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    元スレ咲「キャバクラ行ったら世界が変わった」霞「ええ、よくってよ」

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    251 = 220 :



    (あれはまさか・・・でも、おかしい、前はここまでの気配じゃなかった)

    (これは・・・人じゃない)


    ペタペタと石段を登ってくるのは一人の女性

    異界の魔物によって眠れる力を引き出され

    引き離された半身を求め、迷い込んだ魔物


    ペタペタペタペタ


    「・・・」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


    咲が裸足でやってくる


    252 = 220 :



    初美「な、なんですかあれー! こんなプレッシャー、初めてですよー!!」

    「私に聞かないでよ、でもあれってたぶん宮永咲・・・のはず」

    (でも振袖に裸足・・・なんでそんな恰好を? それにこの人外めいた波動の正体は何?)

    「・・・あれはたぶん、鬼女・紅葉」

    初美「え?」


    初美と巴が狼狽する中、鬼界の知識に精通する滝見の家に生まれた春は、咲を見てその身に宿すものの本質を見破った

    253 = 220 :



    「・・・鬼女・紅葉は長野県に伝わる伝説」


    子宝に恵まれなかった夫婦が第六天魔王に祈り、子を授かる

    その子は魔王の力を宿し、山里を荒らし、その存在は京まで轟き、出陣した兵すら返り討ちにして、降魔の剣によって征伐されるまで混乱を呼ぶことになった


    「アレが・・・その鬼女だっていうの?」

    「おそらく先祖返り・・・」

    (そんな・・・だとしても、どうしていまになって急に? 霞さん・・・もしかしてこれは恐ろしいモノを呼び寄せる、石戸の業が成した事なの?)

    254 = 220 :


    ペタペタ

    「・・・」ゴゴゴゴゴゴゴゴ


    初美「ひいいい!? あ、あんなのが神境に入っていいんですかー!?」

    「いいわけないでしょ!! 止まりなさい宮永咲!!」


    「私に・・・何か用ですか?」ピタッ


    (ふう、言葉は通じるのね・・・でも油断はできない)

    「ここから先は霧島神境、参拝は霧島神宮までしか開放されておらず許しが無ければ不法侵入となります、どうかお引き取りを」

    初美「そ、そそそうですよー! 帰れ帰れ!」


    「・・・」ガンリキピシャー


    初美「ひっ!?」

    「はっちゃん、ビビりすぎ・・・弱みを見せちゃダメ」

    255 = 220 :



    「・・・この先から霞さんを感じます。そこを、どいてください」


    (やっぱり霞さんを追ってここに? でもこんな魔物が、神境の鳥居を跨ぐなんて見過ごしていいはずない!)

    「はっちゃん! 春ちゃん! 陣形を組むよ」

    初美「や、やるんですか巴ちゃん?」

    「・・・鳳天舞の陣」

    「うん! 私が中心になる・・・二人は私に力を集中させて。宮永咲、貴方を絶対に通しはしない!」


    「邪魔をするんですか? それなら・・・」


    「全部ゴッ倒してここを通ります」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

    256 = 220 :



    「う・・・」ビリビリ

    (一言一言発する言葉にも大きな力を感じる・・・祝詞でもないのになんなの)

    初美「うう、巴ちゃんこれは無茶な相手かもしれませんよー・・・」

    「・・・」カタカタ

    「いいえ、やってみせる! 私達の修行はこういうモノを相手にする時の為にあったんだから!」


    決心をつけた巴は能力を開放する

    呼び起こすは、神職の者が本来頼らざるべき力

    恐ろしいモノを鎮める力を攻撃に転化させた、狩宿の家に伝わる外法

    その名は『鬼道』――

    257 = 220 :


    「―― 鉄砂の壁 僧形の塔 ――」

    「――  灼鉄熒熒 ――」

    「――  湛然として終に音無し ――」


    「―― 縛道の七十五・五柱鉄貫! ――」


    ボボ ボボ ボボ ボボ ボボ ボボ

    「!?」

    巴の鬼道により、地面から隆起した五つの柱

    鉄の鎖に繋がれたそれらは咲を囲み、その五体を封印する

    初美「やりましたか!?」

    「うん、これを受けて動けるモノはそういない。キンクリさえされなければ私だってこのくらいの活躍は・・・」

    「・・・だめ」カタカタ

    「え?」

    258 = 220 :

