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元スレ咲「人にやさしく」
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起こすの<アレモホシー コレモホシー モットホシ- モットモットホシイー♪>
お日様が顔を現しきるより早く、私達の毎日は始まりを迎える。
ベッドから離れたくない欲望を振り切って体を起こせば、堪らず欠伸が沸いてでた。
「ん、……朝か」
SSWiki :http://ss.vip2ch.com/jmp/1403096199
本日は幸いにも冷え込みは淡く、上に一枚厚手のものを着込めば苦痛なく過ごすことが出来そうね。と、眠気眼でぼんやりと思考を巡らせながら着替えを済ませる。
「アッチはもう起きてるでしょうね。ソッチは……まあ、うん」
そして、二階にある私室からリビングへ降りていった。
「珍しいことも有るものだ。まさか私とほぼ同時とはな」
すると、皮肉混じりにも嫌味のない透き通った声が聞こえた。
言葉の通りなら既にソファでコーヒー片手に寛いでいた彼女は起きてきたばかりということらしい。
因みに彼女の寝室は地下にある。結構広めのスペースだ。
更に言えば、もう1人の寝坊助は1階の個室を寝床にしている。
「アイツが自力で起きることなど皆無だ。諦めろ」
私が扉の奥に視線を飛ばしているのに気付いた彼女が口を差す。
それもそうねと適当に相槌を打った私は、ついでにといった調子で差し出されたカップを受け取り、湯気を放つ黒い液体をひと口含んだ。
「それはそうと、おはよう久」
「ええ、おはよう智葉」
久「そろそろ起こすとしましょうか」
智葉「……そう、だな」
ソファから腰を上げ、私達はノックもなしにもう1人の部屋へ遠慮なく上がり込む。
智葉「なんせ誰も起こさなければ寿命か世界が終わるまで起きなさそうな奴だ」
私は智葉の冗談でも誇張でもない意見に全くの同意を示す。
そう、アレを起こすのは非常に難しい。
彼女は目覚ましじゃまず起きない。
体を揺すっても「朝よ」布団を剥いでも「ほら起きて」瞼は凍ったまま眉は微として動せず「朝だぞ」頭を叩いても「起きろ」ベッドから突き落としても「……ったく」智葉渾身のヘッドバッドでも「いい加減に起きろ小瀬川白望────!!!!」不動を貫いている。
智葉「……これは」
久「……水風呂にでも投げ落とす?」
智葉「そうだな。久、腕の方を持ってくれ。私は脚の方を持つ」
「まって。水風呂はダルいから止めて」
そんな不穏な作戦に危機を感じたのか、床に寝そべったままではあるが制止を求めた。
侭に手を放し、ダルいのは此方だと言わんばかりの盛大な溜め息を吐く智葉。
智葉「嫌なら手間をかけさせるな。私達に起こさせるなとは言わないが起こされたならすぐ起きろ」
「それは違う、ベッドから落ちた時にはもう起きてた。…………でも頭突きで気絶した」
久「本当?」
智葉「嘘だろ」
「嘘じゃない」
私と智葉は顔を見合わせ、会話なくして検証方法を決定した。
智葉「じゃあ取り敢えず立て。私はまだお前が起きてるのかすら確信してないからな」
なんせ放って置いたらすぐにまた惰眠を貪り始めそうだと智葉は指摘する。
「うぅ」
彼女はゆっくりと体を起こす。
その姿はやはり気怠げで、俗に言う生まれたての小鹿みたいだという感想を抱いた。
「これで良い?」なんて尋ねる表情は恐る恐る様子を窺っているようでも、或いは得意気のようでもあったが、しかし彼女はまだ床にべったりとお尻を着けたままだった。
智葉「いや、立てよ」
「……立たして」
智葉「甘えるな」
埒が開かないので私が肩を貸すとコアラのように縋り付いてくる。
