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元スレ八幡「やはり俺のアイドルプロデュースはまちがっている。」凛「ぼーなすとらっく!」
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sageの仕方わかんないからageてしまうが許してくれ。
ようやく追いついた。今まで読んだどのSSよりも最高に面白かった!
続き待ってるよ!
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>>506調べろよ…
*
あの後、焼却炉にて無事にゴミを処理し終えた俺たちは教室に戻り、その場で別れた。
掃除を終えたので俺は奉仕部の部室に、奈緒はシンデレラプロダクションへ。
学校へ来ていたのでてっきり休みだったのかと思ったが、この後しっかり仕事が入っているらしい。
どうやら、アイドル業の方は上手くやっているようだ。
……ただ、その割には少し元気が無かったようにも思える。
きっとその原因は、先程話した一ヶ月前の件だけではなく“あれ”が多分に効いているのだろう。
その証拠に、今日の会話中仕事関係の話は一言も喋らなかった。
落ち込んでいるのか、不甲斐なさを感じているのか、はたまた両方か。
正直に言ってしまえば、俺も一緒の気持ちだ。
本気で悔しいと思っているし、心の内のモヤモヤが晴れない。
彼女たちと同じように、俺も言葉に出来ない気持ちを抱えている。
……だが、そんな事は言えはしまい。
俺なんかよりもずっと、当人たちの方が悔しいに決まっているのだ。
悔しくて、辛くて、いてもたってもいられない。そう思っているはずだ。
彼女たちの方が、ずっと。
由比ヶ浜「ヒッキー……なんかちょっと元気無い?」
八幡「は?」
思わず、間抜けな声を出す。
考え事をしていたのもそうだが、予想していなかったその言葉に意表を突かれたのだろう。
見れば、由比ヶ浜は心配したような不安げな表情で俺を見つめている。
八幡「元気無いって……そう見えるか?」
由比ヶ浜「うん……気のせいかなーとは思ったんだけど、やっぱり、少しだけ……」
マジか。俺的には普段通り振る舞ってたと思ったんだがな。
雪ノ下「確かに、今日はいつにも増して気だるげな空気を纏っているような気もするわね。何かあったの?」
そこに雪ノ下も本から顔を上げ、会話に参加してくる。
いつにも増しては余計だ。どうせ纏うなら妖怪とか鬼纏いたい。
八幡「いや、何かと言われてもな…」
由比ヶ浜「あっ、もしかして昨日やってた結果発表?」
八幡「……」
……やっぱ、由比ヶ浜は見てるよなぁ。
図星。これ以上無いくらいの図星である。
正直あやふやに出来るならこのまま気のせいを通したかったが、バレてしまっては仕方がない。
まぁ、時間の問題でもあったからな。あんだけ大々的に取り上げれば、いつかは話題に上がるだろうとは思っていた。
今朝は省略したが、戸部もうるさかったし。
雪ノ下「なるほどね。昨日やっていた特別番組の結果発表。その結果がショックだったと、そう言うわけね」
納得したように呟く雪ノ下。
まさか雪ノ下も知っているとは少々驚きだったが、それだけ大きな話題だという事だろう。
昨日放送されたとある特別番組。
それは、足掛け一年やってきたあの企画の結果発表だ。
シンデレラプロダクション企画 『プロデュース大作戦』
それこそが俺がプロデューサーへとなれたきっかけであり、目的だった企画。
この企画の為に俺は凛をプロデュースし、そして様々なアイドルを臨時プロデュースしてきた。
結果的には、俺は最後までやり抜く事が出来なかったがな。
結局プロデューサーを辞めるという行為でしか、あいつの背中を押してやれなかった。
