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元スレ咲「人にやさしく」
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白望と私でサキを左右から手を握り、過度に魚を詰めた水槽のような街中を歩いていく。
見上げれば鈍色が支配する曇天の空模様。
今日は風の流れが速く、形を変え、千切れながら蠢く雲の動きはまるで街の様子を鏡で映しているようだった。
久「サキ、寒くない?」
尋ねれば、サキはふるふると力強く首を振り、大丈夫だと精一杯主張する。
久「そう……何かあったら言ってね?」
そう囁くように告げながら目線を合わせようと膝を屈めるも、サキは一向に顔を背けてしまった。
「あら、お嬢ちゃん達。いつから子連れになったんだい?」
声に誘われ顔を上げれば、進行方向先から老年の女性がこちらへ歩いてきていた。
白望「……トシさん。こんにちは」
久「こんにちは、トシさん」
熊倉トシさん。
私達が学生の頃、色々とお世話になった謎の人物。その頃は教師、現在警視庁捜査二課課長。
晴絵とも長い付き合いらしい。
トシ「やあ白望、久も。相変わらずで何よりだ」
久「サキも、挨拶しましょ?」
白望「ほらサキ。こんにちはって」
白望がサキの肩をポンと押し、トシさんの前に立たせる。
トシ「こんにちは、お嬢ちゃん」
トシさんはにこやかに微笑み、サキに会釈する。
サキ「あっ」
ところがサキは逃げるようにして私の後ろに隠れてしまった。
久「(うわ……これヤバい)」
サキは私の足にしがみつき、脇からひょっこりと探るように顔を覗かせる。
サキ「こ、こんにちは……ごめんなさい」
スカートを掴む弱々しい力が愛おしい。これが母性か。
サキが多少は懐いてくれた兆しを感じ、嬉しさのあまり顔がにやつくのを必死に堪える。
久「よく挨拶できたわね、偉い偉い」
私は上機嫌でサキの頭を撫でて褒め称える。
すると白望がサキを背後から抱き締め、奪い去った。
白望「このおねーちゃんは危ないから、しがみつくなら私の方が良い」
何か白望が失礼なことをサキに教えている。
久「シロ、誰が危ないって?」
白望「久。……むしろ他に誰がいるというのか」
サキ「あ、あのっ、えっと」
トシ「ほらほら喧嘩しない。お嬢ちゃんが困ってるから離してやりな」
トシさんに窘められ、白望と仲直りの握手を交わすことになった。
私達は幼稚園児かと。
久「悪かったわね。サキがあまりにも可愛く私にしがみつくものだから嫉妬しちゃったんでしょ?」
白望「勘違いしちゃダメ。久は隠れやすいスカートを穿いていたから選ばれた。私がスカート穿いてたら間違いなくサキは私を選んでいた」
私と白望は羞恥心と対抗心を握力に変換し、我慢比べと興じる。
白望「むむむ……」
久「ぐぬぬ……」
互いに一歩も引かない攻防が繰り広げられる。
脇目におろおろしているサキには悪いが、人間というのは絶対に譲れない戦いというものがあるのだ。
トシ「いい加減にしな2人とも」
久・白「「ごめんなさい」」
トシ「全くいつまでたっても子供っぽいんだから、まあそこがあんたたちの良いところでもあるんだけどねぇ」
さすがのトシさんも呆れ顔だった。
サキ「あの……」
サキはトシさんの傍へ寄り、お辞儀をする。
トシ「ん、なんだい?」
サキ「けんかをとめてくれて、ありがとうございます」