久「せめて自分の足で立つ努力をね」
私が呆れた顔を晒すと、彼女は不服そうな、それでいて意に介してないような声色で。
白望「おはよ。久、智葉」
久「全く……おはよう、シロ」
智葉「ああ、おはよう白望」
やっとのことリビングに全員が集った。
そしてテーブルの上にトン、と置きたるは穴の空いた筒状の箱。
箱の中には万点棒、五千点棒、千点棒が一本ずつ入っている。
久「早速チョマくじをしましょうか」
私達3人はこの家屋『3ぴーす』でルームシェアするにあたって幾つかのルールを決めた。
その内の1つが『コレ』であり、1日の役割を決めるものである。
智葉「起きた順で一番目に振るのは私だな……千点棒か。掃除だ」
久「げ、万点棒。洗濯かー智葉ー代わっt「断る」ぐぬぬ」
シロ「(最後なら籤振らなくて良いからダルくない)」
因みに五千点棒は食事係だ。
それぞれの役割が決まった所で各々行動を開始する。(シロは智葉が淹れたコーヒーを飲み干すまで動かない算段らしい)
久「はぁ、シロじゃないけど洗濯係はダルいわね」
私は愚痴を零しながら3人分の洗濯物を抱え、玄関から外に出た。
そう、我が家の洗濯機は屋外に設置してあるのだ。スペース的には中に置いても何の問題も無い筈なのに。
加えて機械にかけた洗濯物を干し、乾いた前日の洗濯物を取り込んでアイロン掛けしなければならないのを考慮すると他の2つに比べて重労働なのは明らかだった。
久「あら、これは?」
衣類全てを洗濯機のドラムに放り終えて地べたに腰を下ろしたのも束の間、視界の端に引っかかったのは分厚い封筒。
誰かの落とし物かしら?なんて、何の気なしに手に取って。
中身を覗いてみる。
久「……!!、!?、!!!!?!!?」
その非現実的な物体を前に世界が白熱し、天地がひっくり返ったような錯覚に陥った。
久「落ち着け、落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け」
夢に違いない。
深呼吸を数度、柔軟体操も軽く、冷静さを取り戻す。
久「わお」
夢じゃなかった。
私は居ても立ってもいられず『3ぴーす』の中へと駆け込んだ。
久「智葉! シロ! 事件よ事件!」
リビングに舞い戻ると智葉と白望は既に当番を終え、先に朝食を摂っている所だった。
あーん、と口を開ける白望。その中に食べ物をつっこむ智葉。
仲が良いというよりは主人とペットみたいで。
智葉「なんなんだ一体」
白望「もぐ、そんなに声を荒げて……もぐ、どうし。もぐ、た。もぐ、の?」
久「……」
まるで緊張感のない光景に気が抜けそうになるが、構わず続ける。
久「2人とも、耳かっぽじってよく聞きなさい」
智葉「分かったからさっさと話せ」
久「ふふふ……くふ、それがねっ、あのねっ、ぬふふふふ」
智葉「なんだコイツ」
白望「ダルい」
久「じゃじゃーんっ!」
結局、不気味な笑いを堪えきれないので口で説明することを断念し、彼女ら自身の目で確認してもらうことにした。
封筒の中身をテーブルの上に広げる。
智葉「……おい」
白望「すごいね。これ、どうしたの?」
それは厚さ数cmはあるだろう福沢諭吉の束。
目を見開いて驚嘆する2人に、そうよその表情が欲しかったのよとカメラマン的な感想を得て心の中で握り拳を作った。
智葉「で、だ」
久「?」
こほん、と智葉は喉を鳴らし態度を改める。
智葉「大金を拾った。それはいい。……が、これを久はどうしたいんだ? まさか使ってしまおうだなんて思ってないだろうな」
そして鋭く細められた眼で、訝しげに睨み付けられた。
智葉「落とした人は間違いなく困っているだろうな。持っているだけで危険に晒される可能性がある。綺麗な金だという保証もない。警察に届けるべきだ」
