元スレ幼馴染「……童貞、なの?」 男「」.
SS+覧 / PC版 /みんなの評価 : ★★★×4
651 = 645 :
「これだと、俺もなんかをもってかなきゃいけない気がする」
とりあえず何かないかと家中を探す。妹が怪訝そうな目でこちらを見ていた。照れる。
冷蔵庫の中にスイカがあった。これだ。
俺だけ手土産なしという最悪の事態は回避される。
三時までゲームをして遊んだ。
キンピラくんはやたらと強かったが、マエストロには敵わない。最下位は俺だった。
少ししてから五人で幼馴染の家に向かう。庭では既に幼馴染の父であるアキラさんが準備を始めていた。
三姉妹は既に来ているらしく、幼馴染やタクミと一緒に中で待機しているという。
アキラさんを手伝おうと思ったのだが、なぜだか拒否される。あまり強くも出れない。
ユリコさんなら、強引にでも手伝うことはできる。でもアキラさんは難しい。
この人はなんというか、「いいっていいって」という言葉だけで万人を納得させる力を持っているのだ
「いいっていいって」
仕方なく家の中にお邪魔する。
リビングに入ると、五人は座ってトランプをしていた。
男勢の多さに、るーが少しだけ警戒したようだったが、後輩と話すのを見て少しは安堵したようだった。
基本的に無害な人たちですし。
男子勢はむしろ、見知らぬ女子がいることを疑問に思っていた。そういえば説明してなかった。
軽く紹介する。彼らはすぐに納得した。
「花火持ってきたから後でやろう」
サラマンダーが株をあげた。
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キンピラくんはキッチンに立つユリコさんに菓子折りを礼儀正しく渡した。すげえ。
でもキッチンで渡すことないのでは? やっぱりキンピラくんはキンピラくんだ。
勝手知ったる人の家で、俺はユリコさんに一声かけてからスイカを冷蔵庫に入れた。
俺、妹、幼馴染、タクミ、屋上さん、後輩、るー、サラマンダー、マエストロ、キンピラくん。
増えすぎ。
さらに、ユリコさん、アキラさん、と、見知らぬ誰か数名。
見知らぬ誰か数名。
知らない人がいることに気付いて動揺する。キッチンでユリコさんと並んでせわしなく動いていた。
「だれ?」
「るーちゃんたちのお母さんだって」
幼馴染が答えてくれた。人のよさそうな表情、若々しい見た目、少し聞こえる話し声は、落ち着きがあって控えめ。
いい人っぽい。
どことなくるーに似ている。
親しみを持つために脳内呼称をつけることにした。シミズさん。申し訳ないけど適当だ。
もう一人、キッチンには誰かが立っていた。
「タクミの?」
うん、と頷いたのはタクミだった。
そういえば、さっきアキラさんの隣に誰かがいたような。あの人がタクミの父親だろうか。
こっちは「タクミのお母さん」でいいや。うん。それで混乱しないし。
大人多い。
微妙に緊張する。
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でも緊張していたって仕方ない。今日は余計なことを考えず、子供として楽しむことにした。
いわば妹と同列。
それはそれで間違っている気がする。
しばらく話をする。屋上さんが後輩のことを「すず」と呼んだ。
記憶にある限り、屋上さんが後輩の名を呼ぶのははじめてのことだ。
るーはいつも後輩を「お姉ちゃん」と呼んでいる。その違いはなんなんだろう。
「すず姉」でもいいはずなのに。
それはどちらに対して距離があると受け取れるんだろう。
俺が考えるべきことでもない、と、思考を区切った。
今はバーベキュー。
四時頃、ユリコさんに呼ばれて庭に出る。サンテーブル、紙コップ、紙皿、ジュース、ビール。
鉄板に重ねられた網の上で焼かれていく肉、野菜。
垂涎。
幼馴染と妹が積極的に動いて皿の準備をした。ユリコさんは早々に椅子に座りビールを飲んでいた。