その光景を、私達は目を真ん丸にして眺めていた。
あのサキが自分から人に声をかけるなんて、と。
トシ「お嬢ちゃんは偉いねぇ、この2人よりずっと大人だ。私が太鼓判を押してやろう」
これが大人力の差か。
あっという間に打ち解けるサキとトシさんの前に、私達は惨めな敗北感を味わった。
トシ「しかしこれが智葉の言っていた子か。なかなか良い子じゃないか」
久「そーですねー」
何やら聞き逃せない言葉が聴こえたような気がするが、追求する気力がないので視線でその役割を白望にパスする。
トシ「こら、いつまで拗ねてるんだい」
シロ「トシさん。智葉と会ったんだ……」
トシ「ん? ああ、智葉から連絡を受けてね。大体の事情は聴いてるよ」
相変わらずフットワークの軽い。
昨夜、智葉が3ぴーすを出たのはそれが理由か。
もしかしたら今頃サキの家族を探して奔走しているのかも知れない。
久「じゃあ、私達がサキを預かってても良いのね?」
トシさんは頷く。
トシ「本来は警察に届けるのが先だがね。今回は大目にみてやろう」
久「さっすが、話が分かる!」
トシ「但し、その子があんた達と住むことに対して了解をしっかり取ること。良いね?」
そう言えば、私達で殆ど勝手に決めて、サキ自身には何も聞いていなかった気がする。
そもそも碌に話し合いも出来ていないので仕方なくはあるけれど、サキにとって重要なことに違いない筈なのに。
久「分かったわ」
白望「任せて」
トシさんはにっこりと一瞥すると、それじゃあ任せたと告げて去っていった。
久「サキ、シロ。行きましょうか」
白望「うん。……サキ、行こう」
そして私達はまた左右でサキの手を握り、街の中を歩き始めた。
毎日楽しみにしてたんだ
幼咲は可愛いし久白も可愛いしトシさんトシさんだし最高だわ
続き待ってるよ乙っす
幼咲は可愛いし久白も可愛いしトシさんトシさんだし最高だわ
続き待ってるよ乙っす
ガキが苦手でこのドラマ敬遠してたんだけど
咲さんになると読める不思議
咲さんになると読める不思議
沢山のコメントをありがとうございます
初SSですので至らない部分も多々あると思いますが気持ちよく読んでいただけるよう精進していきたいです
では投下します
初SSですので至らない部分も多々あると思いますが気持ちよく読んでいただけるよう精進していきたいです
では投下します
───デパート内・ファッションエリア
久「分かってないわ、全然分かってない。そんなんじゃダメよ」
白望「分かってないのは久の方。……久には失望すら覚える」
正直、ここまで白望との感性に違いがあるとは……今まで同居してこれたことが奇跡だったんじゃないかと思うくらいにかけ離れている。
サキ「あの……け、けんかしないで……」
サキには悪いが人には絶対譲れない戦いが以下略。
敵意剥き出しの視線が絡み合い、サキの頭上で火花を放つ。
VS白望、ラウンド2の始まりだ。
久「何回言えば分かるのよ!サキにはこの猫耳フード付きのパーカーが似合うの!」
白望「サキにそんな媚びた服は似合わない。素材が良いから。シンプルかつ清楚な白のコート。これで決まり」
久「素材が良いからこそ可愛さが際立つんでしょ!? 可愛い×可愛い=最強。これが真理よ!」
白望「完成された芸術に余分な装飾はいらない」
お互い主張を曲げないまま意見がぶつかり合い、平行線の状態が続く。
智葉「(違うぞ2人共。サキが一番似合う服装は)」
久白「(!?)」
智葉、脳内に直接……?
