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元スレモバP「杏なんて大嫌いだ」
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「仕事しろ」
「やだぁ、疲れたぁ」
「……」
俺はあまり大きくはないアイドル事務所で、プロデューサーをしている。
この仕事に就いたのは半年程前で、まだまだ新人だ。
俺は、夢を持つ人間が大嫌いだ。
アイドルなんかは言うまでもない。
こんな俺が、アイドルのプロデューサーなどをしてるのは、爺ちゃんのせいである。
それは半年程前、暑い夏の日だった。
「やだぁ、疲れたぁ」
「……」
俺はあまり大きくはないアイドル事務所で、プロデューサーをしている。
この仕事に就いたのは半年程前で、まだまだ新人だ。
俺は、夢を持つ人間が大嫌いだ。
アイドルなんかは言うまでもない。
こんな俺が、アイドルのプロデューサーなどをしてるのは、爺ちゃんのせいである。
それは半年程前、暑い夏の日だった。
******
ブーブー、ブーブー
「おい○○○、電話がなっているぞ。出なくていいのか?」
先輩が、箸を俺のポケットに向けて尋ねる。
俺は、ポケットから電話を出して液晶を覗いた。
そこには、爺ちゃんの名前が映されている。
爺ちゃんからとは珍しいな、電話をかけて来たのは初めてだ。
爺ちゃんと最後に喋ったのは、俺が大学に受かった時だったろうか。
「すみません、電話にでます」
先輩は弁当を、大きな口の中に流し込みながら言う。
「ひいよ、ひいよ。…おまへの肉、くっへもいい?」
俺は苦笑いで「どうぞ」と答えた。
ブーブー、ブーブー
「おい○○○、電話がなっているぞ。出なくていいのか?」
先輩が、箸を俺のポケットに向けて尋ねる。
俺は、ポケットから電話を出して液晶を覗いた。
そこには、爺ちゃんの名前が映されている。
爺ちゃんからとは珍しいな、電話をかけて来たのは初めてだ。
爺ちゃんと最後に喋ったのは、俺が大学に受かった時だったろうか。
「すみません、電話にでます」
先輩は弁当を、大きな口の中に流し込みながら言う。
「ひいよ、ひいよ。…おまへの肉、くっへもいい?」
俺は苦笑いで「どうぞ」と答えた。
「もしもし、爺ちゃん?久しぶり」
「おお、ワシの愛おしい愛おしい孫よ」
俺の記憶が正しければ、俺の爺さんは特に厳しい人ではなかった。
しかし、俺を気持ち悪いほど大事にしているわけでもなかった筈だ。
「何かいつもと違わない?」
「そうか?それよりも、大事な話があるんだ」
頼み事かよ。俺は、力の抜けた笑いを一つして、「なに?」と言う。
「アイドルのプロデューサーをしてみんか?」
その一言が、全ての始まりだった。
何でも元々いたプロデューサーが、過労で倒れて仕事を辞めてしまったらしい。
「おお、ワシの愛おしい愛おしい孫よ」
俺の記憶が正しければ、俺の爺さんは特に厳しい人ではなかった。
しかし、俺を気持ち悪いほど大事にしているわけでもなかった筈だ。
「何かいつもと違わない?」
「そうか?それよりも、大事な話があるんだ」
頼み事かよ。俺は、力の抜けた笑いを一つして、「なに?」と言う。
「アイドルのプロデューサーをしてみんか?」
その一言が、全ての始まりだった。
何でも元々いたプロデューサーが、過労で倒れて仕事を辞めてしまったらしい。
俺は即答した
「嫌だ、絶対に」
過労で倒れるような仕事を、孫に勧めるな。
そうでなくても、アイドルのプロデューサー?
そんなものは御免だ。
俺は強く断って、電話を切った。
しかし、爺ちゃんは諦めなかった。
「ただいまー」
「あら、おかえり。○○○」
家に帰ると、エプロンをした母さんが玄関まで出てきた。
俺は実家暮らしをしている。
別に親に甘えている訳ではない。家賃や光熱費は、俺が払っている。
「嫌だ、絶対に」
過労で倒れるような仕事を、孫に勧めるな。
そうでなくても、アイドルのプロデューサー?