    ミシ ピシピシ ガシャアアアアアアアアアアアアアアアアン


    初美「!?」

    「!?」

    鬼道によって生み出された五つの柱は突然崩れ砕けた

    その中からは平然と、咲が歩み出てくる

    「そんな全く通用しないなんて、そんなはずは・・・」


    「・・・もう、いいですか?」ゴゴゴゴゴゴゴ


    初美「巴ちゃん!!」

    「いや、だったら何度でも! ―― 鉄砂の壁 僧形の塔・・・」


    「遅い ―― 縛道の七十五・五柱鉄貫 ――」ドーン


    「そ、そんな!? 詠唱破棄!? いや、それよりもどうしてお前が狩宿の鬼道を!?」

    259 = 220 :



    「残念ですけど、ここはもう貴方のテリトリーじゃない・・・」


    「ば、化け物・・・はっちゃん、春ちゃん、逃げて・・・」

    ズズーーーーーン

    巴が先ほど生み出した五つの柱、咲はそれと同じものを生み出し

    巴は驚愕の中、その柱によって封印された


    初美「あ、あわわ・・・」カタカタ

    「やはり通じなかった・・・第六天魔王の住処は他化自在天」ボソ

    「・・・そこで生まれた者は、『他の変現する楽事をかけて自由に己が悦楽とする』といわれてる・・・」ボソ


    鬼女・紅葉は第六天魔王によって他化自在天で生まれたモノ

    宮永咲が鬼女・紅葉の先祖返りならば、その本質もまた同じ

    『麻雀ってたのしいよね』そう言っていた宮永咲の本質が、他化自在天の『他の変現する楽事をかけて自由に己が悦楽とする』という事からきていたなどと、この時まで誰も気付きようも無かった

    260 = 220 :



    初美「つまりそれって・・・巴ちゃんの鬼道も、私の鬼門も、はるるの鬼界も通用しないってことですかー!?」

    「・・・」コクリ

    初美「そ、そんなー」


    「もう二度と牌を持てなくなってもいい・・・そういう覚悟で私はここに来ました」

    「化け物と呼ばれても、鬼になり果てても、もう一度・・・霞さんに逢うまで止まりません」

    「―― 破道の九十・黒棺 ――」ゴオオオオオオオオオオオオオオオ

    初美「」

    「」


    初美も春も、巴と同じくなすすべなく

    第六天魔王の力を存分に発揮した咲によって、その場に崩れた

    261 :

    待ってたよ

    262 = 220 :


    すいません次で終わると大見得切っておきながら、今日はここまでっす。思ったより長くなったので一旦投下しました
    次の投下で今度こそ完結する予定です(希望的観測で一週間)

    なんでも許せる人レベルが今回で爆上がりしましたが、もう少しだけお付き合いいただけるとありがたいです

    263 = 261 :

    乙 咲さんカッコいい

    265 :

    紅葉伝説って天照大神の岩戸伝説と戸隠つながりだったんか

    266 :

    楽しみに待ってます

    267 :

    ――霧島神境・斎場――


    『  天清浄 地清浄 内外清浄 六根清浄と 祓給う  』

    『  天清浄とは 天の七曜九曜 二十八宿を清め  』

    『  地清浄とは 地の神三十六神を 清め   』

    『  内外清浄とは 家内三寳大荒神を 清め   』

    『  六根清浄とは 其身其體の穢れを 祓給 清め給ふ事の由を 八百万の神等 諸共に  』

    『  小男鹿の 八の御耳を 振立て聞し食と申す  』


    厳粛であった斎場の中、祝詞(のりと)を唱える声が響いている

    神代の分家――石戸、薄墨、滝見、狩宿、十曽、それらに連なる者達が集まり

    あらゆる物事を祓い清める『天地一切清浄祓(てんちいっさいしょうじょうばらい)』によりてこれから始まる儀式の成功を祈る

    そして円を描くようにして祝詞を唱える者達の中心には二人

    神代小蒔と石戸霞が向かい合っていた

    268 = 267 :