智葉「(め、メタル系の黒ジャケットだ)」
久白「(……)」
久「(……んふふっ)」
白望「(……ぷぷっ)」
智葉「(!?)」
その発想は無かった。
というか選択肢に入るのがまずおかしい。
そして発言に照れが混じってるのがまた狡い。
せめて自信を持って言って欲しい。
久「あーあ」
なんだか一瞬で頭が冷めた気がする。
久「もう両方買っちゃおっか?」
白望「そうだね。そうしよう」
サキ「……?」
久「ところでサキ、このジャケットどう思う?」
サキ「え、えと……それはちょっと……」
白望「だよね」
久「これはないわよねー」
───家具小物エリア
久「サキー、犬のコップと猫のコップどっちが良い?」
サキ「えと……わんちゃん」
久「わんちゃんかー可愛いわよねー(サキが)」
白望「サキ。赤い歯ブラシと青い歯ブラシどっちが良い?」
サキ「あか……かな」
白望「赤を選ぶと血塗れ」
サキ「!?……じゃ、じゃあ、あおっ」
白望「青を選ぶと首を絞められて顔面蒼白……」
サキ「うえ……や、やだ……」
白望「……ごめん、冗談」
サキ「よ、よかったあ……」
久「サキー、水玉模様の枕と花柄の枕どっちが良い?」
サキ「うーん……はながら、かなぁ……」
久「そう、じゃあお布団と合わせて買っちゃうわね」
サキ「えっ」
久「どうかした?」
サキ「あ、その……な、なんでも……ないです」
久「?」
白望「サキ。赤いスリッパと青いスリッパ……」
サキ「しろで」
白望「私?」
サキ「えっ、……そうじゃなくって……その、しろいろの……」
久「シロ、いい加減にしなさいよ」
白望「ゴメンナサイ」
ショッピングを一通り済ませたので、休憩を兼ねて昼食を摂ることにする。
たんまり買い込んだ荷物は全て3ぴーすに郵送、今夜にも届くことだろう。
その目的の店へと向かう道中、ふと何やら困っている様子の女性が目に入った。
サキ「あ、あの……」
サキもどうやら気付いているようで、繋いだ手を小さな力で引っ張ってくる。
久「分かってる。助けてあげてって言いたいんでしょ?」
サキはこくりと頷いた。
久「ちょっとそこの貴女」
「……はい、私でしょうか」
声に反応し、その女性は振り返る。
落ち着いた声質に不釣り合いなあどけない顔立ちで、片目を瞑っているのが特徴的だった。
久「何か困ってるようにお見受けしたのだけど、協力できることがあればお手伝いしましょうか?」
「え? え、えっと……結構です! ごめんなさい!」
久「ちょっと待っ……ええー」
制止の声も振り切られて逃げられた。
何も悪いことしたつもりは無いのだけれど……何かこう、罪悪感が残る。
白望「私が声をかければよかったかも」
久「ええ、次からそうして」
無駄に心を傷付けられ、脱力するしかなかった。
そうこうして私達はファーストフード店へ入った。
サキのことを考えるとレストランの方が良かったのだが、先程の支出で財布の中身が底を着くので断念。
サキ「はむ……んっ」
サキは小さな口でハンバーガーを精一杯頬張っている。
白望「サキ、ソース付いてる」
そう言って白望はハンカチを取り出し、サキの口元を拭った。
サキ「んぅ」
とても微笑ましい光景だった。眺めているだけで傷心が癒されていく。
白望「それで、これからどうするの」
久「うーむ」
確かに大体の予定を消化してしまったので、特にこれからすることもない。
サキに聞いてみても良いが、遊園地に行きたいとか言われた日には明日の生活費がなくなってしまう。
せめて次の給料日まで待たないと無理だろう。
かといって、もう帰ってしまうというのも勿体無い気がした。
久「そうだ、晴絵のとこにいきましょう」
白望「お金がないから……?」
久「ぐっ」
図星だった。
久「違っ、……ほら、やっぱり私達の姉貴分としてサキを紹介しておくべきじゃない?」
私は慌てて取り繕い、尤もな理由を掲げてみる。
