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元スレ提督「艦娘脅威論?」
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早々に鎮守府に帰ってきたことに、門衛は驚いたようだったが。
提督は門衛にもう一度礼を言うと、夜が更けるまで大人しく仕事に取り掛かることにした。
そして時間になり、鎮守府の屋上へと向かう。川内の言っていた花火を見るためだ。フタフタマルマルに始まるとのことだが、まだ少し時間はある。
北上「あ~いたいた。やっぱ花火をみるならここだよね~。むしろその為にある感じじゃん?」
しばらくすると、一応名目上の任務を終えた艦娘たちがやってきた。
別段、屋上で花火を見る約束をしていたわけではなかったが、驚きはしなかった。
なんとなくだが、来るような予感はしていた。恐らくは彼女たちも自分がここにいることは分かっていたのだろう。
提督「お、戻ったのか?」
長門「ああ。もう私たちの出る幕は無いから、先に上がらせてもらった」
提督「そうか。広報の任務ご苦労だった。なにも問題は無かったか?」
長門「まあいろいろと面白いことはあったが、つつがなく終わったと言っておこう」
提督「うむ。大事なくてなによりだ」
雷「もう司令官っ。勝手にいなくなったりしたら駄目じゃない。せっかくのお祭りだったのに!」
提督「何の話か分からないな」
詰め寄ってきた雷が、ぷんすかといった様子でぽかぽかと叩いてきたが提督は白を切った。
瑞鶴「提督さんが行っちゃったあと、すごい面白かったんだよ~。ニセ提督が何人も空を飛んで壇上に上がってきてさー」
大井「最初に上がってきたニセ提督なんて、榛名さんにいきなり求婚してましたからね……」
北上「いやあ、あれは流石の私もびっくりしたよ。でも、盛り上がったね~」
提督「……榛名、大丈夫だったのか?」
榛名「はい、榛名は大丈夫です。申し出は嬉しかったのですが、お断りしておきました」
そう言って微笑む榛名。
まあこの笑顔で断られるなら、それはそれでありなのかもしれない。
加賀が訊ねてきた。
加賀「……で、あなたはいつからあの場所でこそこそしていたの?」
提督「何の話だ。私は今日はずっと鎮守府にいたが」
大井「思いっきり会場にいたじゃないですか」
提督「仮に、あの会場にいたとしよう。私は本来は鎮守府にいないといけないから、当然身分がばれないように私服で行くはずだな」
瑞鶴「ぱっとしない服だったね~」
提督「察しの良いお前たちならば、当然私の事情は理解しているだろうし、もし会場で私を見つけても見て見ぬ振りをするはずだ。
声を掛けたり、名指しで指さしたり、ましてや公の場に引っ張り出すなど、そんな馬鹿な真似はするはずがないと、私は信じていいな?」
長門「ふふ……それはどうかな、提督」
提督「……何?」
長門「祭りについては私に一任されていた。私には会場を盛り上げる役割もある。盛り上がりそうなことがあるならば、率先して採用するのは当然のことだ。
まして、本来提督はあの場にいるはずがないのだからな。例え提督を引っ張ってきても、それは別人なんだから問題ないだろう?」
そう言われてしまうと、提督は二の句が告げなくなった。
提督「……わかった、私の負けだ」
素直に手を挙げる。
そもそも不用意にあの場に行った自分に非があるのは言うまでもないことだ。
しかし長門も変わったなと、思う。昔ならば、規律を重んじて寧ろ叱り飛ばしてきただろう。
加賀「それで、いつからいたの?」
提督「最後だけだ。私が行った時点で榛名が終わっていて、雷の話だけを聞いて撤退してきた。だがそれだけでも行く価値は十分にあった……よかったぞ、雷」
雷「ありがとう。でも司令官も参加すればもーっと面白くなったのよ?」
雷はまだ納得がいかない様子だったが。
まあ実際、今考えてみれば参加してもそこまで問題はなかったかもしれない。
上からは何かしら言われるかもしれないが、このめでたい時期だ。口頭注意ぐらいで済んだはずだ。
瑞鶴がいたずらな笑みを浮かべた。
瑞鶴「へえ、じゃあ加賀さんの話は聞かなかったんだ?」
提督「ん? 加賀はどんなことを言ったんだ?」
