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    元スレモバP「杏なんて大嫌いだ」

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    タグ : - アイドルマスター + - モバマス + - 双葉杏 + 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。
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    1 :

    「仕事しろ」

    「やだぁ、疲れたぁ」

    「……」

    俺はあまり大きくはないアイドル事務所で、プロデューサーをしている。
    この仕事に就いたのは半年程前で、まだまだ新人だ。

    俺は、夢を持つ人間が大嫌いだ。
    アイドルなんかは言うまでもない。
    こんな俺が、アイドルのプロデューサーなどをしてるのは、爺ちゃんのせいである。
    それは半年程前、暑い夏の日だった。

    2 = 1 :

    ******

    ブーブー、ブーブー

    「おい○○○、電話がなっているぞ。出なくていいのか?」

    先輩が、箸を俺のポケットに向けて尋ねる。
    俺は、ポケットから電話を出して液晶を覗いた。
    そこには、爺ちゃんの名前が映されている。
    爺ちゃんからとは珍しいな、電話をかけて来たのは初めてだ。
    爺ちゃんと最後に喋ったのは、俺が大学に受かった時だったろうか。

    「すみません、電話にでます」

    先輩は弁当を、大きな口の中に流し込みながら言う。

    「ひいよ、ひいよ。…おまへの肉、くっへもいい?」

    俺は苦笑いで「どうぞ」と答えた。

    3 = 1 :

    「もしもし、爺ちゃん?久しぶり」

    「おお、ワシの愛おしい愛おしい孫よ」

    俺の記憶が正しければ、俺の爺さんは特に厳しい人ではなかった。
    しかし、俺を気持ち悪いほど大事にしているわけでもなかった筈だ。

    「何かいつもと違わない?」

    「そうか?それよりも、大事な話があるんだ」

    頼み事かよ。俺は、力の抜けた笑いを一つして、「なに?」と言う。

    「アイドルのプロデューサーをしてみんか?」


    その一言が、全ての始まりだった。
    何でも元々いたプロデューサーが、過労で倒れて仕事を辞めてしまったらしい。

    4 :

    あ、なんか気持ち悪い

    5 = 1 :

    俺は即答した

    「嫌だ、絶対に」

    過労で倒れるような仕事を、孫に勧めるな。
    そうでなくても、アイドルのプロデューサー?
    そんなものは御免だ。
    俺は強く断って、電話を切った。

    しかし、爺ちゃんは諦めなかった。

    「ただいまー」

    「あら、おかえり。○○○」

    家に帰ると、エプロンをした母さんが玄関まで出てきた。
    俺は実家暮らしをしている。
    別に親に甘えている訳ではない。家賃や光熱費は、俺が払っている。

    6 :

    >>4
    しっ!今は黙ってなさい

    7 = 1 :

    俺には、父さんがいない。
    俺が小さい頃にどこかへと消えたらしい。まだ小さかった頃なので良く覚えていない。

    「何か臭くない?」

    「え?」

    母さんは、スンスンと匂いを嗅ぐ。

    「確かに」

    そう言って母さんは、首を少し傾げ臭いの原因を考える。
    そして首を正常な角度に戻して、笑顔を浮かべた。

    「フライパンの火を付けっぱなしだ」

    「…ヤバくない?」

    「うん、ヤバイ」

    母さんは、パタパタと小さな足音を立てながら台所へと向かった。

    8 = 1 :

    母さんの小さな背中をみると、きっと俺の父親は大きかったのだろうなと思う。
    じゃないと、俺みたいにのっぽな奴が産まれないだろう。

    母さんは少し抜けている。
    だから、母さんを一人暮らしさせるのは少し恐いのだ。
    決して、マザコンではない。

    靴箱を開けて、俺の大きな革靴と、母さんの小さな靴を納める。
    ネクタイを緩めながら、スーツのままで台所に行く。
    呆然と立っている、母さんに尋ねた。

    「大丈夫?」

    母さんは、フライパンを両手で持ち上げて、俺にフライパンの中身をみせた。
    見事なまでに、まる焦げだ。

    「…大、丈夫?」

    と母さんは、困ったように笑っている。

    9 = 1 :

