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    元スレ咲「キャバクラ行ったら世界が変わった」霞「ええ、よくってよ」

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    201 = 166 :


    ――動物園・入口広場――

    ピンポンパンポーーン

    アナウンス『まもなく閉園となります園内にお残りのお客様は・・・』


    「あらあら、もう出ないといけないわね」

    「そうですね。でもその前に、ちょっとだけそこの売店に寄ってもいいですか?」

    「売店? お土産でも買うの?」

    「はい、そんな感じです」

    202 = 166 :


    ――売店――


    「霞さん、このキーホルダーどうですか?」

    「あら、動物のキーホルダーなのね、それすごく可愛いわ」

    「でも他のも可愛いから、こういう時選ぶのが悩ましいですね」ムムム

    (咲ちゃん、あんなに真剣に選んでる。きっとそれだけ大切な人へのお土産なのね)

    「そう言えば咲ちゃん、キーホルダーといえばいつもつけているのがあったわよね。それは誰かからのお土産?」

    「あ、これは・・・高一の麻雀の合同合宿の時に神社にお参りをしたんですが、その時に和ちゃんから貰ったんです」

    「でも貰ったというよりは交換ですね。私も自分が買ったものを和ちゃんにあげて・・・確かその時からです、私達が名前で呼び合うようになったのも」

    203 = 166 :


    「そう・・・そうなの。じゃあ二人にとっては、そのキーホルダーが友情の証みたいなものなのね?」

    「そう言われると、何だか照れちゃいますけど」エヘヘ

    (じゃあ、きっと今選んでいるものも・・・原村和ちゃんにあげるものなのね)

    「決まりました! 霞さん!」

    「?」

    「これ、よかったら貰ってください」スッ

    「!?」

    「霞さん風に言うなら友情の証しです・・・ダメですか?」

    「咲ちゃん・・・本当に私に?」

    「うん、また一緒に来る約束もしましたし、忘れないようにという意味も込めて・・・」

    「咲ちゃん・・・嬉しい」

    204 = 166 :


    「私からも貰ってくれる?」

    「はい、大事にします」

    「うん、私も・・・死ぬまで肌身離さず持っているわ」

    「ふふ、大袈裟ですってば」

    「そうね・・・でも本当に嬉しい」

    「霞さん?」

    「・・・・・・私達も名前で呼び合う事にしましょうか?」

    「何を言ってるんですか、最初からそうじゃないですか」

    「そうね、うふふ・・・私、何を言ってるのかしら・・・忘れて頂戴」

    (危ないわ、冗談で誤魔化さなければ泣きそうだった・・・)

    205 = 166 :


    グーー


    「あ・・・」

    「お腹の虫が鳴いちゃったわね。ねえ咲ちゃん、良かったら今から家に来ない? 今日のお礼に御馳走を用意するわ」

    「やった、霞さんの料理はおいしいから嬉しいです」

    「ええ、腕によりをかけるわ」

    206 = 166 :



    ――霞宅――


    食事も終わり、夜も遅くなったので咲は霞の家に泊まる事になった

    霞がぎっくり腰で動けなくなった時も、何度か咲は泊まっていたので、二人の中では当然の流れであった


    「じゃあ、電気を消すわね」

    「はい」

    パチン


    「・・・」

    「・・・」

    「・・・」

    「・・・」

    「・・・」

    「ねえ、咲ちゃん」

    207 = 166 :


    「どうしました?」

    「咲ちゃんの布団に一緒に入ってもいい?」

    「ふえッ!?」

    「い、いきなりどうしたんですか?(変な声出ちゃったよ)」

    「じゃあお邪魔しますね」ガサゴソ

    「良いって言ってませんよ!?」

    「嫌なら出るわ、ごめんなさい」

    「・・・い、嫌とも言ってないです。解りました、どうぞ入ってください」

    「うん、ありがとう」

    208 = 166 :


    「・・・」フイッ

    「咲ちゃん、どうしてそっぽ向くの?」

    「それは・・・二人で寝る時はこうして背中を合わせれば、温かいんです」

    (本当は近すぎて恥ずかしいからだけど)