プロデューサーとしてそこに後悔は無い。
……だが、やはりあの投票結果は少し堪えるものがあった。
由比ヶ浜「……残念、だったね」
八幡「…………」
とても言いにくそうに、悲痛な面持ちで呟く由比ヶ浜。
そうだ。
結果的に言えばーー
凛は、シンデレラガールにはなれなかった。
結果は19位。
あのスキャンダルの騒動が起きる前であれば、考えられない数字だ。
元プロデューサーという贔屓目を抜きにしても、間違いなく凛は1位を狙える程の人気を得ていたと思う。
それが、トップ10にも入れないという結果。
やはりあの騒動が大分効いたのだろう。
……過ぎた事とは言え、どうしたって気分は沈む。
分かっていた事とはいえ、割り切れない思いはある。
正直、俺は落ち込んでいた。
当たり前だ。
凛をシンデレラガールにする為に、俺はプロデューサーとなったのだから。
それに臨時プロデュースした他のアイドルたちの事だってある。順位に納得出来ないのは、凛の事だけではない。
どうしたって、悔しいものは悔しいのだ。
俺が沈黙していると、他の二人も気まずくなったのか何も言わなくなる。
静寂が、部室の中を満たしていた。
ーーが、存外それも長くは続かなかった。
雪ノ下「……確かに結果は残念だったわね」
静かな部屋の中、雪ノ下が言葉を発する。
見れば、彼女は俺の事をじっと見つめていた。
雪ノ下「けれど、それでも私は素直に凄いと思うわ」
八幡「……?」
雪ノ下「だって、逆に言えば彼女は、あれだけの事があっても“19位”まで昇りつめる事が出来たんだもの」
そう言った雪ノ下の瞳は淀みなく、お世辞だとか、励ましだなんて気持ちは感じられない。
否。そんな言葉を、雪ノ下雪乃が言うわけがない。それは俺も良く知っている事だろ。
彼女は、本心から言っていた。
雪ノ下「私なんかよりも、あなたの方が分かっているでしょう。あのプロダクションで、“19位”という順位を勝ち取るのがいかに難しい事かをね」
由比ヶ浜「そうだよヒッキー! デレプロって言ったら、百……えっと…………ひゃくー……?」
雪ノ下「183名よ」
由比ヶ浜「そ、そう! 183人もアイドルがいるんだよ!? その中で19位だなんて凄いよ!」
雪ノ下に続き、由比ヶ浜までもが声を上げる。
恥じる事は無いと、その目が訴えかけてくる。
雪ノ下「もちろん、他の子たちもね。皆あなたが同情する程弱い子たちではないわ。そうでしょう?」
八幡「……雪ノ下」
きっと、今の俺はさぞ阿呆面に違いない。
雪ノ下も由比ヶ浜も、きっと俺を元気づける為に言っているわけではないのだ。
いや、そういった気持ちもあるのかもしれない。けど、本当に言いたい事はそうじゃない。
ただ19位という凛の結果を“悪い結果”だと、そう思ってほしくないんだ。
それは誇って良い結果だと、そう言いたいんだ。
183人ものアイドルの中で、凛は19位を勝ち取った。
それは、決して不甲斐ない結果なんかじゃない。
凛の、やってきた全てだ。
悪い結果だなんて、言えるわけがない。
八幡「……ああ。そうだな」
俺は思わず苦笑する。
全くもってその通りだ。
自分の情けなさが嫌になる。元プロデューサーでありながら、まさかこの二人に教えられるとは。
やっぱいつまでたっても、この二人には敵わない。
俺のその様子を見て、由比ヶ浜は安堵したように微笑む。
そして雪ノ下はーー
ーー雪ノ下は、何故か憤ったような顔をしていた。
雪ノ下「……大体、あの結果に納得出来ていないのは私も同じよ」
八幡「は?」
雪ノ下「何故……なぜ前川さんが28位という順位なのかしらーー?」
……え。
由比ヶ浜「ゆ、ゆきのん……?」
由比ヶ浜の呼びかけにも答えず、雪ノ下は拳を握りどこか遠くを睨みつけている。
心なしか、ぷるぷると震えているようにも見えた。
ゆ、雪ノ下さん……?