    小蒔「・・・カ・・・・・・カスミ・・・チャン?」

    「うん、そうよ小蒔ちゃん。私の事、ちゃんと分かる?」

    小蒔「ワカ・・・ル・・・・・・」

    (小蒔ちゃん・・・意識が朦朧としているみたい。辛そう・・・憑りついたものに抗っているのね)

    祖母「さあ霞、準備は整いました・・・始めなさい」

    「はい、祖母上様」

    小蒔「・・・ナニヲイッテ・・・・・・・・・カスミチャン・・・マサカ」

    「もう大丈夫だから、楽にしていてね小蒔ちゃん。もう、眠っていいのよ」

    小蒔「・・・ダメ・・・ソレハダメ・・・・・・カスミチャン」

    「辛かったでしょう、今まで・・・でも、もう苦しい思いは私がさせないから」

    そう言って霞は、小蒔を抱きしめた

    小蒔がその身に宿したモノを引き受ける為に、体を重ねあわせる

    269 = 267 :


    小蒔「カスミ・・・霞ちゃん!!」

    「貴方を苦しめるものは私が連れて行く、さようなら小蒔ちゃん」

    小蒔「い、いや・・・いやああああああああああ」

    (これで良かった、これでいいのよ・・・)

    (私は小蒔ちゃんのアマガツなのだから)

    小蒔に憑りついた恐ろしいモノが、霞の体に乗り移っていく

    体の芯に巣食い、身も心も侵し尽くそうとする意志

    それに抗う為に、霞は自ら死を選ぶ

    人柱となるその任を全うするために、恐ろしいモノと共に心を閉ざして精神の消滅を選ぶ

    それが恐ろしいモノを外に出さぬための石戸の秘呪、天岩戸(あまのいわと)

    270 :

    待ってた

    271 = 267 :



    (五感が失われていくのがわかる・・・こうして、なにもかも失われ・・・そして死ぬ。ああ、それは・・・なんて、孤独)

    (でも・・・どうして? もう何も見えない、何も聞こえない、何も感じないのに・・・どうしてこんなに近くに感じるの・・・咲ちゃん)


    最後の最後に咲の存在を感じながら、霞は静かにその場で事切れた




    272 = 267 :

    ――霧島神境・斎場へ向かう通路――


    那岐「―― 鬼に逢うては鬼を斬る 魔物に逢うては魔物を斬る ――」

    那岐「―― ツルギの理、此処に在り! ――」

    那岐「新免那岐――抜刀! エイヤーーーーーーーー!!」シャキーン

           |
       \  __  /
       _ (m) _ピコーン
          |ミ|
       /  .`´  \
    咲「パリイ」

    ペシン

    那岐「!?」

    那岐(馬鹿な、この者・・・素手で真剣を弾いただと!? 恐れは無いのか!?)


    「―― 獅子には肉を 狗には骨を 龍には無垢なる魂を ――」

    「―― 今宵の虎徹は血に飢えている ――」シャキーン

    那岐「な!? なぜ貴様が新免の技を!? ぎゃあああああああああああ・・・」ドサッ


    273 = 267 :




    (ふう・・・今のでここにいた警備の人は最後かな)

    (帯刀した人までいるなんて・・・あの和ちゃんの言った通り、いつもの私なら社の中に入る事すら無理だったよ。感謝しないとね)

    (でも、霞さんの気配を追ってここまで来たけれど。おかしい・・・さっきから霞さんが感じられなくなった・・・)

    (まさか・・・)

    嫌な予感がする

    その逸る気持ちが抑えられず、咲は走り出す


    トットットットットット


    (ん、ここ・・・大勢の人の気配がする。ここに居るの?)

