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元スレモバP「杏なんて大嫌いだ」
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「いや、もうライブ始まるぞ。どうした?」
「えっと、いいから待ってて」
どんな時でもノンビリしている杏が慌てている。
これは何かある、もしかして最近の変な理由が分かるかも知れない。
そう思って俺はドアを開けた。
「ばっ、馬鹿!」
俺は言葉を失くした。
別にトラブった訳では無い。
そんなに良いものではなかった。
「えっと、いいから待ってて」
どんな時でもノンビリしている杏が慌てている。
これは何かある、もしかして最近の変な理由が分かるかも知れない。
そう思って俺はドアを開けた。
「ばっ、馬鹿!」
俺は言葉を失くした。
別にトラブった訳では無い。
そんなに良いものではなかった。
杏はステージ衣装を、覆い隠すように持っていた。
しかし、杏の小さな体では隠しきれていなかった。
衣装は、切り刻まれていた。
一体どういう事だ。あまりに予想のしない事態に言葉が出ない。
杏は、大きな瞳に涙を溜めている。
「ごめんなさい」
そう言って、溜めていた涙をこぼしはじめる。
「いや、謝るな。…説明してくれないか」
しかし、杏の小さな体では隠しきれていなかった。
衣装は、切り刻まれていた。
一体どういう事だ。あまりに予想のしない事態に言葉が出ない。
杏は、大きな瞳に涙を溜めている。
「ごめんなさい」
そう言って、溜めていた涙をこぼしはじめる。
「いや、謝るな。…説明してくれないか」
杏は泣きながら、俺に話す。
事の始まりは、二ヶ月程前らしい。
杏はその頃から、人気が出始めていた。
家に帰ると、白紙の手紙がポストに入っていた。
それが始まりだった。
そのうち白紙の手紙には、杏を傷付ける文字が入った。
手紙は電話に変わり、段々と色々な嫌がらせを受けるようになったらしい。
そして、今日は衣装を切り刻まれた。
事の始まりは、二ヶ月程前らしい。
杏はその頃から、人気が出始めていた。
家に帰ると、白紙の手紙がポストに入っていた。
それが始まりだった。
そのうち白紙の手紙には、杏を傷付ける文字が入った。
手紙は電話に変わり、段々と色々な嫌がらせを受けるようになったらしい。
そして、今日は衣装を切り刻まれた。
「相手は分かるか?」
「多分」
「誰だよ?」
「サイン会によく来るファンの人だと思う。一度だけかかってきた電話の声が一緒だったと思う」
「何か恨まれる事をしたのか?」
「わかんない」
そう言って杏はメソメソと俯いてしまう。
二ヶ月の間、嫌がらせを受けているのか。
最近になるまで、全然気づかなかった。
「多分」
「誰だよ?」
「サイン会によく来るファンの人だと思う。一度だけかかってきた電話の声が一緒だったと思う」
「何か恨まれる事をしたのか?」
「わかんない」
そう言って杏はメソメソと俯いてしまう。
二ヶ月の間、嫌がらせを受けているのか。
最近になるまで、全然気づかなかった。
俺は唇を噛みしめる。
「何で黙っていた?」
声が震えてしまう。
杏は消えそうなほど小さな声で「心配をかけたくなかった」と言う。
「何でだよ?俺が信用できないか」
「違うよぅ、だってプロデューサー仕事がいっぱいで大変そうだったから」
俺は、杏は自分が思うように生きていると思っていた、けれどそうではないようだ。
「何で黙っていた?」
声が震えてしまう。
杏は消えそうなほど小さな声で「心配をかけたくなかった」と言う。
「何でだよ?俺が信用できないか」
「違うよぅ、だってプロデューサー仕事がいっぱいで大変そうだったから」
俺は、杏は自分が思うように生きていると思っていた、けれどそうではないようだ。
俺なんかが思っていたよりも、杏は優しい子なのかもしれない。
でも、やはり俺は杏が嫌いだ。
俺は杏の肩を掴んで怒鳴る。
「ふざけんな、ちゃんと言えよ!」
杏はそれでも「でも」だなんて泣きながら反論する。
「でもじゃねえよ!確かに俺は疲れてるよ、大嫌いなアイドルのプロデューサーなんかさせられてよ」
感情が昂ぶって、余計な事まで言ってしまう。
