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    元スレ提督「臆病で愚図」

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    101 = 100 :


    提督「そうだ、妙高」

    妙高「・・・はい、何でしょうか?」

    頬を桜の花弁で染めていた妙高が、私の方を向く。

    提督「少し先の話になるが、どこかの休み、護衛をお前に任せたいと思う」

    妙高「提督、それは・・・」

    提督「嫌か?」

    妙高は首を横に振る。

    握っていた手の力が少し強くなる。

    妙高「そんなこと、ありません・・・嬉しいです」

    妙高の瞳が潤む。泣かないでくれよ。

    提督「そうか。それまで、待っていてくれるか?」

    妙高「はい・・・一日千秋の思いで、お待ちしております」

    それは言い過ぎだよ、妙高。

    幸せを含んだ妙高と共に、部屋へと戻っていく。

    102 :

    待ってた

    103 :


    何とか他の娘たちに会わず、私室の前に辿り着くことができた。

    書置きの時間も問題ない。この調子なら朝食も摂ることができるだろう。

    早速扉を開けようと右手を伸ばすと、妙高が左手でそれを制した。

    提督「ど」

    「どうした」と言い終わらない内に、妙高が左人差し指を唇の前に立てたのを見て、口を噤んだ。何だ。

    妙高はストッキングを床に置くと、私の代わりに右手で扉を開いた。

    内開きの扉が開く。





    真左から、拳大の黒い箱。

    右上から、開いた銀輪。



    妙高は突き出され、振り下ろされるそれらの凶器、スタンガンと手錠を一歩下がって避ける。

    そしてスタンガンを突き出した手と、手錠を振り下ろした手をそれぞれ掴み、捻る。

    羽黒「っ!」

    足柄「いたたたっ」

    羽黒と足柄が痛みで顔を引き攣らせる。

    それと同時に、痛みによるものか、羽黒の左手からスタンガンが、足柄の右手から手錠が離れ、床へと落ちていく。

    床に落ちた二つの物体に妙高の視線が移動する。

    瞬間、羽黒が投擲するように右手を振り下ろす。手にはペンが握られており、軌道からして妙高の目を狙っているようだ。姉にすることじゃない。

    妙高は掴んでいた羽黒の左手を離すと、腰を捻って軸をずらし、ペン先を避け、そのまま羽黒の右腹に左爪先蹴りを放つ。妹にすることじゃない。

    羽黒は後方に飛び、壁に激突し、咳込む。

    姿勢を戻した妙高は、足柄の手を掴んだまま、穏やかな表情で羽黒に顔を向ける。

    妙高「もう、羽黒ったら、危ないじゃないですか」

    足柄「おごごごご」

    妙高は足柄の手を更に捻りながら、羽黒を諌める。足柄が捻られた右手を庇いながら更に呻く。

    羽黒は背を壁に付け、俯いたまま、上目遣いに妙高を見つめる。

    羽黒「ごめんなさい、妙高姉さん・・・姉さんが司令官さんを一人占めしていると思ったら、つい」

    つい、でお前は姉を刺すのか羽黒。

    妙高「・・・もう、仕方ない娘ですね羽黒は。今回だけですよ?」

    そしてお前は許すのか、妙高。そして今回だけってなんだ。次もあるのか。

    左頬に手を添え、柔やかな笑顔をしていた妙高は「おおおおぉ」と呻いている足柄の方に顔を向ける。足柄煩い。

    104 = 103 :


