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元スレ八幡「妖精を見るには」
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やはり俺の青春ラブコメはまちがっている × 戦闘妖精・雪風
時系列は俺ガイルが八幡18歳誕生日後のIF
雪風がアンブロークンアローの約半年後
SSWiki :http://ss.vip2ch.com/jmp/1462277299
時系列は俺ガイルが八幡18歳誕生日後のIF
雪風がアンブロークンアローの約半年後
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―――6年前
『……比企谷、それは本気かね?』
『俺ももう18です。国際的な応募条件は満たしている筈ですが』
『そういう事を言っているんじゃない』
『高水準かつ最新技術を用いた専門教育に加えて将来も確約されている。此方に戻ってきたとしても、実績さえあればかなりの厚遇で迎えられるでしょう。今のところ、戻るつもりはありませんが』
『君の悪評が想定を超えて校外まで広まってしまった事は、我々の怠慢によるものだ。真相を知った教師陣も、雪ノ下や由比ヶ浜の御両親も噂の払拭に尽力してくれている。
君の家族だってそうだろう。生徒達だって無理解な者ばかりではない。私達はともかく、君の友人たちを信じて待ってやってはくれないか』
『その過程でどれだけの労力が費やされ、被る必要のない悪評が彼等に付き纏うと思いますか。もうその兆候は見え始めている。今は小さな種火でも、すぐに大火になります。直ちに止めさせてください』
『君はどうなる。身を削って皆を繋ぎ留め、友人知人を護り、しかし誰からも理解されずに孤立してゆく。無理解な風評を真に受けた赤の他人からも白眼視され、助ける事はあっても誰からも助けてもらえない。
寧ろ徒党を組んで君を害しに掛かるだろう。そんな人生を良しとするのか』
『好きでやった事ですから。それに、今更理解してもらう必要もないでしょう。此処に留まるつもりもありませんから』
『……もう、手遅れなのか?』
『いいえ、手遅れなんかじゃありません。初めから手を取るつもりが無かっただけです』
『君は……最後まで嘘吐きなんだな。誰よりも欺瞞を嫌い『本物』を求めている癖に、君は……』
『……』
『彼女達はどうなる? 君にとって彼女達は……彼女達こそが……』
『……お世話になりました、平塚先生』
『……どうしても行くのか?』
『……はい』
―――俺は『FAF』に志願します。
GONZOらしく綿密なディテールからの糞な内容、尻窄みな終わり方を期待
―――現在
「B-1より司令部、戦術偵察行動終了。これより帰投する。RTB」
『こちら司令部、了解』
「驚いたな……508thはまた全機生還だ。これで17ヶ月連続だぞ」
「少尉、無駄口を……いや、そうだな。幾らファーンⅡの機動性が優れているとはいえ、異例の事だ。損耗率が此処まで低いというのは、特殊戦を除けば他に例が無い。余程腕の良い隊長なんだろう」
「彼の事は知っている。日本人だ。珍しい事に、高校を卒業後に自ら志願してFAFに入隊した。此処では異例の経歴の持ち主だよ」
「なんだ、少尉。何故そんな事を知っている。君の興味を引く要因があったのか」
「僕個人の興味があった訳じゃない。ただ記憶に引っ掛かっていただけだ」
「どういう事だ」
「適性診断で、彼は情報軍への配属がほぼ決定していた。だが其処に、システム軍団が割り込んできたんだ。人間ではなく―――システム軍団のメインコンピュータが」
「なんだそれは。コンピュータが人事に……介入してきたって?」
「複雑怪奇な理由をつらつらと並べ立てていたが、要約すると『情報軍では宝の持ち腐れだ。彼が持つ感情に囚われない正確な情報伝達能力は、システム軍団にこそ必要である』だと」
「なら、そいつはシステム軍団に居たのか」
「3年ほど。グノー大佐の開発チームに在籍し、オドンネル大尉の後任としてファーンⅡのテストパイロットも務めている。学習装置による審査ではパイロット適性はS、シルフドライバーとしての能力も高かった筈だ」
「……あの事件の後でファーンⅡに乗ったのか。大したタマだ」
「しかも自ら志願してだ。その後、実戦で性能を確認したいとTAB-06に出向、戦果を上げ過ぎた為かそのまま508thの隊長に引き抜かれた。
AICSの一件に独力で気付き、列機の損失を未然に防いでいる。当人は地球側の破壊工作を疑っていたらしい」
「筋金入りのフェアリィ星人だな。だが、あまり顔を合わせたい部類じゃない」
「今の貴方ならそうだろうな。かくいう僕もあまり会いたいタイプじゃないが、そうも言ってられないだろうな」
「何故だ」
「13番機以降の戦隊機増強計画は知っているだろう。その候補に508th所属の隊員が複数挙げられている……と、情報軍の伝手で聞いた」
「馬鹿な。あれだけ見事な連携を保っている部隊からの引き抜きだと? 特殊戦の任務を考えれば在り得ない筈だ」
「そうでもない。前線の部隊で彼等が何と呼ばれているか、知っているか」
「何だ」
「『ブーメランの申し子』だよ」
「楽にしてくれ、比企谷大尉。此処では敬礼は必要ない」
「お言葉に甘えさせて頂きます、少佐」
「さて、大尉……比企谷 八幡か。良い名前だな。八幡神、八幡大菩薩。武運を司る神だ。戦闘機乗りには打って付けだな」
「両親が何を意図して名付けたかは解りませんが、期待には沿えなかったと判断しています」
「謙遜は必要ない。君の経歴を前にしてのそれは、嫌味どころか他者への侮辱だ。年齢は……今年で25か。地球では異例の昇進速度だが、まあ此処では珍しくもないか」
「運が良かっただけです。それに見合うだけの犠牲も負っています」
