元スレ運転士「電車が脱線するぅぅぅ!!!」男「よし……置き石成功!」
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1 :
ガタンゴトン… ガタンゴトン…
運転士「……ん?」
ガクンッ
運転士「うわああああ! 電車が脱線するぅぅぅ!!!」
ガクガクガクガクガク…
ズズゥン…
男「よし……置き石成功!」
2 :
女の子「この置き石のおかげで助かりました!」
3 :
内房線の脱線事故か
4 :
京都民「置き石は車飛び込み対策に必須どすえ」
5 = 1 :
……
女(この辺りによく出没するって聞いたけど……)
女(いた!)
男「…………」ヒョイッ
男「…………」ヒョイッヒョイッ
女(石を何段も器用に積み上げてる……。登山者がよくやる……ケルン、だっけ? あれみたいに……)
女「あ、あのっ!」
男「……ん?」
女「あなたは“置き石の達人”って聞きました。そうなんですか?」
男「その通りだが」
女「!」
6 :
列車の脱線転覆は基本死人が出たら死刑だからな
脱線しなくて怪我人が出なくても初犯で1発実刑
執行猶予なし
7 = 1 :
女「先日の電車脱線事故……ご存じですか」
男「ああ、知ってる」
女「怪我人が十数人出て、あわや近隣民家に電車が突っ込むかもという大惨事でした」
女「あなたは……あの事故に関与していますか?」
男「…………」
男「してるよ」
女「…………ッ!」
8 = 1 :
女「あの電車を運転してたのは……私の父でした」
女「事故の時、頭を打って……まだ入院しています。今まで一度も事故なんて起こしたことなかったのに……」
女「これを聞いて、どう思いますか!?」
男「すまないことをした、と思ってる」
女「許せないッ!」
男「許せないならどうするんだ」
女「私があなたを成敗します! この≪のびーる棒≫で!」バッ
奇妙な模様が描かれた棒を取り出す。
9 :
置き石は犯罪なので
子供がやるいたずらの中でも最上クラスよ
10 = 1 :
女「てやーっ!」
男(全然届いてないじゃないか――)
パコーンッ!
男「いてっ!」
女「ふふふ、どうです!」
男(なんだ、今のは……!?)
男(棒自体は長くなってないのに、急に棒が伸びたような――)
女「さあ、これ以上殴られたくなければ、自首しなさい!」
男「…………」
11 = 1 :
男「ちょっと待ってくれ」
女「へ?」
男「俺はこれから用事があってな。どうしても外せない用事なんだ」
女「用事?」
男「悪いが、あんたと話すのはそれからでいいか?」
女「いいですけど……逃げないようについていきますよ!」
男「もちろんだ」
12 = 1 :
―民家―
老人「おお、よく来てくれたのう」
男「じゃ、さっそく始めようか」
女(なにを始めるんだろう……?)
老人「今日はワシが勝つぞ」
男「なんの。このところ俺も腕を上げたからな」
女(勝負……? まさか、ギャンブルでもするつもり……!? 非合法の裏ギャンブルとか……)
13 = 1 :
男「右上スミ小目」パチッ
老人「よーし、ワシは……」パチッ
パチッ パチッ パチッ パチッ …
女(え~!? 囲碁が始まっちゃった!)
対局は進み――
老人「う~む、今日はワシの負けじゃ!」
男「こないだの借りを返せた。またやろうな、爺さん」
女(特にお金を賭けるわけでもなく普通に終わった……)
14 = 1 :
女「あのー、なぜ囲碁を?」
男「俺は置き石の達人だぞ? 囲碁ぐらい出来なきゃな」
男「まあ、俺の棋力は『ヒカルの碁』でいうと三谷ぐらいだろうが」
女「そうじゃなくて、あのお爺さんはなんなんですか!」
男「一人暮らしの爺さんだよ。ご家族を亡くして寂しいらしいから、時々囲碁の相手になってるんだ」
男「置き石の達人としてな」
女「…………!」
15 :
ダケさんには勝てないな
16 = 1 :
少年「あ、置き石の達人さん!」
男「おう、坊やか」
少年「僕、石蹴りを教えてもらったおかげで、サッカー上手くなってクラブに入れたんだ!」
男「そうか、よかったな」
少年「うん!」
女「彼は……?」
男「友達がいなかった子でな。俺が石蹴りを教えてやったら、みるみる才能が開花して……」
女「へえ……」
17 = 1 :
スタスタ…
女(うーん……。なんだか、とてもこの人が電車事故を引き起こすようには……)
キャーッ!
