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    元スレ恭子「宮永を監禁してもうた……」

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    151 = 140 :


    ――――――――――――
    ――――――――
    ――――


    (遅いな……)

    辺りを見回しながら、帰ってくるはずの人物の姿を探す。
    自動販売機なんて公園の入り口にあったはずなのに・・・

    (どこまで買いにいったんだろ……)

    広場の隅にある時計は、あれからもう20分も経過している。
    咲は前のめりに脱力して、自分の膝の上に額をつけた。

    (ひょっとして置き去りにされたのかな)

    嫌な予感が一瞬心に浮かんだ。
    さっきまで楽しんでいた太陽の日差しが、急に暑苦しく感じてきた。

    (どこに行ったの……)

    勝手に自分を連れ去ってきて。
    今度は勝手に捨てるんだろうか。

    そう思って咲がふらりと顔を上げた時。
    恭子の声が聞こえた。

    152 = 140 :

    恭子「すまんかったな。長いこと一人にしてしもうて」

    済まなそうに苦笑しながら恭子が駆け寄ってきた。

    「お……遅いですよ!」

    ほっとした咲は思わず大きな声を出す。
    恭子はさしてそれを気にする素振りもなく近づいてきた。
    そして咲の額に冷たい缶をぴたりと当てた。

    恭子「ほら、宮永の好きなお茶や。公園の自販機売り切れててん。せやからちょっと遠出してもうたわ」

    堪忍な、と言いながら恭子が咲の隣に座る。
    額には玉の汗が光っている。

    (そんなの見せられちゃ、文句も言えないじゃない)

    お茶の缶を受け取った咲は「どうも」と照れくさそうにお礼を言う。
    それに笑顔で返してくれた恭子に安堵し、ほうと息を吐いた。

    (置いていかれたんじゃなかったんだ……)

    何故か安心している自分に咲は気付かないまま。
    真夏のきつい日差しの中、二人にとって心地良い時間が過ぎていった。

    153 = 140 :

    続きます。

    154 :


    末原さん大胆だな

    155 :

    末原さんが無理やりってんじゃなく
    咲さんの方から求めさせるのならエロもアリだと思う

    156 :

    監禁しておきながらあくまでプラトニックに仲を深めようとするあたりに狂気を感じる

    157 :


    咲ちゃんが明らかにまずい方向に引き寄せられてる…

    158 :

    乙 咲さん捜索願は出されて無いんだろうか

    159 :

    界さんは出張中だし夏休みだしで気付かれてないのかもな

    160 :

    夏休みでも部活はやってるだろう

    161 :

    焦らすなあ
    最後は微エロといわずにガツンとですね…

    162 :

    すばらしい

    163 :

    20分も放置して逃げださなかったか
    もう堕ちてるな

    164 :

    待ってるよー

    165 :


    ――――――――――――
    ――――――――
    ――――


    「暑い……」

    恭子の家の玄関に座りこんだ咲は、
    Tシャツの襟首を摘んでパタパタと仰ぎながらその場に脱力した。
    後ろから入ってきた恭子はそんな咲の姿に笑いながら通り過ぎていく。

    恭子「久しぶりに太陽に当たったから疲れたやろ」

    言いながら風呂場に向かう。

    恭子「このまま買い物に出るから、先に風呂に入っとってや」

    風呂掃除をしているらしき恭子の声が玄関から聞こえてきた。
    疲れた身体を起こし、咲は風呂場に向かった。
    扉から覗くと、恭子は泡だらけになっている浴槽をシャワーで流している最中だった。

    「私一人で入るんですか?」

    不意に聞こえてきた咲の声に、恭子は少々驚いた顔を向ける。

    恭子「何や、寂しいんか?」

    冗談のように言われたその言葉に、
    咲は顔を赤らめ「そんなわけないです…」と答える。

    恭子「はいはい。ほな行ってくるし」

    シャワーを止め、蛇口をひねって浴槽にお湯を貯め始めた恭子は
    そのまま玄関へ向かおうとする。
    咲はとっさに恭子の服を掴んだ。

    166 = 165 :