雪ノ下「本当におかしいわね。何故あれだけ可愛らしい子が28位なのかしら。歌唱力もあるし、前に出した写真集『みく猫ダイアリー ~31days~』も凄く素敵だったのに。投票券の為というのもあるけれど、3冊買うに充分過ぎる内容だったわ。しかもビジュアルだけじゃなく、幅広くジャンルを問わず仕事をしているし、何がいけないと言うのかしら。ええ、本当に。全くもって理解に苦しむわね」
何か溜まっていたものでもあったのか、喜々として語り始める雪ノ下。
若干、というか大分俺たちは引いていたが、雪ノ下に気づく様子はない。
……しかしまさか、雪ノ下が前川のファンだとはなー(白目)。
確かに出してた。写真集。
あの毎日違う猫と一緒に写真撮る日記形式のやつだろ。
猫好きもここまでくると、中々どうして何だか怖い。
だからやけにデレプロに詳しかったんだな……
由比ヶ浜「た、確か投票券って、関連グッズを一点買う毎に一枚貰えるんだったよね?」
八幡「ああ。あの様子じゃCDも買ってるだろうし、一体何票投票したのやら」
まぁ、元プロデューサーの立場から言わせてもらえばありがたい話だけどな。
こういうファンのおかげで、アイドルたちは成り立ってるんだし。前川も嬉しいだろ。……たぶん。
雪ノ下「しかも速報の時点では圏外……私が念を入れたから良かったものを、あのまま行っていたらどうなっていた事か……考えただけで恐ろしいわ」
八幡「おい。お前一体何した」
圏外から出るくらいに投票でもしたってのかお前……
一応31位以下が圏外となっているから、前川は速報から最低でも3人分順位を上げた事になる。いやまさか……冗談だろ。さすがに、うん。
由比ヶ浜「ま、まぁまぁゆきのん。落ち着いて、ね?」
さすがに見ていられなくなったのか、由比ヶ浜が雪ノ下を止めにかかる。
まぁ俺は面白いものが見れたから得した気分だがな。これ陽乃さんに教えたらどうなるんだろうか。
雪ノ下「……ごめんなさい、少し取り乱してしまったみたいで」
そして今頃になって羞恥心が湧いてきたのか、僅かに頬を紅潮させる雪ノ下。
気持ちは分かるぞ。俺も前に小町にやよいちゃんの魅力を聞かれた時、我を忘れるくらいに語ってしまったからな。
気づけば小町はおらず、普通にリビンゲでテレビ見てた。せめて聞けよ。泣くぞ。
由比ヶ浜「えへへ。でもゆきのん、みくちゃんが好きなんだ。猫繋がりってのは分かるけど、何か以外だなー」
雪ノ下「そ、そうかしら。……それじゃあ、由比ヶ浜さんは誰か応援しているアイドルはいるの?」
恥ずかしそうにしながらも、ふと興味が湧いたのか由比ヶ浜へと問う雪ノ下。
由比ヶ浜「え? あ、あたし? うーんそうだなぁ……やっぱり、城ヶ崎美嘉ちゃんかなー」
八幡「美嘉か。そういや、前に読モの時からファンだって言ってたな」
由比ヶ浜「うん。あっ、サインありがとね。宝物にするからっ!」
思い出したように、嬉しそうな笑顔を見せる由比ヶ浜。
こんだけ喜んでくれるなら、美嘉も嬉しいだろ。
……良かったー最後の最後で思い出して。
一ヶ月前のアニバーサリーライブで、何とかギリギリ頼む事が出来た。
まぁ、当人の美嘉は「こんなのいつでも書いてあげるよ★」とか言ってたけどな。
そんな簡単に会えるかっつーの。
雪ノ下「確か、由比ヶ浜さんも何点かグッズを買っていたわよね。城ヶ崎さんに全て投票を?」
由比ヶ浜「あー…うん。実は、そうでもないんだよね……」
八幡「? 他の奴にも投票したのか?」
由比ヶ浜「う、うん。とりあえず、8人に……」
八幡「8人!?」
思いのほか大人数に入れていた事に正直驚く。
何人かに投票する奴は確かにいるが、それでも精々2~3人がいいとこだからな。
しかし、なんでまた8人も……
…………。
八幡「……8人って、まさか」
雪ノ下「奇遇ね。私も今同じ考えに至ったわ」
由比ヶ浜「あ、あはは。やっぱり分かっちゃった?」
はぁ……なるほどな。
なんでそんな大人数かと思えば、そういう事か。
だが確かに、由比ヶ浜らしいっちゃ由比ヶ浜らしい。
由比ヶ浜「だって、せっかく仲良くなれたから、入れてあげたいし……」
