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元スレ一夏「祈るがいい」

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101 = 98 :





その日の夜。箒は布団に入り、一夏は昨日と同じように窓辺にいた。部屋の照明を全て消したこの部屋は、月明かりだけが差し込み薄暗い。深夜十二時、ここIS学園の消灯時間も過ぎた今は聞こえてくる音や、それらしきものは全くといってもいい程ない。その中で一夏は何処かを、箒は窓辺に立つ一夏の背中をじっと見つめていた。沈黙、その二文字がこの空間に延々と続く



102 = 98 :





『お前に、頼みがある』



ふと、箒の頭に昼食中に現れた一夏が言った、抑揚のない調子で言われたその言葉が蘇った。そのまま聞けば、ただの依頼にしか聞こえない。実際あの時も、単純に依頼だと思った。だが、今はそうでない。依頼というよりは一種の強制、抗う事が自分には許されていない命令、あるいは自分を試す為の問い掛けのようにも感じられた



103 = 98 :





『簡単な事だ。それでお前は手に入れる』



私は何を手に入れるんだろう、と箒は一夏の背中を見つめながら思った。お前が記憶を失った理由か、何故そうなった訳か、自分の中の弱さを断つ力か………



だが、それを声に出して聞く事は出来なかった。それを聞いて答えてもらえる保証などない、かと言って答えないとは限らない。そんな事は分かり切ってはいたのだが、どうしてもそれが聞けなかった。そんなもどかしさに布団のシーツを握りしめて、そっと目を伏せた



104 = 98 :





箒からすれば、一夏が何を考えているのか全く見当もつかない。むしろ逆に自分の心の中や考えなどは、すでに一夏に全て見透かされていたような気がした。もしかして一夏は人の心の中を見透かして、少なからず自分にとって何かしらの価値がある人物に対して接触をしているのかもしれない、そう思った



105 = 98 :





そして箒は、一人ベッドの上で言いようのない虚脱感と悲愴感を感じた。それは、自分の考えに問いに見えない事や、唯一希望のような存在だった幼馴染みが変わり果てた事、今自分が置かれている状況の事、行方知れずな姉の事、そんなこの世の無情さなどが原因ではなかった



106 = 98 :





昨日の再会から、一夏が自分を見た、その眼………。その全く無感情で別人を見るような表情が、まるでその眼の奥には何もなく、すでに死んでいるような虚ろな瞳が、ずっと頭から離れなかったからだ。それは頭の片隅にずっとこびりついて、取り除こうとしてもずっと離れなかった



107 = 98 :





それを取り除こうとしていると、段々と、少しずつ、哀しいような、当惑に似た感情を箒は感じた。自分でも何故こんな気持ちになっているのか分からない。けどそれが、自分の胸いっぱいに広がって、不安になってしまう

「………なあ、聞いてもいいか……?」

その不安を掻き消す為に一夏に話しかける。その声はいつものようなハキハキとした声ではなく、全くの別物だった。自分からすれば、情けないと思う程に弱々しいものだった

「そのな……たいした事ではないんだ。嫌なら答えてくれなくてもいいんだ。ただ、少し聞きたくなったんだ」

一夏はこちらをゆっくりと振り向いた。窓辺に差し込む月明かりが逆光となって一夏の表情はよく見えなかったが、次の言葉を待っているように見えた

「どうして私を選んだ?私でなくてもよかったんじゃないか………特訓するなら他にもいたと思うんだ。千冬さんとか………それとも、私が篠ノ野束の妹だからか?」

外では月に薄い雲がかかり、部屋に差し込む光が弱くなった。それにより一夏の表情がうっすら読み取れた。月明かりの中の一夏は、全く表情を変えないまま答えた

「俺は、お前に頼んでいるだけだ」

そう言った一夏はまた、窓外へ視線をやった



108 = 98 :





一夏の言った言葉は、今朝自分が箒に尋ねた時に言われた言葉の言い回しと同じだ。一夏は特にそれを意識して言った訳ではなかった

「そうか……」

そう言った箒は少し昔を思い出した。幼少の頃に自分の言った言葉を上手く使われて、呆気にとられているとお返しだと言われた事がよくあった。人の驚いた顔を見て笑う、その時の一夏の無邪気な笑顔を思い出した