そんなものは御免だ。
俺は強く断って、電話を切った。
しかし、爺ちゃんは諦めなかった。
「ただいまー」
「あら、おかえり。○○○」
家に帰ると、エプロンをした母さんが玄関まで出てきた。
俺は実家暮らしをしている。
別に親に甘えている訳ではない。家賃や光熱費は、俺が払っている。
>>4
しっ!今は黙ってなさい
しっ!今は黙ってなさい
俺には、父さんがいない。
俺が小さい頃にどこかへと消えたらしい。まだ小さかった頃なので良く覚えていない。
「何か臭くない?」
「え?」
母さんは、スンスンと匂いを嗅ぐ。
「確かに」
そう言って母さんは、首を少し傾げ臭いの原因を考える。
そして首を正常な角度に戻して、笑顔を浮かべた。
「フライパンの火を付けっぱなしだ」
「…ヤバくない?」
「うん、ヤバイ」
母さんは、パタパタと小さな足音を立てながら台所へと向かった。
俺が小さい頃にどこかへと消えたらしい。まだ小さかった頃なので良く覚えていない。
「何か臭くない?」
「え?」
母さんは、スンスンと匂いを嗅ぐ。
「確かに」
そう言って母さんは、首を少し傾げ臭いの原因を考える。
そして首を正常な角度に戻して、笑顔を浮かべた。
「フライパンの火を付けっぱなしだ」
「…ヤバくない?」
「うん、ヤバイ」
母さんは、パタパタと小さな足音を立てながら台所へと向かった。
母さんの小さな背中をみると、きっと俺の父親は大きかったのだろうなと思う。
じゃないと、俺みたいにのっぽな奴が産まれないだろう。
母さんは少し抜けている。
だから、母さんを一人暮らしさせるのは少し恐いのだ。
決して、マザコンではない。
靴箱を開けて、俺の大きな革靴と、母さんの小さな靴を納める。
ネクタイを緩めながら、スーツのままで台所に行く。
呆然と立っている、母さんに尋ねた。
「大丈夫?」
母さんは、フライパンを両手で持ち上げて、俺にフライパンの中身をみせた。
見事なまでに、まる焦げだ。
「…大、丈夫?」
と母さんは、困ったように笑っている。
じゃないと、俺みたいにのっぽな奴が産まれないだろう。
母さんは少し抜けている。
だから、母さんを一人暮らしさせるのは少し恐いのだ。
決して、マザコンではない。
靴箱を開けて、俺の大きな革靴と、母さんの小さな靴を納める。
ネクタイを緩めながら、スーツのままで台所に行く。
呆然と立っている、母さんに尋ねた。
「大丈夫?」
母さんは、フライパンを両手で持ち上げて、俺にフライパンの中身をみせた。
見事なまでに、まる焦げだ。
「…大、丈夫?」
と母さんは、困ったように笑っている。
どうやってこれを見ると、大丈夫な可能性があるように思うのだろうか。
「大丈夫じゃないな」
俺にそう言われ、フライパンをコンロの上に戻す。
「どうしよう?」
「出前でも頼むか」
俺は携帯で、近くで宅配をしてくれる店を探す。
「ごめんねぇ」
母さんは小さな体を、もっと小さくして謝る。
「いいよ、ただ危ないから気おつけてね」
二人で台所を片付けているうちに、出前が届いた。
「いただきまーす」
「いただきます」
母さんの希望により、届いた超巨大ピザを食べる。
母さんは変わったものが大好きだ。小豆コーラを買って来るような人間だ。
どうせすぐに食べれなくなって、俺に押し付けるのだからやめて欲しい。
「大丈夫じゃないな」
俺にそう言われ、フライパンをコンロの上に戻す。
「どうしよう?」
「出前でも頼むか」
俺は携帯で、近くで宅配をしてくれる店を探す。
「ごめんねぇ」
母さんは小さな体を、もっと小さくして謝る。
「いいよ、ただ危ないから気おつけてね」
二人で台所を片付けているうちに、出前が届いた。
「いただきまーす」
「いただきます」
母さんの希望により、届いた超巨大ピザを食べる。
母さんは変わったものが大好きだ。小豆コーラを買って来るような人間だ。
どうせすぐに食べれなくなって、俺に押し付けるのだからやめて欲しい。
