だから……まだ、足りないんだ。俺はもっと、もっともっと打ちたい。
    麻雀で勝ちたいし、強くなりたい。お前らの本気に、いつか勝てるように」

    「……はい。頑張って下さい」

    ふと、視界が陰る。

    「……ね、須賀君」

    見れば、前の座席から久が顔を出していた。

    京太郎「部長?」

    「もっと打ちたいのよね。なら――」


    「――鶴賀とか、行ってみたくない?」

    To be continued……

    176 = 1 :

    龍門渕編、終。
    はい、というわけで次は鶴賀編です。次回予告はまだだけど。

    180 :

    智美「えらいハリキリ☆ガールがやって来たじゃないか」

    佳織「よーし、私だってかっこいいところみせてあげるよー」

    ゆみ「死人に口有りさ」

    睦月「おどろくのは まだ はやい!」

    桃子「あなたの目……くすんでるっすよ」


    次回、『見えるけど、見えない人』。お楽しみに!

    181 :

    京たんイェイ~
    しかし投下はまだ先になる模様。誕生日祝いの小ネタ短編とか、地味に憧れだったんだけどね……

    182 :

    待つ照

    183 :

    待つ照(しかしお菓子は待てない模様)

    184 :

    まずい、既に一ヶ月が経とうとしている……
    最近少し忙しくて……まだかかります

    185 :

    待ってます~

    186 :

    待ってます

    187 :

    夏休みも終わり、はや一週間。

    京太郎「ん……」タン

    優希「ふっふっふ……ツモ!2000-4000だじぇ!」

    京太郎「だー!和了りのスピードでも、やっぱ勝てねぇー!」

    優希「私に挑もうなど、百年早い!タコスぢからを磨いて出直してこい!」

    京太郎「戦闘力みたいな誰にでもある概念じゃねーんだよ、それは……。
    つーかなんで引けんだよ、俺ちゃんとその牌止めてたんだぞ?」

    優希「確かに、防御面は以前から更に増したな!その調子で精進するがいい。
    南場の私のダイヤモンド級防御力を見習ってな!」タンッ

    「ロン。8000」パラッ

    優希「」

    まこ「……ダイヤモンド級防御力(笑)」パタン

    京太郎「あー、ドンマイ?」パタン

    「仕方ないわよ、ダイヤモンドは衝撃には弱いんだし」

    まこ「またいつもの雑学か……」

    「雑学っていうほどにはマイナーな知識じゃないと思うわよ?……あ、須賀君」

    京太郎「はい、なんですか?――ポン」カシャ

    「例の話、次の土日に決まったから」

    京太郎「早っ!?」ポロッ

    まこ「ローン!12000!」

    京太郎「げっ……はい」チャラ

    優希「例の話?なんのことだ」

    「先日聞いたでしょう。鶴賀に練習しに行くんですよ」

    京太郎「それなんですけど、本当に俺だけで行っていいんですか?」

    「いーのいーの、遠慮しないで。全国前の合同合宿の埋め合わせと思って、ね?」

    京太郎「はあ……」トン

    「リーチです」ヒュッ

    「それに、マホちゃんの付き添いって体裁だからね。みんなでぞろぞろ行くわけにはいかないわよ」

    京太郎「……それもそうですね。っと……」ピタッ

    (お、よく止めたわねその牌)

    京太郎「……これだ」トッ

    まこ「残念、こっちじゃ。ロン」バラッ

    京太郎「……うあー。因みに和はどんな感じだった」

    「見たいのでしたらお好きに」バラッ

    京太郎「ん……やっぱあの牌でも当たってたか」

    「そうだ、咲は?」

    優希「今日も部活休みだって」

    「そう……」

    京太郎(……最近、休みがちだな咲。何か用事でもあるのか……?)

