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元スレ八幡「妖精を見るには」
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「え……」
【何と言ったと訊いている】
「……比企谷くん?」
「お兄ちゃん、何を……」
【……クソッタレが、これだから『地球人』は―――】
「―――何でもない。下らない事だ」
「……流石に今の一言は私でも聞き取れたよ。ちょっと発音は早すぎるけれど」
「……私の発言はお気に召さなかった様ね。それとも図星だったのかしら」
「雪乃さん、ちょっと……!」
「実際にジャムと命懸けで戦っている貴方からすれば、安全な地球でのうのうと暮らしている私達がその敵の存在を一方的に否定する様は、怒りを覚えるものでしょうね」
「……」
「自らの信じているもの、信じたいと一途に想っているものを一方的に否定されるのは、誰だって腹立たしいものよ」
「ゆきのん……」
「私の言いたい事、解っているのでしょう? 貴方が『本物』の比企谷くんであるならば、だけれど」
「……京都の件か」
「それも1つよ」
「……退学」
「ええ、それもあるわね」
「……黙って消えた事か」
「退学と一緒よ。あら、ちょっと『本物』らしくなってきたかしら。その、自分の事となると途端にはぐらかして逃げに入るところとか」
「そういうお前はどうなんだ、自分が『本物』であると証明できるというのか。その毒舌ぶりは確かに雪ノ下らしいが、それだけで『本物』であると断定はできない」
「なら、どんな言葉がお望みかしら。私に自分というものが無い事で悩んでいた時期はあったけれど、それは他ならぬ貴方が解決してくれたわ。そして生憎だけれど、自分自身の存在が『本物』か『偽物』か、などと悩んだ事は無いの」
「偽物が『自分は偽物だ』と認識しているとは限らない。知らぬ間に入れ替わり、それを為した者を利する行為を自覚せずに行っている事も考えられる」
「まるで実例を知ってるみたいな口振りね」
「……」
「まただんまり? まあ、それは置いておくとして。貴方、私達の存在を確認すると言ったわね。今の会話からして、私達の存在そのものが偽りである、との可能性を考慮していたという事かしら」
「どういう事です?」
「……それって、総武高の……奉仕部の思い出が偽物かもしれないって、疑ってたって事?」
「どうなのかしら、比企谷くん?」
「……」
「うそ……まさか……」
「そう、そうなのね」
「そんなの……あんまりだよ、お兄ちゃん……!」
「ヒッキー……どうして?」
「……自分達で言っていた事だろう、学習装置を通じての洗脳も有り得ると。総武高の、あの部室での記憶がそれによって植え付けられた作り物でないと、何故言い切れる?」
「決まっているわ。私達が此処に存在して、その記憶を共有しているからよ。尤も、それを無条件で貴方に確信させる術を、私達は持っていないわ」
「なら、疑いは晴れないな」
「疑いたいならばご自由に。ただ、肝心な事を忘れてはいないかしら」
「何だ」
「貴方が私達を疑う様に、私達もまた貴方を疑う事ができるのよ」
「雪乃……!?」
「雪乃さん、何を!?」
「……まあ、そうだ。俺が『本物』の比企谷 八幡ではない可能性も、十分に考え得る」
「ええ。今まさに、その疑念が色濃くなってきているわ」
「だが、その根拠は何だ。お前は言ったな。他者が『本物』であると信じているものを否定すれば、其処には反発が生じると。確かに俺は、ジャムの存在を否定され、お前たちに対して少なからず敵意を覚えた。だが、お前達が俺から『偽物』ではないかと疑われた事に対して、敵意を覚える理由は何だ」
「何だ、って……お兄ちゃん……それ、本気で言ってるの……!?」
「……落ち着いて、小町ちゃん」
「でも、結衣さん! こんなの……こんな事言われて、幾らお兄ちゃんとはいえ……いいえ、お兄ちゃんだからこそ……!」
「悔しいよ」
「っ……!」
「悔しいし、悲しいよ。怒ってもいるし……正直、失望もしてる。でも、でもね、小町ちゃん。小町ちゃんだって、知ってるでしょ?」
「……」