    咲は通路の先にあった部屋に人の気配を感じて、そのまま迷いなく戸を開ける

    274 = 267 :


    祖母「む・・・妙な気配がすると思っていましたが、これはまた奇怪なモノが紛れ込んだようですね」

    ジロジロ

    「・・・!?」

    そこは霧島神境の斎場

    異分子である咲の存在を見咎めるように、そこに集っていた者達の視線が集まる


    祖母「せっかく姫様が久方ぶりの穏やかな眠りにつかれたのに・・・巴達は何をやっていたのです」

    「あ・・・あれは・・・」

    だが咲は、その場にいる者達からの無遠慮な視線にも、明確な敵意にも一切の関心を抱かず、ただ目の先にあった一人の女性の姿だけに注目していた

    そう、そこに打ち捨てられたように横たわった霞の姿だけが、咲の目には映っていた

    275 = 267 :


    「霞さん!!」

    「・・・」

    霞に向かって咲は叫ぶように呼びかける

    だがその声が、まるで届いていないかのように霞は何の反応も示さない

    否、もう届いていないのだ


    祖母「無駄ですよ鬼子よ・・・霞はもう呼びかけに答える事も立ち上がる事も出来ない、そこにあるのはもう石戸霞ではなく、アマガツとなったただの人形」

    祖母「石戸の秘呪は死せることにより完成する、憑りついたものを決して外に出さず、そして自らの体を恐ろしいモノに操らせるような事も無い・・・」

    祖母「霞はよくやってくれました・・・あとはそれを神域にて封印し、恐ろしいモノが完全に消滅するのを待ちましょう」

    「・・・はい?」

    ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

    「「「「「!?」」」」」

    276 = 267 :


    咲が巻き起こす領域の変化、支配

    それは神域にほど近いこの斎場でさえ起こりえた


    「霞さんが死んだ? まさか・・・そんな事はありえません」

    ペチペチ

    咲は倒れている霞の方にゆっくりと歩み寄る


    祖母「それ以上近づく事はゆるしません鬼子! 皆の者! その者を捕えなさい!」

    「・・・うるさい」

    イイイー ギャアアア ナンダコイツ ホコリニカケテ デヤアアアア
    ココハトオサン グワーーーーー マモレナカッタ

    投げかけられる言葉には耳をかさず、邪魔する者はねじ伏せ

    こんな結末は信じない、その一心で咲は霞に歩み寄った

    「霞さん・・・」

    「・・・」

    「嘘、だよね・・・目をあけて・・・」

    「・・・」

    「私の声・・・もう聞こえないの? どうしても伝えたい言葉があってここまで来たの・・・お願い・・・!! 目を、あけてよ!!」

    「・・・」

    「うう・・・そんな・・・」フルフル


    霞の亡骸を前に、ただただうなだれる姿

    見た目には、死を前にして無力なただのヒト

    277 = 267 :



    祖母「む、無駄だと言いました。何度呼びかけても霞はもう・・・」

    「・・・貴方達がやったの?」

    ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

    祖母「!?」


    一転、無力なヒトは恐ろしい鬼となる

    嘆く気持ちが塗り替わり、周りにいる者達への憎しみとなる

    怒髪天をつく怒りが咲から放たれる


    祖母(こ、この娘、更に邪気を増した・・・馬鹿な、祝詞によって浄化されたこの斎場において鬼門が開いている!?)

    祖母(な、何がはじまるというのです?)

    「許さない・・・貴方達・・・絶対に許さない」

    (許さないゴッ倒す殺す最大限苦しませて消し炭に滅びよ残酷にその幻想も何もかも跡形もなく覚悟はいいか裁くのはまっすぐ行ってぶっとばす罪を数えろ有罪天から墜ちよ泣け叫べそして闇にのまれよハラワタを切り裂いて打ち貫く一掃する明日は来ないボロ雑巾のように駆逐する毀すひねり潰す散れ溶けろ玉砕黄昏よりも暗き断末魔刻む抉る絶望の淵に泥にまみれろ消えない痛み恨みふさわしい死を狂気の中で嘆き悲しみくうくうお腹が鳴りまして殺戮と血と人の皮を被った悪魔め黄泉平坂を越えて行け!!)