「気遣いも遠慮も無用か。では本題だ。君の指揮する508th飛行隊だが、そのまま我々特殊戦に異動してもらいたい。戦術空軍団内部での調整は済んでいる。質問は?」
「異動の理由は?」
「例のジャムによる大攻勢で、我々は大きな損害を被った。戦力の再構築が急務だ。だが正面戦力よりも、今は更なる大規模な戦術偵察活動が必要な局面なんだ。巨大な損耗を受けたのはFAFだけじゃない。
ジャムも同様だ。一時的であろうと敵を弱らせる事が出来た今こそ、特殊戦の力が必要とされる」
「その為の戦隊機増大ですか。我々が選出された理由は?」
「あれだけの大混戦の中、君が指揮する508thは1機の損失も出していない。それどころか他の飛行隊との連携で、TAB-06とブラウニィへの敵攻撃隊をほぼ全滅させている
凄まじい戦果だ。君の戦術指揮能力を、我々は高く評価している」
「それは特殊戦への引き抜きの理由とはなりません。寧ろ、徹底的な個人プレーが望まれる特殊戦にとっては、避けるべき事象でしょう」
「それが君の『本物』ならばな。だが、そうではないだろう」
「……」
「508thの戦果は素晴らしいものだ。だが隊内の人間関係は、特殊戦のそれに酷似している。他者による干渉を拒み、全てが自己完結している人間の集団。
それを為せるだけの能力を備えた人間が一堂に会し、ジャムに勝って生き延びるという目的に対してのみ極めて高い水準での連携を成し遂げる。ある意味では、特殊戦の理想を体現したかの様な部隊だ。
その集団を造り上げる事が出来たのは比企谷大尉、君の手腕によるものだ」
「私だけの力ではありません。システム軍団の頃からの伝手で、各戦隊の厄介者を押し付けられたに過ぎません」
「普通はそうはならない。それで戦隊そのものを維持できなくなっては意味が無いからな。手に余る者は各戦隊へと分散配置され、言い方は悪いが体の良い消耗品として利用される。優秀であろうとなかろうとな」
「勿体のない事です」
「フムン、実に日本人らしい観念だな。勿体ない、か。いや実に、全くその通りだ」
「私の部隊が消耗品の集まりだと?」
「本来ならばそうなっていてもおかしくはないという事だ。パイロットとしては極めて優秀だが、他者への共感能力に欠け、集団行動を良しとせず、個としても組織の一員としても安易な妥協を拒む。
それで孤立しようがしまいが……『自分には関係ない』と、そう言い切れる人間の集団」
「……」
「君は自らの意志でそういった傾向の人間を集め508th飛行隊を造り上げた。優れた能力を持ちながら、コミュニケーション能力に欠けるが故に他者から排斥され、集団の中で摺り潰される筈だった者たちをだ。
我々特殊戦からすれば正に垂涎の人格傾向と能力ではあるが、残念ながら彼等の能力を活かせるだけの場を用意する事も出来ず、これまでは傍観する他なかった。
そんな中で大尉、君は彼等を進んで引き抜き見事に纏め上げ、ジャムに対する強力な攻性集団へと昇華させた。驚くべき事だ。だからこそ、我々は君とその部下を欲している」
「おかしな話ですね。特殊戦が欲しがっているのは補充される13番機とその後続機のパイロット、フライトオフィサの筈だ。つまり第五飛行戦隊の隊員であり18名ものパイロットが新たに在籍できるとは思えません」
「第五飛行戦隊ではな。だが、先日のジャム大攻勢による被害を鑑み、第四飛行戦隊をより攻性の部隊として増強する事が決定しているんだ。無論の事、第五飛行戦隊との連携が重要になる。
508th隊員は特殊戦機と組ませるには最適だ」
「感情に左右されず、徹底してブーメランのお守りに徹する事が出来る、という訳ですか」
「そうだ」
「……全員にシルフを割り当てて頂きたい。ファーンⅡの性能には自信を持ってはいますが、スーパーシルフに追随するには力不足だ」
「勿論だ。君には13番機のパイロットとして着任してもらう事になる。機体はFFR-41MR、機体名は『時雨』だ。スペックと細かな仕様は此処に纏めてある。
SSCを経由した情報と照らし合わせ、君の端末で確認しろ。その上で疑問点や感じる事があれば纏め上げ、レポートとして提出しろ。期限は2日後の1500だ。退室して良し」
「……それで、どう思う。フォス大尉」
「予想以上の難物ですね。MAcProⅡによるプロファクティングが全く意味を成していません。
心理傾向については何ら問題なく特殊戦の要求を満たしてはいますが……既に特殊戦専用となった私のMAcProⅡでは、比企谷大尉のプロファクティングを行うには不適切ではないかと思われます」
「どういう意味だ」
「MAcProⅡ本来の使用環境が必要ではないかという事です。地球上のネットワークにあるマークBBに接続し、一般的な人格傾向のデータを反映した上でプロファクティングを行う必要性があります」
「此処で示された彼の心理傾向が偽りだと?」
「解りません。彼が特殊戦向きの心理傾向を示す行動を取っている事は確かですが、それが彼自身の自然意識から生じたものか、そうある事を意識した上で齎されたものかが判然としません。
過去の深井大尉にも似ているが、同時に少佐、貴方にも似ているといえる」
「不思議な事ではないだろう。俺にも一時期、零の様に醒めていた時期があった」
「だとしても、彼の個人的な心理傾向は過去の深井大尉に酷似しています。とても今の様な、リーダーシップを期待できるものではない。にもかかわらず、彼は見事に508th飛行隊を纏め上げています。
FAF在籍中に齎された人格形成による功績とは思えません。元から集団のトップとしての適性があったものかと」
「元からそうならば、自ら進んでこんなところには来ないだろうさ。何らかの問題があったからこそ、日本という比較的安全な国家、それなりに裕福な家庭に生まれながら、全てを放り出してフェアリィ星にやって来たんだ。