瑞鶴「ええとねー」
頬に指を当てて言葉を思い起こそうとする瑞鶴。
加賀の目線がすっと細まった。
加賀「そこの五航戦……無駄口を叩くようなら、貴女が口を滑らしたことも明るみになるわよ」
瑞鶴「げっ。わ、わたし知ーらないっ」
提督「なんだ……気になるではないか」
加賀「本来提督は聞けるはずはないのだから、知る必要は無いわ」
なにやら瑞鶴の口を封じたらしい加賀は、涼しい表情でぴしゃりと言う。
提督は北上に耳打ちした。
提督「北上……あとでこっそり教えてくれ」
加賀「……聞こえてるわよ、提督」
北上「いや~あたしはちょっと感動しちゃったけどね。けど加賀っちが怖いからダメかな~」
瑞鶴「あ、あ~そういえば川内も結構面白い事言ってたよ? ……というか、みんな意外な事喋ってたよね?」
瑞鶴が矛先を川内に向けたが。
当の川内といえば、先ほどからぼうっとしていた。
提督「川内、どうした? 上の空だぞ?」
川内「えー……?」
榛名「もうすぐ待ちに待った花火……じゃなくて、夜戦ですよ?」
榛名が丁寧に言い直して、大井が呆れた口調で言った。
大井「今日は朝からずっと夜戦夜戦騒いでたので、疲れちゃったんじゃないんですか?」
北上「あー遠足が楽しみで、当日寝坊するアレね」
提督「子供か。でも、お前たちも楽しめたようでなによりだった」
川内「うん……楽しかったねぇ。御神輿上げたり、歌ったり踊ったり、みんなでいろんなことしてさ。夢みたいだよね、こんな日が来るなんてさ……」
どこか夢うつつな様子で、川内。
彼女は遠くを見つめながら、独り言のようにぽつりとこぼした。
川内「那珂がいたら、もっと面白かったんだろうな……」
ふと漏れた言葉に、皆が押し黙った。
恐らくはそれは、誰もが思ったはずだ。祭りの打ち合わせの最中、提督でさえこんな時あいつがいたら面白いことをしただろうなと考えた。
姉妹艦である川内なら、なおさらだ。そのことを考えずにはいられなかったのだろう。
長門がふっと笑った。
長門「確かにもしあいつがいたら、今日の催し物はもっと騒々しいものになっていただろうな」
榛名「那珂さん、水を得た魚みたいになっていたでしょうね……」
雷「司会さんのマイク奪って、段取りとか無視していろいろやっちゃいそうだわ。しかもすっごいノリノリで」
北上「わかるわかる。那珂っちのゲリラライブ会場になってただろうね~」
大井「進行とかめちゃくちゃになっても、構わずに続行しそうですよね。というか自分が満足するまでやめないわ、きっと」
提督「やめてくれ。私の首を飛ばしたいのか?」
加賀「提督の首1本で済めばいいんですが」
瑞鶴「5本くらいさらし首になりそうね」
好き勝手言い合って、笑い合う。
川内「あはは、そうだね。あいつがいたら、ほんと大変なことになってたんだろうな……ごめん、変な事言って」
川内は罰の悪い笑みを浮かべて頭を掻いたが。
榛名はかぶりをふって、優しい口調で言った。
榛名「いいえ、変な事なんかじゃありません。私だって、今日はずっと金剛お姉さま達の事を考えていましたから」
長門「私も、陸奥の事を考えていた。……きっと皆も、同じことを思っていたはずだ」
加賀「そうね……」
瑞鶴「うん……」
加賀や瑞鶴も頷いて。
艦娘たちは、胸中で思いを馳せるように口を閉じた。
提督も口を噤んだ。何も言う必要はないだろう。今はただ、沈黙がこの場に染み入るのを待てばいい。
そうして時間になり、花火が打ちあがった。
観客の度肝を抜くためだろうか。最初の一発からして、夜空一面に広がるほどの盛大な花火だった。
提督「おお……」
感嘆の言葉しか出ない。
どうやら打ち上げ場所が近かったらしく、更には屋上ということもあり、かなりの迫力と音だった。
息をつく間もなく、今度は何発も立て続けに花火が打ちあがった。夜空に光がほとばしり、空気が重く揺れる。
その様を呆然と眺めながら、提督はふと艦娘たちを見やった。彼女たちもまた、ただただ夜空を見あげるだけだった。川内も騒ぐことを忘れ、何も言わず大きく目を見開いている。
この街の復興を祝うための花火。それはまた、命を懸けて深海棲艦と戦う彼女たち達への深い感謝の表れでもある。そのことが、ちゃんと伝わっているだろうか?