    妙高「さてと、足柄・・・これは一旦何ですか?」

    そう言うと妙高は右手の捻りを直し、右足爪先で手錠をつつく。

    痛みから解放された足柄は息を整え、顔を上げて妙高の方に向く。

    足柄「えっと、その・・・手錠です」

    妙高「そんなものは見ればわかります」

    まったくだ。

    妙高「私は、何故、こんなものを貴女が使ったのかを聞いているのですよ、足柄」

    妙高は目を細め、笑顔のまま、さらに足柄に問い詰める。

    足柄は愛想笑いを浮かべながら、妙高から目を逸らす。

    足柄「い、いや~、その、ほら、朝起きたら提督居なかったでしょ?」

    妙高「私と一緒に散歩をしていましたからね、それで?」

    散歩、という単語を妙高が言った途端、羽黒から歯軋りする音が聞こえた。

    足柄「それで、その、提督が傍に居なかったものだから『ああ、やっぱりちゃんと傍に置いておかないといけないのね・・・』って思って」

    なんだその理屈。書置きしただろうに。

    妙高「それでこんな玩具を取り出した、というわけですか」

    足柄は妙高に笑顔を向け、左手を開いて掌を妙高に向ける。

    足柄「そ、そうなのよ~、ほら私と提督は夫婦なわけだし、一緒にいるのは当ぜぇええええ痛い痛いっ姉さん痛いっ! 腕がっ! 勝利を掴む私の腕がぁああああっ!」

    妙高は張り付いた笑顔のまま、先ほどより更に強く足柄の右手を捻る。足柄は呻き声を挙げるが、台詞からしてまだまだ余裕だろお前。羽黒もさっきから白い目で見ているし。

    妙高は暫く手を捻って足柄の呻き声を聞いていたが、やがて溜飲が下がったのか、足柄から手を離し、溜息をついた。

    足柄「折れてないわよねっ?! 折れてないわよねっ、私の腕っ!?」

    そう言って足柄は私と羽黒を交互に見る。知るか。

    足柄が泣きべそを掻いている間、妙高は足元にあった手錠を拾うと、開口部分の両端を両手でそれぞれ掴む。



    妙高「・・・貴方達は・・・」



    足柄「えっと・・・妙高姉さん?」

    羽黒「・・・」

    妙高からの異様な雰囲気を感じてか、足柄と羽黒の視線が妙高に集まる。

    次の瞬間、妙高は左足でスタンガンを踏み潰し、両手で手錠をへの字に伸ばす。

    スタンガンの破片が床に散らばり、その一部が羽黒の足元まで転がる。

    妙高はもう片方の手錠の輪を輪ゴムを捩じるかのように曲げ、銀色のゴミを作る。

    妙高「・・・この玩具で、提督に万一・・・万一なにかあったらどうするつもり? ねえ、足柄、羽黒?」

    無表情のまま、妙高は足柄と羽黒に語りかける。

    足柄は作り笑いを浮かべながら目を逸らし、右手を背に隠し、左人差し指で頬を掻く。

    羽黒は口を閉じて、伏し目がちにしたまま、妙高から顔を逸らす。



    ・・・提督ですが、私室の空気が最悪です。



    「なんだ? 騒がしいな?」

    105 = 103 :

    ・本日 ここまで

    ・感想 要望 改善等 あれば どうぞ

    106 :

    乙です
    足柄はともかく羽黒怖い…

    108 :


    羽黒の後ろ、寝室と浴室に続く通路の角から、黒刃のような髪を垂らし、切れ長の目をした女性が顔を出す。

    誰だ、こいつ……那智か。

    毎度思うことだが、側頭上部から帯のように垂れ下がる髪型を解くと何故こいつは別人になるのだろうか。

    那智「貴様、戻っていたのか、書置きの時間通りだな」

    先程まで浴室に居たのだろう、黒刃のような髪に艶が宿り、妖刀と紛う輝きを放っている。

    足柄「書置き? なにそれ、知らないわよ?」

    羽黒「司令官さん……?」

    二人が不思議そうな顔で私を見る。私だってわからん。

    妙高「私たちが出て行く際、枕元にメモ用紙があったはずよ。二人とも見てないの?」

    足柄と羽黒は首を横に振る。

    那智「見ていないのは当然だ」

    那智は角から羽黒の隣に移動する。

    ……何故裸なんだ。

    円錐形の二つ乳房が惜し気もなく披露され、斜め上に勃った乳首が視線を他に奪られまいと自己主張している。

    谷間から臍にかけて縦に一本の筋が入り、かつ肩幅が少し広くなっていることから、体幹を含んだ各所の筋肉が鍛えられていることが見て取れる。

    それでいて、胴体にはエネルギー貯蔵庫となる脂肪が適度についており、女性らしい、と言うのは失礼に当りそうだが、柔らかな感覚が失われていない。

    そして下腹部の陰毛は総て取り除かれ、隠れ蓑の無くなった大陰唇が陰裂を作る様を曝している。

    提督「……捨てたのか?」

    だとしても、足柄と羽黒に伝えておいて欲しかったのだが。

    那智「捨てる訳ないだろう? その書置きは私が食べた」

    ……何言ってんだ、こいつ。

    那智はまるでそれが当然の行為だろうといった表情で淡々と言葉を続ける。

    那智「あれは貴様が私に綴ってくれたものだろう? そんな大事なメモを私が捨てると思うか? 貴様の一文字一文字が身体に染み渡るよう、ゆっくり味わわせて貰ったぞ」

    お前は山羊か。

    那智「貴様が私の一部となっていく……素晴らしいと思わんか」

    思いません。

    羽黒「姉さん……ずるい」

    羽黒が羨ましそうな目で那智を見ている。紙をモシャモシャ食べたことを誇らしげに語る姉のどこに羨望の要素があるんだ。あと全裸だし。

    足柄「那智、せめて何が書いてあったのか、私たちに教えてくれたって良かったじゃない」

    誇大妄想に浸る那智に慣れているのか、その妄言を無視して、足柄が至極真っ当なことを聞く。そうだ、そこが大事だ。

    足柄「妻が夫のことを把握するのは大事なのよ!」

    そこは大事じゃない。ついでにお前の夫になったつもりはない。

    足柄を除くほか三名は、足柄を白い目で見る。

    足柄「な、なによ」

    狼狽する足柄が抗議の声を挙げると、しばし微妙な沈黙が流れる。

    109 = 108 :


    その沈黙を破るように、妙高が呆れを含んだ溜息をつく。

    妙高「……ともかく、状況はわかりました。那智のうっかりで二人は提督が心配になり、これらの玩具で提督を保護しようとした、と」

    那智「うっかりとはなんだ」

    那智の発言を無視して羽黒が頷いて返すが、足柄は小声で独り言を呟いて聞いていないようだ。あと妙高、保護じゃなくて拘束の間違いだろう。

    妙高「貴方達の気持ちは理解できます。ですが、羽黒」

    羽黒「……はい」

    妙高と羽黒が向き合う。

    妙高「これ、対艦娘鎮圧用のスタンガンですね? 扉を開けたのが私だから良かったですが、人間だったら即死ですよ?」

    羽黒「姉さんに当てるつもりだったから……それに仮に司令官さんに当たっても、すぐに後を追えばあっちでずっと二人きりになれますから……えへへ」

    妙高「もう……本当に仕方のない娘ですね、羽黒は。ですが、残念なことを言いますけど、仮に提督が亡くなっても、私もすぐに後を追いますから、ずっと二人きりは無理だと思いますよ?」

    羽黒「あっ……そっか……」

    妙高「また別の方法を考えましょうね。私も一緒に考えてあげますから」

    羽黒「うん……ありがとう、妙高姉さん」

    そう言って妙高と羽黒はお互いに良い笑顔で微笑み合う。なにこれ。

    妙高「さて、足柄」

    足柄は俯いて独り言を続けている。

    妙高「あっ、しっ、がっ、らっ!」

    足柄「ひゃい!? にゃんでしょふ!?」

    噛んだ。

    妙高「あなた、提督をこれで保護した後、どうするつもりだったの?」

    足柄「そ、そりゃあ、バカンスとか……」

    妙高「どこで?」

    足柄「えっ? えっと、さすがに鎮守府は難しいから、どっか遠くの土地とかで……」

    妙高「提督を外に連れ出すの?」

    足柄「あっ」

    妙高「……もう少し計画的にね。私たちも協力するから」

    足柄「……はい」

    足柄は肩を落とし、俯いてしまった。

    ……こいつら、私が聞いているのをわかっていて話しているんだよな……?