久「まあ、結果としてツケが増えるのは仕方のないことよね」
白望「仕方ない、……かなぁ」
とは言え、開店の時間には早いのでレッドラインに行ってもまだ晴絵はいない筈。
それに昼食をたった今済ませたばかりだし、更に飲み食いするにはお腹を空かせる必要がある。
公園やゲームセンターで遊ぶことも視野に入れておこう。
久「……」
脳みそを切り換えて、今一度サキのことを考えてみると疑問点が次々と浮かび上がる。
例えばサキが3ぴーすの前で待ち構えていたこと。
例えばサキが100万もの大金を持っていたこと。
何故サキは1人にされたのか。
他の家族はどうしているのか。
幾つか思い描く想像は予想にも満たず、妄想に等しい。
だから解決するにはサキの口から直接聞くしかない。
けれどもサキに尋問するような真似はしたくはない。
ひたすら待つ事しか出来ないのが、とてもむず痒い。
サキは朝と比べると随分リラックスしてきたようだが、それでも彼女の笑顔はまだ見れていない。
───コーラの紙コップの中に積まれた氷が解けては崩れ、からりと澄んだ音を立てる。
果たして私は、一体どれだけのことをサキの為にしてあげられるのだろうか。
サキの心も、この氷みたいに少しずつ解けていけば良いなと思った。
それからデパートを抜け出しゲームセンターへ寄ってみたが、騒音がひどかったので入り口で踵を返した。
どうせならデパートの中にあるゲームコーナーで遊ぶべきだったと後悔する。
更に公園にも行き、遊具でサキと遊んでみたものの1時間もしない内に飽きがきた。
よく夕暮れまで遊びほうけていたなと昔の私を心から尊敬の念を抱く。
それでもサキが楽しそうならもっと頑張れたのだが、当の本人も退屈そうだったので公園から出て街を適当にぶらつくことにする。
その道中、サキが花屋の前で足を止めた。
店頭に並べられた色とりどりの彩りを前にして、サキはうっとりと目を奪われている。
久「(そーかそーか、サキは花が好きなのね)」
気付いてからの行動は早かった。
サキのお守りを白望に任せ、私はアクセサリーショップへ駆け込んだ。
店内に入れば視線を縦横無尽に走らせて、イメージしたものに近い商品を探し出す。
久「んーと……あったわ」
手に取り、チラッと値札を確認してからレジで会計を済ませ、サキの下へと舞い戻った。
3分ジャスト。
白望が不思議そうに此方を見つめてくる。
花に夢中になっているサキに視線を配りながらこそっと白望に耳打ちすると、より一層怪訝な目つきになり、それでもお願いした通りサキの両目を手のひらで隠してくれた。
サキ「ひゃっ!?」
白望「ごめんねサキ。……私もこんなことしたくないけど久に脅されて……」
久「こらシロ、適当な嘘言わないの。サキー少しじっとしててね?」
白望にサキを押さえつけてもらっている間、私は慣れた手付きで作業する。
急な出来事に、サキは頭の上にクエスチョンマークを浮かべながら怯えていた。
久「シロ、サキ、もう良いわよ」
白望「サキ、似合ってる」
サキ「───え……?」
差し出した手鏡に映る自分の顔をサキは覗き込む。
簡単な間違い探し。
左右で結われたサキの栗色の髪、そのゴムが白い花のコサージュ付きになっている。
サキ「わぁ……」
手で感触を確かめるサキ、彼女の表情が一瞬綻ぶ。
それを私と白望が見逃す筈がない。
サキ「っ!」
鏡の向こう側にいる私達が瞳をキラキラさせているのに気付いたサキが、りんごのように顔を赤く染め上げた。
満足気ににんまりする私。
髪を伸ばしてお揃いにしようかと悩む白望。
サキは慌てて此方を振り返り、頬を染めたまま顔を伏せる。
だけども目線だけはしっかりと私達を見上げ───つまり、上目遣いで。
サキ「ありがとう……ございます」
私は鼻血を噴いた。
白望は逆上せて倒れた。
智葉は眼鏡が割れた。
いや、そういえば智葉はいないかった、幻覚か。
日が傾き始め、空は茜色に燃えている。