そうだろう? と智葉は淡々と告げながら私に肯定を促そうとしてくる。
確かに、彼女の言うことは正しい。
しかし私はこの札束を手放したくないと感じていた。
久「使うというのは論外だけど……警察に届けるというのは反対だわ」
それは物欲による金惜しさでは決して無く、悪待ちで鍛えた第六感が囁くのは出逢いの予感。
私は、この札束の入った封筒を私が拾ったということに縁を感じる。
智葉「は?」
白望「なんで?」
表情を一層しかめる智葉と、きょとんとただ純粋に疑問を漏らすだけの白望。
2人を説得する方法を模索する為に、私の都合の良い脳みそはこんな時だけ光の速さで回転した。
久「だって封筒に記名は無し、札束以外に何も中に入ってなくて持ち主の手がかりはゼロ。そんな落とし物、一体誰が自分の持ち物ですって証明できるのかしら?」
白望「……それはお金を落としたって知ってることが証明になるんじゃないのかなぁ」
白望は普段はとぼけたような性格なのに、状況に惑わされず思考し、且つ相手の感情を察するのが物凄く巧い。
久「本当に?」
だからこそ、それを逆手に取る。
智葉「何が言いたい」
久「この落とし物の存在を知っているのが元の持ち主と私達だけじゃなかったらってこと」
智葉「持ち主を騙る者が現れるかもしれないということか? そんなの、私達が気にしても仕方ないだろう」
久「でも拾ってしまったら正しい持ち主に返したいじゃない。 他にも私達の誰かがうっかり口を滑らせて人から人へ悪い奴へ……ってことも有り得るしね?」
智葉「ちっ」
舌打ちし、苦い顔を隠そうともしない智葉。
彼女はこういった汚い手口を嗅ぎ取ることに関して非常に敏い。智葉だけに。
どうやらもう感づいたご様子で。
智葉「(つまり久は暗に私達を脅している訳か。警察に届ければ誰かしらに協力してもらい金を回収する、と)」
白望「……じゃあ、久は自分で持ち主を探し出したいんだ」
久「そうそう、ってシロは手伝ってくれないの?」
白望「……だる」
いけど仕方ないから手伝う、という意味。悪しからず。
智葉「まあ持ち主に返す気が有るなら構わないが、それまで誰が責任を持って保管するんだ?」
智葉にもある程度の納得は貰えたようで、話は次のステップへ。
智葉「久に任せるとふとした瞬間に使い果たしてしまいそうで恐いんだが」
久「そうね。智葉に任せると偶然出逢ったお金に困ってる人に善意で渡してしまいそうで不安だわ」
白望「因みに私に任せたら『レッドライン』のツケを払ってきちゃうから却下で」
3人「「「………」」」
やっぱり警察に届けた方が間違いないと痛感するが、ここまで話を進めた以上は貫き通すことにした。
久「ここは3人で等分しましょうか」
白望「えっ」
智葉「そうだな。それならもし何かあった場合のダメージも少なくて済む」
白望「ちょっと」
久「あら、その場合は自己責任でお願いね」
白望「待って」
智葉「おまえが一番危ういんだよ馬鹿久」
白望「私の話を聞いて」
智葉「ところで洗濯は終わったのか?」
久「あっ」
白望「ねえってば」
智葉「さっさと終わらせろよ。飯が冷める」
久「はーいっ」
白望「だ、だるい……」
本日はここまで
このSSは久咲、シロ咲、智葉咲、その他諸々の提供でお送りします
このSSは久咲、シロ咲、智葉咲、その他諸々の提供でお送りします
乙、期待
役者は香取、加藤、松岡の三人だったよね、本当に懐かしいわ
役者は香取、加藤、松岡の三人だったよね、本当に懐かしいわ
乙
近ごろ咲中心のssが少なかったのに
こんな読み応えありそうなの出されたら毎日更新期待してしまうわ
近ごろ咲中心のssが少なかったのに