    「本当?」ピト

    「!?」ビクッ

    「あ、本当だわ、咲ちゃんの背中、とても暖かい」

    「・・・霞さんの背中は冷たいですね」

    「うん、体温が低いの、家系的なものかしら・・・死人みたいって言われた事もあるわ」

    「そんな酷い言い方で?」

    「それも家系的なものせいかしら・・・あ、それより咲ちゃんちょっとベランダの方見てみて」

    209 = 166 :


    「ベランダ?」

    「あ、月が出てる・・・満月ですね」

    「ええ、今日は月が綺麗ね」

    「ですね」

    「今日は月が綺麗ね」

    「なんで繰り返したんですか?」

    「・・・どうしても言っておきたかったから」

    「・・・」

    210 :


    ――数分後――


    「ねえ咲ちゃん・・・まだ起きてる?」

    「・・・スピー」zzz

    「・・・寝ちゃったのね」

    (結局・・・伝えられなかった。伝える機会はいっぱいあったのに、ダメね私)

    「ねえ咲ちゃん、私が前に神境を出た理由を話した時の事、覚えてる?」

    「・・・」zzz

    「私はあの時誰かの代わりじゃない生き方をしたかったからと言ったけど、本当は半分だけの本当なの」

    「・・・」zzz

    「私は、私以外の皆にも、誰かの代わりじゃない生き方をしてもらいたかった」

    211 = 210 :


    (小蒔ちゃんにも、初美ちゃんにも、明星ちゃんにも、巴ちゃんにも、春ちゃんにも、湧ちゃんにも・・・みんなみんなしきたりや家に縛られず、自分の望む生き方をしてもらいたかった)

    「・・・」zzz

    「・・・結局私は何も変えられず、一人だけ神境を出る事になったけど、それでもまだその時の想いが残ってる」

    「・・・」zzz

    「だから私は神境に戻るわ・・・私がいなくなっても。今ならその想いを巴ちゃん達が継いでくれて、いつか変わる時がくるかもしれない」

    「・・・」zzz

    (それに異変の影響が出やすいのは、咲ちゃんのような強い能力を持つ人達・・・私が小蒔ちゃんの身代わりとなってそれが収まれば、悪い影響も出ない)

    「さようなら咲ちゃん・・・大切な思い出をありがとう」

    「そして・・・本当にごめんなさい」

    212 = 210 :


    ――翌朝――

    アガッテンナーウォウウォウ アガッテンゾーイェイイェイ

    (ん? ・・・朝?)

    目覚ましのアラーム音で目をさまし、身を起こす咲

    (えっと、霞さんの家に泊まって・・・そうだ、お布団畳まなきゃ)

    「あれ? 霞さん・・・?」

    しかし一緒の布団で寝ていたはずの、霞の姿がないことに咲は気付き、周囲を見回す

    すると、枕元に一通の手紙が残されているのを目にした

    「そんな・・・霞さん・・・どうして・・・」

    咲の中にも予感はあった

    霞の発する言葉の端々にもその予兆はあった

    だが咲は信じていた、霞がいなくなるはずがないと、だから何も聞かずに共に過ごした


    しかし手紙の一文目に書かれた『さようなら咲ちゃん』という言葉は、明らかな別れを告げているものだった

    213 = 210 :

    今日はここまでっす
    そして次の投下で完結する予定です
    今回溜めた鬱憤は全部次回で晴れるはずなのでコメディとタイトル詐欺にならないように燃え尽きようと思います

    214 :

    乙です
    もうすぐ終わりだと思うと寂しいな

    215 :

    ラスト楽しみにしてる

    216 :

    やった、来てた

    217 :

    待ってたかいがあったわ

    218 :

    >>1です
    すいませんちょっと補足しときます
    >>202で咲がいつも持っているというのは、アニメ一期25話で咲と和が交換したストラップの事です

    霞さんはキーホルダーと言ってますが、たまたま咲が鍵につけていたからそう見えたということで、どうかひとつお願いします
    (書いてる時にストラップという言葉が出てこなかったなんて恥ずかしくて言えない)

