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元スレ運転士「電車が脱線するぅぅぅ!!!」男「よし……置き石成功!」
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ガタンゴトン… ガタンゴトン…
運転士「……ん?」
ガクンッ
運転士「うわああああ! 電車が脱線するぅぅぅ!!!」
ガクガクガクガクガク…
ズズゥン…
男「よし……置き石成功!」
運転士「……ん?」
ガクンッ
運転士「うわああああ! 電車が脱線するぅぅぅ!!!」
ガクガクガクガクガク…
ズズゥン…
男「よし……置き石成功!」
……
女(この辺りによく出没するって聞いたけど……)
女(いた!)
男「…………」ヒョイッ
男「…………」ヒョイッヒョイッ
女(石を何段も器用に積み上げてる……。登山者がよくやる……ケルン、だっけ? あれみたいに……)
女「あ、あのっ!」
男「……ん?」
女「あなたは“置き石の達人”って聞きました。そうなんですか?」
男「その通りだが」
女「!」
女(この辺りによく出没するって聞いたけど……)
女(いた!)
男「…………」ヒョイッ
男「…………」ヒョイッヒョイッ
女(石を何段も器用に積み上げてる……。登山者がよくやる……ケルン、だっけ? あれみたいに……)
女「あ、あのっ!」
男「……ん?」
女「あなたは“置き石の達人”って聞きました。そうなんですか?」
男「その通りだが」
女「!」
列車の脱線転覆は基本死人が出たら死刑だからな
脱線しなくて怪我人が出なくても初犯で1発実刑
執行猶予なし
脱線しなくて怪我人が出なくても初犯で1発実刑
執行猶予なし
女「先日の電車脱線事故……ご存じですか」
男「ああ、知ってる」
女「怪我人が十数人出て、あわや近隣民家に電車が突っ込むかもという大惨事でした」
女「あなたは……あの事故に関与していますか?」
男「…………」
男「してるよ」
女「…………ッ!」
男「ああ、知ってる」
女「怪我人が十数人出て、あわや近隣民家に電車が突っ込むかもという大惨事でした」
女「あなたは……あの事故に関与していますか?」
男「…………」
男「してるよ」
女「…………ッ!」
女「あの電車を運転してたのは……私の父でした」
女「事故の時、頭を打って……まだ入院しています。今まで一度も事故なんて起こしたことなかったのに……」
女「これを聞いて、どう思いますか!?」
男「すまないことをした、と思ってる」
女「許せないッ!」
男「許せないならどうするんだ」
女「私があなたを成敗します! この≪のびーる棒≫で!」バッ
奇妙な模様が描かれた棒を取り出す。
女「事故の時、頭を打って……まだ入院しています。今まで一度も事故なんて起こしたことなかったのに……」
女「これを聞いて、どう思いますか!?」
男「すまないことをした、と思ってる」
女「許せないッ!」
男「許せないならどうするんだ」
女「私があなたを成敗します! この≪のびーる棒≫で!」バッ
奇妙な模様が描かれた棒を取り出す。
置き石は犯罪なので
子供がやるいたずらの中でも最上クラスよ
子供がやるいたずらの中でも最上クラスよ
女「てやーっ!」
男(全然届いてないじゃないか――)
パコーンッ!
男「いてっ!」
女「ふふふ、どうです!」
男(なんだ、今のは……!?)
男(棒自体は長くなってないのに、急に棒が伸びたような――)
女「さあ、これ以上殴られたくなければ、自首しなさい!」
男「…………」
男(全然届いてないじゃないか――)
パコーンッ!
男「いてっ!」
女「ふふふ、どうです!」
男(なんだ、今のは……!?)
男(棒自体は長くなってないのに、急に棒が伸びたような――)
女「さあ、これ以上殴られたくなければ、自首しなさい!」
男「…………」
男「ちょっと待ってくれ」
女「へ?」
男「俺はこれから用事があってな。どうしても外せない用事なんだ」
女「用事?」
男「悪いが、あんたと話すのはそれからでいいか?」
女「いいですけど……逃げないようについていきますよ!」
男「もちろんだ」
女「へ?」
男「俺はこれから用事があってな。どうしても外せない用事なんだ」
女「用事?」
男「悪いが、あんたと話すのはそれからでいいか?」
女「いいですけど……逃げないようについていきますよ!」
男「もちろんだ」
―民家―
老人「おお、よく来てくれたのう」
男「じゃ、さっそく始めようか」
女(なにを始めるんだろう……?)