「美味しいねー」
母さんは柔らかく笑う。
「うん」
「…思ったより大きいね」
やはり、俺が処理しなくてはいけないのだろう。
「あっ、そうだ」
「どしたの?」
「今日ね、お父さんから連絡があったの」
俺は思わずに、眉間にシワを寄せる。
「え?」
「どうしたの?恐い顔して」
「いや、…何だって?」
母さんは柔らかく笑う。
「うん」
「…思ったより大きいね」
やはり、俺が処理しなくてはいけないのだろう。
「あっ、そうだ」
「どしたの?」
「今日ね、お父さんから連絡があったの」
俺は思わずに、眉間にシワを寄せる。
「え?」
「どうしたの?恐い顔して」
「いや、…何だって?」
「アイドルのプロデューサーをして見ないかって?」
俺は即答した。
「嫌だ」
「何でいいじゃない。可愛い女の子と居れるのよ」
「俺はアイドルが嫌いだ」
「ふーん、残念。お母さんをプロデュースして欲しかったのに」
「…は?」
母さんは、手で口を覆いながら笑う。
「お父さんに勧められて、アイドルをする事になったの。年齢詐称すれば、大丈夫だからやってみないかって。面白そうだからやる事にしたの」
確かに、母さんは驚く程若く見える。若い、というよりも幼いと言う方が正しいだろう。
まず、実年齢がバレる事はない。
老け顔の俺と一緒にいると、母が妹だと思われてしまう事がある程だ。
「ごめん、ちょっとトイレ」
俺はトイレに入って、ジジイに電話をかけた。
「何だ?我が愛おしい愛お「おいっ、コラジジイ!!」
俺は即答した。
「嫌だ」
「何でいいじゃない。可愛い女の子と居れるのよ」
「俺はアイドルが嫌いだ」
「ふーん、残念。お母さんをプロデュースして欲しかったのに」
「…は?」
母さんは、手で口を覆いながら笑う。
「お父さんに勧められて、アイドルをする事になったの。年齢詐称すれば、大丈夫だからやってみないかって。面白そうだからやる事にしたの」
確かに、母さんは驚く程若く見える。若い、というよりも幼いと言う方が正しいだろう。
まず、実年齢がバレる事はない。
老け顔の俺と一緒にいると、母が妹だと思われてしまう事がある程だ。
「ごめん、ちょっとトイレ」
俺はトイレに入って、ジジイに電話をかけた。
「何だ?我が愛おしい愛お「おいっ、コラジジイ!!」
俺の怒声を浴びて、嬉しそうに言った。
「どうやら、話を聞いたようだな」
「母さんがアイドル何て、駄目にきまっているだろ!」
「マザコン野郎の愛おしい孫に選択肢をやろう。一、プロデューサーになる。二、大事なママをアイドルにする」
そうして、俺はプロデューサーになった。
俺は決してマザコンではない。
「どうやら、話を聞いたようだな」
「母さんがアイドル何て、駄目にきまっているだろ!」
「マザコン野郎の愛おしい孫に選択肢をやろう。一、プロデューサーになる。二、大事なママをアイドルにする」
そうして、俺はプロデューサーになった。
俺は決してマザコンではない。
******
プロデューサーを始めて半年程立つが、全く慣れる事はない。
それは、プロデューサーと言う名目ではあるが、実際の仕事は、マネージャーから何から全てをしなくてはいけない事が、一つの理由だろう。
そしてもう一つの理由は
「プロデューサーおはようにぃ☆今日も頑張るよ!きらりんパワー注入すぅ?」
俺に近い身長のある、諸星きらりが恐ろしい質問をする。
プロデューサーを始めて半年程立つが、全く慣れる事はない。
それは、プロデューサーと言う名目ではあるが、実際の仕事は、マネージャーから何から全てをしなくてはいけない事が、一つの理由だろう。
そしてもう一つの理由は
「プロデューサーおはようにぃ☆今日も頑張るよ!きらりんパワー注入すぅ?」
俺に近い身長のある、諸星きらりが恐ろしい質問をする。
「いや、いいです。それよりもスケジュールは確認したか?」
「バッチしだよお☆」
「ははっ、そうですか。…それでは」