どうか伝わって欲しいと、提督は切に願った。
やがて花火も中盤を過ぎたところで、袖を掴まれていることに気が付いて振り向く。
提督「雷……?」
その声は、花火の音にかき消されて届かなかっただろうが。
見やれば雷が袖をぎゅうと掴んでいた。顔は腕に押し当てられて分からなかったが、彼女は泣いていた。腕からも身体が震えているのが伝わってくる。
雷だけではない。加賀や榛名達も、時折目じりを拭う仕草をしている。
提督「……」
恐らくは皆、思うことは同じだろう。
今日のこの光景が、たくさんの犠牲がなくては成り立たなかったのは理解している。
だが叶うなら……この光景を、今はもういない人たちと一緒に眺めたかった。寄り添い手を取り合って、共に祝い、笑いたかった。そう思わずにはいられないのだろう。
腕に温かさを感じながら、提督は空に目を向けた。はじけて消えた光には、鎮魂の想いも込められていた。
c3/7
大本営から招集を受けた。
通常、定期報告は書類で済ませているが、大本営は直接報告を聞きたいとの旨を伝えてきた。
取り立てて珍しい事ではないが、大本営に出頭するのは久しぶりの事だった。
秘書官「お待ちしておりました。執務室までお通しします。こちらへ」
応接間で待っていると、秘書官がやってきた。
艦娘ではなく人間の秘書官で、提督も何度かあったことがある。
彼女に案内されて、執務室に入る。中には壮年の男が待っていた。
中将「久しぶりだね」
提督「御無沙汰しております、中将殿。定期報告の命を受け、出頭いたしました」
中将「ああ。待っていたよ」
いくつか儀礼的な挨拶を交わし合う。
この中将は大本営の作戦立案や、各鎮守府のまとめ役の立場にある。いわゆる上層部の人間で、艦隊指揮をしないため艦娘を一人も保有していない。
彼は手を振って秘書官の退室を促すと、口を開いた。
中将「まあ、かけたまえ。早速ではあるが、始めようか」
提督「はっ」
定期報告は質疑応答の形で行われた。
中将は主に鎮守府の内情を訊いてきた。提督が質問に答えると、彼はその内容を紙に書き留めていった。
その仕草はいかにもマニュアルをこなしているようにみえる。恐らくは質問自体も予め定められたものなのだろう。
しばらく取り決められたような応答を重ねていき、定期報告はつつがなく終わった。
提督(こんなものなのか……?)
胸中で疑問符を浮かべる。
わざわざ大本営に出頭を命じるのだから、踏み込んだ質問をされると思っていたのだが、簡易的な質問だけに留まった。出向いた意味があるとは思えないが……
中将は机の上に出ていた書類を整理すると、一息ついた。
中将「問題は無いようだね。事前に提出された資料との食い違いも無い。君の事だから、心配はしていなかったが」
提督「はっ、ありがとうございます」
中将「そう固くならないでくれ。といっても、君はいつもそんな感じだったか」
提督「はい。中将殿が砕けすぎているだけかと」
中将「そうそう。そんな感じで頼むよ」
中将は一拍の間を置いて訊ねてきた。
中将「最近はどうだね? 艦娘との関係は良好かね」
提督「ええ、特に問題はありません」
中将「そうか。だがまあ、平和に向かっているといえども、戦時中ともなればいろいろあるものだ。彼女たちが最近、何か不満や不平を言っているのを耳にしたことはないか?」
提督「取り立てて報告するようなことは、何も」
中将「ふむ」
提督は中将に視線をやった。
彼は先ほどと違い、書類も何も見ていない。世間話……なのだろうか?