    祖母「ひっ」

    祖母(恐ろしいモノが集まっている・・・こんな小娘がどうしてこのような力を!?)

    278 = 267 :



    憎悪がこもった鬼神の支配

    咲が見せたそれは前代未聞、天地万物が灰塵と帰すかのような厄災の予兆をその場にいる者達に与えた




    だが、それが最大の高まりを見せた時――


    「いけません咲さん!!」

    「え?」


    ピカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアパアアアアアアアアアアアアアアアアアアア アーア 


    斎場は輝かしい光に包まれた


    279 = 267 :





    「あれ? 私・・・」

    「咲さん、間に合ってよかったです」


    気が付くと咲の背には暖かな感触と共に、原村和の気配があった


    「和ちゃん・・・どうして」

    「どうしたもこうしたもありませんよ、何をやっているんです?」

    「何って、復讐だよ・・・霞さんの」

    「この人達に思い知らなくちゃいけない、自分達の犯した罪の重さを」

    「何を言っているんです咲さん・・・復讐って、咲さんはそんな事の為に、霧島神境まで来たわけじゃないでしょう?」

    「・・・でも、もう霞さんは」

    「しっかりしてください咲さん!」

    「え?」

    「咲さんは大事な事を見失っています、復讐よりも憎むよりもまず、先にやらなければいけないことがあるでしょう!」

    「・・・」

    「そして見失っているのはそれだけじゃありません・・・咲さんは大事にすべき本当の自分自身をも見失ってしまっています」

    「本当に自分自身?」

    「はい、貴方が持つ優しさ、温かさ、時にはドジで、時には頼りになり、臆病なところもあって、でもやると決めたらゆずらない・・・そういうところを私はずっと、見てきました」

    280 = 267 :


    「・・・和ちゃん」

    「そして石戸さんも・・・咲さんのそういう所に惹かれていたはずです、今の力に溺れた咲さんを見たら、きっと悲しみます。咲さんはそれでいいんですか?」

    「霞さんに・・・嫌、良くない。そうか、そうだね・・・和ちゃん、こんな事で霞さんは喜ぶはずがない・・・」

    「ええ」

    「ありがとう和ちゃん、私もう少しで取り返しがつかなくなるところだったかもしれない」

    「ふふ、解ってくれればいいんです」

    (いつまでも世話が焼ける人です・・・そして石戸霞、敵に塩を送るのはこれで最後ですよ!)


    パアアアアアアアアアアアアアア アーア


    「あれ? 和ちゃん・・・消えた?」

    咲が背に感じていた和の気配はいつの間にか消えていた

    咲の支配によって開かれた鬼門も閉じられ、現れた恐ろしいモノ達も斎場から消え失せている

    そして代わりのように、咲の手の平にはある物が収まっていた 

    (これって・・・和ちゃんの・・・)

    咲の手にあったのは、かつて原村和と神社で交換したストラップ

    霞が咲と和の友情の証しだと称した物

    次の瞬間にそれは、その役目を終えたようにバラバラに崩れ去った

    281 = 267 :



    祖母(な、何が起こったのです?)

    祖母(あの鬼子が鬼門を開き、斎場が邪気で満たされたのはわかりました・・・でも妙な光がそれを祓った)

    祖母(もしや・・・あの鬼子が持っていた人形、あれがアマガツとなって邪気を祓ったというのか?)

    「・・・」スウ


    斎場にいる者達が、その場の変化に対応できず呆然とする中

    咲はもう一度、霞のもとに歩み寄りその冷たい体を抱き上げた


    「・・・」

    「霞さん、さっきは言いそびれちゃったけど、私が貴方に伝えたかった事・・・聞いて下さい」

    「・・・」

    「聞いてなくても・・・言いますから」

    「・・・」

    282 = 267 :


    「私、霞さんと過ごせて本当に良かった。短い間だったけど、嬉しくて、楽しくて、久しく忘れていたものを思い出せました」

    「・・・」

    「初めてキャバクラに行った時、秘めていた自分の弱い部分をさらけ出して・・・それを受け止めてくれた事、本当に嬉しかった」

    「・・・」

    「楽しさだけじゃなくて、苦しみも悲しみも分かち合ってくれて・・・多分私はその時からずっと、霞さんと色んな事を分かち合っていきたいと思うようになっていたんだと思う」