    那智「うむ、一件落着だな」

    いつの間にか隣に来ていた那智が、右手を腰に当てて納得したように頷く。

    大体お前が原因だがな。あと服着ろよ。

    110 :

    足柄さんは癒し(白目)

    111 :

    な、那智もまだセーフかもしれへんやろ…(震え声

    112 :

    これもう分かんねえなぁ

    113 :


    那智「さて」

    提督「ん?」

    那智は私に一瞬微笑むと、体を密着させ、私の脇から背中に腕を回す。

    見た目以上の強靭さを背面の腕から感じ、見た目以上の豊満さを前面の双丘から感じる。

    那智が私を抱き締めたのを見て、羽黒は驚いたように目を開き、足柄は頬を膨らませ、妙高は目を細める。

    那智「貴様に聞きたいことがある」

    提督「なんだ」

    眼前から来る熱い吐息を皮膚で感じ、顔正面からの洗剤の香りが鼻を刺激する。

    那智「何故私ではなく、妙高を連れていった?」

    万力を締めるように那智の腕に力が入った。

    提督「……どういう意味だ」

    那智「惚けるな」

    那智の指が背中に食い込む。

    那智「私は貴様の護衛だぞ。いや、そうでなくても私と貴様は一心同体、互いに血を分け合った一つの存在だ。その半身たる私を置いて他に現を抜かすとはどういう了見だ? 秘書艦でない時は仕方ない、それは皆で決めた取り決めだ。だが私が秘書艦になり、同じ時間を共有するようになったのに、何故私を置いて言った。本来なら髪の毛一本から血の一滴まで、手も足も頭も胴も、目も耳も口も舌も皮膚も、時間も場所も、過去未来現在森羅万象三千世界ありとあらゆるものが一つである私を置いていくなど正気ではない、そうだあんな取り決めなど本当は必要ない。貴様は誑かされているのだ、あの書置きも本当は貴様が書いたものではなく妙高に書かされたものだろう? そうだ、そうだろう、そのはずだ、それしかない、許せない許せない許せない、そうだ今すぐ貴様を惑わすあの鉄屑共を海の底に沈めてやろう。安心しろ、貴様には指一本触れさせん。いや、今回だけではなくこれから先も貴様は誰にも触れさせん、私だけに触れて、私だけを見て、私の言葉だけを聴き、私の作ったものだけを食べ、私の心だけを感じればいい、そうだ、そうしよう、何故私は今までこれを思いつかなかったのか、ああきっと今まで私も毒されていたのだ。だが、もう大丈夫だ、私は正気に戻った。これからは私と二人きりで生きていこう。そうだ、これからは私が、いや私と貴様が料理を作ることになるわけだが、私はそれほど料理が上手いわけではなくてな? 仕方ないだろう、私は元々戦う兵器として産まれたのだ、料理なんてからっきしだ。勿論、これからは貴様の味覚に合うような手料理を作れるよう努力していくつもりだ。そういえば貴様は料理は出来るほうなのか? もし出来るのならば教えて欲しい、仮に出来なくても気にはしないぞ? これからは二人で腕を高め合えばいいのだからな。それにしても、これはなんだか夫婦みたいだな。いや夫婦になることは確定事項なのだが、まだそういう実感が湧かなくてな。別に嫌ではないぞ? 寧ろ貴様とならきっといい夫婦になれると思うんだ私は。そういえば私は貴様の妻になるのだから、何時までも呼び方が『貴様』ではいけないな。やはり貴様のことは『あなた』と呼んだほうがいいのだろうか? いや強制するつもりはない。勿論、今までの呼び方でいいのならそれで良いと私は思っている。まあ、それはまた今後の楽しみとしてとっておこうか。ところで話は変わるのだが子供は何人欲しい? 性急だとはわかっているが、私だって女だ、そういう話題に興味が無い訳でない。私としては男の子二人に女の子一人が良いと思っているんだ。今は戦時中なわけだからなやはり男児は多く必要だと思うんだ。それにこれは私の我儘なのだが、四人姉妹だったから男の兄弟というものに憧れていてな。将来は立派な皇国男児に育て上げるつもりだ。女の子のほうは、ほら、私がこんなんだろう? だから大和撫子とはいかなくてもお淑やかな子に育って欲しいと思うんだ。勿論こういう教育方針というのは夫婦で話し合って決めなければいけないのはわかっている。だけどしっかり意見は伝えておかなければいけないと思ってな。男だから女だからと変な先入観にとらわれて、本来なら永遠に愛し合えるはずの私たちが別れる事になるなんて、そんなことは有ってはならないんだ。だからお互いに意見や考え、不安や悩みがあったら共有し、助け合って生きていかなければいけないと私は思っている。貴様もそう思うだろう?」

    ……うんっ! そうだなっ!