    「やっぱり、その……一緒に入りませんか?末原さんも早くさっぱりしたいでしょう」

    遠慮がちにそう告げる咲に、恭子は戸惑いながら答える。

    恭子「あかんて……一緒に入ったら我慢できなくなるやろ……」

    その言葉に咲は一瞬怯んだが、すぐさま続けた。

    「昨日だって、全然平気そうだったじゃないですか……」

    恭子「えっ?」

    「とにかく、早いとこ一緒に入って汗を流しましょう」

    引かない咲に、恭子は苦笑を浮かべながら
    服を握ったままの咲の手を取った。

    恭子「そうやな。私も汗だくになったし……なら一緒に入るか」





    まだお湯が溜まりきっていない浴槽。

    恭子「ま、身体洗ってるうちに溜まるやろうな」

    言いながら、いつものように咲の服を脱がせる恭子。
    何の抵抗もなく脱がされている咲。

    その後恭子自身も服を脱ぎ始める。
    はじめて見る恭子の裸体に咲はどきっとする。

    「さ、先に入ってますから!」

    慌てて浴室の扉を開ける咲。

    わかった、と短い返事を背中で聞きながら、
    咲はシャワーのコックを捻った。
    ぬるいお湯が勢いよく流れ出てくる。

    167 = 165 :

    (何どきどきしてるの私……)

    少しばかり早くなった鼓動を落ち着けようと、
    咲はシャワーの温度を少し下げた。

    背後から扉の開く音が聞こえ、
    自分へと歩いてくる恭子の気配。

    恭子「なんや、水浴びしとるんか?」

    シャワーの水に手をかざした恭子の声が浴室に響く。
    咲はそれが水だということにも気がついていなかった。

    恭子「もうちょい温度上げてええか?」

    言いながら、咲の真後ろから蛇口に手を伸ばす。
    先ほどとそう変わらない位の温度に上げ、恭子はシャワーを手にした。

    恭子「ほな、頭から流すで」

    こくんと咲が頷く。

    目をつむって大人しく洗われる。
    その手の心地よさが、咲は好きだった。


    髪を洗い終え、普段を変わらない手つきで咲の身体をスポンジで洗っていく恭子。
    もちろんデリケートな部分は手で洗う。
    そこでいつも咲の身体はびくりと揺れる。
    恭子はさして気にする素振りも見せずに洗っていく。

    「……ぁっ……」

    浴室に響く甘い声。
    恭子はわずかに息を飲んだ。

    168 = 165 :

    「んっ……」

    念入りに泡のついた手で秘所を擦られ、
    鼻から抜けたような声が洩れる。

    (あ……、いつもより気持ちいいかも……)

    思い出してしまう、昨夜の感触。
    絶頂した時の開放感・・・

    「はぁっ……あっ……」

    恭子「……このままここでイクか……?」

    背後から囁いてくる恭子に咲はこくりと頷いた。
    恭子は「わかった」と短く返事をし、指を忙しなく動かした。

    くちゅくちゅと淫猥な音がシャワーの水音に混じる。
    恭子はもう片方の手で咲の胸に手を伸ばし、乳首を軽く摘んだ。

    「あぅ……」

    短く洩れた甘い声が、そこがイイのだと教えてくれる。

    恭子「気持ちええか……?」

    心なしか少々乱れたような恭子の声が、
    咲の鼓膜を甘く揺るがせた。

    「あぁっ……そんなにしたらイク……っ」

    ぬるぬるとした指の感触に秘所と胸を弄られる刺激。
    咲は耐え切れない快感を持て余した。

    恭子「いきたいか?」

    尋ねてくる恭子に何度も頷く。
    それに答えるように、恭子は手を早めた。

    「あっ!あぁ……っ」

    びくりと一際身体をしならせ咲が絶頂する。
    恭子は後ろから咲を支えたまま満足げに微笑んだ。

    169 = 165 :

    流れ出るシャワーのお湯が、咲の身体を綺麗に洗い流していく。
    乱れていた呼吸が元に戻った頃。
    咲は恭子を振り返った。

    (あ……)

    恭子の股の間から零れる透明の蜜。

    (この人、我慢してたんだ……)