久「そろそろ頃合いね。レッドラインに向かいましょうか」
腕時計は午後5時を指していた。
サキは1日中歩き回ったせいで、多少疲れの色も見え隠れしている。
あまり遅くなるのは避けた方が良いだろう。
私達は体の向きを変え、レッドラインへと歩を進めた。
───
──
─
久「やっほー、来たわよ晴……えっ」
晴絵「昨日振りじゃないか久、シロ……んーと、どうした?」
レッドラインに辿り着き店内に入ったのも束の間、カウンターには見知った顔が並んでいた。
白望「さえ。やっほー」
塞「わあ、シロだ。ちゃんと生きてたんだ、びっくり。偶には胡桃達のとこにも顔だしなよ」
白望「うん。考えとく……えーと、この人は?」
「あ、あなたは……!!」
経営者の晴絵、店員の臼沢塞は良いとして。もう1人……何故ここにいる。
塞「ああ、私が通ってた大学の同級。……え、なになに? 知り合い?」
美穂子「昼に会ったナンパの人!」
全員「「「「!?」」」」
いや、してないし。
ナンパしてないから。
周りの冷たい視線が突き刺さる。
久「あれは貴女が困ってる様子だったから話を伺っただけでね」
塞「あーゴメンね久、美穂子は田舎から出てきたから都会に変な偏見があってさ。ちょっと顔見知りの気もあるし」
美穂子「悪い人じゃないんですか?」
久「シロ、弁解するの手伝ってよ」
白望「……ダル」
悪い癖がここで出た。
深い深い溜め息を1つ、盛大に吐き出す。
晴絵「久、その小さなお客さんは?」
塞「えーすっごい可愛いじゃん、どうしたの? 迷子とか?」
良いタイミングで晴絵は私の陰に隠れているサキに気付いてくれた。
説明するついでにナンパの誤解についても解いてしまおう。
久「えっと、この子は───」
私は雑把に事情を話した。
次第に真剣なものへと変わっていく晴絵達の表情。
久「───ということなのよ。それで晴絵に紹介する為に今日ここを訪れたって訳」
晴絵「ふーん、なるほどね……自分達の力だけでなんとかしようとせず、協力を仰ぎにきたことは褒めておくよ」
ただし、と晴絵は付け加える。
晴絵「その協力ってのが今日の晩飯の相談じゃなければもっと良かったんだけどな」
久「あはは、ご馳走様。ほらサキ、一緒に食べましょ?」
晴絵「(こいつ……払う気ないな)まあ良いさ、今日は美穂子の就任祝いだし野暮なことは言わないよ。パーッとやろうか」
白望「へーおめでと。どこの?」
美穂子「えっと……シロさん、ですよね。こちらの公立小学校の臨時教師にです」
久「学校、学校ね……サキ、貴女は何処の小学校に行ってたの?」
サキ「あ、その……しらいとだい……です」
塞「白糸台っていうとあの私立の……」
白望「名門だね」
美穂子「つかぬことをお聞きしますが、サキちゃんを白糸台に通わせることは……」
久「無理ね。私達がそんなお金持ちに見える……?」
美穂子「あ、ごめんなさ……」
久「謝らないでよ。悲しくなるから」
美穂子「あ、……済みません」
久「あーもう」
白望「久が女の子いじめてる。いーけないんだーいけないんだーせーんせーに言ってやろー」
久「先生はこの子でしょ」
晴絵「ほらほら、話は後にして乾杯するぞー。久とシロはサキがいるからノンアルコールで良いな」
久「えー」
白望「えー」
それからというもの、近況報告ついでに楽しくお喋りを交わしたり、1人ずつサキを膝に乗せてご飯を食べさせたり、お酒を飲んでいる塞と美穂子を恨めしく眺めて晴絵に窘められたりした。
サキは途中からうつらうつらと船を漕ぎ始めてしまうも、目元を擦って一生懸命起きている。
眠っていいよと告げるもサキは首を横に振った。
周りの大人に萎縮してるくせに、それでも寝ようとしないとは、案外意地っ張りなところが有るようだ。
久「じゃ、またね晴絵」
白望「ご馳走様」
8時を過ぎ、夜も更けてきたのでお暇することにした。