    188 = 1 :

    ――――

    『えー、次は――、次は――』

    少し鼻っぽい声が次の行き先を告げる。

    京太郎(ん……まだもう少しかかるか)

    鶴賀までの道をぼんやりと思い出し、ふわぁと欠伸。どうやら眠っていたようだ。

    マホ「起きました?」

    京太郎「うん、おはよう。……で、良いよな?」

    陽はもう高い。そろそろおはようでは通じない時間だが……。

    マホ「はい、おはようございます!」ニコッ

    京太郎「楽しそうだな」

    マホ「はい!遠足みたいでワクワクします!」

    京太郎「……そうか。言っとくけど、遊びで行くんじゃないからな?」

    マホ「分かってます。麻雀を打ちに行くんですよね!」

    京太郎「ん、まあ実質的にはそうだ」

    マホ「楽しみです!鶴賀学園……長野における、今年一番のダークホース!
    一体どんな打ち手がいるんでしょうか……」ワクワク

    京太郎「……まあ、その気持ちは分かるんだが……」

    正直言って、京太郎も昨夜は落ち着かなくてよく眠れなかった。

    京太郎「鶴賀も清澄と同じで、団体戦に出てたメンバーしかいないぞ」

    マホ「!!そうだったんですか!」

    京太郎「ていうか、今年の長野の団体戦ベスト4って、風越以外どっこも選手層薄いよなぁ。
    部員80人いる風越も凄ぇけど」

    マホ「80人……そんなに多いと、名前を覚えるのも大変そうですね」

    京太郎「そう考えると部員が少ないのも悪くない、か?……いや、やっぱり選手層は厚い方が良いよ」

    マホ「えー?皆で出れる清澄とかの方が良いと思いますけど」

    京太郎「いやいや、IHの団体戦だってメンバーが完全に決まってるわけじゃないだろ?交代とかさ。
    交代できない学校は、必然的に同じ選手が打ち続けることになって……他校に対策されやすくなる」

    マホ「ふぅん……じゃあ先輩も、鶴賀学園の打ち手の対策はバッチリですか?」

    京太郎「もちろん。つっても、清澄の皆に聞いただけだがな」

    ――(回想)――

    京太郎「なぁ優希。お前がIHの団体戦で、長野の決勝で当たった人なんだけど……」

    優希「ノッポか?それとも風越のお姉さん?」

    京太郎「いや、どっちでもない。鶴賀の人だ。確か名前は……津山さん」

    優希「ああ。あの地味な人がどうかしたか?」

    京太郎「今度、鶴賀に行って麻雀打ってくるからさ。どんな人なのか聞いとこうと思って」

    優希「どんな……って言われても。落ち着いた人で、打ち方は……そんなに特徴は無かったじょ。
    強いて言うなら、ノッポとお姉さんに削られて大変そうだったじぇ」

    京太郎「ふぅん……分かった、ありがとな」

    優希「おうっ。礼はタコスでいいじょ!」

    189 = 1 :

    ――――

    まこ「妹尾佳織か……」

    京太郎「はい。何か、特徴とかは?」

    まこ「特徴と言っていいかは分からんが、初心者であることは確かじゃな。
    ……いや、今ではもう初心者を卒業しているかもしれんが」

    京太郎「ふむふむ……少なくとも、染谷先輩が当たった時は初心者だったと」

    まこ「ああ。……それから、これは多分偶然じゃろうが……」

    京太郎「?はい」

    まこ「やつは役満で和了ることが、やけに多い。……役満和了されても、あまり動揺しないことじゃ」

    京太郎(強運、って事なのか……?)