    などと言うと思うか。





    ……とにかく、那智を説得しなければ。





    ……腹減ったなぁ。

    114 = 113 :

    ・本日 ここまで

    ・時間の流れが おかしい orz

    ・ヤンデレとか メンヘラとか 依存とか 難しい もっと 学ばなければ

    ・感想 要望 改善等 あれば どうぞ

    115 :

    おつ
    重巡でこれなら戦艦や空母がどうなるか楽しみだわ

    116 :

    乙です
    足柄さんだけが癒しだった(絶望)

    そういやここってsage進行なんですかね?

    117 :

    乙です。

    こんな那智初めて見たかも。

    118 :

    この鎮守府の規模はどんなもんなんだろ
    ひと月に一度とかそんな頻度でしか秘書艦になれなかったら、暴動が起きそうな病みっぷりだけど

    119 :


    瞳を青々と輝かせる那智の様子に気づいたのか、妙高が那智の肩に手を掛けようとする。

    羽黒は艤装を展開、連装砲を那智の後頭部に向ける。貫通したら私にも当たるぞ。

    そんな二人を足柄が食い止める。妙高の伸ばした腕を押さえ、羽黒の連装砲を下げさせる。

    足柄が流し目で私に目配せする。助かる。

    今妙高に出張られたら、最悪、姉妹で砲口を向け合うことになる。

    ……もう羽黒は向けているけど。

    ともかく、足柄が二人を抑えている間に、なんとか那智を落ち着かせよう。

    先ほどの妙高と羽黒のときと違い、今度は冗句で現実逃避する余裕は無い。

    那智「どうした? 何故答えてくれない? 鉄屑どもに口封じをされているのか?」

    提督「違うよ」

    額と額を合わせる。

    提督「おまえがとても嬉しいことを言ってくれるから、我を忘れてしまったんだ」

    那智の背中に腕を廻し、出来る限り動きを拘束する。触れれば切り落とされそうな濡れ羽色の髪が、絹のように指先を擽る。

    那智は童のように瞳を爛々と輝かせ、笑みを零す。

    那智「そうか! やはり貴様もそう思ってくれていたか! なら待っていろ、今すぐこの那智の戦を見せてやる!」

    提督「まあ待て」

    離れようとする那智の身体を抱き留める。

    那智の言葉で妙高も艤装を展開、三式弾を装填した砲塔を下段に構える。

    足柄だけが、静観をしている。

    120 = 119 :


    提督「私ばかり聞くのも不公平だ。おまえも私の意見を聞いてくれないか。お互い共有するためにも、な?」

    はたと気づいた那智は、嬉しそうに目を細める。

    那智「あ……ああっ! もちろんだ! 何でも言ってくれ!」

    提督「そうだな……まず子供のことなんだが」

    那智「何だ!? もしやもっと欲しいのか!? 安心しろ、貴様のためなら何人でも産むぞ!」

    提督「落ち着け」

    額を強く押し付ける。

    提督「急いでは事を仕損じるぞ……最後まで聞いてくれるな?」

    上目遣いに、那智は小さく頷く。

    提督「私が気に掛けているのは子供の将来、特に社会環境についてだ。おまえは戦時ということを前提にしているが、私は平和な時代に子供を産みたい。そのためにも深海凄艦の殲滅は急務だ」

    羽黒が足柄の制止を振り切り、砲口を上げようとする。

    足柄は更に腕に力を入れ、羽黒の凶行を押し留める。足柄、耐えてくれ。

    提督「少しでも早く平穏な時代が訪れるようにするためには、仲間と協力するのが最も手っ取り早い。数は力、おまえもそれは身に染みてわかっているはずだ。今は猫の手も……いや、働いてくれるのならば、姿形は問わない。それが例え、お前の言う鉄屑でもな」

    誇大妄想に囚われ、妄言を吐き、奇行をするようになっても、本気で仲間を傷つけるほど那智は耄碌していない。

    でなければ、漣や曙が今でも那智を慕わないはずが無い。

    今の那智は私が原因で不安定になり、勢いに任せて言葉を吐いただけだ。

    だから、逃げ道を作ってやらなければいけない。

    那智「……私一人でも、十分だ」

    那智は目線を下げて、私の目を見なかった。

    「他の奴等は不要だ」とは言わなかった。

    言外に含ませているが、言葉にしなかった、その事実だけで充分だ。

    提督「わかっているよ。でも、おまえとの未来が少しでも早く訪れるためには必要なんだ。なにより、おまえ一人に背負わせるなんてこと、私には辛過ぎる」

    堪え切れなくなったのか、歯を噛み締め、憤怒を込めた目線の羽黒がとうとう足柄の制止を振り切る。

    砲身が上がり、砲口が私たちに照準を向ける。

    砲撃音が響くかと思われた瞬間、妙高が羽黒の前に立ち、私たちの壁になる。

    提督「子供たちと、穏やかな海で過ごしたいんだ……そんな私の身勝手な夢を叶えてくれないか、那智」

    私の言葉が終わって、しばらくの間、那智は下を向いたまま黙っていた。

    どんな気持ちが渦巻いているのだろうか。

    妙高と同じような気持ちを、那智も抱えているのだろうか。

    那智「……わかった」

    ほろ苦い顔をしながらも、那智は答えてくれた。

    121 :

    やはり正妻は足柄さんですね…
    間違いない(確信)

    122 :