老人「今日はワシが勝つぞ」
男「なんの。このところ俺も腕を上げたからな」
女(勝負……? まさか、ギャンブルでもするつもり……!? 非合法の裏ギャンブルとか……)
老人「おお、よく来てくれたのう」
男「じゃ、さっそく始めようか」
女(なにを始めるんだろう……?)
老人「今日はワシが勝つぞ」
男「なんの。このところ俺も腕を上げたからな」
女(勝負……? まさか、ギャンブルでもするつもり……!? 非合法の裏ギャンブルとか……)
男「右上スミ小目」パチッ
老人「よーし、ワシは……」パチッ
パチッ パチッ パチッ パチッ …
女(え~!? 囲碁が始まっちゃった!)
対局は進み――
老人「う~む、今日はワシの負けじゃ!」
男「こないだの借りを返せた。またやろうな、爺さん」
女(特にお金を賭けるわけでもなく普通に終わった……)
老人「よーし、ワシは……」パチッ
パチッ パチッ パチッ パチッ …
女(え~!? 囲碁が始まっちゃった!)
対局は進み――
老人「う~む、今日はワシの負けじゃ!」
男「こないだの借りを返せた。またやろうな、爺さん」
女(特にお金を賭けるわけでもなく普通に終わった……)
女「あのー、なぜ囲碁を?」
男「俺は置き石の達人だぞ? 囲碁ぐらい出来なきゃな」
男「まあ、俺の棋力は『ヒカルの碁』でいうと三谷ぐらいだろうが」
女「そうじゃなくて、あのお爺さんはなんなんですか!」
男「一人暮らしの爺さんだよ。ご家族を亡くして寂しいらしいから、時々囲碁の相手になってるんだ」
男「置き石の達人としてな」
女「…………!」
男「俺は置き石の達人だぞ? 囲碁ぐらい出来なきゃな」
男「まあ、俺の棋力は『ヒカルの碁』でいうと三谷ぐらいだろうが」
女「そうじゃなくて、あのお爺さんはなんなんですか!」
男「一人暮らしの爺さんだよ。ご家族を亡くして寂しいらしいから、時々囲碁の相手になってるんだ」
男「置き石の達人としてな」
女「…………!」
少年「あ、置き石の達人さん!」
男「おう、坊やか」
少年「僕、石蹴りを教えてもらったおかげで、サッカー上手くなってクラブに入れたんだ!」
男「そうか、よかったな」
少年「うん!」
女「彼は……?」
男「友達がいなかった子でな。俺が石蹴りを教えてやったら、みるみる才能が開花して……」
女「へえ……」
男「おう、坊やか」
少年「僕、石蹴りを教えてもらったおかげで、サッカー上手くなってクラブに入れたんだ!」
男「そうか、よかったな」
少年「うん!」
女「彼は……?」
男「友達がいなかった子でな。俺が石蹴りを教えてやったら、みるみる才能が開花して……」
女「へえ……」
スタスタ…
女(うーん……。なんだか、とてもこの人が電車事故を引き起こすようには……)
キャーッ!
女「え!?」
主婦「誰かー! ひったくりよぉー!」
ひったくり「へっへっへ、俺の足には誰もついてこれんぜ!」タタタッ
ひったくり「どけ! どけぇ!」ドカッ! バキッ!
通行人を次々突き飛ばす。
女「こ、こっちに来ます!」
男「…………」
女「よーし、のびーる棒で……」
男「よせ、そんなんで倒せる相手じゃない」
女(うーん……。なんだか、とてもこの人が電車事故を引き起こすようには……)
キャーッ!