「ヒッキーがそういう言動をする時って、絶対に理由があるって事」
「あ……」
「そんな事も理解しようとせずに、ヒッキーを傷付けたのは他ならぬ私達だからね。悔しくても、悲しくても、衝動的に判断する事なんて、もう絶対にしない。6年前、私と雪乃が誓った事だよ」
「……そういう事。貴方のやり口は、とっくに割れているのよ」
「……」
「またそれ? 一体何時まで誤魔化し続けるつもり? そもそも、私達が貴方の発言に対して覚えた感情が敵意などでない事は、貴方自身がよく理解している筈よ。それでもまだはぐらかし続ける様なら、此方も貴方が本当に理解していないと判断して、単なる比企谷 八幡の『偽物』と見なさざるを得ないわ」
「好きにすれば良い」
「あら、良いの? この事を日本軍の方に告げれば、貴方はどうなるかしら。一主権国家の国民を騙り、その安全保障機関の人間を欺こうとまでした人間が、すんなりとフェアリィに戻れるとでも?」
「脅しのつもりか」
「脅しなんかじゃないわ、警告よ……でも、そうね。貴方の言う通りだわ。貴方が『本物』であると証明する事が困難な様に、私達が『本物』であると証明する事も、また困難だわ。だって、私達が求めている『本物』の比企谷くんは、決して自身から『本物』である事を主張したりはしないもの」
「……そうだね、ヒッキーはそういう人だった。隠された意図を私達が読み取って『本物』の言葉で返さなきゃ、また修学旅行や生徒会選挙の時みたいになっちゃう」
「ええ。だから、覚悟を決めなければ。私も、結衣も……」
「……うん」
「雪乃さん……?」
「……貴方の『目的』についてはまだ不明瞭な所が多いけれど、それを訊くには、先ず私達の『目的』を明確に……建前も逃げる余地もなく、本心から伝えなければならないでしょう?」
「雪乃……」
「……良いんですか」
「比企谷くんが軍人となった様に、私達も、もう十代の少女じゃない。自分の本心さえ誤魔化して意地ばかり張り続ける歳は、疾うに過ぎたつもりよ」
「……そうだね……うん、そうだよね」
「それで、比企谷くん……私の……私達の依頼、聞いてもらえるかしら」
「……好きにしろ」
「……ありがとう」
「じゃあ、言うね……ちゃんと聞いててね、ヒッキー」
「貴方と、一緒に居たい。お互いが、お互いにとっての『本物』。そんな確かな繋がりが欲しい」
「6年前に途絶えた『依頼』の答えを、また3人で探していきたい。誰であろうと、今度こそは絶対に邪魔させないし、奪わせない。ヒッキー1人に背負わせて、一方的に守られるだけの関係じゃ嫌だ」
「だから、比企谷くん。今度こそ、私達の『友達』に……いいえ」
「私達の『本物』に―――」
向こう側の人間を捨てろと
天秤にかけた上で捨てろと言わせるとは思い切ったな
天秤にかけた上で捨てろと言わせるとは思い切ったな
「え……」
「それは無理な願いというものだ。雪ノ下さん、由比ヶ浜さん。彼が、比企谷 八幡が求められている役職は、そう生易しい環境じゃない」
「……貴方、誰なの……何時から部屋に?」
「何時まで経っても合図が無かったもので。失礼ながら、勝手に入室させて頂いた」
「……日本軍の者か」
「そうだ。ただ『前任者』と同じ所属ではないが」
「梶田さんは? 彼は何処に……」
「彼は来ない、今は休んでいる」
「な……まさか!」
「……始末した、という訳じゃなさそうだが……別部署の人間か」
「ご明察。少なくとも開発部の人間ではないな」
「……陸軍?」
「正解だ。昔とは見違える程の察しの良さだな、由比ヶ浜さん。あんたは場の空気を読む事には長けていたが、物事の核心は悉く見落とす人間だと思っていた」
「……貴方、誰? 何で昔の私を知っているの?」
「親友の助けがあったとはいえ、あんたの努力は大したものだ。雪ノ下建設に於ける、今のあんたの地位も頷ける。雪ノ下家の厚意で在学中から会社運営に関与する機会を設けられていたとはいえ、入社初年度にして事実上の社長及び次期企画部部長の私設秘書だからな」
「っ……結衣の質問に答えなさい。何故、彼女の過去を知っているの。軍とはいえ、個人の過去を其処まで調べる理由は何なの」