「特に、お前なんか大嫌いだよ!」
こんな事を言いたくはないのに、本音が全部こぼれてしまう。
俺は、夢を持つ人間が大嫌いだ。
アイドルなんて言うまでもない。
でも、やはり俺は杏が嫌いだ。
俺は杏の肩を掴んで怒鳴る。
「ふざけんな、ちゃんと言えよ!」
杏はそれでも「でも」だなんて泣きながら反論する。
「でもじゃねえよ!確かに俺は疲れてるよ、大嫌いなアイドルのプロデューサーなんかさせられてよ」
感情が昂ぶって、余計な事まで言ってしまう。
「特に、お前なんか大嫌いだよ!」
こんな事を言いたくはないのに、本音が全部こぼれてしまう。
俺は、夢を持つ人間が大嫌いだ。
アイドルなんて言うまでもない。
「けどさ」
俺の中に溜め込んでいたものまでぶつけてしまい、少し落ち着いて話しかける。
本当に余計な事を言ってしまった、と何だか笑えて来る。
「俺は男だぜ、可愛い女の子が泣いてるなんて放っとけないよ」
杏の涙を指で拭う。
杏の頬に触れると、思ったよりもずっと柔らかくて驚く。
「男は可愛い女の子に頼られると、それだけで嬉しくなる馬鹿なんだからよ、変な心配すんな。ほら、助けて、って可愛くお願いしてみろ」
俺の中に溜め込んでいたものまでぶつけてしまい、少し落ち着いて話しかける。
本当に余計な事を言ってしまった、と何だか笑えて来る。
「俺は男だぜ、可愛い女の子が泣いてるなんて放っとけないよ」
杏の涙を指で拭う。
杏の頬に触れると、思ったよりもずっと柔らかくて驚く。
「男は可愛い女の子に頼られると、それだけで嬉しくなる馬鹿なんだからよ、変な心配すんな。ほら、助けて、って可愛くお願いしてみろ」
杏はまだ少し泣きながらも、可愛く笑ってお願いした。
「助けて、プロデューサー」
「よっしゃ、任しとけ」
俺は夢を持つ人間が大嫌いだ。
アイドルなんて言うまでもない。
けど、俺は男だ。
可愛い女の子を傷付ける奴の方が大嫌いだ。
ライブの衣装はどうにかなった。
なったと言えるかどうか怪しいような気もするが、どうにかなった。
「助けて、プロデューサー」
「よっしゃ、任しとけ」
俺は夢を持つ人間が大嫌いだ。
アイドルなんて言うまでもない。
けど、俺は男だ。
可愛い女の子を傷付ける奴の方が大嫌いだ。
ライブの衣装はどうにかなった。
なったと言えるかどうか怪しいような気もするが、どうにかなった。
衣装の代わりに、いつも杏が着ているTシャツと短パンでライブをした。
働いたら負け、という名言の刻まれたTシャツだ。
思った以上にファン達に好評なようだった。
何だか、杏のキャラなら何をしても許される気がしてきた。
******
「本当に泊まるの?」
「じゃないと犯人を捕まえれないだろ」
働いたら負け、という名言の刻まれたTシャツだ。
思った以上にファン達に好評なようだった。
何だか、杏のキャラなら何をしても許される気がしてきた。
******
「本当に泊まるの?」
「じゃないと犯人を捕まえれないだろ」
一度だけかかってきた電話の声が似ているとだけの理由では、ファンを捕まえる事など出来ない。
捕まえるなら、現行犯だろう。
杏の話によると、最近は毎日ドアのポストに手紙や写真などが入れられるらしい。
そこを狙って捕まえてやる。
その為には、杏の家に泊まるのが一番だろう。
「何を心配してんだ?俺はロリコンじゃないから安心しろ」
女子高生はけっこう好きだったりするが、杏は小学生みたいだから欲情する事はあるまい。
捕まえるなら、現行犯だろう。
杏の話によると、最近は毎日ドアのポストに手紙や写真などが入れられるらしい。
そこを狙って捕まえてやる。
その為には、杏の家に泊まるのが一番だろう。
「何を心配してんだ?俺はロリコンじゃないから安心しろ」
女子高生はけっこう好きだったりするが、杏は小学生みたいだから欲情する事はあるまい。
杏の事だから、あまり気にしないと思って言ったが、頬を膨らませて黙り込んでしまった。
「あれ、怒った?」
「とときんの胸とか凛の足を、やらしい目で見る時があるの知ってるよ」
こいつは意外と周りを見ているな。
しかし、これについては仕方が無いではないだろうか。
今までは、華の無い職場に居たのだ、あれをやらしい目で見るなというのは無理だろう。
「あれ、怒った?」
