私的良スレ書庫
不明な単語は2ch用語を / 要望・削除依頼は掲示板へ。不適切な画像報告もこちらへどうぞ。 / 管理情報はtwitterでログインするとレス評価できます。 登録ユーザには一部の画像が表示されますので、問題のある画像や記述を含むレスに「禁」ボタンを押してください。
元スレ八幡「やはり俺のアイドルプロデュースはまちがっている。」凛「その3だよ」
SS+ スレッド一覧へ / SS+ とは? / 携帯版 / dat(gz)で取得 / トップメニューみんなの評価 : ★★★
レスフィルター : (試験中)
美嘉「……くふふ、あはあ♪」
八幡「なんだよ、急に笑ったりして」
美嘉「いや、こうして一緒にソファに座ってたらさ。会う前の事思い出して」
そう言うと美嘉は、俺の斜め向かいのソファに座る。
この位置は……
八幡「お前、覚えてたのか?」
美嘉「そっちこそ。まさかあの時は、キミに臨時プロデュースしてもらうなんて思ってもみなかったけどね」
ちひろさんに紹介されるより前に、シンデレラプロダクションの休憩所で出会った俺たち。
会話も無く、視線すら合わせた事も無かった。
だがそれでも、俺は覚えている。
あの、愛おしそうな笑みを。
美嘉「最初は凄い暗いし、目つき悪いなーって思ってたんだけどね」
八幡「オイ」
なにこの子。そんなイメージで俺のこと覚えてたの?
だったら忘れていてほしかったわ。
美嘉「あの時、プロデューサー少しだけ電話してたよね?」
八幡「電話? ……あーそういやそんな気も」
確か、小町からだったか?
なんか病院に寄ってくから飯の当番変わってほしいとかって。
何かあったのかとえらく心配したが、体育で軽く手首捻っただけだって聞いて安心した記憶がある。
美嘉「……その時の表情が、なんとなく忘れられなくてさ」
八幡「表情?」
美嘉「うん。……すっごい優しそうに笑うんだなーって、思った記憶がある」
その時を思い出すかのように、微笑む美嘉。
……優しそうに笑う、ねぇ。
俺がそんな高等テクを使えるとは思えんし、そもそも使った相手が小町という時点でワロエない。
どうにも俺がやりきれない気持ちになっていると、何やら美嘉がニヤニヤしながら見てくる。
美嘉「なに? もしかして照れちゃってんの~?」
八幡「うるせぇよ。そう言うお前こそ、あん時ケータイ見てニヤニヤしてただろ」
美嘉「なっ、に、ニヤニヤなんてしてないし!」
八幡「嘘こけ。おおかた莉嘉とメールでもしてたんだろ」
美嘉「え、なんで知って……ああいや、やっぱ今のナシ!!」
わーわーぎゃーぎゃーと、漫画だったらそんな背景文字が出そうなくらいに騒ぐ美嘉。
嗜めるのには苦労したが、それでも、こんだけ元気なら大丈夫だろ。
ホント、碌なプロデュースが出来ねぇな、俺は。
凛「…………なにイチャイチャしてんの」
八幡・美嘉「「うっ……」」
凛、入室。
びっくりした……なんだよあのオーラ。戦艦ル級かと思った。
緊張を抜きにしても、どこか只ならぬ気を感じるぞ。
八幡「別に、イチャイチャなんてしてないぞ。な」
美嘉「う、うんうん。それよりも、凛ってばどこ行ってたのさー」
なんとも下手な誤摩化し方だが、今は話題を逸らせ!