雪ノ下「まさか、“会った事のあるアイドル全員”に入れるとはね。……でも、あなたらしいわ」
八幡「残りの一人は大方莉嘉だろうな」
凛に、卯月、未央、奈緒、加蓮、輝子、そして美嘉に莉嘉。
ある意味じゃ、とても分かり易い。
由比ヶ浜「最初は、美嘉ちゃんとしぶりんに入れようと思ったんだけど、そしたら卯月ちゃんが可哀想かなーって思って、でもそしたら今度は未央ちゃんがーってなって……そしたら、気づいたら結局全員に入れちゃった」
あはは、と苦笑いを浮かべる由比ヶ浜。
本当、どこまでも優しいこって。
思わず呆れてしまったが、しかし、由比ヶ浜らしいとどこか安心してしまった。
そしてそれは、雪ノ下も同じだろう。
雪ノ下「ふふ。色んな人に入れるのは良いけれど、あまりお金をつぎ込み過ぎない事ね」
由比ヶ浜「むー、それはゆきのんに言われたくないし!」
楽しそうに笑いあう二人。
しかしそんな中、俺はまた一人の少女を思い浮かべていた。
彼女は、この順位に果たして満足しているのだろうか。
悪い結果ではない。
胸を張っていい。
だがそれでも、ここがゴールじゃない。
ならば、きっと彼女はーー
雪ノ下「比企谷くん?」
八幡「っ!」
雪ノ下の声に、思わず身をすくめる。
いかんな。最近はどうも考え事に耽り過ぎだ。
雪ノ下「あなた、ちゃんと話を聞いていたのかしら」
八幡「悪い。ぼーっとしてた。……で、何の話だった?」
由比ヶ浜「だからー、ヒッキーは誰々に何票入れたの? やっぱりしぶりん?」
誰に、何票、投票したか。
その質問の答えを、雪ノ下と由比ヶ浜はじっと俺を見つめ、待っていた。
八幡「……俺はーー」
*
夕暮れの帰り道。
日はとっぷりと落ち始め、辺りは既に薄暗くなっている。
遥か遠くに見えるオレンジ色の夕日をぼーっと眺めながら、俺は足をゆっくりと進めていく。
結局、あれから新しい自転車は買っていない。
その内その内と思いながら徒歩通学を続けていたら、歩いて通学するのも悪くないと思い始めてしまった。
少し早く家を出て、音楽でも聴きながらゆっくり歩いていく。
帰りは夕日でも見ながら、日が沈めば星でも見ながら。
こうしてのんびりと歩くのも、案外良いものだ。
まぁ、それはそれとしてチャリは買わないといけないがな。
休日とかやっぱあった方が便利だし。
八幡「小~さな始ま~りの、メッセ~ジ~♪」
何となし、特に近くに誰もいなかったので歌を口ずさむ。
デレプロの曲はみんな好きだが、メッセージが特にお気に入りだったりする。良い曲だ。
しかしそこで俺は、ふと思い出す。
大体俺が帰り道とかで歌を歌っていると、誰かしらと遭遇する事を。
しかし既にもう遅い。俺の嫌な予感は、見事当たることになる。
それもーー
「あれ? 比企谷くんだー!」
八幡「ーーッ」
過去最大、面倒な邂逅で。
「ひゃっはろー! こんな所で会うなんて、偶然だねぇ」
八幡「……どうも」
本当に嬉しそうに、声を弾ませ、俺へと語りかける。
容姿も、挙動も、一つ一つが美しく、どこにも無駄な要素は無い。
どこまでも華麗で、どこまでも完成された彼女はーー
八幡「お久しぶりです……雪ノ下さん」
陽乃「ほーんと、久しぶりだね。比企谷くん」
どこまでも、嘘くさかった。
陽乃「今は、帰宅中?」
八幡「ええ、まぁ」
あくまで自然に、さも偶然通りがかったように振る舞う陽乃さん。
だが、そんな筈が無い。この人と“偶然”会うなんて、そんな事があるとは俺には思えない。
というか、あったとして信じたくはない。どれだけ不運なんだよ。
しかし陽乃さんそんな俺の気持ちを知ってか知らずか(いやたぶん分かってるんだろうな)、思案するように人差し指を顎に当てる。
そして名案! とばかりに笑顔になると、若干の上目遣いで俺に甘い声で語りかける。
陽乃「ねぇ、それなら今からお茶でもどう? 折角会えたんだし、お姉さん奢っちゃうよ?」
百点。百点満点だ。花丸をあげたくなる程に。
並の男なら絶対断らないだろう天使の誘い。
もう嫌になるくらいに男のツボを心得ているのが分かる。さすがは雪ノ下陽乃だ。
……だが、残念ながら俺は並の男ではない。