    「・・・」

    「これからもずっと、分かち合っていきたかった・・・貴方と、もっと、ずっと一緒にいたかった」ポロポロ

    「・・・」

    「うぐ・・・えぐ・・・間に合わなくて本当にごめんなさい、霞さん・・・」ポロポロ

    スッ

    「・・・え?」

    283 = 267 :



    咲の頬を伝っていた涙、それを拭う手

    体温のない冷たい手、だが何故か暖かさの感じる手の感触に驚き、泣きじゃくっていた咲の嗚咽が止んだ


    「また・・・私のせいで泣かせてしまったわね・・・ごめんなさい咲ちゃん」

    「か、霞さん!」

    祖母「なんですと!?」

    祖母(霞が目覚めた!? そんな馬鹿な、もう体から魂は抜けきっていたはず・・・なぜ、奇跡だとでもいうのですか!?)

    「・・・声が聞こえたの、死に近づいた私を呼ぶ声が、咲ちゃんの声が。だから私、戻ってきちゃった」

    「霞さん、良かった・・・本当に。嬉しいです、もう一度会えて」

    「私も嬉しい・・・まさかこんな所まで、咲ちゃんが来てくれるなんて思っていなかったから」

    「どこにだって行きます、霞さんのいる所なら」

    「うん・・・」

    284 = 267 :


    「でも、もういなくなったりしないで下さい」

    「うん・・・」

    「これ・・・私の独りよがりじゃないですよね?」

    「うん・・・私も同じ気持ち」

    「ただいま咲ちゃん」ギュッ

    「・・・おかえりなさい、霞さん」ギュッ


    死びととなった霞が命の鼓動を吹き返す

    その奇跡を呼び込んだのは、神道ではありえないはずの天使の御業なのか

    再会を喜び合い、抱き合う咲と霞

    しかし、彼女達にはまだ乗り越えなくていけない問題がある

    285 = 267 :



    祖母「二人とも離れなさい!」

    「祖母上様・・・」

    祖母「貴方達はどちらも危険なモノを宿している・・・解りませんか? 今なお触発し合って、増長せんとする恐ろしいモノの力が!」


    霞に宿る恐ろしいモノと咲に宿る他化自在天の力

    霧島神境の者達にとってそれは、恐怖すべきものであり異端として排除の対象なのだ


    「・・・」

    「霞さん・・・大丈夫です」

    「咲ちゃん?」

    「あの人達が恐れるものがなんなのか、なんとなくわかります。そして・・・私がそれを使って何をすべきなのか、今ようやく解りました」

    「・・・うん、もしかしたら私も今、同じことを思っていたかもしれないわ」

    286 = 267 :


    (咲ちゃんの想いが伝わってくる、そして私の想いが伝わっていくのも解る・・・私達いま、とても深く繋がっているのね・・・)

    (いえ、繋がっているというよりも・・・一つになる、二人で一つの意識を共有してる)

    (制御できなかった恐ろしいモノもまるで静けさを保っている・・・互いが互いのアマガツとなるように、凶事を分け合っているのね)

    (はい・・・そして、私達ふたりならきっと、それを形に出来る)

    祖母「!?」

    祖母「あ、貴方達! 何をするつもりです!?」

    「もしかしたら、これは多くの人に影響を与える罪深いことかもしれない・・・霞さんはそれでも、私と共に歩んでくれますか?」

    「うんもちろん・・・私も咲ちゃんとおんなじ気持ち、もう離れない・・・咲ちゃんと分かち合っていけるなら、共に地獄に落ちる事も怖くない・・・」

    「うん・・・やりましょう、霞さん!」

    「ええ、よくってよ」


    ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオ


    祖母「こ、これは・・・この力、この予兆は!?」


    「申し訳ありません祖母上様・・・貴方達が恐れたモノの力、いまそれを使います」



    287 = 267 :