    那智「だがせめて、傍に置いてほしい。それは駄目なのか?」

    提督「……一人だけ贔屓は出来ない。皆のためだ」

    那智の抱き締める力が再び強くなる。答えるように私も那智を強く抱く。

    提督「私としては、理解ある人が傍にいてくれたら嬉しい。おまえは……どうだ?」

    那智の刀のような双眸が、じっと私を見つめる。

    刀に雨露が滴る。

    那智「寂しい思いをさせたら……許さないぞ」

    わかっているよ。それで何度も痛い目を見た。

    刀に着いた雨露を舌で救い取る。

    舌の上で露を転がし、飲み込む。

    海の味がした。

    提督「その時はどこか遠くの土地へ行こうか、家族計画でも立てながらな……」

    その言葉で那智は私の首元に顔を埋めた。



    髪を梳きながら、慰める。











    ……いつか後ろから刺されるんだろうなぁ、私は……

    123 = 122 :


    那智の説得が終わり、私は足柄たちのほうに視線を向ける。

    足柄と目が合う。


    妙高と羽黒が対峙しているためか、足柄はずっと私たちの様子を窺っていたらしい。

    妙高は私たちに背を向け、羽黒の表情は妙高の影で見えない。


    足柄に目配せをする。

    足柄は私の目配せに気付くと、疑うような、心配するような目線を送ってくる。

    私は小さく頷く。

    足柄は私に頷き返すと、妙高に向けて片目を瞑って微笑み、手のひらを扇のように振る。

    妙高はこちらに振り向くことなく艤装を格納し、そのまま横へとずれる。



    阿修羅のような羽黒がそこに居た。



    羽黒は妙高から私たちに視線を移すと、瞳孔を開いて牙を見せるよう唇を裂かせる。

    そして、此れ見よがしにと那智の後頭部に砲口を向ける。


    私は、那智の後頭部を庇うように右手を添えた。

    羽黒が信じられないといった表情で私に訴えかける。

    私はただ、羽黒を睨んだ。



    出来得る限りの怒りと殺意を込めて。



    羽黒がどうしてそんな凶行に出るかはわからない。睨んでないで羽黒を説得しなければとも思う。妙高と足柄に頼んで力ずくで押さえつける方法もある。

    ただ、今は、那智を静かに抱き締めていたかった。

    私はただ、羽黒を睨んだ。

    羽黒の顔が青褪める。

    私はただ、羽黒を睨んだ。

    羽黒は首を横に振る。

    私はただ、羽黒を睨んだ。

    羽黒の瞳が潤んでくる。

    私はただ、羽黒を睨んだ。

    羽黒の瞳孔が揺れる。

    私はただ、羽黒を睨んだ。

    羽黒の瞳孔が揺れて、揺れて揺れて揺れて、揺れて揺れて揺れて揺れて揺れて、揺れて揺れて揺れて揺れて揺れて揺れて揺れて━━━━━
















    ━━━━━羽黒は、砲身を下してくれた。

    124 = 122 :

    ・本日 ここまで

    ・ギャグパート……

    ・更新を 分かり易くするため age ております

    ・コメントなどは sage ております

    ・感想 要望 改善等 あれば どうぞ

    125 :

    乙です

    更新がわかりやすくていいですね
    しかし重い、重いな…

    126 :

    おつ
    この重さがたまらんね

    127 :


    提督「那智、そろそろ服を着たらどうだ。風邪をひくぞ」

    那智は顔を離し、首元を薄眼で見つめたまま、ゆっくり口を開く。

    那智「……ああ、そうだな」

    瞳は黒色に、表情も一本筋が通ったいつもの状態に戻る。

    那智は私から身体を離すと、抱き締めていた腕を解き、振り返る。

    那智は、振り返った先にいた足柄、妙高に視線を移動させた後、羽黒に目を止める。

    羽黒は項垂れたまま床に座り込んでおり、その羽黒の両肩に妙高が手を置いて付き添っている。

    那智はそんな妹の様子に何も言わず、寝室に続く通路へ消えていった。恐らく、羽黒の行動を把握していたのだろう。

    那智がその場から居なくなり、私と足柄は同時に溜息をついた。

    提督「そういえば、お前たちはもう食事を済ませたのか?」

    羽黒のことは一旦妙高に任せ、足柄たちに朝食を済ませたかどうか確認する。まあ、那智が裸だったので、まだ食べていないだろうが。

    足柄「まだ食べてないわよ。ずっと待っていたもの」

    そうだろうな。

    足柄「那智の着替えが終わったら、一緒に食堂に行きましょう」

    提督「それなんだが……」

    足柄が首を傾げて、左人差指で頬を突く。

    提督「食事はそっちで済ませたいんだが」

    寝室の通路とは反対側、足柄の後ろを指で差す。足柄の後ろの通路の先には居間兼客間と台所があり、私室での食事はそこで普段済ませている。

    足柄「えっ?! もしかして」

    提督「言っておくが手料理はなしだ。間宮さんの所から食事を取って来てくれ」

    足柄が不機嫌な顔になる。

    「手料理」の言葉で羽黒が顎を少し上げて反応したが、私の言葉が言い終わるとすぐにまた俯いてしまった。

    足柄「む~、なによそれ~」

    提督「色々とあってな」

    妙高たちの様子を一瞬だけ窺う、艤装を格納した羽黒を妙高が胸元に抱き寄せ、乳児を寝かしつけるよう優しく背中を叩いている。

    二人の姿を見て、羽黒の治療に付き合った時のことを思い出す。フラッシュバックはほとんどなくなったはずだが、時折妙高があのように介抱をしている。

    今でも、羽黒が部屋に来る時は、粉末や錠剤などは目に映らないところに隠している。

    羽黒の行動に対してはもっと上手くやるべきだったか……胸が締め付けられる。

    足柄「ふ~ん」

    足柄から厭味ったらしい相槌を返される。

    那智「それで私たちを小間使いにするとはな」

    はえーよ、那智。

    島風ならともかく、お前らの制服は着替えるのに時間掛かるよな。

    一体どんな速さで着替えたんだ。化粧も完璧に決めてやがるし。

    提督「そういうつもりではないんだが」

    128 = 127 :

    ・本日 ここまで

    ・朝の点呼のシーンまでが 遠い orz

    ・このssに 需要は あるの だろうか?

