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    元スレ志希「フレちゃんがうつになりまして。」

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    51 :

    語りが志希にゃんじゃなきゃとんでもなく暗い話になりそう

    52 :

    凄い面白い。乙

    53 :

    志希にゃんは実在している。
    ぼく、ここで志希にゃんみつけたもん。

    54 :

    やはり>>1は志希にゃんだった……!

    しかし看護が志希にゃんだけってのが辛いな、清良さんあたりの助力が欲しいところ

    55 :


     フレちゃん観察記10日目。

     神経系用剤パキシル10mg。1錠。
     抗不安剤ソラナックス0.4mg。3錠。
     睡眠導入剤レンドルミン0.25mg。1錠。
     消化管運動促進剤ガスモチン5mg。3錠。

     投薬治療の影響かフレちゃんは起き上がってシャワーを浴びたりとか歯を磨いたりとかの必要最低限の生活はできるようになった。
     支離滅裂な会話(元々でしょ、という指摘はシツレーすぎるよ、きみぃ)は治まり今では簡単なコミュニケーションならとれる。
     あの一晩の出来事がよほど気になってたのか、あたしの顔を見るとごめんね、ごめんね、もうしにたいよぉ、しか言わなかった頃に比べればこれは月面着陸並の偉大な一歩。地球は青かった。あ、それ別の人か。
     そんな偉大なフレちゃんでもお外には一歩も出たがらない、んや、出られないが正しいかな。
     だから、お使いは徘徊癖、ごほん、お散歩が趣味のあたしにおまかせあれー。

    「ふんふんふん」

     流行り廃りがはげしくて、日々目まぐるしく移り変わるコンビニの商品棚を眺めるのはキライじゃない。飽きないから。
     下調べしておいたブランドのヨーグルトを手にとって裏面をじっくり観察する。フレちゃんの身体に入るものに万が一があっちゃいけないから。
     だってフレちゃんはお薬の副作用とも闘うことになるのだ。薬が切れたときを考えて、負担をなるべくでも減らしてあげたい。
     成分に問題ないことを確認してから、買い物カゴに放り込む。

    「ヨーグルトーチョコレートーポカリスエットー♪」

     それとバナナ。最近は固形のものもイケるようになった。
     うつ病にはバナナがいいらしい。それとできれば日光浴と適度な運動なんだけどそれにはまだ早いかなー。
     それにしてもバナナを食ながらうっきーって炎天下のジャングルを駆け抜ける猿にもうつ病があるっていうんだからおもしろいよねー。
     猿でもなっちゃうんだからフレちゃんでもなっちゃうよねー。いや、フレちゃんでもなるんだから猿でもなる? むむ、どっちだろう。
     そんなことを考えてたら、えーフレちゃんお猿さんと一緒? 宮本サルデリカ? なんて脳内のフレちゃんに怒られた。にゃはは、ごめんごめん。
     よーするに猿でもペンギンでもネコでもフレちゃんでも、もしかしたらあたしでも? 誰にでもなっちゃうかも知れないんだから仕方ないよねーって事を言いたいのだ。ま、そんな弁解でどうにか機嫌を直してよ。

     ふと、レジに向かう途中で新聞の一面記事の見出しが目にはいった。
     そこには随分と見覚えのある顔が掲載されていた。
     うん、まぁ、てゆーか、あたしだけど。

    『レイジー・レイジー 大舞台でドタキャン! 突然の活動停止 その真相は』

     あーまぁそうなっちゃうよねー。これもまー仕方ない。
     少し興味が沸いたから新聞をめくって内容を追ってみる。

    56 :

    雑談スレでもちらっと挙がってたけど、このキャラの書き方は総選挙SSの作者か
    こっちも素晴らしいが、向こうのも最後まで見たかったよ

    57 = 55 :

     なになにー。

     お騒がせコンビがまたやらかした。一ノ瀬志希と宮本フレデリカの人気ユニット、レイジー・レイジーは先日報道陣の前で活動停止を宣言した。
     この2人の素行は兼ねてより問題視されておりそれが魅力のひとつでもあったのだが──。ちゅーりゃく。
     なおライブや記者会見に宮本は一度も姿を見せなかったことから宮本になにかしらの原因があるのではないかと専門家は指摘している。
     騒動ののちに、宮本は通っている短大に一度も出席しておらず学業に集中する、という名目は建前であるという見方が妥当だろう。
     ファンの一人は語る。「フレデリカちゃんは気分屋ですし、しばしば人の気持ちを考えてないんじゃないかという行動をとることがあります。その性格が災いして事務所や営業相手とトラブルを起こしたのでは」
     男性問題やユニットの不仲説も囁かれおり、真相はいまだ闇の中だ。なお事務所はいまだ沈黙を貫いてる。

