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元スレ魔王「お前、実は弱いだろ?」勇者「……」
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勇者「どうした? みんな。早く行こう!」
「魔物が勇者を避けていく……勇者の力がこれ程に強いとは!」
「ウキキ!」
「ふふふ」
SSWiki :http://ss.vip2ch.com/jmp/1453117792
「魔物が勇者を避けていく……勇者の力がこれ程に強いとは!」
「ウキキ!」
「ふふふ」
SSWiki :http://ss.vip2ch.com/jmp/1453117792
# 一番目の国、城
王「先代の勇者が魔王討伐の為この国を発って十余年。未だ魔王は倒されてはおらぬ。
それどころかこの界隈でも魔物たちの力は強大になっていくばかりだ。
勇者よ。魔王を倒し、再びこの世界に平和をもたらしておくれ」
勇者「はい。では、行って参ります」
# 勇者の自宅
勇者「じゃあ、行ってくるよ。母さん」
母「必ず生きて帰ってくるんだよ。お前まで――」
勇者「わかってる。それに、父さんはまだどこかで生きている、なんとなくだけどそんな気がするんだ。
心配することはないよ。行ってきます」
王「先代の勇者が魔王討伐の為この国を発って十余年。未だ魔王は倒されてはおらぬ。
それどころかこの界隈でも魔物たちの力は強大になっていくばかりだ。
勇者よ。魔王を倒し、再びこの世界に平和をもたらしておくれ」
勇者「はい。では、行って参ります」
# 勇者の自宅
勇者「じゃあ、行ってくるよ。母さん」
母「必ず生きて帰ってくるんだよ。お前まで――」
勇者「わかってる。それに、父さんはまだどこかで生きている、なんとなくだけどそんな気がするんだ。
心配することはないよ。行ってきます」
# 町の教会
勇者(女神様、どうか無事に旅が終り世界に平和が訪れますように……)
僧侶「あ、勇者! まだこんなところで油売ってたの?」
勇者「うわ! びっくりしたー。なんだ、僧侶か」
僧侶「ふふ、旅の無事でも祈ってたのかしら」
勇者「どうだって良いだろ。僧侶には関係ないよ」
僧侶「関係あるわよ。私も一緒に行くことにしたの!」
勇者「あのなあ、僧侶は昔から頭が悪いとは思ってたけど……そんなこと王様が許すわけないだろ?」
僧侶「それがなんと! もう王様にも神父様にも許可は貰ってるんだなあ」
勇者「神父様! こんなことって……!」
神父「神託があったのだよ、勇者君。君には、なるほど魔王を打ち負かすだけの可能性が秘められているかもしれない。
しかし、どんな花だって水や光がなければ枯れてしまうように、君一人では成し遂げられないことだってあるはずだよ」
勇者「……」
僧侶「何、ぼけっとしてんのよ! ほらほら行くよ!」
勇者(女神様、どうか無事に旅が終り世界に平和が訪れますように……)
僧侶「あ、勇者! まだこんなところで油売ってたの?」
勇者「うわ! びっくりしたー。なんだ、僧侶か」
僧侶「ふふ、旅の無事でも祈ってたのかしら」
勇者「どうだって良いだろ。僧侶には関係ないよ」
僧侶「関係あるわよ。私も一緒に行くことにしたの!」
勇者「あのなあ、僧侶は昔から頭が悪いとは思ってたけど……そんなこと王様が許すわけないだろ?」
僧侶「それがなんと! もう王様にも神父様にも許可は貰ってるんだなあ」
勇者「神父様! こんなことって……!」
神父「神託があったのだよ、勇者君。君には、なるほど魔王を打ち負かすだけの可能性が秘められているかもしれない。
しかし、どんな花だって水や光がなければ枯れてしまうように、君一人では成し遂げられないことだってあるはずだよ」
勇者「……」
僧侶「何、ぼけっとしてんのよ! ほらほら行くよ!」
# 町の外
勇者「あーあ。折角気楽な一人旅ができると思ったのに、よりにもよって口うるさい僧侶と旅立つことになるなんてな」
僧侶「そんなこと言って、ホントは一人で寂しかったんじゃないの?」
勇者「万が一寂しかったとしても、必ずしも僧侶と旅をした方が良いってことにはならないだろ?」
僧侶「ふーん……。まあ、良いけど。それにしてもこの辺りは魔物が全然いないわね」
勇者「最近はずっとこの辺で修行してたからな。当然だよ」
僧侶「頼りにしてるよ」
勇者「あーあ。折角気楽な一人旅ができると思ったのに、よりにもよって口うるさい僧侶と旅立つことになるなんてな」
僧侶「そんなこと言って、ホントは一人で寂しかったんじゃないの?」
勇者「万が一寂しかったとしても、必ずしも僧侶と旅をした方が良いってことにはならないだろ?」
