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元スレ八幡「妖精を見るには」
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「まさか、許可されるとは思いませんでした」
「深井大尉から話は聞いているだろう。以前にもやった事だ、大した問題じゃない」
「しかし、リスクを考えれば多少は拗れるものかと思っていました」
「情報漏洩の件か。君はジャムと知人が『本物』であるかどうかを確かめる為に、地球に戻るのだろう。俺としては止める理由が無い。それで、日本には帰国するのか」
「いいえ、シドニーを出るつもりはありません。あちらの広報部が動いてくれるとの事で、調査結果を確認できればすぐにでも戻るつもりです」
「結論を急ぐ必要はない、比企谷大尉。君が地球に戻り何を見て何を感じたか、其処からどんな結論を導き出すか、今はまだ何も解らないんだ。答えはその時にまで取って置くのが良い」
「帰国は考えていません。戻るつもりもない」
「何故だ。或いはジャムなど幻想だと結論付けるかもしれないし、フェアリィ星に居てはジャムに勝てないとの結論に至るかもしれない。此処と地球のどちらに『本物』があるかなど、現時点では解る筈がないだろう」
「たとえそれで地球に『本物』があったとしても、私が其処に居られるかは別問題です。だが、居なければならない場所は此処にある」
「居たい場所、とは言わないんだな。此処も、地球も」
「……」
「……実は先日、地球の友人から手紙が届いた。恐らくは、ジャムの脅威を地球上で最も良く知る人物だ。その人物が、最近できた友人から面白い依頼を受けたらしい」
「依頼、ですか」
「ああ。その依頼内容が、実に傑作でな」
「何です」
「『腐った目をした、底意地の捻くれた魚の獲り方を教えて欲しい』」
「……!」
「何の事か解らんが、彼女は手紙である人物の所在を訊ねてきた。FAFに比企谷 八幡という人物は居ないか、とな」
「……それが何だというのですか」
「君にとって地球側の『本物』とは、ジャムが模倣した知人の事だろう。この依頼者こそが、その知人ではないのか」
「何が言いたいのです」
「直接会って、その目で確かめてはどうかと言っている。『本物』かどうかを確かめるには、これ以上に確実な方法もないだろう」
「タイミングが良すぎる……情報軍団ですか」
「それは私の知るところではない。そもそも情報軍団の介入を嫌ったからこそ、君はシドニーの広報部を頼ったのだろう」
「防諜が主任務だろうと思ったからですよ。認識が甘かった。情報軍団が其処まで力を有しているとは」
「通路を通るものは何であれ、ジャムを除けば完全に把握されている。蟻一匹さえ見逃がしはしない、それが情報軍団というもの―――だと」
「FAFに関連する動きは、全て察知されていると。その真偽と裏を確かめる為にも、各国への浸透は疾うに行われている……という訳ですね」
「まあ、そういう事だ。で、どうする。情報軍団の報告だけで、君は『本物』の存在を確信できるか」
「……退役の手続きをお願いします、少佐」
「私が受け取った手紙への返答はどうする」
「どうとでも。結果は変わらないでしょう」
「そうだな、その通りだ。さて、大尉。今のFAF、そして特殊戦には余裕がない。進んで君を手放したがる人間は居ない為、帰還が遅れようとも多少の猶予はある。1週間やるから、ゆっくりと『本物』の存在を確かめてこい」
「時雨がそれだけの期間を待ってくれますかね」
「何だ、見限られそうなのか」
「いえ、あれは貪欲です。此方の教えたい事を、想定以上の速度で吸収している。未だ私に対する不信は拭えていないのでしょうが、機上の私から何かしら学べる所があると明確に理解しています。このまま学習が進めば、私がお払い箱となる日もそう遠くはないでしょう」
「君が我が戦隊に配属されてから、まだ3ヵ月だ。もう其処まで学習が進んでいるのか」