凛「いや、ちょっとお花を摘みに……」
美嘉「え。何それ流行ってんの?」
凛「……流行ってるも何も、皆行かないと大変なことになると思うけど」
美嘉の語彙の少なさに、今は感謝しとく事にした。
*
さて、ここでもう一度繰り返すが、今回のテレビ出演は生放送だ。
普通の音楽番組の収録とは違い、失敗は許されない。
まぁ普通の収録でもプロは皆失敗等しないように本気だろうし、そもそも歌の収録で失敗自体あまり無いだろうがな。
つまり問題なのは、その本番一回でどれだけ力を発揮出来るかという事だ。
その本番までの下準備、練習と言ってもいい。
歌番組の本番前には、それがある。
いわゆる、リハーサルである。
八幡「……そろそろだな。行くぞ」
時計を確認し、席を立つ。
美嘉は無言で頷くと、ソファから立ち上がる。
しかし凛は……聞こえてねぇな。
八幡「おい凛」
凛「っ!」ビクッ
八幡「大丈夫か?」
凛「う、うん」
顔色が全く大丈夫じゃない件について。
顔面蒼白とまではいかないが、多少青い事は確かだ。どんだけ蒼好きよ。
しかも、衣装も青と白がメインだからなぁ。
襟の白いノースリーブシャツに、青色のフリルスカート。
なんとも、凛のイメージにピッタリである。
この間の川崎デザインの黒ゴシックも格好良かったが、こっちも爽やかさが出てて実に凛らしい。
正直、似合ってるかとか聞かれたら美嘉の時みたく困る所だったが、そんな余裕も無いのか聞かれなかった。
いや聞かれない方が俺としては助かるんですけどね? ……だがそれはそれで複雑である。
二人を連れ、控え室を出てスタジオへと向かう。
廊下を歩いている間、誰も言葉を発する事は無かった。
そして、スタジオの入り口まであと少しという所。
美嘉「凛?」
凛「……」
振り向くと、凛が立ち止まっている。
凛「ご、ごめんね。ちょっと、緊張しちゃって」
苦笑いしながら言う凛。
そんな事、わざわざ言わなくても分かるっつうの。
美嘉「……じゃあ、アタシ先に行ってるね★」
凛「え?」
突然そう言うや否や、美嘉が凛を置いてスタジオに向かって行く。
八幡「ちょ、おい美嘉…」
美嘉「よろしくね」ボソッ
八幡「ッ!」
俺の横を通り過ぎる間際、小さな声で囁く美嘉。
そのまま、スタジオへと行ってしまった。
……はぁ、ったく。
八幡「……仕方ねぇなぁ、おい」
凛「え、ちょっとプロデューサー?」
俺は深く溜め息を吐くと、廊下の壁にもたれ、ズルズルとそのまま腰を降ろす。
凛「プロデューサー、もうすぐリハーサル始まっちゃうよ?」
八幡「大丈夫だ。余裕みて控え室出たからな。それよりも…」
俺は顎をしゃくって、隣に座るよう促す。
いや、よく考えたら女の子を地べたに座らせるってのも如何なもんかと思うが、事態が事態だしな。なんか見下ろされてるみたいで嫌だし。
それに、ちょっと色々と見えそうで目線が定まらん。
凛は逡巡した後、小さく溜め息を吐いて、俺の隣にしゃがみ込んだ。
さすがに地べたに座るのは抵抗あったかね。
途中廊下を通るスタッフさん達に不審な目で見られたが、今は些細な問題なので捨てておく。
凛「……それで? 今回はどんなトラウマ話を聞かせてくれるの?」
八幡「いやなんで俺がトラウマ話をする前提になってんの? そもそも何故そこまでストックがあると?」
いや実際あるんだけどさ。俺のトラウマは108話まである。ちゃんと数えた事ないけど。
八幡「悪いが、今回はそういうのは無しだ」
凛「?」
八幡「今回俺がお前らにしてやれる事は、ほとんど無い」
今回で痛感した。
俺には、プロデューサーとしてやってやれる事があまりにも少ない。
所詮は一介の高校生。長年の経験も無ければ、培った知恵も無い。
けど、よくよく考えればそれは当然の事何だよな。
このプロデュース大作戦自体が、一つの大きな試験のようなモノだ。
アイドルだけじゃない。プロデューサーも、試されている。
その素質を。
八幡「俺には、他の一般Pが持っているような能力は無いんだよ」
聞けば、前川のプロデューサーは元大手企業の営業職に就いていたらしいし、新田のプロデューサーだって有名女子大の主席とかなんとか言っていた。