     ふんふん。
     なるほど。

     好き勝手、書いてるなぁ。

     ファンのきみ、が本当かどうかは知らないけど。一言だけ。
     フレちゃんが気分屋なのは否定しないとして人の気持ちを考えない、という点に関してはいささか見当違いというものだ。

     フレちゃんは人を楽しませることに関してはとてもとても上手なのに、こと悲しませたり怒らせたりすることに関しては絶望的に下手っぴなのだ。
     あれはいつだったかなー。奏ちゃんに誘われてみんなで映画を観に行ったとき。チケットを買うときに窓口で奏ちゃんが学生3枚って言ったんだけど。

    「えー奏ちゃん一般料金でしょー。年齢詐称はよくないよー」

     そんなことをフレちゃんが言ったものだから奏ちゃんが「高校生に見えなくて悪かったわね」ってそっぽ向いちゃったとき。

     もちろん拗ねちゃったフリで、本当はちっとも奏ちゃんは機嫌を損ねてなかったんだけどね。
     フレちゃんは途端にあれあれ、奏ちゃんもしかして怒っちゃったかなって、ひょこひょこと奏ちゃんの顔をのぞかせて。あたふたしてから。

    「ねねっほらほら手品してあげるから機嫌直してよー。はーい手を出してー。握ってー。はい、奏ちゃんの手にいつのまにか飴玉がー。フレちゃんマジック~」なんて、とうとう奏ちゃんを根負けさせて吹き出させるまで粘ったんだよね。

     フレちゃんはみんなを上手にいじることはできるのに嫌がらせはできない、とても器用で不器用子なのだ。


     そんな器用で不器用なフレちゃんは、自分が心の病気だと知られることを何よりも怖がってる。
     症状を周囲に隠したがるのは典型的な心理傾向らしいんだけど、特にフレちゃんはその気持ちが強かった。
     せめて両親には伝えたほうがいいんじゃないのか、という事務所の打診にもけっして首を縦に振らない。

    「心配、かけたく、ないから。パパとママに元気な、フレちゃん見せなきゃ」

     あたしはその言葉に対応する言葉を持ち合わせていなかった。 

     さ、帰ろっと。新聞をとじて、あえて一面が隠れるよう裏向きに置き直しておいた。
     これぐらいは18歳のふつーのJKがするささやかなイタズラとして大目に見ていただきたい。

     あたしが新聞を裏向きに置いたことでコンビニのお客さんの購買意欲が下がり新聞の売り上げが減って日々のノルマは達成できずに記者のおでこにデコピンが飛ぶ。
     風が吹けば桶屋が儲かる。バタフライエフェクト。かくして仕返しはフレちゃん本人も知らぬ間に実行されたのだ。なーんてね。にゃはは

    58 = 55 :

    また明日

    59 :

    ああ総選挙の人か。言われてみれば、なるほどという印象。
    地の分で1マス開けているところも同じだし

    60 :

    あまりそういった書き込みはしてやるなよ...

    61 :

    パフュームトリッパー志希にゃんとTulipフレちゃんをまとめて親愛度上げしてる自分にはタイムリーなスレ
    すごく丁寧で面白いので支援!

    62 :

    正直めっちゃ面白い
    愛がこもってる

    63 :

    イッチに志希にゃんが乗り移ったかのようだ、めっちゃ面白い

    64 :

    先が見えなくて不安だな

    66 :

    中々ヘヴィな話で先が強いけど楽しみだ

    67 :

    >>1
    総選挙SSは本当に良かった

    アイドルの深層にああいった形で迫るのは本当に上手いなぁと感動した

    ゆっくりでいいので、俺が死ぬまでにはこの話書き終えて下さい

    68 :

     フレちゃんはよく雨の日に体調を崩した。

     あたしは雨の日にしか発生しないペトリコールを嗅ぎたくて、わざわざ外へ出ることがある。
     人が生活するうえで発する色々なにおいが混ざり合って融けて、オゾンまで立ち昇って。
     そのにおいの集合体をまたあたしたちの住んでる世界まで落としてくれる雨はすきな方だ。
     それでも今だけは降らないで欲しいかな、って思う。雨はふつー人の心を沈ませるのだ。