不可解なのは、そんな人間がシステム軍団はともかくとして、情報軍団に目を付けられていたという事実だ」
「彼に興味を示していたのはロンバート大佐の様です。何か、大佐の琴線に触れる物があったのでしょう」
「ロンバート大佐が欲しがった人間か……警戒は必要だが、これからの特殊戦には零以外にもリーダーシップを有する人間が必要だ。全くの無警戒とはいかないが、捨て置くには余りに惜しい人材だからな」
「508th隊員の心理傾向も興味深いものです。ほぼ全員が特殊戦の任を全うできるだけの技量と、人間性の希薄さという条件を満たしている。これを本当に単独で統べているのだとしたら、比企谷大尉の能力は……」
「それは追々確認していく問題だ、フォス大尉。今は彼が本当に特殊戦パイロットとして活動できるのか、零に次ぐ新たな次世代のリーダー候補となれるかを見極める段階だ」
「……そうですね。でも、彼が意図して冷徹な人間を演じているのだとしたら……」
「それはそれで使える。彼の造り上げた508thは特殊戦が引き継ぎ、彼にはより指導者として相応しい人間となってもらう。
今の特殊戦、延いてはFAFにとって何より必要なのは、有能かつ清濁併せ呑む度量を持ち、その上でジャムに勝つ為ならばあらゆる局面に於いて『手段を選ばない』事を良しとする指導者なのだからな」
『……教えて下さい、先生。比企谷くんは何処へ行ったのですか』
『済まないが、答える事は出来ない。これは比企谷自身の望みであり御両親も了承している事だ』
『そんな! おかしいですよ、平塚先生! 小町ちゃんだってヒッキーが何処に行ったか知らないって言ってるのに! 御両親も何も答えてくれないって!』
『ああ、妹さんにも伝えないで欲しいとは言われたな』
『どうして!』
『なあ由比ヶ浜……これは比企谷 八幡という一個の人間が熟考の末に辿り着いた答えなんだ。失格も同然とはいえ、教職者として生徒の意志は尊重してやりたい……そう考えるのはおかしな事か?』
『何を都合の良い事を……! 教師の多くが保護者たちと共謀して比企谷くんを厄介払いしようとしている事を、私たちが知らないとでも!?』
『平塚先生がヒッキーを救おうとしていた事はあたし達も知っています! でも……でも、私たちの知ってるヒッキーなら! 皆を救う為に自分が犠牲になる事を選んだ! 違いますか!』
『……だとしたら、どうする?』
『彼が退学して決着なんて、そんな結末は許さない。何としても連れ戻して、彼に付き纏う無責任な風評を払拭します。姉も両親も全力を挙げて協力してくれる、絶対に彼を救ってみせる!』
『いろはちゃんも隼人くんも、めぐり先輩だって協力してくれてるんです! 今ならまだ……』
『無理だよ。雪ノ下、由比ヶ浜。もう……無理なんだ』
『……ッ、どうして!』
『彼は……比企谷はな……』
もう、この星の何処にも居ないんだ。
「初めまして。リン・ジャクスンです」
「お会いできて光栄です、ジャクスンさん。雪ノ下 雪乃と申します」
「由比ヶ浜 結衣です。初めまして、ジャクスンさん」
「御免なさいね、会うのが遅くなってしまって……前回の取材で思わぬ事があって、少し日本軍の方とのお話が長引いてしまったの」
「いえ、此方こそ無理を承知でお願いしていた事ですし……それに、態々日本にまで来て頂いて」
「ふふ、気にしないで。若い頃に何度か来た事があるのだけれど、親日家のペンフレンドが色々と教えてくれるものだから、常々もう一度訪れてみたいと思っていたの」
「そうですか。では時間がございましたら是非、お勧めの観光スポットを御案内させて下さい。地元の者だけが知る穴場も数多くありますので……」
「まあ、楽しみね。是非お願いするわ。それで……フェアリィ星の事を知りたい、だったかしら?」
「っ……はい」
「正確には……FAFがどんな組織なのか、彼らが戦っているジャムとは何なのかを『ジ・インベーダー』の著者である貴女自身から窺いたいのです」
「残念だけれど、私自身はフェアリィ星に行った事もないし、FAFと接触した事も3回ほどしかないのよ。詳しい事はFAFのHPを見れば分かる筈だけれど」
「それは……私たちも何度も閲覧しました。それこそ隅から隅まで。でも、私たちが本当に知りたい事は、何処にも載っていなかった」
「知りたい事?」
「FAF内部の組織形態と、其処に在籍する人々の日々の任務です」
「……」
「勿論、殆どは軍機に当たる事でしょう。ジャクスンさんが知っている事でも、守秘義務が課せられている事は容易に想像できます。ですが、もし僅かでもお話しして頂ける事があるのなら、聞かせて頂きたいのです。FAFでジャムと戦っている方々が何を思っているのか、どういった現状に置かれているのか……ほんの少しでも良い、私たちは知りたいのです」
「半年前の公報は、私たちも目にしました。FAFはジャムの大攻勢を受け、これを撃退するも総戦力の40%以上を喪失。人員も2万人以上が犠牲になったと……これだけの被害を受けていると世に知れ渡ったのに、各国政府もメディアも全くと言っていい程に騒がない。まるで、元から何の関心も無いみたいに……」
「……そうね」
「その時に、私たちは思いました。フェアリィ星の戦況については、何らかの報道管制が敷かれているではないかと。私たちの持つどんな伝手を使っても、フェアリィの実情を知る事はできなかった。そんな時に、貴女が執筆した『ジ・インベーダー』を目にしたのです」
「他のどんな専門家が書いた評論よりも、貴女の著書は真に迫っていた。ですから、貴女がFAFの方とお会いして感じた事を、どんな事でも良いんです、私たちに教えて頂きたいんです」
「……どうして、其処までして?」
「っ! ……それは」
「私たちは……私たちにとって……」
大切な人が、FAFに居るんです。
今日は此処まで。
次回よりB-13時雨、比企谷 八幡大尉が動きます。