このCDデビューというチャンスに選ばれたのには、アイドルだけではなく、プロデューサーにも何らかの要因がある。俺はそう思っていた。
けれど、俺には何もない。ただのぼっちの高校生……って言ったら今は怒られるか。クラスではぼっちの高校生だ。
プロデュースに関して、俺は何のカードも持っちゃいない。
とっておきのワイルドカードなんて、俺には無い。
八幡「だから、今回俺に出来るのは一つだけだ」
凛「それって……」
八幡「“信じること”」
大切な友達に教わった、俺にしか出来なくて、俺だから出来ること。
八幡「俺は、お前を信じてる。……まぁそりゃ、心配にならないかって言われたら嘘になるが」
恥ずかしさを隠すように、俺はそっぽを向いて言葉を吐き出す。
八幡「それでも、お前がここで立ち止まるような奴じゃないってのは、理解してるよ」
凛「プロデューサー……」
凛は俺の顔を見つめた後、下を向き、うずくまるように膝を抱える。
凛「……私ね。ここ最近は何だか、自分自身に現実身を持てなかったんだ」
八幡「自分自身に……?」
おいおいおい。凛ってこんな中二病的な子だったっけ? ……いや、前から若干そんな毛もあった気もする。
凛「ちょっと大袈裟に言い過ぎたかな」
俺の困惑した表情を見て苦笑する凛。
凛「……でも、CDデビューして、テレビ出演して、しかも生放送で……私には、とてもじゃないけど実感が湧かなかった」
八幡「……」
凛「正直、私でいいのかって思ったよ」
その言葉には、凛の葛藤が込められているように思えた。
凛「そりゃ私だって、アイドルになりたくてこの業界に入ったよ。でも、それでもなれたら良いなって気持ちだけ。私なんかより必死になってアイドルを目指してる子たちは、沢山いる」
八幡「……」
きっと、現実に気持ちが追いつかないのだろう。
自分が思うよりも速く周りが流れていって、期待されて、結果を求められる。
凛だって、まだ15歳の女の子だ。
嬉しい事だろうが、祝うべき事だろうが。
そんな簡単に、受け入れられるものじゃない。
凛「……千早さんみたいに歌えたらって思った。でも、千早さん程の歌に対する覚悟も、私は持っていない」
そこで凛は、もう一度俺の目を見つめる。
俺に対し、訴えかける。
凛「そんな私が、千早さんと同じ舞台に立っていいの? ……そんな私を、信じてくれるの?」
その真剣な目に、俺は何と答えればいいのか。
……いや、そんな事は分かり切っている。
考える必要すら、俺には無い。
俺は人差し指を凛に向けてやる。
凛「? プロd…」
八幡「てい」
凛「あたっ」
THE・デコピン。
俺の夢は伊織ちゃんにデコピンしてやる事だが、今は置いておく。
俺のデコピンを受け、凛は軽く尻餅をついていた。……ちょっと罪悪感湧くな。
そして俺は突き出した手をそのまま移動させ、ポンっと凛の頭に乗せてやる。
これぞ小町直伝“女子もイチコロ頭ポン♪”である。胡散臭ぁー!!
凛「ぷ、プロデューサー?」
八幡「いいか。すっげー大事なことだからもっかい言うぞ?」
改めて、言ってやる。
八幡「俺は、凛を信じてる」
凛「ッ!」
八幡「お前だから、今この場に、お前はいるんだよ」
他の誰もない、凛だからこそ、アイドルとしてここまで来れた。
CDデビュー出来たのも、テレビで歌う事が出来るのも、他でもない。凛だからだ。
八幡「どんだけ迷って自信が無くても、お前がやってきた事に嘘は無い。レッスンに費やした時間も、そこまで真剣に考えられる気持ちも、全部、本物だ」
たとえ自分自身が信じられなくても、凛がやってきた努力は裏切らない。
だから俺も、信じられる。
リハーサル前でスタッフが行き来する中いちゃついてるのか・・・
凛「……ただ、テレビ見て歌いたいって思っただけだよ…?」
八幡「きっかけなんて皆そんなもんだ。お前は、そっから一歩踏み出したんだろ」
凛「…………全然ファンの為とか考えてないし、自分の事で精一杯なんだよ……?」
八幡「応援するかどうかはファンが決める事だ。お前が真剣にアイドルやってりゃ、結果もファンもついてくる」
凛「………………私に、出来るの、かな………?」
あーもう!