こんな読み応えありそうなの出されたら毎日更新期待してしまうわ
感想ありがとうございます
なるべく間隔空かないように頑張りますので最後まで付き合っていただけると嬉しいです
投下します
なるべく間隔空かないように頑張りますので最後まで付き合っていただけると嬉しいです
投下します
それから札束の枚数を3人で数えることにした。
久「諭吉がひとーり。諭吉がふたーり」
智葉「普通に数えろ」
白望「諭吉が5人、諭吉が6人」
智葉「ほら白望が真似してしまっただろ。教育上良くないから止めろ」
久「はいはい智葉お母様」
智葉「お前のような子を産んだ覚えはないな」
結局、ぴったし百万円。
等分すると一万円余るので、どうせなら使っちゃう? と私が提案したが、即却下。
話し合った結果、いつだったか3人でお金を出し合って買った交通安全の御守りの中に、その1枚を畳んで入れて、テレビが背を預けている壁に吊すことにした。
そして残りの隠し場所をそれぞれが決めた頃、時計に視線を向ける。
久「良い時間ね。」
私達は1人1人、異なったバイト先で働いている。
私は喫茶店。因みに店名はマンハッタン……ではない。
智葉は外国人向けの日本語学校で講師をしている。
白望はスポーツショップだったか。何でもスキーやスノーボードが好きらしく、理由を尋ねたら『流れに身を任せてれば良いから』らしい。
一聞、格好良く聞こえるが本人の性格を考慮すると納得半分呆れ半分といったところだ。
久「それじゃあ2人とも宜しくね」
支度途中に話した、持ち主を捜す上での注意点について再度確認する。
久「人に聞く時は落とし物を探してる人がいないか、もしくはお金に困っている人がいないかのどちらかで、絶対にこの2つを一緒に聞いちゃダメよ?」
智葉「その辺は心得ている。任せておけ」
白望「とにかく片方だけ聞けば良いんでしょ」
私達は意味もなくアイコンタクトを送り合い、頷き合い、悪戯に笑い合う。
きっと偉そうな事を言う智葉も、背丈のある白望も、そしてどうしようもない程に私も。
心は子どものままで、心の底では、或いは心の底から、こんな日常の中にある非日常を楽しんでいた。
久「それじゃあバイト終わったら今日は久しぶりに『レッドライン』で集まりましょうか」
智葉「確かに最近ご無沙汰だったな。良いだろう」
白望「あそこだったら、何か知ってる人がいるかも」
私達は『3ぴーす』に背を向ける。
「「「いってらっしゃい」」」
同時に発した言葉は、私達が共に過ごす為に決めたルールの1つだった。
だから、返す言葉もやはり私達自身で決めたルール以外には有り得なくて。
「「「じゃあ、いってきます」」」
清々しい気持ちを胸に、そんな1日を毎日続ける為に。
───side智葉in日本語学校
ネリー「サトハ、おはよっ」
ダヴァン「サトハ、おはようございマス」
明華「おはようございます智葉」
ハオ「おはようです。サトハ」
智葉「ああ、おはよう。ネリー、メグ、明華、ハオ。みんな今日も元気そうだな」
「………」
智葉「? どうした」
明華「それが……」
ダヴァン「どうやらネリーのご家族が轢き逃げに遭ったよウデ、一命は取り留めたもノノ治療費もろもろお金が足りないみたいなんでスヨ」
智葉「(違ったか)……保険は入ってなかったのか?」
ハオ「入院期間が長くなりそうで補償額を超えてしまいそうらしいです。サトハ、どうにかなりませんか?」
智葉「そう言われてもだな」
ネリー「さとはぁ……たすけて……」
智葉「(これは他人の金これは他人の金これは他人の金)因みに幾ら必要なんだ……?」
ネリー「さんじゅう、さんまんえん」
智葉「くっ」
ネリー「……さとはぁ」
智葉「(どうする、どうする。辻垣門智葉────!!)」