きらりの前から逃げて、どうにか俺の机まで着いた。
「ふう」
「疲れているみたいですね。プロデューサー?」
「うおっ?!」
後ろをみると、佐久間まゆが微笑を浮かべていた。
「ははっ、すっ、少しね」
「へぇ、ところでプロデューサー。さっきはきらりさんと何を楽しそうに話してたんです?」
きらりは物理的なダメージを与ええてくるのに比べ、まゆは心理的なダメージを与えてくる。
「バッチしだよお☆」
「ははっ、そうですか。…それでは」
きらりの前から逃げて、どうにか俺の机まで着いた。
「ふう」
「疲れているみたいですね。プロデューサー?」
「うおっ?!」
後ろをみると、佐久間まゆが微笑を浮かべていた。
「ははっ、すっ、少しね」
「へぇ、ところでプロデューサー。さっきはきらりさんと何を楽しそうに話してたんです?」
きらりは物理的なダメージを与ええてくるのに比べ、まゆは心理的なダメージを与えてくる。
「い、いやあ、他愛のないはなしさあ」
「他愛のない話も、ぜーんぶ知りたいんです」
「あー、営業に行かないと行けないのを思い出した!」
俺は事務所に来て早速、営業へと逃げた。
扉を開けて、外に出ようと一歩踏み出すと、誰かにぶつかった。
「すまないっ」
「痛いなぁ、これはもう家に帰らなきゃ駄目だね」
俺が事務所で、最も嫌いなアイドルが倒れていた。
「他愛のない話も、ぜーんぶ知りたいんです」
「あー、営業に行かないと行けないのを思い出した!」
俺は事務所に来て早速、営業へと逃げた。
扉を開けて、外に出ようと一歩踏み出すと、誰かにぶつかった。
「すまないっ」
「痛いなぁ、これはもう家に帰らなきゃ駄目だね」
俺が事務所で、最も嫌いなアイドルが倒れていた。
俺はこの小さな体の可愛らしいアイドル、杏が大嫌いだ。
「すまない、少し慌てて」
俺が手を差し伸べると、何を思ったのか俺の手を掴まず、杏も手をこちらに差し出す。
「何だ?」
「飴ちょうだい」
子供のように無邪気な笑顔を浮かべて、飴をねだってきやがった。
「すまない、少し慌てて」
俺が手を差し伸べると、何を思ったのか俺の手を掴まず、杏も手をこちらに差し出す。
「何だ?」
「飴ちょうだい」
子供のように無邪気な笑顔を浮かべて、飴をねだってきやがった。
こちらからぶつかったので、渋々と飴を差し出した。
ロイヤルキャンディーという銘柄の、その名の通り高級な飴だ。
双葉杏が言う事を聞かない時に与えなくてはいけないので、常に胸ポケットにしまってある。
「へへっ」
杏は嬉しそうに飴を受け取ると、口の中に放り込んだ。
「それじゃ、行ってらっしゃい」
ロイヤルキャンディーという銘柄の、その名の通り高級な飴だ。
双葉杏が言う事を聞かない時に与えなくてはいけないので、常に胸ポケットにしまってある。
「へへっ」
杏は嬉しそうに飴を受け取ると、口の中に放り込んだ。
「それじゃ、行ってらっしゃい」
「ちゃんと仕事しろよ」
「分かってる、分かってる」
絶対に分かっていないが、言ったところでどうせ無駄なので諦めて営業へと向かった。
俺がいつまで経っても慣れないもう一つの理由は、この事務所のアイドル達が個性的過ぎるからだろう。
「分かってる、分かってる」
絶対に分かっていないが、言ったところでどうせ無駄なので諦めて営業へと向かった。
俺がいつまで経っても慣れないもう一つの理由は、この事務所のアイドル達が個性的過ぎるからだろう。
******
午後からは杏のLIVEがあるので、杏を迎えに事務所へ帰ってきた。
「営業から戻りました」
「お疲れ様です、プロデューサー」
事務員のちひろさんが笑顔で迎えてくれた。
しかし、この事務員も癖がある。
「疲れたでしょう。どうぞドリンクを、いつもより値下しますよ」
何かあると、ドリンクを買わせようとするのだ。
午後からは杏のLIVEがあるので、杏を迎えに事務所へ帰ってきた。
「営業から戻りました」
「お疲れ様です、プロデューサー」