「私が提出した構想の通りに、時雨は学習実績を積んでいます。最近は私が操作をするまでもなく、中枢コンピュータが独自判断で動く事も多い。時雨の学習は私の……我々と時雨自身の意図する通りに進捗している」
「時雨自身の、か。君は時雨から拒絶される為に、時雨の成長を促しているのか」
「他の戦隊機も同じでしょう。いずれパイロットが機の要求に応えられなくなれば、最終的には拒絶される。過去の雪風もそうでしたが、パイロットが加齢によって戦闘機動に耐えられなくなっても同じ事が起こる筈です。
理由が異なるだけで、辿り付くところは同じだ」
「『メメント・モリ』か」
「……肉体的な死ではありませんが、そういう事になりますね」
「人として、パイロットとしての死を忘れるな。いずれは誰もが其処へと辿り着く―――君は良く似ているよ、大尉。地球に戻る動機も、何もかもそっくりだ」
「それは深井大尉に、という意味ですか」
「『本物』を確かめてこい、比企谷大尉。いずれは時雨を降りる事になろうと、君は優秀なパイロットだ。FAFに、特殊戦にとって必要であり、何よりジャムに勝つ為に必要な人間だ。『本物』を見極めて、此処に戻ってこい。
君の帰還にはフォス大尉も同行する事になる」
「大尉が?」
「目的は君のプロファクティングだ。理由はもう解っているな?」
「結果が思わしくなければ、私は時雨から降ろされると」
「余程の事がなければ、そうはならんさ」
「命令とあらば従いますが、その可能性があるならば時雨の学習を加速させねばならない。聞き耳を立てているSTCが既に出撃スケジュールを弄っているでしょうが、私と時雨の出撃回数を増やして頂きたい」
「第四飛行戦隊もだろう?」
「ええ」
「……君の言う通り、既にスケジュールは再調整されている。コンピュータならではの早業だな。後は准将の承認待ちだが……早いな、もう承認されたぞ」
「STCが時雨の早期学習完了を望んでいるという事でしょう」
「STCだけではなさそうだ。時雨からも出撃スケジュール調整の要求が出されている。聞かれていたな」
「内緒話も出来ませんね。プライベートを維持するだけで命懸けだ」
「生き難いな。秘密主義者には地獄の様な環境だ」
「秘密ならば口には出さず、胸の内に秘めるべきです。何も言わずに解ってくれる者が居るのなら、なお良い」
「それが単なる人間関係についての発言なら、人に多くを期待し過ぎだと窘めるところだが……君の構想を知っている身としては、薄ら寒いものすら覚えるよ。だが、実現できれば特殊戦は飛躍的に強化される」
「ええ。だからこそ、時雨の学習を遅らせる訳にはいかない」
「だからといって、君自身が犠牲になる必要はないぞ、大尉。君は地球に戻り『本物』を確かめねばならん。その前に時雨もろともジャムに殺られるなどという事になれば、他の戦隊機やコンピュータがどういった行動に出るか解ったものではない」
「命令は確実に遂行します」
「絶対に、だ。比企谷大尉、手段を問わず必ず生還せよ。ジャムからも、地球からもだ。要望ではない、これは命令だ。復唱せよ、比企谷大尉、B-13」
「B-13時雨、比企谷大尉、了解。手段を問わず生還する。復唱終わり」
「以上だ、退室して良し」
「どうだった、少佐」
「迷ってはいるんだろう、時雨と同じく。だが、強かな男だ。あれは外圧で折れる様な人間じゃない。結果がどうなろうと、彼は彼なりの方法で戦い続けるだろう。逃げ場など何処にも無いと、とうの昔に理解している」
「奴は特殊戦に配属されるには心の強すぎる人間だ。そんな気がする」
「俺もそう思う。特殊戦の、俺達の様な人間とはまた違った意味で、彼はスペシャルだ」
「ジャムと戦う上で有用なスペシャルなら歓迎だ。だが、不安要素もある」
「ジャムの言葉か」
「ああ。鵜呑みにするのは愚の骨頂だが、真実の一端である可能性もある」
「……だとすればだ。大尉にとっての真の理解者はFAFにも地球にも居らず、ジャムこそが唯一のそれである、という事になる」