     本日、あたしたちの地域でも180mlの降水量が観測。
     フレちゃんは牛乳瓶まるまる2本分の涙を流した。

    「アタ、シ悲しくないはずなのに、なんでこ、んな悲しいんだろー……」
     
    「にゃはは、悲しくないのに泣けちゃうなんてフレちゃんは千両役者だねぇ。きっといつかドラマに女優として抜擢されるよー。 ……あっ」

    「ふっ……ぐすっ……どう、したの、シキちゃん」

     かちん。ドラマ。
     そのワードで頭の片隅に引っかかってた記憶のピースがたまたまハマった。
     そーだそーだ、そういえばすっかり忘れてたにゃあ。
     まぁ忘れるくらいだったらどーでもいいことなんだろうけど一度思いだしてしまうとそれはそれで気になってくる。
     月9のドラマの結末。

    「フレちゃん気分転換にDVDでも観よっかー」

     それからあたしはDVDを借りてきて、プレーヤーにセットした。
     取りだすときに元々挿入されてたのはレイジー・レイジーのライブ映像。見せないように隠しておく。
     映像が始まる。フレちゃんはちゃんとストーリーを理解できているのかいないのか、ただひたすらぼんやりと画面を見つめていた。

     涙あり笑いありの活劇が終わる。
     熱血漢の主人公と心根が優しいヒロインの絆は幾多の困難を乗り越えて永遠になった。
     邪魔をしていたどこまでも利己的な悪役は成敗されましたとさ。めでたしめでたし。
     ふむむ。ありふれた王道とゆーやつだ。まぁ王道は人を惹きつける確固たる由縁があって王道なんだからべつに否定するつもりはにゃい。

     それでも。
     ふわぁ。欠伸がどうしても出ちゃったのはドラマが退屈だったせいなのか、最近は3時間くらいしか寝られてないせいなのか。
     ゆっくりと瞼が落ちてきて、意識の境界が曖昧になってくる。
     ぐっないしーゆーとぅもろー。
     おやすみなさいまた明日。まだ昼間だけど。

    69 = 68 :


     ──。

     生活自体にはこれっぽちも不満はなかった。

     海外の大学へ飛び級させるくらいの資金援助と教育を受けて、欲しがれば何でも与えてくれて。
     そんな裕福な家庭に産まれついておいて不満があるといったらそれはあまりに強欲というものだろう。
     きっとあたしは選ばれた揺りかごに託された子供だ。
     だからあたしは一度も文句を言ったことはないし、出自を呪ったこともない。

     それでもたまに、本当にまれに、どうしても思ってしまうのは、許されることなのだろうか。

     あたしはあなたの名づけた“希望を志す”という期待の通りに、あなたの志したあらゆる希望にもお応えしました。

     それなのに──。

    「……キちゃん、シキちゃん」

     体を揺らされて、意識が戻る。ドラマはエピローグまでとっくに終わっていて、真っ暗な画面が映っていた。
     ありゃ、いつのまにかぐっすり寝ちゃってたかー。
     なにかとてもみじかい夢を見てた気がする。なんの夢かにゃ?
     そろそろデフラグが必要なごちゃごちゃっとした記憶を探してみる。まぁついつい整理ってし忘れちゃうよねーっていうかまぁ、したことないけどね?
     んん~、思いだせない。
     まぁ忘れるくらいならどーでもいいことなんだろうし、きっともう探してもなくて、探す気にもなれない。

    「どしたのー、フレちゃん、暇になっちゃった?」

     眠気まなこを擦って、プレーヤーの電源を落とす。
     フレちゃんはちょっとでも楽しめたんだろーか。

    「包、丁、どこにあるの。 シ、キちゃんどこかにしまった?」

    「ん?」

    「あたし、お菓子作り、したい」

    70 :

    なんていうか、ほんとぐっとくるわ

    71 = 68 :