次回よりB-13時雨、比企谷 八幡大尉が動きます。
『こちらB-13『時雨』、戦術電子偵察活動終了。コンプリートミッション、RTB』
「こちら司令部、了解」
「少佐、比企谷大尉の様子は?」
「今のところ問題はありません、准将。406thの戦闘推移を観測、自機に接近してきたType-2、4機を撃墜。今回フライトオフィサは未搭乗ですが、中枢コンピュータは想定以上の結果を齎してくれました。
元が先々代13番機と『レイフ』のミックスですから油断など以ての外ですが、特に問題が無ければフライトオフィサ無しでの戦隊機増強が可能でしょう」
「少佐。私が言えた義理ではないが、我々はコンピュータ群を甘く見た結果、幾度となく手痛い損失を受けている。戦闘知性体群と我々はジャムに対し共通する敵対関係を有するが、無条件に信頼する訳にはいかない。
彼等もそんな事は望んでいないでしょう」
「我々がそんな腑抜けなら、彼等はすぐさま切り捨てに掛かるでしょう。今でも時々首筋が痛む。これが残っている限り、油断などできる訳が無い」
「なら良いわ。比企谷大尉も、その認識を共有してくれていれば良いのだけれど」
「……彼は極めて聡い。戦闘知性体についても、独力で真相に近付きつつあった。存在を確信したのは除雪師団の一件があった頃だとの事です」
「素晴らしい慧眼だ。彼が当初から我が戦隊に配属されなかった事が悔やまれる」
「それは違う。彼はシステム軍団で、フリップナイト・システムの顛末とオドンネル大尉の末路を目の当たりにした。天田少尉の件もだ。其処から彼独自の推察で真相に近付き、その上で自らの意思で前線へ異動した。
今の彼を形成しているのは、間違いなくそれらの経験です」
「だがフォス大尉のレポートによると、彼の人格は地球時代から既に形成されていた可能性がある。システム軍団コンピュータが、高性能なコミュニケーションツールとしての彼を欲した可能性については理解できるが、ロンバート大佐が彼に着目していた理由が不明だ」
「システム軍団と同じ理由である事も考えられます」
「大佐が自ら選抜していたのは、以前の桂城少尉の様に自らの見識を挟む事の無い、優秀な手足としての人材だ。フォス大尉の分析では、大佐の部下に比企谷大尉と類似の人格傾向を示す者は居なかったと報告を受けている」
「彼は特殊戦、情報軍団、システム軍団のいずれに属する者とも異なるタイプの人間です。ロンバート大佐が目を付ける程に人間性が希薄である一方、システム軍団が人事に介入する程コミュニケーションスキルに優れている。
同時に特殊戦さながらに人間性の希薄な集団を纏め上げ、前線部隊として3本指に入る程の実力集団として機能させていた。そして今、彼は特殊戦13番機パイロットとして如何なくその能力を発揮している。こんな経歴の人間はFAFでもそうは居ない」
「彼自身の人間性がどうであれ、特殊戦パイロットとしての使命が果たせるのならば問題は無い。SSC、STCも今のところ彼を高く評価している。私としても彼は極めて有用な人材と考えている。
彼には特殊戦の次代を担う人間となって貰いたいが、それが叶わないのであれば別の形で役立ってもらうまでだ。恐らく比企谷大尉も、此方の考えは承知の上だろう」
「彼の慧眼ならば、恐らく……そういえば、面白い話を耳にしました。システム軍団在籍時からTAB-06所属時代まで、彼に付き纏っていた渾名です」
「なんだ」
「Ghoul(グール)だそうです。彼の目が、まるで死人のそれの様だと。もっとも一部からは、また別の名で呼ばれていた様ですが」
「どんな?」
「些細な虚偽も妥協も許さない、只管に真実を射抜く目。『ホルスの目』と」
「駄目ね、やはり彼の行動は私のMAcProⅡでは分析できないわ」
「皮肉な話だな。特殊戦隊員に特化した君のツールが、特殊戦の人間となった者のプロファクティングに不向きとは」
「態々私のオフィスにまで来て結果を覗き込んでいる人間の台詞ではないわね、深井大尉。貴方が他者の人格傾向に関心を示すなんて、どういう風の吹き回し?」
「俺の意思ではない、ジャックの差し金だ。比企谷大尉に対する『戦術偵察活動』だと」
「……SSCかSTCからの要請かしら? それとも雪風?」
「君もますます此処に染まってきたな、大尉。その通りだ。正確には雪風を始めとする各戦隊機の中枢コンピュータと、STCからの要請だ。SSCも徐々に関心を深めている」
「何故かしら」
「事の発端は新しい13番機の『時雨』だ。『メイヴ』の試験飛行中に戦死したサミア大尉の下で経験を積んだ中枢コンピュータのバックアップと、FRX-99レイフのバックアップから組み上げられた。
まだこれで2機目のメイヴだからな。雪風がスーパーシルフからメイヴへと自己を転送した件を参考に、即戦力として扱える中枢コンピュータを誂える必要があった。この方法を提示したのはシステム軍団とSSCだ」
「上手くいったんでしょう?」
「ああ。だが当の時雨からSTCに対し、比企谷大尉に対するプロファクティングの要請があった。どうやらSSLを通じてMAcProⅡを起動し、大尉に対するプロファクティングを独自に実行した様だ」
「ちょっと待って、時雨がMAcProⅡを使ったなんて私は知らないわよ。STCだって……」
「緊急性が高いと判断したSTCが、君に了解を取る事なくプロファクティングの実行を促したんだ。雪風を始めとする他の戦隊機も、大尉の人格傾向について情報提供を求めている。SSCも、大尉についての情報を収集するべく動き出したんだ」
「どうして其処まで……」
「簡潔に言えば人間不信になっている、というところだ。ジャミーズの工作に再教育部隊の一件、正真正銘FAF所属人員の一部が利敵行為を働いたという事実が、特殊戦外部の人間に対する不信に繋がっている」
「新入りである比企谷大尉に怯えているというの?」