    どうやってこれを見ると、大丈夫な可能性があるように思うのだろうか。

    「大丈夫じゃないな」

    俺にそう言われ、フライパンをコンロの上に戻す。

    「どうしよう?」

    「出前でも頼むか」

    俺は携帯で、近くで宅配をしてくれる店を探す。

    「ごめんねぇ」

    母さんは小さな体を、もっと小さくして謝る。

    「いいよ、ただ危ないから気おつけてね」

    二人で台所を片付けているうちに、出前が届いた。

    「いただきまーす」

    「いただきます」

    母さんの希望により、届いた超巨大ピザを食べる。
    母さんは変わったものが大好きだ。小豆コーラを買って来るような人間だ。
    どうせすぐに食べれなくなって、俺に押し付けるのだからやめて欲しい。

    10 = 1 :

    「美味しいねー」

    母さんは柔らかく笑う。

    「うん」

    「…思ったより大きいね」

    やはり、俺が処理しなくてはいけないのだろう。

    「あっ、そうだ」

    「どしたの?」

    「今日ね、お父さんから連絡があったの」

    俺は思わずに、眉間にシワを寄せる。

    「え?」

    「どうしたの?恐い顔して」

    「いや、…何だって?」

    11 :

    この部分は必要なの

    12 = 1 :

    「アイドルのプロデューサーをして見ないかって?」

    俺は即答した。

    「嫌だ」

    「何でいいじゃない。可愛い女の子と居れるのよ」

    「俺はアイドルが嫌いだ」

    「ふーん、残念。お母さんをプロデュースして欲しかったのに」

    「…は?」

    母さんは、手で口を覆いながら笑う。

    「お父さんに勧められて、アイドルをする事になったの。年齢詐称すれば、大丈夫だからやってみないかって。面白そうだからやる事にしたの」

    確かに、母さんは驚く程若く見える。若い、というよりも幼いと言う方が正しいだろう。
    まず、実年齢がバレる事はない。
    老け顔の俺と一緒にいると、母が妹だと思われてしまう事がある程だ。

    「ごめん、ちょっとトイレ」

    俺はトイレに入って、ジジイに電話をかけた。

    「何だ?我が愛おしい愛お「おいっ、コラジジイ!!」

    13 = 1 :

    俺の怒声を浴びて、嬉しそうに言った。

    「どうやら、話を聞いたようだな」

    「母さんがアイドル何て、駄目にきまっているだろ!」

    「マザコン野郎の愛おしい孫に選択肢をやろう。一、プロデューサーになる。二、大事なママをアイドルにする」


    そうして、俺はプロデューサーになった。
    俺は決してマザコンではない。

    14 = 1 :

    ******

    プロデューサーを始めて半年程立つが、全く慣れる事はない。
    それは、プロデューサーと言う名目ではあるが、実際の仕事は、マネージャーから何から全てをしなくてはいけない事が、一つの理由だろう。
    そしてもう一つの理由は

    「プロデューサーおはようにぃ☆今日も頑張るよ!きらりんパワー注入すぅ?」

    俺に近い身長のある、諸星きらりが恐ろしい質問をする。

    16 = 1 :

    「いや、いいです。それよりもスケジュールは確認したか?」

    「バッチしだよお☆」

    「ははっ、そうですか。…それでは」

    きらりの前から逃げて、どうにか俺の机まで着いた。

    「ふう」

    「疲れているみたいですね。プロデューサー?」

    「うおっ?!」

    後ろをみると、佐久間まゆが微笑を浮かべていた。

    「ははっ、すっ、少しね」

    「へぇ、ところでプロデューサー。さっきはきらりさんと何を楽しそうに話してたんです?」

    きらりは物理的なダメージを与ええてくるのに比べ、まゆは心理的なダメージを与えてくる。

    17 = 1 :