『人間って頭で忘れてしまっても、心の方はちゃんと覚えていて忘れないものなんだって』

これは今日聞いたある医者の受け売りだ。本当にそんな事があるのか、と半信半疑だったが、今はそれを信じられる



109 = 98 :





嬉しかった。自分の見ている人物が、自分の知っている一夏だった事が。記憶を失っても心がちゃんと覚えていてくれた事が、このままいけば全てを思い出すかもしれない事、それが嬉しかった。それに安心したのか箒は、ゆっくりと瞼を閉じて、眠った



110 = 98 :





今の一夏は何処も見ていない。何処か遠くでもなく、窓ガラスに映った箒でもない。外に広がる、月と星達が光る空を見上げてただ、考えていた



懐かしさを感じた訳を………



111 = 98 :

……

………




「今日は逃がさんぞ、一夏」

一夏「…………………………………」カチャカチャ

「さあ、一緒に食べるぞ」

本音「食べるぞー」


「いいかな?」


一夏「…………………………………」

「無言って事はいいって事だな」

一夏「…………………………………」



………

……

112 = 98 :

……

………




「行くぞ一夏、特訓するぞ」グイッ

一夏「ああ」

「ほら早くしろ」

一夏「………………………………」



………

……

113 = 98 :

……

………




本音「やーおりむー」トテトテトテ

「やあ本音さん、何かーーー」

本音「とうっ」ピョン



ガシッ



「!?」


「ちょっと本音!?」


本音「わー高い高ーい」ブラーン

一夏「………………………………」

「…………いいのか?一夏」

一夏「………………………………」

「…………」

(どっ、どうすればいいんだ………これ…………何で普通に歩いてるんだ…………頼むから何かリアクションとかとってくれ…………)

本音「ほーちゃんほーちゃん、私を呼ぶときは本音でいいよー」ブラーンブラーン


「とりあえず降りて!ほら早く!」グイッ


本音「やーだー」グググッ

一夏「………………………………」

「おいッ待て!一夏の首が締まってるぞ!」



………

……

114 = 98 :

……

………




セシリア「調子はどうでして?私にーーー」



スクッ



一夏「………………………………」カツンカツンカツン

セシリア「お待ちなさい!人の話はーーー」



スッ カツン……カツン…………



セシリア「…………またしても!してやられましたわ!」バンッ


「めげないね、セシリアも」
「鋼のハートってね」
「アイアンウーマン……なんちゃって」
「あの姿勢は見習わなくっちゃ」


(お約束だな、試合の日まで待てばいいものを………)

「…………しまった」ガタッ

(追いかけねば!)ダッ



………

……

115 = 98 :

……

………




「はあッ!」ブンッ

一夏「…………………………………」スッ

「でやあ!」ブンッ

一夏「…………………………………」ヂッ

「だあッ!」ブンッ

一夏「…………………………………」ヒュッ



バシンッ



「なっ!?」グラァッ

一夏「…………………………………」スッ



ピタッ



「ッ…………一本………だな」

一夏「…………………………………」



………

……

116 = 98 :

……

………




(特訓四日目にしてようやく掠った)

(まだ当たらない。もう少しなんだ……)

「………………の」

(いや、掠ったという事はもう少しで当たる、というところまで来ているという事だ)

(そう見れば私はしっかりと成果は挙げているな)

「……………ノ之」

(そうだ。このままいけば一太刀浴びせるのも…………んん?)

(…………本来の目的が変わってないか?そもそもあいつの特訓のはずがーーー)

千冬「篠ノ之」

「はっ、はい!」

千冬「さっき読んだところの続きを読んでみろ」

「え………聞いてません…………でした」



スパァンッ!