「とときんの胸とか凛の足を、やらしい目で見る時があるの知ってるよ」
こいつは意外と周りを見ているな。
しかし、これについては仕方が無いではないだろうか。
今までは、華の無い職場に居たのだ、あれをやらしい目で見るなというのは無理だろう。
「そりゃあ、俺だって男だしぃ」
「凛は杏より年下だよ。杏の事はやらしい目で見た事ないよね」
だからどうした。お前はやらしい目で見られたいのか。
「…いいからもう寝ろ。夜更かしは美容の敵だ」
丑の刻を過ぎた頃に、誰かが階段を登ってくる足音が聞こえた。
俺は足音を忍ばせながら、玄関の方に行った。
「凛は杏より年下だよ。杏の事はやらしい目で見た事ないよね」
だからどうした。お前はやらしい目で見られたいのか。
「…いいからもう寝ろ。夜更かしは美容の敵だ」
丑の刻を過ぎた頃に、誰かが階段を登ってくる足音が聞こえた。
俺は足音を忍ばせながら、玄関の方に行った。
足音は、この部屋へと近づいて来る。
そしてこの部屋の前で止まった。
恐らく犯人だろう。
一体どんな奴だろうか。
もしかしたら、いかれた奴かもしれない。凶器を持っているかも。
今になって恐怖が湧いてくる。
汗ばんだ掌をズボンで拭いた。
カチャッ カチャ
ドアノブを余り音を立てないように回してきた。
そして、鍵が掛かっているのが分かると、ドアの向こう側で舌打ちをしたのが聞こえた。
その音を聞くと、俺の中から恐怖は吹き飛んだ。
そしてこの部屋の前で止まった。
恐らく犯人だろう。
一体どんな奴だろうか。
もしかしたら、いかれた奴かもしれない。凶器を持っているかも。
今になって恐怖が湧いてくる。
汗ばんだ掌をズボンで拭いた。
カチャッ カチャ
ドアノブを余り音を立てないように回してきた。
そして、鍵が掛かっているのが分かると、ドアの向こう側で舌打ちをしたのが聞こえた。
その音を聞くと、俺の中から恐怖は吹き飛んだ。
代わりに、抑えつけるのが難しい程の怒りが溢れる。
今すぐにドアを開けて、こいつをグチャグチャにしたくなる。
必死に抑えて、奴が何かを入れるのを待った。
数秒してポストから写真らしき物が入れられた。
それを手に取り、確認するとそれは、ライブ前に切り刻まれた衣装の写真だった。
今すぐにドアを開けて、こいつをグチャグチャにしたくなる。
必死に抑えて、奴が何かを入れるのを待った。
数秒してポストから写真らしき物が入れられた。
それを手に取り、確認するとそれは、ライブ前に切り刻まれた衣装の写真だった。
俺は急いで鍵を開け、思いっきりドアを開けて外に飛び出した。
階段の方を見ると、大きな影が慌てて降りるのが見える。
走って階段を下りると、すぐに犯人に近づいた。
恐らく、動きが鈍い奴なのだろう。後ろから肩を掴んで、思いっきり引っ張った。
そいつは、コンクリートの床に鈍い音を立てて倒れる。
「ひいっ!」
そいつは、いかにもオタクっぽい見た目の男だった。
割と杏のファンにはそういった人が多いが、こいつはその中でも群を抜いてそれっぽい。
階段の方を見ると、大きな影が慌てて降りるのが見える。
走って階段を下りると、すぐに犯人に近づいた。
恐らく、動きが鈍い奴なのだろう。後ろから肩を掴んで、思いっきり引っ張った。
そいつは、コンクリートの床に鈍い音を立てて倒れる。
「ひいっ!」
そいつは、いかにもオタクっぽい見た目の男だった。
割と杏のファンにはそういった人が多いが、こいつはその中でも群を抜いてそれっぽい。
襟元を握り締めて、余り大きな声を出さないように声を絞って喋る。
気をつけないと大声で怒鳴りそうだ。
「何でこんな事をした、正直に言えよ」
こいつはこんな状況なのに、にやにやと気味の悪い笑みを浮かべている。
「へへっ、杏ちゃんは泣いた時が一番可愛いんだ。僕は杏ちゃんを可愛くしてあげただけさ」
「おい、確かに泣いている杏は可愛いかった。いつもふてぶてしくて、ダラダラとしている女の子っぽくない杏が、小さな体を震わせて泣いている姿は可愛かったさ。かなりそそるものがあったさ」
俺はどうやら頭に血が登ると、本音をベラベラと喋ってしまうみたいだ。
気をつけないと大声で怒鳴りそうだ。
「何でこんな事をした、正直に言えよ」
こいつはこんな状況なのに、にやにやと気味の悪い笑みを浮かべている。