    ほんとすいません

    219 :

    待ってるよ

    220 :


    ――
    ―――
    ――――
    ―――――
    ――――――
    ―――――――
    ――――――――
    ―――――――――
    ――――――――――
    ―――――――――――
    ―――――――――――――
    ――――――――――――――
    ――――――――――――――
    ―――――――――――――
    ――――――――――――
    ―――――――――――
    ――――――――――
    ―――――――――
    ――――――――
    ―――――――
    ――――――
    ―――――
    ――――
    ―――

    221 = 220 :

    ――次の日――


    霞がいなくなって24時間が経過した

    その間ずっと、咲は待っていた

    霞が残した手紙を握りしめ、それが何かの冗談である事を信じて、ずっと霞と過ごした部屋で待っていた

    しかし霞は戻っては来なかった

    不意だったはずの別れは、一晩で現実のものとして咲に突きつけられていた


    (霞さん・・・霞さんがいなくなって、この部屋がとても広く感じるようになったよ)

    (・・・とても寂しいよ)


    霞の残した手紙には、別れの言葉と共にもう二度と会えないであろう、という事が遠回しに書かれてあった

    222 = 220 :


    (私・・・これからずっと、この寂しさを忘れずに生きていかなくちゃいけないの?)

    (そんなの嫌だよ・・・)

    (霞さん・・・せめてもう一度、会いたい)

    ガラガラ

    「!?」

    その時ベランダの戸が開く音がした

    ふさぎ込んでいた咲も、その音に反応して顔をあげる

    もしかしたら・・・そんな思いが可能性を期待させた

    「霞さん?」

    「もう一歩踏み出せるぅーわたーし待ってたよー♪」ニュースパークス

    「」

    223 = 220 :


    「絶対ゆっずっれない この時をまーってたよー」キミトチャンスチャンスツカモー

    「待ってないよ・・・何しに来たの和ちゃん?(半ギレ)」

    「咲さんが落ち込んでいるのを察知して、こうして慰めに来ました」

    「確かに落ち込んでるけど・・・ところでどうして和ちゃんはベランダに干してあった布団を抱えてるの?」

    「咲さんの香りがしたからです!」クンカクンカスーハー

    「もう少し和ちゃんはブレても良いと思うよ・・・」

    224 = 220 :


    「そのツッコミのキレのなさ・・・本当に落ち込んでいるんですね、咲さん・・・」シミジミ

    「・・・私の状態をツッコミのキレで判断するのやめてよ」

    「さあ、咲さん元気出して下さい。和のここ、空いてますよ? 辛いなら私の胸で泣いてください」

    「・・・いい」

    「遠慮せず」ポムポム

    「ごめん・・・今は本当にいい。それに今は誰とも話せる気分じゃないし・・・八つ当たりで嫌な事を言っちゃいそうだから、お願い、出て行って」

    「咲さん・・・」

    「・・・」

    「本当に・・・辛いんですね、石戸さんとお別れしたのが」

    「・・・」

    225 = 220 :


    「好きなんですか? 石戸さんの事」

    「・・・・・・分からないよ」

    「分からないんですか? 自分の気持ちなのに?」

    「・・・分からない」

    「本当に?」

    「・・・」

    「・・・分からないよ、何もかも」

    「私がここまで落ち込む理由も、この胸のつかえも、喪失感も・・・」

    「どうしてこんなに辛いのか分からないよ・・・霞さんとはちゃんと知り合ってから、そんなに長い時間を過ごした訳じゃないのに・・・」

    「・・・」

    「私、どうすればよかったの・・・これからどうすればいいの・・・なにも分からないよ」

    「咲さん・・・」

    226 = 220 :