女「え!?」
主婦「誰かー! ひったくりよぉー!」
ひったくり「へっへっへ、俺の足には誰もついてこれんぜ!」タタタッ
ひったくり「どけ! どけぇ!」ドカッ! バキッ!
通行人を次々突き飛ばす。
女「こ、こっちに来ます!」
男「…………」
女「よーし、のびーる棒で……」
男「よせ、そんなんで倒せる相手じゃない」
18 = 1 :
男「ここかな」スッ…
石を置く。
女「え?」
ひったくり「今日も大儲けだ――え」ガッ
ひったくり「うおあぁっ!?」ズルッ
ドザァッ!
ひったくり「あいたたた……! こ、こけた……!」
男「カバンは返してもらうぞ」ヒョイッ
女(ひったくりの走るコースを計算して、“置き石”した……!)
19 = 1 :
男「俺の用件は済んだ。家に帰る前に、あんたとの話にケリをつけておきたい」
女「えっ、家あるんですか」
男「当たり前だろ。本業は石屋だしな」
女「…………」
女「今日少しだけあなたに付き合って、分かったことが一つあります」
女「あなたは電車事故を起こすような人じゃないと感じました」
男「ああ……俺があの事故を起こしたわけじゃない」
女「それじゃ、“関与した”というのはどういう意味です?」
20 = 1 :
男「俺は……“脱線した電車”に置き石したんだ。置き石して、軌道をずらした」
女「え、ってことは――」
女「もし、あなたが置き石してなければ、もっと被害は大きくなっていた……?」
男「あまり自分からいうことじゃないが、そうなってただろう」
男「死人は出てただろうし、電車は民家に突っ込んでたはずだ」
女「…………!」
女「ご、ごめんなさいっ! 私、さっきはなんてことを……!」
男「いや、俺だってハッキリ否定せず、誤解を招くような言い方したからお互い様だ」
男「それに俺の置き石がもっと上手くいってれば、怪我人すら出さなくて済んだだろう」
男「あんたは俺を殴る資格があったんだよ」
女(なんて人なの……)
21 = 1 :
男「それじゃ、今日は楽しかったよ」
スタスタ…
女「…………」
女はいつまでも男の後ろ姿を見つめていた――
…………
……
22 = 1 :
数日後――
女「こんにちは!」
男「あんたか。今日はどうしたんだ?」
女「この間のお詫びをしたくて……これ菓子折りです」
男「お詫びなんていいのに、律儀な人だ」
男「…………!」
男「これは……まるで鉱石みたいな菓子だな。こんなのあるんだ……」
女「インターネットで見つけて……こういうのお好きかなって」
男「大好きだよ! どうもありがとう!」
女(喜んでくれたみたい。よかった……)
23 :
まぁ本当はただ置き石しただけなんだけど笑
24 = 1 :
女「今日のお仕事は?」
男「ある屋敷の主人が、庭に石を置きたいっていうんだが」
男「どこに置けば石が一番映えるか、俺に見てもらいたいんだそうだ」
女「面白そう! 私もご一緒していいですか?」
男「いいとも」
女「置き石師としての腕の見せ所ですね!」
男「ああ、石の魅力を最大限に引き出してみせる」
25 = 1 :
―屋敷―
女「うわ……立派なお屋敷ですね!」
男「日本の古きよきお屋敷って感じだな」
主人「よく来てくれた。さっそく庭を見てもらいたいのだが……」
男「分かりました」
女「勉強させてもらいます!」
男は庭を歩き回りつつ、石をどこに置くか考える。
26 :
いいぞ
27 = 1 :
男「決めた」
男「ここはどうでしょう」ゴトッ
主人「おおっ!」
女(すごい……あそこに石を置いただけで、庭の景観ががらっと変わったような印象を受ける!)