女「え!?」
主婦「誰かー! ひったくりよぉー!」
ひったくり「へっへっへ、俺の足には誰もついてこれんぜ!」タタタッ
ひったくり「どけ! どけぇ!」ドカッ! バキッ!
通行人を次々突き飛ばす。
女「こ、こっちに来ます!」
男「…………」
女「よーし、のびーる棒で……」
男「よせ、そんなんで倒せる相手じゃない」
男「ここかな」スッ…
石を置く。
女「え?」
ひったくり「今日も大儲けだ――え」ガッ
ひったくり「うおあぁっ!?」ズルッ
ドザァッ!
ひったくり「あいたたた……! こ、こけた……!」
男「カバンは返してもらうぞ」ヒョイッ
女(ひったくりの走るコースを計算して、“置き石”した……!)
石を置く。
女「え?」
ひったくり「今日も大儲けだ――え」ガッ
ひったくり「うおあぁっ!?」ズルッ
ドザァッ!
ひったくり「あいたたた……! こ、こけた……!」
男「カバンは返してもらうぞ」ヒョイッ
女(ひったくりの走るコースを計算して、“置き石”した……!)
男「俺の用件は済んだ。家に帰る前に、あんたとの話にケリをつけておきたい」
女「えっ、家あるんですか」
男「当たり前だろ。本業は石屋だしな」
女「…………」
女「今日少しだけあなたに付き合って、分かったことが一つあります」
女「あなたは電車事故を起こすような人じゃないと感じました」
男「ああ……俺があの事故を起こしたわけじゃない」
女「それじゃ、“関与した”というのはどういう意味です?」
女「えっ、家あるんですか」
男「当たり前だろ。本業は石屋だしな」
女「…………」
女「今日少しだけあなたに付き合って、分かったことが一つあります」
女「あなたは電車事故を起こすような人じゃないと感じました」
男「ああ……俺があの事故を起こしたわけじゃない」
女「それじゃ、“関与した”というのはどういう意味です?」
男「俺は……“脱線した電車”に置き石したんだ。置き石して、軌道をずらした」
女「え、ってことは――」
女「もし、あなたが置き石してなければ、もっと被害は大きくなっていた……?」
男「あまり自分からいうことじゃないが、そうなってただろう」
男「死人は出てただろうし、電車は民家に突っ込んでたはずだ」
女「…………!」
女「ご、ごめんなさいっ! 私、さっきはなんてことを……!」
男「いや、俺だってハッキリ否定せず、誤解を招くような言い方したからお互い様だ」
男「それに俺の置き石がもっと上手くいってれば、怪我人すら出さなくて済んだだろう」
男「あんたは俺を殴る資格があったんだよ」
女(なんて人なの……)
女「え、ってことは――」
女「もし、あなたが置き石してなければ、もっと被害は大きくなっていた……?」
男「あまり自分からいうことじゃないが、そうなってただろう」
男「死人は出てただろうし、電車は民家に突っ込んでたはずだ」
女「…………!」
女「ご、ごめんなさいっ! 私、さっきはなんてことを……!」
男「いや、俺だってハッキリ否定せず、誤解を招くような言い方したからお互い様だ」
男「それに俺の置き石がもっと上手くいってれば、怪我人すら出さなくて済んだだろう」
男「あんたは俺を殴る資格があったんだよ」
女(なんて人なの……)
男「それじゃ、今日は楽しかったよ」
スタスタ…
女「…………」
女はいつまでも男の後ろ姿を見つめていた――
…………
……
スタスタ…
女「…………」
女はいつまでも男の後ろ姿を見つめていた――
…………
……
数日後――
女「こんにちは!」
男「あんたか。今日はどうしたんだ?」
女「この間のお詫びをしたくて……これ菓子折りです」
男「お詫びなんていいのに、律儀な人だ」
男「…………!」