    ――――

    「ああ、鶴賀の元部長さんね」

    京太郎「えっ、あの人が部長だったんですか!?」

    「そうよ、知らなかった?……まあ、気持ちは分かるけど。加治木さんの方が、それっぽいしね」

    京太郎「それで、団体戦で闘った相手としてはどうでした?」

    「う~ん……。あ、私あの人に、遠回しに頭悪いって言っちゃったのよね」

    京太郎「へ?……打ち方に、ミスが多いとかですか?」

    「どうかしら。結構、堅実な打ち回しだったと思うけど……。
    まあ、一度打ってみれば分かるんじゃない?」

    ――――

    京太郎「和、鶴賀の東横さんってどんな人なんだ?」

    「……なぜ、そんな事を?」ジトッ

    京太郎「えっ!?あぁいや、
    別に紹介してほしいとかそういう下心が有るわけじゃなくてだな!その――」アタフタ

    「……冗談です。優希から話は聞いてますよ」クスッ

    京太郎「なんだ、心臓に悪い……」

    「でも……残念ながら、私ではあまり役に立てません。
    他者を気にし過ぎるという弱点を克服した結果、私は相手の打ち筋にほとんど注目しなくなりましたから」

    京太郎「……なら、麻雀に関係ないことでもいいから、何か特徴とかは?」

    (……やっぱり下心があるのでは?)ジッ

    京太郎「?」

    「……はぁ。そうですね、人としての特徴なら――凄く、影の薄い人でした」

    190 = 1 :

    ――――

    「加治木さん?鶴賀の?」

    京太郎「ああ。お前に搶槓喰らわせた人」

    「うっ……。ま、まあ、それも含めて凄く上手い人だよね。
    衣ちゃんの能力にもすぐ対応してみせたし」

    京太郎「へぇ……お前にそこまで言わせるとはな。何か、特別な打ち方を持ってるとかは?」

    「そういうのは無い、かな。相手に合わせて柔軟に対応する感じ」

    京太郎「なるほど。ありがとな、よく分かったよ」

    「ん……なんか、ヘンな感じ。京ちゃんが普通にお礼とか」

    京太郎「……なんだとこのー!」ウリウリ

    「わっ、ちょ、京ちゃんやめてよー!」

    ――(回想終了)――

    京太郎(思えばあの日から咲の姿を部室で見かけなくなったな。……やりすぎたのだろうか)

    マホ「ほぇー。なんていうか、具体的な事はよく分かりませんでしたね」

    京太郎「仕方ないだろ。
    咲や衣さんみたいに、言葉で説明しただけで分かるような特別性を持ってる人の方が珍しいだろうし」

    マホ「衣さんといえばー、マホ色々と聞いてみたんですよ」

    京太郎「え、何を?……ていうかあの合宿の後も会ってるのか」

    マホ「いえ、メールとか、電話です」

    京太郎(仲、良いんだな……)

    マホ「衣さんの能力のこととかー、マホの真似のこととか。そんな話です」

    京太郎「……麻雀の話か。勉強熱心だな」

    マホ「今まであんまり、気にしてなかったんですけど……。
    前の合宿で、自分のことも知らなきゃって思ったので」

    京太郎「ふーん……」

    マホ「あっでも、先輩のことなんかも、お話しますよ?」

    京太郎「俺?」

    マホ「はい!この前なんて、衣さんが『あいつは大した奴だ』って――あっ、これ秘密でした!」

    京太郎「……そっか」

    完敗させられた相手に、実は認められていた。嬉しいのは嬉しいが……

    京太郎「……いや、やっぱり俺はまだまだ弱いと思うぞ」

    マホ「なしなしっ、今のなしです!あうぅ、衣さんに怒られちゃう……」

    京太郎「大丈夫だろ、俺も黙ってるし。バレないって」

    ――――

    鶴賀学園、麻雀部部室前

    京太郎「……だから、いいか?向こうさんはもう気付いてるかもだけど、だとしても名目上は――」

    マホ「志望校候補の見学!ですね!」ウキウキ

    京太郎「――そうだ。あくまで最初は見学、一緒に卓を囲むのはその後だからな」

    マホ「はいっ!」タッタッタッ

    京太郎「あっ、おい!今のちゃんと聞いて――」

    マホ「頼もー!!です!」ガラッ


    佳織「へ……?」

    桃子「……誰っすか?」

    京太郎「……」ハァ

    191 = 1 :

