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元スレ提督「艦娘脅威論?」
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この戦争で、自分は本当にたくさんの艦娘を沈めてしまった。加賀の相棒も……赤城もそうだ。
あの決戦は、本当は引き返すことだって出来たのだ。そうすれば、きっと彼女たちはまだ生きていただろう。
例え彼女たちが決着を望んでいたのだとしても――もっと上手いやり方があったのではないだろうか? あんな多くの犠牲を出さずとも、平和に向かう道があったのではないか……?
間違いなくあったはずだ。可能性を探れば、きりがない。
加賀「提督」
提督「……」
加賀「提督」
提督「……なんだ?」
加賀はこれ見よがしに大きくため息をついてみせた。
言ってくる。
加賀「何かあったの? ここのところ上の空のようだけれど」
提督「私がよくぼーっとしているのは知っているだろう? 癖なんだ」
加賀「そうね。目の前に大きな作戦や任務が控えていると、特にそう。でも今あるのは2日後の小規模泊地の制圧ぐらいでしょう? 今更あなたが不安になるようなこととは思えないわ」
提督「む。まあ確かに……そうだな」
流石は秘書官と言うべきか、見抜かれている。元より内偵の真似事など、似合わないのは分かっていたが……
対する自分はどうだろう? 彼女の真意を見抜くことが出来るだろうか?
中将は言った。我々は艦娘のすべてを知っている訳ではないと。それは当然だ。だからこうして互いに時間を積み重ね、息を合わせていったのではないか。
提督(加賀に聞いてみるか? 私を恨んでいるかと……)
きっと彼女は首を横に振ってくれる。あの時はああする他なかったし、誰もがそれを望んでいたと。そんな風に言ってくれるかもしれない。
だが、もし恨んでいると言われたら……? 加賀だけではなく、他の艦娘たちも同様に答えたとしたら……自分はどうすればいい?
その覚悟をもって決断したというのに、想像すると提督は恐怖で動けなくなった。
加賀「……提督?」
いつの間にか、加賀が席を立って近づいてきていた。
怪訝な表情は消え、こちらを心配そうに覗き込んできている。
慌てて考えを振り払い、言う。
提督「あ、ああ、なんかな……これが平和ボケというものかもしれない。もう半年以上スクランブルもないから、気が抜けているのかもしれん」
加賀「……」
加賀はじっと覗き込んでくる。その言葉を信じていないのか、探るような視線だ。
彼女のお菓子を食べて素知らぬ振りをしていると、こんな目を向けられる。あなたが食べたことは分かってるの、白状しなさい。
大体はその眼力に屈して自白するが、提督は目を逸らさずに眼差しを返した。
やがて、加賀は再びため息をついた。
加賀「まあ、いいわ……。いえ、よくはないけれど。平和ボケはやることをやってからにして下さい。それなら誰も止めないわ」
提督「ああ。気を付ける」
加賀は席に戻っていった。
果たして誤魔化せたのかどうか、疑問ではあったが……
気を紛らわすために、提督はつぶやいた。
提督「目……」
加賀「……なんです?」
提督「お前の瞳の色、茶色なんだな。知らなかった」
当たり前でいて、気が付いていないこともある。これで艦娘を知っているなど、どの口が言えるのだろうか。
返答がなく加賀を見やると、彼女の頬は朱に染まっていった。肌が白い分、それは顕著に見えた。
咎めるように言ってくる。
加賀「なにを言うの。いきなり……」
提督「あ、いや……すまん」
加賀「いえ……別に怒ってる訳じゃありません」
加賀は視線を逸らしてそう言ったが、
提督「……すまん」
他に言いようもなく、提督は謝った。
>>加賀「提督」
>>提督「んあ?」
このやり取りにちょっと反応してしまった……大丈夫だよね?
>>提督「んあ?」
このやり取りにちょっと反応してしまった……大丈夫だよね?