男「これは……まるで鉱石みたいな菓子だな。こんなのあるんだ……」
女「インターネットで見つけて……こういうのお好きかなって」
男「大好きだよ! どうもありがとう!」
女(喜んでくれたみたい。よかった……)
女「こんにちは!」
男「あんたか。今日はどうしたんだ?」
女「この間のお詫びをしたくて……これ菓子折りです」
男「お詫びなんていいのに、律儀な人だ」
男「…………!」
男「これは……まるで鉱石みたいな菓子だな。こんなのあるんだ……」
女「インターネットで見つけて……こういうのお好きかなって」
男「大好きだよ! どうもありがとう!」
女(喜んでくれたみたい。よかった……)
女「今日のお仕事は?」
男「ある屋敷の主人が、庭に石を置きたいっていうんだが」
男「どこに置けば石が一番映えるか、俺に見てもらいたいんだそうだ」
女「面白そう! 私もご一緒していいですか?」
男「いいとも」
女「置き石師としての腕の見せ所ですね!」
男「ああ、石の魅力を最大限に引き出してみせる」
男「ある屋敷の主人が、庭に石を置きたいっていうんだが」
男「どこに置けば石が一番映えるか、俺に見てもらいたいんだそうだ」
女「面白そう! 私もご一緒していいですか?」
男「いいとも」
女「置き石師としての腕の見せ所ですね!」
男「ああ、石の魅力を最大限に引き出してみせる」
―屋敷―
女「うわ……立派なお屋敷ですね!」
男「日本の古きよきお屋敷って感じだな」
主人「よく来てくれた。さっそく庭を見てもらいたいのだが……」
男「分かりました」
女「勉強させてもらいます!」
男は庭を歩き回りつつ、石をどこに置くか考える。
女「うわ……立派なお屋敷ですね!」
男「日本の古きよきお屋敷って感じだな」
主人「よく来てくれた。さっそく庭を見てもらいたいのだが……」
男「分かりました」
女「勉強させてもらいます!」
男は庭を歩き回りつつ、石をどこに置くか考える。
男「決めた」
男「ここはどうでしょう」ゴトッ
主人「おおっ!」
女(すごい……あそこに石を置いただけで、庭の景観ががらっと変わったような印象を受ける!)
主人「ありがとう……おかげで庭の景観がぐっと引き締まったよ!」
男「いえ、これが仕事ですから」
女「…………」
男「ここはどうでしょう」ゴトッ
主人「おおっ!」
女(すごい……あそこに石を置いただけで、庭の景観ががらっと変わったような印象を受ける!)
主人「ありがとう……おかげで庭の景観がぐっと引き締まったよ!」
男「いえ、これが仕事ですから」
女「…………」
女「あの……」
主人「なんだね?」
女「石の近くにある砂……“砂紋”をつければもっと石が映えると思うんです」
主人「砂紋?」
女「道具で砂に線を引いて、波を描くんです」
男「そうか、枯山水みたいな感じか」
“枯山水”とは水を用いず砂や木のみで、山水を表現した庭園様式のことである。
女「いかがでしょう?」
主人「面白いかもしれん……やってみてくれたまえ」
主人「なんだね?」
女「石の近くにある砂……“砂紋”をつければもっと石が映えると思うんです」
主人「砂紋?」
女「道具で砂に線を引いて、波を描くんです」
男「そうか、枯山水みたいな感じか」
“枯山水”とは水を用いず砂や木のみで、山水を表現した庭園様式のことである。
女「いかがでしょう?」
主人「面白いかもしれん……やってみてくれたまえ」
石の周辺の砂に、砂紋を描く。
女「いかがでしょう?」
男(おおっ……)
主人「ううむ……さっきよりさらによくなった!」
主人「ただ漠然と広かっただけの庭が、たった一時で一流の庭園のような風格になったよ!」
主人「今日は君たち二人が来てくれて、本当によかった!」
男「どういたしまして」
女「ありがとうございます!」