「うぐっ」

千冬「授業中は集中しろ」

「………………はい」



117 = 98 :





一夏「…………………………………」



シュッ



一夏「…………………………………」スッ



スカッ



千冬「ふむ、一応は聞いてるな」

山田「あのぉ……織斑先生、進めてもいいですか……?」

千冬「ああ、進めてくれ」

(……痛い………)ジーン



………

……

118 = 98 :

……

………




「聞いた?あの話」
「何の話?」
「織斑くんの話」
「どんなの?」
「昼休みと放課後の時は居場所が分からないんだって」
「へー………そういえばそうね」
「見つけたらラッキーよ」
「見つけ出す気満々ね」
「そりゃあ男子ですからねぇ」
「神懸かり的って聞いたけど?」
「そうそこ、そこなのよ問題は」



(…………嘘だろ…………)



………

……

119 = 98 :

……

………




「私に出来る事は、これでなくなった」

「これでいいのか?」

一夏「充分だ」

「その口振りは必ず勝てるものだな」

一夏「…………………………………」

「私の協力、無駄にはしないでくれよ?」

一夏「ああ」

「ふふっ………お休み」



………

……

120 = 98 :





試合当日、戦いの幕は今にも上がらんとしている。一夏専用のISもすでに到着している。それなのに試合が一向に始まらない理由は、至ってシンプルなものだった



121 = 98 :





千冬「遅い」

千冬「あまりに遅すぎる。開始五分前だぞ」

山田「どうしたんでしょう織斑くん、何かあったんでしょうか…………」

千冬「それはない。私が保証する」

山田「ええ………じゃあ何で………?」

千冬「案外その辺をほっつき歩いとるのかもな」

山田「時間にルーズなんですねぇ……」

千冬「残念ながら、そうゆうのではないな」

山田「?」

千冬「分からんか、そうだな……何というか………あえて言うならば………………」

千冬「恐ろしく気まぐれなんだ、私の愚弟は」

千冬「そうだろ?」



122 = 98 :





千冬「篠ノ之箒」

「確かにそうですね。織斑先生」

千冬「織斑は見つけれたか?」

「無理でした」

千冬「そうだろうな、あいつはかくれんぼが得意だからな」

千冬「…………それにしても、相手を放っておいて自分はせっせと正装しているとはな、相も変わらずご苦労な奴だ」

山田「正装………ですか」

千冬「多分そうだろうと思ってな」

「いいですか……」

千冬「何だ」

「あいつっていつ寝て、いつ起きてるんですか?」

「私が寝るときはいつも起きていて、それなのに私より早く起きているんですよ」

千冬「さあな、私もよく知らん」

山田「少しの睡眠時間でいいなんて羨ましいです」

千冬「睡眠はしっかりとれよ、山田くん」ポン

山田「え、あ……はい!」



123 = 98 :





千冬「授業中のうたた寝は程々にな」

山田「すっ、すみませーん………」

「………………(千冬さん、今ものすごく悪い顔してるな、後すごい大人気ない。本当に教師かどうか怪しい)」

千冬「どうした篠ノ之、何か言いたい事があるのか?」

「いっ……いえ、ありません」

千冬「そう遠慮するな、ハッキリと言ってみろ」ズイッ

「本当にありません。(本当はあるんですけど言えません)」

千冬「ふむ、そうか」

山田「織斑くん、もしかして迷子でしょうか……」

千冬「あの見た目でそれはないだろ……」

山田「ですよねぇ………」

(……………いかん、想像してしまった。思いのほかシュールな光景だ)



124 = 98 :





バシュッ



一夏「…………………………………」カツンカツンカツン

千冬「やっと来たか………遅いぞ、織斑」

「今までーーー」

山田「時間ギーーー」


山田&箒「「えええぇぇっ!?」」



千冬「どうした」

山田「スーツですか!?」

「制服は!?」

一夏「…………………………………」

千冬「まあ、私はこうなるとは思ってたが……ここまでとはな」



125 = 98 :





千冬「一夏、もういけ……おっと、これは聞かなくてもいいな」

一夏「…………………………………」

千冬「アリーナの使用時間は限られていてな、専用機の方は戦ってる間に何とかしろ」

一夏「了解」

千冬「相手は本場英国のお嬢様だ。エスコートはあくまでも、お淑やかにな」

一夏「ああ」

山田(スーツ姿の二人………素敵です…………)ウットリ

(スーツが決まりすぎてて、あそこだけ特務組織みたいだ)

千冬「さて、山田先生、ISを」

山田「へ……あ、はい」



126 = 98 :





千冬の指示に従い、真耶がコンソールを操作し、Aピットの搬入口が鈍い音を立てロックが外れる。斜めに噛み合わせになっていた防御壁が、それを動かす重い駆動音を鳴らしながら、ゆっくりとその向こうに待つものを迎え入れた