    ――――

    京太郎「すみません、お騒がせして……清澄の、あぁいや……この子は、高遠原中学の麻雀部員です」

    マホ「夢乃マホです!」

    京太郎「……で、俺はこの子の保護者みたいなもんです」

    睦月「う、うむ。まあ来ることは知ってたけど」

    ゆみ「久から話は聞いているよ。うちの部を見学したいんだろう?」

    マホ「はい!進学先候補の一つとして!」

    まだ清澄に進学すると決まったわけではないので、一応嘘ではない。

    智美「あー、確かにそんなこと言ってたな……。
    でも、あんな凄い勢いで入ってくるとは、気合い入り過ぎだろー。道場破りかと思ったぞー」ワハハ

    京太郎「いや、本当すいません……」

    マホ「ごめんなさい……」

    智美「ワハハ、許す!さあ、それじゃー津山部長!鶴賀学園麻雀部のPRをどうぞ!」

    睦月「う、ぅぇえっ!?いきなりですか!?」

    智美「なんだ、考えてなかったかー。
    なら、今から私らが自己紹介でもして時間稼ぐから、その間に考えろ!」

    佳織「智美ちゃん、無茶振りしすぎだよ……」

    192 = 1 :

    智美「ということで、私は前部長の蒲原智美だ!」ワハハ

    智美「趣味はドライブ、特技もドライヴ!
    近所に美味いうどん屋があるから、時間あるなら案内してやるぞ!」

    ゆみ(何故こいつはやたらと他人を乗せて運転したがるんだ……?)

    桃子(私も加治木先輩となら元部長の運転は大歓迎っす)

    マホ「うどん!食べたいです!」

    京太郎「丁度良かったな、宿の食事は別料金だし。せっかくなんで連れて行ってもらえます?今日の夕食」

    智美「ワハハ、たらふく食うといいぞ!」

    佳織「止めなくて、いいんですか……?」

    ゆみ「……まあ、本人たちが納得しているならいいだろう」

    193 = 1 :

    ゆみ「加治木ゆみ、三年生だ。津山……現部長が部長を引き継ぐまでは、
    麻雀の指導、合宿の企画や、他校との折衝なんかをやっていた……」

    京太郎「……どう聞いても部長ですね」

    ゆみ「しかし、部長は蒲原で良かったと思っている。人を纏めるのが上手いんだ、蒲原は」

    智美「ワハハ~、照れるなゆみちん」

    マホ「(でも、加治木さんも人を纏めるの上手そうですよね)」

    京太郎「(だな。カリスマみたいなものがある)」

    桃子「(同意っす)」

    194 = 1 :

    佳織「二年生、妹尾佳織です。麻雀はまだ初心者で……でも、麻雀部は楽しいです。
    初心者も歓迎なので、良ければ見ていって下さい」

    智美「佳織、それは来年度、新入生に向けて言うべき言葉だぞ」

    佳織「あ、そう……だね」

    マホ「初心者さんですか~、マホもそうです!」

    ゆみ「ほう、いつ頃から始めたんだ?」

    マホ「えっと……二年前、ぐらいからですね」

    ゆみ「……初心、者……?」

    桃子「謙遜っすかね」

    マホ「妹尾さんは、何年前ですか?」

    佳織「何年前なんて、そんな。私は何年もやってないよ、つい最近始めたの」

    京太郎「じゃあ、俺と同じくらいですかね。本当に初心者だ……マホちゃんと違って」

    マホ「マホは、いつまでたっても細かいミスが無くならないから、永遠の初心者って言われてるんです」

    智美「ミスを自覚できる分、佳織よりはマシだなー」ワハハ

    ゆみ「蒲原、お前も昨日点数申告間違ってたぞ。牌譜を見ていて気付いた」

    智美「……その場で指摘されなければチョンボではない!
    それに間違っても『すいません、間違えました』でいいんだ。気にするな!佳織」ポン

    佳織「えっなんで私がミスしたみたいに……」

    195 = 1 :