僧侶「ふーん……。まあ、良いけど。それにしてもこの辺りは魔物が全然いないわね」
勇者「最近はずっとこの辺で修行してたからな。当然だよ」
僧侶「頼りにしてるよ」
# 森の入り口
僧侶「ねえ、もう疲れたよお。今日はどこまで行くの?」
勇者「そうだなあ。いくら魔物が出ないとは言え夜の森は危険だし、今日はこの河原で野営しようか」
僧侶「じゃあ、私寝るところ準備するね! 勇者は薪になりそうな木を拾ってきて」
勇者「お、おうよ」
僧侶(なんだかこういうのってすごく懐かしいなあ)
…………
勇者「おーい、これくらいあれば足りるかな?」
僧侶「ふむ、ご苦労であった。楽にしてよいぞ」
勇者「何様だよ」
僧侶「私は勇者様のお供の大僧侶であるぞ!」
勇者「……ぷ、ははははは。お前はホント子供の頃から変わらないな。さあ、飯を作るから火を点けてくれよ。もう腹ペコだよ」
僧侶「ふふ。了解!」
僧侶は右手に魔力を溜めると勇者が集めてきた木の枝に向けて放った。
勇者「ちょっと水を汲んできてくれないか」
僧侶「はーい」
…………
勇者(ふう、そういえばあの時もこんな感じだったっけ……)
僧侶「持ってきたよお! 全く女の子に力仕事させるなんて、腕が太くなっちゃったら責任取りなさいよ」
勇者「ばーか。僧侶の腕なんて誰も気にしないって」
僧侶「はあ……。昔はあんなに優しかったのになあ」
勇者「はいはい。水が沸いたらもう食べられるからな」
僧侶「もう……あ、でもさあ、こうやって外でキャンプするのってあの時以来だよね」
勇者「うん? えーと……ああ、そんなこともあったっけ。よく覚えてないや」
僧侶「私ははっきりと覚えてるけどなあ。私が教会の子と喧嘩して町を飛び出したんだよ。
そしたら迷子になっちゃって。一人で泣いていたところに、勇者が来てくれたんだよ。
あの時、私に言ってくれたこと――」
勇者「おお、飯できたぞ! 明日は早いから食ったらすぐ寝るぞ」
僧侶(……どっちが子供なんだか)
僧侶「ねえ、もう疲れたよお。今日はどこまで行くの?」
勇者「そうだなあ。いくら魔物が出ないとは言え夜の森は危険だし、今日はこの河原で野営しようか」
僧侶「じゃあ、私寝るところ準備するね! 勇者は薪になりそうな木を拾ってきて」
勇者「お、おうよ」
僧侶(なんだかこういうのってすごく懐かしいなあ)
…………
勇者「おーい、これくらいあれば足りるかな?」
僧侶「ふむ、ご苦労であった。楽にしてよいぞ」
勇者「何様だよ」
僧侶「私は勇者様のお供の大僧侶であるぞ!」
勇者「……ぷ、ははははは。お前はホント子供の頃から変わらないな。さあ、飯を作るから火を点けてくれよ。もう腹ペコだよ」
僧侶「ふふ。了解!」
僧侶は右手に魔力を溜めると勇者が集めてきた木の枝に向けて放った。
勇者「ちょっと水を汲んできてくれないか」
僧侶「はーい」
…………
勇者(ふう、そういえばあの時もこんな感じだったっけ……)
僧侶「持ってきたよお! 全く女の子に力仕事させるなんて、腕が太くなっちゃったら責任取りなさいよ」
勇者「ばーか。僧侶の腕なんて誰も気にしないって」
僧侶「はあ……。昔はあんなに優しかったのになあ」
勇者「はいはい。水が沸いたらもう食べられるからな」
僧侶「もう……あ、でもさあ、こうやって外でキャンプするのってあの時以来だよね」
勇者「うん? えーと……ああ、そんなこともあったっけ。よく覚えてないや」
僧侶「私ははっきりと覚えてるけどなあ。私が教会の子と喧嘩して町を飛び出したんだよ。
そしたら迷子になっちゃって。一人で泣いていたところに、勇者が来てくれたんだよ。
あの時、私に言ってくれたこと――」
勇者「おお、飯できたぞ! 明日は早いから食ったらすぐ寝るぞ」
僧侶(……どっちが子供なんだか)
# 翌朝
勇者「よし、準備は良いな。森を抜けた所に町があるから、夕方には着くはず。出発!」
僧侶「森は魔物が多いっていうから気を付けて行こうね」
…………
僧侶「あ、勇者! スライム!」
勇者「よし、任せろ。僧侶は危ないから少し下がってろ!」
僧侶「う、うん。わかったよ」
僧侶(………)
僧侶(………)
僧侶(スライムの前で屈みこんで、何やってるんだろう?)
僧侶(あ、スライムが森に帰ってく……)
勇者「大丈夫だったか? 先を急ごう」
僧侶「……ありがとう。大丈夫だよ」
勇者「よし、準備は良いな。森を抜けた所に町があるから、夕方には着くはず。出発!」
僧侶「森は魔物が多いっていうから気を付けて行こうね」
…………
僧侶「あ、勇者! スライム!」
勇者「よし、任せろ。僧侶は危ないから少し下がってろ!」
僧侶「う、うん。わかったよ」
僧侶(………)
僧侶(………)
僧侶(スライムの前で屈みこんで、何やってるんだろう?)