トングはもっぱらアキラさんが持っていた。
「代わりますよ」
シミズさんが名乗り出る。
「いいからいいから」
アキラさんは当然のように断る。ユリコさんがシミズさんを強引に座らせて、酒を紙コップに注ぐ。強引な人。
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サラマンダーとマエストロは遠慮がなかった。焼けたそばからばくばく喰う。ちょっとは遠慮しろ。
二つ目のトングを握った妹に、俺は野菜ばかりを食わされた。ひどい。
でもほとんど食べられていない妹の手前、何もいえない。
るーやタクミはサラマンダーたちに負けじと張り合っていたが、後輩や屋上さんはマイペースで箸を進めていた。
幼馴染は、なぜか大人たちと酒を飲んでいた。謎。
これだけの人数がいると、場は騒がしくなる。
頃合を見て妹と役割を交代する。子供の網は子供の管理。
マエストロたちに肉があまりいかないように誘導しながら具材を焼く。
大人たちが微笑ましそうにこちらを見ていた。落ち着かない。
アキラさんも大人たちに混じって酒を飲み始めた。もう酒盛りがしたいだけだったんじゃないか。いや、そういうものか?
大人たち五人を放置して、子供たちはばくばく食べる。そのままだろうが串だろうがどんどんなくなる。早い。
でも食材は大量にあった。……いいのかこれ。
敷かれていたレジャーシートの上に、屋上さんたちが正座していた。小さなテーブルの上に置かれた皿。
少し休むことにする。なぜだかあまり食べる気にはなれなかった。
俺が座ったのと同時に、後輩が立ち上がる。
網に近付いてトングを握った。気遣いタイプだなぁ。
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屋上さんはあんまり食べていない様子だった。
「遠慮してるの?」
と訊ねると、首を横に振る。そういえば、いつも彼女は昼食にサンドウィッチを食べていた。少食なのかもしれない。
会話の糸口を見失う。何を言えばいいのやら。
紙コップに炭酸を注いで飲む。なんだかなぁ、という気持ち。
周囲を見る。マエストロがトングを握ってタクミの皿に肉を分けていた。大人っぽい。
サラマンダーは大人たちに混ざって酒を片手に談笑している。何者だアイツは。なぜか和やかな笑いを作り出している。
キンピラくんはマエストロの脇に立って、空いた皿や肉の入っていた容器の片付けをしている。気遣い屋。
後輩はるーの脇に立って、マエストロ作業を眺めていた。
妹は、皿を持ってこちら側にやってきた。俺の隣に腰掛ける。正面に屋上さん、隣に妹。
不意に衝撃があった。
何事、と動揺すると同時に、なにか心地よい匂いが鼻腔をくすぐった。
幼馴染が後ろから抱き付いてきたのだと気付いたのは、数秒経ってからだった。
「ふへへ」
妙な声で笑いやがる。
酔ってる。
こいつは酔うと抱きつく。抱きつき癖がある。
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「離れなさい」
大人っぽく言う。
「ごめんなさいー」
謝りながらも、彼女は離れようとしない。
困る。
背中に当たる感触とか。
微笑ましそうな大人たちの目とか。
隣に座る妹の視線とか。
屋上さんの何か言いたげな顔とか。
るーがこっちを指差してけたけた笑っている様子とか(酒でも飲まされたんだろうか)。
困る。
しばらく流れに身を任せていると、幼馴染は飽きてしまったようで、なんとか離れた。暑苦しかった。
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なんとか解放されたと溜息をつくと、今度は膝の上でぽすりという感触がした。
なぜか、妹が眠ろうとしていた。
「ちょっと疲れた」
「……あ、そう。中で休めば?」
「ここでいい」
言いながら妹は目を閉じる。