晴絵「おー、またおいで。もちろんサキもね」
サキ「ありがとうございます。……ごちそうさまでした」
晴絵「お礼をしっかり言えるなんて偉いな、2人も少し見習えよ?」
久「あはは、耳が痛いわ」
白望「心が痛い」
美穂子「私も明日早いので失礼しますね」
塞「遂に先生になるんだね、頑張って」
美穂子「ありがとう、頑張るわ」
それぞれ挨拶を済ませたので、私達は帰路を辿ろうとすると何故か美穂子が後ろから着いてきた。
もしかして夜の街中を1人で歩くのが怖いのだろうか。
久「貴女、住んでる場所こっちなの?」
美穂子「まあ大体は。あとサキちゃん連れて夜遊びしないか心配だったので……」
……信用ないな。
見張られているようであまり気持ちの良いものじゃない。
美穂子「というのは半分冗談です。昼間は済みませんでした。どうやら勝手に勘違いしてしまったみたいです」
久「やっと分かってくれたみたいね。良いわよ気にしないで」
半分という言葉に多少の引っかかりを感じるも、誤解が解けたことに安堵し胸を撫で下ろす。
白望「大丈夫。そういうのは慣れてるから」
久「いや慣れてないから」
美穂子「それと……サキちゃんのことなんですが……」
白望「?」
久「なに?」
美穂子「その、不躾ですが……施設に預けるべきだと思います。私には、とてもじゃないですけど貴女達がしっかり面倒を見れるようには───」
美穂子が口にする言葉はサキのことを想ってのことだったが、それでも苛立ちは募っていく。
美穂子「見ず知らずの子どもの面倒を見るというのはとても大変で───」
見ず知らずの貴女に、私達のことを何も知らないのに、何故そんなことが言えるのだろう。
その内容は智葉の言葉とそう変わらない筈なのに、どうしてこうも肌が粟立つか、私には分からなかった。
美穂子「興味本位でサキちゃんを預かるようなら───」
久「煩い」
美穂子「えっ?」
久「ちょっと黙って」
美穂子「いや、その……私は」
久「黙って」
美穂子「……はい」
久「……良い人振りたいなら学校の中だけでやってよ」
美穂子「そんな!私は……」
白望「……少なくともサキの前で話すことじゃないよね」
白望の声は、まるで沸騰した血管に氷を流したように私の頭を冷ました。
そうだ、サキだ。
今の話を聞いて傷付いてはいないだろうか。
と、そこで気付く。
手に彼女の温もりがないことに。
「サキ……? サキ!?」
声を荒げて辺りを見回すと、10数メートル先をふらふらと覚束ない足取りで歩くサキがいた。
久「サキ!待って!!」
大声をかけるも、サキは幻影に囚われたようにその歩みを止めない。
サキ「お………ん。……おかーさ…。…お…ー……ん」
サキはぶつぶつと何かを呟いている。
その視線の先、横断歩道を越えた場所に仲良く手を繋いだ親子がいた。
サキはきっと重ねているのだろう。在りし日の自分と、あの親子を。
───騒々しいエンジン音が鳴り響く。
その幻があまりにも温かいから、サキは夢だと気付かず幻想に浸っている。
───それは次第に近付き、音のボリュームを段々と強めていく。
もしかしたらサキは自分が捨てられたとまだ自覚していないのかもしれない。
───歩道の信号が赤に替わる。
でも、夢はから覚める時はくる。捨てられたと気付く時が必ずやってくる。
───しかしサキは気付かず、そのまま横断歩道に足を踏み入れた。
気付けば、壊れてしまう。
壊れてしまえば、きっともう癒せない。
だから私が、そばにいなくては。
そばにいて、守らなくてはならない。
───猛スピードの車がやってくる。ブレーキをかける様子はない。
サキは見ず知らずの子どもだけど、確かに興味本位の部分も有るかもしれないけども。
この子に優しくしたいと思った気持ちは純粋だった。だから……
「サキ──────!!!!」
カーライトがサキを照らし、その眩しさにサキは足を止めた。
サキちゃん…