    ・お知らせですが 9月下旬まで 更新できません 申し訳ございません

    ・感想 要望 改善等 あれば どうぞ

    129 :

    実に好みだよ
    次の更新を楽しみに待ってる

    130 :

    楽しみにしてるよ
    待ってるわ

    131 :

    乙です
    ヤンデレssは最近増えてきましたが
    ここくらい描写がしっかりしてるのは全然ないので楽しみにしてました
    再開待ってます

    132 :


    那智「ふっ、わかっているさ」

    那智はからかい気味に微笑むと、私の左隣まで近づいてくる。

    隣に来たところで腕を組み、肩を寄せ、私に顔を向ける。

    那智「足柄たちが戻ってくるまで、外で何をしていたか、じっくり聞かせてもらうぞ」

    那智の言葉を聞き、足柄が目をしばたかせる。

    足柄「あれ? 那智は行かないの?」

    那智は、干からびた花でも見るような目つきで、足柄を見る。

    那智「護衛が傍にいなくてどうする」

    足柄に返答すると、私の肩に頭を預け、視線を戻す。

    那智「なぁ?」

    同意を求める呼びかけとともに、那智の左手人差し指が、右の胸板に縦一文字を描く。こそばゆい。

    提督(困ったな)

    羽黒と話をしたいのだが。

    足柄「……」

    もう一度、羽黒に視線を向ける。

    羽黒は未だ俯いたままで、妙高は困った表情をしている。

    今の羽黒を食堂に向かわせるのは、妙高も好くないと思っているようだ。

    そう考えた瞬間、胸板に指が喰い込んだ。

    視線を那智に戻すと、鋭い目つきで睨みつけられる。

    那智「貴様……」

    足柄「はいはいはいはい」

    那智が何かを言い掛けようとした瞬間、足柄が割って入る。

    私と那智が同時に足柄に顔を向ける。

    足柄「那智の言うとおり、私たちは朝食を取りに行ってくるから、二人は部屋で待っていて頂戴」

    ……仕方ないか。羽黒のことについては、後ほど妙高から話を聞こう。

    足柄は、那智の訝しげな視線を無視し、私の正面まで近づいてくる。

    133 = 132 :


    正面まで来た足柄は、妖しげな笑みを浮かべると、私の下唇に指を当て、左端から右端へとその指を這わせる。

    手袋をまだ着けていないため、細くしなやかな指の感触が唇に広がる。

    足柄「待っていてね、提督。あなたの御口に入る食事を、私が、持ってきてあげる」

    含みのある言い方に、那智の表情が更に険しくなる。

    足柄はそんな那智を気にも留めず、今度は右端から左端に指を這わせる。

    足柄「ここに戻ってくるまでに、私の愛を、たっぷりと、籠めておくからね♡」

    込めるのは別に構わない、髪の毛や唾液ぐらいなら見逃してやる。だが血液は駄目だぞ、手料理禁止はそれが原因なのだから。

    那智「……待て、足柄」

    那智が、抜き身の刀のような気配を足柄に向ける。

    足柄「あら? どうしたの、那智? 私の愛を籠めた料理が提督と一つになることに何かご不満かしら?」

    なんだ、そのあからさまな挑発は。

    那智「ああ、不満だとも」

    その言葉を聞き、足柄は目を細めて微笑み、私の唇から指を離す。

    那智は私から腕を放すと、扉の前に立ち、取っ手を左手で掴む。

    那智は私と足柄のほうに振り向くと、鋭い表情をしたまま、右手で私の顔に指をさす。

    那智「貴様の口に入る食事は、足柄ではなく、私が持ってくる!」

    餓鬼かお前は。

    足柄「うふふ」

    那智「ふんっ」

    那智が部屋の外に出ると、足柄は妙高と羽黒のほうに向く。

    足柄「姉さん、行きましょう」

    妙高「……ええ……でも」

    不安を隠さず、妙高は羽黒を見る。

    羽黒は、未だ俯いたままだ。

    足柄「大丈夫よ、姉さん。ねっ、提督?」

    足柄は片目を閉じ、左手人差し指を顔の傍に立てて、私に微笑む。

    良い娘だよ、お前は。霞が信頼するだけのことはある。夫だ何だのという妄言が無ければだが。

    提督「ああ」

    妙高に向き直る。

    提督「妙高……」

    妙高「……かしこまりました」

    妙高は羽黒から優しく手を離す。

    それを見た足柄は、那智と同様、部屋の外へ出た。

    妙高は扉の前に来ると、不安な顔を私に向ける。

    妙高「提督、羽黒のこと、お願いします」

    返答代わりに頷く。

    妙高が取っ手に手を掛けたところで、ふと気になっていたことを思い出した。

    134 = 132 :