    自分との約束を頑なに守ろうとしている恭子。
    だがその息は荒く、頬は赤く染まっている。

    咲はそっと恭子の秘所へと手を伸ばした。

    恭子「なっ!」

    驚いて目を大きく見開く恭子。

    恭子「宮永!?」

    恐る恐る触れてきた咲の指が恭子の秘所を弄った。

    「末原さんだって辛いでしょう……?」

    恭子はぎゅっと目を瞑り、その感触に身体を震わせる。

    恭子「あかんて……、あっ……」

    僅かに洩れた相手の声に、
    咲は恭子にしてもらった時のように指を忙しなく動かした。

    「私だけ良くしてもらったら悪いし……」

    恭子「……あぁっ!」

    私だけ触って貰ったら悪いなんて、半分言い訳。
    本当はちょっと貴方に触れてみたかったの・・・

    湯煙が上がる浴室の中。
    恭子も高い声を上げて絶頂する。

    やがて乱れた呼吸は元に戻り、
    咲の濡れた髪をくしゃっと掻き撫でた。

    恭子「とんでもないやっちゃな……」

    苦笑まじりにそう言う恭子。
    咲も同じように笑った。

    170 = 165 :


    ――――――――――――
    ――――――――
    ――――


    あれからどのくらいたったのだろう・・・
    今日が何日なのか注意深くTVを見ていなければ解らない。

    咲は日付を忘れてしまうほど、今の生活に慣れ親しんでいた。

    一人、部屋の中でぼーっとTVを見ている。
    部屋のベッドに寄りかかり、膝を抱えてため息を吐く。
    一緒に笑う相手がいなければバラエティ番組なんて面白くもない。

    恭子は学校の図書室に行っている。
    もうそろそろ帰ってきても良さそうな時間だ。

    階下で鍵の開ける音がした。
    咲はぱっと顔を上げる。
    急いで階段を下りると、そこには見慣れた顔が微笑んでいた。

    恭子「ただいま。大人しくしとったか?」

    優しげな声音で尋ねてくる恭子に咲はこくりと頷く。

    恭子「ご飯買ってきたから食事にしようか。腹減ったやろ」

    そのままリビングに向かう恭子の背中についていくように、
    咲もリビングに入った。

    恭子「今日はお寿司やで」

    「本当?」

    嬉しそうな咲の頭を恭子が軽く撫でる。
    その手の感触に咲は心地良さげに目を細める。

    その時。
    恭子の制服のポケットから音楽が鳴り響いた。

    「電話ですか……?」

    恭子「そうみたいやな……」

    ポケットから携帯を出しながら、
    恭子は廊下へと出て行く。

    171 = 165 :

    恭子「もしもし、漫ちゃんか……なんや、急ぎの用事か?」

    廊下から恭子の声が聞こえてくる。
    咲はその声に聞き入った。

    恭子「はっ?……今からって、あかんわ……そんなん言われても……」

    少し焦ったような恭子の声。

    (何か困った事でもあったのかな……)

    恭子「……分かった。少しだけやで」

    困った様子でリビングへと戻ってきた恭子は、
    寿司の入ったビニール袋を持って咲に声をかける。

    恭子「これ持ってって上で食べといて」

    「末原さんは?」

    恭子「これから漫ちゃんが来るねんて……」

    恭子「もう家の近くに来てる言うから、悪いけど2階上がっててくれへんか」

    そう言われて嫌だと言うわけにもいかず、
    咲は渋々2階へと上がった。

    程なく鳴り響くインターホン。
    鍵の開く音とともに、二人の声が聞こえてくる。

    咲はプラスチックの容器を開けながら
    かっぱ巻きを口に放り込んだ。

    (一人だと……味気ない……)

    少し開いた扉から二人の声が微かに聞こえてくる。
    面白くない。
    それじゃなくても今日は恭子が長めに外出していたせいで、
    ろくに話もしていないのに・・・

    (断ったらいいじゃない。私のこと好きなんでしょ……)

    そう思いながらため息を吐く。
    扉を開け、階段のところまで足を進めた咲は
    二人の会話を聞くことにした。

    172 = 165 :

    恭子「何や突然訪ねてきたりして」

    「先輩、最近私のことを避けてるから……」

    恭子「避けてなんてないわ。さっき学校でも言うたやろ」

    「そうですけど……」

    恭子「わざわざ家に来んでも、電話で話せばええやん」

    「他にも話がありましたし……」

    恭子「話?」

    「先輩、最近付き合い悪いですし。部にも全然顔を出してくれません」

    恭子「そんなん言われても、私はもう引退した身やし。それに用事もあったしな」

    「………先輩。最近清澄へ行かなくなりましたね」

    恭子「………」

    「宮永咲が部活を休んでるからですか?」

    恭子「……漫ちゃんには関係あらへんよ」

    「関係なくなんてありません!私は……」

    咲はその言葉に足元を見つめていた顔を上げた。

    (あの人、末原さんのこと好きなんだ)