中将は続けてきた。
中将「以前、希望解体の触れを出しただろう? 戦後……この深海棲艦との戦争が終わった後のことを、艦娘たちから聞かれなかったか?」
提督「聞かれました。戦後、自分はどうするつもりなのかと」
中将「ほう。君はなんて?」
提督「軍に残る可能性が高いと答えました」
中将「それは喜ばしい。……艦娘たちは、戦後どうすると答えたかね?」
提督「答えませんでした。なにか悩んでいる様子でしたから、まだ結論を焦る必要はないと伝えましたが」
こちらの答える様子を、中将は観察するような目で見ている。
提督の返答を書き留めるようなことはしていないが、先ほどの質疑応答とは打って変わって、そこには機械的な様子はない。
質問に答えながら、提督は不穏な気配を感じていた。
中将「上層部が今、軍縮を推し進めているが、それについて艦娘はどんな反応を見せていた?」
提督「資源を別の鎮守府に輸送するのは手間だとは言っていましたが、不満を言う者は意外と少なかったですね。中には好意的な意見もありました」
中将「では君はどう思っている? 軍縮について」
提督「深海棲艦との争いも下火になってきた今、妥当なことかと」
中将「そろそろ気が付いていると思うが、これは公式には残らない応答だ。だから評価に影響するものではないし、忌憚のない意見を聞きたいね」
釘を刺す様に告げられる。
なるほど思う。今日自分が出頭したのも、恐らくはこの為なのだろう。提督は言い直した。
提督「性急過ぎるかと。いくら現状優勢側に立っているとはいえ、我々は深海棲艦について余りにも無知です。その成り立ちも、目的も未だ分かっていない。未知の要素に対する備えは必要です。
軍備を拡張しろとは言いませんが、現状の強行過ぎる軍縮には少し不安を覚えます」
中将「それを聞けて安心した。軍縮ついては上でも意見が対立していてね。新たな艦娘の建造、そして資源採取の禁止。それから近々行われる新装備の開発禁止。
近代化改修の禁止も話に上がっているが、流石に性急すぎることは否めないのは我々も十分承知している。しかしそうしなくてはいけない理由もまたあるのだよ」
提督「……というと?」
その理由の見当もつかず、提督は促したが。
中将は十分に間を空けてから、前置きのように言った。
中将「私は君を評価している」
提督「……」
中将「あの決戦の時……最も危険で困難な任務に君を推薦したのは、艦娘の練度の高さと、君の判断力を買ってのものだ」
中将「君は期待以上の戦果を挙げてくれた。普通の指揮官ならば、自分の艦娘が沈みそうになると必ず二の足を踏む。
だが君は躊躇わなかった。多くの自分の艦娘が沈んでなお攻めの姿勢を崩さず、ついには深海棲艦を守勢に追い込み、活路を開いてくれた。それは君がやるべきことを遂行できる、公私を分けられる人間だからだ」
中将の物言いに、提督は胸中で苦虫を噛み潰すような表情を浮かべた。
彼の言うことは間違ってはいないが、正確ではない。
確かに自分は躊躇わなかったが、それは艦娘達も同じだ。彼女たちは分かっていたのだ。戦えばあの海で沈むことになると。
それでも彼女たちは戦いを引き延ばし戦火を広めるより、あの場で決着をつけ勝利することを願った。提督もそこに勝機があると信じ、艦娘たちの背を押した。ただそれだけだ。
中将は続けた。
中将「そして感情ではなく、道理を重んじた行動ができる。だからこの場に呼んだのだ。分かっていると思うが今日のこの場の話は、一切口外無用だ。いいね?」
提督「はい」
中将「艦娘脅威論というものが、今上で問題になっている」
提督「艦娘脅威論?」
中将「額面通り捉えてくれていい。艦娘が、我々人類の脅威になるかもしれないという問題だ」
艦娘が脅威になる……?
いきなり何を言い出すのか、提督は訝ったが。
中将「いったい何を言っているのか、という顔をしているな」
提督「ええ」
素直に頷く。
中将「突拍子もない話に聞こえるだろうが、この問題自体は最近のものではない。前々からあったのだよ」
提督「それは陸軍の嫌がらせでしょう?」
思い当ることを告げると、中将は頷いた。
中将「そうだ。戦争初期、深海棲艦に呼応するように艦娘が現れた。それで困ったのは陸軍だ。今までの優位性がすべて艦娘を保有する海軍に渡ってしまったからね。
彼らは艦娘の脅威を訴えた。もし彼女たちが我々に敵意を持っていた場合、内側に入り込んでいる分、深海棲艦以上の脅威になる可能性が高いと。
まあもっともな懸念だと、当時の私は思っていたよ」
提督「……」
中将「だが、それでも我々は艦娘に縋る他なかった。そうでなければ、深海棲艦に傷一つ付けられないのだからね。一方の彼女たちは献身といっていいほど我々に協力的だった。
もはや深海棲艦との戦争は彼女たち無しには成り立たない。その理解が深まるにつれ、次第に艦娘脅威論は薄れていった」
提督「では、何故に今になって再燃を?」
中将「戦後、彼女たちの取る行動が分からないからだ」
提督「希望解体を募ったでしょう?」
中将「半年以上前にな。何人希望者がいたと思うね?」
提督「破格の条件を提示してましたからね。かなり集まったのでは?」
中将「0人だよ」
提督「……」
中将「誰一人として志願しなかった。君のところは希望解体者はいたかね?」
提督「……いえ、誰も」
しばし言葉を失う。
提督は艦娘たちに希望解体について、よく考えろと言った。急いで答えを出す必要はないと。
だからまだ志願者が出ないと思っていたのだが、全ての艦娘がそうだったのだとしたら、それはどういうことなのだろうか?