完璧なものを見せられれば、必ず疑ってかかる。陽乃さんのその挙動は、俺には悪魔の囁きにしか思えなかった。
本物の天使とは、やよいちゃん、もしくは戸塚の事を言うんだ。覚えておけ。いや覚えなくていいけど。
だから、陽乃のお誘いに対する俺の答えは決まっている。
八幡「結構です」
我ながら実に淀みない拒否。
答えるまで、1秒とかからなかった。
そしてそんな俺の返答に、陽乃さんは特に驚いた様子もなく。
陽乃「そうかー、そりゃ残念。でも、やっぱり比企谷くんはそうでなくちゃね」
微塵も残念そうじゃない笑顔で、ちっとも嬉しくない評価を頂いた。
元より、期待はしていなかったらしい。
つーか、外面完璧にするんならもうちょっと残念そうに装えよ……
陽乃「それじゃ、そこまで一緒に行こうよ。話しながらさ」
八幡「……まぁ、それくらいなら」
本当はそれすらも嫌だったが、ここで何を言ってもこの人は着いてくるだろう。
むしろ、これくらいで済んだと思えばいいかもしれない。
しかしこの人が徒歩とか、益々偶然会ったとは思えん。似合わな過ぎだろ。
陽乃「いやー、でも良かったよ。比企谷くんが変わらないみたいで。お姉さん安心しちゃった」
特に遅くもなく、早くもない足取りで歩いていく。
足が長いからか、陽乃さんの歩くペースは俺とさほど変わらない。
八幡「別に、安心するようなことじゃないと思いますけどね」
陽乃「そんな事ないよー、本当に心配してたんだから」
陽乃さんは、横にいる俺へと、その大きな瞳を向ける。
陽乃「まさか比企谷くんが……」
奇麗なその瞳は、しかしどこか仄暗い。
その奥に秘められた、何か。
陽乃「……アイドルのプロデューサーになる、なんてね」
俺はそれが、酷く怖かった。
八幡「……」
陽乃「何で教えてくれなかったかなー、そんなに面白そうなこと」
八幡「別に、わざわざ言う程の事じゃないですよ」
無邪気そうなその台詞に、感情の籠っていない声で返す。
これは本音だし、むしろ一番この人には言いたくなかった。
何か、面倒事が起きるに決まってる。
陽乃「まぁ、それでも入って一ヶ月くらいの時には知ってたんだけどね。あの会社には私の知り合いもいるし」
八幡「え……知り合い?」
陽乃さんのその発言に、思わず素に戻る。
デレプロに、陽乃さんの知り合いがいるだと?
ハッタリかとも思ったが、しかし恐らく陽乃さんはこういった事に嘘はつかない。
ということは、本当に……?
陽乃「その子のコネで、遊びに行きたかったんだけどねー。八幡ちゃま?」
八幡「ち、ちゃま?」
そしていきなりの不可解な呼び方に意表を突かれる。なんだ、そのキャラに合わない舌足らずな呼称は。
しかし陽乃さんは「ありゃ、知らないか。まぁあれだけ人数いればね」と勝手に一人で納得していた。
どうやら、その知り合いについて話す気は無いらしい。
陽乃「遊びに行こうと思えば行けたんだけど、止められちゃったからね。今回はやめといたの」
思い出すように、薄く笑いながら目線を上げる陽乃さん。
珍しく、その仕草にはいつもの嘘っぽさは感じなかった。
八幡「止められたって……」
陽乃「雪乃ちゃんだよ」
八幡「っ!」
雪ノ下が……?
思わず、目を見開く。
そんな話、あいつは何も言ってなかったのに……
陽乃「お願いだから彼とシンデレラプラダクションには関わらないで頂戴、って。怒る訳でもなく、頭を下げられちゃった。雪乃ちゃんったら、私がまるで悪さでもすると思ってるのかしらね」
……正直否定出来ない気もするが、今は言わずにおく。
陽乃「あんな顔して頼まれたら、さすがの私も断れないよ」
八幡「…………」
陽乃「……久しぶりだったな。雪乃ちゃんと、あんな風に何も損得考えずに約束したの」
それは、雪ノ下陽乃が見せた数少ない本心だったのかもしれない。
少しだけ寂しそうな、その笑顔。
たった一瞬だけのその表情を、俺は忘れる事は無いだろう。
陽乃「まぁ、最終的にはその約束も破っちゃったんだけどね♪」
八幡「おい」
そして一瞬が終わったかと思えば、陽乃さんは悪戯っぽく舌を出して最低な事を宣った。
いや、俺の感動を返して? つーかなに、何をしたの? 俺なんも知らないんだけど!?