読みやすいし面白いから完結まで見守るよ、頑張って乙
読みやすいし面白いから完結まで見守るよ、頑張って乙
地面を蹴り出す度に、恐怖が心を塗り潰す。
きっと間に合わない、間に合ったとしても2人共々弾き飛ばされるのがオチだ。
そんな気持ちとは裏腹に、体は一歩ごとに風と同化し加速していく。
智葉に言われたのは、覚悟があるか……だったか。
正直、そんなものは今のところ無い。
だって、覚悟っていうのは行動した後で証明されるモノであって、幾ら格好いいことを口走ってもそれは見せかけでしかないからだ。
私は手を伸ばす。
やはり少し足りない。
そのちょっと距離に絶望した私の悲痛な表情が、サキの瞳に映っている。
「……」
諦めかけたその時、追い風が吹いた。
違う、背中に伝わる感触は追い付いた白望の左右の手だ」
「久」
久「白望の手は、まるで私こそがサキの手を掴めと言わんばかりに私の体を押し進め」
白望「久」
久「私は遂にサキの手を───何よシロ」
私は今、横断歩道を越えた信号機の真下でサキと2人へたり込んでいる。
どうにか、間に合ったようだ。
白望の声で現実に引き戻されると、今更になって足が竦み、体が震え始め、心臓が痛いくらいに拍動している。
白望「大丈夫。大丈夫だから」
久「何よシロ、心配してくれてるの?」
白望「うん」
白望は子どもをあやすように私の頭を撫でる。
それが今まで聞いたことがないような優しい声だったから、少し照れ臭く、だけど実感していた恐怖が和らいだ。
サキ「……さい、ごめんなさい。ごめんなさい……っ」
白望「サキ……」
私の腕の中で泣きじゃくるサキ。
サキ「わたしの、っ、せいで、っ、ごめっ、なさ……っ」
サキは嗚咽混じりの声で必死に謝り続ける。
まるで見ている此方が辛くなるくらいに痛々しく、胸を締め付けられた。
久「本当よ。どれだけ危なかったか分かってるの」
私はサキの頭を自分の胸に強く押し付けるように抱き締める。
久「横断歩道は青信号を確認してから右見て左見てもう1回右見てから渡らなきゃダメじゃない」
サキ「はい……っ」
久「絶対もう二度と危ない真似しちゃダメよ。本当に、本当に心配したっ、だから……っ」
サキ「は、い……っ」
久「も、ほんと……うぐ、うぇ……っ、ふぅぅ……」
サキ「ごめ……なさっ……ひっ、うええ……」
盛大に泣き叫ぶ大人と子どもが1人ずつ。
その2人の泣き声が、暫くの間夜の街に響き渡っていた。
────────
開けた道路の一角で、黒塗りの車が歩道に突っ込んで停止していた。
フロントガラスは割れて大きな穴が空き、バンパーは悲惨にひしゃげ、見る影もない。
そこに1人の人物が近付き、強引にドアを開け放ち、中の運転手の襟を掴んで無理矢理引っ張り出した。
そのまま運転手は受け身も取れず地面を転がる。
顔からの流血も気にせず、ただ怯え、ひたすら逃げようと地面を這う。
しかし運転手は脇腹に蹴りを入れられ亀のように引っくり返され、胸元を踏みつけられれば骨が軋む音と濁った悲鳴が運転手の喉奥から漏れた。
暴力を振るう人物は運転手の腹を椅子にして、顔を間近に感情を殺した声で囁く。
「お前、両親は息災か? 大事な人はいるか? ……安心しろ。どうせ明日の朝刊にお前の名は載らない」
運転手は涙を流しながら、壊れたように乾いた笑いを零す。
そしてこの世のものではないものを見たかのように茫然自失になり、そのまま気絶した。
────────
漸く私もサキも涙を流しきり、どうやら落ち着いてきた模様。
久「それじゃ帰りましょうか」
サキ「はい」
少しサキの雰囲気が柔らかくなった気がする。
私が手を差し伸べると恥ずかしそうにもじもじして、それから意を決してぎゅっと握り返してくれた。
今までサキから手を繋いでくれることはなかったので、これは大きな進歩だと思う。
白望「サキ。私も」
サキ「はいっ」
3人仲良く手を繋げたので、さて帰ろう。