遅めの昼食を採りに、食堂へ足を向ける。
食堂はがらんとして、静寂に包まれていた。
時間帯がずれているせいもあるが、そもそもこの鎮守府にはもう人がいない。
かつてはどんな時間帯でも誰かしら居て賑わいに溢れていたが、今では静まり返っているほうが多い。まあそれも見慣れた光景ではあったが。
提督(雷?)
誰もいないと思っていたが、食堂の隅に一人だけいるのに気が付く。
提督は彼女に歩み寄った。気づいて貰えるようわざと足音を立てたが、雷は気づかず、静かに食事を進めている。
隣りに立ったところで、ようやく雷は顔を上げた。
提督「こんな時間に昼食か?」
雷「……司令官?」
ぼんやりとした様子で、雷。
提督「美味しそうなカレーだな」
雷「司令官もこれから?」
提督「ああ」
頷くと、雷は咎める口調で言ってきた。
雷「駄目よ司令官、こんな遅くに昼食だなんて。ごはんは毎日規則正しい時間にとらないと身体に悪いんだから」
提督「なんだ、お互いさまじゃないか。固いことを言うな」
雷「私は良いの。でも司令官はちゃんとしないといけないわ」
提督「どんな理屈だ……」
雷「いーい司令官? こういうのはね、若い時は大丈夫だけど、年を取るにつれてどんどん身体に悪い影響が出てくるものなの。後になって直してももう後の祭り。遅いの。
だから若い時から常日頃健康への意識を……」
自分を棚に上げた雷のお説教が始まった。
人差し指を立てて食生活の講義を垂れる雷の言葉を適当に聞き流しながら、辺りを見回す。
辺りに人の気配があった様子はない。今日は殆どの艦娘が、ほかの鎮守府に戦力の補填として出向している。
雷はずっと一人で食事をしていたのだろう。この広い食堂で、ぽつんと一人。静かに。
別段、珍しいことではないが……
提督はつぶやいた。
提督「今日はカレーか」
雷「って、聞いてるの司令官?」
提督「聞いて流してるぞ」
雷「流さないの!」
提督「私もよそってこよう」
雷の静止の声を無視して、提督はカレーを持ってきた。
対面に座ろうかと思ったが、雷が自分の隣をばしばし手で叩いて促して来たため、そこに座ることにした。
トレーを置いて、尋ねる。
提督「雷の食生活講座はもう終わったか?」
雷「これから2限目が始まるわ」
提督「私は休学するから関係ないか」
雷「もー!」
雷は頬を膨らませたが、本気で怒ってるわけじゃないのは分かっている。
そのまま食事を進めていくが、ふと雷が気が付いた。
雷「司令官、じゃがいもは?」
提督「ん?」
雷「司令官のカレー、じゃがいもが無いわ」
提督「ああ除けてきた」
雷「……なんで?」
提督「炭水化物はご飯があるだろう」
雷「司令官。好き嫌いしたら大きくなれないのよ?」
提督「嫌いなわけじゃないさ。それにもうこれ以上は大きくならない」
雷「身長じゃなくて、人としての器が大きくならないって言ってるの」
初めて聞いた説だったが。
提督「悲しいが、それももう大きくならんな」
雷「そんなんじゃ駄目よ! 男の子はもっと大きな夢を持たなきゃ。はい、私のじゃがいもあげるね。どんどん食べて!」
提督「おい待て、いらん。じゃがいもなどいらん。あ、こら乗せるな!」
雷「いらないだなんて、カレーの具にいらないものなんてないのよ?」
雷は自分のじゃがいもをスプーンですくってこちらの皿に乗せてくる。
止めるも、ごろごろとジャガイモが入ってきた。提督はうめいた。
提督「雷、私の事は良いから、自分のことを心配しなさい。そもそも私よりお前のほうが食べないとだめだろうに」
雷「え? どうして?」
きょとんとして、雷。
提督「どうしてって、育ち盛りだろう。これからどんどん大きくなるんだから、もりもり食べなさい」
雷「……」
告げると、雷は何とも言えない表情を見せた。