「同種も存在はするんだろうが、少なくともFAF内部に『天然物』は居ない。だが奴の構想は、無意識に同類を『複製』しようとしているとも考えられる」
「フムン。となると、時雨はそれら『複製』の『ハブ』という事になるか。確かに、そう考えれば危険性は高い」
「この会話はSSCやSTCも聞いているんだろう。時雨に変化はないか」
「今のところはな。俺達が大尉と時雨を疑っている様に、向こうも俺達をジャムではないかと疑っているだろう。相互監視だ。特殊戦の任務を考えれば、寧ろ好ましい状態だろう」
「……ジャック、警告はしたのか」
「何をだ」
「惚けるなよ。彼はFAFのビルに留まる訳じゃないだろう。恐らくは俺の時と同じホテルか、違うとしても地球の本部とは別の施設に滞在する筈だ。日本政府が動かない訳がない」
「なんだ。おまえ、彼を心配しているのか。どういう心境の変化だ?」
「奴の心配ではない。大尉の身柄が押さえられ、俺達の情報が地球側に、ジャムに筒抜けになるのではないかと言っている」
「地球には既にジャムが入り込んでいる。お前、俺にそう言ったな。今でもそう思うか、ジャムとの『勝負』に勝った今でも」
「確かに、俺と雪風は『勝った』。だが、それは地球からジャムの影響力が一掃されたという意味ではない」
「日本政府がジャムの手先だとでもいうのか」
「日本だけでも、政府だけでもない。どの国家だろうと、政府だろうと民間だろうと、ジャムの影響下にない勢力は地球上に存在しない。俺は、そう思う。例外は―――」
「リン・ジャクスンか」
「彼女個人はな。だが、その振る舞いがジャムの想定下にないとは言い切れないだろう。彼女自身が、地球人として確固たる自己を持っているとしてもだ。彼女からの手紙にどう返信するつもりだ?」
「こう書くさ。『魚は網に飛び込んだ』とな」
「こっちから漁師を誘き寄せるつもりか。ジャック、何を考えているんだ」
「奴はFAFの、俺たち特殊戦が放つ偵察ポッドだ。トロル基地での俺達と同じだよ、零。時雨は『通路』の向こうに存在するであろう地球に対し、比企谷大尉という偵察ポッドを打ち込もうとしている」
「ジャムと戦う為に、か。だが、敵はジャムだけじゃないぜ」
「無論、彼には護衛が着く。お前の時と同じ様に。彼の意に反して身柄を拘束される様な事があれば、彼等は即座に動く」
「日本軍が同じ轍を踏むものか。俺の時と同じ様にはいかないぞ」
「承知の上だ」
「……ジャック、正直に話してくれ。大尉を地球に送ろうとしているのは、あんたや時雨だけじゃないな。情報軍団、リンネベルグ少将も一枚噛んでいるだろう」
「……リンは監視されていた。其処に、比企谷大尉の知人たちが接触してきたんだ。お前の言う通り、タイミングが良すぎる。だが少将の言葉では、それは情報軍の意図したものではなかったそうだ」
「どういう事だ。まさか本当に、ジャムの意思だとでもいうのか」
「不明だ、全く以って。だが、情報軍はそれを疑っている。SSCも、STCもだ。そして、俺も例外ではない」
「ジャムは何を考えている。比企谷大尉が地球の知人たちに、深い思い入れがある事は分かる。日本軍のバックアップを受ければ、彼等の干渉はより強度を増すだろう。大尉を地球に引き留めて、俺達の戦力を減じようとでもいうのか」
「あるいは、大尉のレポートにあった通りかもな。自分が予定した通りに現出した比企谷 八幡という『逸品』が、人間社会という『不良品』の群れの中で摩耗して失われる事を恐れているのかもしれん」
「もうひとつの『逸品』からは拒絶されたそうだからな。つまり情報軍は、ジャムの言う『本来的存在』である比企谷 八幡がどんなものかを探る為に『不良品』である地球人の群れの中へ彼を追い遣るというんだな」
「ああ。そして、もうひとつ探りたいものがある。これについてはSTCを介して、時雨から特別要請があった」
「なんだ」
「比企谷大尉の言う『本物』についてだ」