なんだろうこの理屈。自分がひどくおかしな空間に巻き込まれている気がした。
気付く。
夢オチだ。
そろそろなおとが現れて、「時間だぜ、そろそろ起きろよ相棒」とか言いながら都合のいい夢の邪魔をするのだ。
目が覚めるとまだ七月の上旬で、テスト前。キンピラくんも屋上さんも辛辣で、幼馴染には彼氏がいる。
そうだ、きっとそうに違いない。
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どうせ夢なら何してもバチは当たらないだろう。
髪を撫でると、妹は瞼を閉じたままくすぐったそうに首をすくめた。
猫みたいに頭を動かして眠る姿勢を変える。ちょっとかわいい。
胸に触る。
殴られる。
「何をしやがりましたか」
動揺のあまり、妹の口調はいろいろ混じっていた。
「痛い。ってことは夢じゃないのか」
「何を言ってるの?」
痛いからといって夢じゃないとは限らない。夢の中で痛いと感じることもあるだろう。たぶん。
もし現実だったとしたら幸いなことに、他の誰にもさっきの行為は見られていなかったようだった。
幼馴染はどこにいった、と周囲を確認すると、いつのまにか屋上さんと世間話に興じていた。
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妹は眠る気をなくしたのか、落ち着かないような顔をして居住まいを正した。
現実。
まずいことした。
「ごめんなさい」
謝る。夢の中なら何をしてもいいなんて考えた時点で最悪だった。
「いや、うん。さっきのはナシで」
なかったことにした。誰も傷つかない平和的な解決。
屋上さんと、ふと目が合う。
彼女はきょとんとした表情でこちらをみた。
なんだかなぁ。
変な日だ。
たぶん夢オチに違いない。
けれど、バーベキューを終えて、片付けをして、庭を綺麗にして、スイカを食べながら休んだあと、花火をするためにまた庭に出て。
そのあとも、ちっとも夢はさめてくれなかった。
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ユリコさんたちの酒盛りに付き合わされて、次に目が覚めたのは翌日の朝だった。
一晩、明かしたっぽい。
どうやら子供勢がリビングで雑魚寝した様子。
不思議とサラマンダーたち三人の姿はなかった。昨日のうちに帰ったのかもしれない(なぜ俺だけ取り残されたんだろう)。
どういう法則が働いたか分からなかったが、寝転がる俺のふとももに、妹の頭が乗っていた。結局俺を枕にするのか。
頭痛をこらえながら起き上がる。
シミズさんたちはどうしたのだろう。姉妹を残しているということは、どこか別の部屋を借りたのか。
タクミとるーもいなかった。最年少組を雑魚寝させるのを親たちが避けたのだろう。
つまりこの場で寝ていたのは。
俺、妹、幼馴染、屋上さん、後輩、の五人。
男が俺ひとりだった。
毛布がもぞもぞと動く。誰かが動いたらしい。
慌てて立ち上がって、勝手に洗面所を借りる。
二日酔い。顔色は悪くないものの、飲まされた気配がする。夜のことはほとんど覚えていない。
661 = 645 :
顔を洗うと少しだけ意識が冴えたが、頭痛と体のだるさのせいで眠りたくて仕方なかった。
リビングに戻って時計を見ると、針はまだ五時半を差している。
寝なおそう。
床に敷かれた毛布の一枚に潜り込んで、俺はふたたび眠りに落ちた。
再び目を覚ましたとき、なぜか屋上さんが腕の中にいた。
混乱する。
心臓がばくばくする。
このままじゃまずい、と思う。
とりあえずできる限り静かに、ゆっくりと、腕を引き抜いていく。起こさないように。
動揺のあまり「せっかくだし観察しよう」とか思える状況じゃなかった。
ていうかいっそ恐怖すら覚えた。
このラブコメ的イベントの連続はなんなのか。
絶対なんかの予兆だろ(被害妄想)。