「へへっ、杏ちゃんは泣いた時が一番可愛いんだ。僕は杏ちゃんを可愛くしてあげただけさ」
「おい、確かに泣いている杏は可愛いかった。いつもふてぶてしくて、ダラダラとしている女の子っぽくない杏が、小さな体を震わせて泣いている姿は可愛かったさ。かなりそそるものがあったさ」
俺はどうやら頭に血が登ると、本音をベラベラと喋ってしまうみたいだ。
「だ、だろう?!」
「しかし!」
こいつは分かっていないな。
「泣いている杏が俺に頼って来た時の方がグッときたね。想像しろっ、杏が声を震わせながらお前の名を呼ぶ」
「ああっ、あああっ!!」
こいつは頭を抱えて、眉間に皺を寄せている。
己の浅はかさに気づいたようだ。
「そしてお前に、助けて、と言うんだ!」
「うひょおおお!!僕が間違ってました!!!」
「うっひょおおお!そうだろう!!だから、杏に頼られるような人間になれぇ!!」
「しかし!」
こいつは分かっていないな。
「泣いている杏が俺に頼って来た時の方がグッときたね。想像しろっ、杏が声を震わせながらお前の名を呼ぶ」
「ああっ、あああっ!!」
こいつは頭を抱えて、眉間に皺を寄せている。
己の浅はかさに気づいたようだ。
「そしてお前に、助けて、と言うんだ!」
「うひょおおお!!僕が間違ってました!!!」
「うっひょおおお!そうだろう!!だから、杏に頼られるような人間になれぇ!!」
「でも師匠」
変態に師匠も呼ばれると、まるで俺が変態の師匠になった気分だ。
「何だ?」
弟子は涙をボロボロと溢れさせながら口を開いた。
「俺はっ、杏ちゃんにひどい事をしました。こんなクズな俺には杏ちゃんに頼ってもらう事なんて」
俺は右足を引く。そしてリラックスした上半身を捻りながら、後ろ足の右足から、体重を全て前に移動させる。
そして弟子に拳が触れた瞬間に力を込めて、思いっきり振り抜く。
鈍い音を立てながら弟子は吹き飛んだ。
変態に師匠も呼ばれると、まるで俺が変態の師匠になった気分だ。
「何だ?」
弟子は涙をボロボロと溢れさせながら口を開いた。
「俺はっ、杏ちゃんにひどい事をしました。こんなクズな俺には杏ちゃんに頼ってもらう事なんて」
俺は右足を引く。そしてリラックスした上半身を捻りながら、後ろ足の右足から、体重を全て前に移動させる。
そして弟子に拳が触れた瞬間に力を込めて、思いっきり振り抜く。
鈍い音を立てながら弟子は吹き飛んだ。
「確かに、お前のした事は最低だ。お前は屑だ。お前のやった事は一生変わりはしない」
うずくまる弟子に近づいて、手を差し伸べた。
「でも、人は変われるんだ。変わろうぜ」
「しっ、師匠!」
俺と弟子が熱い抱擁を交わしていると、警察の方が来られて大変だった。
深夜に騒ぐのは駄目だな。
うずくまる弟子に近づいて、手を差し伸べた。
「でも、人は変われるんだ。変わろうぜ」
「しっ、師匠!」
俺と弟子が熱い抱擁を交わしていると、警察の方が来られて大変だった。
深夜に騒ぐのは駄目だな。
******
杏の受けた嫌がらせの問題は解決して、杏は調子を取り戻した。
そして、今までよりも一気に人気を伸ばしていった。
ジジイからも褒められて、給料も上がった。
アイドル達にも、少しずつではあるが慣れてきた。
でも、上手くいくほどに、俺の中にポッカリと空いた部分があるのが感じられた。
そこは本当に空っぽだ。
何にもない。
ただ虚しさだけが感じられる。
杏の受けた嫌がらせの問題は解決して、杏は調子を取り戻した。
そして、今までよりも一気に人気を伸ばしていった。
ジジイからも褒められて、給料も上がった。
アイドル達にも、少しずつではあるが慣れてきた。
でも、上手くいくほどに、俺の中にポッカリと空いた部分があるのが感じられた。
そこは本当に空っぽだ。
何にもない。
ただ虚しさだけが感じられる。
人は大人になるにつれて、大事な物を失っていくのに気付くと聞く事がある。
しかし、俺はそうではない。
元からないのだ。
初めから持っていないのだ、大事な物を。
だからそれを持っている奴が、羨ましかった。
俺はそんな奴らに嫉妬して、馬鹿だの無謀だのと笑っていた。
そうやって、自分を誤魔化していた。
しかし、俺はそうではない。
元からないのだ。