女「いかがでしょう?」
男(おおっ……)
主人「ううむ……さっきよりさらによくなった!」
主人「ただ漠然と広かっただけの庭が、たった一時で一流の庭園のような風格になったよ!」
主人「今日は君たち二人が来てくれて、本当によかった!」
男「どういたしまして」
女「ありがとうございます!」
男「今日はありがとう。俺の仕事を見てもらうどころか、より完璧に仕上げてもらってしまった」
女「いえ、余計なことをしてすみませんでした」
男「あの庭を見たら“余計なこと”だなんて誰もいえないよ」
男「あんたはひょっとして、なにか美術系の仕事をしてるのか?」
女「実は……イラストレーターをやってます」
男「やっぱりか」
女「よろしければ、作品をご覧になりますか」
女「いえ、余計なことをしてすみませんでした」
男「あの庭を見たら“余計なこと”だなんて誰もいえないよ」
男「あんたはひょっとして、なにか美術系の仕事をしてるのか?」
女「実は……イラストレーターをやってます」
男「やっぱりか」
女「よろしければ、作品をご覧になりますか」
スマホで自分のサイトを見せる。
女「主にトリックアートを生かした絵や商品を作ってまして」
男「トリックアートって、錯視を利用した騙し絵だよな。うん、どれも面白い」
男「あっ、もしかしてあの≪のびーる棒≫も!」
女「そうです。棒に模様を描いて、目の錯覚で棒が伸びたようになるんです」
男「独学か?」
女「いえ、ちゃんと師匠がいます」
女「あ、そうだ。よかったら今度、師匠の個展に行きませんか!」
男「面白そうだ」
女「主にトリックアートを生かした絵や商品を作ってまして」
男「トリックアートって、錯視を利用した騙し絵だよな。うん、どれも面白い」
男「あっ、もしかしてあの≪のびーる棒≫も!」
女「そうです。棒に模様を描いて、目の錯覚で棒が伸びたようになるんです」
男「独学か?」
女「いえ、ちゃんと師匠がいます」
女「あ、そうだ。よかったら今度、師匠の個展に行きませんか!」
男「面白そうだ」
―個展会場―
女「こちらです」
男「おおっ、早くもたくさんのトリックアートがある」
男「どれもこれもよく出来てるな……」
男(おっと、こんなところに花が)サッ
男「と思ったら、絵か……すごいな」
女「ここに来ると、私もすっかり騙されてしまいますよ。ちょくちょく絵が変わりますし」
女「こちらです」
男「おおっ、早くもたくさんのトリックアートがある」
男「どれもこれもよく出来てるな……」
男(おっと、こんなところに花が)サッ
男「と思ったら、絵か……すごいな」
女「ここに来ると、私もすっかり騙されてしまいますよ。ちょくちょく絵が変わりますし」
男「これはリアルな木目が描かれてるが、コンクリートの壁だな」
男「ここには窓があるが、実際にはなにもない。うむむむ……」
女「あ、あそこに師匠がいます! 師匠ー!」
男「聞こえてないみたいだな」
女「あれ? 師匠ー! もしもーし!」
男「ん? これ……ひょっとして絵じゃないか?」
女「あっ、ホントだ!」
「アーッハッハッハ! まんまと騙されてくれたようだねえ!」
男女「!」
男「ここには窓があるが、実際にはなにもない。うむむむ……」
女「あ、あそこに師匠がいます! 師匠ー!」
男「聞こえてないみたいだな」
女「あれ? 師匠ー! もしもーし!」
男「ん? これ……ひょっとして絵じゃないか?」
女「あっ、ホントだ!」
「アーッハッハッハ! まんまと騙されてくれたようだねえ!」
男女「!」
画家「久しぶりだ! 我が愛する弟子よ!」
女「お久しぶりです!」
画家「そちらは?」
女「置き石の達人さんです」
画家「ほっほぉ~う、置きストーン! よろしく!」