    流石にこういう事に関して鈍感な咲でも、
    漫の態度には気が付いた。

    「私、先輩のことだから気にするんです」

    恭子「………」

    「好きです。末原先輩」

    恭子「……漫ちゃん。外散歩しながら話そか」

    咲は慌てて下から見えない位置まで移動した。
    家を出て行く二人の足音。

    咲は閉められた扉の音を耳にしながら、
    ただ立ち尽くしていた。

    173 = 165 :


    ――――――――――――
    ――――――――
    ――――


    あれから一時間以上。
    二人の出て行った扉は開く様子もない。

    (末原さんは知ってたのかな、あの人の気持ち……)

    空虚な瞳が天井を仰ぐ。
    TVをつける気にもなれず、咲はベッドへと横たわっていた。

    (何話してるんだろう……)

    考えまいとしても浮かんでくる思い。
    咲はぼーっと考える。

    (……そうだ。私なんでここにいるの……?)

    当たり前のように他人のベッドに横になっている自分。
    がばっと身体を起こし、部屋の中を見回した。

    見慣れた家具。見慣れた布団。
    使い慣れたTVやゲーム。
    心地よく感じ始めていた部屋の空気。

    (ここは私の部屋じゃない……)

    ゆらりとベッドから立ち上がる。
    棚に置いてあった自分の鞄を手に取った。

    (もう、帰ろう……)

    階段へと降りていく。

    (手も足も自由なんだ……)

    ここに留まる理由なんて一つもない。

    (もう……帰ってやる……)

    玄関のドアノブを握った手が僅かに震えている。
    その手にぽたりと、目から流れ出た雫が落ちてきた。

    174 = 165 :

    何だか寂しかった

    何だか悔しかった

    帰りを待っていたのは私だけで

    話したかったのも私だけで

    あの人は私を好きだと言ったくせに

    余裕がなくなっているのはいつも私・・・

    こんな所・・・こんな所・・・



    開けられた扉が小さな音を立てて軋んだ。
    赤く寂しげな夕焼けが、頬の濡れた咲の姿を映し出す。

    (せめて夜なら良かったかな……)

    戸惑いがちに踏み出した足が、
    寂しく長い影を引きずった。

    (私がいなくなったら、あの人は少しは悲しんでくれるのかな……)

    心の中で呟いた言葉。
    沈む夕日は聞いていただろうか。

    赤く輝き沈んでいく太陽は、
    最後の光を切ない色で灯し夜を連れてやってくる

    ――――
    ――――――――
    ――――――――――――

    175 :

    待ってた

    176 = 165 :

    家の玄関を開けると、つんと埃の匂いが立ち込める。

    留守電には部内の皆、とりわけ和からのメッセージが山ほど入れられていた。
    心配してくれていたのだろう。
    早く返事を返さなくてはとは思うものの、今は誰かと会話する気にはなれなかった。

    咲はベッドへと横たわる。久しぶりの自分の布団。
    この上で眠っていたのが嘘のように違和感を感じた。

    折角帰ってきた家なのに・・・

    (全然嬉しくないなんて……)

    こんなにも心が空虚なのは何故なのか。
    咲は自分で自分の心を計りかねていた。

    恭子と過ごしてきたこの2週間。
    咲にとって決して嫌なものではなかったのだ。

    何時でも自分を大切にしてくれる存在が
    身近にいる安心感。

    最初の方こそ「逃げ出したい」なんて思ってはいたものの、
    いつしか恭子の帰る時間が待ち遠しくなっていた。
    玄関の開く、あの瞬間を。

    (私は待ってたんだ……)

    静かに目を開くと、星の瞬く夜空がカーテンの開いた窓から見える。
    見慣れていた筈の景色なのに・・・落ち着かない。
    大体自分の部屋の景色なんて、そんなにまじまじと見たことがあるはずない。

    恭子の部屋にいた時は、他にすることもなかったから。

    待っている間中、外の景色を眺めたり。
    ぼーっと部屋の中を眺めたりしていた自分。

    今となってはあの部屋が恋しいような気さえしてくる。

    (でも、もうどうでもいい……やっと解放されたんだ……)