どんだけ不安なんだよこのお姫様は!?
俺は面倒になり、凛の手を引いて立ち上がる。
だがちょっと頑張り過ぎた。女の子の手を握るとか俺にはハードルが高過ぎる。
速攻で手を離し、腕を組む。顔が熱い。
八幡「……結構前にやってた、まだ有名じゃない時の765プロのドキュメンタリー番組見た事あるか?」
凛「へ?」
俺の唐突の質問に、上ずったような声を出す凛。
凛「……あの、あなたにとってのアイドルとは? って質問していくやつ?」
八幡「それだ。…………お前なら、なんて答える?」
俺がそう聞くと、凛は俯き、しばし考えたが、やがて首を横に振る。
凛「……分かんない。私には、明確にアイドルを目指す理由が無いから…」
八幡「なら、それを探せよ」
凛の隣に移動し、スタジオの向こうを見据える。
その向こうは、照明のせいかキラキラと輝いて見えた。
八幡「まぁ、少しばかり探すのには苦労するかもしれん。道なりも困難だ。その上終わりが見えないときてる。フルマラソン所じゃない。見つかるかも分からんし、めちゃくちゃつれーだろうな」
凛に、視線を移す。
その瞳は、俺をジッと見つめていた。
八幡「けど、走り切った時の感動はヤバイだろうな。きっと途中で応援してくれる奴らも増えてくし、競い合うライバルも現れるだろ。もちろん、背中を押してくれる仲間もいる。…………そんでもって」
俺は、多少の、というかかなりの恥ずかしさと共に言ってやる。
八幡「隣には、俺がいる」
こんな事を言うのは、一生で最後だと思いたい。
八幡「なんの力にもなれないかもしれないし、途中でリタイアするかもしれん。…………けど、あん時約束しちまったからな」
夜の町を、二人で歩いたあの日。
八幡「隣で、ちゃんと見てるって」
だから、信じないわけには、いかないだろ。
凛「…………」
凛は俺の言葉を聞いて、静かに目を閉じる。
さっきまで動揺や焦燥とは違う、落ち着き払ったその仕草。
俺は、声をかける。
八幡「さ、周りの準備は万全だ。ーーお前はどうする?」
凛「……そこまで言われたら、決まってるよ」
凛が、目を開く。
凛「ーーーー全力で、駆け抜けてみせるから」
その瞳に、迷いは無かった。
その一歩を、踏み出す。
スタジオに向けて、歩いていく。
八幡「……その衣装、似合ってるよ」
凛「えっ?」
八幡「何でもねぇよ」
二人で、一緒に。
*
凛「それで、何が俺に出来ることは一つだって?」ジトッ
リハーサル終了後、俺は我が担当アイドルに睨まれていた。
正直、本当に石になりそうな勢いである。
八幡「いやー出来ることならお前らの緊張を和らげてやろうと思ってな」
凛「ある意味本番以上に緊張したよっ!!」
そう声を荒げる凛に、後ろで笑う765勢。
そう、今回俺がした一つの仕込み。それはーー
美嘉「まさか、リハとは言え765プロの人たちと一緒に歌うとはねぇ……」
疲れたように呆れた声を出すのは美嘉。
よほど緊張したのか、ベンチに座り込んでいる。
千早「でも、楽屋に来た時は驚きました。『一緒に歌ってやってください』って急に頭を下げるんですから」
八幡「う……」
いや俺だってめちゃくちゃ緊張したかんね?