…………
……
…
ネリー「サトハ、おはよっ」
ダヴァン「サトハ、おはようございマス」
明華「おはようございます智葉」
ハオ「おはようです。サトハ」
智葉「ああ、おはよう。ネリー、メグ、明華、ハオ。みんな今日も元気そうだな」
「………」
智葉「? どうした」
明華「それが……」
ダヴァン「どうやらネリーのご家族が轢き逃げに遭ったよウデ、一命は取り留めたもノノ治療費もろもろお金が足りないみたいなんでスヨ」
智葉「(違ったか)……保険は入ってなかったのか?」
ハオ「入院期間が長くなりそうで補償額を超えてしまいそうらしいです。サトハ、どうにかなりませんか?」
智葉「そう言われてもだな」
ネリー「さとはぁ……たすけて……」
智葉「(これは他人の金これは他人の金これは他人の金)因みに幾ら必要なんだ……?」
ネリー「さんじゅう、さんまんえん」
智葉「くっ」
ネリー「……さとはぁ」
智葉「(どうする、どうする。辻垣門智葉────!!)」
…………
……
…
久「お邪魔しまーす」
白望「お邪魔……」
時計は夜の8時を回って、私は白望と合流した後に『レッドライン』へと足を運んだ
晴絵「よー、いらっしゃい」
それは私達の姉貴分のようなそうでもないような赤土晴絵が経営する酒場である。
レッドラインの命名は考えなくても分かる通り彼女の名字から取ったものだ。
正直、正気を疑う。
晴絵「久、いま失礼なこと考えただろ」
久「あらやだ心外だわ。私は晴絵に足を向けて寝られないのはよく知ってるでしょ?」
晴絵「そりゃそうだ。3ぴーすからだと北枕になるからね」
とまあ、彼女とはこんな軽口を叩きあえるくらいの仲だ。
白望「晴絵、塞は?」
白望が口にする塞とは、臼沢塞のことだろう。
同じ高校で過ごした昔馴染みの友人だとか。
晴絵「今日は休みだよ。ははん、なーんだシロの癖に色気づいて……残念だったか?」
白望「少し、かなぁ。塞は私と違ってマメにみんなと連絡取ってるみたいだから、ちょっとみんなの様子について知りたかった」
晴絵「……つまんないやつ」
晴絵は自身が想像していた反応を貰えなかったせいか、不機嫌そうにグラスを置いた。
晴絵「ほら、久は杏子酒ロック。シロはホット烏龍だろ。久しぶりに着たからサービスだ」
それでもすぐさまコロッと表情を変え、いつもいつでも変わらなく接してくれる。
私達よりずっとずっと大人だけれど、他のどの大人よりずっとずっと私達に近い。
それが、私達3人が彼女に懐く理由なのかもしれない。
久白「「……いただきます」」
白望「あ、そうだ。晴絵、お金に困ってる人知らない?」
無料でいただいた心意気の一杯を空にしたところで、思い出したように白望が尋ねた。
晴絵「そりゃ私だろ。あんた達、一体いくら私の店にツケてると思ってんの」
久「あー」
藪蛇だった。
聞こえなーいと両耳を手で塞ぎながら、晴絵に聞くなら落とし物の方でしょ。という視線を白望に送る。
白望「あー」
そっぽ向かれた。
困った風に眉を曲げているものの、見ざる聞かざる我関せず。
久「実際、どれくらい溜まってるの?」
晴絵「そうだな、見積もって30万ちょっと? 以前のあんた達は毎日のようにここに通ってたからね」
久「シロ……」
白望「……久」
2人で椅子を180度回転させ、緊急会議を開催する。
もちろん晴絵に聴かれないようなひそひそ声で細々と。
久「どうする? 使っちゃう?」
白望「私もその方が良い気がしてきた。私達の平和の為に」
久「少しくらい良いわよね」
白望「1/3は少しじゃないと思う……」
智葉「良い訳ないだろ!」
いつのまにか智葉に背後を取られ、怒鳴り声と共にガツンと拳骨まで降ってきた。
腫れたたんこぶがぷすぷすと湯気を発していて痛いというより熱い。