     侵略行為がほぼ完了していた即席ラボを片付けて、本来そうであるはずのキッチンのフォルムにもどす。

    「フンフンフフーンフンフフー……」

     フレちゃんは鼻歌を混じらせながら、戸棚に封印していた包丁や野菜の皮むき器をずらりとステンレスの上に並べる。
     あたしは椅子を逆向きにして座って、ペンを利き手でくるくる回しながらフレちゃんの若干おぼつかない手つきを眺める。
     きっと、いい兆候なんだと思う。また趣味に興味を寄り戻すことは回復の兆しが少しでもあるということだし、お馴染みのフレデリカソングも久々に聴いた。
     なにより、フレちゃんのお菓子がまた食べられるのは嬉しかった。あたしは、もしかしたら手首に刃物が向けられるかも、という万が一のリスクを承知でフレちゃんに包丁を渡した。

     フレちゃんはアップダウンのある曲よりも、一定のペースで繰り返される音を好むようになった。
     自分の曲(き・ま・ぐ・れ☆Cafe au lait!)は心がざわざわして落ち着かなくなるといってから、一度も聴いていないみたい。
     フレちゃんはおなじ鼻歌をひたすらひらすら繰り返す。

    「フンフンフフーンフンフフー……シキちゃん、な、に食べたい?」

    「えーなんでもいいよーフレちゃんが作るものなら何でもおいしくぺろりとたいらげちゃうよー、あーでも脳に糖分が欲しいからとびきり甘いものがいいかな?」

     カフェ・オ・レを甘くして。なんちゃってー。
     
    「うぅん……」

     フレちゃんは、ケーキナイフを手にとる、かと思えば首をかしげて代わりにフォークを握り直したら思ったらまた置いちゃったり。
     あれでもないこれでもないと確認するようにしながら作業を進める。
     あたしはいざという時のために左手だけは暇をつくっておいて、フレちゃんの様子をこっそりとレポートした。

     5時間かけて、小さなちいさなカップデザートが2つ完成した。
     もう夜だけど、3時のおやつということにしとこーか。カラメルのかかったふわふわの……。

    「フレちゃん、これは焼きプリンかな、ブリュレかな?」

    「ん、わかんない」

    「そっかーわかんないかー。まぁどっちでもいーよねー、いただきまーす」

     スプーンですくって、とろとろした名称未設定の半固形物を口にふくむ。
     舌のうえでふるふる震えて、やわやわ溶けていって。
     味がじんわりと広がる。

     むむむ、これは……!

    72 :

    引き込まれるわ

    73 = 68 :

    「シキちゃん、どう、かな?」

    「んー、前衛的だねー! 柔軟剤使った?」

     デザートの常識を覆すその風味!
     甘そうな見た目だけで判断するとケガするぜと言わんばかりに、鼻にモーレツな辛みが突き抜ける!
     フレちゃんは昨今の型にハマって小さくまとまりがちなパティシエ業界に対して挑戦状を突きつけたのだ!
     その野心に星みっつをささげよー! 以上が志希ちゃん審査員個人の判定。

     ふむ。ケミストの立場で判断させてもらうと「C12H22O11」と「NaCl」の配合が多分逆になってるねこれ。

     簡単にいえば、フレちゃんは砂糖と塩をまるきり間違えてしまったのだ。

     笑顔を浮かべながら前衛的デザートをまた口に含む。
     にゃふ。あたしの意志に反して体はどうしてもH2Oを欲しているみたいだ。

    「アタ、シ」

     ぽたり、とフレちゃんのカップデザートに液体が落ちた。

    「アタシ、どー、しちゃったんだろ、どーして、こんなんになっちゃったんだろー……」

     ぽたり、ぽたりと液体が落ちる。

    「こ、んな簡単なお菓子作るのに5時間、もかかって、簡単に作れたはずなのに、なにも、わけ、わかんなくて」

     カップケーキに水たまりができる。
     涙の原料は血液と同じで。
     だから涙は透明な血液なんだと定めるとすると。
     フレちゃんはいま、大量の血を瞳から流している。

    「お仕事もいけなくて、なん、でこんなあたまおかしくなっちゃったんだろー……」

     この病気はアーチを描くように治癒していくわけじゃなくて、振り子だ。
     感情の振り子が右へ左へと大きくおおきく揺れ動いていって、だんだん振り幅が少なくなって、ゆらりと止まる。
     普段とのギャップがある人ほど、振り幅は大きくなって、元気な自分と比較してしまい苦しむ、らしい。

    「んーまぁいいんじゃなーい。今くらいはお互い休んでだらだらしよーよ。世界一の先進国のアメリカでは年々ヒッピーが増加傾向にあるっていうしさー、日本の労働時間は他国からすれば異常だっていうさー、そもそもあたしたちレイジー・レイジーだしー、にゃはは」