俺の追求に「大丈夫だよ、色々ちょっかいかけたのは最近だから」と、のらりくらり躱す陽乃さん。
全然大丈夫な気がしないんですがそれは。
やはり、陽乃さんは陽乃さんであった。
それからしばし歩き、やがて岐路にさしかかる。
俺が自宅への道を行こうとすると、陽乃さんは反対の道へと足を伸ばし、振り返った。
陽乃「じゃあ、今日はここで。今度はちゃんとお茶に付き合ってね」
いつものどこか作り物っぽい笑顔。
俺は立ち止まり、少し考えた後こう言った。
八幡「……それなら、次は本気で誘ってくださいよ。行くかどうかはそっからです」
その言葉に陽乃さんは少し驚いた様子を見せ、その後意地悪く笑いながら言う。
陽乃「へー。それなら、前もってきちんとデートにお誘いしたら、君は来てくれるのかな?」
八幡「たぶん断ります」
陽乃「あはは、言うと思った」
まるで、予定調和のようなそのやりとり。
確認作業と言ってもいいかもしれない。
俺は陽乃さんが本気でものを言わないのを分かっているし。
陽乃さんは、俺が誘いに応じないのを分かっている。
信頼なんてものじゃない。
これは、もっと酷い何か。
そこで、ふと陽乃さんは呟いた。
陽乃「……比企谷くん。理性の怪物が愛を知ったら、どうなると思う?」
八幡「は?」
本当にいきなりのその問いに、俺は思わず間抜けな声を出す。
理性の怪物……?
一体何の話だ?
陽乃「……ううん。何でもない」
しかし困惑している俺に、陽乃さんは自分から話を打ち切る。
くるっと身を翻し、背を向け歩いていってしまった。
陽乃「それじゃ、またね比企谷くん。雪乃ちゃんをよろしくね♪」
最後に、いつもの明るい言葉を残して。
八幡「…………」
理性の怪物が、愛を知ったら。
その言葉にどんな意味があるのか、何を指すのか、それは俺には分からない。
だが、不思議と頭の中に残っていた。
八幡「……帰るか」
陽乃さんの背中を見届け、俺は自分の家へと向けて足を進め始める。
歩きながら思い返す、あの人との道中。
それにしてもあの人、妹好き過ぎだろマジで。
いや俺も妹大好きだけどね? もし万が一お茶でもする機会が来るのであれば、お互いの妹自慢に花を咲かせるのも良いかもしれん。
……まぁ、そんな機会が来るとも思えんがな。
一体全体、あの人は何しにやって来たのやら。
今日は何だかどっと疲れた。
朝から戸部のアイドル談義に付き合わされ、一色とかいうあざと生徒会長にも絡まれた。
そういや、奈緒にはゴミ捨て手伝ってもらったな。後でジュースでも奢ってやるか。
そんで放課後は、いつも通り奉仕部の部活。雪ノ下の意外な一面や、由比ヶ浜らしさを垣間見れた。
八幡「…………」
そこで思い出す、プロデュース大作戦の話題。
あいつは、今頃何をしてるのだろうか。
そう思ったら、俺はいつの間にか立ち止まっていた。
ポケットからケータイを取り出し、電話帳を開く。
ディスプレイに表示される、一つの名前。
八幡「……………………ぐっ…」
たっぷりと苦悶し、悩んだ末、俺は思い切って通話ボタンをタップした。
やべぇ、何かけてんだ俺。
よくよく考えると、仕事の用件以外で俺から電話をかけたのは初めてだった。
ケータイを耳に当て、プププ、という音の後コールが始まる。
もしかしたらまだ仕事中なのかとも思っていたが、案外、相手は早く出た。
凛『ーーもしもし? プr……八幡?』
一ヶ月前まではよく聞いたその声が、今じゃとても懐かしい。
……つーか、まだ呼び方慣れないのかよ。
八幡「ああ、俺だ。あー……すまん。今、忙しかったか?」
なんとか冷静を装ってはいるものの、内心はかなり焦っている。
いやだって、思いのほか早く出るんだもの。もうちょっと心の準備ってものをね?