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なんとか体を引き抜いて、屋上さんからじりじりと離れる。
立ち上がる。達成感。よくぞここまでがんばった。
でも振り返るとみんなが起きていた。
めちゃくちゃ見られてた。
ユリコさんがニヤニヤ顔でこちらを見ている。やっぱこういうイベントか。
なぜかからかったりしてくる人はいなかった。逆に怖い。
その後、片付けやらなにやらが始まったので、なんだかんだでうやむやになる。
相当後になってから分かったことだが、このとき屋上さんは狸寝入りをしていたらしい。
663 = 645 :
日が出て、それぞれが身繕いを終わらせてから、ちょっとのあいだ空白の時間ができた。
大人たちはテーブルについて談笑している。るーとタクミはそこで一緒にお茶を飲んでいた。
暇を持て余す。とはいえまだ帰るには早い。
昨日の夜の記憶がほとんどない。
そこまでひどいことにはなってないはずだが、なんとなく嫌な予感もする。
幼馴染に昨日の夜の出来事を尋ねてみる。
「昨日の夜、俺、どんなんだった?」
「結婚を前提にお付き合いしてくださいって言われたよ」
簡単そうに言った。
それって親の前でか。
恥ずかしすぎる死にたい。
664 = 645 :
ホントに? と屋上さんに聞いてみる。
「私も、僕と同じ墓に入ってくださいって言われたけど」
どうでもよさそうに彼女は言った。
冗談だろ、と思った。
他人事のように横で見ていた後輩が、けらけら笑い出す。笑い事じゃない。
妹を見る。
「私も、毎朝俺のために味噌汁を作ってくださいって言われた」
「それもう作ってるじゃん」
急に冷静になった。
でももう酒は飲まない。
「別にお兄ちゃんのために作ってるわけじゃないから」
否定される。ツンデレ(希望的観測)。
665 = 645 :
「この女たらし」
幼馴染が笑いながら言う。
ひょっとしてからかわれたんだろうか。
昼前に解散になって、みんな家に帰った。
家に戻ると、なんだか急に静かになりすぎて落ち着かない。
二日酔い。腹の辺りに何かが埋まっているような不快感があった。そして頭痛。
なんだか疲れているのを感じて、寝なおすことにする。
目が覚めたのは夕方で、ちょうどすさまじい勢いの夕立が降り出したときだった。
その日は何もする気になれず、結局ほとんど寝っぱなしだった。
667 :
乙~
最低の論理は最高ですねばくはつしろ
668 :
乙
これはさすがに爆発してもいいんじゃないですか爆発しろ
あと部長かわいい
669 :
乙です
おい男、なぜ後輩には求婚してない。お前がしないなら俺がすずちゃんに求婚してくる!
670 :
乙です。
しかしなにがどうなってごく自然にあり得ない方向に行ってんだ爆発ry
671 :
乙
屋上さん、ヤバスwwwwww
672 :
乙
レベル落ちないなあ
みんな独り占めにしたい
674 :
乙
死にたくなってきた
675 :
更新待ちわびてたはずなのに欝になった爆発しろ
676 :
屋上さんかわえーのぉ
男も良いキャラしてるし
だが屋上さんを抱くとか許さん爆発しろ
677 :
オイコラ>>699、私がすずちゃんに求婚してくる !
679 :
乙
リア充爆発しろじゃなくて死にたくなってくるよねww
680 :
>相当後になってから分かったことだが、このとき屋上さんは狸寝入りをしていたらしい。
この一文はとんでもなく危険な一文だなあ。こわいこわい。
このスレって実際の季節と連動してるのかな。しばらくは夏休みシーンが続く感じだな。
681 :
キンピラ君と妹可愛過ぎて生きるのがつらい
682 = 639 :
これがS速クオリティなのかっ
683 :
駄レスはもしもしかな?と見てみると大抵カタカタ様なのはどうしてかな?
684 :
ハーレムうらやま死刑
685 :
>>669、677
すずちゃんはみんなのすずちゃんです!!