    智美「さあ、部長むっきー!自己紹介と我が麻雀部のPRを!」

    睦月「すぅ……はぁ……」

    マホ(どんな人なんでしょうか……)ドキドキ

    睦月「麻雀部部長、津山睦月だ。わ、私は……」

    マホ「?」


    睦月「私は、君が欲しい!」


    …………。

    マホ「――えっ」

    睦月「」カァッ

    マホ「えっと、その……」

    睦月「つ、つまり!ぜひウチに来てほしいというか……歓迎、するから!」

    京マホ「……」

    智美「あちゃー、スベったな。やっぱり誰にでも真似できることじゃないな、なあゆみちん?」

    ゆみ「な、なぜ私に振る!」

    京太郎「……中々、情熱的なアプローチですね。
    マホちゃん、これだけ求められてるんだし、鶴賀にすれば?」

    マホ「でも、津山さん二年生ですよね?マホ、入れ違いになっちゃいますけど……」

    佳織「え?……ってことは、夢乃さんも二年生?」

    マホ「はい!高遠原中学二年、夢乃マホです!よろしくお願いします!」ペコ

    睦月「……中学二年で、進学先を考えてるのか。意識高いな」

    マホ「それほどでも~」テレテレ

    睦月「私も、今から考えといた方が良いかな」

    智美「そんな難しいことは、三年のギリギリまで考えなくても、意外となんとかなるぞー?」

    睦月「……そうでしょうか。兄も結構悩んだようですし、私は余裕を持って考えたいですけど」

    ゆみ「……ゴホン。まあ、いつ考え始めても早すぎるということはない。時間は有限だからな」

    196 = 1 :

    京太郎「清澄高校一年、須賀京太郎です。マホちゃんの付き添いで来ました」

    智美「清澄に男子がいるのは知ってたけど、こうやって直接話すのは初めてだな」

    佳織「私は、男子がいることすら知らなかったよ……」

    京太郎「ま、合同合宿のときもいませんでしたからね。
    大会で成績出したわけでもないですし、記憶に残らなくても仕方ない」

    ゆみ「久から、君のことはビシバシ鍛えてやってくれと言われているよ」

    京太郎「うげ、マジっすか……。まぁ……」

    向こうがその気なら話は早い。建前はともかく、元々そのつもりだったのだ。

    京太郎「打たせてもらえるなら、ありがたいです。自己紹介も済みましたし、早速やりますか?」

    ゆみ「……いや、悪い。まだ、もう一人いるんだ」

    京太郎「――え?」

    頭の中で数え直す。

    京太郎(蒲原さん、加治木さん、津山さん、妹尾さん。ちゃんと四人全員――四人?)

    ゆみ「おいモモ、良い加減隠れてないで出てこい」

    ーーその呼び掛けに応えるように。

    「……はい」ユラッ

    京マホ「!?」バッ

    二人の後ろに、その少女は立っていた。


    桃子「一年生、東横桃子っす。……よろしく、お願いするっす」

    197 = 1 :

    ――――

    佳織「桃子さん!居たんですか」

    桃子「……最初から居たっす」

    京太郎(え、嘘だろ……?なんで俺、気付かなかったんだ)

    その影の薄い少女は、無表情で京太郎の方をちらっと見た。

    桃子「宮永さんの言ってた、『京ちゃん』さんっすね。須賀君でいいっすか?」

    京太郎「え?あっ、ああ……東横さん。よろしく」

    まるで呆けたような受け答えしかできない。慣れているのか、桃子はさほど気にすることもなく、マホとも同じようなやりとりをしていた。

    京太郎(……まさかここまで影が薄いとは……)