    「シ、キちゃんは、すごいなぁ、えらい、なぁ」

    「すごい、えらい? なんで?」

    「あたまがアタシの何倍も何十倍もよくって、なんでもできて……」

     うーん。そうかなぁ。
     人間性の優劣は別に知識の蓄積量で決まるわけじゃない。
     文字すら読めない愚者だと言われていた人間が川で溺れている見知らぬ子供を助けることもあれば、あらゆる知識を身につけたと言われる賢人が影では今にも餓死しそうな子供の前を平気で素通りすることもあるのだ。
     あたしはもし友達になるんだったら、前者の人のほうが面白そうだし楽しそうだ。
     なんてことを気まぐれに主張してみたら、それはシキ、きみが美貌も感性も頭脳もすべて兼ね備えた人間だから言えることなんだよ、強者の余裕というものさ、って、あだ名がある日からプレイボーイになったカレに言われたけど。

     フレちゃんは、涙がトッピングされたカップデザートを口に含んだ。
     あぁ、もうフレちゃん日本人はただでさえソイソースの摂取しすぎなんだからそれを食べちゃったら塩分過多でばたんきゅーってなっちゃうよ。
     む、フレちゃんはぼんやりとした表情を変えずに1口目を終えて、また2口目を口に運んだ。その無機質な行為に違和感。

    「ねぇ、シキちゃん」

    「……ん、なにかな?」

    「これって、おいしいのかな、どうなのかな」

    「どうって」

     それって久々のフレちゃんジョークかな、と言いかけて、やめた。違和感の正体がわかったから。
     あたしは食事中にゴメンねと心で謝りながら付箋にペンをはしらせる。

    「シキちゃん、それなん、て書いてあるの」

    「んーただのラクガキだよー。特に意味はにゃい、にゃはは」

     味覚障害。

     フレちゃんは味を楽しむという喜びすら完全に失っていた。
     あたしに真心があるかという検証結果は、まだもうちょっと先延ばしになりそうだ。

    74 = 68 :

    これで半分くらいだと思います
    もし深夜にまた書けたら

    75 :



    地の文苦手なのに何故か凄く惹き込まれる
    なんていうか凄い、凄いという感想しか出てこないぐらい凄い(語彙貧弱感)

    76 :

    乙です!
    楽しみにしてます

    77 :

    あぁ、総選挙の人か

    78 = 68 :

    >>73
    修正
    カップケーキに水たまりができる。

    カップデザートに水たまりができる。

    ケーキじゃないですねすいません

    79 :


    これフレちゃん快方に向かってるんだろうか……

    80 :

    >>79
    本文にもあるように波がある病気だから一概にどうとは言えない
    もう日常に戻れるように見えたと思ったら揺り戻しでドカンと来たりするし

    81 :

    オーバーじゃなくうつ病になるとほんとにこんな感じになるからな

    82 :

    フレちゃんのカメフトンとか心が痛むなぁ…

    83 :

    総選挙のssってどんなやつですか?

    84 :

     フレちゃん観察記35日目。

    「ふんふんふん。リモネン、イオノン、リナロ~ル~」

     すっかり手癖になった特製ラベンダーの香りを試験管で合成する。
     もうなんの驚きも発見もないただの作業だ。
     それでもこのにおいが副交感神経を高めていることを期待して行為を続ける。
     と、指先がかすかにふるえて中身の液体がこぼれた。液体はじゅっ、という小さな音をならして気化する。
     あぶないあぶない。フレちゃんがもしまたお菓子を作りたいと言ったときのためにここはいつでも清浄にしておかなきゃいけない。

    「む、」

     手のひらで額を受け止める。
     人間の脳は出口のない迷路に耐えられるように設計されていない。
     好調と不調を繰り返す、まるで目処の立たないフレちゃんの容体に、あたしの細胞はどうしても疲労を感じてしまっているらしい。
     それでも、明日も明後日もひとりだけのラボメンしかいないこの研究所を開業しつづけなきゃいけない。
     フレちゃんはきっとあたし以上の大迷宮で迷い続けているのだ。
     
     はた、と考える。

     あたしはどーしてフレちゃんの看病をここまで飽きずに続けてるんだろーか。
     もちろんフレちゃんはユニットのパートナーだけど、それとあたしの興味への持続性については安直に結び付かない。
     なんの意味も得られないかもしれない行為を楽しんでやるのはただのヘンタイだ。いやヘンタイごっこは楽しいけどね。
     ハスハスあぁもう生命の危機に瀕した生物から発せられるフェロモンを吸ってトリップしちゃうのたまんない~はぁ~ん~。
     うん、ゴメンまじめに考えよっか。
     