主人「ありがとう……おかげで庭の景観がぐっと引き締まったよ!」
男「いえ、これが仕事ですから」
女「…………」
28 = 1 :
女「あの……」
主人「なんだね?」
女「石の近くにある砂……“砂紋”をつければもっと石が映えると思うんです」
主人「砂紋?」
女「道具で砂に線を引いて、波を描くんです」
男「そうか、枯山水みたいな感じか」
“枯山水”とは水を用いず砂や木のみで、山水を表現した庭園様式のことである。
女「いかがでしょう?」
主人「面白いかもしれん……やってみてくれたまえ」
29 = 1 :
石の周辺の砂に、砂紋を描く。
女「いかがでしょう?」
男(おおっ……)
主人「ううむ……さっきよりさらによくなった!」
主人「ただ漠然と広かっただけの庭が、たった一時で一流の庭園のような風格になったよ!」
主人「今日は君たち二人が来てくれて、本当によかった!」
男「どういたしまして」
女「ありがとうございます!」
30 = 1 :
男「今日はありがとう。俺の仕事を見てもらうどころか、より完璧に仕上げてもらってしまった」
女「いえ、余計なことをしてすみませんでした」
男「あの庭を見たら“余計なこと”だなんて誰もいえないよ」
男「あんたはひょっとして、なにか美術系の仕事をしてるのか?」
女「実は……イラストレーターをやってます」
男「やっぱりか」
女「よろしければ、作品をご覧になりますか」
31 = 1 :
スマホで自分のサイトを見せる。
女「主にトリックアートを生かした絵や商品を作ってまして」
男「トリックアートって、錯視を利用した騙し絵だよな。うん、どれも面白い」
男「あっ、もしかしてあの≪のびーる棒≫も!」
女「そうです。棒に模様を描いて、目の錯覚で棒が伸びたようになるんです」
男「独学か?」
女「いえ、ちゃんと師匠がいます」
女「あ、そうだ。よかったら今度、師匠の個展に行きませんか!」
男「面白そうだ」
32 = 1 :
―個展会場―
女「こちらです」
男「おおっ、早くもたくさんのトリックアートがある」
男「どれもこれもよく出来てるな……」
男(おっと、こんなところに花が)サッ
男「と思ったら、絵か……すごいな」
女「ここに来ると、私もすっかり騙されてしまいますよ。ちょくちょく絵が変わりますし」
33 :
この1こどものころに置き石やってそう
34 = 1 :
男「これはリアルな木目が描かれてるが、コンクリートの壁だな」
男「ここには窓があるが、実際にはなにもない。うむむむ……」
女「あ、あそこに師匠がいます! 師匠ー!」
男「聞こえてないみたいだな」
女「あれ? 師匠ー! もしもーし!」
男「ん? これ……ひょっとして絵じゃないか?」
女「あっ、ホントだ!」
「アーッハッハッハ! まんまと騙されてくれたようだねえ!」
男女「!」
35 = 1 :
画家「久しぶりだ! 我が愛する弟子よ!」
女「お久しぶりです!」
画家「そちらは?」
女「置き石の達人さんです」
画家「ほっほぉ~う、置きストーン! よろしく!」
男「初めまして」
画家「せっかく来て下さったんだ。ワタシのトロンプ・ルイユをたーっぷり楽しんでいってくれたまえ!」
男「トロンプ・ルイユ?」
女「フランス語で“目騙し”という意味で、トリックアートの正式名称のようなものです」
36 = 15 :
すごいのが出てきたな
37 = 1 :
女「師匠は日本におけるトリックアートの第一人者なんですよ」
女「今度日本で開かれる、≪ワールドアート展≫にも作品を出品するんです」
男「あの世界的な美術展の……」
画家「アッハッハ、大勢の客を騙せるかと思うと今から笑いが止まらないよ! アーッハッハッハッハ!」
男「…………」
男「ちょっと変わった人だな」ボソッ
女「まあ……なにしろ芸術家ですから」ヒソヒソ
38 = 1 :
男「お師匠さんの目から見て、彼女はどうですか?」
画家「ワタシはかつて弟子を一人破門して、それ以来弟子は取らないと決めてたのだけど」
画家「彼女の熱意に負けて、弟子入りを許してしまった!」
画家「よく努力してるし、素質もある! いい弟子を持ったよ、ワタシは!」
女「師匠……!」
男「よかったな」
女「はいっ!」
画家「なーんてね、トリックトーク! アーッハッハッハッハッハ!」
女「のびーる棒で殴っていいですかね」
男「やめとけ」
39 = 1 :
ひと通り展示を見て――
画家「最後に……ここに石ころがある」
男「!」
画家「置き石の達人なら、これをこの展示場のどこに置く? どこに置けばこの石が一番輝く?」
男「…………」
男「ここ……ですかね」コトッ
画家「!」
画家「なるほど……“置き石の達人”といわれるだけのことはあるようだ」
画家「今の置き方、置く位置だけで、君がどれだけの研鑽を積んできたかがよぉく分かった」
画家「このワタシが久々にマジフェイスになってしまったよ」
男「ありがとうございます」
女(ううむ、なにかレベルの高いやり取りが繰り広げられた、ってことだけは分かる!)