127 = 98 :





それは、黒だった



黒。ただ黒だった。他の一切の色を受け付けないような漆黒のISが、装甲を解放して、扱うべき者を待っていた



128 = 98 :





「これが………?」

千冬は、意表を突かれて言った。世界で唯一ISを扱える男に用意された専用機という肩書きから、もっと特殊なISをイメージしていたのだ

「みたい……です………」

それにおずおずと答えた真耶、それは彼女も同じだったからだ



129 = 98 :





四人の目の前にある黒いISは、ただのISだ。どこの国のISとも言えない事はない、ごく普通の、あまりに標準的な形態をしている。目立った部分といえば、背面の腰部分に装着されている、恐らくコンテナか何かの類いの筒状の物だ。だがそれ以外には何の特徴もない、普遍的なただのISだ。それゆえに三人は、何か不自然さのようなものを感じた



130 = 98 :





真っ黒のそれ。無機質なそれは、誰かを待っているというよりも選んでいるように見えた。今のこの間は、まるでこの機体が、自分を扱うに相応しいとする誰かを選んでいる間のようだった



そして、見つけた。




選ぶべき誰かを



131 = 98 :





一夏は、それに呼ばれたようにゆっくりと歩み寄り、黒いISに触れた



割れ響く歌声ような音が頭の中に響いた



それはまるで、あなたを待っていた。と言っているかのようだった



皮膜装甲(スキンバリアー)展開
推進機(スラスター)正常作動
ハイパーセンサー最適化

開始



132 = 98 :





このISは選んだ




織斑一夏を



133 = 98 :





一夏はそうするのが当たり前のように、しごく自然にこの黒いISに乗り込んだ。すぐさま一夏の体に合わせて装甲が閉じて、空気の抜ける音が連続的に響く




初めてISに触れた時とは違う感覚がした




そして、包み込むように装甲が装着されていき。まるで元から自分の身体の一部だったかのような一体感。溶け込むように、適合するように、このISは同化していく。そしてそれは、自分と何かを繋ぎとめる重要な鎖、絶対に逃がさまいとする拘束具の鍵が掛かったようにも感じられた



134 = 98 :





だが、理解出来た
これは自分に合ったもので
このISはこうなる為のもの
必ず自分に合うものだったと分かった
そう感じた



135 = 98 :





全ての感覚が、視界を中心にクリアになっていき、全身に行き渡る。この機体に関する情報が頭の中と、目の前に表示される。性能、特性、現在の装備、センサー精度、レーダーレベル、アーマー残量、出力限界………etc。その情報の数々を全て把握出来る。



そして、目の前にこのISの名前が表示される



「ヴィンセント」



一夏は、静かに名前を呟いた



136 = 98 :





「ヴィンセント……それがこの機体の名前か」

千冬は疑問に満ちた声で言った

「ああ」

訝しむ千冬とは真逆に、一夏はあっさりと答えた



『戦闘待機状態のISを感知』

『操縦者セシリア・オルコット』

『ISネーム ブルーティアーズ』

『戦闘タイプ 中距離射撃型』

『特殊装備有り』



ハイパーセンサーが機体射出ゲートの先で、もう二十分以上もアリーナ・ステージの空中で待ちぼうけを堪能しているセシリアの情報を全て映し出した

「ハイパーセンサーは問題ないな」

千冬は横からモニターを覗き込みながら言った

「気分は悪くないか?」

「ああ」

「そうか」

ほっと安心したように息を吐き出しながら、千冬は真耶のいるコンソールへと向かった


137 = 98 :





「何か分かったか」

千冬が真耶の隣に立ち、低い声で聞いた

「えーっとですね……」

千冬の質問に真耶は、少しずれた眼鏡を直して、モニターに表示された念入りに調べられたデータを凝視した

「機体内部に通信機及び発信機反応、バイオケミカル反応、爆発物反応などはありません」

「……そうか、他は」

「不明です」

「………なんだと?」

このヴィンセントはあまりにイレギュラーな機体だ。コア周辺や製造に関する情報、コアナンバーや所持武器すら不明となっている。普通のISならこんな事はまずあり得ない、だがこのヴィンセントは普通のISではなかった