「で、その次期企画部部長だ。同じく在学中から家業に携わり、由比ヶ浜さんと共に其処で築いたコネを使って、あの恥知らず共を追い込む様は流石の手腕だった。2年と掛からずに3つの競合他社を規模縮小に追い込んだ功績からすれば、今の役職でもまだ不足かもしれないな」
「……派手にやってるじゃないか。流石だな、雪ノ下? まさか由比ヶ浜も一枚噛んでいるとは思わなかった」
「ッ……!」
「恐ろしきは女の執念、という奴だ。いや、この場合は怨念か。対象を周辺諸共潰すやり方は、余計な流血を伴うが確実ではある」
「黙りなさい……!」
「川崎 小町、旧姓比企谷。総武高校在学中に川崎 大志と交際を開始し、大学2年の6月に急かされる様にして籍を入れている。結婚を急いだ事と川崎姓となった理由は、両親と事情を知る知人達の勧めから。川崎家との関係は良好、特に兄の事を良く知る義姉の川崎 沙希と義妹の川崎 京華とは、夫に次いで日頃から良く行動を共にしている。その夫は、元々は医療関係の研究職を志していたが、突如として方針を転換。セル型磁気収束場連結理論による極低温環境維持の研究で頭角を現し、大学院在籍中にも防衛省技術研究本部から声が掛かる見通し。彼が国防に関わる道を選んだ理由は、妻の為に少しでもFAFの情報を得られるだろう環境に身を置く為。まあ、彼自身も義兄を尊敬している様だが。良い伴侶を得たものだ」
「貴方は……どうして、そんな事まで!?」
「3人とも素晴らしい経歴と、高い社会的地位をお持ちだ。後発ながら巨大ゼネコンとして成長しつつある雪ノ下建設、その中でも将来に於ける上級管理職と目される雪ノ下さんと、公私ともにその補佐を行う由比ヶ浜さん。自身も国内有数の大学に通いながら、将来は国防先端技術開発の最前線に立つ事となる伴侶を得た川崎さん。いずれにせよ世間一般、大多数の人間からすれば住む世界が違うとも言える立場だ。生半可な社会的地位では、並び立つ事さえできないだろう」
「……だから、何です? 何が言いたいの」
「ある人物の隣に立ちたい、共に歩みたいと考えるのならば、相応の立場というものは必要になる。その人物が社会的に重要な役職にあるともなれば尚更だ」
「……如何にも昔の比企谷くんが口にしそうな言葉ね。だから貴方は『無理』だと言ったのかしら……今更、そんな言葉に惑わされるとでも?」
「比企谷 八幡の名誉は回復される。その為に国が力を貸すと約束したのは、陸と海の違いがあるとはいえ、同じ軍でしょう。今更、約束を反故にしようとでも? なら、私達がすべき事は単純です。地球に戻るか否か、ヒッキーに選択して貰います」
「な……結衣さん、何を!?」
「小町ちゃん。汚名が晴らされないのなら、戻ってきたってヒッキーにとってのメリットは無いよ。ならFAFに軍人として属していた方が、まだ幸せじゃないかな?」
「そんな……死んじゃうかもしれないんですよ!?」
「そうだね。でも、それはヒッキーが自ら望んでフェアリィに戻った結果でしょ? 無理にこっちに引き戻されて、謂われの無い悪意に曝され続けて潰されるよりは、ずっと良いじゃない」
「でも、それじゃ! 結衣さんと雪乃さんの気持ちは……!」
「それは物事の順序が違うわ、小町さん。私達の目的は比企谷くんと共に在る事だけれど、その為にも彼に付き纏う汚名を晴らす事が先決よ。私達が軍の提案を呑んだのは、私達だけではそれを為すだけの力が無かったから。だからこそ、彼を利用するという目的を知りながらも、私と結衣、そして貴女も軍が差し伸べた手を取った。でも、其処での言葉が偽りだったというのならば、彼等の目的を叶える必要は無いわ」
「ヒッキーと一緒に居られないのは悲しいし、辛いよ。でも、一緒に居て欲しいなんて私達の我が儘を叶える為に、ヒッキー自身の人生を犠牲になんてして欲しくない。そんな事をするぐらいなら、ヒッキーが望むままに生き方を決めて欲しい」
「結衣さん……」
「……」
「その、なんだ。盛り上がっているところ悪いが、私が言ったのはそういう意味じゃない」
「え……」
「話を続けるが、つまりこういう事だ。あんた達の社会的地位は高く、並大抵の人間では並び立つ事はできない。それが肉親であってもだ。好む好まざるとに関わらず、あんた達の居る所はそういう場所だ」
「だから、そんな事で……」
「だが、それだけだ」