何故か他の仕事が入ってるとかで765のプロデューサーさんはいないし、開けたらいきなりやよいちゃんいるし。いや楽屋なんだから当たり前なんだけども。
要は俺がやりたかったのは、本番に緊張するなら、その前にもっと特別な事をやらせるって事だ。
生放送のインパクトには勝てないだろうが、それでも憧れの765プロとユニット組んで即興で歌うんだ。中々緊張も飛ばせたんじゃなかろうか。
貴音「相も変わらず、あたなは嘘吐きですね」
クスクスと俺を見て笑う四条。やめろ。この間も言ってたが、俺は皇帝陛下なんぞにはなれん。
八幡「何言ってんだ。俺ほど自分に素直な奴はいないぞ? 素直過ぎて俺が話すと皆『う、うん』って頷くくらいだ」
凛「それは引いてるって言うんだよ……」
その通りだった。
凛「……というか、プロデューサーって四条さんと知り合いだったの?」
美嘉「そう言えば、話す時もタメ口だしね」
八幡「あ? あー……それはだなぁ」
深夜のラーメン屋で出会いましたと言って信じられるのかっていうね。
敬語を使わないのも、なんかあの時からそうだったし……
貴音「彼とは、因縁があるのです」
凛「え!?」
やよい「いんねん??」
やよいちゃん可愛い。
じゃなくて、なんだその誤解を招く言い方は。ただラーメン奢っただけなんですけど!?
貴音「そして、渋谷凛。あなたとも」
凛「ええ!?」
千早「話が見えてこないわ……」
ディレクター「あの~……とりあえず、リハの続き始めていい?」
どうにかディレクターのおかげで煙に巻く事が出来たな。
このままなぁなぁになってくれれば尚良しだ。
やよい「あの!」
八幡「っ! ひゃ、ひゃい!」
突然背後からの呼びかけに驚く。
しかも相手はあのやよいちゃんである。思わず変な声が出てしまった……
八幡「な、なんでしょうか…」
やよい「これ、私から比企谷さんへのプレゼントです!」
八幡「え…」
そうして手渡されたのは、一枚の色紙。
そう、高槻やよいの、直筆サイン色紙だった。
しかも、俺宛て……だと……!?
やよい「実はさっき渋谷さんに、比企谷さんが私のファンだって教えてもらって……迷惑でしたか?」
八幡「ととととんでもないっ!」
さすがは凛だ! 良い仕事をしてくれる!!
これは家宝にせねば……
やよい「それじゃ、私行きますね」
八幡「っ! あ、あの!」
やよい「?」
俺は少し躊躇った後、何とか言葉を紡ぐ。
八幡「……いつも、ありがとう」
やよい「え?」
もしも、会う事が出来たなら、絶対に言おうと決めていた。
八幡「辛い時も、嫌な事があっても、いつでも元気をくれたから。……だから、ありがとう」
上手く、言葉に出来ない。
何故だか、涙腺が緩む。
俺の気持ちは、伝わっているのだろうか。
やよい「っ……はいっ! こちらこそ、いつも応援ありがとうございます! これからもよろしくお願いしますね♪」
そう言って、彼女は戻っていった。
それは、こっちの台詞なのに。
いつだって応援して貰ってるのは、こっち方だ。
美嘉「プロデューサー? そろそろ凛のリハ始まるよー?」
美嘉の声で我に帰り、俺は慌ててスタジオの後ろ側へと戻る。
ここからなら、スタジオを見渡せるからな。
見ると、凛は既にステージに立ち、準備を始めていた。
凛『あーあー……マイクは大丈夫だね』
スピーカーから、凛の声が聞こえる。
どうやら、緊張は程良く解けたらしい。
凛『……ごめんなさい。歌う前に、少しだけ言いたい事があるの』
と、そこで凛が曲が始まる前にふいに話し出す。
凛『この間、CDデビューするって聞いた時は言いそびれちゃったから……今ここで』
そこで凛は、俺の方を向き、満面の笑顔で言った。
凛『ここまで来れたのは、プロデューサーのおかげ。…………だからありがとう、プロデューサー』
その言葉の後、スタジオにいる全員が俺の方を向く。
いや何よこの公開処刑。しかも何か言わなきゃならない空気になってるし……!