初めから持っていないのだ、大事な物を。
だからそれを持っている奴が、羨ましかった。
俺はそんな奴らに嫉妬して、馬鹿だの無謀だのと笑っていた。
そうやって、自分を誤魔化していた。
けれど、それも出来なくなってきた。夢に向かって、努力し少しずつ夢に近付く少女達を、笑う事が出来なくなってきたのだ。
そうして必死に隠して来た、俺の中の隙間に目を背ける事が出来なくなった。
ある日、限界が来た。
ふと、ふざけた考えが頭によぎったのだ。
いつも降りる駅の、二つ程前の駅を過ぎた時に、ふざけた考えがよぎったのだ。
そうして必死に隠して来た、俺の中の隙間に目を背ける事が出来なくなった。
ある日、限界が来た。
ふと、ふざけた考えが頭によぎったのだ。
いつも降りる駅の、二つ程前の駅を過ぎた時に、ふざけた考えがよぎったのだ。
このまま、どこか遠くまで行ってみようか。
ふざけた考えだ、馬鹿らしい。
けど、今は何故かそれに妙に惹かれてしまう。
いつも降りる駅、そこに着いた時に俺は席を立たなかった。
電車はドアを閉める事を、機会音を鳴らして知らせる。
まるで俺に、本当にいいのかよ?と何度も尋ねているように聞こえた。
心臓の鼓動が高鳴る。
本当にこんな幼稚な事をするのか。
ふざけた考えだ、馬鹿らしい。
けど、今は何故かそれに妙に惹かれてしまう。
いつも降りる駅、そこに着いた時に俺は席を立たなかった。
電車はドアを閉める事を、機会音を鳴らして知らせる。
まるで俺に、本当にいいのかよ?と何度も尋ねているように聞こえた。
心臓の鼓動が高鳴る。
本当にこんな幼稚な事をするのか。
電車の扉は、空気の抜けるような音を立てながら閉まった。
ゴトンゴトンと電車が動き出すと、体が一気に軽くなった。
こうなったら、行けるとこまで行ってみよう。
電車を幾つか乗り換えたところで、ポケットの中の携帯が震える回数が一気に跳ね上がった。
時間を確認すると、事務所に着く筈の時間を一時間も過ぎている。
昼を過ぎた時に、外の景色を見ると海があった。
お腹も空いて来たので、次の駅で降りる事にした。
この頃には、携帯の方もだいぶ大人しくなった。
ゴトンゴトンと電車が動き出すと、体が一気に軽くなった。
こうなったら、行けるとこまで行ってみよう。
電車を幾つか乗り換えたところで、ポケットの中の携帯が震える回数が一気に跳ね上がった。
時間を確認すると、事務所に着く筈の時間を一時間も過ぎている。
昼を過ぎた時に、外の景色を見ると海があった。
お腹も空いて来たので、次の駅で降りる事にした。
この頃には、携帯の方もだいぶ大人しくなった。
電車を降りると、冷たくて、強い風に身震いする。
辺りを見回すと、すぐ近くに飯屋があった。
取り敢えずそこに入って昼食を取る事にした。
飯を食べ終わって、次はどうしようか困る。
遠くまで来てみたが、当たり前だが何も変わらない。
ポッカリと空いた穴が、埋まるような事はない。
俺はなにを馬鹿な事をしているのだろうか。
辺りを見回すと、すぐ近くに飯屋があった。
取り敢えずそこに入って昼食を取る事にした。
飯を食べ終わって、次はどうしようか困る。
遠くまで来てみたが、当たり前だが何も変わらない。
ポッカリと空いた穴が、埋まるような事はない。
俺はなにを馬鹿な事をしているのだろうか。
ふらふらと彷徨うように歩く。
海の目の前まで行ってみた。
冬に来るとこではないな。
海には楽しくて騒がしい、そんなイメージを持っていた。
だけども、目の前に広がる海は孤独で淋しい感じだ。
まあ、夏の海と冬の海の違いなんだろうが。
携帯が震える。
誰かの声が聞きたくなって、誰からかも確かめずに出た。
「もしもし?」
「プロデューサー、どこにいるの?」
子供のように、高い声だった。
「杏かぁ」
海の目の前まで行ってみた。
冬に来るとこではないな。
海には楽しくて騒がしい、そんなイメージを持っていた。
だけども、目の前に広がる海は孤独で淋しい感じだ。
まあ、夏の海と冬の海の違いなんだろうが。
携帯が震える。
誰かの声が聞きたくなって、誰からかも確かめずに出た。
「もしもし?」
「プロデューサー、どこにいるの?」
子供のように、高い声だった。
「杏かぁ」
「なに、どういう事?」
「いや、で何か用か?」