「……何ですって?」
「私が言いたいのは、こういう事だ」
「その程度で彼の―――比企谷 八幡『大佐』の傍に立てるとでも?」
今日はここまで
いきなり割り込んできたのは誰か、彼の発言の意味は何か
そこら辺は次回で
大方予想は着くかもしれませんが
で、次回シドニー編クライマックス(の予定)
いきなり割り込んできたのは誰か、彼の発言の意味は何か
そこら辺は次回で
大方予想は着くかもしれませんが
で、次回シドニー編クライマックス(の予定)
「どうも、フォス大尉」
「緊急よ、これをフェアリィのブッカー少佐に届けて欲しいの。決して封を破らずに、そして絶対に電子的処理プロセスを通しては駄目」
「内容を窺っても?」
「何処に耳が在るか分かったものではない。これを読んで、声に出さずに。そして理解したなら、すぐに燃やして頂戴」
「……これは、本当に?」
「可能性の話よ。ただ、それが真実である確率は恐ろしく高いわ」
「……成る程、これはワーカムでは書けない。手書きで認める必要がある」
「少佐のオフィスには何時頃に?」
「明日の8:00には、必ず。次のシャトルは4時間後ですが、問題ない」
「そう……比企谷大尉の確保は可能かしら。情報軍はどの程度の戦力を配置しているの」
「前回の事も有り、派手な事はできない。最小限の人員を配置してはいますが、今回はそれが裏目に出た」
「日本軍に上を行かれたと」
「想定外の事態です。日本海軍が接触を図っていた事は察知済みでしたが、これを排除して日本の情報軍が割り込んできた」
「日本の?」
「正確なところまでは不明ですが、首都圏情報防衛軍団と思われます。電子戦のプロフェッショナルだ。それが独自に、海軍を排除してまで比企谷大尉と接触している」
「……彼等は、大尉の価値を正確に理解しているのね」
「大尉の部屋は武装した日本情報軍部隊に包囲されている。大尉を隔離する為ではなく、外部からの干渉を排除する構えだ。恐らく、此方の動向も掴まれている」
「腕利きね。オージーの軍に動きは?」
「別のホテルに誘導されています。我々の情報操作に気付いた日本側が、便乗する形で陽動を行っている。各国ともシドニー郊外のホテルに誘き寄せられています」
「相手は相当のやり手って事か。不味いわね、これでは彼等を引き離せない」
「接触状態が続けば、或いは」
「取り返しの付かない事になるかもしれない……いえ、それはそれで情報を集める事はできる。ただ、何処まで影響が及ぶか予測が付かない」
「手荒な方法は使えない、日本側は本格的な衝突も辞さない構えだ。重武装の別動隊も居る筈です」
「……幾ら比企谷大尉が重要人物とはいえ、其処までの強硬手段に出た理由は何かしら。それも情報軍が独自に、同国の海軍を排除してまで」
「不明です。ただ、指揮官らしき人物が妙に若い男であるところが気になる。比企谷大尉と同年代でしょう」
「若い男……何者なの?」
「調査中ですが、全く情報が集まらない。仕掛けた盗聴器も全て無力化されている上、ジャマーまで持ち込んでいるのか指向性マイクも使えない。遠巻きに監視するのが精一杯です」
「FAFなら兎も角……地球の軍隊で在り得る事なの? 20代半ばで情報軍部隊の指揮なんて……」
「突出した才能を有するならば在り得るでしょうが……何か、もう一押しとなる理由が必要だ。例えば、そう……接触対象の関係者である、とか」
「比企谷大尉の……つまり、高校時代までの関係者?」
「断定はできませんが、その可能性は高いかと」
「尚更不味いわ。場合によっては、その指揮官も……」
「急ぎましょう、大尉。手紙は部下に届けさせますが、貴女は?」
「私は明日のシャトルで戻るわ。できる事なら今すぐにでもフェアリィに戻りたいけれど、まだ調べる事がある」
「了解しました……大尉」
「何かしら」
「……彼等は『敵』になり得るのでしょうか?」
「今は何とも言えない……大尉も彼女達も、まだ『ボギー』よ。今のところはね」
面白いな
敢えて問題があるなら川崎の小僧と小町が結ばれている所か
乙、続き期待
敢えて問題があるなら川崎の小僧と小町が結ばれている所か
乙、続き期待
また間が空いてしまい申し訳ありません
シドニー編、続きを投下します。