事務員のちひろさんが笑顔で迎えてくれた。
しかし、この事務員も癖がある。
「疲れたでしょう。どうぞドリンクを、いつもより値下しますよ」
何かあると、ドリンクを買わせようとするのだ。
このドリンクというやつが、中々疲れをとってくれる。しかし、恐ろしく高いのだ。
「遠慮しときます」
「そうですか?じゃあ、私がいただきます」
ちひろさんは、ドリンクのキャップを開けると、ぐいっと一気に飲み干した。
「あーっ、生き返る!」
こちらをチラと見ながら微笑んでいる。
「遠慮しときます」
「そうですか?じゃあ、私がいただきます」
ちひろさんは、ドリンクのキャップを開けると、ぐいっと一気に飲み干した。
「あーっ、生き返る!」
こちらをチラと見ながら微笑んでいる。
「おい杏、LIVEに行くぞ」
早く事務所から出ないと、誘惑に負けてしまいそうだ。
「えー、疲れたぁ」
「何をしたというんだ」
「呼吸、あと食事、そういえば心臓もいっぱい動かしたなぁ」
この杏という奴は、とにかく働くのを嫌がる。
アイドルを目指したのだって、印税で一生働かなくていいようにという、冗談のような理由である。
早く事務所から出ないと、誘惑に負けてしまいそうだ。
「えー、疲れたぁ」
「何をしたというんだ」
「呼吸、あと食事、そういえば心臓もいっぱい動かしたなぁ」
この杏という奴は、とにかく働くのを嫌がる。
アイドルを目指したのだって、印税で一生働かなくていいようにという、冗談のような理由である。
しかし、ポテンシャルはかなり高く事務所で一番売れている。
俺は杏のふざけた夢も、そのふざけた夢を叶えようとするふざけたパワーも、高い能力を活かそうとしない所も大嫌いだ。
「ほら、早く行くぞ」
俺は杏を背負って無理矢理、車に連れて行った。
「いやー、誘拐だー」
「黙れ」
俺は杏のふざけた夢も、そのふざけた夢を叶えようとするふざけたパワーも、高い能力を活かそうとしない所も大嫌いだ。
「ほら、早く行くぞ」
俺は杏を背負って無理矢理、車に連れて行った。
「いやー、誘拐だー」
「黙れ」
******
杏は大きなステージなのに、殆ど動く事なくライブをしている。
杏のライブには三畳ほどの場所があれば、十分過ぎるだろう。
殆ど動いていない、しかし観客の方は異常な程盛り上がっている。
杏は大きな動きこそしないが、観客が望んでいるパフォーマンスを理解して動いている。
観客が盛り下がらないように、加減をしながら分かるように手を抜く。
中々出来る芸当ではない。
杏は大きなステージなのに、殆ど動く事なくライブをしている。
杏のライブには三畳ほどの場所があれば、十分過ぎるだろう。
殆ど動いていない、しかし観客の方は異常な程盛り上がっている。
杏は大きな動きこそしないが、観客が望んでいるパフォーマンスを理解して動いている。
観客が盛り下がらないように、加減をしながら分かるように手を抜く。
中々出来る芸当ではない。
杏の小さな体は、青や赤、様々な色の照明に照らされて綺麗に輝いている。
小さな体を動かすと、それに合わせて会場が揺れる。
本当に綺麗だ。
そんな姿を見れば見る程、俺はこいつを嫌いになる。
俺は夢を持ち、輝いている奴が大嫌いだ。
これは嫉妬だ。
悪いのは俺だと理解している。
しかし、分かったからといってやめれるものでもない。
小さな体を動かすと、それに合わせて会場が揺れる。
本当に綺麗だ。
そんな姿を見れば見る程、俺はこいつを嫌いになる。
俺は夢を持ち、輝いている奴が大嫌いだ。
これは嫉妬だ。
悪いのは俺だと理解している。
しかし、分かったからといってやめれるものでもない。
そんな簡単に思いを変えれるのならば、きっと、貧富の差をなくす事も簡単であろう。
理解をしても変われない。
理解していても、安い服を買って安いハンバーガーを食べて、貧富の差を広げる。
俺が悪いと知りながらも、俺は杏を嫌うのだ。