困ったような、小骨がのどに突っかかったような、そんな曖昧な表情だ。
提督は疑問に尋ねた。
提督「雷?」
雷「ううん、なんでもないわ」
小さくかぶりを振るう。
そのまま妙な沈黙が出来てしまい、提督はこっそりとじゃがいもを雷のお皿に戻した。
雷「あ、こら司令官! 一度とったものを元に戻すなんてお行儀が悪いわ!」
提督「とった覚えはないのでな。ほらもりもり食べろむくむくデカくなれ」
雷「駄目ったらだーめ! 返品は受け付けないわ!」
提督「別にいいだろう。見咎める者なんかいないし、誰も困らん」
雷「私が困るの!」
提督「私だって困る」
しばしじゃがいもを巡る攻防が続いたが、結局は妥協案に落ち着いた。
つまりは半々にするというものだ。提督はそれでも渋面を見せたが、雷は満足したようだった。
そうして食事が終わった。
腹も膨れたため、人心地ついてお互いにぼうっとする。静かな時間だ。
ややあって、提督はつぶやいた。
提督「……榛名かな」
雷「え?」
提督「今日のカレー当番」
雷「……どうしてそう思ったの?」
提督「玉ねぎが具として残ってた。大体みんなと溶かしてしまうからな」
雷「半分正解よ」
提督「残りの半分は?」
雷「私も榛名さんと一緒に作ったの。といっても、お手伝いなんだけど……」
提督「そうか……えらいぞ」
提督はふたりが一緒に厨房に立つ姿を想像してみた。
しっかり者の榛名に、何かと世話を焼きたがる雷。なんとも微笑ましい組み合わせのように思える。
雷がぽつりと言った。
雷「じゃがいもは私の担当だったんだから」
提督「……お前、そういうのは」
雷「もっと早く言えって? でも言っちゃうと、司令官は張り切って食べちゃうでしょ?」
提督「む。そんなことは……」
ない、とは言えないだろう。
間違いなくいつも以上に食べていたはずだ。午後の仕事がちょっと辛くなるぐらいに。
雷はそれを見通して言わなかったのだろう。それでも少しぐらいは食べて欲しくて皿に乗せてきたということだろうか。
じゃがいもを邪険に扱ったことに、提督は後悔した。取り繕うように言う。
提督「美味しかったぞ、カレー」
雷「ほんと?」
提督「ああ。世界で一番上手いカレーだった。また食べたいな」
雷「もう大袈裟なんだから。ふふ、でもありがと。榛名さんにも伝えてあげないとね」
雷は嬉しそうに笑った。
そうして穏やかな時間が流れて、やがて提督は意を決した。訊ねる。
提督「雷」
雷「なーに?」
提督「戦後……希望解体についてなんだが」
ピクリと雷が動くのを見えた。
構わずに、提督は続けた。
提督「私は今まで、希望解体については一切口を出さなかった。というのも、お前たち個人の事だし私がとやかく言う問題じゃないと思ったからだ。
それは今も変わらずそう思っているが……募集の告知を出して半年以上が過ぎた。そろそろどうしたいか、決められたか……?」
訊くと、雷は困ったような表情をして口ごもった。
雷「あー、えーと……」
提督は彼女の言葉を待ったが、雷は否定も肯定もせずただ視線を彷徨わせた。
しばしの間を置いて、諦めて言う。
提督「まあ……今後を左右する難しい問題だからな。迷うのは無理もないことだが……軍に留まるか、退役するか。どっちに傾いてるとかは、あるのか?」
ややあって、雷は躊躇うような口調で言ってきた。
雷「多分だけど……退役ってことに、なるのかしら……?」
提督「……多分?」
どこか他人事のような台詞に首を傾げるが。
雷は視線を逸らして、ぽつぽつと喋りだした。
雷「みんなとね、いろいろ話し合ったの。深海棲艦がいなくなった後、どうしようかって……
不思議な気分だったわ。だって私たちは、深海棲艦を倒すために生まれたんだもの。それがいなくなっちゃった後の事なんて、これまで考えてこなかったから……」