凛『ううん、今は帰り道。もうそろそろ家に着くよ』
八幡「そうか、ならよかったよ」
凛『……どうかした?』
少し、暗めな声のトーン。
それは凛の元気が無いのか、それとも俺を気遣ってか。
俺には分からず、そして、何を言いたかったのかも分からなくなる。
八幡「あー、えっと、だな。…………げ、元気か?」
なんとも、情けない話の振りだった。
いや勿体ぶった末に出て来た言葉が「元気ですか?」って……猪木か俺は。
凛『あはは、何それ。まぁ元気かどうかで言えば……元気無い、かな』
電話越しでも分かるくらいの、空笑い。
元気が無いというその言葉、きっと本音なのだろう。
八幡「凛……」
凛『もちろん、分かってるよ。19位っていう順位が、今の私にとって充分過ぎる数字だってこと……でも、やっぱり私は、ここで終わるつもりはない』
次第に、凛の声が力強くなっていく。
熱を、帯びていく。
凛『約束したからね。私は、トップアイドルになる。だから、絶対にここで終わるわけにはいかないよ』
約束。
友達でも、恋人でも、プロデューサーでもない俺と交わした一つの約束。
その約束を守る為に、凛はただ頂きを目指す。
……本当に律儀というか何と言うか。
相変わらず、呆れるくらい真っ直ぐで安心したよ。
八幡「……そうか。けど、シンデレラガールにもなれないようじゃ先は長そうだな」
俺の軽口に、凛は「うっ……」と一転痛い所を疲れたように呻く。
凛『こ、今回はダメだったけど、第二回じゃ負けないから。……ううん、その次でもなれなくても、第三回もある。……絶対に、シンデレラガールになってみせるから』
だからーー
彼女は、凛は笑って言う。
凛『ーー待っててね。八幡』
八幡「……ああ」
今は隣じゃなくっても。
きっと、届かない距離じゃない。
この声も、それに乗せた、この気持ちも。
その後も雑談やら、最近の仕事やらの話をしながら歩く。
一応メールでの連絡は取り合っていたものの、電話をしたのはあれから初めてだったからな。
たまには、こういうのも悪くない。
凛『そう言えば、最近なんかウチの事務所から懲戒処分を受ける人がいるみたいだよ』
八幡「懲戒処分?」
なんだなんだ、穏やかじゃない話題だな。
一体何をやらかしたと言うのか。
凛『なんでも、プロダクションの情報を外部にリークしてたとかって。多分明日くらいにはニュースになると思う』
八幡「外部にリーク……それって」
凛『うん……たぶん、考えてる事で間違いないと思う』
八幡「…………まぁ、過ぎた話だ」
今更、どうこう出来る問題じゃない。
思う所が無いわけではないが、それでも、こうして終着出来ただけ良しとしよう。
むしろそれより気になるのは……
八幡「しかし何で今更発覚したんだ? もうあれから一ヶ月もたつってのに」
凛『それがなんか、提携してる別の会社から直々に調査が入ったみたい。詳しい事は私も知らないけど、そのおかげでリークが発覚したんだって』
凛のその言葉を聞き、俺は思わず立ち止まる。
思い出すのは、ついさっき交わした強化外骨格美女との会話。
……そうか。
そういう事、ね。
凛『? 八幡、どうかした?』
八幡「……いや、なんでもねぇよ」
俺は笑いを零すと、再び歩き始める。
こりゃ、本当にお茶する事になるかもな。
何か、礼でもしなきゃ顔向け出来そうにない。
八幡「つーか今更だけど、歩きながら電話してっと危ねぇぞ」
凛『それはそっちも、でしょ。いいじゃん、もう少しこうしていたいし』
電話から聞こえる声に耳を傾け、ふと、顔を上げる。
いつの間にか辺りは暗くなっており、見上げれば、星が瞬いていた。
まるで、いつか二人で見た景色のように。
凛『……また電話しなかったら、承知しないからね』
八幡「言っただろ。本当に暇な時は電話してやるよ……料金は、タダみたいだしな」
凛も、同じ景色を見ているのだろうか。
今は隣じゃない。
それでも、いつかきっと。
凛『うん……私も、待ってるから』
互いに違う道でも。
今はただ、歩き続けよう。
彼と彼女が、再び出逢うことを信じて。
了
というわけで、「比企谷八幡のその後」でした。大分長引かせてしまって申し訳ない!
次からは番外編をちょくちょくやっていく予定ですので、気長にお待ちください。
アニメ3話最高でした……!
次からは番外編をちょくちょくやっていく予定ですので、気長にお待ちください。
アニメ3話最高でした……!
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- 烏丸「実は俺もサイドエフェクトを持っているんだ」修「えっ、そうだったんですか」 (1001) - [49%] - 2015/9/28 11:30 ☆
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