夢を持ち、才能があり、輝いて見える杏が眩しくて、嫉妬する。
理解をしても変われない。
理解していても、安い服を買って安いハンバーガーを食べて、貧富の差を広げる。
俺が悪いと知りながらも、俺は杏を嫌うのだ。
夢を持ち、才能があり、輝いて見える杏が眩しくて、嫉妬する。
******
「はぁ、疲れたぁ」
助手席に座る杏は、もう何度目か分からないほど、繰り返しそう言った。
「もうすぐで、お前の家に着くから」
「んー、今日も部屋まで負ぶっていってね」
「はい、はい」
「プロデューサーは車を持ってないの?」
「はぁ、疲れたぁ」
助手席に座る杏は、もう何度目か分からないほど、繰り返しそう言った。
「もうすぐで、お前の家に着くから」
「んー、今日も部屋まで負ぶっていってね」
「はい、はい」
「プロデューサーは車を持ってないの?」
「持ってるけど、何で?」
「いつも、事務所の車しか使わないから」
「ああ、俺の車はタバコ臭いから。アイドルに臭いがついたら、いけないだろ。それに車で事務所に来るのは疲れる」
「吸うのをやめなよ」
「簡単にやめれないんだよ」
前の職場よりも、遥かにストレスが溜まるのに禁煙なんて出来るか。
「いつも、事務所の車しか使わないから」
「ああ、俺の車はタバコ臭いから。アイドルに臭いがついたら、いけないだろ。それに車で事務所に来るのは疲れる」
「吸うのをやめなよ」
「簡単にやめれないんだよ」
前の職場よりも、遥かにストレスが溜まるのに禁煙なんて出来るか。
杏の住むマンションに着いた。
俺はいつも停める位置へと車を停める。
本当は停めては駄目そうな位置だが、杏を背負う距離を少しでも減らしたい。
いくら軽いといっても、やはり疲れるのだ。
「杏、鍵出せ」
「ん」
杏から鍵を受け取って、扉を開ける。
俺はいつも停める位置へと車を停める。
本当は停めては駄目そうな位置だが、杏を背負う距離を少しでも減らしたい。
いくら軽いといっても、やはり疲れるのだ。
「杏、鍵出せ」
「ん」
杏から鍵を受け取って、扉を開ける。
杏を背負ったままで、自分の靴と杏の靴を脱がせる。
奥の、杏の寝る部屋へと歩く。
一番奥の部屋なので、いくつかの部屋を過ぎる。
どの部屋も暗くて静かだ、そして静けさを強めるような、冷んやりとした空気が広がっている。
一人暮らしをした事がないので、こういう空間に暮らす事がいまいちイメージ出来ない。
奥の部屋に辿り着くと、杏をベッドへと放り投げた。
奥の、杏の寝る部屋へと歩く。
一番奥の部屋なので、いくつかの部屋を過ぎる。
どの部屋も暗くて静かだ、そして静けさを強めるような、冷んやりとした空気が広がっている。
一人暮らしをした事がないので、こういう空間に暮らす事がいまいちイメージ出来ない。
奥の部屋に辿り着くと、杏をベッドへと放り投げた。
「あう、…ありがとプロデューサー。じゃあね」
杏は顔をベッドに押し付けたまま、手をヒラヒラと振った。
杏はいつも疲れているが、いつも以上に疲れているように見える。
まぁ、気のせいか。
「じゃあな、明日もちゃんと来いよ。明日は朝からサイン会だからな」
杏は顔をベッドに押し付けたまま、手をヒラヒラと振った。
杏はいつも疲れているが、いつも以上に疲れているように見える。
まぁ、気のせいか。
「じゃあな、明日もちゃんと来いよ。明日は朝からサイン会だからな」
******
翌朝、杏は事務所に来なかった。
俺は慌てて杏の家に向かった。
「おい!杏!!起きてるか!」
ドアをどんどんと叩く。
しばらく叫んでいると、ガチャリと鍵の空く音がした。
俺は急いで扉を引く、しかしチェーンの鍵はついたままで、ガチャンっと引っかかった。
扉の隙間から中を伺う。
「杏?」
翌朝、杏は事務所に来なかった。
俺は慌てて杏の家に向かった。
「おい!杏!!起きてるか!」
ドアをどんどんと叩く。
しばらく叫んでいると、ガチャリと鍵の空く音がした。