「用かじゃないでしょ!何してるの!どこに居るの!?」
杏は電話越しで怒鳴るが、まるで子供に怒られているようで少しも怖くない。
「いやぁ、なにしてるんだろ?」
ははっ、と声に出して笑う。
駅に降りた時に見た看板を、どうにか思い出す。
「△△△駅ってとこに居るよ。海が見える」
「どうしたの?壊れた?」
「ははっ、ひどい事を言うな」
そう言えば、前に俺もひどい事を言ったなぁ。
「いや、で何か用か?」
「用かじゃないでしょ!何してるの!どこに居るの!?」
杏は電話越しで怒鳴るが、まるで子供に怒られているようで少しも怖くない。
「いやぁ、なにしてるんだろ?」
ははっ、と声に出して笑う。
駅に降りた時に見た看板を、どうにか思い出す。
「△△△駅ってとこに居るよ。海が見える」
「どうしたの?壊れた?」
「ははっ、ひどい事を言うな」
そう言えば、前に俺もひどい事を言ったなぁ。
「なあ、前にお前の事を大嫌いだって言ったろ」
「…覚えてるよ」
「あれな、俺はお前が羨ましかっただけだから気にすんなよ」
「…別にきにしてなかったし」
少し、杏の声のトーンが上がった気がする。
「じゃあな、寝るわ」
「えっ!?」
何かを言おうとする電話の電源を落として、眠りについた。
起きた時には、何かが変わるだろうか。
「…覚えてるよ」
「あれな、俺はお前が羨ましかっただけだから気にすんなよ」
「…別にきにしてなかったし」
少し、杏の声のトーンが上がった気がする。
「じゃあな、寝るわ」
「えっ!?」
何かを言おうとする電話の電源を落として、眠りについた。
起きた時には、何かが変わるだろうか。
*****
目を覚ますと隣に杏がいた。
幻覚かな。幻覚だろう。
杏は仕事があるのだ、ここにいるはずがないじゃないか。
でも、待てよ。
その理屈だと俺もここにはいないはずだ。
俺は杏に気づかれないように、そっと手を伸ばす。
手の甲が、杏のほっぺたにぶつかる。
手を裏返して、手のひらで頬を触って見る。
柔くて、気持ち良いな。
どうやら本物のようだ。
目を覚ますと隣に杏がいた。
幻覚かな。幻覚だろう。
杏は仕事があるのだ、ここにいるはずがないじゃないか。
でも、待てよ。
その理屈だと俺もここにはいないはずだ。
俺は杏に気づかれないように、そっと手を伸ばす。
手の甲が、杏のほっぺたにぶつかる。
手を裏返して、手のひらで頬を触って見る。
柔くて、気持ち良いな。
どうやら本物のようだ。
「何してんの?」
「プロデューサーにその質問を返すよ」
「ははっ、何でかな」
杏は俺を呆れたように笑って、海の方を見た。
「ねえ、私の何が羨ましかったの?」
「…簡単に言うと夢を持って、才能を持ってるところかな」
杏は「私の夢ね」と苦い笑みを浮かべた。
「夢ないの?」
「ないなぁ、昔から無いんだよ。何かやりたい事とか」
「ふーん」
「流れで生きてきて、これからも何となく選んだ物を着て生きていくんだろうけど、嫌なんだよ。俺じゃなきゃ駄目なものが欲しいんだ」
「ここまで来たら見つかった?」
杏は茶化すように言った。
「プロデューサーにその質問を返すよ」
「ははっ、何でかな」
杏は俺を呆れたように笑って、海の方を見た。
「ねえ、私の何が羨ましかったの?」
「…簡単に言うと夢を持って、才能を持ってるところかな」
杏は「私の夢ね」と苦い笑みを浮かべた。
「夢ないの?」
「ないなぁ、昔から無いんだよ。何かやりたい事とか」
「ふーん」
「流れで生きてきて、これからも何となく選んだ物を着て生きていくんだろうけど、嫌なんだよ。俺じゃなきゃ駄目なものが欲しいんだ」
「ここまで来たら見つかった?」
杏は茶化すように言った。
「見つからない」
「じゃあ、杏があげるよ」
「何を?」
「プロデューサーじゃなきゃ駄目なもの」
「何だ?」
「杏のプロデューサー。杏はプロデューサーじゃなきゃ嫌だよ」
杏は目を細めて、優しく微笑む。
こんな笑い方もできたんだな。
「あと、夢も上げよう。杏をトップアイドルにする事。どうかな?」
「それは、簡単に叶えれそうな夢だな」
杏が眩しくて、杏から目を逸らす。
「じゃあ、杏があげるよ」
「何を?」
「プロデューサーじゃなきゃ駄目なもの」
「何だ?」
「杏のプロデューサー。杏はプロデューサーじゃなきゃ嫌だよ」