     事務所の危惧してることよろしくフレちゃんを人体実験して遊んでるんだろーか、あたしは。
     んー、たぶんちがう。

     昔から玩具を組み立てること自体にそれなりの愉悦を感じることはあったけど、生憎あたしには玩具をわざわざ分解して崩れていくさまを観察することに悪趣味な快感を覚えるようにはできていなかった。
     どんなに欲しがってたものでも完成させてしまえば、お宝もがらくたも等価値としか思えない。あたしの興味はぱったり終わる。

     まぁフレちゃんは玩具じゃないし、幸いに玩具扱いする気にもなれない。
     はて、それじゃあフレちゃんは、あたしにとってのなんなのかな?

     不意に、電話がなった。
     
     もしもし一ノ瀬です。現在この電話は所有者の気まぐれにより使われておりません。ご用件のある方はにゃーという発信音のあとに……。

     うそつけっ! というツッコミが電話口から聴こえた。
     にゃはは、事務所からの電話だってわかってたからふざけてみただけ~。いつもはちゃんと出るよ、ほんとほんと。
     
     電話の内容は、2人に何かあったんじゃないかとみんなが心配しているから、そろそろせめて顔だけでもだしてくれないか、という旨だった。
     
     ふむ、たしかに事務所に一度も姿を見せないのはとても不自然だ。そしてなによりもう1ヶ月以上も部屋に缶詰状態なのはすーぱー不健全。
     そろそろ気分転換に外に出ることを提案してみようかと思ってたとこだから丁度いい。

     無理ならいいんだけど、という前置きでフレちゃんにそのことを伝えてみると。

     フレちゃんは、こくりと頷いた。

    85 = 84 :

     ……。

     物事ってゆーのはなんやかんや勝手に収束していくもので。
     1ヶ月ぶりの事務所は、レイジー・レイジー活動停止騒動なんてのがあってもちゃんと何事もなく機能していた。
     まぁこの事務所を揺るがすくらいの影響力があるユニットがあれば見てみたいけど~。
     んにゃ、みんなが頑張ってくれてるから影響が少ないっていうべきかな。うん、ありがとー。

    「ままっ、パパパッーと挨拶だけしてさ。多忙な学生っぽいスタンスとってとんずらしちゃおーよ。参考書でも抱えてくればそうっぽかったかなー、ね」

    「あっ、う、うん。そうだね、あいさつ、あいさつ」

     フレちゃんは帽子を深々とかぶって、廊下のはしっこを選んで歩く。
     手は常に胸の前にあって、そわそわと組み直したりしてちっとも落ち着かない。
     強い不安を感じているときの動作。
     フレちゃんは自分の病気が知られることをとても怖がっていて、それでも宮本フレデリカのイメージ通りの姿を自分自身なのに維持できなくて。

    「は、はーい。フレちゃん、だよー」

     無理やり形づくった歪んだ、笑顔のような何かだった表情があたしにだけちくりとどこかに刺さった、気がした。


     あらフレちゃんに志希じゃない。久しぶりね。また楽しめそうな映画を探してきたのだけれど一緒にどうかしら。

    「あ、そ、そうだね。映画。映画いいよね。映画っていいよね」

     おー久々やん。団子食べる? いやーお2人さんがいなかったから事務所は寺みたく静かだったわー。

    「あー、その、お団子、だけどごめ、ん。いまはちょっと。んーん。すき、なんだけど」

     げっ。じゃなかった、あはは、やっほー★ おっその帽子イケてんじゃん。それにしてもレイジー・レイジーはいつも突然ビックリするようなことするよねー。

    「ごめんね、驚かせてごめんねごめんね、えっ、そんな謝らなくていいって、うん、ごめ、ん」

     あたしから見ればあきらかに異常だったフレちゃんの言動は、多少訝しがることがあっても誰もその正体には気付かなかった。
     仕方ない。そーゆーものなのだ。弁解するわけじゃないけど、あたしだって最初は気づけなかった。
     だれにもちょっとは落ち込むときはあるし体調が優れないときだってある。たんなる風邪だってなかなか見破れないものなのだ。
     ましてや脳内伝達物質が異常を起こしてるなんて、見破れるはずがない。本人が隠し通そうとしてるなら尚更。