僧侶(あ、スライムが森に帰ってく……)
勇者「大丈夫だったか? 先を急ごう」
僧侶「……ありがとう。大丈夫だよ」
# 二番目の町
勇者「やっと着いたな! まずは宿を取って、それから情報収集をしようと思う」
僧侶「うん、そうだね!」
僧侶(結局、魔物はあのスライムしか出てこなかったけど、どういうことなんだろう)
# 町長の家
町長「旅のお方か。来て早々申し訳ないのだが、どうか我々の頼みを聞いてくださらぬか」
勇者「一体どうしたんですか?」
町長「この町には毎夜、魔物が現れてな。畑を荒らしていくのだ。町の者はみな飢えに苦しんでおる」
勇者「魔物ですか!?」
町長「はい。川上の方から来るということはわかっているのだが、確認に行こうにもあの辺りは魔物が多くてな」
勇者「それなら僕たちが懲らしめてきますよ! 大船に乗ったつもりで待っていてください」
僧侶「さすが我らが勇者様ね!」
町長「なんと! 勇者様でありましたか。ありがたや、ありがたやー」
勇者「……」
勇者「やっと着いたな! まずは宿を取って、それから情報収集をしようと思う」
僧侶「うん、そうだね!」
僧侶(結局、魔物はあのスライムしか出てこなかったけど、どういうことなんだろう)
# 町長の家
町長「旅のお方か。来て早々申し訳ないのだが、どうか我々の頼みを聞いてくださらぬか」
勇者「一体どうしたんですか?」
町長「この町には毎夜、魔物が現れてな。畑を荒らしていくのだ。町の者はみな飢えに苦しんでおる」
勇者「魔物ですか!?」
町長「はい。川上の方から来るということはわかっているのだが、確認に行こうにもあの辺りは魔物が多くてな」
勇者「それなら僕たちが懲らしめてきますよ! 大船に乗ったつもりで待っていてください」
僧侶「さすが我らが勇者様ね!」
町長「なんと! 勇者様でありましたか。ありがたや、ありがたやー」
勇者「……」
# 宿屋
勇者「なあ、勇者であることは他の人には言わないでおいてくれないか?」
僧侶「なんでよ。町長さんだってすごく嬉しそうにしてたじゃない?」
勇者「畑さえ荒らされなくなれば、僕が勇者であろうがなかろうが関係ないよ」
僧侶「そんな事ないわよ! もっと、自分に自信を持たなくっちゃ。勇者は人類の希望なのよ!」
勇者(違うんだよ)
# 翌朝
僧侶「勇者ー! 起きて! 朝ですよー」
勇者「うーん、もう少しだけ……」
僧侶「ほらほら、今日は魔物を退治に行くんでしょ!」
勇者「そうだったね」
勇者は伸びをしながら大きなあくびをした。
勇者「その事でちょっと言っておきたいことがあるんだけどさ。今回は僕一人で行くよ。僧侶は町で待っていてくれないか?」
僧侶「え? 何言ってるのよ! 私も一緒に行くわ。神父様だって私の力は認めてくれてるんだから」
勇者「そうは言ってもどんな危険があるかわからないし、そんなところに僧侶を連れて行けないからさ」
僧侶(なんで悲しそうな顔をするのよ……)
僧侶「もう、わかったわよ」
勇者「うん、ありがとう。朝食が済んだら行ってくる」
勇者「なあ、勇者であることは他の人には言わないでおいてくれないか?」
僧侶「なんでよ。町長さんだってすごく嬉しそうにしてたじゃない?」
勇者「畑さえ荒らされなくなれば、僕が勇者であろうがなかろうが関係ないよ」
僧侶「そんな事ないわよ! もっと、自分に自信を持たなくっちゃ。勇者は人類の希望なのよ!」
勇者(違うんだよ)
# 翌朝
僧侶「勇者ー! 起きて! 朝ですよー」
勇者「うーん、もう少しだけ……」
僧侶「ほらほら、今日は魔物を退治に行くんでしょ!」
勇者「そうだったね」
勇者は伸びをしながら大きなあくびをした。
勇者「その事でちょっと言っておきたいことがあるんだけどさ。今回は僕一人で行くよ。僧侶は町で待っていてくれないか?」
僧侶「え? 何言ってるのよ! 私も一緒に行くわ。神父様だって私の力は認めてくれてるんだから」
勇者「そうは言ってもどんな危険があるかわからないし、そんなところに僧侶を連れて行けないからさ」
僧侶(なんで悲しそうな顔をするのよ……)
僧侶「もう、わかったわよ」
勇者「うん、ありがとう。朝食が済んだら行ってくる」
# 朝食後
勇者「じゃあ、行ってくるよ」
僧侶「うん、気を付けてね! どんな魔物かもわかってないんだから」
僧侶(……)
僧侶(……)
僧侶(怪しい! 怪しい! 絶対なんかある!)
僧侶(そう言えば、昨日スライムに会った時もなんかおかしかったし……)
僧侶(……よし! 跡をつけよう!)
# 町の外
僧侶(確か、魔物は川上の方から来るって言ってたわね)
…………
僧侶(それにしても、魔物が全然いないわね。町長さんは魔物が多いって言ってたけど……)
…………
僧侶(あんなところに祠が! 魔物はあの中かしら)
僧侶(勇者がいるなら、多分ここよね。しばらく様子を見ていよう)
…………
…………
僧侶(え? 祠からゴブリンが出てきた)
僧侶(森の方へ行っちゃったって、あれ? じゃあ勇者はどこ?)
僧侶(まさか……!)