    「とりあえず笑えばいいと思いますよ?」

    「え?」

    「咲さんが望む、笑顔になれる未来を想像してください。そうすればおのずと、自分がどうすべきかどうか見えてくるはずです」

    「私の・・・望む未来」

    「確かに咲さんは、石戸さんと知り合ってから、そんなに長い時間を過ごした訳じゃありません・・・」

    「でも、人が人を好きになるのに時間は関係ない・・・一瞬あれば済む事なんです」

    「・・・」

    「もう一度聞きます。咲さんは石戸さんの事をどう思っているんですか?」

    「・・・すき」

    「もう会えないって言われたからって、諦める事ができるんですか?」

    「できない」

    「じゃあ、どうするんですか?」

    「うん・・・和ちゃんの言いたいことが分かったよ。待ってたら駄目なんだ・・・」

    「本当にすきなら、待ってないで自分から会いに行かなくちゃ」

    「そして伝えなきゃ・・・私の気持ちを」

    「ええ、よくできました」

    227 :

    なんとなく来る気がしてたらほんとに来た

    228 = 220 :


    「和ちゃん・・・励ましてくれてありがとう」

    「・・・でも本当は、あなた誰? 和ちゃんと似てるけど、ちょっと違う感じがするよ。前に現れた偽物さん?」

    「ふふ、和であってますよ・・・ただし原村ではありませんが」

    「私は青山和・・・すべての時にたゆたう者です」

    「え?」

    「今は原村和の肉体を借りていますが、本来の私はこことは別に次元に存在しています」

    「あ・・・そうなんですか」

    (なんだろう・・・全然意味わからない事言われているのに、何かしっくりくるこの感じ・・・)

    「分からなくても、咲さんなら感じられるはずです。そしてだからこそ、私は貴方の前に現れました」

    「咲さんの能力の本質は、人と深くつながる事。姉の言葉で嶺上開花で和了できるようになったように、周りと同調してプラマイゼロにできるように・・・」

    「違う次元の存在である私ともつながりを持つ事ができる」

    229 = 220 :


    「・・・なるほど(わかったような、わからないような)」

    「ふふ、私の事はわからなくても構いません。それより咲さんに今必要なのはもっと別の事・・・私はこの体の本来の持ち主である原村和に、それを託されてここに来ました」


    そう言って和は咲に向かって手を伸ばした


    「え、ちょっと和ちゃん、何をするの?」

    「貴方の中に眠っている力を引き出します。のどっちのような潜在能力の封印と解放、それが私、青山和の能力です」ススス

    「ま、待って近い、近い」

    「石戸霞は霧島神境にいます、麻雀しか取り柄のない今の咲さんでは、向かっても門前払いでつまみ出されるのがオチです。だから少しだけ我慢しててください」ズイッ

    「なにげに言い分が酷いよ! あと近い!」

    230 = 220 :


    「すみません、異能のバランスが崩れているとはいえ、この世界に私が干渉できる時間は限られています・・・心の準備のあるなしは待ってあげられません」

    「え、ええー」

    「さあ、咲さん・・・輝いて ここ一番! 自分の直感を信じて! 受け取って下さい私からのミラクルラッシュ!」


    パアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア


    (え、本当に・・・なにこれ)

    (体の隅々まで何かが溢れてくる・・・でも嫌な感じしない、それどころか本当の私をようやく取り戻したかのような気分)

    (すごい・・・これは士栗や、あの運命奏者よりも上かもしれない)

    (宿主の原村和の願いとはいえ、ひょっとしたら私はとんでもないモノを呼び起こしてしまったのかもしれない・・・)

    (ですが・・・私ができるのはここまで、その力で何を成すのか、それは貴方次第です咲さん)


    ――おはようございます咲さん


    「・・・」ゴゴゴゴゴゴゴゴ



    宮永咲――覚醒

    231 = 220 :

    ――アイキャッチ――

    /nox/remoteimages/a7/94/2aca5734e0b616085bd7d4a98585.jpeg

    233 = 220 :

    ――アイキャッチ――

    /nox/remoteimages/ac/fa/2d082720adaeadec49f4f9f3be35.jpeg?1

    234 = 220 :

    ――霧島神境・座敷牢――


    (・・・)

    (神境に戻ってから、今日で三日目かしら?)