「……それは、俺と大尉の会話で出てきた単語か? ジャムの存在について真偽を問うものじゃなかったのか」
「違うな。彼は地球側に、何らかの『本物』が存在していると考えている。恐らくは知人たちの事だろうが、その知人の何が『本物』に当たるのかを、時雨は知りたがっている」
「存在していれば、その存在が現実のものであると大尉自身が確信できれば『本物』なんじゃないか」
「どうだかな。フォス大尉のプロファクティングが上手くいけば、自ずとその辺りも解明されるだろう」
「比企谷大尉のプロファクティングを行う事が、ジャムに対する戦術、いや、戦略偵察にもなるという事か。だいぶ話が大事になってきたな」
「そしてそれは時雨の、戦闘知性体群の更なる成長にも繋がるだろう。その結果が好ましいものかどうかは解らんが、やるだけの価値はある」
「奴が地球に留まる―――ジャムの側に付く事も考えられる」
「地球に留まったからといって、それがジャムへの寝返りを意味するとは限らんさ」
「なに? どういう事だ、少佐―――」
「いずれ、解る。『ブーメラン』ではなくなっても、奴を『知恵の狼』にする事はできる」
「……『騎士』の方かもしれないぜ。開発に係わっていた位だからな」
「彼は『騎士』ほど高潔でもなければ馬鹿でもない。あの目が示す通り、奴は骨の髄から一匹狼だよ。望む望まずとに拘らず、そうなる事を己に課しているのさ」
「馬鹿でも狼でもどっちでも良い。奴がジャムではなく、地球の連中と同じでもないと解ればな」
「すぐに解るさ。すぐに、な」
『わかるものだとばかり、思っていたのね……』
『寄る辺がなければ、自分の居場所も見つけられない……隠れて流されて、何かについていって……見えない壁にぶつかるの』
「違う。お前はもう、俺の思考を理解できる。言葉にする必要すらない。何かに寄らずとも、自分だけの力で『飛んで』いける」
「俺が此処に残る必要はない。だが、此処を離れる事を拒む俺が居る」
「俺は……俺が、欲しいものは……」
『これからどうしよっか?ゆきのんのこと……それと私のこと……私たちのこと』
『ゆきのんの今抱えている問題、私答え分かってるの。多分それが、私たちの答えだと思う。それで、私が勝ったら全部貰う』
『私の気持ちを勝手に決めないで。それに最後じゃないわ。比企谷君、あなたの依頼が残ってる』
『私の依頼、聞いてもらえるかしら』
『……うん、聞かせて』
『もう止めてよ、ヒッキー……! そんなの、もう誰も望んでなんか……!』
『やだよ、お兄ちゃん……置いてかないで、小町を置いてかないでよっ!』
『また、そうやって……誰にも手伝わせない、誰も信用しない……何時だって、君は……!』
『待ちなさい、比企谷くん! 依頼は、依頼はどうなるの!? あなたの依頼は……!』
「それでも」
『俺は』
「『本物が欲しい』」
「……お前もそうだろ?」
「時雨」
〈I have control〉
〈I wish you luck / Lt.Hikigaya〉
『アロー4よりグール。これより当機は『通路』に突入、地球に向かう。護衛に感謝する、以上』
『グール1よりアロー4、良い旅を。『帰還』を心待ちにしている……グール1よりウィッチウォッチ。定期シャトル、アロー4の『通路』突入を確認』
『了解。ウィッチウォッチより司令部。【矢は放たれた】。繰り返す。【矢は放たれた】』
済みません、やはり続きは当初の予定通りに展開します
次回、シドニー編
次回、シドニー編
『FAFの友人から返答が来たわ。『魚は網に飛び込んだ』だそうよ』
『……では、比企谷くんは地球に戻って来ると』
『恐らくはね……ねえ、雪ノ下さん。貴女たち、日本政府の方とは接触したの?』
『何故それを?』
『……やっぱりね。なら、忠告よ。彼等は比企谷 八幡をフェアリィに戻すつもりなんか、端からありはしない。彼が帰国を拒絶するなら最悪、始末される事だって在り得るかもしれない』
『……ッ!』
『以前、私が会った特殊戦の人も、日本政府の出迎えを受けた。海軍への勧誘を拒絶してFAFに戻ろうとしたら、彼等は強硬策に打って出たのよ』