提督「……」
雷「でも深海棲艦が少なくなるにつれて、今まで見えてなかったものが見えきて……みんな混乱してたけど、いろいろ分かったの。だから……」
そこで雷は言葉を区切った。
提督は続きを待ったが、彼女は切り替えるように口にした。
雷「響ともたくさん話したわ」
提督「……彼女はなんて?」
促すと、雷はかぶりをふるう。
雷「響は残るって。私は……止めなかった。それが響の役割だもの。誰にも止められないし……それでいいと思ったわ。私だって人の事言えないもの」
提督「……」
雷はじっと机を見つめている。
彼女の目に何が映っているのか、提督は唐突に分からなくなった。
踏み込んだ質問をしようとしたところで、雷がこちらを見た。
雷「ごめんね、司令官……。私、まだ上手く言えないみたい」
提督「……いや、いいんだ。ありがとう」
そう言われてしまうと、言葉をしまうしかない。
彼女の言葉をそのまま捉えるのならば、雷は退役する。つまり解体に志願するということだろう。
喜ばしいことのはずだ。戦いの使命から解放され、戦後の生活は保障される。それは彼女自身の決断で、もっと浮かれてもいいはずだが、雷にそんな様子はない。
雷は窺う様に訊ねてきた。
雷「司令官は、私がいなくなったら寂しい?」
提督「まあそうだな」
雷「あ、なんか軽ーい」
提督「そりゃ寂しいが、それ以上に喜ばんとな」
雷「むー、どういうこと? お節介者がいなくなってせーせーするって言うの?」
頬を膨らませて、雷。
提督は苦笑した。
提督「ばか、そうじゃない。退役するってことは、お前もようやく年相応の事ができるようになるってことだ。私はそのことを喜びたいよ」
雷「……司令官」
提督「それに同じ空のもとにいるんだ。お互いが会いたいと思えば、いつだって会えるだろう?」
雷「……」
雷は口を閉じた。
やがて言ってくる。
雷「……そうよね。寂しいって思ってくれるより、私も喜んで欲しいって思うわ。でもそう思うのって……きっと自分勝手なのよね」
雷は独り言のようにそうつぶやくと、しばらく何も喋らなかった。
>>119
訂正
雷「じゃがいもは私の担当だったんだから」
提督「……お前、そういうのは」
雷「もっと早く言えって? でも言っちゃうと、司令官は張り切って食べちゃうでしょ?」
提督「む。そんなことは……」
ない、とは言えないだろう。
間違いなくいつも以上に食べていたはずだ。午後の仕事がちょっと辛くなるぐらいに。
雷はそれを見通して言わなかったのだろう。それでも少しぐらいは食べて欲しくて皿に乗せてきたということだろうか。
じゃがいもを邪険に扱ったことに、提督は後悔した。取り繕うように言う。
提督「美味しかったぞ、カレー」
雷「ほんと?」
提督「ああ。世界で一番美味いカレーだった。また食べたいな」
雷「もう大袈裟なんだから。ふふ、でもありがと。榛名さんにも伝えてあげないとね」
雷は嬉しそうに笑った。
訂正
雷「じゃがいもは私の担当だったんだから」
提督「……お前、そういうのは」
雷「もっと早く言えって? でも言っちゃうと、司令官は張り切って食べちゃうでしょ?」
提督「む。そんなことは……」
ない、とは言えないだろう。
間違いなくいつも以上に食べていたはずだ。午後の仕事がちょっと辛くなるぐらいに。
雷はそれを見通して言わなかったのだろう。それでも少しぐらいは食べて欲しくて皿に乗せてきたということだろうか。
じゃがいもを邪険に扱ったことに、提督は後悔した。取り繕うように言う。
提督「美味しかったぞ、カレー」
雷「ほんと?」
提督「ああ。世界で一番美味いカレーだった。また食べたいな」
雷「もう大袈裟なんだから。ふふ、でもありがと。榛名さんにも伝えてあげないとね」