中将は続けた。
中将「深海棲艦が、人類と艦娘にとって共通の敵なのは間違いない。だがその深海棲艦がいなくなった後、彼女たちがどんな行動をとるか予測がつかない」
提督「……まさか、艦娘が人類に対して敵対するかもしれないと考えているのですか?」
中将「その可能性はある。この戦争において人類が艦娘を必要としたように、彼女たちもまた人類を必要としていた。何故だかわかるか?」
中将は問いを投げかけてきた。
艦娘が人類を必要とする理由。彼女たちが自分たちに求めた役割。思い当ることはひとつある。身に覚えのあることだ。
提督「……指揮官ですか?」
中将「そう。艦娘は人類に君たち提督のような、艦娘の能力を存分に活かせる存在を求めた。そうでなければ敵を倒せないと分かっていたからだろう。
だから彼女たちは人類に献身的な姿勢を見せ、共生関係を築いていたのかもしれない。だが、その必要ももうすぐ無くなる……深海棲艦が滅べば、艦娘は人類を必要としなくなる」
提督「……」
中将「加えて言うのなら……我々は艦娘に対して常に誠意ある態度を取ってきたとは言い難い。劣勢だった頃は尚更だ。
君のところは良好な関係を築けているようだが、酷いところは酷い。鎮守府として機能しなくなったところもある。何が酷いのかは、言うまでもないな?」
話には聞いたことがある。
艦娘は指揮官に対して献身的だ。どんなに理不尽で無茶な命令であろうと、基本的には応えようとする。中にはその善意を悪用するものもいるだろう。
提督は苦く訊ねた。
提督「……恨みを買っていると?」
中将「私は馬鹿げたことを言っていると思うか?」
提督「……」
正直に言えば頷きたいところではあったが。
その言い分も、分からないわけではない。
だが提督は食い下がった。
提督「ですが、彼女たちとは話し合えます。我々と同じ道理を持っている。深海棲艦とは違うでしょう」
中将「だが分からないことも多い。例えば君は、艦娘達がかつて経験したという“あの戦争”のことが分かるかね?」
それは艦娘たちがよく口にする話だ。
提督も詳しくは知らないが、確かなことは彼女たちはその戦争で負けたということだ。
そしてこの世界は、彼女たちがかつていた世界と非常に似ているらしい。彼女たちの世界ではカレー洋やバシー島、ジャム島等は別の呼ばれ方をしていたそうだ。
中将「彼女たちの存在がその戦争に起因しているのは間違いないだろう。だが我々はその艦娘の根源さえ、彼女たちの口からしか知る術はないのだ」
提督「……」
中将「もし艦娘が人類と敵対した場合、どうなると思うね?」
提督「考えたくもありませんね」
中将「では考えてみたまえ。上層部と言うものは常に先の事を見据えなければならん。好き好んで下からの不満を買っているわけではないのだよ」
多少の皮肉を込めて告げてくる。
提督は自分の艦娘が艤装を向けてくる可能性など考えたくもなかった。
それでも嫌な想像を働かせて、答える。
提督「艦娘がまだいなかった戦争初期と同じことになるでしょう。制海権を奪われ、内地を好き勝手荒らされていたあの頃と。ただ今回は、対抗手段がありません」
中将「そうだ。深海棲艦に人類の兵器が一切通じなかったように、艦娘もまた同様なのは、もはや公然の秘密だな。その場合、どうなる?」
提督「……勝ち目はありませんよ。我々は彼女たちを止める術を持ち得ません」
中将「だが何もしないわけにはいくまい?」
提督「その為の軍縮ですか?」
中将「君も言ったことだぞ。未知に対する備えは必要だと……。深海棲艦と同様、我々は艦娘に対して全てを理解しているとは言い難い」
つまり上層部の進めていた急激な軍縮や、破格な条件の希望解体は、戦後の艦娘の力を削ぐためのものだったということだ。
上層部は深海棲艦と艦娘、どちらの動きにも備えをしている。どっちつかずにもなりそうでもあるが……