138 = 98 :





その間にもヴィンセントは膨大な情報量を処理していた。一夏の身体に合わせて最適化処理(フィッティング)を行う、その前段階の初期化(フォーマット)を行っているのだ。今黙ってモニターを眺めている一秒間の間にも、ヴィンセントは表面装甲を変化・成形させている。ソフトウェアとハードウェアの両方の書き換えを一斉に行っているために、扱っている数値はそう簡単には見ることは出来ない桁を示していた



139 = 98 :





一夏はフィッティングとフォーマットの進行状況を示す数々の情報の中、自分の視界の右端にメールのようなものが表示されているのを見つけた

「何故こんなものが入っている」

「設計者からのメッセージでしょうか?」

「見てみないことには分からんな」

ヴィンセントの機体詳細は今、千冬と真耶が見ているモニターに表示されている。性能、特性、センサー精度、出力限界などのスペックはその辺のISを裏回る数値を叩き出す中、一つだけ異様なプログラムを発見した

「織斑、出してみろ」

言われた通りに一夏は、そのメッセージの内容を確認する為に表示した。その設計者と思われる人物からのメッセージは真耶の予想とは大きく違ったものだった



140 = 98 :





いいものに選ばれたな
ハンプティー・ダンプティー
このISはお前にピッタリの代物だ



こいつであれば、お前はそこから動き出せる
そこに居ては、見えるものも見えやしない



その第一歩を踏み出せ
躊躇していては、お前は永遠に行かれない



お前がいるべき世界に



141 = 98 :





千冬と真耶は言葉を失った。意味が分からなかった。ハンプティー・ダンプティー、その場所、見えるもの、永遠に行かれない、お前のいるべき世界。まるで一夏の全てを知っているようなメッセージ。これが何故ヴィンセントに入っていて、何故一夏に宛てられたメッセージなのか、その意図の見当もつかなかった



そのメッセージに一夏は、ゆっくりと笑みを見せた。彼が感情的な表情を見せたのは、これが初めてと言ってよかった



142 = 98 :





千冬は困惑した。目の前のヴィンセントをこのまま一夏に使わせていいのか、それとも試合を中断してこの機体を徹底的に調べ上げるか悩んだ。一通り爆発物反応などは調べられたので、そこかしらの危険性が低い事は重々承知だ。気になるのはあのメッセージの送り主の考え。この機体を製造した者なのか、それともまた別の人間が関与しているのか、もしそうならば、この機体で一夏に何をするつもりなのか。考えがまとまらない千冬に真耶が恐る恐る話しかけた

「織斑先生、どうします?」



しばしの沈黙が訪れる



143 = 98 :





「俺は行く」

一夏はそう言って千冬の方を見た

「問題ないんだな」

再びの沈黙。それはごく僅かな、ほんの数秒だけの時間だった。その中で、千冬と一夏が言葉ではなく、合図ようなもので自分の意思を伝え合った

「はあ………なら、行ってこい」

自分の考えの杞憂さに落胆し溜め息を吐き、一夏の答えに納得したように言った。千冬は、コンソールを操作してピット・ゲートを開けた



144 = 98 :





ヴィンセントがふわりと浮かび上がり、カタパルトレールに脚部を掛けた

「一夏」

箒の声に一夏は、ゆっくりと振り向いた

「勝てよ」

「ああ」

返事の後、一夏はゲートの方を向いた。そこから少し重心を落とし、射出体勢をとった

「鳥になってこい」

そう言った千冬が、拳をコンソールに叩きつけた



カタパルトが火花を散らしながら、ヴィンセントが射出された



145 = 98 :





新しいゲームが始まる



146 = 98 :









147 = 98 :





始まりの刻は、とっくに過ぎていた




その始まりには欠けているものがあった



148 = 98 :





今、その最後のパーツが揃った




歯車は静かに廻り出した




駒は既に散りばめられている




運命が其れ等を弄び始め




全てが動き出す



149 = 98 :





与えれるものは与えられ




奪えるものは奪われる




勝利も敗北もない




手元に残るのは一体何だ



150 = 98 :





時間はゆっくりと、その時に近付いていく




その時は必ず訪れる




逃れる事は出来ない




ならば




祈るしかない




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