    (牢の中は日の光が入ってこないから、時間の感覚がつかみにくいわね。でも運んできてくれる食事の時間は同じはずだから、きっとそのくらいね)

    (そうすると、儀式の時間はまもなく・・・なのかしら)

    (食事と言えば・・・咲ちゃん、ちゃんとご飯食べてるかしら?)

    235 = 220 :


    霞は神境に戻ってきてすぐ、日も差さぬ座敷牢に幽閉されていた

    決して逃げ出せぬよう外部との接触も断たれ、厳重に管理される立場にある


    (小蒔ちゃんの様子も見ておきたかったけど、この分だと儀式の時まで出してもらえそうになさそうね)

    (・・・そしてその時が、私の最期かしら)


    カツンカツン


    (あら、足音? 誰か来たのかしら・・・食事はさっき運んでこられたばかりなのにおかしいわね・・・)

    初美「あわわ、まっくらですよー。霞ちゃーん、ここにいるんですかー?」

    「初美ちゃん!?」

    236 = 220 :


    初美「あ、いましたねー」

    「どうしてここに? 立ち入りを許されたの?」

    初美「いいえー、イジワルオババ共は許してくれなかったので、私が勝手にきたんですよー」

    「そんな・・・ダメじゃない。見つかったら大変でしょ」

    初美「ちょっとくらい大丈夫ですよー。霞ちゃんはお堅いですねー」

    「もう、人の気も知らないで」

    237 = 220 :


    初美「ふっふっふ、それにしても災難ですねー、せっかく帰ってきたのにいきなりブタ箱入りなんて」

    「私はいいのよ、どんな扱いをされるのかは、巴ちゃんから話を聞いた時点で解っていたことだから」

    初美「霞ちゃんは牛なんだからブタ箱はおかしいって、オババに抗議はしたんですけどねー」

    「・・・それはどうもありがとう。せっかく来たんだから初美ちゃんもそこの隙間から入ってかない?」

    初美「そんな小さくないですようー! あ、ひ、引っ張り込もうとしないでくださーい! 頭! 頭が嵌っちゃう!」ミチミチグイイイイイイイ

    「ふう・・・もう、いつまでも子供みたいな事を言ってるんだから」

    初美「うう、これでもオブラートに包んでいるのにー」メソメソ

    238 = 220 :


    初美「それよりも、幼馴染がせっかく会いに来たんだから、霞ちゃんももっと歓迎してくれてもいいじゃないですかー」

    「・・・・・・歓迎なんてできるわけないじゃない。どっちにしても、すぐにお別れなのに」

    初美「霞ちゃん・・・」

    「戻ってくる前、外の友達とお別れする時も・・・どんな顔をして、どんな事を言えばいいのか分からなくて、結局手紙だけ残してきちゃった」

    初美「・・・私にもそうする気だったんですか?」

    「そうね・・・でも、ここには書く物がないから壁に血文字になったかもしれないわね」

    初美「そんな呪いみたいな方法でお別れされるなんて、嫌すぎますよー」

    239 = 220 :


    初美「そんなに辛くなるなら戻ってこなければ良かったのに、馬鹿ですねー」

    「そうね・・・」

    初美「今だって、本当は出たいんじゃないですか?」

    「・・・」

    初美「霞ちゃん、なんだったら私がそこから出してあげますよ?」

    「え?」

    初美「神境は儀式の準備で人が駆り出されてますし、神宮の方も閉めるわけにはいかないから、逃げるならいましかないです」

    「初美ちゃん・・・ダメよ、小蒔ちゃんはどうするの?」

    初美「姫様は、私がなんとかしますよー」

    「なんとかって・・・そんな簡単じゃないでしょ?」

    240 = 220 :