雷は嬉しそうに笑った。
この>>1のssすごい好き
夕暮れ時に、提督は波止場でひとり佇む榛名を見つけた。
今日は他の鎮守府へ出向していたが、どうやら戻ってきていたようだ。
いったい何をしているんだろうと気になって近づくが、榛名は何をするまでもなく、ただ遠く海を眺めている。
提督はそろりと忍び寄って、耳元で声をかけた。
提督「ワッ」
榛名「ひゃううぅ!?」
よほど不意打ちだったのか、榛名はこっちが驚くぐらいに飛び上がってみせた。
提督は感嘆の声を出した。
提督「おお……流石榛名、いい反応だ」
榛名「て、提督っ!? い、いきなりなんです? びっくりしたじゃないですかっ!」
提督「そりゃあびっくりさせようとしたからな。びっくりするだろう」
榛名「そっ、それは……そうですけど…………そうじゃなくてっ!」
当たり前の事を返すと、榛名は納得いかない様子を見せたが。
ひと息ついて冷静を取り戻した後、咎める口調で言ってきた。
榛名「本当に驚きました。海に落ちたらどうするんですか……?」
提督「艦娘なんだから平気だろう?」
榛名「確かに平気ですけど……だからって気軽に落として良い訳じゃありませんからね?」
提督「その時は私が飛び込んで助けに行くから問題ない」
榛名「提督が来ても要救助者が増えるだけです……」
提督「大丈夫だ、任せてくれ。泳ぎは得意なんだ。大船に乗った気持ちで救助されていいぞ」
榛名「私は海の上に立てますからね?」
提督「そういえばそうだったな」
榛名「もう……」
冗談を返すと、榛名は仕方ないといった様子で吐息した。
それから小さく笑みを浮かべると、試すような目でこちらを見てくる。
榛名「でも……提督も一緒に来てくれるなら、いいですよ? 今度やってみてくださいね。一緒に海へ飛び込みましょう」
提督「いや、本気にするな。ちゃんとお前が落ちないように注意したぞ?」
榛名「ふふ、分かってます。なら今度は榛名が提督を驚かしちゃいますね。大丈夫ですよ、提督が落ちてしまったら助けますから。ちょっと沖に連れ回しちゃうかもしれないですけど」
提督「……お前はたまーに本気でやるから怖いな」
榛名「楽しみですね?」
首を傾げて、本気とも冗談ともとれない綺麗な笑みを向けてくる。
榛名は根が真面目なため基本的には品行方正だが、たまにこちらの予想のつかない大胆な行動に出ることがあった。
提督は用心につぶやいた。
提督「背中には気を付けよう……」
ともあれ、話を切り替える。
提督は榛名が眺めていた方角を見てから訊ねた。
提督「何か、考え事をしていたのか?」
榛名「……昔の事を思い出していました」
提督「昔……?」
榛名「はい。昔……“前の戦い”の事です。あの時も私は、こうして一人海を眺めていました」
先ほどと同じように、榛名は視線を海に向けた。
ゆっくりとあとを続けてくる。
榛名「金剛お姉さまも、比叡お姉さまも、霧島も沈んでしまって……私だけが生き残ったんです。けど私は海上で動けなくなってしまって……結局そのまま終戦を迎えたんです」
提督「それは……初めて聞いたな」
榛名「私も、はっきりと思い出したのは最近の事なんです。不思議ですね。深海棲艦の数が少なくなり、終戦に向かうにつれて、薄れていた記憶がはっきりしていきました。
私だけでなく他の人たちもそうみたいです。きっとこの身に宿る魂がそうさせるんでしょうね……」
胸に手を当てて言ってくる。
艦娘たちは魂という言葉をよく使う。曰く、かつての艦船の魂がその身体に宿っていると。いわゆる海軍魂とは違うもので、正直なところ言われても提督にはピンとこない。
提督は彼女たちが経験してきたという戦争のことを訊いた。