>>677のミスは秘密にしとくから大丈夫誰にも言わないからww
686 :
屋上さん可愛すぎて生きるのが辛い
687 = 677 :
え・・・、私何かミスったのか?
全然わかんねぇ。誰か教えてくれー
688 :
690 :
夢でもいいからこんなの体験してみてぇええええ
691 :
眠い
なんて時間に読み始めてしまったんだ
取り合えず腕枕ヤバい
693 :
こんなレベルの高いSSにリアルタイルで遭遇できるとは
694 :
ある日、祖父母の家に遊びにいくことにした。
暇は持て余していたし、親戚たちが帰ってくる盆までは日がある。
うちにいるよりも山に近い祖父母の家の方が涼めるのではないか、という考え。
裏の山を通ると、舗装された道路が丘沿いに進み、その左右には向日葵畑が開けている。
田舎、夏、という風景。
ちなみに舗装されていない山道を通って山頂に向かうともれなく虫に刺されたり筋肉痛になったりする。
ついてすぐ、犬を散歩に連れて行くように言われる。
暑いのに。
わざわざなぜ外に。
文句は黙殺され、結局、妹とふたりで‘はな’を連れて散歩をすることにした。
「暑い」
「暑いな」
適当に歩く。なだらかな傾斜に沿って丘を登る。車がぎりぎりすれ違えるような狭い道路、はみ出た木々。
太陽は疲れ知らずで、夏を延々と燃やし続けている。
台風でも来ればいいのに。
それはそれで蒸し暑いのだが。
695 = 694 :
丘を登り、向日葵畑の間を歩く。
子供の頃も、こうやって散歩をしたような。
向日葵はまだ咲いていなかった。満開ともなれば声を失うほど綺麗なのだが、あいにく今年は開花が遅い。
ぼんやり歩く。
リードを持った手がぐいぐいと引っ張られた。急ぐこともないので、力をこめて抑え、ゆっくりと進む。
丘を登りきってから引き返す。ふと横を歩く妹の顔を覗き見た。
別に何も考えてなさそうな表情。散歩なんてするのも久しぶりだ。
最近じゃコンビニかファミレスくらいまでしか歩かない。たまにはこういう時間も必要だろう。
祖父母の家に戻る。
昼寝がしたくなって座敷に寝転がる。祖母がタオルケットを出してくれた。子供の頃使った奴。懐かしい。
せっかくなので妹も誘ってみる。
「一緒に寝る?」
「なんで? 暑いのに」
「いいから」
強引に隣に寝かせる。タオルケットを共有する。天井。縁側から流れ込む風。風鈴の音。
「超落ち着く」
「私は落ち着かないけど」
感覚の違いがあるようだった。
696 = 694 :
「このタオルに一緒にくるまって、怖い話したこともあったな」
「あったっけ?」
「あったんだよ。そしたらおまえがすごく怯えて、夜中にトイレにいけなくなって」
「それはない」
「まぁそれはなかったけど、怖がってたのは本当」
「そうだったっけ」
「そうだった」
怪談とはいえ子供がするものなのだから、そこまで怖い話なわけがない。
それなのに、そもそも妹は聞こうとすらしなかったのだ。
懐かしい気分。
697 = 694 :
「おまえがお祭りでもらってきた風船を俺が割っちゃって、わんわん泣かれたこともあったな」
「それは覚えてる。私が買ってもらったお菓子を半分以上食べられたりとか」
「嫌なことだけ覚えてるんだな」
そう考えると、あまり嫌な思いをさせるわけにもいかないと思う。
昔の話をしてみると、忘れていたことを結構思い出したりもした。
自分では覚えているつもりだった記憶も、妹の記憶と比べてみると齟齬があったりする。
なんとなく物思いに耽る。
夏と田舎は人をノスタルジックな気分にさせるのです。
しばらく黙っていると、いつのまにか妹は眠ってしまったようだった。
俺だけ起きててもしかたないので、瞼を閉じて眠ろうとする。
気付くと、起きているのか寝ているのか自分でも分からないような状態になっていた。