僧侶は加速度的に大きくなっていく不安のもとに、祠へと駆け寄り、震える手で扉を開けようとした。
その時、内側から戸が開いた。
勇者「……あ」
僧侶「ゆ、勇者!」
僧侶は努めて泣くまいと唇を噛みしめていた。一方で、勇者はばつが悪そうに気の抜けた笑みを浮かべていた。
僧侶「心配したじゃない! バカ!」
勇者「わ、悪かったよ。とりあえず、落ち着こう。な?」
# 町長の家
勇者「町長さん、川上の祠にいた魔物を追い払ってきました。金輪際、村を襲うことはないでしょう」
町長「勇者様、ありがとうございます。ありがとうございます! 町民を代表してお礼申し上げます。
ささやかながら、町を挙げて祝宴を開きたく思います。是非ともご出席してくだされ」
勇者「いえ、お気持ちだけいただいておきます。魔物は来ないとはいえ、飢えた民がすぐに癒えるわけではありません。
宴の分の食料を、どうか復興の為にお使いください」
町長「おお、なんと徳の高きお方! 我々は勇者様のことを末代までお称え申し上げますぞ」
僧侶「……」
取り合えず俺と同じシーンを想像した人が二人いたようだな
この勇者は英雄になるだろうな
この勇者は英雄になるだろうな
ググってみたんだけど、そういうラノベがあったんだね
この先の展開はたぶん変わってくると思う
この先の展開はたぶん変わってくると思う
# 町の宿
僧侶「……」
勇者「なあ、頼むから口を利いてくれないか。
心配を掛けた点では悪かったよ。
でも、僧侶だって、町で待っててって言ったのに――」
僧侶「そんなんで納得するわけないでしょ! 私、確かに頭は悪いかもしれないけど、気付いてたんだよ。
ちゃんと話して」
勇者「……わかったよ。話すからさ」
僧侶「……」
勇者「……」
僧侶「……」
勇者「……僧侶は女神の加護って知ってるか?」
僧侶「え?」
勇者「昔から勇者は女神からぞれぞれ力を授かって、それを駆使しながら魔王を倒す」
僧侶「うん、そのことなら子供だって知ってるよね」
勇者「父さんも、じいちゃんも、歴代の勇者はみんな女神の加護を受けてきた。
でも、それがどんな力かっていうことは知らないだろ?」
僧侶「……確かに、そうね」
勇者「そりゃあ当然さ。勇者が持っている特殊な力をもし魔王になんか知られてしまったら困るからね」
僧侶「うん」
勇者「それでね、女神の加護って、ある日突然自分に授けられたって認識してしまうようなものなんだよ」
僧侶「認識ねえ……」
勇者「想起って言った方が適当かもしれない。理屈はともかく、ある時、わかるんだよ。
だけど、力を授かったことがわかっても、それがどんな力かということを正確に知っているとは限らないんだ。
例えば、じいちゃんは初め空間を自在に移動する能力を得たと思っていた。
でも、実際にはそれは空間だけでなく、時間をも移動できる能力だったんだよ。
父さんもそうさ。女神の加護について初めは守備力が少し上がったくらいにしか思ってなかった。
だけど、旅の途中でそれが不死の能力であることを知った。
そして、つい最近さ、僕も……僕も自分の力について知ってしまったんだよ」
僧侶「……勇者はどんな加護を受けたの?」
勇者「体力さ」
僧侶「……え?」
勇者「女神の加護を受けて、僕の体力は…………なくなってしまった」
僧侶「どういうこと? 全然、わかんないよ!」
勇者「スライムに一撃をくらっただけで、今の僕は死んでしまう」
僧侶「嘘…………そんな」
勇者「いや、さっきも言った通り、僕にはわかる。
女神様はきっと僕が死ぬべきだとお考えなんだ。だからこんな力を……」
僧侶「そんなわけない! そうんなわけないわよ。
さっき勇者も見たでしょう? この町の人たちの嬉しそうな顔を!
この町を救うことができたんだもの。世界だってきっと――」
勇者「良いんだ。僕は勇者どころか、そこらの子供よりも弱い存在なんだ。
ただ、せめて、死ぬまでにできるだけ世界の平和に貢献したいとも思う。きっとそれが僕に課せられた宿命なんだ」
僧侶「じゃあ、どうやって? どうやってスライムやゴブリンを追い払ったの?」
勇者「僕は本当に醜く弱い存在だ。死ぬのがたまらなく怖いんだ。
だから……魔物たちが帰らざるを得ないように仕向けたんだ」
僧侶「え?」
# 回想、一日前、森の中
僧侶「あ、勇者! スライム!」
勇者「よし、任せろ。僧侶は危ないから少し下がってろ!」
僧侶「う、うん。わかったよ」
…………
スライム「おい! お前が大人しく俺に食われるって言うなら、向こうにいる女は見逃してやっても良いぜ」
勇者「お前はなぜ僕を襲う」
スライム「人間の肉は旨いからな!」
勇者「お前は自分の味覚を満足させる為だけに僕を襲うのか」
スライム「ごちゃごちゃうるせえ奴だな。死ね!」
勇者「待て」
スライム「…………」
勇者「それは命を賭するだけの価値があることなのか。この戦闘でお前が死ぬ可能性も低くはない。
お前にも親や子供、その死を嘆く友がいるのだろう」
スライム「…………ち、今日のところは見逃しておいてやるよ。興が醒めちまった」
#
僧侶「そんなことが……」
勇者「そうさ。僕はスライム相手にさえなんとか帰ってもらえるように説得することしかできないんだ」
僧侶「じゃあ、ゴブリンはどうしたの? ゴブリンはスライムよりもずっと賢いし、ずっと強いでしょう?」
勇者「ああ……」
# 回想、川上の祠
祠の中には町で獲れた農作物が僅かばかり保管されていた。
ゴブリン「人間が自ずからここへ来るとは、気でも狂ったか」
勇者「僕は勇者。この世界に平和をもたらす者だ。
川下の町を荒らしているのはお前か」
ゴブリン「それがどうした。まさか俺に敵うとでも思っているのか。片腹痛い。愚かな人間よ! 死ぬが――」
勇者「お前はなぜ町を襲う」
ゴブリン「なぬ……」
勇者「お前はなぜ町を襲うのかと聞いているんだ」
ゴブリン「人間ごときを襲うことにさしたる理由などないわ!」
勇者「だが、お前は町民は襲わずに畑だけ荒らした。おかしくないか? 本当はお前は――」
ゴブリン「ええい、黙れ! 人間の言うことなど聞かぬわ!」
勇者「このままだと、町民はみな餓死し、畑もなくなってしまうだろう」
ゴブリン「……」
勇者「川を越えて一日も歩けば森がある。そこなら、お前一人が食うに困ることもないだろう」
ゴブリン「……わかったよ」
ゴブリンは勇者を振り返らずに祠から出ていった。
ゴブリン「……礼を言うぜ。勇者さんよ」
#
勇者「ゴブリンが本当に悪い奴じゃなかったから今回は何とかなった。でも、いつまでもこう上手くはいかないだろう。
悪の権化みたいなのを相手にしなくちゃいけなくなった時が、きっと僕の最期だよ」
僧侶「うーん、でも、これでわかったよ! 勇者の能力って、魔物を説得する力だったんじゃない?」
勇者「え……?」
僧侶「きっとそうよ! だって、普通の人はスライムに『待て』なんて言っても待ってもらえないわよ?」
勇者「じゃあどうして体力がなくなってしまったんだろう?」
僧侶「そうだなあ……もし勇者がすっごく強かったら、魔物と話そうなんてしなかったんじゃないかしら。
だから女神様は、勇者には魔物に対しても優しくなって欲しいって思ってるんじゃないかなあ。
それに、ほら! 昨日はスライム一匹しか出なかったってことは、きっとあそこにいる他の魔物にも力の影響があったんだ
よ!」
勇者「確かに、そうかもしれないな。……なんだか自信が出てきたよ!