提督「前に言っていたな。お前たちはその戦争で負けたんだろう?」
榛名「ええ……私たちは負けました。戦争に勝利するために生まれてきたというのに、多くの人たちの期待を裏切り、その役割を果たすことが出来なかったんです。
私は海の上で動けないまま敗戦を知りました。そのまま一人生き残って、最期の時までただ海を眺め続けていたんです」
提督「悲しかったのか?」
榛名「分かりません……あの時の私は艦船で、人の感情を持ち得ませんでしたから。ただ……持って生まれた役割を果たせないというのは、無念でしょう? 今の私はそう思うんです」
提督「……」
榛名「因果なものですね。今回も私は生き残ってしまいました。金剛お姉さまも、比叡お姉さまも、霧島も先に逝ってしまって……私はまた海を眺めているんです」
遠く海を望む榛名の双眸は、提督には及ぶところのない何かが込められている。
失意とも、懐古とも、寂しさとも違う。あるいはすべてが混ざったような、そんな眼差しだ。
彼女をそんな境遇に再び立たせたのは、自分の判断の結果でもある。自責の念を覚えて、提督は胸に痛みを感じた。
榛名はしばらく無言で海を眺めていたが、やがて口を開いた。
榛名「でも……やっぱり、あの時とは違いますね。今の私にはたくさんの仲間がいて、隣りには提督がいてくれる……私は一人じゃありません」
そう言ってこちらを見つめる榛名の眼差しは、いつもの優しいものに戻っている。
気を取りなおすように謝ってくる。
榛名「ごめんなさい。黄昏るには、まだ早すぎましたね? 風が心地よくて、つい……」
提督「……そうだな、良い風が吹いている。このままこの風のように、何事もなく事態が進んでくれるとありがたいんだがな」
榛名「大丈夫ですよ、提督。私たちは必ず勝ちます。お姉さまたちの想いは、この榛名が受け継ぎました。今度こそ、私は課せられた役割を果たして見せます」
提督「流石にこの状況から負けたりしたらシャレにならんからな……」
もはや深海棲艦は、小規模泊地を作るぐらいの勢力しか保っていない。
これが国家間の戦争ならば間違いなく降伏している状況だが、深海棲艦にそれはない。
深海棲艦は最後の一体まで戦い続けるだろう。それ故の粘り強さはあるが、勢いづいた趨勢までは崩せない。このまま押し切るのも時間の問題だった。
榛名「ふふ、そうですね。もしここで油断して巻き返されたりしたら、向こうで金剛お姉さま達に怒られてしまいますね」
提督「ああ。だからこの戦争には勝つさ、必ずな。でなければ、ここまでやってきた意味がない」
告げてから、提督は本題を切り出すことにした。
提督「となると、自然と先の事を考えてしまってな。……榛名、お前はその役割を果たした後、どうするつもりだ?」
問うと、榛名は動揺も見せずに告げてきた。
榛名「それは提督もご存知のはずです」
提督「……」
榛名「役割を果たしたものは、もう必要ありません。だから希望解体を募っているのでしょう?」
歯に衣着せずにそう言ってくる。
率直な物言いに、提督は同じように返した。
提督「そうだな。おためごかしは言わない。深海棲艦がいなくなれば、現状の戦力では過剰になる。過剰というのは往々にして何か悪さをするものだ。少なすぎるのも同じだがな」
榛名「……」
提督「だから艦娘の数を減らさざるを得ない。でも榛名、これは次に進むために必要な事なんだろうと私は思うよ」
榛名「次……ですか?」
提督「そうだ。戦争の後の、平和になった世界のことだ。もう艦娘としての使命に囚われることも無い。お前たちの前には、戦い以外のいろんな可能性が広がることになる。
これまでできなかったこと、したかったこと、何をするも自由だ。それを可能にする後ろ盾もついてくるだろう」
榛名「提督は……私に解体を志願して欲しいのですか?」