    和の言っていた意味をようやく悟る。

    京太郎(まるで、そこに居ないみたいに……あれだけのモノをおもちなのに、俺が全く気付けないなんて)ジー

    桃子「……私の服に、なんか付いてるっすか?」

    京太郎「おっ……いや、悪い。見てただけだ」フイッ

    少し目を閉じて、もう一度桃子を見る――今度は普通に見えた。

    京太郎(くっ……これでも、人とコミュニケーション取るのだけは自信あったんだがなぁ)

    ゆみ「やはり、見えていなかったか」

    桃子「驚かせてしまったっすね」

    京太郎「いえ、こっちこそすいません……気付けなくって」

    智美「まあ、仕方ないと思うぞー?モモが隠れてたのが悪いんだし」ワハハ

    マホ「凄いです!マホ、全然気付きませんでした!手品ですか?」

    睦月「手品か……うむ。良い得て妙だな」

    桃子「そんな良いモンじゃないっすよー?」

    ゆみ「……ま、とにかくだ。仲良くしてやってくれ、須賀」

    京太郎「はい、こちらこそ」

    ゆみ「――さて、それでは早速打つか。お手並み拝見だな」

    198 = 1 :

    ――――

    智美「じゃんけん、ぽん!」

    京太郎「決まりましたかー?」

    最初は京太郎とマホの二人が確定で入り、残り二人を鶴賀から出すことになった。

    ゆみ「ああ。一発だったな」

    佳織「あれ、私の一人勝ちじゃ……」

    桃子「かおりん先輩、私も勝ってるっすよ」ユラッ

    佳織「あっ、ごめんなさい!気付かなくって」

    マホ「……同じ部にいる人でも、東横さんに気付けないんですね……」

    京太郎「あれだけ影が薄いと……色々、不便そうだな」

    199 = 1 :

    マホ「マホ、起家です!」ポチッ

    コロコロ……

    京太郎(さて……上家は東横さんで、下家はマホちゃんか)カシャ

    理牌をしながら、京太郎は顔から表情を消し去っていく。
    その様を見てゆみがほう、といった顔をするが、京太郎がゆみに気付くことはなかった。

    マホ「じゃ、いきま~す」トッ

    親のマホが三萬を切る。……そしてそのまま、少し間が空いた。

    京太郎「……?次は、妹尾さんですよ」

    佳織「えっ!?あ、ごめんなさい!」

    対面に座る佳織は、はっとして牌をツモる。そして、それを横に置いて配牌をいじりだした。

    マホ「すいません、もしかして理牌まだでした……?」

    佳織「あっ、ううん……その、並び替えるのはもう済んでるんだけど、待ちが何萬になるか分からなくって」

    気が動転して、余計な事まで口走っている。

    京太郎(萬子が多いのか……)

    佳織「えーと……それで、ツモはこれだから……あっ!」

    マホ「?」

    佳織「ツモです」バラッ

    「「!?」」


    3444555(赤)m777s222p ツモ2m

    佳織「えーと、ツモ・タンヤオ・三暗刻?で……満貫、かな?」

    200 = 1 :

    マホ「……えぇ!?」

    桃子「おぉ、凄いっすね。いきなりっすか」

    智美「佳織、それは地和だ。役満だぞ」

    佳織「え?……あっ、そっか。最初のツモだもんね、これ」

    京太郎(本人に自覚は無し……か)

    本当に初心者なんだと分かると同時に、京太郎は内心冷や汗をかいていた。

    京太郎(染谷先輩が言ってた、妹尾さんは役満をよく和了るって……。
    しかも、鶴賀の人たちもあまり驚いてないように見える)

    つまり、本当によくある事なのだ。妹尾佳織にとっては――。

    佳織「あ、次私の親か。振るねー」コロコロ

    京太郎(和なら、偶然だって言うんだろうけど。俺には、とてもそうは思えない……)

    あくまで表情は変えずに、京太郎は対面を注視する。

    京太郎(これが、この人の『能力』なのか……?)


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