    提督「妙高」

    妙高「はい、なんでしょう?」

    妙高は、取っ手に手を掛けたまま、振り向く。

    提督「昨晩のことだが、私は夢を見ていたか? 寝言でも言っていたら、教えて欲しいのだが」

    妙高は、目を細めた。

    妙高「……よく寝ていらっしゃいましたよ」

    提督「……そうか」

    まあいいさ。

    提督「それとだが」

    妙高「はい」

    提督「食堂に行く前に、お前は着替えたほうがいいぞ」

    妙高が不思議そうに顔を傾げる。

    提督「さっきの蹴り……いい尻だったぞ」

    妙高は一瞬目を点にすると、すぐに目を見開いて顔を赤らめ、両手で前と後ろのスカートを押さえた。

    妙高「あっ、あの」

    提督「たぶん……丸見えだ」

    現在、妙高と私は下穿きを履いていない。ノーパンである。

    妙高「すぐに着替えてきます!!」

    提督「おう」

    妙高はすぐ様部屋の外に出た。

    廊下から声がする。

    「妙高、どこへ行くんだ?」

    「あなたたちは先に食堂に行っていください! 私も後で行きますから!!」

    妙高のものと思われる足音が、駆け足でこの部屋から離れていく。

    「……どうしたんだ?」

    「……さぁ?」



    それからしばらくして、那智と足柄の足音も、無くなった。

    135 = 132 :

    ・本日 ここまで

    ・再開

    ・艦娘の 勤務表が 難しい

    ・設定に 無茶が 出てきた orz

    ・提督の 性格が 滅茶苦茶に なってきた

    ・感想 要望 改善等 あれば どうぞ

    136 :

    おつ
    提督は改造かなんかで不安定になってるん?

    137 :

    いつの間にか再開してた…
    戻ってきてくれて嬉しい

    138 :

    足柄さんはマジ天使やでぇ……

    139 :


    妙高たちが居なくなったのを確認し、羽黒へ近づく。

    妙高たちがこちらに戻ってくるまで、そんなに時間はない。

    食堂が混んでいれば別だが、生憎今日は伊良湖も出番だし、大鯨と鳳翔も手伝っているだろう。

    提督(食堂が混む、か)

    皆が食堂に会するようになったのは、ここが穏やかになったということなのだろうか。


    項垂れ、座り込んでいる羽黒の前に片膝を着けて屈む。

    提督「羽黒」

    羽黒「……あ」

    羽黒が顔を上げる。

    先ほど砲口を向けてきた時とはまるで別人だ。生気が感じられず、目も焦点が合っていない。

    その目が私に焦点を当てる。

    顔が青褪め、唇がわななく。

    羽黒「あっ、あっあっあっ」

    提督「羽黒、落ち着「ごめんなさい!」

    羽黒は後頭部を手で隠し、身体を伏せる。

    ダンゴムシのように縮こまり、爆撃に怯える子供のように震えている。

    羽黒「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

    さすが姉妹だ、同じ言葉で謝ってくる。姉同様、耳障りで、五月蠅い。

    それにしても、この反応はどっちに関してのものなのだろうか、私が睨んだことに関してか、それともフラッシュバックか。

    前者ならば声を掛けてゆっくりと言い聞かせれば良いが、後者だと妙高が居ないと厳しい。また左足を折られるのは勘弁したい。

    数秒、様子を見る。


    羽黒「……」

    羽黒の言葉が止んだ。しかし、身体は震えたままで、歯がぶつかり合う音が響く。

    ……これ以上様子を見ても無駄だな。折られること覚悟で声を掛けるか。

    まあ、折られたら折られたで、また島風と一緒にリハビリに励めばいいだけのことだ。今度は摩耶に杖を壊されることも無いだろうし。

    141 :

    昔は食堂がガラガラだったのか…
    あっ(察し)

    142 :


    羽黒に声を掛ける前に上着を脱ぎ、それを羽黒に被せる。

    羽黒「……」

    歯がぶつかり合う音と身体の震えが止まる。

    羽黒が顔を上げて、いつもの不安そうな表情を向けてくる。

    羽黒「司令官さん……」

    羽黒の頭に右手を伸ばし、頭に乗せる。

    手を伸ばした瞬間は身体を強張らせたものの、羽黒は私の手を受け入れた。

    上手くいってよかった。以前だったら、ここで右腕が明後日の方向を向き、最悪使い物にならなくなっていたところだ。

    頭を優しく撫でてやると、羽黒は目を細めて穏やかな表情になる。

    しばらく撫でる。


    提督「羽黒、落ち着いたか?」

    羽黒「……はい」

    羽黒は頬を染めながら私の上着で身を隠す。

    提督「話がしたい、居間に行こうか」

    羽黒「はい」

    私と羽黒は立ち上がり、居間へと向かう。


    通路を抜け、台所の横を通り過ぎ、居間の壁際に置かれている長いソファーに座る。

    通路のほうを向くと、羽黒がソファーの傍で立ち止まっていた。

    提督「羽黒」

    右隣のソファーを軽くたたき、羽黒の名を呼ぶ。

    羽黒は小走りで隣に座ると、私の体にしな垂れかかる。

    羽黒「司令官さん」

    今にも泣きそうな表情をしながら、上目遣いに見つめられる。

    提督「どうした」

    羽黒「司令官さんは那智姉さんを選ぶんですか」

    提督「? なんのことだ」

    羽黒の瞳が潤んでくる。

    羽黒「だって、さっき那智姉さんと、一緒に、どこか、と、とお、とおぐで、遠くで……ひくっ……」

    泣くなよ、めんどくさい。

    提督「羽黒、落ち着け、ゆっくりでいい」

    羽黒「……ひぐっ……ぐあず……ぐすっ……どおぐで、ぐらずっで」

    そんなことを言った覚えはない。

    提督「大丈夫だ、羽黒、お前を置いて行ったりしない」

    右手で羽黒の肩を抱き、左手で後頭部を優しく撫でる。

    羽黒「でも、どおぐいぐっで、ぞばにいでおしいっで」

    鼻水を啜り、胸元で嗚咽を上げる。

    『遠くに行く』『傍にいてほしい』確かにそう言ったが、そんな意味で言ったつもりはないのだが。

    べそをかく羽黒を慰めながら、那智との会話の流れを思い出す。

    143 = 142 :


    『━━━理解ある人が傍にいてくれたら嬉しい』

    『━━━寂しい思いをさせたら……許さないぞ』

    『━━━どこか遠くの土地へ行こうか』


    提督「……」

    三流恋愛小説の駆け落ちのワンシーンか何かか? いや、三流のものでも此処までひどくはないな、素人でもこんな台本書かんし。

    そもそも「理解ある人が傍にいてほしい」というのは「仕事の邪魔をしないでね」という意味で言ったつもりだったのだが、伝わっているよな?