    177 = 165 :


    ――――――――――――
    ――――――――
    ――――


    暗くなった部屋に咲の姿はなかった。

    開けた自室の扉に寄りかかったまま、
    恭子はずるずるとその場にしゃがみ込んだ。

    恭子「当たり前のこと、やんな……」

    消えた咲の鞄と靴が、
    これが幻ではないと映し出す。

    さらってきたこと自体が幻だった・・・

    そんな感覚に一瞬囚われるも、二人分の寿司が目に映る。
    そのうちの一つは半分ほど中身が減っていた。
    それが先ほどまで咲がこの部屋にいた事を示している。

    恭子はのろのろと起き上がり、
    咲が残した寿司を一つ拾いあげた。

    恭子(宮永はホンマお寿司が好きやったな……)

    美味しそうに食べている姿に何度魅入られたことか。
    恭子は小さく笑った。

    摘み上げる指先にシャリが挟まる。
    乾いた米粒。

    どれくらいこの部屋で自分を待っていたのだろう。
    今日だけじゃない。
    この部屋で、この2週間何もしないで、ただじっと・・・

    いつ帰ってくるかも解らない自分を待ち続けた咲。
    そんなに心細かっただろうか。

    いつまでたっても口数こそ増えはしなかった。
    だが、自分を見る瞳が段々と穏やかなものになっていっている、
    そんな感覚はあった。

    178 = 165 :

    干からびた寿司をビニール袋に詰め終わり、
    恭子はゆっくりと立ち上がる。

    恭子(これで良かったのかもしれへんな……)

    どうせずっとここに置いておけるわけもない。
    夏休みが終われば学校も始まる。

    良い思い出の沢山できた、充実した夏休み。

    恭子(そう思わせてもらっても……ええやろうか……)

    ぽたり、ぽたりと床に雫が落ちていく。
    頬を伝う涙は止まらない。

    静かに更けていく夜のとばりのなか。
    恭子はゆっくりとベッドに横になった。

    もう何もする気が起こらない・・・
    2週間ぶりに横たわった自分のベッドは、何だか他人のものの様だった。

    柔らかく冷たい布団から、
    咲の匂いが俄かに鼻孔を擽る。

    もう動く事も面倒で、呼吸する事さえ面倒だった。

    何もしたくない。何も考えない。

    一人になったこの部屋では、きっと何をしても
    楽しくは感じられないだろうから・・・

    179 = 165 :


    ――――――――――――
    ――――――――
    ――――


    「先輩、また食べてないんですね……」

    鼓膜を震わす声の主に視線も向けず、
    恭子はベッドに横になったまま。

    「明日は夏休みの最終日なのに……こんな状態で学校に通えるんでしょうか」

    全く手の付けられていない食事を見つめて
    漫はため息を吐いた。




    咲がいなくなった日から3日がたとうとしている。
    その間、恭子はただ生きているだけだった。

    漫が恭子の家を訪ねてきた時は
    蒸し風呂の様になっていた家の廊下で恭子が倒れていた。

    熱に浮かされた様に、咲の名を繰り返し呼ぶ恭子。

    漫はそんな先輩を放っておく事などできなかった。
    たとえそれが、自分を振った相手でも。

    「先輩……何か食べないと身体が持ちませんよ……」

    心配げに向けられた視線。
    それでも恭子は動かない。

    漫はグラスを恭子の唇に押し当て、
    強制的に水を飲ませた。

    滅多に瞬きさえしない瞳。
    何も考えてなさそうな空虚なそれは生気を感じられない。

    「明日また、来ますから」

    寂しい声音で呟いた漫は部屋の扉を閉めた。

    180 = 165 :

    夕方の朱色の空が視界の端で輝いている。
    しかしそれさえ目に入っていないのかも知れない。

    恭子の目に映っているのは咲の姿だけ。
    この部屋で共に過ごした残影が、部屋のあちこちに映し出される。

    床に食事を広げ、二人楽しく話しながら食べたこと。
    ベッドに寄りかかって、TVを見て笑う咲。
    眠れない、と話し相手を求めてきたこともあった。

    沢山の思い出が部屋中に込められている。
    だから、ここが幸せ。
    ここから動くと咲の幻が消えてしまいそうで・・・

    今の自分を見たら、咲は何と言うだろうか。

    恭子(そうやな、宮永ならきっと……)