    ――神の領域――



    霞・咲「―― 彼女ほど 真実に誓いを守った者はなく ――」


    霞・咲「―― 彼女ほど 誠実に契約を守った者もなく  ――」


    霞・咲「―― 彼女ほど 純粋に人を愛した者はいない ――」


    霞・咲「―― だが彼女ほど 総ての誓いと総ての契約 総ての愛を裏切った者もまたいない ――」


    霞・咲「―― 汝ら それが理解できるか? ――」


    霞・咲「―― 我を焦がすこの炎が 総ての穢れと総ての不浄を祓い清める  ――」


    霞・咲「―― 祓いを及ぼし 穢れを流し 熔かし解放して尊きものへ 至高の黄金として輝かせよう  ――」


    霞・咲「―― すでに神々の黄昏は始まったゆえに・・・ ――」


    霞・咲「―― 我はこの荘厳なる神域を燃やし尽くす者となる ――」


    火の粉が舞い 火が灯り それが集まり炎となる

    その炎は積み重なって 天へと伸びていく

    そう、まるで槓のように・・・
     

    289 = 267 :


    霞・咲「―― 修羅曼荼羅・大焦熱地獄 激痛の槓 ――」

    291 = 267 :






    曼荼羅(マンダラ)とは宇宙をあらわし――

    修羅曼荼羅とは、すなわち破壊愛の宇宙――

    それは、愛の為に宇宙の・・・自分達の世界を変えようとした二人の起こした驚異であり神変――

    燃え上がった二人の愛は天を突き、世界のありようを塗り替えた――





    293 = 267 :


    ――霧島神境・斎場――


    「・・・」

    「・・・」

    祖母「・・・な、何をしたお前たち」

    ドヨドヨ


    斎場はどよめいていた

    霞と咲――二人が見せた力、視界いっぱいに広がっていた膨大な炎

    それが収まった時、何一つとして燃えていたものはなかったのだから


    「・・・あの炎は、決して消えぬ炎、されど燃やすものは現実のものではありません。感じませんか? 貴方がたにとってもっとも身近なものが消えている事に」

    祖母「・・・ハッ!? まさか」

    「はい、この場所と神の世界を繋ぐ場所・・・言うなれば高天原(タカマガハラ)と中つ国を隔てる場所に炎を流出させて塞ぎました・・・これでもう、荒ぶる神も千早ぶる神もこの世へ出てくることはできないでしょう」

    (オカルトは消え・・・これでもう、神様のきまぐれで霞さんが犠牲になるような事は起こらない)

    294 = 267 :


    祖母「馬鹿な! なんという事をしたのです! 自分たちが何をしたのか本当に解っているのですか!?」

    「解っています祖母上様。これは神の庇護をも拒む事・・・これから先、人が神の力に頼る事は出来なくなるでしょう」

    祖母「解っていてなぜ、神を失う事が神代にとって・・・いや、この国にとって、どれほどの影響を及ぼすか・・・」

    「神などいなくとも、人はやっていけます」

    祖母「!?」

    「私は、そう思わせてくれる人に出会えたから・・・」チラリ

    「霞さん・・・」ウン

    「・・・時代を作っていくのは人、そして人に寄り添うべきは人であるべきだと思います。そしてだからこそ、神の為に人が犠牲になる事はもう終わりにするべき、そう思いました」

    295 = 267 :


    祖母「詭弁を・・・! そう思える事こそが高慢だと知りなさい!」

    祖母「お前たちのように誰もが皆、通じ合えるわけではない。家族も友人も恋人もいない、そんな寄る辺なき者達はどうなります! 神に祈るしか無い者達はこれからどうすればいい!」

    「それは・・・」

    「霞さん」スッ

    「咲ちゃん?」

    「ここからは私が、私だけが伝えられる言葉でいいます」

    祖母「なんですか、部外者は控えていなさい!」

    「いいえ退きません、お婆さん・・・家族も友人も恋人もいない、そんな人たちはどうすればいいと、いいましたよね?」

    祖母「・・・ええ」

    「キャバクラに行けばいいと思います!」

    祖母「!?」

    296 :