しばらくまどろみの中で溺れる。眠っている、という感覚。
698 = 694 :
目が覚めたとき、だいぶ時間が経っていたような気がしたが、実際には三十分と経っていなかった。
それなのに、少し疲れが取れたような気がする。
こういうときは少しうれしい。
ふと見ると、妹は隣ですやすやと寝息を立てていた。
落ち着く。
普通の兄妹って、こういうことしたりするのかな、と思う。
するかもしれないし、しないかもしれない。よく分からない。
考えてみれば、俺と妹はふたりきりでいる時間が長すぎたのだ。
祖父母と一緒に暮らしていた頃は、料理も出たし面倒も見てもらえた。
それでも両親がいないのは寂しかった。
家に戻って暮らすようになると、今度は自分たちのことは自分たちでやらなければならない。
本来なら、母の仕事が落ち着いてきて、子供の様子を見れるから、という理由で家に戻ったはずだった。
一年を過ぎた頃に、ふたたび母の仕事が忙しくなった。
たぶん、人生でいちばん、毎日楽しくて仕方なかった時期だった。
それ以前も以降も、寂しかったり忙しかったり落ち着かなかったりで大変だったし、今だってやることが増えて大変だ。
多少、余裕は出てきたけれど。
699 = 694 :
年上だからという理由で、祖母は俺に家事を仕込んだ。自然な考えだと思う。
そこから少しずつ、俺が妹に教える。祖母に協力してもらいながら。
一通りの家事を祖母の手伝いなしでこなせるようになる頃には、兄妹で協力しあうという考えはごく自然に身についていた。
協力することを自然に思っているからか、あるいは両親がいない時間が多いからか。
そのどちらのせいかは分からないけれど、どうやら他の人間からみると、俺と妹の距離は普通より近いらしい。
実際、今になって思えばたしかに普通ではない、と思うようなことは多々ある。
妹が小学校高学年になる前くらいまで、一緒に風呂に入ったりしていたし。一緒に寝てたし(1、2年前まで)。
一緒に風呂に入っていたのは、祖母が俺たちをまとめて風呂に入れたから。
一緒に寝ることが多かったのは、祖父母の家では全員が同じ場所で寝ていたからだ。
でも、いつのまにかそういうことはなくなった。たぶんそういうものだからだろう。距離はとれるようになっていく。
それなのに、なんとなく、未だに、どこかで距離を測りかねている。
油断すると、距離が詰まりそうになる。
それが普通ではない、と、いつのまにか知ったから距離をとるようになっただけで。
距離を測りかねている。
たまに、困る。
700 = 694 :
そういうときに助かったのか幼馴染の存在だった。
子供の頃からユリコさんと一緒にうちに来て、俺たちと遊んだ。
彼女は「ふつう」の基準を教えてくれる。どこがおかしくて、どこが間違っているかをはっきりとさせてくれる。
とはいえ、幼馴染にも男兄弟はいないから、そのあたりは適当だったりしたのだが。
自分たち兄妹以外の誰かがそばにいるというのは、上手な距離のとり方を把握していくのに一役買った。
結果的に余計混迷とした気がするけど。
なぜか幼馴染まで一緒に風呂に入りたがったり、一緒に寝たがったり。
小学に入って少しした頃には、多少の分別がついて、幼馴染と入るときは水着を着てたりもした。そういうこともある。
それが妹との関係に適応されたかどうかを考えると、微妙なところだ。
いろいろがんばってはみたけれど。
いまさら、「普通の兄妹の距離感」を手に入れるには、ふたりきりでいる時間があまりに長すぎた。
もやもやする。
困る。
妹なのに。
でもまぁ、考えても仕方のないことではある。
みんなの評価 : ★★★×4
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