正直に話したらすごく楽になった。ありがとう、僧侶!」
僧侶「うん」
僧侶(ごめんね、勇者……)
#
勇者「ちょっと距離があるんだけどこの川を下ると港町があるんだ。
人の行き来も多いだろうから、そこで情報を集めようと思う」
僧侶「ふふふ、海なんて久しぶりだなあ。
ねえねえ、もしまた魔物が出てきても、私も一緒にいるからね!」
勇者「そうだな、ありがとう。それじゃあ、行くとしようか」
…………
…………
僧侶「全然魔物が出てこないわね。つまんなーい」
勇者「おいおい、あのなあ……」
僧侶「ふふ、わかってるわよ。冗談よ。魔物なんて会わないに越したことはないんだから」
勇者「まあ、この辺の魔物にも力の影響が出てるのかもね。
そろそろ日が暮れそうだな。地図によればもうすぐ村が見えてくるはずはんだけど……」
僧侶「ねえねえ、ほら! あそこ」
初夏の夕暮れの澄んだ空気を通して丘の上から柔らかい光が漏れてきているのを二人は認めた。
勇者「よし、今日はあそこで休もう」
# 丘の上の村
勇者「一日歩きっぱなしで僧侶も疲れただろ? 今日はもう休もう」
村人「おや、お二人さん、てっきりもう出発したもんだと思っとったが」
勇者「え?」
僧侶「何ですか?」
村人「大したものはねえ村だがゆっくりしていってくれや」
僧侶「あのお……人違いか何かじゃあ――」
村人「ふははは、ホント愉快の好きな人たちだ。おら、まだ仕事があっから、またな」
勇者「あ……」
僧侶「行っちゃったね。勇者もこの村に来たのは初めてだよね?」
勇者「そりゃそうだ。まあ、いっか。宿屋へ行こうよ」
僧侶「うん」
# 村の宿屋
勇者「一部屋頼む」
宿屋「おや? 今夜も泊まってくんだね。安くしといてあげるよ! 龍の涙は今夜が見納めだろうな」
勇者「え? どういうことですかね?」
勇者(またか?)
宿屋「どうもこうも、成虫は三日と待たずに死んじまうからね。儚いもんだよ」
勇者「いや、そうじゃなくてですねー」
僧侶「ほら、行くよ!
ご主人、今日もお世話になりますね!」
宿屋「あんたらも仲が良いねえ」
# 宿屋の部屋
勇者「何なんだ、この村は一体!」
僧侶「よくわかんないけど、悪い人たちじゃないみたいだし良いじゃない!
それより聞いた? 龍の涙だって! 神父様から聞いたんだけど、私のお母さんは龍の涙の光が大好きだったんだって」
勇者「で、その龍の涙ってのは何?」
僧侶「ええ!? 勇者、そんなことも知らないの?」
勇者「だから何なんだよお」
僧侶「ふふふ。龍の涙っていうのは蛍の名前よ。
五十年に一度、水の綺麗な川や湖の周りを、淡い桃色に輝きながら舞うんですって」
勇者「ふーん。五十年も幼虫のままなんて、虫の世界は気楽で良いね」
僧侶「もうー、勇者にはロマンの『ロ』の字もないのね!