「あ、あのっ」
そう思ったのに、後ろからの声に引き止められた。
振り向けば、さっき口論になった場所と全く同じ位置で美穂子が腰を抜かしている。
美穂子「だ、大丈夫ですか!?」
サキ「だ、だいじょーぶです!」
久白「「…………」」
これは貴女が大丈夫なのかとのツッコミ待ちなのか。
美穂子「あ、良かった。あの、今そっちに行きますので」
久「あー……えーと、タクシー呼んであげるから自力で帰ってね?」
白望「ばいばい」
美穂子「え、嘘ですよね? や、やだ、待ってください!」
サキが「え、置いて帰っちゃうの?」という顔をしているが気にしない。
私も今日はほとほと疲れたのだ。
私達はほんの少しの慈悲だけ与え、とっとと帰ることにした。
3ぴーすに戻ると智葉がコーヒーを片手にリビングのソファで座って私達の帰りを待っていた。
智葉「おかえり」
久「ただいまー」
白望「ただいま。智葉」
サキ「た、ただいま……です」
智葉は寝間着を着用し、髪は濡れて艶を放っている。
どうやら風呂上がりのようだ。
智葉「お前たちも順番に入ってくるといい」
久「……シロ」
白望「ン……サキ。お風呂入ろっか」
サキ「え、あ、はいっ」
白望に気を遣ってもらい、智葉と2人きりになる。
私は白望とサキが風呂場に向かったのを見計らって、智葉の隣に座った。
久「……」
さて、何から話したものか。
切り出そうにも話の糸口が掴めず、そわそわと挙動不審に陥っている。
智葉「どうだった。今日1日サキと過ごしてみて……これからやっていけそうか?」
痺れを切らした智葉が助け舟を渡してくれる。
私はその問いに、素直な感想を述べることにした。
久「楽しかったわ、すごく楽しかった。でも大変だった……サキをひと時でも独りにできないと分かったし、だからサキと暮らしていくのはとても難しいと思う」
智葉「……そうか」
智葉は肯定も否定もせず静かに頷いた。
智葉「で、結論は?」
そうしてコーヒーカップを鼻先に近付け、薫りを愉しみながら不敵に笑んでくる。
どうやら私の心の内なんて見透かしているらしい。
養うのが難しいから諦めるって? ん? 本当に? とかなんとか言いたそうな、そんな表情だった。
久「はい、白状します。サキと一緒に暮らしたいです。1人じゃ大変なんで協力してくださいお願いします」
智葉「……それで良い。よくできたな」
智葉はまるで幼子と接するように私の頭を撫でる。
子ども扱いするなと拗ねてみるものの、あまりにもその手付きが心地良い。
久「智葉のなでなでになんか負けないわ」
智葉「勝つ気ないだろ」
久「そんなことないけど?」
智葉「……仕方ない奴だ」
心地良すぎて対抗心も羞恥心も秒を待たず投げ捨てる。
私は智葉の肩に頭を預け、彼女の掌を甘受することにした。
久「(……?)」
それからサキの話題で盛り上がり、白望が風呂から上がるまでの時間を潰した。
なんて、私が一方的に喋り続けただけだけど。
────────
────────風呂場
白望「サキ。ぬぎぬぎしよう」
サキ「ええ!? えっ、ええー」
白望「大丈夫。人間はみんな裸で産まれてくる」
サキ「で、でもっ……」
白望「……じれったい」
サキ「やっ、きゃー!きゃーっ!!」
白望「サキ。綺麗……恥ずかしがることなんてないよ」
サキ「でもっ、そのっ」
白望「───あ、ちょっと待って」
サキ「ほっ」
白望「……あれ……」
サキ「?」
白望「……なんでもない。それよりまだ脱いでないってことは私が脱がせて良いってことだよね」
サキ「え、いやっ、ちが……」
白望「分かってる。私に任せて」
サキ「だ、だめぇーーーーーーーっ!!!」
久「なんかか弱き乙女の悲鳴が聴こえるんだけど通報した方が良いかしら」
智葉「止めておけ、心配いらん」
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