40 = 1 :
帰り道――
男「トリックアートをこんなに見たのは初めてだから、今歩いてる道も絵なんじゃって気分になってくるよ」
女「アハハ、分かります分かります」
男「あんたのお師匠さん、いい人だったな」
女「ええ、あの人のトリックアート愛は本物ですから」
男「ただし、だいぶ変わった人でもあるけど」
女「そこは否定しません」
41 = 1 :
……
男「今日はどこに行くんだ?」
女「父のお見舞いに行こうかと」
男「まだ具合が悪いのか?」
女「いえ、リハビリは順調ですよ。だけど、顔を見せておきたくって……」
男「なら俺も行くよ」
女「本当ですか? 嬉しいです!」
42 = 1 :
―病院―
女「お父さん、お見舞いに来たよ」
運転士「おお、ありがとう。さっきまで母さんも来てたよ」
女「それと……今日はもう一人連れてきたの」
運転士「連れ?」
男「どうも」
運転士「おおっ、置き石師さんじゃないか!」
女「えっ、知ってるの!?」
43 = 1 :
運転士「知ってるもなにも、彼はこれまでにも脱線事故を救ったことがある」
運転士「事故の起きやすい箇所を熟知していてね。鉄道業界においては救世主のような人なんだ」
運転士「警察や鉄道会社から、感謝状をもらったこともあるんだよ」
女「知らなかった……」
運転士「今回もあなたの置き石がなければ、私は死んでいたかもしれない。本当にありがとう」
男「いえ、俺が未熟だったせいで入院させてしまって……」
男「これからも置き石師として、精進します」
44 = 1 :
女「調子はどう?」
運転士「体はだいぶよくなってきた。もうすぐ退院できそうだよ」
女「よかった……」
運転士「早く復帰して、また電車を運転したいもんだよ」
女「うん、だけどあまり無茶しないでよ」
運転士「分かってる。ところで、お前たちは付き合ってるのか?」
女「え!? いや、そんなことないですよねえ!?」
男「あ、ああ。ただの知り合い……です」
運転士「そうか……これからも娘をよろしくお願いします」
45 = 1 :
病院を出た二人。
女「お父さん、元気そうでよかった……」
女「脱線事故を起こしたのに、復帰できそうだし……本当に運がいいというか」
男「いや……あれは“事故”なんかじゃない」
女「え? それってどういう……」
男「あの事故の原因は……“置き石”だ。電車側に非はないんだ」
男「あんたのお父さんは置き石のせいで脱線して、置き石で救われた」
男「分かりやすくいうと、二回置き石を喰らったってわけだ」
46 = 1 :
男「あんたのお父さんはギリギリで違和感を抱いてブレーキをかけたから」
男「俺でも助けられる程度の脱線で済んだが……」
男「もし、スピードを下げてなかったら、とんでもないことになってたかもしれない」
女「…………!」
男「犯行は極めて狡猾で悪質……これをやった奴はいずれ味をしめてまたやるだろう」
男「石は地球の恵みだ……眺めてるだけで楽しめる。それをこんな卑劣な犯罪に使うとは――」
男「許せない……!」
女「…………」ゾクッ
女(この人は……本当に石が好きなんだ……)
47 = 15 :
熱いな
48 = 1 :
女「そういえば聞きたかったんですけど、あなたはなぜ置き石師に?」
男「俺は子供の頃、置き石に救われたんだ」
女「置き石に……?」
男「子供の頃、俺が歩いてると、坂道の上から荷物の入った台車が猛スピードで転がってきてな」
男「当たったら大怪我は免れない。反応も遅れて、もう避けられないと思った。そしたら――」
おっさん『ふんぬ!!!』ドンッ
男「見ず知らずのおっさんが石を置いた。すると、台車は石でハネ上がって、俺の頭上へと飛んだ」
女「へぇ~……」
男「思えばあれがきっかけだな。あれで、俺も置き石で人を助けられるようになりたいと思ったんだ」
49 = 1 :
女「なにか……目標みたいなものはあるんですか?」
男「“石兵八陣”を作ってみたい」
女「石兵八陣?」
男「『三国志演義』に出てくる孔明っているだろ?」
女「はい、軍師さんですよね」
男「彼が石で作った陣でね。一度入ったら出られず、突風や波が起こるという恐ろしい陣だ」
男「人を入れるわけにはいかないが、ああいうのを作ってみたいな」
女「作ったら私が一番に入ります!」
男「いや、だから入ったら危ないって」
50 = 1 :
男「それと、ストーンヘンジを見てみたい」
女「イギリスにある遺跡ですね」
男「うん、世界文化遺産にもなってる」
男「祭祀や礼拝に使われたとされるが、生で見て、あれを作った人は何を想ったのか、感じてみたい」
女「ぜひ一緒に行きましょう!」
男「…………」
女「あ、すみません……! つい……!」
男「いや、行くとしたら、あんたと一緒に行きたいな。海外に一人で行くのは心細いし」
女「はいっ!」
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