ねえ、今から私たちも見に行ってみようよ!」
勇者「今日はもう疲れたよ」
僧侶「良いから、ほらほら!」
そんな加護(呪い)を与えておいて特に何も無かったら女神には無言の腹パンだな
# 村外れの湖
僧侶「村の人の話だと、この辺らしいんだけど……」
勇者「太陽が完全に沈むまで待ってみようか」
僧侶「あれ? 今頃乗り気になってきたのかしら」
勇者「別に良いだろ? 五十年に一度だの、僧侶の母さんが好きだっただの聞いてたら、そりゃ気になってくるよ」
僧侶「ふふ。いつもそうやって素直だったら良いんだけどね。
知ってる? 龍の涙には、悲しい言い伝えがあるんだよ」
勇者「ふむふむ、聞いてやろう」
昔々、龍と人間が戦争をしていたと言うずっと昔のこと。
若い龍が人間との戦いに傷ついて、湖の畔に倒れていました。
そこへ、水を汲みに人間の娘がやってきました。
娘は大層驚きましたが、話に聞いていた龍とは違い、その龍からはなんと優しさが溢れていたのです。
そこで、娘は龍の鱗から汚れを落とし、湖の水を飲ませてあげました。
それから、娘は毎日龍の看病を続けました。
言葉こそ通じないものの、龍と娘は次第に惹かれ合っていきました。
けれども、ある日、村の人に龍のことがばれてしまいました。
村の中には龍との戦で家族を亡くした人もおり、村人は総出で龍を襲い、
また、傷ついた龍をかくまっていた娘は、その場で殺されてしまいました。
それを見た龍は、怒り狂って村人たちをなぎ払い、娘の亡骸を抱きしめました。
龍は魔法の言葉を呟いてから、娘に口付けをしました。
すると、なんと言うことでしょう。暖かな光が娘を包み込んだかと思うと、息を吹き返したのです。
そして龍は、最期の力を振り絞って、娘を光ごと、平和の国へと送ってしまいました。
一方、全ての力を使い果たした龍は、その場で古木に成り代わってしまいました。
しかし、五十年に一度だけ、それもほんの一夜だけ、龍の姿に戻り、湖の畔で一人涙を流し続けているのだそうです。
優しさ溢れる、淡い桃色の涙を。
僧侶「――めでたしめでたし」
勇者「ええ? めでたくないよ」
僧侶「勇者はどう思う? この女の人は幸せになれたのかなあ?」
勇者「龍はわがままだよ。娘だけ幸せになれば良いなんてさあ。
この娘はたとえ楽園に行ってたとしても幸せになんかならなかったと思う」
僧侶「うん、そうだよね……」
勇者「な、なんで泣いてるんだよ」
僧侶「ううん。なんでもないよ…………。
あ! あそこ見て! あの葦がいっぱい茂ってるとこ」
勇者「え? いや。ああ、光ってる……」
僧侶「わあ、綺麗……。
本当に、優しい色。でも、どこか寂しそう」
僧侶(お母さんも、こうやって見てたのかなあ)
遠く、淡い光がぽつりぽつりと灯っていた。
やがてそれらは湖面を覆い、周囲の木々を妖しく照らした。
まるで湖が龍の流した涙で溢れているかのようだった。
>>1いや別に設定は似てないんだけどね
実は弱い主人公が見た目と機転だけで勝ち上がるんだけど前作主人公と直接対決したときに弱いのがバレてスレタイのまんまの台詞を言われるラノベがあるだけなんだ
メジャーじゃないけど固定ファンがついてるので何人か反応したんだと思う
実は弱い主人公が見た目と機転だけで勝ち上がるんだけど前作主人公と直接対決したときに弱いのがバレてスレタイのまんまの台詞を言われるラノベがあるだけなんだ
メジャーじゃないけど固定ファンがついてるので何人か反応したんだと思う
>>33
詳しくありがとう! 調べてみたら本当にスレタイと似ててびっくりした
詳しくありがとう! 調べてみたら本当にスレタイと似ててびっくりした
# 村の宿屋
勇者「綺麗だったな。生きてるうちにもう一度見られるかな?」
僧侶「ふふ。その頃には勇者はもうおじいちゃんね!
そうそう、おじいちゃんと言えば、勇者のお祖父さんって時間を移動できたんだよね?」
勇者「そうだよ?」
僧侶「これは、私の勘なんだけどね、この村の人たちって勇者をお祖父さんと間違えてるんじゃないかしら」
勇者「うん? どういう……あ! なるほど!」
僧侶「きっとお祖父さんは龍の涙を見る為に、昨日のこの村に来てたんだわ!」
勇者「確かにそうかもしれない!」
僧侶「勇者のお祖父さんってどんな人だったの?」
勇者「うーん、物心が付く前に死んじゃったから、親から聞いたことしか知らないんだけど……。
うちのじいちゃんが魔王を封印したっていうのは知ってるよね?」
僧侶「ええ、それはもちろん。そして十年前にその封印が解かれたということもね」
勇者「そういえば、魔王を封印してからは、女神の加護が消えたって言ってたなあ。
なんでも加護の力を代償に、魔王を封印したんだってさ。
帰ってきてからは、王様に侯爵の娘――ばあちゃんのことね――との縁談を勧められてそのまま結婚したんだって。
それからは、すっかり丸くなったんだとか」
僧侶「それにしても、勇者のお祖父さんは誰と龍の涙を見に行ったのかしらね」
勇者「ばあちゃんではないと思うんだよね。若い頃のばあちゃんはグラマーだったって聞いてるから」
僧侶「ちょっと! それってどういうことよ!」
勇者「はは。今日はもう遅いから寝るぞ」
# 翌朝
僧侶「勇者ー! 起きて! 朝ですよー」
勇者「うーん、もう少しだけ……」
僧侶「もうー、ホント朝に弱いんだから!」
僧侶は枕で勇者の頭を小気味好い調子で何度か叩いた。
勇者「うわ、こら! よせって。死んじゃうかもしれないだろ」
僧侶「ふふ。枕で殴られて死んだ勇者なんて聞いたことないわ」
勇者「ふう……、半分本気だったんだぞー」
僧侶「このくらいしなくちゃ起きない勇者が悪いのよ! さあ、今日は港町まで一気に行くんでしょ!」
勇者「へいへい、悪うござんした」
#
僧侶「ここまで来ると、川幅もだいぶ広くなってきたわね。きっともうすぐ海よ」
勇者「そうだな……おい! 僧侶、魔物だ!」
僧侶「きゃ!」
トロール「おい、兄ちゃん。俺はお前みたいに女を連れてちゃらちゃらしてる奴が大嫌いなんだよ」
勇者「それは悪かったね。それで、他に言うことはないのかい」
トロール「何だと、こら! お前のはらわた食らい尽くしてくれるわ!」
勇者「なぜ?」
トロール「う…………むかつくからだよ!」
勇者「そうじゃない。なぜむかつくのかを聞いているんだよ」
トロール「う……うらやましいからだよお!」
トロールはそう言うや否や走り去っていった。
僧侶「あのお……勇者さん? いつもこんな調子だったんですか?」
勇者「いやあ、トロールは賢さが低いからね。あるいはスライムより楽かもしれない」
僧侶「ふふ。私たちうらやましがられちゃったね!