榛名は意図を問うように訊ねてきた。
提督はかぶりを振った。
提督「そうは言っていない。解体に関して私は関与しないと、前に伝えただろう。ここに残るのもまた、お前の自由だ。好きに決めると良い」
榛名「……深海棲艦がいなくなった後の、自由と可能性ですか」
そうこぼすと、榛名は物思いに耽るように口を噤んだ。
かなりの間沈黙を保っていたが、やがてぽつりとこぼした。
榛名「提督が……私たちと同じだったらよかったのにって、ずっと思ってるんです」
提督「……何故だ?」
榛名「だって、そうすれば私たちと一緒のものを見て、感じて……同じところに行くことができるでしょう?」
榛名の言葉は要領を得ないものだったが。
提督は疑問を返した。
提督「私は、ずっとお前たちと同じ平和を目指して戦ってきたと思ったんだが、違うのか……?」
告げると榛名ははっとしたような顔をした。
失言とでも思ったのかもしれない。慌てた様子で謝ってくる。
榛名「ご、ごめんなさい提督! 私はそういうつもりで言ったのでは……! 私はただ――」
そこで、榛名は言葉に詰まった。
何かを言おうとして、それでも言葉が見つからなかったのか、つぶやくように繰り返した。
榛名「ただ……私は、その……」
言葉を待つも、彼女は途方に暮れたように視線を落とすだけだった。
提督は助け舟を出すように口を開いた。
提督「……確かに、時々羨ましく思うことがあるよ。海を往くお前たちの姿は、とても気持ちよさそうにみえる。そこから望む景色もまた違ったものなんだろう」
榛名「……」
提督「それに、もし沖合に釣りに行くのなら小回りが利いて便利そうだしな。いや……釣りなどと言わず、船引き網でどばーっと漁もできそうだな。漁業権を買えばいいんだろうか?」
冗談めかして言うも、榛名は笑わなかった。
榛名「……提督は、優しいのですね」
提督「何を言う。この前も加賀のまんじゅうを瑞鶴と食べて怒られたばかりだ」
榛名「ふふ……でも、そんなあなたが鎮守府で帰りを待っていてくれたから、私たちはこれまで戦ってこれたのでしょうね。今では、その優しさが恨めしくもあります……」
囁くようにそう言って、榛名は痛みを感じさせる表情でこちらを見た。
彼女の瞳に呑まれて、提督は言葉に詰まった。そのまま視線を交わしていたが……
榛名「答えを出すのは、もう少しだけ待ってくれませんか? これが我儘だとは分かっているのですが……」
提督「いや……我儘なんかじゃない。難しい問題だし、急かしている訳じゃないんだ。ゆっくり考えてくれ」
榛名「はい……ありがとうございます」
榛名はそう言って、言葉をしめた。
榛名の同じ一緒のものってのは戦闘中の景色やその時に芽生える感情徒かなんだろうなどす黒い憎しみとか……
目の前で仲間や敵の体がバンバンちぎれては飛び回ってるなかで提督達はなんだかんだで安全な指令室だしね
目の前で仲間や敵の体がバンバンちぎれては飛び回ってるなかで提督達はなんだかんだで安全な指令室だしね
それから幾日か跨いで、提督は全ての艦娘に希望解体について聞いて回った。
もとより本格的な内偵ができるはずもなく、それはあの中将もしかるべき人間に任せているだろう。自分にできることといえば、艦娘たちから話を聞くことぐらいしかない。
とはいっても、流石に真正面から聞くのは迂闊だったかもしれないが……
収穫はあった。
長門、加賀、北上、瑞鶴は榛名のようにまだ迷っていると明言を避け、大井、川内は雷のように退役を仄めかした。
軍に留まると言うものは一人もいなかった。
提督(本来なら喜んでいたんだがな……)
苦く思う。
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