「少し違う。君が特殊戦専用に調整したMAcProⅡを用いて、それでも説明の付かない大尉の人格に怯えているといったところだろう。専門家ではないから、はっきりとした事は言えないが」
「戦闘知性体について貴方以上の専門家なんて、此処には居ないわ。でも、そうね。自らの領域に現れた新たな異物を解析して理解しようとする行為は、何らおかしな事ではないわ。
でも、彼以外にも特殊戦に異動した人員は多い筈よ。他の508th隊員にはそれほど関心を示していない。どうしてかしら」
「何を他人事の様に言っているんだ。原因は君と少佐、そして准将だ」
「私? どういう事」
「比企谷大尉に関する君達の会話を、SSCとSTCが傍受していたんだ。当然、SSLを通じて各戦隊機にも伝わったんだろう。時雨は、これまでの特殊戦パイロットの型に当て嵌まらない大尉の下で飛ぶ事に疑問を……そうだな、無理矢理俺達に例えるなら不安を感じたというところだろうな」
「彼の経歴は伝わっている筈……いえ、だからこそ不安なんだわ。彼の経歴はブッカー少佐や貴方に似ている。なのにMAcProⅡでのプロファクティングが出来ないという事実が、コンピュータ群を途惑わせているんだわ」
「リン・ジャクスンの言葉を借りるなら、特殊戦の戦闘知性体群は『フェアリィ星人』しか知らなかった。其処に比企谷大尉という『地球人』が紛れ込み、しかも特殊戦に適応している。理解できずに混乱しているんだろう」
「興味深い事実だわ。でも、私としては厄介極まりないわ。特殊戦隊員と戦闘知性体群、ジャムに対するプロファクティングの他に、別途比企谷大尉のプロファクティングも行わなければならない。流石に手が回らないわ」
「少佐もそれは理解している。今は比企谷大尉の人格傾向を掴む事を優先してくれとの事だ。彼の地球での細かな経歴は、情報軍団から提供される手筈になっている。リンネベルグ少将が動いているから―――」
長距離索敵レーダーに反応。
10時方向にボギー、急速接近。
機数1、IFFに応答なし。
「B-13より司令部。ボギー探知、急速接近。攻撃照準波は感知されず」
『司令部、了解。デュラハン3、4が支援に向かう。到着まで15分』
「ボギー上昇、更に加速。EW準備、マスターアームオン」
敵機視認。
ボギー外観、FAF機に酷似。
あれは―――
「ボギー、インサイト。FFR-31MRスーパーシルフ。垂尾にブーメランマークを確認、IFFは依然沈黙……ボギーより紫外線変調によるタグ発信を確認。SSL.Ver.1.05による《follow me》タグを受信。誘っている様だ」
『ブッカーよりB-13、比企谷大尉。知っていると思うが、そのスーパーシルフは旧B-3のコピー、つまりジャムだ。戦術電子偵察活動を開始せよ。敵機から目を……決して……』
「司令部、少佐、聞き取れない。ジャミングを受けている、聞こえるか―――」
「ッ―――!」
『応答せよ、比企谷大尉。われに与する意ありや』
「……此方B-13。B-1の報告にあったジャムの総体と思しき存在と接触。これより口頭での情報収集に当たる……此方B-13時雨、比企谷だ。聞こえるか、ジャム」
『確認したB-13、比企谷大尉。返答せよ。われに与する意ありや』
「その申し出に対する即答はできない。お前は……お前はB-1、雪風が遭遇したジャムの意識体で間違いないのか」
『然り。われは貴殿らの概念に於いてジャムと呼称される存在の総体である』
「帰順とはつまり、FAFを裏切ってお前の側に付けと、俺に言うのか。俺をヘッドハンティングしようとでも」
『否。われは貴殿のあるべき場所を示しているに過ぎない。貴殿が本来身を置くべきはFAF、延いては人類の側ではない』
「深井大尉にも似た様な事を言っていたな。つまりお前は、本来予定していた存在とやらに俺が近似だとでもいうのか。俺がFAFの―――地球の人間とは異なると?」
『然り。比企谷大尉、貴殿と、貴殿の下で構築された508th飛行戦隊の在り方は、われが予定せし本来的存在に近似である。故に、われは貴殿らが本来的位置に返る事を望む』
「……俺達が人間集団の中に身を置く事は、本来の性質からは掛け離れているというのか。特殊戦はどうなる」
『特殊戦こそは人類及び機械知性体群の内部に於いて、最もわれに近似の存在である。しかし彼等はわれとの非戦協定締結を拒否し、結果としてわれは人類に対し宣戦布告を行った。
以上の事実から、特殊戦に対するわれへの帰順要求は確実に拒否されるものと判断する』
「俺も特殊戦だ」
『貴殿の現在の行動は特殊戦隊員に近似だが、本来的性質は明確に異質たるものである。雪風と深井大尉の在り方とは異なるが、貴殿もまた単体でありながらわれの予定せし性質に近似である。
故に、われは貴殿が人類の構築した組織内で孤立し、無為に消耗するを望まず。旗下の部隊と共にわれに返れ、比企谷大尉』
「馬鹿を言うな。俺は生き延びたいから、脳無し共に足を引っ張られて無様な死に様を晒したくないから、あの部隊を造り上げただけだ。そもそもの始まりだって成り行きに過ぎない。
お前の言っている事は一から十まで的外れだ。所詮はジャム、お前の推測に―――」
ボギー、UNKNOWNからENEMYに移行、ロックオン。
新型短距離高機動AAM、選択。
ターゲット情報入力、リリース。
ロケットモーター点火、弾体加速。
敵機、大G旋回、回避行動。
命中まで3秒―――
『血の気が多いわね。あの頃の貴方からは考えられないわ』
ターゲットロスト。
旧B-3コピー、空間に溶ける様に消失。
ミサイル、ターゲット喪失により自爆。
5秒後、ターゲット再出現。
『見捨てられなかったんでしょう? 何よりも他者との協調が求められる戦場にありながら妥協や馴れ合いを拒み、自らの意志で以って孤立している彼等に、あの頃の自分自身や私の姿を重ね合わせていたでしょう。