お陰様で白望は動く気力を無くし、死んだ魚の眼で床に寝っ転がっている。
久「もうちょっと、手加減してくれても良いのよ?」
智葉「お前たちにはこれくらいしないと薬にならないだろ」
晴絵「あはは、智葉。お前も相変わらずだなぁ」
晴絵は苦笑いを零しつつ、智葉へのサービスドリンクを用意しようとする。
それを、智葉は手のひらを突き出して制止を促した。
智葉「晴絵、悪いが私達はこれで結構するよ。だから気遣いは無用だ」
智葉は白望を背負い、私の腕を掴んでレッドラインを後にしようとする。
晴絵「待ちな」
しかし、晴絵の芯の通った声は釘のように私達の体に突き刺さり、店から退くことを赦さなかった。
晴絵「なんだか知らないが何となくお前たちが金を持っていることは分かる」
私達は体が動かないなりにお互い顔を見合わせて。
晴絵「ツケは払える時に払いな」
今度こそ、意味があるアイコンタクトを発動し。
久「逃げろ!」
智葉「承知!」
白望「ダルい」
晴絵「あっ、こら待て!」
一目散に逃げ出した。
晴絵「あー……っはっは。たく、仕方のない奴らだ。見てて飽きないよ、ホント」
あっという間に店の影は小さくなり、街の光に呑まれて消えた。
白望「こんなに、はしったの、ちょー久しぶりかも……」
3人が3人、誰もが肩で息を吐き、冬なのに汗で全身びしょ濡れだった。
久「さーとはっ、貴女も一杯くらい飲んでからで良かったんじゃないの?」
智葉「馬鹿か、これ以上ツケを増やしてどうする。晴絵のあの言葉、至言だと私は思うぞ」
それもそうね、と智葉に返し、私はシャワーを浴びたい一心でふらつく足取りを前へ。
智葉「そうだ。言い忘れていたが」
ぼんやりと響く智葉の声を無視して前へと、そこはもう我が家3ぴーすの目の前だった。
智葉「見つけたよ。封筒の持ち主」
その玄関には膝を抱いて座っている人影が1つ。
雷鳴に撃たれたかのように意識が覚醒する。
白望「あれが100万の持ち主……?」
私が想像してたのは、儚げな美人か、もしくは悪党。
そんなドラマめいたことを夢想し、胸を膨らませていた。
───でも、そんなことは有り得なくて
「あっ……!」
こちらの存在に気がついた人影は、ちょこんと立ち上がり小さい歩幅で近づいてくる。
直線に並んだ電灯がフィルムのコマ送りのようにその姿を点々と映し出す。
それは年端も行かない女の子だった。
久「貴女、こんなところでどうしたの?」
怯えさせないよう、出来るだけ柔らかく優しい声音で語りかけることに努める。
「あ、あの……」
だって、まるで今にも泣いてしまいそうで。
泣いてしまえば、薄い氷か硝子のようにひび割れて粉々になってしまいそうだったから
「こ、これ」
差し出されたその手には、紙切れが1枚しっかりと握り締められていた。
震えて固まった指を1本1本丁寧に解いていき、取り上げて、内容に注目する。
そこには『この子をお願いします』とだけ綴られていた。
久「なによ。それ」
後ろを振り返り智葉と白望を見るが、2人は何も合図をくれずただ私の動向を眺めていた。
どうするかは私が決めろ。きっとそういう意味だ。
前に向き直り、深呼吸を1つ。
苛立ちを払い、頭を冷まして。
膝を折り、頭の位置を小さな彼女に合わせた。
久「私は久、貴女のお名前は?」
「え、ぅ。……さき、みやながさき」
久「そう、サキ。綺麗な響き、良い名前ね」
久「これから宜しくね。サキ」
乙、サキサンじゃなくて咲ちゃんかこの先の配役も気になる
そういや友達がこのドラマ出てたな、なつかしい
そういや友達がこのドラマ出てたな、なつかしい
覚えてる
シローシローだろ?
あれと似た期待を感じてる今日この頃
シローシローだろ?