男「初めまして」
画家「せっかく来て下さったんだ。ワタシのトロンプ・ルイユをたーっぷり楽しんでいってくれたまえ!」
男「トロンプ・ルイユ?」
女「フランス語で“目騙し”という意味で、トリックアートの正式名称のようなものです」
女「お久しぶりです!」
画家「そちらは?」
女「置き石の達人さんです」
画家「ほっほぉ~う、置きストーン! よろしく!」
男「初めまして」
画家「せっかく来て下さったんだ。ワタシのトロンプ・ルイユをたーっぷり楽しんでいってくれたまえ!」
男「トロンプ・ルイユ?」
女「フランス語で“目騙し”という意味で、トリックアートの正式名称のようなものです」
女「師匠は日本におけるトリックアートの第一人者なんですよ」
女「今度日本で開かれる、≪ワールドアート展≫にも作品を出品するんです」
男「あの世界的な美術展の……」
画家「アッハッハ、大勢の客を騙せるかと思うと今から笑いが止まらないよ! アーッハッハッハッハ!」
男「…………」
男「ちょっと変わった人だな」ボソッ
女「まあ……なにしろ芸術家ですから」ヒソヒソ
女「今度日本で開かれる、≪ワールドアート展≫にも作品を出品するんです」
男「あの世界的な美術展の……」
画家「アッハッハ、大勢の客を騙せるかと思うと今から笑いが止まらないよ! アーッハッハッハッハ!」
男「…………」
男「ちょっと変わった人だな」ボソッ
女「まあ……なにしろ芸術家ですから」ヒソヒソ
男「お師匠さんの目から見て、彼女はどうですか?」
画家「ワタシはかつて弟子を一人破門して、それ以来弟子は取らないと決めてたのだけど」
画家「彼女の熱意に負けて、弟子入りを許してしまった!」
画家「よく努力してるし、素質もある! いい弟子を持ったよ、ワタシは!」
女「師匠……!」
男「よかったな」
女「はいっ!」
画家「なーんてね、トリックトーク! アーッハッハッハッハッハ!」
女「のびーる棒で殴っていいですかね」
男「やめとけ」
画家「ワタシはかつて弟子を一人破門して、それ以来弟子は取らないと決めてたのだけど」
画家「彼女の熱意に負けて、弟子入りを許してしまった!」
画家「よく努力してるし、素質もある! いい弟子を持ったよ、ワタシは!」
女「師匠……!」
男「よかったな」
女「はいっ!」
画家「なーんてね、トリックトーク! アーッハッハッハッハッハ!」
女「のびーる棒で殴っていいですかね」
男「やめとけ」
ひと通り展示を見て――
画家「最後に……ここに石ころがある」
男「!」
画家「置き石の達人なら、これをこの展示場のどこに置く? どこに置けばこの石が一番輝く?」
男「…………」
男「ここ……ですかね」コトッ
画家「!」
画家「なるほど……“置き石の達人”といわれるだけのことはあるようだ」
画家「今の置き方、置く位置だけで、君がどれだけの研鑽を積んできたかがよぉく分かった」
画家「このワタシが久々にマジフェイスになってしまったよ」
男「ありがとうございます」
女(ううむ、なにかレベルの高いやり取りが繰り広げられた、ってことだけは分かる!)
画家「最後に……ここに石ころがある」
男「!」
画家「置き石の達人なら、これをこの展示場のどこに置く? どこに置けばこの石が一番輝く?」
男「…………」
男「ここ……ですかね」コトッ
画家「!」
画家「なるほど……“置き石の達人”といわれるだけのことはあるようだ」
画家「今の置き方、置く位置だけで、君がどれだけの研鑽を積んできたかがよぉく分かった」
画家「このワタシが久々にマジフェイスになってしまったよ」
男「ありがとうございます」
女(ううむ、なにかレベルの高いやり取りが繰り広げられた、ってことだけは分かる!)