杏は目を細めて、優しく微笑む。
こんな笑い方もできたんだな。
「あと、夢も上げよう。杏をトップアイドルにする事。どうかな?」
「それは、簡単に叶えれそうな夢だな」
杏が眩しくて、杏から目を逸らす。
俺は杏を知れば知るほど、話せば話すほどに、杏の良いとこを見つけてしまう。
嫉妬して、嫌う事が出来なくなった俺には、とても直視できやしない。
「まあ、悪くないや」
本当は嬉しいのに、ついそんな風に言ってしまう。
興奮すると本音が言えるのにな。
「ありがとうな杏」
「いいよ、プロデューサーの事好きだから」
いつもと変わらぬトーンで言うから、意味が掴めずに「プロデューサーとして?」と驚きながらも、平然を装って尋ねる。
嫉妬して、嫌う事が出来なくなった俺には、とても直視できやしない。
「まあ、悪くないや」
本当は嬉しいのに、ついそんな風に言ってしまう。
興奮すると本音が言えるのにな。
「ありがとうな杏」
「いいよ、プロデューサーの事好きだから」
いつもと変わらぬトーンで言うから、意味が掴めずに「プロデューサーとして?」と驚きながらも、平然を装って尋ねる。
「ううん、異性として」
杏は悪戯をした子供のようにな笑顔を俺に見せた。
俺は恥ずかしくて「あっそ」だなんてそっけない事を言ってしまう。
杏は鋭いから、俺の気持ちがばれてしまうと怖くなった。
でも杏は、悲しそうに笑った。
何でこういうとこは鈍いんだよ。
そして、俺もちゃんと言えよ。
ポッカリと空いたところを、モヤッとしたものが埋めてしまった。
少しモヤモヤするけども、とても心地が良い。
杏は悪戯をした子供のようにな笑顔を俺に見せた。
俺は恥ずかしくて「あっそ」だなんてそっけない事を言ってしまう。
杏は鋭いから、俺の気持ちがばれてしまうと怖くなった。
でも杏は、悲しそうに笑った。
何でこういうとこは鈍いんだよ。
そして、俺もちゃんと言えよ。
ポッカリと空いたところを、モヤッとしたものが埋めてしまった。
少しモヤモヤするけども、とても心地が良い。
******
「ちょっと待てよ、杏。心の準備が」
「うるさいなぁ」
躊躇う俺を、後ろに杏は勢いよく事務所のドアを開ける。
「杏、プロデューサーを自分探しの旅から連れ戻しました」
きゃあああ、やめて。
そういう風に言われると恥ずかしくて死にそう。
穴があったら入りたい。
これだけ個性的なアイドル達が居るんだ、一人ぐらい穴掘りの上手い奴がいないかな。
「ちょっと待てよ、杏。心の準備が」
「うるさいなぁ」
躊躇う俺を、後ろに杏は勢いよく事務所のドアを開ける。
「杏、プロデューサーを自分探しの旅から連れ戻しました」
きゃあああ、やめて。
そういう風に言われると恥ずかしくて死にそう。
穴があったら入りたい。
これだけ個性的なアイドル達が居るんだ、一人ぐらい穴掘りの上手い奴がいないかな。
「戻りました、すいません。ご迷惑をかけました」
「見つかりました?自分」
ちひろさんの素敵なスマイルで、心をズタボロにされる。しかし、俺が悪いので反抗できない。
「自分探しって何ですか?」
千枝ちゃんが純粋な瞳で俺に聞く。
やめてくれよ。
「見つかりました?自分」
ちひろさんの素敵なスマイルで、心をズタボロにされる。しかし、俺が悪いので反抗できない。
「自分探しって何ですか?」
千枝ちゃんが純粋な瞳で俺に聞く。
やめてくれよ。
******
「プロデューサー」
俺は、杏の家に杏を送っているところです。
「プロデューサー」
杏ちゃんの髪から、少し甘い匂いが漂ってきます。
とてもいい匂いです。
「プロデューサー!」
「あっ、ああ何だよ」
「杏の家を過ぎてる」
「うっ、知ってるわ!」
杏は俺に怒鳴られてしょげてしまった。
しょげた顔も愛おしい。
一体俺は何をしているのだ。
「プロデューサー」
俺は、杏の家に杏を送っているところです。
「プロデューサー」
杏ちゃんの髪から、少し甘い匂いが漂ってきます。
とてもいい匂いです。
「プロデューサー!」
「あっ、ああ何だよ」
「杏の家を過ぎてる」
「うっ、知ってるわ!」
杏は俺に怒鳴られてしょげてしまった。
しょげた顔も愛おしい。
一体俺は何をしているのだ。
初めて恋して、素直に慣れない男の子じゃないんだぞ!