シドニー編、続きを投下します。
『その程度で彼の―――比企谷 八幡『大佐』の傍に立てるとでも?』
「……どういう、意味かしら」
「私達には、ヒッキーの隣に立つ資格が無い、とでも?」
「まあ、由比ヶ浜さんの言葉通りだ。あんた等では不釣り合いなんだよ」
「それじゃ、さっき言っていた事と……!」
「だから『その程度』と言っただろう。我が国に帰属してくれるのならば、我々は彼に『大佐』の階級を用意する」
「『大佐』って……」
「……幾ら私達が素人でも、それが異常だという事は解るわ。外部から招き入れた人物、しかも大尉という階級であった人間が、いきなり三階級特進とはね」
「彼にはそれだけの価値が在るという事だ。冷静に考えてみろ。彼が日本に戻る事で、どれ程の国益が齎される事か」
「国益……軍事技術?」
「内容を知っているか」
「知る訳がないでしょう。あの梶田という男も、其処までは語らなかったわ」
「FAFと地球の技術格差については」
「……航空機の性能という面では、一世代から二世代の格差が在ると」
「大まかな推測では単純な航空機の性能で100年から120年、対空・対宙兵器の分野で70年、対地兵器で50年、先端素材分野で90年、人工知能等コンピュータ関連技術で130年から……」
「……もう結構よ。隔絶している、という事は解った」
「さて、此方の比企谷大尉だが。彼はFAFで無人戦闘機群統括管制システムである『フリップナイト・システム』を始めとして、新型戦術戦闘機『FA-2』コードネーム『ファーンⅡ』の開発に係わり、更にそのテストパイロットまで務めている。地球側を遥かに超越した技術で以って建造された戦闘機のだ。加えて大尉、あんたはFAFが秘匿する各種軍事技術情報に触れ、そのコア技術の知識を得ている筈だ。現状、地球上でFAFの技術を完全に模倣できる国家など存在しないだろうが、我が国の科学・工業技術で以ってすれば近似、或いは類似する新たな独自技術の開発は可能と思われる。例えば、そう……『空間受動レーダー』とか」
「空間……何?」
「……『凍った目(フローズン・アイ)』か」
「そうだ。世界各国が存在と概要を知りつつも、再現に成功した組織は1つたりとも存在しない。FAFだけが独占し、運用する『魔法のレーダーシステム』だ」
「それは……?」
「完璧なステルス性能を備えた形状と素材、及び電波吸収塗装。たとえそれらを実現、実装して、更に各種電子的攪乱システムを併用したとしても、全く関係なく対象を捕捉できる完璧なレーダーシステム。航空機だろうがミサイルだろうが、再突入してきた弾道弾だろうが『大気を押し退けて進む物』である限り絶対に逃れる事など叶わない、正に未来のレーダーだ」
「……そんな超技術の情報を、比企谷くんが?」
「全てではないだろう。だが、重要機密に指定されている部分について、多くを知り得ている筈だ。実際にそれの運用状況をモニタリングし、更には運用する側でもあったのだから」
「買い被りだな。システムの全体像を把握するなど、一個人には不可能な芸当だ」
「そうだろうとも。だがあんたは、それらの技術開発を主導し、更に記録しているシステムの一端に関与していた筈だ」
「俺がFAFの人工知能群を開発した訳じゃない」
「そんな詭弁が通用するとでも? FAFシステム軍団といえば、現時点で人類が保有する技術の集約点であり、紛れもない最高峰だ。あんたは何らかの特性を見込まれ、パイロットとしての極めて高い適性すら無視して其処に配属されていた。そんな人間が我々にとっては垂涎の的となる情報、その片鱗すら知り得ていないなど、子供ですら信じないよ」
「話が逸れてきてるよ。私達ではヒッキーに不釣り合いって、どういう事なの」
「考えてもみろ。片や巨大ゼネコンの経営層に近い位置とはいえ、単なる一般人。片や我が国の未来の国防に多大な影響を与え得る大量の有益な情報と、パイロットとして得難い才能と経験を有する叩き上げにしてトップエリートの軍人。加えて独自に一から航空戦闘団を組織し運用、多大な戦果を挙げた実績と能力まで兼ね備えている。国家規模で見た際に、より重要視されるのはどちらだと思う」
「っ……そう。それが、貴方達の本音なのね」