『公権力に物を言わせたというのですか』
『そう。もっとも、FAFにしても予想済みの展開だったのね。彼の護衛に阻止されて、そのまま逃げられたわ。私も、ホテルを出るまでは付き合ったのだけれど』
『……貴女は、それを良しとしたのですか』
『彼自身が決めた事だもの。それに、彼の言う事に共感もあった』
『特殊戦の人間に共感? FAFの思想誘導を受けているのに?』
『……成る程ね。それ、日本政府の方から聞いたのかしら。貴女は、それを信じるの?』
『……』
『責めてる訳ではないのよ? でも、彼等は確固たる自身の信念を持って戦っている。それを否定する事は、自らもまた否定される危険を負うという事なのよ』
『それでも……それでも、私は……私達は……』
『どうするかは貴女たちが決めるべき事よ。私と、私が出会ったブーメラン戦士との関係は、貴女たちと比企谷 八幡との間にあるそれとは違う。良く考えて決めて……後悔の無い様にね』
「―――現時刻を以って、貴方は軍役を解かれます。日本国籍を有する民間人という扱いですが・・・」
「比企谷大尉の所在が判明しました。ヒルトン・ホテル、スイートです」
「では、このまま接触を?」
「本来ならば先ず我々が接触し、その後に貴女がたが入室すべきであったでしょう。しかし彼は、間違いなく我々の介入を警戒している。要らぬ疑念を煽る必要はありません。先に貴女がたが接触し、日本政府と軍による支援を受けている旨を伝えて下さい」
「第一印象は穏便なものであるべきだ、と」
「その通りです」
「……そんなの……『欺瞞』じゃない」
「何か?」
「……いえ、何でもありません。私達はどうすれば?」
「大尉がFAFに戻る選択をしたとしても、再志願申請をする必要がある。我々はそれを、合法的に阻止しなければならない」
「再志願の妨害は違法では?」
「そもそもが違法な思想誘導の結果としての再志願なのです。これを阻止し、日本国民としての正当な権利を保護する為の活動は適法である、と解釈できる」
「……兄に選択の余地は無いんですね」
「では、彼の再志願がお望みですか?」
「……」
「FAFの工作を甘く見ない方が良い。前回は我々の与り知らぬところで、帰還者本人も知らぬままに再志願申請が為されていた。今回も同様の事が起こった場合、我が国は邦人保護の観点から実力行使も辞さない」
「ッ! つまり……政府公認の下での実力行使と」
「はい」
「なら、私達が比企谷くんを説得できれば問題はありませんね」
「……行こう、雪乃、小町ちゃん。梶田さん、構いませんね?」
「送りましょう」
「何処でFAFの人間に見られているか、解ったものではないでしょう。タクシーで向かいます」
「良いでしょう、これが部屋の番号です。我々は貴女がたが招き入れるまで、室外で待機しております」
「……では」
「ねえ、ゆきのん……」
「解っているわ、結衣」
「……見抜きますね、お兄ちゃんなら。すぐに気付かれると思います」
「皮肉な話ね。誰よりも比企谷くんを知っていると、理解できていると己惚れていた癖に、こんな……」
「『欺瞞』か。ヒッキーはどう思うだろうね、今の私達を見て」
「……だとしても、確かめなければ。彼の『本物』が何処にあるのか、そもそも『本物』を今もまだ求め続けているのか」
「もし、その『本物』が……地球じゃなくて、フェアリィにある、と言ったら……?」
「……それを思い止まらせるのが、私達の役目よ」
「そうだね。でも、違うでしょ、ゆきのん?」
「え……」
「そうですよ、雪乃さん」
「小町さん?」
「『役目』じゃなくて『目的』でしょ? あの時からずっと変わらない……私達の『目的』」
「ふふ……小町の『目的』でもありますけどね」
「……ええ、そうね。そうだったわね」
「もう一度『奉仕部』を。あの時には戻れなくても、止まってしまった私達の時を進める為に」
以上です
今週中は厳しいかもしれませんが、なるべく早く再開の場面を投下します