俺は急いで扉を引く、しかしチェーンの鍵はついたままで、ガチャンっと引っかかった。
扉の隙間から中を伺う。
「杏?」
すると、怯えるようにこちらを杏が見ていた。
俺の顔を確認すると力無く笑った。
一体何を笑っているのだこいつは。
「おい!朝からサイン会だって言ったろ」
つい声を荒げて怒ってしまう。
杏はチェーンも外して、外に出てきた。
怒る俺に対して、何か不満がありそうだったが不満を出さずに、「ごめん」と呟いた。
俺の顔を確認すると力無く笑った。
一体何を笑っているのだこいつは。
「おい!朝からサイン会だって言ったろ」
つい声を荒げて怒ってしまう。
杏はチェーンも外して、外に出てきた。
怒る俺に対して、何か不満がありそうだったが不満を出さずに、「ごめん」と呟いた。
「もう、いいよ。急いでサイン会に向かうぞ」
仕事場に着くと、しょげていた杏は切り替えて、いつもの気怠い雰囲気でファン達に。
「ごめん、ごめん。寝坊した」
と謝った。少しヒヤリとしたが、ファン達にウケてどうにかなった。
サイン会が終わると、急いで杏を車に連れ込んだ。
少し気になることがあったのだ。
「杏、お前何か隠してないか?」
「何かって」
仕事場に着くと、しょげていた杏は切り替えて、いつもの気怠い雰囲気でファン達に。
「ごめん、ごめん。寝坊した」
と謝った。少しヒヤリとしたが、ファン達にウケてどうにかなった。
サイン会が終わると、急いで杏を車に連れ込んだ。
少し気になることがあったのだ。
「杏、お前何か隠してないか?」
「何かって」
「何かだよ。お前、最近いつも以上に変だぞ」
「別に…気のせいじゃない」
杏はふざけるように笑った。でも、目には明らかに疲労の色がある。
何かを隠しているのだろう。
でもこれ以上聞いても、誤魔化されてしまうだけだろう。
「どうにもならなかったら、俺に言えよ」
「大丈夫だって」
「別に…気のせいじゃない」
杏はふざけるように笑った。でも、目には明らかに疲労の色がある。
何かを隠しているのだろう。
でもこれ以上聞いても、誤魔化されてしまうだけだろう。
「どうにもならなかったら、俺に言えよ」
「大丈夫だって」
******
俺が書類を書き終え、体を伸ばしていると、ちひろさんが俺の机にお茶を置いてくれた。
ゴツゴツしていて、歪な形をしている湯飲みだ。
俺は見る目が無いので、これが良いものか悪いものかは良く分からない。
「お疲れ様です」
「ありがとうございます」
ちひろさんはドリンクを買わせようとしなければ、良い人なんだが。
オッパイも大きいし。
俺が書類を書き終え、体を伸ばしていると、ちひろさんが俺の机にお茶を置いてくれた。
ゴツゴツしていて、歪な形をしている湯飲みだ。
俺は見る目が無いので、これが良いものか悪いものかは良く分からない。
「お疲れ様です」
「ありがとうございます」
ちひろさんはドリンクを買わせようとしなければ、良い人なんだが。
オッパイも大きいし。
「最近の杏ちゃん、何だかおかしくないですか?」
やはり他の人から見ても、最近の杏はおかしいようだ。
「ですよね、何かありそうなんですけど教えてくれないんです」
「プロデューサーにも話してくれないんですか」
ちひろさんは眉をしかめる。
「何だか俺と杏が仲良いみたいに聞こえますよ」
思わずに俺は苦笑する。
やはり他の人から見ても、最近の杏はおかしいようだ。
「ですよね、何かありそうなんですけど教えてくれないんです」
「プロデューサーにも話してくれないんですか」
ちひろさんは眉をしかめる。
「何だか俺と杏が仲良いみたいに聞こえますよ」
思わずに俺は苦笑する。
俺と杏ほど噛み合わない奴はいないだろう。
「違うんですか、杏ちゃんは嫌いですか?」
というよりも、アイドルが嫌いです。
なんて事を言える訳も無く、適当に答える。
「嫌いじゃないですよ、でも俺と杏って凸凹じゃないですか。外見も内面も」