帰り道――
男「トリックアートをこんなに見たのは初めてだから、今歩いてる道も絵なんじゃって気分になってくるよ」
女「アハハ、分かります分かります」
男「あんたのお師匠さん、いい人だったな」
女「ええ、あの人のトリックアート愛は本物ですから」
男「ただし、だいぶ変わった人でもあるけど」
女「そこは否定しません」
男「トリックアートをこんなに見たのは初めてだから、今歩いてる道も絵なんじゃって気分になってくるよ」
女「アハハ、分かります分かります」
男「あんたのお師匠さん、いい人だったな」
女「ええ、あの人のトリックアート愛は本物ですから」
男「ただし、だいぶ変わった人でもあるけど」
女「そこは否定しません」
……
男「今日はどこに行くんだ?」
女「父のお見舞いに行こうかと」
男「まだ具合が悪いのか?」
女「いえ、リハビリは順調ですよ。だけど、顔を見せておきたくって……」
男「なら俺も行くよ」
女「本当ですか? 嬉しいです!」
男「今日はどこに行くんだ?」
女「父のお見舞いに行こうかと」
男「まだ具合が悪いのか?」
女「いえ、リハビリは順調ですよ。だけど、顔を見せておきたくって……」
男「なら俺も行くよ」
女「本当ですか? 嬉しいです!」
―病院―
女「お父さん、お見舞いに来たよ」
運転士「おお、ありがとう。さっきまで母さんも来てたよ」
女「それと……今日はもう一人連れてきたの」
運転士「連れ?」
男「どうも」
運転士「おおっ、置き石師さんじゃないか!」
女「えっ、知ってるの!?」
女「お父さん、お見舞いに来たよ」
運転士「おお、ありがとう。さっきまで母さんも来てたよ」
女「それと……今日はもう一人連れてきたの」
運転士「連れ?」
男「どうも」
運転士「おおっ、置き石師さんじゃないか!」
女「えっ、知ってるの!?」
運転士「知ってるもなにも、彼はこれまでにも脱線事故を救ったことがある」
運転士「事故の起きやすい箇所を熟知していてね。鉄道業界においては救世主のような人なんだ」
運転士「警察や鉄道会社から、感謝状をもらったこともあるんだよ」
女「知らなかった……」
運転士「今回もあなたの置き石がなければ、私は死んでいたかもしれない。本当にありがとう」
男「いえ、俺が未熟だったせいで入院させてしまって……」
男「これからも置き石師として、精進します」
運転士「事故の起きやすい箇所を熟知していてね。鉄道業界においては救世主のような人なんだ」
運転士「警察や鉄道会社から、感謝状をもらったこともあるんだよ」
女「知らなかった……」
運転士「今回もあなたの置き石がなければ、私は死んでいたかもしれない。本当にありがとう」
男「いえ、俺が未熟だったせいで入院させてしまって……」
男「これからも置き石師として、精進します」
女「調子はどう?」
運転士「体はだいぶよくなってきた。もうすぐ退院できそうだよ」
女「よかった……」
運転士「早く復帰して、また電車を運転したいもんだよ」
女「うん、だけどあまり無茶しないでよ」
運転士「分かってる。ところで、お前たちは付き合ってるのか?」
女「え!? いや、そんなことないですよねえ!?」
男「あ、ああ。ただの知り合い……です」
運転士「そうか……これからも娘をよろしくお願いします」
運転士「体はだいぶよくなってきた。もうすぐ退院できそうだよ」
女「よかった……」
運転士「早く復帰して、また電車を運転したいもんだよ」
女「うん、だけどあまり無茶しないでよ」
運転士「分かってる。ところで、お前たちは付き合ってるのか?」
女「え!? いや、そんなことないですよねえ!?」
男「あ、ああ。ただの知り合い……です」
運転士「そうか……これからも娘をよろしくお願いします」
病院を出た二人。
女「お父さん、元気そうでよかった……」
女「脱線事故を起こしたのに、復帰できそうだし……本当に運がいいというか」
男「いや……あれは“事故”なんかじゃない」
女「え? それってどういう……」
男「あの事故の原因は……“置き石”だ。電車側に非はないんだ」
男「あんたのお父さんは置き石のせいで脱線して、置き石で救われた」
男「分かりやすくいうと、二回置き石を喰らったってわけだ」
女「お父さん、元気そうでよかった……」
女「脱線事故を起こしたのに、復帰できそうだし……本当に運がいいというか」
男「いや……あれは“事故”なんかじゃない」
女「え? それってどういう……」