俺はたっぷりと苦悶した後、頭をガリガリと掻き、明後日の方向を向きつつ一言だけ言った。
八幡「…………おう」
それを聞いて、凛はもう一度満足そうに微笑んだ。
……何故だか、スタジオ中からニヤニヤとした視線を感じるぞオイ。
やがて、曲が始まる。
ったく、ホントにこいつといると飽きねぇな……
俺はジッと凛を見つめ、その歌声を聴く為に、耳を傾けた。
凛『ずっと強く そう強く あの場所へ 走り出そうーーーー』
*
テレビ生出演の翌日。
つまり、今日は凛と美嘉のCD発売日である。
俺は既に手にした二枚のCDを持ち、シンデレラプロダクションにいた。
ちひろ「いや~中々の盛況でしたよ! コレは今日のCD売り上げにも期待出来ますね~♪」
ものっ凄い笑顔でコーヒーを出してくれるちひろ。正直引くくらい機嫌が良い。
単にテレビ出演が成功したのが嬉しいのか、その収入が嬉しいのか。……後者であると信じたい。
ちひろ「そんなの、どっちもに決まってるじゃないですか♪」
八幡「さらっと心を読まないでください」
つーかやっぱ金銭面もかェ……
ちひろ「あれ、そういえば凛ちゃんは?」
八幡「なんか、765プロの如月さんとお食事らしいですよ」
ちひろ「ええ! 凄いじゃないですか!?」
なんでもあの後、二人は意気投合して連絡を取り合っているらしい。
今度一緒にレッスンを見てもらえるとか喜んでたな。
ちひろ「しかも、あれから早速オファーが来てるみたいですね。やっぱりテレビ出演は大きいですねぇ」
八幡「ですね。正直今も俺のケータイが鳴っている事に恐怖を感じます」
いや仕事が舞い込むのは良いことだけどさぁ……こんだけ露骨だとげんなりもしますがな!
まぁ電話は後にして、今はコッチを優先しますかね。
ちひろさんが電話対応をしているのを尻目に、俺はCDプレーヤーにCDを入れ、再生ボタンを押す。
耳にかけたイヤホンから、軽快な音楽が流れてくる。
八幡「……ふむ」
中々良いのではなかろうか。
と、そこで右耳のイヤホンが外される。
驚いて横を見てみれば、そこにはいつの間にか帰ってきていた凛の姿が。
俺から奪いさったイヤホンを、耳に当てていた。
凛「……ふーん?」
あ。これヤバイやつだ。
凛「プロデューサーは担当アイドルより先に、臨時プロデュースしてるアイドルの曲を聴くんだ?」ニッコリ
テーブルの上には、封の開けられた美嘉のCD。
そしてその横には、未だ未開封な凛のCD。
凛さん。目が笑ってないでござる。
ちひろ「うっふっふ~安心してください凛ちゃん♪」
と、そこで鬼登場。違った。悪魔か。
ちひろさんは凛の側まで寄ると、耳打ちするかのように言ってやる。
ちひろ「比企谷くん、既に凛ちゃんのデモCDは持ち帰ってますから♪」
凛「え?」
いや、ちょっ、丸聞こえなんですけどォ!?
俺はちひろさんを止めにかかるが、時既に遅し。
ちひろ「サンプルのCDは発売より全然早く出来ますからね。それを言ったら、比企谷くんってばわざわざレコーディング会社まで取りに行ったんですから」
は、恥ずかしい……!
おのれチッヒー……自分がサトリナ声である事を感謝するんだな。じゃなきゃ張っ倒している。
凛「……」
と、そこで凛は何故か俺のデスクの引き出しを開ける。
そこには、俺のipodが。
凛「……」
無言で操作している凛。
一体何を……? ってまさか!?