    初美「簡単じゃなくても、それでもなんとかします。姫様も霞ちゃんも、私にとっては大事な存在なんです、どっちかなんて選べるわけないです! そんなの!」

    「それは違うわ。選ぶ必要はないし、初美ちゃんが何かする必要もない。犠牲になるのは私・・・もう決まった事なの」

    初美「霞ちゃん・・・」

    「初美ちゃんの気持ちは嬉しいけど、でもだからといってそれに甘えるわけにはいかない・・・私はもう、初美ちゃんの後ろをついて行くだけの自分をとっくに卒業したの」

    初美「でも・・・置いていかなくてもいいじゃないですかー」グス

    「あらあら、初美ちゃんは置いて行ったじゃない? 七つの時に」

    初美「う、神境に入った時の事ですかー、そんな昔の事根に持ってたんですねー・・・」

    「あの時ほど寂しくて、自分の未熟さを嘆いた事はなかったもの」

    241 = 220 :


    初美「だからって、霞ちゃんは急いで大人になりすぎですよー・・・色々追い抜かれる方の身にもなってくださいー」グス

    「ふふ、今の私が大人になれた結果だとしたら・・・思っていたよりも大人になるのって悲しい事ばかりじゃなかったわ」

    「子供の私じゃ叶えられなかった夢を叶える事ができた・・・ずっと行ってみたかった動物園にも行ってこれたもの」

    初美「・・・そんなのいつだっていけますよー」

    「いいえ、最初で最後・・・それが輝かしい思い出として私に残っている、それで充分」

    「だから初美ちゃんは、小蒔ちゃん達ともっといっぱい思い出を作ってあげて。その為に犠牲になれるのなら、私はもうちっともつらくないし、かなしくない」

    初美「霞ちゃん・・・」

    「あんまり巴ちゃんや春ちゃんを困らせたらダメよ? 小蒔ちゃんに甘えるのもダメ、初美ちゃんはお姉さんなんだから」

    初美「うっさいですよークソBBA、最後の最後にお説教なんて聞きたくないです」メソメソ

    「あらあら、ごめんなさい・・・」

    242 = 220 :



    カツンカツン


    「?」

    初美「!?」

    (あら、また誰か来たわ・・・これは)

    祖母「む、そこに居るのは誰ですか?」

    初美「げぇ! オババ!」

    「祖母上様・・・」

    祖母「初美・・・なぜ貴方がここに居るのです? 立ち入りは禁じていたはずですよ?」

    初美「あわわ、それは・・・」

    「初美ちゃんはただお別れを言いに来てくれただけです。儀式にのぞむ私に心残りが無いようにと・・・」

    祖母「・・・・・・本当ですか初美?」

    初美「・・・それは」

    「初美ちゃん」ニコ

    初美「・・・霞ちゃん」

    243 = 220 :


    初美(あくまでも・・・自分の覚悟は曲げない気なんですねー)

    初美「そうですよー。儀式に邪念が入らないようにお別れしたかっただけですよー」

    祖母「・・・・・・ふむ、まあいいでしょう。言いつけを守らなかった罰則は後で与えます、とりあえず今は神境の鳥居の外に行きなさい。巴達もそこに向うように言いつけておきます」

    初美「え?」

    祖母「儀式の準備が整いました。儀式の進行は私と分家の尊老だけで行います。貴方達の斎場への立ち入りは断固禁止します」

    初美「そんな・・・あんまりですよー。私達だけハブにするだなんてー」

    祖母「お別れは済ませたのでしょう? 問題は無いはずです」ギロッ

    初美「う・・・」

    祖母「霞も、それでいいですね?」

    「ええ、構いません。むしろありがたいくらいです」

    初美「霞ちゃん・・・」

    「・・・」ニコッ


    霞は初美に笑顔だけ向け、座敷牢の鍵を開けて手招きする祖母の後ろをついて行く

    ただ笑って去ったのは、初美にかける言葉がやっぱり見つからなかったから

    そして初美もまた、霞にかける言葉はもうなかった

    244 = 220 :


    初美(霞ちゃん・・・貴方の覚悟はわかりました。だからもう私はなにも言わないですよー)

    初美(でも、私は霞ちゃんを一人にしません・・・もしも儀式で霞ちゃんが命を落とすようなことになれば・・・)