    「何してるんですか。死にそうになってますね」


    ああ、多分そんな風に言ってきそうだ。

    とうに夕日の沈んだ暗い部屋に、
    浮かびあがる想い人の残影。

    その姿がゆっくりと近づいてくる。

    ベッドの端に腰を下ろした咲は、
    いつもは恭子がしていたように優しく髪を撫でてきた。

    「そんな元気のない末原さん、はじめて見たかも」

    言いながら、何度もその手が髪を梳く。

    恭子(そうやったか?いつもこんなんやで)

    言いかけた口が、動かない。
    乾いた喉から声が出ない・・・
    かすれた空気だけが僅かな音として漏れ出した。

    「そんな末原さん、魅力ないですよ」

    少し切なげに見下ろされた瞳から雫が溢れ、
    恭子の頬に落ちてきた。

    温かい・・・温かいな・・・

    波紋のように恭子の心に浸透していく。
    落ちてきた雫が頬を流れる感触。

    181 = 165 :

    恭子(幻覚やない……!?)

    久しぶりに自分の意思で瞬きをする。
    手を伸ばそうとすると、咲の身体が離れていく。

    恭子(待って、待ってくれや……)

    だるく重い身体を起こし、めいっぱい腕を伸ばした恭子を
    咲は静かに見下ろしている。

    帰ってきてくれるんか・・・

    戻ってきてくれるんか・・・

    伸ばされた手が僅かに震える。
    咲はそれを見て、小さく首を横に振った。

    「そんな貴方なら、私はいりませんよ」

    少しづつ、少しづつ遠ざかっていく咲の身体。

    恭子はベッドに張り付くような重たい身体を起こし、
    痺れる足で咲の傍へと駆け寄った。
    そしてありったけの力でその身体を抱きしめた。

    ベッドの残り香からしか感じられなかった咲の匂い。
    今、確かに自分の腕の中にある。

    恭子「そんなこと言わんといて……」

    かすれた声が響く。
    抱きしめられたまま、咲は胸に安堵感を抱えていた。
    そしてゆっくりと口を開く。

    「末原さんには私が必要ですか?」

    尋ねられた問いに恭子は大きく頷く。

    「私がいないと寂しいですか?」

    頷きながら、抱きしめる力を強める。

    「ねえ。私はどちらでもいいんですよ」

    その言葉に弾かれたように、
    恭子は咲の顔を覗き込んだ。

    182 = 165 :

    「末原さんが私を必要だって言うのなら、貴方の傍にいてあげます」

    夢のような言葉に、恭子は言葉も発せず
    ただじっと咲を見やった。

    「その代わり、一生私だけを愛して。一瞬だって他の人なんて見たら許さない」

    その瞳が魅惑的に光る。

    「貴方は一生私だけ見てて」

    愛してるなんて言わない。貴方が好きだなんて言わない。
    貴方が欲しいものは私だから・・・きっと言葉なんて必要ない。

    恭子「見てる……咲だけずっと見てる……」

    抱きしめた腕から熱が伝わる。
    もう離さない・・・そんな意思が感じられた。

    貴方の欲しい言葉は、言うつもりは『今は』ないから・・・
    聞きたかったら全力で私を愛して。


    暗い部屋のなか、二人は静かに抱き合う。


    恭子はやっと心から抱きしめた相手を放す事が出来なくて。
    咲はやっと心から抱きしめて貰えた腕を手放すのが惜しくて。

    だから、二人は抱き合ったまま・・・

    やがて長い夜が明ける。
    思いの通じ合った二人が新たに踏み出す明日が、はじまる。


    カン!

    183 = 165 :

    これで完結です。
    見てくださった方ありがとうございました。

    184 :

    亦野誠子さんがみなもちゃん時代の記憶を思い出して覚醒大座さん化放火魔咲に復讐する物語にも期待

    185 :

    乙 ハッピーエンドでほっとした

    186 :

    おつ
    末原さんが報われて良かった

    187 :

    完堕ち乙
    当人同士が幸せなら良いやね

    188 :


    シリアス物で最終的に咲さん優位な恭咲って初めて見た気がする

    189 :

    いや素晴らしい
    いいや素晴らしい

    190 :

    すばらやな

    192 :

    乙です
    漫ちゃんは切ないな

    193 :

    すばら!!


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