男「あの事故の原因は……“置き石”だ。電車側に非はないんだ」
男「あんたのお父さんは置き石のせいで脱線して、置き石で救われた」
男「分かりやすくいうと、二回置き石を喰らったってわけだ」
男「あんたのお父さんはギリギリで違和感を抱いてブレーキをかけたから」
男「俺でも助けられる程度の脱線で済んだが……」
男「もし、スピードを下げてなかったら、とんでもないことになってたかもしれない」
女「…………!」
男「犯行は極めて狡猾で悪質……これをやった奴はいずれ味をしめてまたやるだろう」
男「石は地球の恵みだ……眺めてるだけで楽しめる。それをこんな卑劣な犯罪に使うとは――」
男「許せない……!」
女「…………」ゾクッ
女(この人は……本当に石が好きなんだ……)
男「俺でも助けられる程度の脱線で済んだが……」
男「もし、スピードを下げてなかったら、とんでもないことになってたかもしれない」
女「…………!」
男「犯行は極めて狡猾で悪質……これをやった奴はいずれ味をしめてまたやるだろう」
男「石は地球の恵みだ……眺めてるだけで楽しめる。それをこんな卑劣な犯罪に使うとは――」
男「許せない……!」
女「…………」ゾクッ
女(この人は……本当に石が好きなんだ……)
女「そういえば聞きたかったんですけど、あなたはなぜ置き石師に?」
男「俺は子供の頃、置き石に救われたんだ」
女「置き石に……?」
男「子供の頃、俺が歩いてると、坂道の上から荷物の入った台車が猛スピードで転がってきてな」
男「当たったら大怪我は免れない。反応も遅れて、もう避けられないと思った。そしたら――」
おっさん『ふんぬ!!!』ドンッ
男「見ず知らずのおっさんが石を置いた。すると、台車は石でハネ上がって、俺の頭上へと飛んだ」
女「へぇ~……」
男「思えばあれがきっかけだな。あれで、俺も置き石で人を助けられるようになりたいと思ったんだ」
男「俺は子供の頃、置き石に救われたんだ」
女「置き石に……?」
男「子供の頃、俺が歩いてると、坂道の上から荷物の入った台車が猛スピードで転がってきてな」
男「当たったら大怪我は免れない。反応も遅れて、もう避けられないと思った。そしたら――」
おっさん『ふんぬ!!!』ドンッ
男「見ず知らずのおっさんが石を置いた。すると、台車は石でハネ上がって、俺の頭上へと飛んだ」
女「へぇ~……」
男「思えばあれがきっかけだな。あれで、俺も置き石で人を助けられるようになりたいと思ったんだ」
女「なにか……目標みたいなものはあるんですか?」
男「“石兵八陣”を作ってみたい」
女「石兵八陣?」
男「『三国志演義』に出てくる孔明っているだろ?」
女「はい、軍師さんですよね」
男「彼が石で作った陣でね。一度入ったら出られず、突風や波が起こるという恐ろしい陣だ」
男「人を入れるわけにはいかないが、ああいうのを作ってみたいな」
女「作ったら私が一番に入ります!」
男「いや、だから入ったら危ないって」
男「“石兵八陣”を作ってみたい」
女「石兵八陣?」
男「『三国志演義』に出てくる孔明っているだろ?」
女「はい、軍師さんですよね」
男「彼が石で作った陣でね。一度入ったら出られず、突風や波が起こるという恐ろしい陣だ」
男「人を入れるわけにはいかないが、ああいうのを作ってみたいな」
女「作ったら私が一番に入ります!」
男「いや、だから入ったら危ないって」
男「それと、ストーンヘンジを見てみたい」
女「イギリスにある遺跡ですね」
男「うん、世界文化遺産にもなってる」
男「祭祀や礼拝に使われたとされるが、生で見て、あれを作った人は何を想ったのか、感じてみたい」
女「ぜひ一緒に行きましょう!」
男「…………」
女「あ、すみません……! つい……!」
男「いや、行くとしたら、あんたと一緒に行きたいな。海外に一人で行くのは心細いし」
女「はいっ!」
女「イギリスにある遺跡ですね」
男「うん、世界文化遺産にもなってる」
男「祭祀や礼拝に使われたとされるが、生で見て、あれを作った人は何を想ったのか、感じてみたい」
女「ぜひ一緒に行きましょう!」
男「…………」
女「あ、すみません……! つい……!」
男「いや、行くとしたら、あんたと一緒に行きたいな。海外に一人で行くのは心細いし」
女「はいっ!」
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