    「い、いやあ、他愛のないはなしさあ」

    「他愛のない話も、ぜーんぶ知りたいんです」

    「あー、営業に行かないと行けないのを思い出した!」

    俺は事務所に来て早速、営業へと逃げた。
    扉を開けて、外に出ようと一歩踏み出すと、誰かにぶつかった。

    「すまないっ」

    「痛いなぁ、これはもう家に帰らなきゃ駄目だね」

    俺が事務所で、最も嫌いなアイドルが倒れていた。

    18 = 1 :

    俺はこの小さな体の可愛らしいアイドル、杏が大嫌いだ。

    「すまない、少し慌てて」

    俺が手を差し伸べると、何を思ったのか俺の手を掴まず、杏も手をこちらに差し出す。

    「何だ?」

    「飴ちょうだい」

    子供のように無邪気な笑顔を浮かべて、飴をねだってきやがった。

    19 = 1 :

    こちらからぶつかったので、渋々と飴を差し出した。
    ロイヤルキャンディーという銘柄の、その名の通り高級な飴だ。
    双葉杏が言う事を聞かない時に与えなくてはいけないので、常に胸ポケットにしまってある。

    「へへっ」

    杏は嬉しそうに飴を受け取ると、口の中に放り込んだ。

    「それじゃ、行ってらっしゃい」

    20 = 1 :

    「ちゃんと仕事しろよ」

    「分かってる、分かってる」

    絶対に分かっていないが、言ったところでどうせ無駄なので諦めて営業へと向かった。

    俺がいつまで経っても慣れないもう一つの理由は、この事務所のアイドル達が個性的過ぎるからだろう。

    21 :

    かわいい

    22 = 1 :

    ******

    午後からは杏のLIVEがあるので、杏を迎えに事務所へ帰ってきた。

    「営業から戻りました」

    「お疲れ様です、プロデューサー」

    事務員のちひろさんが笑顔で迎えてくれた。
    しかし、この事務員も癖がある。

    「疲れたでしょう。どうぞドリンクを、いつもより値下しますよ」

    何かあると、ドリンクを買わせようとするのだ。

    23 = 1 :

    このドリンクというやつが、中々疲れをとってくれる。しかし、恐ろしく高いのだ。

    「遠慮しときます」

    「そうですか?じゃあ、私がいただきます」

    ちひろさんは、ドリンクのキャップを開けると、ぐいっと一気に飲み干した。

    「あーっ、生き返る!」

    こちらをチラと見ながら微笑んでいる。

    24 = 1 :

    「おい杏、LIVEに行くぞ」

    早く事務所から出ないと、誘惑に負けてしまいそうだ。

    「えー、疲れたぁ」

    「何をしたというんだ」

    「呼吸、あと食事、そういえば心臓もいっぱい動かしたなぁ」

    この杏という奴は、とにかく働くのを嫌がる。
    アイドルを目指したのだって、印税で一生働かなくていいようにという、冗談のような理由である。

    26 = 1 :

    しかし、ポテンシャルはかなり高く事務所で一番売れている。
    俺は杏のふざけた夢も、そのふざけた夢を叶えようとするふざけたパワーも、高い能力を活かそうとしない所も大嫌いだ。

    「ほら、早く行くぞ」

    俺は杏を背負って無理矢理、車に連れて行った。

    「いやー、誘拐だー」

    「黙れ」

    27 = 1 :

    ******

    杏は大きなステージなのに、殆ど動く事なくライブをしている。
    杏のライブには三畳ほどの場所があれば、十分過ぎるだろう。
    殆ど動いていない、しかし観客の方は異常な程盛り上がっている。
    杏は大きな動きこそしないが、観客が望んでいるパフォーマンスを理解して動いている。
    観客が盛り下がらないように、加減をしながら分かるように手を抜く。
    中々出来る芸当ではない。

    28 = 1 :