でも、本当に魔物は勇者の話を聞いてて襲ってはこないわね」
勇者「ああ、不思議な感じがするよ」
…………
…………
僧侶「うわあ。ねえ! 磯の香りがするよ! 私この匂い大好きだなあ」
勇者「そりゃそうさ。ほら、あそこに見えるのが港だよ。
まずは、桟橋まで行ってみないか?」
僧侶「そうね! まだ日も高いし」
# 港町
肩で息をする二人。
勇者「はあ、結構あそこから遠かったね」
僧侶「健脚を誇るこの私でも、この距離を走ってくるのは流石に疲れたわ……」
勇者「初めて聞いたな。僧侶が誇るべきなのは健脚じゃなくて健啖だと思うけど」
僧侶「ケンタンって?」
勇者「うーん、まあ、元気が良いってことだよ」
僧侶「ふふ、それなら確かに私はケンタンかもお!」
勇者(ははは。にくい奴だなあ)
勇者「そんなことより、見てみてよ! 水平線がずっと続いてる」
僧侶「本当ね」
勇者「海を前にしているとね、自分が世界の一部で、そして世界も自分の一部であるような気がしてくるんだよ。
だから、大好きだ」
僧侶「あら、詩人にでも転職したのかしら。
……私も、大好き」
#
勇者「大きな港町だね。これは、僕たちの町より大きいよ」
僧侶「いろんな人種の人がいるわね」
勇者「そうさ、ここは交通の要の町だから、大陸の内外からいろんな人たちがやってくるんだ」
僧侶「ねえ、勇者。今夜酒場へ行ってみない?」
勇者「ええ? 僕はあんまりお酒飲めないからなあ」
僧侶「何言ってるのよ! 情報収集といえば酒場でしょ!」
勇者「まあ、確かに一理あるかも」
僧侶「よーし、じゃあ決定ね! やった!」
勇者(ここまで息抜きっぽいことはあんまりしてこなかったしな)
# 酒場
夜の町は、龍も泣き止んでしまうくらい賑やかだ。
マスター「二名様ですか。こちらへどうぞ」
二人をカウンターへ案内する。
勇者(ねえ、僧侶。メニューとかってないのかな?)
僧侶(緊張してるわね。背中に鉄板でも入ってるみたいよ)
僧侶(こういうところでは自然体でいるのが一番なのよ)
僧侶「マスター、あのウイスキーをお願いします」
マスター「飲み方はどうされますか?」
僧侶「トワイス・アップで」
勇者「あ、じゃあ、僕はなんか、さっぱりして飲みやすいやつをお願いします……」
マスター「では、ソルティ・ドッグなんていかがでしょう。このカクテルはグレープフルーツを――」
勇者「あ、それで! それでお願いします」
勇者(……)
勇者(なんで教会育ちの僧侶がそんなこなれた風なんだよ)
勇者(親の顔が見てみたいね…………あ、いや、ごめん)
僧侶(いいのよ。生まれてすぐにお母さんが死んで教会に引き取られたんだから。
私だって自分の親の顔が見てみたいよ)
僧侶「さあ、折角の機会なんだから楽しみましょ! ね?」
勇者「うん……そうだね!」
程なくして二人の前に酒が出された。
勇者「綺麗な丸い氷だなあ。ねえ、ふちに付いてるこの白いのって何?」
僧侶「勇者、『ソルティ』って言葉の意味がわからないの?」
勇者「う……ホントだ。しょっぱい」
僧侶「ふふふ。いつも私のことバカにしてるお返しですよーだ」
勇者「うう……今度来る時は絶対に僕がリードしてあげるからな!」
僧侶「ふふ。期待してるわね」
…………
…………
勇者(結局僕たちは情報収集をしなかった。
僧侶は飲み過ぎたみたいで、僕が最初の一杯を飲み終わる前にはカウンターに伏してしまっていた。
僕は彼女をおぶって帰ることになった。
火照った体に浜の風は気持ち良い。)
# 翌朝
勇者「僧侶ー! 起きて! 朝ですよー」
僧侶「うー、頭が痛い……」
勇者「もうー、ホント朝に弱いんだから!」
僧侶「うう、悔しいー。何よ、たまに私がへばってるからって」
勇者「ふははは。節操もなく飲み過ぎるからいけないのだよ!