だから、優しくて、捻くれ者の貴方は昔と同じように、貴方なりのやり方で彼等を助けた』
新型短距離高機動AAM、選択。
ターゲット情報入力、リリース。
ロケットモーター点火、弾体加速。
敵機、大G旋回、回避行動。
命中まで3秒―――
『血の気が多いわね。あの頃の貴方からは考えられないわ』
ターゲットロスト。
旧B-3コピー、空間に溶ける様に消失。
ミサイル、ターゲット喪失により自爆。
5秒後、ターゲット再出現。
『見捨てられなかったんでしょう? 何よりも他者との協調が求められる戦場にありながら妥協や馴れ合いを拒み、自らの意志で以って孤立している彼等に、あの頃の自分自身や私の姿を重ね合わせていたでしょう。
だから、優しくて、捻くれ者の貴方は昔と同じように、貴方なりのやり方で彼等を助けた』
右方向、急旋回。
大Gによりブラックアウト、勘に従いガン攻撃。
射撃0.5秒。
視界回復、空間受動レーダーに感。
攻撃照準波感知の警告音、ジャムType-1接近中。
眼下の森林地帯、密集した紫の樹木を吹き飛ばしつつ出現したそれが2機、今まさにブースターを捨て攻撃態勢に入っている。
『私たちだけじゃない、由比ヶ浜さんの事も重ね合わせていた。地球での過去から、他者との軋轢や集団からの孤立を恐れるがあまり、自己の能力を超えた命令を受けようとする人たちに代わって、危険で不合理な任務に自ら立候補してきた』
中距離超高速AAM、近距離高機動AAMを選択。
ロックオン、リリース。
極超音速のミサイル2基と、可変速タイプの高機動ミサイル2基、計4基が2機のType-1へと向かう。
同時に旧雪風のコピーに対する追撃を開始、ガン攻撃によるターゲット損傷を確認。
『想定外の高機動でテストパイロットを殺すような機体に乗ったのも人の為、前線に出て命懸けのテストを引き受けたのも人の為。各戦隊で爪弾きに合った人たちを集めて508th飛行戦隊を造り上げたのも、彼等が厄介者として不当に摺り潰されてゆく現状を変える為』
AAM命中、Type-1撃墜を確認。
ターゲット電子攪乱手段を展開、超高速にて離脱を図る。
追撃すべく中距離超高速AAMを選択、ロックオン―――
『どれだけ冷徹な人間を演じても、幾ら『ブーメラン戦士』宛らに振舞っても、貴方の本質は何も変わっていない。総武高校の、あの部室―――『奉仕部』に居た頃の貴方と』
リリースボタンに掛かる直前、止まる指。
煙を引きながらも、更に速度を上げて離脱せんとするコピー雪風。
機内、パイロットモニタリングレンズが稼動、発せられる小さな音。
唐突な電子音、HUDとホログラムディスプレイ上に走る、見慣れない文字列。
〈I have control / Lt.Hikigaya〉
リリースAAM。
リリースボタンは押されていない。
次の瞬間、視界の一切がブラックアウト。
全身に掛かる異常なG、首から背筋に掛けて走る激痛。
眼球が潰れ、内臓が軋むかの様な猛烈な不快感。
2秒と保たずに意識が飛び、やがてそれを取り戻した時には全てが終わっていた。
「何だ……」
痛む首を擦り、咳き込む。
全身を駆け巡る痛み、赤く明滅する視界。
身体の異常を余所にHUD上を流れる無感情な文字列。
〈This is SHIGURE / mission complete / RTB〉
こちら時雨、任務完了、帰投する。
B-13でもLt.Hikigayaでもなく『時雨』としての通信。
其処に機上のパイロットが介在する余地は無い。
「……これが戦闘知性体か……痺れを切らしたか?」
ミサイル残余無し、ガン残弾587。
接近するデュラハン3、4をレーダーが探知。
コピー雪風の反応は無し。
スティックを軽く捻ると、それに従い鋭くロールする機体。
機体制御権、パイロットに移行。
しかしそれを告げる表示は、ディスプレイにもHUD上にも無い。
「これはつまり、俺はお前のパイロット失格って事なのか? 時雨……」
反応は無い。
程なくしてデュラハン3、4と合流、一路フェアリィ基地を目指す。
オートマニューバとなった時雨がコピー雪風を撃墜していたと確認が取れたのは、特殊戦司令部にてブッカー少佐に呼び出された後の事であった。
〇 病み時雨 vs ゆきのん(偽) ●
今回は此処まで
速ければ今夜、駄目なら明日投下
今回は此処まで
速ければ今夜、駄目なら明日投下
「それで、俺にどうしろと?」
「何、少しばかり比企谷大尉との世間話をしてくれれば良い。お前が訊きたい事を訊くのも、向こうが話す事に答えるのでも良い。既に彼のレポートは読んでいるな?」
「ああ。危険かもしれないが、妙に共感できる内容だ。俺が体感した事と良く似ている」
「不可知戦域でないとはいえ、交渉の内容も似通っている。しかし、こうまで露骨な勧誘を掛けてくるとはな。お前と雪風の関係性とはまた違った、ジャムが本来予定していた存在か。興味深いな」
「何が興味深いんだ、ジャック。彼は撃つのを躊躇った。時雨は制御権を奪うに留めたが、もし搭乗機が雪風ならあの速度で奴を放り出していてもおかしくはなかったんだぜ」
「だからこそ経験者であるお前が話を聞いてやれ。大尉は今、時雨とどう付き合っていくのかを試行錯誤している。先人の知啓を授けてやるんだ」
「放り出された事を言っているのか、それともジャムの声を聞いた事か」
「両方だ」
「何処まで踏み込むつもりだ、MAcProⅡの件に関しては明かしても良いのか?」
「踏み込める所までだ。俺達の手に負えん領域はフォス大尉に任せる他ない。ああMAcProⅡに関してだが、お前が知っている範囲で打ち明けて貰っても構わない。態々言うまでもないだろうが、情報収集だけは忘れるなよ」
「……ジャック、少佐。改めて訊きたい。奴を特殊戦に引き入れるべきだったと思うか」
「なんだ、藪から棒に」