    杏の小さな体は、青や赤、様々な色の照明に照らされて綺麗に輝いている。
    小さな体を動かすと、それに合わせて会場が揺れる。

    本当に綺麗だ。

    そんな姿を見れば見る程、俺はこいつを嫌いになる。
    俺は夢を持ち、輝いている奴が大嫌いだ。

    これは嫉妬だ。
    悪いのは俺だと理解している。
    しかし、分かったからといってやめれるものでもない。

    29 = 1 :

    そんな簡単に思いを変えれるのならば、きっと、貧富の差をなくす事も簡単であろう。
    理解をしても変われない。
    理解していても、安い服を買って安いハンバーガーを食べて、貧富の差を広げる。

    俺が悪いと知りながらも、俺は杏を嫌うのだ。

    夢を持ち、才能があり、輝いて見える杏が眩しくて、嫉妬する。

    30 = 1 :

    ******

    「はぁ、疲れたぁ」

    助手席に座る杏は、もう何度目か分からないほど、繰り返しそう言った。

    「もうすぐで、お前の家に着くから」

    「んー、今日も部屋まで負ぶっていってね」

    「はい、はい」

    「プロデューサーは車を持ってないの?」

    31 :

    もうちょい間隔開けたほうがいいかも

    34 = 1 :

    「持ってるけど、何で?」

    「いつも、事務所の車しか使わないから」

    「ああ、俺の車はタバコ臭いから。アイドルに臭いがついたら、いけないだろ。それに車で事務所に来るのは疲れる」


    「吸うのをやめなよ」

    「簡単にやめれないんだよ」

    前の職場よりも、遥かにストレスが溜まるのに禁煙なんて出来るか。

    36 = 1 :

    杏の住むマンションに着いた。
    俺はいつも停める位置へと車を停める。
    本当は停めては駄目そうな位置だが、杏を背負う距離を少しでも減らしたい。
    いくら軽いといっても、やはり疲れるのだ。


    「杏、鍵出せ」

    「ん」

    杏から鍵を受け取って、扉を開ける。

    37 = 1 :

    杏を背負ったままで、自分の靴と杏の靴を脱がせる。

    奥の、杏の寝る部屋へと歩く。
    一番奥の部屋なので、いくつかの部屋を過ぎる。
    どの部屋も暗くて静かだ、そして静けさを強めるような、冷んやりとした空気が広がっている。

    一人暮らしをした事がないので、こういう空間に暮らす事がいまいちイメージ出来ない。

    奥の部屋に辿り着くと、杏をベッドへと放り投げた。

    38 = 1 :

    「あう、…ありがとプロデューサー。じゃあね」

    杏は顔をベッドに押し付けたまま、手をヒラヒラと振った。
    杏はいつも疲れているが、いつも以上に疲れているように見える。
    まぁ、気のせいか。

    「じゃあな、明日もちゃんと来いよ。明日は朝からサイン会だからな」

    39 = 1 :

    ******

    翌朝、杏は事務所に来なかった。
    俺は慌てて杏の家に向かった。

    「おい!杏!!起きてるか!」

    ドアをどんどんと叩く。
    しばらく叫んでいると、ガチャリと鍵の空く音がした。
    俺は急いで扉を引く、しかしチェーンの鍵はついたままで、ガチャンっと引っかかった。

    扉の隙間から中を伺う。

    「杏?」

    40 = 1 :

    すると、怯えるようにこちらを杏が見ていた。
    俺の顔を確認すると力無く笑った。
    一体何を笑っているのだこいつは。

    「おい!朝からサイン会だって言ったろ」

    つい声を荒げて怒ってしまう。
    杏はチェーンも外して、外に出てきた。
    怒る俺に対して、何か不満がありそうだったが不満を出さずに、「ごめん」と呟いた。

    41 = 1 :

    「もう、いいよ。急いでサイン会に向かうぞ」

    仕事場に着くと、しょげていた杏は切り替えて、いつもの気怠い雰囲気でファン達に。

    「ごめん、ごめん。寝坊した」

    と謝った。少しヒヤリとしたが、ファン達にウケてどうにかなった。

    サイン会が終わると、急いで杏を車に連れ込んだ。
    少し気になることがあったのだ。

    「杏、お前何か隠してないか?」

    「何かって」

    42 = 1 :