枕で叩かないだけ感謝し欲しいくらいだ。
ほら、水を持ってきてあげたから。
今日こそは情報を集めて回るよ!」
僧侶「なんでそんなに元気なのよ」
# 町の広場
僧侶「なんだか、広場の方が騒がしいわね」
勇者「うん、どうしたんだろう?」
…………
船夫「また人さらいだってよ。この辺りも物騒になったもんだ」
勇者「すみません。どうしたんですか?」
船夫「あんた、旅の人かい? なら、あまり長居しないほうが良いぜ。
最近ここらじゃ突然人がいなくなるってんで話題になってんだよ。
兄ちゃんも気を付けねえと、後ろのかわいいお姉ちゃんをさらわれっかもしれないぜ」
勇者は無意識に僧侶の手を握った。
僧侶はじっと足元の石ころを見つめていた。
勇者「誘拐か……これはもしかしたら魔王と関係があるかもしれないよ!」
僧侶「そうね、もう少し調べてみましょう」
僧侶は握った手に力を込めた。
途端に勇者は赤くなった。
# その夜
勇者「結局、大した情報は得られなかったね」
勇者「……」
勇者「あのさ……僧侶さえ良ければなんだけど、この旅が終わったら、僕と一緒に――
あれ? 僧侶? おーい、僧侶! かくれんぼならまた今度やろう、な……」
勇者は日中の船夫の発言を思い出して蒼くなった。
勇者「僧侶! おい、僧侶! いるなら出てきてくれよ!」
勇者の声は夜のしじまに吸い込まれていく。
町の隅々まで見て回ったが僧侶はどこにもいなかった。
勇者(まさか、そんな……。僕だってかなり気を付けていたはずだったのに……)
勇者は気付けば酒場の前に来ていた。
勇者(情報収集……か)
# 酒場
勇者「マスター、ソルティ・ドッグを……」
…………
初老の男「どうしたんですか、お兄さん。まるで世界の終わりみたいな顔をして」
勇者「実は、連れが人さらいに遭ってしまったかもしれないんです……」
初老の男「この界隈で頻発しているらしいですね」
勇者「あの……僕、どうしても助けなくちゃいけないんです! どうしたら良いんでしょう」
初老の男「私はトランジットで来ているだけだからこの町の事情には明るくないのですが、
そう言えば飛行船の到着手付きの際に妙な話を耳にしましたね」
勇者「どんな話ですか!」
初老の男「なんでも、米や小麦粉などの穀物を運搬する船がこの数週間で急激に増えたということらしいです」
勇者「そうですか……」
初老の男「正義緩慢なりとも遂には之悪を制す」
勇者「え? 何ですか?」
初老の男「古い言葉ですよ」
勇者(待てよ、輸送船……穀物…………ひょっとしたら)
勇者「どうもありがとうございました!」
勇者はくしゃくしゃになった紙幣をカウンターに叩きつけるように置くと、矢庭に走り出した。
# 桟橋
勇者は倉庫の横にいくつか置かれていた樽の陰に隠れている。
勇者(今入港しているのは一隻だけか。
恐らくだけど、さらわれた人たちを荷物に偽装して運んでるんじゃないか。
樽か何かに入れてしまえば簡単なはず……。
あ、船から誰か来た!)
船乗り「おい、今のうちにそこにある樽積んどけよ! 明るくなったら面倒が増えるからな。朝一で出発だ!」
船乗りは勇者のいるあたりに目線を送りながらどこかにいるらしい仲間に向かって言うと、船に戻っていった。
勇者は咄嗟に身を屈める。
勇者(人目を忍ぶ必要がある物なのか)
「人使いが荒いぜ、全く。ま、人さらいが言えたことじゃねえか」
「ちげえねえ! わはは!」
勇者(やっぱり、そうか!)
勇者は手近の空き樽に潜り込んだ。
勇者(…………ばれませんようにばれませんように!)
…………
…………
勇者(それにしてもひどく生臭いな。魚でも入ってたのか?)
勇者(あ、足音だ。近付いてくる)
勇者(何人だ?)
「さっさと終わらせちまおうぜ」
「お前はそっちを持ってくれ。行くぞ、せえの!」
勇者(結構重たいのかな。歩幅が狭いみたいだ)
…………
勇者(戻ってきた。二人しかいないな。
それなら最悪見付かったとしてもなんとかなるかも。
ばれそうになったら、蓋をぶん投げて先制して、それから全力で……)
「じゃあ、行くぞ。せえの!」
勇者(この樽か! ばれるなよばれるなよばれるなよ!)
勇者(……)
勇者(くそ、手の震えが大きくなってく!)
勇者(……)
勇者(とりあえず大丈夫みたいだ……。何が入ってるつもりなんだろうか)
「お前、この中に何が入ってるか知ってるか?」
勇者(おい!)
「へ? これは普通の方の樽だろ? 小麦粉かなんかじゃねえのか?」
「バカ。小麦粉だったらわざわざ夜中に運ばねえよ。この中に入ってるのは人さらいなんかよりも更にやばい物だぜ」
勇者(頼む! 余計なことは言わないでくれ!)
「……薬か?」
「違えよ。ほら、樽から臭ってこないか? この樽の中身は海に捨ててくんだぜ」
「う、この臭い……マジかよ」
「へへへ、何ならちょっと見てみるか? ひでえことになってると思うぜ。ま、びびりのお前には無理か」
勇者(やばい! やめてやめてやめてやめてやめて)
「なんだと、お前! 俺だってそれくらい――」
船乗り「うるせえぞ、おめえら! ちんたらしてっと、海に沈めんぞ。こら」
「う、うっす!」
「失礼しやした!」
勇者(……)
勇者(冷や汗が……)
「そこに置くからな」
「お、おう」
勇者(よし、床に置いたみたいだ)
「急ごうぜ」
「おう」
勇者(……)
勇者(……行ったか)
勇者(ふう……ホントに死ぬかと思った。口がからからだ)
勇者(でも、僧侶はもっと怖い思いをしてるのかもしれないんだよな。僕がしっかりしないと!)
勇者(樽の数からすると、恐らく次が最後。もうしばらくの辛抱だ)
勇者(とりあえず落ち着け、落ち着くんだ……)
勇者(……)
勇者(足音だ。近付いてくる)
「これはそっちに置くぞ」
「おう」
勇者(……)
「ふう、やれやれ、お疲れさん」
「お疲れ」
勇者(……)
勇者(もう、行ったか? 念のためにもう少しだけ隠れていよう)
勇者(……)
勇者(……)
勇者(もう大丈夫かな。人がいる気配もないし。樽から出て状況確認だ!)
勇者(よいしょっと)
勇者(樽から出ても真っ暗か……少しは慣れてきたけど)
勇者(ここは貨物室だろうか)
# 船の貨物室
勇者(さっきの話だと、ここの樽は途中で中身を捨てられるんだったな)
勇者(他に隠れ場所を探す必要がある、と)
勇者(おや? 天井から隙間風が吹き込んできてる)
勇者(暗くてちょっと不安だけど、調べてみよう)
…………
勇者(天井裏につながってたのか。これは良いところをみつけた。しばらくはここで身を隠せる)
勇者(僧侶もこの船に乗ってるんだろうか……)
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