「大尉を引き抜いたのは、彼が特殊戦隊員としての適性を持ち、尚且つ集団に対する統率力を持つと判断したが故だろう。だが、今回の件に関するレポートを見ると、奴が本当に特殊戦に馴染める……いや、軍隊なのだから馴染めなくても文句は言えないだろうが、そういう事ではなくて」
「お前が言いたいのは、奴に特殊戦としての任務を十全に果たす能力があるか疑わしい、という事だろう」
「……そうだ」
「これまでの特殊戦機としての出撃で、奴が味方の戦闘に介入した事例はない。助け得る場面でも、全て手出しせずに見殺しにしている。それでも問題と感じるか」
「俺が言いたいのは、比企谷大尉が叛乱を……違う、そうではなくて、奴が特殊戦の任務をこなす上で、本来ならば発生し得る筈の無い負荷を帯びているのではないかと、はっきりとは言えないがそう思うんだ」
「フムン、本来のパフォーマンスを阻害する何かが、大尉にはあると」
「何故そんな事を思うのか、俺にも解らないが」
「いや、それが正常だ。お前は確かに変わったよ、零。人として豊かになった。それが良い事かどうかは、俺には何とも言えんが」
「成長か。成長した結果が、比企谷大尉に対する疑念だと?」
「疑念と言うよりも、共感だろうな。お前、トロル基地の地下で自分が言った事を覚えているか」
「なんだ、どれだ」
「メインエレベータで地下に降りた後だ。お前、虐殺された基地要員の事で言っただろう、腹が立って仕方がないと」
「……そんな事も言ったな」
「正にそれだよ、零。他人など知った事かと言い放っていたお前が、その他人の立場となって心中を慮るまでになった。そいつはブーメラン戦士としては諸刃の剣にもなるが、リーダーとしては好ましい変化だ」
「他人などどうなろうが、俺達には関係ない」
「そう『俺達』にはだ。お前だけではなく、特殊戦という集団にとっては関係ない。そう言えるまでに、お前は成長したんだ。そして、その線引きの内側に居る比企谷大尉を気に掛けている」
「そうだとして、実際にはどうなんだ、ジャック。今更意地を張る訳でもないから言うが、比企谷大尉は特殊戦には向いていないんじゃないかと、俺は思う。無理をしているというか、意識してブーメラン戦士の如く振舞っている様に感じるんだ。彼がレポートに書いた、ジャムの声が言っていた様に」
「その声はお前の時と同様、時雨の情報には記録されていなかった。しかし……女の声、とはな」
「知人の声だと書いてあったが、何か解ったのか」
「その点については、桂城少尉が情報軍団の方に掛け合っている。正直、借りを作る事は避けたいんだが、そんな事情で分析を止めればコンピュータに何をされるか解ったものじゃない」
「ジャムはその知人の声を完璧に真似ていたと書いてあったが、それはつまりロンバート大佐を経由して情報がジャムに流れたという事だろう。態々、情報軍団が調査を行っている位だ。レポートの通りなら、音声から口調に至るまで情報が収集されていた事になる。
その知人とやらの存在が、大佐が比企谷大尉を情報軍団にスカウトしようとした理由の一端なんじゃないか」
「恐らくはな。その女性の存在が、現在の大尉の人格を形成した要因の1つであるとは考えられる。それについて調査する事は、ロンバート大佐の思惑を探るにせよ、比企谷大尉の心理傾向を把握するにせよ、有用な情報を得られる事だろう。だが、もう1つ厄介な推論がある」
「なんだ」
「今回、彼は不可知戦域に誘い込まれるでもなく、通常空間に於いてジャムと邂逅を果たした。そしてリアルタイムで、ジャムの声を聞いている。その事実からSTCが、ある危険性を指摘しているんだ」
「危険性?」
「比企谷大尉がロンバート大佐と同じく、ジャムと直接交信できるのでは、との可能性だ」
「奴の脳にも、何らかの欠陥があるのか」
「いや、そういった診断結果は無い。だが、少なくとも彼は、俺たちとはまた違った視点から周囲を、世界を捉えているとは思われる。その推測を確かめる為にも、彼のプロファクティングを適切に行わなくてはならない」
「人毎に人格が異なるなんて、当たり前の事だろう」
「だがジャムと戦う為、特殊戦の使命を果たす為の向き不向きはある。それを把握する為のプロファクティングだが、エディスのMAcProⅡではそれができないときた」
「俺たちとは別種の人間だから、か」
「特殊戦とは別、ならまだ良いんだがな。下手をするとFAFのどんな人間とも異なる可能性すらある。そして今回のジャムの声で、更に厄介な可能性も浮上してきた」
「つまり?」
「地球上の大多数の人間と異なる、との可能性だ」
『……英語、お上手ね』
『え、はい……有り難う御座います。私は元々。海外留学の経験がありますので』
『由比ヶ浜さんも?』
『私は、どうにも苦手でして……彼女に付きっきりで教えて貰って、数年掛けて漸く此処まで漕ぎ着けました』
『そう、大変だったでしょう。それも『彼』の為かしら?』
『……はい』
『そう……とても純粋で、強い願いなのね。FAFでは英語が公用語とされているから、もしもの時を考えれば必須だものね』
『ええ、そうです』
『でも、たぶん通じないわ』
『え?』
『その英語をフェアリィ星で使っても、きっと彼等はそれを受け入れない。彼らが話す言語を耳にしても、きっと貴女達は理解できない』
『それは、どういう……』
『彼等の話す言葉ってね、雪ノ下さん、由比ヶ浜さん。英語が元にはなっているけれど、今や全く別の言語になってしまっているのよ』
『なっ……!?』
『少し詳しい者の間では『FAF語』なんて呼ばれているわ。形容詞が異常に少なく、あまりに簡潔かつ高速すぎて、英語圏のネイティブでも全く理解できない。この地球上の言語とは、あまりに異なる形態にまで変化を遂げてしまっているのよ』
『そんな……』
『私には人の言葉と言うよりも、プログラミング言語の羅列の様に感じられたわ。勿論、それがその人の内面を表すものではないでしょう。私にFAF語を披露してくれた人も、その内には人間らしい感情が秘められていたわ。