    ……ともかく、ともかくだ、私は誰かと添い遂げるつもりはない。今の娘たちの中から誰か一人を選んだりしたら、流血沙汰しか見えないし。

    羽黒は恐らく誤解をしている。先ほどの行動もそれが原因か?


    羽黒「わだじ、じれいかんさんが、なじねえざんにとられるぐらいだったら、ごのてで!」


    それが原因のようです。涙と鼻水で汚れた顔に、再び修羅の如き双眸が宿る。

    羽黒の爪が胸板に刺さって痛い。このままでは殺される。


    ……殺されるのは別にいいか。むしろ、その後の羽黒のことが心配だ。後を追う、みたいなことも言っていたし。

    猿もどきが一匹死んだところでどうでもいいことだが、そのせいで娘たちに何かあるのはよろしくない。


    羽黒は胸板から右手を離し、中空に手を伸ばすと、艤装を部分的に展開する。妖精の技術は相変わらず恐ろしい。

    羽黒「ぎのうは、あんなにあいじでくれだ、んっ!?」

    羽黒の唇を強引に奪う。肩に寄せていた右手を後頭部に移動させ、左手を艤装が展開している手に這わせる。

    羽黒の左手が私の右肩を押して体を離そうとするが、時計回りに体の軸を少し動かし、そのままソファーに倒れこむ。

    手足を動かして抵抗してくるが、いや、唇を奪った時点で、抵抗する力はもうほとんどなかった。

    羽黒の右手から艤装が消え、這わした左手に指が絡まっていく。

    羽黒の左手は、押す力の替わりに、肩を掴む力が込もっていく。

    涙と鼻水が重なる唇の隙間に入り、磯の香りが口に広がる。

    145 = 142 :

    ・本日 ここまで

    ・改造については まだ先に なりそうです

    ・感想 要望 改善等 あれば どうぞ

    146 :

    羨ましいけど羨ましくないな

    147 :

    利き酒ならぬ利き妙高型
    風流ですね(白目)

    149 :

    艦娘達が壊れてなければただの淫語調教なのに、すぐ目の前にトラックが迫ってるような恐怖しかないな

    150 = 148 :


    羽黒「そ、そのあと、三回ずつしたん、ですけど……結局、一番早く逝かせることができたのは、足柄姉さんでした。その後、開店時間が近づいていたので、司令官さんを起こして鳳翔さんのお店に向かいました」

    起きたら全員裸で、頭はぼうっとしているし、体がだるいし、しかも汗をかいていたからシャワーを浴びんたんだったな。

    起きた時に目隠しと手錠がなかったから、たぶん寝ている途中に外して、足柄がどこかに隠したな。

    羽黒「お店に着くと他の娘も何人かいて、鳳翔さんからの挨拶が終わった後、しばらくお店で飲んでいました」

    提督「飲む?」

    酒をか?

    羽黒「えっ?」

    しまった。昨日の記憶がないことを羽黒は知らないんだった。

    提督「いや、何を飲んでいたか思い出していたところだ」

    羽黒「あ、司令官さんはソフトドリンクを飲んでいたんですけど、その、足柄姉さんが『しけた飲み方してんじゃないわよ~』ってお酒を勧めちゃって」

    あの馬鹿、私が下戸なのを忘れたか。どおりで昨晩の記憶が無くなっているわけだ。まあ、これで一つ疑問は解決したな。問題はあと一つ。

    というか羽黒、さっきも思ったが足柄の真似上手いな。

    羽黒「そしたら他の娘もお酒を司令官さんに飲ませ始めちゃって。中には口移しで飲ませようとする娘までいて」

    羽黒の語気が荒くなる。私の右手を掴む羽黒の力が潰れそうなほど強くなる。

    羽黒「私の司令官さんなのに!」

    提督「羽黒」

    左手で羽黒の後ろ髪を撫で、人差指と親指で髪一本一本をつまんでなぞる。

    提督「大丈夫だ。お前が守ってくれたんだろう?」

    羽黒「もちろんです」

    提督「そうか、ありがとう羽黒。羽黒は本当に頼りになる」

    怒りの表情から一変、酔い心地な表情になる。

    羽黒「……はい」

    提督「お酒を飲んだ後、私は酔っていたか?」

    羽黒「はい。司令官さん、ひどく酔っていて、姉さんたちに跡をお願いして、司令官さんを部屋へ連れていくことにしました」

    大方予想通りだな。酔って娘たちに酷いことをしていなければいいが。後で鳳翔に聞いてみるか。

    羽黒「そしたら、司令官さん、お酒を飲み過ぎたのかトイレに行くって言い出して、放っておけなくて私も一緒に行きました。トイレで司令官さんが、お、おちんちんの先から透明なお、おしっこを出して、凄く綺麗でうっとり見つめちゃいました」

    そこは放っておきなさい。


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