あれと似た期待を感じてる今日この頃
それから3ぴーすの中でサキにここへ至るまでの経緯を聞こうとしたが、衰弱しきっていたらしくふと目を離した隙に彼女は眠り転けてしまった。
考えてみれば当然か。
最短でも今朝からついさっきまでのほぼ1日、何処へ行けば良いのかも分からず外を彷徨っていれば疲れ果てるしかない。
それも彼女のような幼い子供なら尚更だ。
サキ「すぅ……すぅ……」
ソファの上、私の膝を枕にして眠るサキ。
私は髪を梳くように彼女の頭を撫でながら、ぼんやりとその寝顔を眺めている。
規則正しい寝息は心地よく鼓膜を揺らし、感情の澱を濯いでいく。
智葉「久」
久「なに?」
ソファの後方、智葉は普段食卓を囲む椅子に座っている。
私と智葉は背中で向かい合い、互いの顔を見ないまま言葉を交わす。
智葉「おまえの決めたことだ。文句は付けないし、人として正しい決断だと思う」
久「うん」
智葉「ただ、他人を養う、面倒を見る、それも飯と寝床を与えれるだけでは生きていけない子供を。どれだけ大変なことか想像できるか?」
久「そんなの分かる訳ないわ。やったことないもの」
智葉「そうだな、その通りだ。……だが、今の話を聞いて少しでも怖じ気付いたり迷ったのなら止めた方が良い。きっとサキの人生を滅茶苦茶にしてしまう」
その言葉の1つ1つが私を試す。
敢えて私の不安を煽り、けれど決して大袈裟に言っている訳でもない。
───智葉が突き付けているのは、単なる事実でしかない。
智葉「幸いにもこの国にはサキのような子を預ける施設が少なからず有る。今から施設に預けることにしても、私は決して久を軽蔑したりなんかしない」
久「……うん、分かってる」
智葉が言いたいのは、中途半端に接して裏切るくらいなら最初から関わらない方がサキの傷は浅くて済む。
一緒に暮らすなら、それこそサキが自立するまで付き合う覚悟をしろ。……そういうことだ。
智葉「それでも心は、変わらないんだな?」
久「えぇ、もちろん」
智葉「そうか。なら私が言うことは特にない」
後は行動で示すべきことだからだと、智葉は言葉を加えた。
久「これから慌ただしくなりそうね」
私のベッドへ運ぶため、熟睡したサキを抱きかかえる。
途中、ふと窓辺で足が止まり外を覗くと、月明かりに照らされた1つの影が地面を蠢いていた。
久「さとはー、シロが外でダルくなってるから拾ってきてーっ」
智葉「あいつ、姿が見えないと思ったら何やってるんだか……」
ぶつくさ言いながらも重い腰を上げ、智葉はシロを迎えに行く。
私はシロを智葉に任せ、寝室に戻りサキをベッドに寝かせた。
「おやすみ、サキ」
きっとこれから楽しいこと、辛いこと、想像もつかない日々が待ち構えていることだろう。
考えなきゃならないことも沢山ある。
でも、それは明日の私に丸投げして、今夜はサキを抱き締めて眠ることにした。
翌日、時計のアラームの音がまた新しい1日の始まりを知らせる。
瞼を上げると、既に起きているサキと目が合った。
サキ「あの、その、ええっと……」
サキは視線をきょろきょろ泳がせ、俯いたり、赤面したり、とても忙しそうだ。
起きた時、出逢ってまだまともに会話もしてない人間が目の前にいたら当然の反応か。と思う。
久「サキ、おはよ」
サキを落ち着かせる為に頭をくしゃくしゃと撫でてやる。
サキ「あぅ、はぅ。や、やめて!」
逆効果だった。
びくりと体を跳ね上げ、思いっ切り拒絶されてしまった。
流石の私もこれには落ち込む。
サキ「ちがっ、そうじゃなくて。……あのっ」
否定を口にするサキの表情は熱を帯びていて、心なしか幼女とは思えない程に色っぽい。
私の腕の中、体を小刻みに震わせて、内腿を摺り合わせているように感じるのは気のせいだろうか。
サキ「あ、うあ」
気のせいでないのなら、答えは1つしかない。
久「待って!ちょっと待って!本当に待って!今トイレに連れてくからあと10秒耐えて!!」
サキを抱っこしたまま早急にトイレへ駆け込んだ。
「やめてぇ!ゆらさないでぇ!!」
サキは涙目だった。
私も泣きそうだった。
久「ふぅ……」
なんとか間に合った。
一息吐き、トイレの横の壁に寄りかかる。
サキ「あの、めいわくかけてごめんなさい……」
扉の向こうから聴こえたサキの声は、顔を見なくても恐がっているのが分かるほど震えている。
久「謝らないで良いのよ。子どもは大人に迷惑をかけるのが仕事なんだから」
サキ「でも」