提督は本題を切り出した。
提督「それで……私に何をしろと?」
中将「艦娘の意図を探って貰いたい。何故解体を志願しないのか、彼女たちがいったい何を考えているのか知りたい」
提督「もしかしたら全て深読みで、艦娘たちは単純に解体が嫌がっているだけかもしれませんよ」
中将「敵対の意思がないのなら、それに越したことは無いさ。我々はそれを願っているよ。だがどの道、艦娘の数は減らさないとならない。それは分かるだろう」
戦争が終われば、当然現状の艦娘の数は過剰になる。だから解体せざるを得ないというのは、当たり前の話だ。
何にせよ、中将の言う通り艦娘の意図を知らなければならないのは確かであり、彼がこの話を聞かせた時点で自分に拒否権が無くなったのも確かなことだった。
提督は頷くほか無かった。
提督「正直、気は乗りませんが……分かりました」
物分かりの良い部下に、中将は安心したような表情をみせた。
中将「報告は定時報告に紛れさせて出してくれ。それと言うまでもないことだが、くれぐれも艦娘たちを刺激したり挑発するような行いは避けてくれ。頼むよ」
そんなことするはずがないだろうと提督は思ったが。
他の鎮守府では、そういう風に艦娘を扱ったりすることもあるのだろうか……?
それから中将はいくつか注意事項を述べてから、解散を告げた。
世界大戦とかが無かった世界線なんか
平行世界の存在っていう発想は面白いな
平行世界の存在っていう発想は面白いな
こうなると艦娘がどんな風にして生まれた存在なのかってのも面白くなるな
c4/7
執務室で提督はミンチの可能性を考えていた。
中将の命令は一言でいえば、艦娘が人類から離反する意図があるのかどうか探れ、というものだ。
彼の懸念は分からないでもない。だが提督は、艦娘が人類に敵対するなど微塵も思っていなかった。
提督(なら聞けばいい、直接。簡単な事だ)
ちらりと秘書艦に目を向ける。加賀は積もった書類を手早く分けていた。
提督は想像してみた。
直接聞くならば、こうだ。
ぱらぱらと書類をめくる加賀の机を、手でばんっ!と叩く。彼女はきっと訝しげな眼を向けて言ってくるだろう。
加賀「なんです、いきなり?」
仕事の邪魔をするな、そんな感じのじと目に違いない。だが構わず、提督は言うのだ。
提督「吐け」
加賀「は?」
提督「お前たちが裏でこそこそしているのは分かっている。なぜ誰一人として希望解体をしないのかもな」
加賀「何の話?」
提督「とぼけても無駄だ。何年の付き合いだと思っている。お前たちは人類を抹殺しようとしている!」
加賀「なるほど……バレてしまっては仕方ありません。しかし直接問い質すとは、良い判断とは言えなかったわね。死んでもらいます」
艦載機ばるるるー
提督「ぐああああ」
提督はミンチになった。
……あり得るだろうか?
提督(ないだろ)
胸中で断言するが。
それでも踏み出せずにいるのは――やはり頭のどこかで可能性を考えているからだ。
そして中将は、恐らくは自分のそんなところを観込んだのだろう。
提督「……」
舌打ちでもしたい嫌な気分だった。腹立が立つのは、自分自身にだ。
加賀「……督」
提督「……」
加賀「提督」
提督「んあ?」
話しかけらていたことに気が付いて、はっとする。
訊ねる。
提督「どうした?」
加賀「どうした、は私の台詞よ。さっきからずっとこちらを見てるけれど、何か用?」
提督「ああ……いや、なんでもない。悪い、ぼーっとしていた」
加賀「そう」
気にした様子もなく、加賀はそのまま元の作業に戻った。
提督もかぶりを振って気を取り直した。しばらくは積み上げられた書類を消化することに時間を費やしていたが。
……恨みを買っていると?
ふいに蘇った自分の言葉に、手が止まった。
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