     だから。

     先に断らせてもらうとなにも彼女は悪くないから責めないでほしい。

    「おーお久しぶりですっ! 志希さんっ! フレデリカさん! 燃えてますかー! ファイヤー!」

     まるでその病気とは無縁そうな(という仮定はやっぱり取り下げておく)語尾にいつもエクスクラメーションマークをつけてる彼女が現れて。
     体育会系バリバリの90度のお辞儀をして。

    「いやー学業に集中するために休養するなんて本当にお2人は立派ですねー!」

     ちょっと、いまのフレちゃんにはキツい言葉をかけたとしても、それは許してほしいのだ。

    86 = 84 :

    また明日

    87 :

    茜ちんにPaPの毛髪ほども悪意がない事なんて分かりきってる事だよなぁ
    それでも間が悪いってのは往々にあるから辛い

    88 :

    美嘉の「げっ」は何だ?
    レイジーレイジーが苦手だとか?

    89 :

    おつおつ
    ここで茜やガンバリマスマシーンに合わせるのはあかんでぇ…

    90 :

    >>88
    デレステのコミュ由来じゃない?

    92 :

    おもしろいんだけど

    93 :

    茜ちんに会ったらヤバそうだなーと思ってたらまさかの遭遇
    ええい、大人組はまだか!

    94 :

    おつつ
    孤立無援で看護とか、志希の負担も尋常じゃないな


    >>89
    ガンバリマスロボさんはアニデレのような試練を経たあとなら問題ないかな
    フレちゃんの誰にも知られたくないって感情に最も共感できるアイドルの一人だと思う

    95 :

    「どんなときでも一直線に全力アターーーーック! いいと思います! 元気があればなんでもできる! ド根性です!」

     あぁ、もう。
     だめ、なのだ。
     それはだめ。

    「私は応援しますよーっ! 頑張ってください!」

     どこまでもポジティブに物事を考えたフレちゃんは。
     今ではどこまでもネガティブに物事を考えてしまうから。
     ちょっと今、フレちゃんは脳内でエラーを起こしてしまってるから。

    「あれあれっ?! どうしたんですかっ! なんだかいつものフレデリカさんらしくないですね! イメチェンというものですかっ?!」

     「頑張れ」も「らしくない」もいけないのだ。
     フレちゃんはその言葉がいちばんこたえてしまうのだ。
     フレちゃんは精一杯、頑張ろうとして、らしくあろうとして。でもだめで。

     日野茜ちゃんの本来善意100%の励ましの言葉をうけて、フレちゃんの瞳が、肩が、唇が、心臓が、脳が、ぐらぐら揺れる。

     次の言葉がきっかけだった。

    「フレデリカさんっ! 人と話すときはっ! 目を見て喋りましょうっ!」

    「……っ……!」

     フレちゃんはぐらぐらの瞳に涙をいっぱいに溜めて、突然振り向いて駆け出した。

    「私の燃える瞳……おぉっ?! 夕日に向かってダッシュですねっ!」

     これはちょっとマズいかもしれない。あたしもすっかり怠けきった体に鞭打ってフレちゃんの後を追おうとする。
     踵をあげる。ぐらり。重心が崩れて足がもつれた。

    「にゃっ」

     廊下とにらめっこしそうになる。すんでのところで手をついた。
     あちゃー疲労のせいかー。どこまでもタイミングが悪いねー。
     体を起こすと、すでにフレちゃんの姿はなかった。
     それでも足を前にだす。廊下の角を曲がる。いない。
     むむむ、フレちゃんはどこにいったんだろ。
     フレちゃんを見かけたらあたしの携帯電話まで。番号は090……ぴー。こじんじょーほーほごほー。

     あたしが探すしかないか。

    96 :

    ここまで一気に読めた 志希にゃんフレグランスを感じる

    フレちゃんどうなってしまうんや……助けてやってくれしまむー……

    97 :

    つーか総選挙の方は依頼出すかなにか意思表示したら?
    あのまま放置は流石に作者としてアカンでしょ

    98 :

    まず本人かどうか
    そんでなんでそんな偉そうなのか

    99 :

    >>97
    総選挙の作者じゃないかもしれないだろ?
    >>1はなにもかも言ってないし

    100 :

    別に本人でも書くのは読者じゃないんだし好きに書かせてあげようよ…


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