今週中は厳しいかもしれませんが、なるべく早く再開の場面を投下します
『3人がヒルトン・ホテルに到着。これより接触に備える』
『前回の様な失態は許されない。突入班、警戒を密にせよ』
『了解』
「失礼します、比企谷 八幡氏の部屋で……!?」
「鍵が……開いてる?」
「ッ……お兄ちゃん、入るよ……」
「ヒッキー……居ないの?」
「……!」
『『【密偵(いぬ)】より【蔓】、【起こり】が【賊】の部屋に侵入』
『こちら蔓、【仕掛人】は配置に付いた。起こりが接触するまで待て』
『了解』
「比企谷くん……!」
「ヒッキー!」
「ッ! お兄ちゃんっ!」
「比企谷くん……っ、本当に……本当に、帰って……!」
「え……」
「……ヒッキー?」
【まともな記載が何処にも無い。そもそも該当する件数があまりにも少なすぎる】
「お兄ちゃん……? 何を喋って……」
「これって……まさか、FAF語?」
【報道管制? 何の為に……いや、そもそも誰が……】
「……比企谷くん」
【やはり、これはネットそのものまで……これで利益を受ける者となれば……】
「比企谷くん!」
【五月蝿いぞ、静かにしてくれ。今、考え事をしているんだ】
「……生憎だけれど、何を言っているのか全く聞き取れないわ。私達にも理解できる言葉で話して貰えないかしら」
【何だ、その悠長な言葉遣いは。もっと簡潔に……くそ、そうか】
「……じゃあ、此処からは日本語で喋らせて貰う……綺麗になったな、小町。そして……久し振りだな、雪ノ下、由比ヶ浜」
「お兄ちゃん……ッ!」
「……ええ、お久し振りね……本当に……本当に、久し振り。比企谷くん」
「ヒッキー……やっと……会いたかった、会いたかったよう……」
「で、目的は何だ」
「ッ!?」
「……え?」
「なに言って……お兄ちゃん!?」
「答えろ。此処に来た目的は何だ」
「そんなの……そんなの決まって……ッ」
「待って、小町さん」
「……雪乃さん?」
「ごめんね、小町ちゃん……いいよ、ゆきのん」
「……ありがとう、結衣。それで、比企谷くん」
「なんだ」
「……私達の『目的』はね」
「……」
「貴方の『依頼』を達成する事」
「……」
「でも、それだけじゃないわ」
「……ヒッキー。私達、話したい事や訊きたい事、沢山あるんだよ。6年前の事も、この6年間の事も……今の事も」
「聞かせて欲しい事なんていっぱいあるし……聞いて、貰いたい事、だって……いっぱい、いっぱいあるんだから……嫌だって、言ったって……聞いて、貰うんだからね……お兄ちゃん」
「奉仕部に持ち込まれた依頼は、殆ど全て貴方の手で達成された。私の依頼も……でも、まだ1つ、達成されていないものがある。貴方の依頼よ」
「……『本物』が欲しい。ヒッキー、言ったよね。手遅れかもしれない。もう、そんなもの何処にも無いかもしれない。でも、それでもね」
「私達は、まだ何もしていない。その身を削ってまで、あんな自己犠牲を繰り返してまで他者からの依頼を達成し続けてきた貴方の、その依頼にまだ何も応えていない」
「だから来たんだよ、此処に。ヒッキーに会う為に。私達への依頼はまだ有効かどうか、それを確かめる為に」
「……何故、そうまで固執する」
「そうね……強いて言うなら……『本物』を欲していたのは、貴方だけではなかったという事よ」
「お前達の言う『本物』とは何だ。あの頃の二の舞を演じるのは御免だ。俺の勝手な思考を押し付けるのは」
「そうだね。お互い、勝手な思い込みで……散々、傷付け合ったもんね。ヒッキーも、ゆきのんも、私も……」
「感傷はいい。要点だけ答えろ」
「っ……『何か』なんて、一言で言い表せるものではないわ。そもそも『本物』がどんな形になるのか……それが解る前に、私達は引き裂かれてしまった」
「単なる部活仲間だったかもしれない。無二の親友だったかもしれない。ひょっとしたら恋人だったかもしれない。いろんな可能性があったのに、あの事件で何もかも奪われちゃった……私が全部貰うって、宣言したのにね」