「どういう……事なんですか? 雪乃さん……」
「小町ちゃん、つまりこの人は……ううん、軍は、国はこう言いたいんだよ。私達は居ようが居まいが困らないけれど、ヒッキーは違う。私達は幾らでも替えが効くけれど、比企谷 八幡はそうではない、って」
「なに、それ……!?」
「まあ、正解だ。より正確に言うと、あんた方は国にとって比較的『どうでも良い』という程度の存在なんだ。日本国民である以上、国としてあんた方を守る義務は在る。しかし、建前……あんた方の言う『欺瞞』を取っ払って言うならば、あんた等の価値など比企谷大尉のそれと比較すれば、塵芥に等しいって訳だ」
「……国防を担う者の台詞じゃないな。国民を守るのが軍の使命だろ?」
「国益を守るのが、だ。圧倒的多数の国民に還元される利益の為ならば、少数に対するある程度の犠牲は許容される。社会に属している者ならば、誰もが知っている真理だろう。口に出す事を忌避しているだけだ」
「それとこれと何の関係が……」
「其処の2人がその犠牲だ。言っただろう、高い社会的地位を持つ人物と並び立つ者には、同じく相応の社会的地位が求められると」
「……だからこそ、私達では『不釣り合い』という訳ね」
「そうだ」
「っ……雪乃さんと、結衣さんが……不釣り合い? そんな言葉で納得しろと?」
「するもしないもあんた方の自由だが、紛れもない事実だ。国としても、そして軍独自としても、あんた方が比企谷『大佐』の傍に立つ事は許容できない。彼の身柄の重要性は、あんた方の比ではない」
「前時代的な発想だわ。価値が違うからといって、引き離す必要性があるのかしら」
「勿論、実務的な理由が在る。あんた方が彼の傍に居ても、我々には何らメリットが無い。それどころかデメリットだらけだ」
「デメリット……」
「あんた等は彼の『弱み』になる。離れているならば未だしも、傍に居られるとあんた方まで守らなければならない。唯でさえ他国から狙われ易いんだ、負担が増す様な事は極力避けたいんだよ」
「その口振りだと、他にも理由が在りそうね」
「あんた方の口から情報が洩れるリスクが在る。何が価値ある情報かなど、あんた等には判断が付かないだろう」
「ヒッキーが話さなければ良いんじゃ……」
「おい、俺だって機械じゃないんだ。たとえ常に気を配っていたとしても、何らかの拍子に情報が洩れる事は十分に在り得るぞ。他国にとってどんな情報が宝となるか、解ったものじゃないんだからな」
「その通りだ。日常的な会話の中にさえ、我々にとっては黄金より貴重な情報が潜んでいる。独占せねばならない情報の山を、幾ら気を付けようとも少しずつ垂れ流しながら闊歩する、我が国にとって至宝ではあるが同時に厄介極まりない存在。それが彼だ」
「漏洩個所は少なければ少ないほど良い。そして私達は、最大にして最悪の漏洩元となりかねない……」
「……結衣の言う通りでしょうね。防諜という観点から見て、私達は極めて脆弱な……詰まるところ、国にとっての急所となる。盗聴か、脅迫か、或いは拉致か。いずれにせよ、国家にとっては看過できない危険要因になるという訳ね」
「そんなのって……」
「概ね正解だ。理解が早くて助かるよ……成る程、敵対者の情報を収集し、それを元に揺さ振りを掛けて内部から瓦解させてきただけの事はある。あんたといい由比ヶ浜さんといい、情報の持つ力は良く知っている様だな」
「……高校の時の経験からだよ。私達はそれを、少しばかり応用しただけ」
「元は向こうが用いた手段だもの。彼等が自分達の用いたそのままの手段で、碌に抵抗もできずに破滅してゆく様は実に滑稽だったわ……それで気が晴れたかと言われれば、そんな事は全くなかったけれど」
「虚しい事だな」
「……今思えば、私達の復讐の過程は不可解な事だらけだった。幾ら雪乃の洞察力が優れているといっても、あんな神懸かり的なタイミングで、あいつ等の脱税や粉飾決算が明るみに出る訳がない。誰かが、裏で私達をサポートしてた」
「おかしいわよね。私達を裏切って他社に寝返ろうとした企画部の社員は、持ち出した情報を何処に流すでもなく蒸発してしまった。奴等の元に持ち込めば、少なくとも億は下らない報酬に化けたでしょうに」