    初美(・・・私も一緒に、鬼籍に入ってあげますよー)

    初美(その時は、あの世でいっぱい小言を聞いてあげますから・・・)




    儀式の時は、もう間もなく迫ろうとしていた

    245 = 220 :

    ――霧島神境・鳥居――


    初美「・・・」

    スタスタ

    「あ、はっちゃん、もう来てたんだ」

    初美「んー巴ちゃんにはるるも、二人もオババに追い出されて来たんですかー?」

    「・・・」コクリ

    「うん、姫様だけは斎場に移動して儀式を始めるみたい・・・」

    初美「姫様の様子はどうでしたかー?」

    「それが、今日は少し調子が悪そうだったの・・・」

    「・・・心配」

    「そうだね、うちのお爺様がついてくれているけど流石に・・・」

    246 = 220 :


    初美「そうだったんですか・・・心配ですね」

    「でも、私達に出来る事は儀式の成功を祈る事だけ。余計な事は考えずに吉報を待とう」

    「・・・」コクリ


    「ところではっちゃんの方はどうだったの?」

    初美「私ですかー? 何の事でしょう?」

    「とぼけなくていいよ。霞さんのところ、行ってきたんでしょ?」

    初美「ありゃりゃー、ばれてましたか」

    「うん、霞さんが戻ってきてからずっとソワソワしてたし、今日は朝からいなくなってたから会いに行ったんだと思ったよ」

    247 = 220 :


    初美「そうですねー。まあ、私の方はわざわざ話すような事はありませんでしたよー」

    「ほんとに?」

    初美「本当ですよー。せいぜいちょっとフラれたくらいなもんです、いやいやーこれでしっかりと儀式の成功を祈れるってもんですよー」ウンウン

    「・・・はっちゃん、泣きたかったら泣いてもいいんだよ?」

    「・・・黒糖食べる?」

    初美「な、なんですかー二人して気持ち悪い。変な慰めはいらないですよー」

    248 = 220 :


    「やっぱり霞さんはすごいね」

    初美「え? いきなりどうしたんですか巴ちゃん?」

    「なんとなくね、そう思ったの。さっきすれ違ったけど、笑顔を見せる余裕があるくらい堂々としてて立派だった。儀式に望む苦しさや悲しさはあるはずなのに、それをおくびにも出してなかった」

    「私じゃ、ああは振る舞えないと思う。霞さんがいなくなってその代わりになろうとした事もあったけど、でも結局それも叶わなかったし・・・」

    初美「・・・ハブにされちゃいましたしねー」

    「うん、まだまだ修行が足りない。そんなんで、今日の事をいつか霞さんに胸を張れる日が来るのかな・・・」

    「・・・だいじょうぶ」

    「え?」

    「いつか自慢できる日が来る・・・必ず」

    「春ちゃん・・・うん、そうだね、そうだといいね」

    初美「うんうん、じゃあ頼みましたよー」

    「何を他人事みたいに言ってるの? はっちゃんも一緒にだよ」

    初美「いや、私は・・・・・・!?」ピクッ

    249 = 220 :


    『ぎゃあああああああああああああああああ!!???』




    「!?」

    「!?」

    初美「!?」

    「今の悲鳴は何!? 十曽ちゃんの声!?」

    初美「神宮の方から聞こえましたよー!!」



    キイーーーーーーーーーーーーーン


    「!?」

    初美「!?」

    「!?」

    250 = 220 :


    「な、なにこの感じ・・・大気が、鳴いている?」

    初美「う、うぷ・・・は、吐き気がします。なんですかこの気配・・・」

    「・・・来る」


    ペタペタ


    突然こだました十曽湧の悲鳴、それに連続するように現れるモノ

    霧島神宮と神境を隔てる鳥居、そこへ続く石段を登ってくる邪悪な気配

    巴達三人はそれにいち早く気付きながら、しかし緊張で硬直した体を動かせず

    自分達の体の感覚が戻った時には、既にその邪悪な気配の持ち主は視界の内まで迫っていた


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