「どんな『本物』が待っていたか、本当なら今頃、私達は何らかの答えを得ていたのかもしれない。でも私達の6年間は、他者の悪意によって否応なしに奪われてしまった」
「ゆきのんも小町ちゃんも、勿論私だって、6年前よりずっと強くなったんだよ? もう、良い様に翻弄されて、誰かに頼るだけの人間じゃない。此方に悪意を向けるなら、相応の対価を払って貰う。私達の大切なものを傷付けようとするなら尚更、徹底的に叩いて潰す。そうなれる様に努力してきたし、実際にそうしてきた」
「あの事件の発端になった連中こそまだ排除できていないけれど、取り巻きはもう居ない。社会的地位は完全に失墜させたし、残った連中が破滅するのも時間の問題ね……でも、拡散された風評までは、どうにもできなかった」
「ヒッキーなら、もう気付いてると思うけど……その件について私達は、強力な後ろ盾を得たの。この場所を教えてくれたのもその人……ううん、その組織だよ」
「……日本政府、いや、軍か」
「あはは。やっぱり、気付いてたんだね……うん、そうだよ。ヒッキーが地球に戻る事も、FAFがどういう行動に出るかの予測も教えてくれた。それでこうして、接触の機会を設けてくれたの。見返りは……これも、解ってるんでしょ?」
「帰国、そして日本軍への在籍か。接触したのは海軍の人間か?」
「ええ。海軍省、開発部の方」
「俺を艦載機にでも乗せたいのか、或いは技術情報を吸い出したいのか……出涸らしにされて処分されるのがオチだ。馬鹿馬鹿しい」
「他にも、私達への見返りはあるわ。貴方の悪評を払拭する為に、軍は相応しい社会的地位を貴方に用意してくれる。貴方の実績と能力なら、彼等の想定を上回る功績だって残せる筈よ」
「雪ノ下家も協力してくれてるんだよ。陽乃さんだけじゃない、ゆきのんの御両親も、隼人くんも隼人くんのお父さんも……他にもいっぱい。ヒッキーを知っている人も、知らない人も、大勢が真相を明らかにしようと動いてる。さいちゃんや沙希、いろはちゃんや生徒会に居た皆、平塚先生だって……」
「何の為だ」
「何って……ヒッキー!」
「行動の先には過程、或いは結果という形で果たされるべき目的がある筈だ。俺からの『依頼』を果たすという行為は手段に過ぎない。お前達には別の『目的』があるだろう」
「それは……そんなの、お兄ちゃんを取り戻す為に決まって……!」
「小町、黙ってろ。俺は其処の2人に質問しているんだ」
「っ! お兄ちゃん……」
「そんな言い方……!」
「もう一度だけ訊くぞ。お前達の『目的』は何だ?」
「……比企谷くん」
「どうした、答えられないのなら……」
「貴方……何を恐れているの?」
「……」
「ゆきのん、何を……」
「本当の理由が知りたいと言いながら、貴方の様子からはそれが本気であるとは思えないわ。貴方、私達がこの部屋を訪れた時、妙に落ち着いていたわね」
「……予想して然るべきだろう、その程度」
「軍が貴方を引き入れる為に、私達を利用する事はね。でも、それを踏まえても貴方の落ち着き様は異常だった。貴方、今回の帰還は自分の意志によるものなのかしら?」
「そうだ」
「初めから私達と接触する事が目的だった?」
「え……ゆきのん、それって……」
「お兄ちゃん……?」
「……」
「『欺瞞』は何よりも嫌うところ、よね。貴方が『本物』の比企谷 八幡なら」
「……その通りだ。今回の帰還は、お前たちの存在を確認する為のものだった」
「確認ね。何の為にかしら」
「答える義務はない」
「あら、この程度の会話で、私達の存在を確認できたとでも言うのかしら。私達が貴方の求める『本物』だとでも? ひょっとしたら政府が用意した容姿だけ似せた別人かもしれないし、そもそも現実に存在するかどうかも怪しいものではないのかしら」
「どういう意味だ」
「貴方が受けたであろう高速学習装置による教育、その過程で施された何らかの精神操作による幻覚であるとは考えられないかしら?」
「雪乃さん!?」