「暫くして行方不明者として捜索願が出されたけど、それもすぐに取り下げられた。おまけにその人の御両親まで行方が掴めなくなってる……」
「悲しい事だ。そういった事態を防ぐ為の国民番号なんだが、未だに年間千数百人が行方不明になっている。残念だが、珍しい事でもない」
「厚顔も此処までくると戦車並ね……貴方の仕業なんでしょう?」
「さあ?」
「……何故、あんな話をしたの。私達が、比企谷くんの隣に立てないだなんて。それこそ、そんな事実は黙ったまま話を進めるべきではなかったかしら」
「確かに、海の連中はそうしていた。だが、それは比企谷大尉が、そしてあんた達が何よりも嫌う『欺瞞』そのものだろう。仕事柄あまり大きな声では言えないが、本来は私も『欺瞞』が嫌いでね」
「諜報員がぬけぬけと……結局、貴方は何者なの? 私達の過去を知っている上に、軍に属しながら私達の個人的な復讐を裏から手助けし、時には敵対者を排除までしている。そんな事を考えるのは、それこそ高校時代に比企谷くんと何らかの係わりが在った人間しか居ないと思うのだけれど」
「思い当たる節が在るなら、そういう事じゃないか? 比企谷大尉、あんたはどうだ」
「諜報員向きの人間なんて、総武に居たか」
「……ヒッキー、雪乃も……ほんとに解らないの?」
「何だって?」
「結衣、貴女……彼を知っているの?」
「気付いたのは、ついさっきだけれどね。居るじゃない、ヒッキーと親しく……とまではいかなくても、理解してくれてたんだろう人が」
「……誰ですか?」
「小町ちゃんは……あまり接点は無かったかな。あの時だって、ヒッキーを救おうとする皆から何時の間にか離れて、そのまま音沙汰も無くなっちゃったし」
「……まさか」
「あの頃から、こんな展開になる事を予見してたのかな。ねえ……『中二』?」
「……中二さん!?」
「うそ……」
「……気付かない訳だ。変わり過ぎだぞ、お前」
「中々に失礼な反応をどうも……ああ、変わり様は自覚してるよ。だが、こうまで気付かれないと悪戯心だって湧くものだろう」
「失礼だって事は重々承知してるが……お前、本当に……?」
「日本情報軍、首都圏情報防衛軍団所属、材木座 義輝。階級は少尉……久し振りだな、八幡」
以上です。
近日中にシドニー編最終話を投下したいと思います。
以下、用語解説となります。
今回は別の神林氏作品からの引用となります。
近日中にシドニー編最終話を投下したいと思います。
以下、用語解説となります。
今回は別の神林氏作品からの引用となります。
【日本情報軍】
日本が保有する軍の一つ。
平時に於いては情報の収集・探査、通信の確保を行い、戦時には情報の攪乱、通信波の妨害、暗号の解析などを主任務とする。
更には平時から暗殺などの超法規的活動も行っており、国家の陰そのものといっても過言ではない。
『情報・通信のプロフェッショナル集団』であり、首都圏情報防衛軍団などの部隊が存在する他、教育機関として情報防衛大が設置されている。
情報探査・伝達手段の研究開発も行う技術部門も存在している。
【首都圏情報防衛軍団】
日本情報軍に属する部隊の1つで、電子戦に於ける最精鋭。
戦時には敵勢力に対する情報攪乱、ネットワークに割り込んでの偽情報発信、味方通信網の確保などを行う。
当然、海軍や陸軍とは別にFAF退役軍人に対する追跡も行っており、比企谷 八幡の持つ価値に気付いた事から身柄の確保に移る。
その作戦指揮官には、若輩ながら既に多大な『戦果』を挙げている、とある少尉が抜擢された。
神林 長平氏
『死して咲く花、実のある夢』より
乙でした
いいキャラ配置だと思う。材木座なら友情に生きてくれると信じたい
いいキャラ配置だと思う。材木座なら友情に生きてくれると信じたい
本気で思いつかなかった……陰薄すぎ!
しかし親友[ピザ]はハッカー、常識だね。
しかし親友[ピザ]はハッカー、常識だね。
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- 八幡「雪ノ下を無視してみる」 (283) - [46%] - 2015/5/8 3:30 ★★
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