久「でも……?」
サキ「……」
それからサキは黙りこくってしまった。
何か悪いことをしてしまったのか不安になる。
何を話せば良いのだろう。彼女のこと、何処から聞けば良いのだろう。
考えれば考えるほど深みに嵌り、どう接すれば良いのか分からなくなる。
そんな風に途方に暮れているとキッチンの方から白望が現れた。
白望「久、おはよう」
久「ええおはようシr……!?、!!?」
白望「そんなに驚かなくても」
フライパンを片手に、エプロンをぶら下げた白望を見て呆然とする。
1人で起きてくるのだって奇跡としか言い様がないのに、その上朝食まで作っているなんて今日地球が滅亡すると言われても私は信じる。
白望「だって久はサキのお世話しなきゃだし、智葉は夜遅く出てったみたいだから」
久「そうだったの……ありがとう。って智葉いないの?」
あんな偉そうなこと言ってたのに自分だけ逃げたのかとも疑ったが、智葉のことだからそれは有り得ないとすぐに思い直す。
しかし、ということは。
智葉がいない中、私と白望だけでサキとのこれからを話し合わないといけないのか。
白望「? ……どうしたの?」
その悩みのなさそうな白望の瞳が、今日はやけに頼り甲斐が有るように見えた。
久「さて、それでは第1回サキ会議を始めます!」
どんどん。パフパフ。
白望「久、食事の時は静かに」
久「あ、はい……」
いつもと違う3人で食卓を囲む。
今日のメニューはパンを中心に目玉焼き、ソーセージとアスパラの炒め、トマトとレタスとチーズのサラダ、コーンスープ。
いつもより皿の枚数が多い。今朝の早起きといい確実に気合いが入っている。
実は白望は子ども好きなのかもしれない。
白望「サキ、何か苦手なのとかある?」
サキは首を横に振る。
白望「そう。良かった」
久「ねえサキ、あなた「待った」」
サキに幾つか質問しようとすると白望が遮った。
私は不満気な表情で白望を睨むと彼女は顔を寄せ、小さな声で耳打ちする。
久「何よ」
白望「無理に聞かないで、サキから話してくれるのを待った方が良いんじゃない。それまでは、打ち解けてもらえるように接していくべきだと思う」
久「シロ。口の端っこにパンくず付いてるわ」
白望「あう」
白望の言う通りだ。
無理に問い質してもサキを萎縮させてしまうだけ、そんなことにも気づかないなんてどうにも空回りしている。
そして私より心得ている白望に、ちょっとだけ嫉妬した。
それでも、伝えておかなきゃならないこともある。
久「サキ」
サキ「は、はい……」
久「今日から私達は家族だから、言いたいことがあったら何でも言ってね」
そう告げると、またサキは俯いてしまった。
どうすればこの子の笑顔が見られるのだろう。
そのことで頭が一杯になって、思うように箸が進まない。
久「ご馳走さま」
サキ「ごちそうさまでした」
白望「お粗末さま」
結局、サキは朝食を半分以上残してしまった。
白望「サキ、美味しくなかった……?」
白望は見るからに残念なオーラを纏いながらサキに尋ねる。
それをサキは、首を左右に振って否定する。
白望「じゃあ、お腹いっぱい?」
今度は何度も頷いて肯定した。
白望「そっか。じゃあ今度はちょっと量に気をつけてみる」
サキ「ごめんなさい……」
そして、サキはまた謝る。
もしかしてあまり良くない家庭環境で育ったのだろうか。
久「大丈夫よ。サキ、誰も貴女を怒らないわ」
兎に角、進めるべきことを進めなければ。
食器をひとまとめにして広くなったテーブルの上に、ペンと紙を置く。
久「まず、サキがここで暮らす上で必要な物を書き出しましょうか」
白望「はい。とりあえず衣類一式と食器一式、寝具一式、あと歯ブラシとか」
殆ど言われてしまった。
というかそれ以外に何か必要な物ってあるのだろうか。
久「サキは何か欲しいものってある?」
白望「なんでもいいよ。……お菓子とか、玩具でも」
サキ「……」
試しに聞いてみたものの、やはりサキは無言のまま押し黙ってしまう。
久「シロ、掃除と洗濯を済ませたら買い物ついでに3人で散歩に行きましょ」
白望「うん。気分転換には良いかもしれない」
久「サキもそれで良い?」
サキは、一度だけ小さく頷いた。
咲ちゃんがすっげーかわいい知らんけど
そんなかわいい咲ちゃんの心配する智白久も可愛い知らんけど乙
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