「……成る程、そういった可能性も考えられるな」
「……冷静だね、ヒッキー。ひょっとして、自分でもそれが有り得るって考えてた?」
「何も俺はFAFを盲信している訳じゃない。学習装置の危険性は、少なくともフェアリィでは広く知られているし、FAFも隠しちゃいないからな」
「だったら何で……」
「其処に『現実』が在るからだ。自身の見ているものが実在するものだろうが洗脳によって生み出された幻覚だろうが、それへの対処を怠った場合に齎される結果は1つしかない。過程がどうであれ、その結果だけは『本物』だ。ジャムに殺られるという結果は」
「少なくとも、貴方を害そうとする『何か』が『通路』の向こうには居る事は確か、という訳ね」
「『何か』だと? その言い分、誰に吹き込まれた……日本軍か」
「だったら……だったらさ! 尚更こっちに戻ってくるべきだよ! こっちにだって、お兄ちゃんを傷付けようとする人間は居るよ? でも、少なくとも戦闘機を飛ばしてまで殺そうとする人なんて居ない! なんで、なんでお兄ちゃんが戦争になんか……!」
「何故、だと? ジャムに負けても大した事ではない、とでも言いたげな口振りだな。それとも自分には無関係だとでも?」
「……違う星まで行って空中戦なんかして! いっぱい人が死んで、それでも止めずに30年以上も戦い続けて……! お兄ちゃんが其処に加わる理由が、何処にあるの!?」
「……小町ちゃん、駄目だよ」
「確かに、あの時のお兄ちゃんには、此処に居続ける事はできなかったかもしれないよ!? だけど、だけどさ! お兄ちゃんなら海外に行って生活する事だって出来ただろうに、よりによってどうしてFAFなんて選んだの!? どうして戦場なんか……どうして……!」
「小町さん!」
「何で、戻ってきてくれないの……なんで、殺し合いなんて……なんで……」
「小町ちゃん……」
「……今のは言い過ぎだわ。でも、私達の疑問も同じ様なものよ」
「言えば良い。但し要点だけ、簡潔に」
「……貴方は自分の意思で、地球に戻ってきた。FAFとの契約も終了し、好き好んで戦場に戻る必要はない。此方での名誉も、政府の後ろ盾を得て回復する事が出来る。将来だって、貴方の能力と実績ならば安泰の筈だわ。でも、私達はFAFを退役した人間の殆どが、再びフェアリィへと戻っているという事実を知ってしまった。もしかしたら貴方もそうなのではないかと、私達は疑っているの」
「ヒッキー、特殊戦に所属してるんだってね。前に地球に戻ってきた特殊戦の隊員も、その日の内にFAFに戻っちゃったって」
「……ああ、そいつの事は知っている。だが、それに何の問題がある」
「何の問題、ですって? 知人が戦場に舞い戻ろうとしているのに、それを止めようとする事に特別な意味が必要なのかしら」
「必要だろ。そいつ自身が望んでの事なら要らぬ御節介だし、そもそも其処に理由があるとは考えないのか」
「何の理由が? そもそもジャムという敵がなぜ地球に攻め寄せてきたのか、今どんな戦略を以って何を仕掛けてきているのか、私達は何も知らない。幾ら調べても、それを知る事の出来る手段すら無かった。単に軍機というより、何らかの意図を以って情報が規制されていると考える方が自然だわ。でも、別の可能性もある」
「なんだ」
「そもそもジャムなどという敵は存在しない可能性よ」
「……」
「貴方は私達の存在を確認する為に此処に来た。では、何故その必要性が生じたのか。可能性は幾つか思い付いたのだけれど、有力な候補はこれよ」
「……」
「貴方はジャムの実存性に『疑念』を抱いている。ジャムが本当に存在する敵なのかどうか、確信が持てなくなっているのではなくて?」
「……ヒッキー、そうなの?」
「お兄ちゃん……」
八幡激おこ
今日は此処まで
※FAFの人間に『ジャムなんか居ねーよ』というのは、相手によっては自分の命を危険に曝す事になるのでご注意
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