    「ちょっとしたきっかけで見ている世界が一変する事もある、私はキャバクラに行って、霞さんと出会って、それを再認識しました」

    「前はキャバクラには良い印象を持っていなかったけど、今は違うと言える。麻雀が好きではないと思っていても、好きになる事もある・・・そうやって否定したものに踏み込んで認めて、自分の認識を変え世界を広げていく。人はそれができるはずです」

    (そう、それができるなら・・・人はもう神の手を離れて独り立ちする時)

    「古きものを重んじるのもいいでしょう、でもそれに囚われていては進めない、進めなくなると私はそう思います」

    「そのために、まずはキャバクラに行きましょう! そして一緒に楽しもうよ!」グッ

    祖母「」


    297 = 296 :


    祖母(なんですかこれは・・・戯れ言にしか思えないのに、この娘の言葉が妙に心に響く・・・)

    小蒔「すばらしいです!」

    祖母「!? 姫様、目覚めておられたのですか!?」

    小蒔「はい。霞ちゃんと宮永さん、二人が成した事も全て見ていました」

    「小蒔ちゃん・・・私」

    小蒔「もっと誇ってください霞ちゃん、貴方は私や皆を救ってくれたんですから・・・そして、良い人に出会えたみたいで良かったです。お二人の事、全力以上で祝福させていただきます!」

    「しゅ、祝福って・・・そんな」

    祖母「姫様! この者達は神代の築いてきたものを完膚なきまでに打ち毀したのですぞ! それを姫巫女たる貴方が許されてよいのですか!?」

    小蒔「いいえばあや、もう神は消え私は姫巫女の資格はなくなりました。今はただの神代小蒔として、二人の成した事を自分の意志で支持しようと思います」

    小蒔「キャバクラ・・・一度行ってみたいと思っていました! 宮永さん! 私を一緒に連れて行ってください!」

    祖母「」

    298 = 296 :



    「・・・宮永咲の支配が消えて急いで駆け付けてみたら、何なのこの展開?」

    初美「さ、さあ? でも私としては、姫様も霞ちゃんも楽しそうだから良かったですよー。意識不明だった明星ちゃんも目覚めたみたいですし、湧ちゃんも大事なかったみたいですしね」

    「・・・めでたしめでたし?」



    祖母「嘆かわしい事・・・これまで鬼籍に入った者達に、私はなんと顔向けすれば・・・」

    小蒔「いいえ、きっとすべてはこの時の為にあったのです」

    祖母「姫様?」

    小蒔「神代の為に犠牲となってきた者達は、いつかきっと誰かがそれを変えてくれると信じていたから、自分の子や孫が神の手を離れる時代を築いてくれると信じていたから、その為にその身を捧げてくれていた・・・私はそう思います」

    小蒔「そしてばあや・・・貴方もそう。もう心を鬼にして神代の為に労苦する必要も無くなったのです」

    祖母「・・・」

    299 = 296 :


    小蒔「鬼籍に入った者達の事は私が決して忘れません。そして、それでも笑っていようと思います、かの者達も分まで」

    祖母「・・・解りました、もう何も言いますまい」

    祖母「ふう、『ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川・・・』とはよく言ったものです。季節が変われば紅葉でも、久々に見に行くとしましょう」

    小蒔「はい、長生きしてくださいね」


    300 = 296 :


    ――こうして、宮永咲と石戸霞によって世界はありようを変えた

    神の手を離れた新たな世界ではオカルトめいた力は全く無くなってしまったが、世間的にはそれほど気にされる事も無かった

    だが巫女としての任を解かれ自由となった神代小蒔達は、咲の言葉と初めて行ったキャバクラに感銘を受け、キャバ嬢の道を進む

    そして龍門渕グループと協力して巫女キャバクラを全国展開すると、世はまさに大キャバクラ時代の到来を迎えた

    そんな中、佐々野いちごは牌のおねえさんとなり、上重漫の実家のお好み焼き屋は潰れたがそれもまた、新たな時代の動きであった

    そして一年の月日が流れる――









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