凛「……『Never say never』、入ってる」
ひちろ「おお! もうipodにも落としてるんですね!」
いっそ殺せ。
見れば、凛はいつの間にか顔が真っ赤だ。
恥ずかしがってるその顔はとても可愛い。可愛いが……
俺の方が、もっと恥ずかしい。
凛「ぷ、プロデューサー」カァァ
八幡「…………」
凛「…………」
八幡「」ダッ
ちひろ「あ! 逃げた!」
違う。これは戦略的撤退だ(※逃げです)。
いつ以来だろう。こんだけ本気で走ったのは。
美嘉「あれ? プロデューサーどこ行くの……って速っ!?」
凛「ちょ、待ってよプロデューサーっ!?」
その後も、愉快な事務所内での追いかけっこは続いた。
途中島村や本田も加わり、最終的には社長に説教される事になるのだが、今は置いておこう。
……真に遺憾ながら、この生活に慣れて来てしまっている自分がいる。
そして楽しんでる自分も、な。
凛は今以上に有名になっていくだろう。
仕事も、ファンも増えていく。
正直、俺がプロデューサーで大丈夫なのか不安にもなる。
……けど、俺がアイツを信じてるように。
アイツも、凛も、俺を信じてくれている。
なら、俺はどこまで一緒に走ってゆこう。
いつか辿り着ける、その日まで。
つーわけで、CDデビュー編、完結!! もはやヒッキーじゃねぇ!!
今でも覚えています。凛ちゃんのCDを買った時の事を。
思えば、あれがモバマスの最初の一枚だったんだなぁ……
今でも覚えています。凛ちゃんのCDを買った時の事を。
思えば、あれがモバマスの最初の一枚だったんだなぁ……
乙!
第一弾のCDは皆良い曲だったお蔭で色々どっぷりはまり込んでしまった
単独ライブとかずいぶん遠くまで来たなー
第一弾のCDは皆良い曲だったお蔭で色々どっぷりはまり込んでしまった
単独ライブとかずいぶん遠くまで来たなー
乙
原作のヒッキーはバットエンドに直行しているからね、ちかたないね
原作のヒッキーはバットエンドに直行しているからね、ちかたないね
八幡「やはり俺のアイドルプロデュースはまちがっている。」凛「これで最後、だね」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1396804569/
次スレ立てたでー
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1396804569/
次スレ立てたでー
いよいよ物語も佳境ってことで、次スレで恐らく最後となります。
いつも深夜まで呼んでくださってありがとうございます!
って事でこっちは埋めてオッケーです。
いつも深夜まで呼んでくださってありがとうございます!
って事でこっちは埋めてオッケーです。
類似してるかもしれないスレッド
- 八幡「やはり俺のアイドルプロデュースはまちがっている。」凛「その2だね」 (1001) - [97%] - 2013/12/20 16:00 ★★
- 八幡「やはり俺のアイドルプロデュースはまちがっている。」凛「またね」 (509) - [91%] - 2017/11/21 19:15 ★
- 八幡「やはり俺のアイドルプロデュースはまちがっている。」凛「これで最後、だね」 (1001) - [85%] - 2014/8/10 17:30 ★★★×5
- 八幡「やはり俺のアイドルプロデュースはまちがっている。」凛「きっと、これからも」 (381) - [84%] - 2016/5/24 16:30 ★
- 八幡「やはり俺のアイドルプロデュースはまちがっている。」凛「ぼーなすとらっく!」 (1001) - [83%] - 2015/7/4 19:00 ★★★
- 八幡「やはり俺のアイドルプロデュースはまちがっている。」 (1001) - [75%] - 2013/8/22 2:45 ★★
- 八幡「やはり俺のシンクロ率は間違っている」アスカ「は?」 (274) - [51%] - 2014/1/23 5:45 ★
- 八幡「やはり俺が人間を愛しすぎるのはまちがっていない。」 (179) - [50%] - 2016/11/20 5:00 ☆
トップメニューへ / →のくす牧場書庫について