でも、そんな言葉が公用語として用いられている程度には、私達の知る社会よりもずっと人間性の希薄な組織である事は確かよ。
特に、私がほんの少し関わった特殊戦という部隊は、人間よりも機械に近いと評される精神構造の保有者が集められているらしいわ』
『それは……?』
『協調性に欠け、他者に対し興味を持たず、それらの存在に関するあらゆる事象に対し無関心な人物』
『……』
『彼等の任務はこう。【FAFとジャムの交戦空域に於いて、全ての情報を収集せよ。戦隊機は手段を問わず生還し、収集情報を必ず持ち帰る事。その為にも積極的な交戦は避け、たとえ友軍機を救援可能な状況であっても手出しはならず、搭載武装は全て自機の生存の為にのみ使用されるべし】。パイロットやフライトオフィサとして極めて優れた能力を持ち、更にこの命令を当然の事として遂行できる人間だけが集められた部隊』
『そんな……そんなの、普通の人間じゃ……』
『そう、務まる訳がない。FAFどころか人類が保有する中でも最強の乗機と最高の武装を与えられながら、自機に向かってくる敵以外に対しては一切それらを使用しない。
それを行使する事で確実に助かる命があったとしても、何ら良心の呵責を覚える事なくそれらを見殺しにできる人物でなくては、特殊戦には所属できない。
他部隊の人間が、それどころか地球がどうなろうと『それがどうした、自分には関係ない』と言える人間でなくては』
『……興味深いお話ですが『彼』が其処に居るとは思えません。他者との関わりを拒絶する、という点については共通していますが、見殺しにする様な人格からは程遠いですから』
『そうです! 寧ろ、何時だって自分を犠牲にして、自分の事を嫌っている人まで救って、なのに差し伸べられた手を掴もうともしないで……誰からも理解されないまま、敵視されて孤立してしまう。そんな人なんです……!』
『……そう。なら『彼』が特殊戦に所属している可能性は低いわね……ねえ。私のペンフレンドだけれど、その特殊戦の副司令官なの。色々と顔が利くみたいだから、その『彼』について訊ねてみましょうか。
丁度この後オーストラリアに行く予定があって、そのままFAFの本部にも顔を出してみる心算なの。勿論、手紙でのやり取りになるから、返答が来るまで多少の時間は掛かるし、機密に触れる様なら返答自体が無いかもしれないけれども』
『……! 是非お願いします!』
「駄目だね、やっぱりFAFについては殆ど何も解らない。軍の上層部や諜報部なら何か知ってるんだろうけれど、幾らお父さんでも国政の場に出たばかりの新米議員に解る事は何もないよ。それどころか、現職の国防大臣でも知っている事は限られているんじゃないかな」
「FAFの創設にはこの国だって関与していし、毎年膨大な国費だって投入しているのよ。それなのに何も解らないの?」
「やっぱり、何らかの情報統制は敷かれてるんだろうね。いろんな出版物を当たってみたけれど『ジ・インベーダー』を除けば、此処20数年でFAFやジャムに関するまともな考察物は出ていないよ。
良いとこ三流ゴシップ誌の陰謀論位かな。最近じゃ米国でアンディ・ランダーってフリーコラムニストが書いた記事があったけど、正直胡散臭い内容だったよ。
まだ読める部分では、特殊戦っていう部隊の有能さと、其処の所属機である雪風っていう偵察機の事は褒めてたけど、FAF全体としては地球防衛機構とはいえ国家から独立した武力組織が、あんな異常な軍備を持っているのはおかしいって」
「……それってもう、半ば地球から独立した軍事組織なんじゃ」
「たぶん結衣ちゃんの言う通りだろうね。創設時は米軍とか各国から供給された兵器が運用されてたみたいだけれど、数年もするとFAFで独自に開発されたものに一新されたみたいだし。地球上のどの国家とも異なる軍備を持っている可能性も在るね」
「でも、名前の通り航空戦力に限定された軍隊なんですよね」
「ジャムの方が戦闘機や攻撃機しか確認されていないって事だからね。フェアリィ星の環境については良く解らないけれど、陸上戦力の展開には不向きな地理なのかも。とにかく空軍としては、規模の面では米軍すら凌駕する巨大組織みたい」
「……そんな所で何をしているのかしら、比企谷くんは」
「あの子が戦闘機なんておっかない物に乗れるとは思えないからね。何らかの管理業務にでも就いているんじゃないかな。実際、前線で戦うパイロットの数は、組織全体の1割にも満たないって公表されているし」
「案外、あの頃と変わらない事してるかも。何処へ行ったって、ヒッキーの本質が変わる訳じゃないし」
「そうね……きっとそう」
「……さて、今回は此処まで。そろそろ仕事に戻ろうか、雪乃ちゃん、結衣ちゃん……ん、電話か」
「ええ……結衣さん、午後の予定は?」
「2時から国交省の方々と成田空港ターミナル新設に関する説明会、5時からは如月重工役員との会合となっています。6時以降の予定は今のところ入っておりません」
「そう、今夜は暫く振りにゆっくり休めそうね……たまにはゆっくり、昔話に興じるのも良いかもしれないわ」
「……そうだね、ゆきのん」
「……ええ、応接室へお通しして。すぐに行くわ……雪乃ちゃん、結衣ちゃん」
「なにかしら、姉さん」
「……2人に、お客様よ」
「来賓ですか? アポは何も……」
「日本海軍省、開発部の人間らしいけど……心当たり、ある?」
続きは今夜中に投下します
エリートボッチ vs ハイスペックボッチ
あと、雪風未読or未視聴の方向けに、後でちょっとした用語解説をば
エリートボッチ vs ハイスペックボッチ
あと、雪風未読or未視聴の方向けに、後でちょっとした用語解説をば
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