自分で言うのもアレだが、俺は真面目な方だと思う。
杏とは正反対の性格だ。
「だから噛み合うんですよ」
ちひろさんは何故か満面の笑みで答えた。
一体何がそんなに嬉しいのだろうか。
「違うんですか、杏ちゃんは嫌いですか?」
というよりも、アイドルが嫌いです。
なんて事を言える訳も無く、適当に答える。
「嫌いじゃないですよ、でも俺と杏って凸凹じゃないですか。外見も内面も」
自分で言うのもアレだが、俺は真面目な方だと思う。
杏とは正反対の性格だ。
「だから噛み合うんですよ」
ちひろさんは何故か満面の笑みで答えた。
一体何がそんなに嬉しいのだろうか。
*******
息を深く吸う。
肺に、汚れた空気が溜まるのが分かる。
「ふうーっ」
肺の中に溜まったものを、全て吐き出す。
俺の中から出てきた空気は、周りの空気と比べ明らかに異質な色をしている。
俺の作り出したものだと一目で区別がつく。
すると、汚れている空気が、不思議と愛おしいような気がした。
息を深く吸う。
肺に、汚れた空気が溜まるのが分かる。
「ふうーっ」
肺の中に溜まったものを、全て吐き出す。
俺の中から出てきた空気は、周りの空気と比べ明らかに異質な色をしている。
俺の作り出したものだと一目で区別がつく。
すると、汚れている空気が、不思議と愛おしいような気がした。
手を伸ばして掴んで見る。
空気は空気と混ざり合って、溶けてしまう。
握った掌を開けてみても、俺の空気は消えていた。
杏は何かを隠している。
きっと、大事な事だろう。
何故話さないのだ。俺はプロデューサーだぞ。
杏には話す義務があると思う。
何だか腹が立ってきた。
もしも、また仕事に支障が出たらどうするのだ。
俺に迷惑がかかるだけなら良いが、うちはまだ小さな事務所だ。
他のアイドル達にも迷惑がかかるかもしれない。
空気は空気と混ざり合って、溶けてしまう。
握った掌を開けてみても、俺の空気は消えていた。
杏は何かを隠している。
きっと、大事な事だろう。
何故話さないのだ。俺はプロデューサーだぞ。
杏には話す義務があると思う。
何だか腹が立ってきた。
もしも、また仕事に支障が出たらどうするのだ。
俺に迷惑がかかるだけなら良いが、うちはまだ小さな事務所だ。
他のアイドル達にも迷惑がかかるかもしれない。
プロデューサーを辞めたくて仕方が無いのに、こんな事を考えるのはやはり、俺は真面目なのだろう。
真面目に生きるしかないからな。
夢なんて無いし、何も無い。
何にも無い、真面目に普通に、それ以外の生き方など分からない。
別に真面目に生きたく無い、それしか俺には出来ないだけだ。
息を深く吸う。
息を深く吐く。
白い空気が闇に浮かぶ。
「あーっ、ムカつく。プロデューサー辞めてぇ」
やはり、白は黒に溶けてしまった。
真面目に生きるしかないからな。
夢なんて無いし、何も無い。
何にも無い、真面目に普通に、それ以外の生き方など分からない。
別に真面目に生きたく無い、それしか俺には出来ないだけだ。
息を深く吸う。
息を深く吐く。
白い空気が闇に浮かぶ。
「あーっ、ムカつく。プロデューサー辞めてぇ」
やはり、白は黒に溶けてしまった。
******
今日は憂鬱だ。
プロデューサーを始めてからは毎日が憂鬱だが、今日は一段と憂鬱な日だ。
今日は杏の大きなライブがある。
今日もまた、俺は杏を嫌いになるだろう。
「入るぞー」
杏の楽屋のドアをノックする。
杏の慌てた声が返って来る。
「ダメッ、ちょっと待って」
今日は憂鬱だ。
プロデューサーを始めてからは毎日が憂鬱だが、今日は一段と憂鬱な日だ。
今日は杏の大きなライブがある。
今日もまた、俺は杏を嫌いになるだろう。
「入るぞー」
杏の楽屋のドアをノックする。
杏の慌てた声が返って来る。
「ダメッ、ちょっと待って」
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