ちゃんとやるんだ。
思い出せ、どうやって初めての彼女を作った?
あれ。うん。そうだ。
俺は彼女を作った事が無かった。
それなら、初めての告白はどうやった?
…うん、うん、うん。
告った事無かったな。
というか初恋ではないだろうか。
二十一歳にして初恋かよ。
いくらなんでもおかしいだろ。枯れてんのかよ俺。
しかし、どうしよう。
一体どうすればいいのだ。恥ずかしくて冷たく当たってしまう。
ちゃんとやるんだ。
思い出せ、どうやって初めての彼女を作った?
あれ。うん。そうだ。
俺は彼女を作った事が無かった。
それなら、初めての告白はどうやった?
…うん、うん、うん。
告った事無かったな。
というか初恋ではないだろうか。
二十一歳にして初恋かよ。
いくらなんでもおかしいだろ。枯れてんのかよ俺。
しかし、どうしよう。
一体どうすればいいのだ。恥ずかしくて冷たく当たってしまう。
「プロデューサーはさ、杏の事を嫌いなのぉ?」
いつの間にか杏は泣いていた。
何をやっとるんだ俺は!
落ち着け、冷静に、優しい言葉を掛けてやるんだ。
「何で答えなくちゃいけないんだ」
俺の馬鹿野郎!!
「へへっ、そっか、ごめんね。でも杏の事を嫌いでも、杏は好きだからね」
俺は帰りの車で泣きじゃくった。
俺がこんなツンデレボーイだとは思わなかった。
いつの間にか杏は泣いていた。
何をやっとるんだ俺は!
落ち着け、冷静に、優しい言葉を掛けてやるんだ。
「何で答えなくちゃいけないんだ」
俺の馬鹿野郎!!
「へへっ、そっか、ごめんね。でも杏の事を嫌いでも、杏は好きだからね」
俺は帰りの車で泣きじゃくった。
俺がこんなツンデレボーイだとは思わなかった。
家に帰ると、母さんが寝巻き姿で迎えてくれた。
「おかえりぃ」
「ただいま」
「自分は見つかったのかな?」
母さんはにやにやとしながら言う。
クソジジイか、あいつが教えたのか。
「んー、見つかった見つかった」
「良かったねえ」
「おかえりぃ」
「ただいま」
「自分は見つかったのかな?」
母さんはにやにやとしながら言う。
クソジジイか、あいつが教えたのか。
「んー、見つかった見つかった」
「良かったねえ」
俺は母さんと自分の靴を納める。
それを見て母さんは「ごめんね、納めるの忘れてた」と謝った。
「ねぇ、父さんってさツンデレだった?」
母さんは、蒸発した父さんの話をするのを嫌がらない。
というかむしろ、喜んで話す。
「えへー、そうだねぇ、ツンツンでした。何で分かったの」
「何となく」
どうやら俺は、父親譲りのツンデレらしい。
それを見て母さんは「ごめんね、納めるの忘れてた」と謝った。
「ねぇ、父さんってさツンデレだった?」
母さんは、蒸発した父さんの話をするのを嫌がらない。
というかむしろ、喜んで話す。
「えへー、そうだねぇ、ツンツンでした。何で分かったの」
「何となく」
どうやら俺は、父親譲りのツンデレらしい。
♀
「ふあぁ」
目を覚まして時計を見る。
朝の六時だ。前まではいつも、ギリギリの8時まで寝ていた。
けど、最近はいつも六時に起きている。目を覚まして、プロデューサーの事を考えると胸がフワフワとしてあったかくなる。
そうすると、眠気など消えてしまい朝起きれるようになった。
でも今日は、何だか胸が痛い。
理由は分かっている。
「ふあぁ」
目を覚まして時計を見る。
朝の六時だ。前まではいつも、ギリギリの8時まで寝ていた。
けど、最近はいつも六時に起きている。目を覚まして、プロデューサーの事を考えると胸がフワフワとしてあったかくなる。
そうすると、眠気など消えてしまい朝起きれるようになった。
でも今日は、何だか胸が痛い。
理由は分かっている。
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