    「何かだよ。お前、最近いつも以上に変だぞ」

    「別に…気のせいじゃない」

    杏はふざけるように笑った。でも、目には明らかに疲労の色がある。
    何かを隠しているのだろう。
    でもこれ以上聞いても、誤魔化されてしまうだけだろう。

    「どうにもならなかったら、俺に言えよ」

    「大丈夫だって」

    43 = 1 :

    ******

    俺が書類を書き終え、体を伸ばしていると、ちひろさんが俺の机にお茶を置いてくれた。
    ゴツゴツしていて、歪な形をしている湯飲みだ。
    俺は見る目が無いので、これが良いものか悪いものかは良く分からない。

    「お疲れ様です」

    「ありがとうございます」

    ちひろさんはドリンクを買わせようとしなければ、良い人なんだが。
    オッパイも大きいし。

    44 = 1 :

    「最近の杏ちゃん、何だかおかしくないですか?」

    やはり他の人から見ても、最近の杏はおかしいようだ。

    「ですよね、何かありそうなんですけど教えてくれないんです」

    「プロデューサーにも話してくれないんですか」

    ちひろさんは眉をしかめる。

    「何だか俺と杏が仲良いみたいに聞こえますよ」

    思わずに俺は苦笑する。

    46 = 1 :

    俺と杏ほど噛み合わない奴はいないだろう。

    「違うんですか、杏ちゃんは嫌いですか?」

    というよりも、アイドルが嫌いです。
    なんて事を言える訳も無く、適当に答える。

    「嫌いじゃないですよ、でも俺と杏って凸凹じゃないですか。外見も内面も」

    自分で言うのもアレだが、俺は真面目な方だと思う。
    杏とは正反対の性格だ。

    「だから噛み合うんですよ」

    ちひろさんは何故か満面の笑みで答えた。
    一体何がそんなに嬉しいのだろうか。

    47 = 1 :

    *******

    息を深く吸う。
    肺に、汚れた空気が溜まるのが分かる。

    「ふうーっ」

    肺の中に溜まったものを、全て吐き出す。
    俺の中から出てきた空気は、周りの空気と比べ明らかに異質な色をしている。
    俺の作り出したものだと一目で区別がつく。
    すると、汚れている空気が、不思議と愛おしいような気がした。

    48 = 1 :

    手を伸ばして掴んで見る。
    空気は空気と混ざり合って、溶けてしまう。
    握った掌を開けてみても、俺の空気は消えていた。

    杏は何かを隠している。
    きっと、大事な事だろう。
    何故話さないのだ。俺はプロデューサーだぞ。
    杏には話す義務があると思う。
    何だか腹が立ってきた。
    もしも、また仕事に支障が出たらどうするのだ。
    俺に迷惑がかかるだけなら良いが、うちはまだ小さな事務所だ。
    他のアイドル達にも迷惑がかかるかもしれない。

    49 = 1 :

    プロデューサーを辞めたくて仕方が無いのに、こんな事を考えるのはやはり、俺は真面目なのだろう。

    真面目に生きるしかないからな。
    夢なんて無いし、何も無い。
    何にも無い、真面目に普通に、それ以外の生き方など分からない。

    別に真面目に生きたく無い、それしか俺には出来ないだけだ。

    息を深く吸う。
    息を深く吐く。
    白い空気が闇に浮かぶ。

    「あーっ、ムカつく。プロデューサー辞めてぇ」

    やはり、白は黒に溶けてしまった。

    50 = 1 :

    ******

    今日は憂鬱だ。
    プロデューサーを始めてからは毎日が憂鬱だが、今日は一段と憂鬱な日だ。
    今日は杏の大きなライブがある。

    今日もまた、俺は杏を嫌いになるだろう。

    「入るぞー」

    杏の楽屋のドアをノックする。
    杏の慌てた声が返って来る。

    「ダメッ、ちょっと待って」


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